あれ、何かタイトル違くない?と思った方。申し訳ございません。
打ち込んでく内に最初考えていた所まで話を区切ると展開が少し急になってしまうのとかなり長くなってしまうので急遽話の内容を変更致しました。それに伴い、タイトルの方も考え直しました。
30話での次回予告も変えてますので。
さて、μ'sの再結成でめでたく1期終了…といきたいのですが、実はここから更に物語は動きます。
μ's解散編でシリアスが終わったと思った方々。残念ながらここからが本番です。μ's解散編を超えるシリアスになると思います。
1期最後にして長丁場になる予定ですので、すいませんがもう暫くお付き合い下さい。
それでは第31話、始まります。
【1期最終章 氷月冬夜編】
全てはこの日の為だった。
何気ない平凡な生活を過ごしていた俺の日々は、あの時海未達を助けてから変わった。
スクールアイドルを始めた海未達と再会し、穂乃果と出会い、関わっている内にただの男子生徒が女子高に通うという非現実的なイベントまで起きた。
誰もが羨むバラ色の高校生活。ただ、俺にとってここでの日々は苦痛でしか無かった。
只でさえ同性から嫌われているのに異性からなんて好かれるはずも無い。
俺にとって異性しかいないこの空間は控えめに言っても地獄だ。
「…またいるよ…」
「いい加減休んでくれないかな…」
「同じ空間にいるとこっちまで暗くなるよ…」
聞こえてくる陰口はノイズでしかない。
特別傷付くとかそうゆうのは無いが、突き刺さる視線と嫌でも耳に入る雑音の数々。
机に伏せて寝ようとしてる最中も聞こえるから気が散って仕方ない。
あいつらは俺が気付いていないと思っているのだろう。現に実際に俺が近くにいる時は精一杯の愛想を振りまく。
「楠木坂って頭良い所だよね?氷月君って凄いねー」
「よく見たら氷月君ってミステリアスだよね」
「私、氷月君の様なタイプ嫌いじゃないよ?」
そんな安っぽい芝居に騙される程俺は落ちぶれちゃいない。
俺には分かる。全て俺を弄ぶ為の嫌がらせで太陽に近付く為のきっかけ作りである事。
誰一人として本心でそれを言っていない事。
いくらμ'sとヒフミトリオがまともに接してくれるとはいえ、この学校の大半はこうゆう感じ。あいつらでさえ裏の顔は分からない。
1年生や3年生もすれ違えば嫌悪な目線でこちらを見つめる。
だが、楠木坂であれば誰も俺を気にせずそこにいないものとして扱ってくるから楽だ。
学校の廃校を阻止するという共通の目標が出来、μ'sと協力してきた数カ月。
いろいろな事があった。
夢、希望、輝き、絶望。いろんな姿を俺に見せてくれた。
正直俺がここまでμ'sに興味を抱くとは思わなかった。
共通の目標があるからただ協力した。それだけの関係だったはずなのに気付けば手を出さなくても良い時も俺は手を差し伸べていた。
俺もあいつらに毒されてきている証拠だろう。
でも、それももう終わる。
俺はこれ以上、μ'sと関われない。
「約束、守ってくれますよね?」
「…全く…君には負けたよ…本当に廃校を阻止した上に私の言葉をきちんと録音してるとはね」
ボイスレコーダーを片手に大きな椅子に座る男に向かって俺は言う。
男は降参だと言わんばかりに両手を上げて言葉を返す。
条件は果たした。後は約束を守ってもらうだけ。
ようやくここまで来たんだ。絶対に逃さない。
俺は今、楠木坂高校の学園長室にいる。
この場所に戻る為に。
「次のライブ、どうしようか?」
場所は変わり音乃木坂アイドル研究部部室。
そこには冬夜を除いたμ'sのメンバーが次のライブの話し合いをしていた。
「そうね…講堂での復活ライブは大成功だったけどまだ学園祭の穴を埋め切れてない感じはするわね」
「衣装も制服だったし、曲目も少なかったにゃ」
「ではまた屋上でライブを開いて学園祭の時と同じ曲目で行うのはどうでしょう?学園祭のリベンジとして」
「それ、良いわね」
復活ライブから数日。
あの日以来μ'sの結束はより高まり、メンバー間の絆もより一層強くなった。
各々自分の意見を積極的に言える様になり、話し合いが円滑に進む様になっただけでなく、全員周りを気にする様にもなった為解散騒動を経てμ'sは確実に成長している。
あの騒動は間違い無くμ'sを更なる高みへと運ぶ重要な物となり、これでようやくμ'sは本当の意味で繋がったと言える。
