ラブライブ!~太陽と月~   作:ドラしん

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お久しぶりですドラしんです。

まずは2週間も空いてしまいごめんなさい!

なかなか打ち込みが進まず苦戦しました…本当に文才が欲しいです…

苦しみながら打ち込んだ今回ではありますが、皆さんに楽しんで頂ければ幸いです。

なお、今回文字数の割に物語はあまり進んでいませんのでご了承下さい。

それでは第34話始まります。


第34話【陰の少年は笑わない】

 

 

 

 

 

「なぁなぁ、あいつが笑ってる所見た事あるか?」

 

「いや、無いね」

 

「だよな!もしかしてあいつ笑い方知らないんじゃね?」

 

「あはは!何それ人間じゃないじゃん!」

 

 

 

 

 

 

 

冬夜と出会ってから8年。

 

最初から冬夜は笑わない人だった。

 

遠足、運動会、文化祭、修学旅行…どんなイベントの時も…

誕生日の時も、テストで良い点数を取った時も、誰かに褒められた時も…

 

一度も笑う事は無かった。

 

たまに愛想笑いをする事はあってもそれは作り笑顔。

 

笑っている目は黒く、酷く濁りまるでこの世の全てに絶望している様だった。

 

そんな冬夜の笑顔がどうしても見たくて何度も笑わせようとした事もある。

 

だけど、それらは全て失敗に終わった。

 

クスリともしない冬夜の表情。いつしか俺は無意識の内に冬夜の笑顔を見る事を諦めていた。

 

ただ、冬夜の側にいる事しか俺には出来ない。冬夜に笑顔を取り戻す存在が現れる事をただひたすら待っていた。

 

人任せ。そう言われれば仕方ないし事実そう。でも、俺に冬夜の笑顔を取り戻す策は何一つ無かった。

 

そんな時に現れたんだ…

 

μ'sという女神が。

 

 

 

「【次は】ちゃんと前もって言えよな」

 

 

 

あの時、μ'sの皆で冬夜の家に押し掛けた時に冬夜が言った一言。

 

今までの冬夜じゃ考えられなかった。

 

いくら楠木坂に戻る為とはいえど、同じ目標に向かってμ'sと共に走ったのは事実。

 

その日々の中で、冬夜は間違い無く変わっていた。

 

前向きな言葉は増え、笑顔とまではいかないが微笑む事も増えていた。

 

そもそも冬夜からμ'sのコーチを依頼された時点で変わり始めていたのかもしれない。

 

そんな冬夜に変化をもたらしたμ'sならば冬夜を救える、笑顔を取り戻せる。そう感じた。

 

冬夜が退部届を出した今、情けない事に俺はまた何も出来ないでいる。

 

結局はまた人任せ。でも、俺は信じている。

 

彼女達なら…また動き出してくれる。

 

「頼む…皆…」

 

俺は沢山の希望と期待を抱えたまま、着信が鳴り響くスマホを手に持った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「全員揃ったね」

 

スマホ越しに穂乃果が耳に入る。

 

「で、用件は何よ。皆を呼び出して」

 

続いてにこの声。冬夜の退部を引き摺っているのか家事終わりで疲れたのかは定かでは無いが、いつもの様な覇気は感じられなかった。

 

「まさか、この時間にグループ通話なんてね」

 

そう、俺達は今グループ通話をしていた。

 

μ'sとのグループ通話は絵里をコーチにするかの話し合いをした時以来だ。

 

22時という深い時間ではあるが、冬夜を除く俺を含めた10人が揃っていた。

 

「用件は勿論冬夜君についてだよ」

 

真剣な声色で穂乃果が集めた理由を説明する。

 

やっぱり…最後まで残っていたのはそうゆう事だったんだな。

 

「冬夜君の事って…だから残ってたん?」

 

「うん。どうしても諦めきれなくて…」

 

穂乃果の言葉に海未が溜め息をつきながら口を開く。

 

「…はぁ…まぁそんな事だろうと思いました。何時まで居たのですか?」

 

「えっ…と…19時くらいまで…」

 

「19時!?あんた、そんな時間まで残ってたの?」

 

予想外の残り時間に思わずにこが声を上げる。

 

…正直俺も予想外だ。

 

「中々考えが纏まらなくて気付いたら…」

 

えへへ、と笑いながら言う穂乃果。

 

冬夜の為にそこまで考えてくれたのは嬉しいけど、薄暗い道を女の子一人で歩かせるのはさすがに危険だ。

 

何事も無かったから良かったけど次からはコーチとしてそうゆう所も注意していかないとな。

 

「全く…それで?皆を集めたという事は考えが纏まったという事なのよね?」

 

絵里が呆れた様に言いながら穂乃果に問い掛ける。

 

穂乃果は直ぐ様答えた。

 

「うん。纏まったよ」

 

力強く発せられた穂乃果からの言葉。

 

その言葉には、大きな決意が込められていた。

 

「ずっと考えてた。冬夜君をμ'sに連れ戻す事が、私達にとって良いのか悪いのか。それでね、最終的な答えは【分からない】だった」

 

「…分からない?」

 

「そう、分からない。海未ちゃんが懸念している事も分かるし、冬夜君が戻ってきた事で良い事も悪い事も起きるかもしれない。いろんな可能性を考えた中で、私の思いはずっと変わらなかった」

 

穂乃果は一旦ここで言葉を止めると、はっきりと皆に放った。

 

 

 

 

 

 

 

「それでも私は冬夜君と一緒に居たい」

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「…!…」」」」」」」」」

 

「冬夜君は、μ'sって名前がつく前から私達に協力してくれた。沢山アドバイスもくれたし、協力もしてくれた。廃校を阻止する為に私達と一緒に一生懸命取り組んでくれた。私は信じてるよ。冬夜君は優しい人だって」

 

「…穂乃果…」

 

「私はもっと冬夜君の事を知りたい」

 

「…それは私だって同じです!だから連れ戻すのは冬夜を理解してから…」

「それじゃ遅いの!」

 

「…!…」

 

海未の言葉を遮る様に少し声を荒げながら穂乃果が言う。

 

「時間が空けば空くほど、ダメな気がするの。もう二度と冬夜君を連れ戻せない…そう気がしてならないの。だからね、海未ちゃん」

 

「…」

 

「冬夜君を連れ戻してから知っていくじゃ…駄目かな?」

 

告げられた穂乃果の思い。

 

一人で考え続けた末に出した答えは、穂乃果らしい物だった。

 

「…あんた…何とも思わないの?」

 

「…にこ」

 

「…何ともって?」

 

「あんた、冬夜からいろいろ言われたんでしょ?キツイ言葉とか沢山…スクールアイドルを辞める所まで追い詰められたのに、何でそこまであいつの肩を持つの?μ'sを崩壊まで追い込んでそこから何もせずに…あのままμ'sが無くなってしまう可能性があったのに…何でそこまで…」

 

 

 

 

 

「頼りになるからだよ」

 

 

 

 

 

「…!…」

 

「確かに厳しい事は沢山言われたし、傷付いた。でもね?皆も気付いてる通り冬夜君の言ってる事は間違い無く正しい。私はずっと間違っていて、そのまま周りを置いて走り抜けようとしていた。そんな私を正しい方向へ導いてくれたのは冬夜君なんだよ」

 

続いて穂乃果は言う。

 

「私は結果的にμ'sを一度離れて良かったと思ってるんだ。μ'sから離れて頭を冷やす時間が…ゆっくり考える時間が出来た。その中で私は気付けたの。あの日々がどれだけ幸せだったのか、スクールアイドルを続ける事の意味、今、私が何をするべきなのか…勿論それは皆がくれた言葉や私達の為に作ってくれた曲のおかげだけど、きっとμ'sから離れてゆっくり考える時間が無かったら皆の言葉も曲も、上手く飲み込めて無かったと思う」

 

「…穂乃果…」

 

「それにね?厳しい言葉の中にも、冬夜君は私にヒントをくれたんだ。【君が失った物に、取り戻せない物は何一つ無い】って」

 

驚いた。まさか冬夜がそんな事を言っていたなんて…

 

でも、確かに冬夜が言っていた通り穂乃果は全て取り戻した。

 

μ'sも、いつもの日常も、留学する予定だったことりでさえも。

 

あいつは全て分かっていたのか?全部取り戻せるって。

 

「私達じゃ気付けない事を冬夜君は気付いてくれて、私達に教えてくれる。ねぇにこちゃん、冬夜君は何もしてないって言ったけど実は違うんだ」

 

「…え?」

 

「ことりちゃんが留学する当日…μ'sが復活した日でもあるね。早朝に海未ちゃんと講堂で話したんだ。自分の気持ちを全部。そしてその後海未ちゃんからの言葉もあって私はことりちゃんを連れ戻す事を決めた。でも、その時点でことりちゃんの乗る飛行機の時間まで残り僅かで、徒歩じゃ到底間に合わない程だったの。そんな時に、彼は助けてくれた」