そんな中、一人キョロキョロと辺りを見渡す希の姿が太陽の目に入った。
「希、どうした?」
「…あ、いや、冬夜君来ないのかなって思っただけや」
少しだけ心配そうな表情を浮かべながら言う希。
その言葉を聞いた他のメンバーの反応も同じ様なものだった。
「…そういえば、冬夜君の姿見ないね」
「バイトまではまだ時間あるはずだけど…」
「うん。いつもなら少しでも顔出すよね」
何故かもう冬夜のバイトの時間を皆が把握している事は誰も触れずに話は進んでいく。
私達との衝突があったせいで気まずくて顔を出せない。そんな憶測が飛び交う中、海未が真剣な表情で太陽に尋ねた。
「太陽は…何か知っていますか?」
「…」
海未からの問いに太陽は一瞬暗い表情を見せると、冷静を装いながら答えた。
「あいつ、今楠木坂に行ってるんだよ」
「楠木坂に?何でまた」
「さぁな。何か用事あったんだろ」
さらっとそう答える太陽に疑問を持つ者はいなかった。
その用事は何なのかを聞く者もおらず、冬夜についての話は「何か用事がある」という曖昧な答えのまま幕を閉じた。
悲しそうな表情で太陽を見つめる希だけを残して。
その日の夜。
俺はスマホを片手に一人部屋で佇んでいた。
「…凄かったな…あのライブ」
脳裏に浮かぶのは先日行ったライブの事。結果、μ'sの復活ライブは大成功。
講堂は満員で誰一人として笑顔を絶やす事無く最後まで踊り切り、間違い無くμ'sにとって今までよりも最高のライブになった。
一度は心が離れてしまったμ's。でも、皆はちゃんと気付いて自分の意思で手を差し伸べて見事に立ち上がった。
ライブ後に穂乃果とことりから深々と頭を下げられたのは今でも覚えている。
「本当にいろいろ迷惑をかけてごめん!簡単に許される事じゃ無いのは分かってる…だから、私どんな罰でも受けるよ」
「私もごめんなさい!自分の気持ちに気付いていたのに…」
申し訳無さそうに頭を下げる二人。そんな二人に対し俺達は微笑みながら声を掛けた。
もう気にしていない。こうして全員揃ったからこの件は終わり。こちらにも非があった。掛けた言葉は様々だった。
最終的には二人も笑顔になり、そこでようやく俺達は繋がったのだと俺は感じた。
微力ながら力を貸す事は出来たし俺が初めて自分で企画して皆が繋がる後押しにもなったあのライブは俺にとって大事な宝物だ。
舞台袖で観てて泣いちゃったしな。思わず。
何はともあれこれで一件落着。
…そう思いたかったが、まだ一つμ'sは問題を抱えている。
「…ふぅ…よし」
俺は深呼吸を挟むと、とある人物に電話を掛け始める。
きっとこの問題は簡単には片付かない。μ'sが解散しかけた時よりもこの問題の解決は難しい。
でも、それでも俺は諦めない。
スマホから鳴る数回のコール。暫くすると、電話口から聞き慣れた声が聞こえた。
「…何の用?」
バイト終わりだろうか。疲れを含んだやや不機嫌気味の声が俺の耳に入る。
しまった…電話するタイミング間違えた…完全に機嫌悪い時に電話かけちゃったじゃん…
早速の失敗に俺は顔を引き攣らせながらも冷静を装い口を開く。
「冬夜、今電話大丈夫?」
「…手短にな」
眠たそうな声で電話の主、氷月冬夜は不機嫌なまま言う。
…どうやらあまり時間は貰えないらしい。
俺は冬夜に促される様に本題を切り出した。
「どうだったんだ。向こうの学園長は」
「ちゃんと許可を貰ったよ。最初は予想通り、はて?何のことやらとか抜かしやがったからボイスレコーダーを聞かせてやった」
「…そうか…」
毎度思うが冬夜のやり口は本当にえげつない。
大人相手…しかも楠木坂のトップにもその方法を躊躇いも無く使うとは…
肝が座ってるというか何というか…まぁ今更だけど。
「で、いつ頃になりそうなんだ?」
「1週間後」
「…思ったより早いんだな」
冬夜が楠木坂に行った理由はこれだ。
以前学園長と約束した音乃木坂に行く代わりに廃校を阻止出来れば戻ってきても良いという件。
それについて今日冬夜は話をつけに楠木坂まで行っていた。
「…公になるのは?」
「いなくなった後。これは俺が希望した」
「皆俺がいなくなって清々するだろうな」と冬夜は付け加え口を閉ざす。
冬夜…それは違うよ。君がいなくなって悲しむ人もいるんだ。
「…皆心配してたぞ?今日顔出さなかったから」
俺は今日のμ'sの様子を話す。
冬夜の事を思ってくれる人がいる。その事実に少しでも気付いて貰いたいその一心だった。
「どうかな。ただの社交辞令だろ」
だが、冬夜には響かない。
俺はすかさず反論する。
「そんな事ない!ちゃんと皆心の底から思って言ってる事だ!」
ずっと側で見てきた俺には分かる。
皆のあの表情、あの目、あれは紛れも無く本心。そして何より社交辞令で皆があんな表情をする筈が無い。
でも、言った所できっと冬夜には伝わらないだろうな…
「大体女子という生き物は7割方演技だ。男子の前では良い様に振る舞い好感度を稼ぎ裏では嘲笑う様に陰口を叩く。あいつらだって…」
「…!…それは絶対に違うぞ!」
俺は被せる様に言う。
冬夜の口からその先の言葉は聞きたくなかった。
何でそんな事を言うんだ…皆がそんな人じゃないっていうのは冬夜だって分かってるはずなのに…
「…」
「…」
訪れる静寂。
どちらも口を開こうとしない。
冬夜からのμ'sに対しての印象が、こんなにも悪いのは衝撃だった。
…だが、さっきの冬夜の発言は少し引っ掛かる。
確かに関わっている時間は俺の方が長いが、出会ったのは冬夜が先だし関わりだって深い。
そんな冬夜がμ'sに対してそんな印象を抱いているのが俺は信じられなかった。
まるで自分に言い聞かせているような…なんとなくそんな気がした。
「…気持ちは、変わらないんだな?」
きっとこのまま問い詰めても冬夜は本当の事を言ってくれない。
一番付き合いが長い俺ですら冬夜の考えてる事が分からない。
だから今冬夜が何を思って何をしようとしてるかはきっと誰も分からない。
俺は分かりやすく答えを求めた。もしかしたら気が変わってるかも…そんな一抹の希望を抱えながら。
「ああ、変わらない」
冷たくはっきりとそう口する冬夜。
分かっていた。これまでの冬夜の口振りから答えが変わっていない事は頭では分かっていた。
…なのに、何で俺は今こんなにもショックを受けてるんだ?
「お前は続けるんだろ?」
続いて冬夜が俺に尋ねてくる。
【μ'sのマネージャー、コーチ】という単語を出ていないが、俺も冬夜もそうゆう話である事は理解出来ている。
元々は廃校を阻止するまでの活動。俺も最初はそのつもりだった。
でも、彼女達と関わっていく中で優しさ、楽しさ、輝き、そして沢山の魅力を感じ段々と離れたくないという思いが膨れ上がってきていた。
きっと最終的に決断したのは夏休みに行った合宿。
早朝に皆で手を繋いで輝いた海を見た時に思ったんだ。
このμ'sというグループを守っていきたいって。
「続けるよ。最後まで」
俺は迷わず言った。
「そう言うと思ったわ」
予想通りと言わんばかりの声色で言葉を紡ぐ冬夜。
これまでもいろいろな事を冬夜に見抜かれてきたから今更驚きもしない。
「じゃあ学校には残るんだな?」
続けて冬夜が俺に尋ねる。
俺達がテスト生なのは、廃校により共学になる可能性があり男子のいる学校生活に女子生徒が少しでも慣れる為…というのがきっかけだ。
つまり、廃校が無くなった今となってはテスト生として音乃木坂にいる意味がなくなる。
という事は俺達は楠木坂に戻る事になるのだが、双方の学園長の判断で音乃木坂に残っても良い事になっている。
さすがに、明日は楠木坂に登校しよう!とかは出来ないけどな。
「…いや、俺も戻る」
俺は少しだけ間を開けると、冬夜にそう返した。
「…いいのか?」
「ああ」
コーチを続ける身として、きっと正解は音乃木坂に残る事なのだろう。それは俺も分かっている。
それでも俺には冬夜を一人にさせる訳にはいかなかった。
一人にするとこいつはもしかしたら…
「気を遣わなくていいぞ。音乃木坂に残りたいなら残れよ。お前が危惧してる事は起きないから」
返答に少し間を開けたのが気になったのかすかさず冬夜は指摘してくる。
…さすがは冬夜だな。そんなちょっとの間で良く見抜く。
だけどごめん。冬夜のその言葉、俺は信用出来ない。
「いや、いいんだ」
これは俺が最初から決めてた事。
俺は誓ったんだ。何があっても冬夜と同じ所に行くって。
確かに正直音乃木坂に残りたい。でも、それを失くしてでも俺は冬夜の側にいたいんだ。
これだけは絶対に譲れない。
「…なぁ、やっぱりマネージャーを…」
「太陽」
続けないか?