 

「…まさか、冬夜が?」

 

にこの言葉に穂乃果は頷きながら返す。

 

「そうだよ。いつも冬夜君が乗っている自転車で、私を空港まで送ってくれたんだ。時間に必ず間に合わせる…そう冬夜君は言ってくれた」

 

「…そうだったんだ…」

 

「それだけじゃないよ?ことりちゃんと一緒に音乃木坂に戻る時、冬夜君がタクシーを手配してくれてて、代金も払ってくれていたんだよ。私とことりちゃんの分を」

 

俺達はただただ驚いていた。

 

知らなかった…まさか裏で冬夜がそこまでしていたなんて全く…

 

そんな素振りも見せず自分には関係無いみたいに振る舞っておいて…何だよ、冬夜格好良すぎだろ…

 

「だから私は冬夜君を信じたい…冬夜君の事をもっと知りたい。私はあの時優しく私に微笑んでくれた冬夜君の姿が本当だって信じてる。だから…」

 

 

 

 

 

 

 

 

「戻ってきてから知っていこうよ!冬夜君の事を」

 

 

 

 

 

 

 

告げられる穂乃果の思い。

 

一体穂乃果が今、どんな表情でそれを言っているか分からないけれど一つだけ分かる事は紛れもなく本心でそれを言っているという事。

 

真剣な声。訴えかける様な叫び。本気で冬夜を連れ戻したいのが伝わってくる。

 

俺はすかさず穂乃果に続いて言った。

 

「俺からも頼む!もう一度、冬夜を信じてくれ!」

 

電話越しだから皆がどんな表情をしているかは分からない。

 

でも、少なからず穂乃果の強い思いで皆の心は動いたはずだ。

 

これで少しでも賛成派が増えてくれれば…

 

「…分かったわ」

 

「…にこちゃん…」

 

「信じるわ。冬夜を」

 

一番最初に口を開いたのはにこ。

 

少し呆れた様な声色で紡がれた言葉は、俺達の希望を膨らませる。

 

届いたんだ…にこに俺達の思いが…

 

「本当!?ありがとうにこちゃん!」

 

嬉しそうに声を上げる穂乃果。

 

にこが賛成派に変わった事がよっぽど嬉しかったらしい。

 

だけど、その気持ちは俺も分かる。

 

「凛も賛成だよ。穂乃果ちゃん達の話を聞いてとうくんを信じてみたいって思ったにゃ」

 

続いて口を開いたのは凛。

 

凛もまた、穂乃果の熱い思いに心を動かされたのだろう。

 

凄いな…やっぱり穂乃果は。

 

「凛ちゃん…ありがとう!」

 

これで凛も賛成派に変わった。

 

元々賛成派だった希、ことり、花陽の3人もきっと気持ちは変わっていないだろう。

 

真姫と絵里も反対派では無いから冬夜が戻ってくる事に抵抗は無い。

 

そしてにこと凛が賛成派に加わった今、残るは…

 

「海未ちゃん…」

 

「…」

 

反対意見が一番強い海未だけ。

 

表情が見えない今海未が何を考えているかは見当もつかない。

 

だが、海未以外は冬夜を連れ戻す事を肯定している事からズルいやり方だけど一人だけ逆行した意見は言い辛い。

 

「…」

 

未だ口を開かない海未。

 

考え事でもしているのだろうか?皆海未の言葉を待っている為沈黙が流れ続ける。

 

…このままじゃ埒が明かない。

 

痺れを切らした俺が口を開こうとしたその時だった。

 

「…穂乃果は…」

 

「…え?…」

 

「穂乃果は、もし冬夜の本当の姿があの時の姿だったらどうするのですか?」

 

真剣な声色で紡がれた海未の言葉。

 

あの時…というのは言わずもがなμ'sを崩壊に追い込んだあの時の冬夜だろう。

 

あの一件で深刻なダメージを負い冬夜に対する信用が失ったのは言うまでもない。

 

しかし、真っ先に反対の意見が出ないという事は少なからず心が動いている証拠。穂乃果の返答次第ではきっと…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それは、その時考える!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…へ?」

「…え?」

 

予想の斜め上をいく穂乃果の返答に思わず目が丸くなる俺。

 

反応を見る限りどうやら海未も同じらしい。

 

「…あれ?何か私変な事言った?」

 

その時考える…言葉だけを見れば無責任に聞こえるかもしれないがそれを穂乃果が言うと謎の安心感がある。

 

この答えを本気で良しとしている事も含めて。

 