その言葉は言わせてはくれなかった。
「…」
勇気を振り絞って出した言葉は、冬夜に遮られる形で消えた。
一番良いのは二人とも音乃木坂に残ってそれぞれコーチとマネージャーを続ける事。
でも、絶対冬夜はそれを良しとはしない。
だけどどうしても言わずにはいられなかったんだ。
やっぱりμ'sは…
【この11人じゃないといけないから】
「お前なら分かるだろ?」
だが、俺の願望とは裏腹に現実はどんどん離れていく。
諭す様に俺に問いかける言葉。その言葉の意味はちゃんと分かっている。
「…」
「…」
冬夜が言っているのは自分自身の過去。
深い闇に染まった底の無い絶望は、俺一人では到底受け止めきれない物だった。
だからこそ…知っているからこそ俺は冬夜に掛ける言葉が分からない。どこを探しても見つからない。
親友のくせして励ます言葉1つ掛けられない自分が凄く嫌いだ。
「お前はコーチを続けて俺はマネージャーをやめる。それで良いじゃないか」
…良くない。
良いはずがない…
でも、俺では今の冬夜を繋ぎ止める事が出来ない…
見当たらないんだ…冬夜を繋ぎ止める術も、救う方法も…
「…でもっ!」
後先考えずに動いてしまう自分の口。
俺はこの後何を言うつもりなのだろう…冬夜に、何で声を掛けるつもりなのだろう…
冬夜が嫌う上辺だけの言葉。
きっと今、俺が口を開いたのも上辺だけの言葉を吐くつもりだったんだ。
自分の願望の為に、冬夜の意思を無視して…
いつも俺がこんな感じだからあの時、冬夜は俺に言ったんだ。
「太陽、お前は甘いよ」
「…ごめん…」
口から出掛けていた上辺だけの言葉を飲み込み、俺はそれだけ言い口を閉ざす。
絶対に諦めない。そう意気込んで掛けた電話だったのに情けないものだ…でも、これが現実なんだ。
俺じゃ冬夜を救えない…
「大丈夫だよ」
口を閉ざした俺に冬夜が掛けた言葉は思いの外優しい声色で放たれたものだった。
でも、その優しさが辛いんだ…冬夜自身がこの選択で納得している証拠だから…
だから…もうこれ以上俺は冬夜に言葉を掛けてあげられない。
「俺がいなくても、あいつらはもう立派なスクールアイドルだから」
この瞬間、俺達の方向性が決まった。
同じ学校に通うはずなのに、変わらず近くにいるはずなのに、
μ'sという衝立を1つ挟むだけでその距離は…
とてつもなく、遠く離れていく様に感じた。
「…じゃあ、二人共いなくなっちゃうの?」
μ'sに伝えられる現実。
「大丈夫だよ。コーチは続けるから」
「良かった…」
太陽のコーチ継続を耳にし安心するμ's。
だが、その裏で着実に冬夜との距離は離れていく。
「…冬夜君は、どうするの?」
その真実を知った時…
「にこ。話がある」
μ'sは、また残酷な現実を叩きつけられる事になる。
〜次回ラブライブ〜
【第32話 μ'sから陰が消える時】
お楽しみに。