「ふふ…いえ、穂乃果らしいなと思っただけですよ」

 

「ああ、穂乃果しか出せない答えだよ」

 

「えへへ…そうかな」

 

分かりやすく照れる穂乃果。

 

まぁ実際褒めてる訳だから別に良いんだけど。

 

「で、海未ちゃんはどうするの?」

 

照れていた様子から一気に変わり、真剣な声色で海未に尋ねる穂乃果。

 

海未は穂乃果の質問に対し、直ぐ様答えた。

 

「信じる事にします。穂乃果と冬夜を…皆を」

 

明るい声色と肯定の言葉。

 

電話越しで表情は分からないけれど、何となく分かる。

 

今、海未は笑ってる。

 

「やったー!!これで全員賛成派だね!」

 

「そうやね!これでようやくスタートラインに立てた訳や」

 

皆が賛成しないと冬夜を連れ戻す事が出来ない。

 

誰かが言った訳でもそう決まっていた訳でも無いが、きっと皆の中にはこの問題があった。

 

冬夜との接触に動き出せず、どうすれば良いか悩むだけの時間。

 

だけど、それは終わった。

 

穂乃果のおかげで今、μ'sの答えは一つになったんだ!

 

「じゃあ早速明日行動開始だね!」

 

意気揚々と場を仕切りだす穂乃果。すかさず海未が口を開く。

 

「穂乃果、何か策はあるのですか?」

 

「策?無いよ」

 

「無いのですか!?」

 

あっけらかんとした穂乃果の返答に驚きの声を上げる海未。

 

ズコーッという効果音が聞こえそうだ。

 

「ど、どうするつもりだったの穂乃果ちゃん…」

 

「もう時間も無いし…」

 

ことりと花陽が心配そうに声を掛ける。

 

「大丈夫だよ!」

 

しかし、対する穂乃果は一切の迷いは無くはっきりと言った。

 

「大丈夫ってあんた…」

 

「策は無いのよね?どうするつもり?」

 

そうだ。策が無いと穂乃果が自分の口から言ったのは記憶に新しい。

 

という事は冬夜を連れ戻す具体的な方法は何も無いという事になる。

 

じゃあ一体穂乃果はどうやって冬夜を…

 

「そのまま伝えれば良いんだよ」

 

「…え?」

 

「そのまま?」

 

「そうだよ!冬夜君に戻って来て欲しい思いをそのまま伝えれば、きっと戻ってきてくれるよ!」

 

自信満々な穂乃果。

 

何も根拠なんて無いのに良くそこまで言えるな。

 

冬夜に思いをぶつけるのは前提の上で普通はそれに+して何かアクションを起こすもの。

 

だけで穂乃果の出した答えは思いをぶつけるのみ。

それだけで冬夜が戻ってきてくれるとは思えない。

 

でも…

 

「きっと冬夜君は過去に何かあったと思うんよ。それでも、穂乃果ちゃんは思いをぶつけるだけで良いって思ってるの?」

 

なぜだろう…

 

「うん、思ってるよ。冬夜君が暗い過去を持っているのは私も感じてる。だからこそ私達の気持ちを全部ぶつけるんだよ。そして…」

 

言ってる事は単純でとても難しいはずなのに…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冬夜君の過去も気持ちも全て…私は受け止めるよ」

 

失敗を一切恐れてない穂乃果なら、それが出来そうな気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…来てくれるかな…冬夜君」

 

「来てくれるさ。きっと」

 

次の日の放課後。

 

部室に集まった俺達10人は、緊張した面持ちで冬夜の到着を待っていた。

 

「上手くいくと良いんやけど…」

 

不安そうな表情をしながら希が呟く。

 

μ's全体の答えが決まった昨日ではあるが、いざ行動に移すとやはりその不安材料は多い。

 

「放課後部室に来るように言ったのは穂乃果でしょ?どんな反応だったのよ」

 

続いてにこが口を開く。

 

にこの質問に俺達の脳裏に過るのは部室に来るよう伝えた時の冬夜の様子だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「冬夜君に話があるの。放課後、部室に来て」

 

「…」

 

「頼む冬夜。少しでも良いから俺達の話を聞いてほしいんだ」

 

「…やっぱりか…」

 

「…え?」

 

「…いや、何でも無い。分かった、放課後に部室な」

 

 

 

 

 

 

 

「…こんな感じだったよ?」

 

「…そう。じゃあ一先ず部室には来てくれそうね」

 

穂乃果がにこに冬夜の様子を説明すると、にこは少しだけ安堵の表情を浮かべる。

 

冬夜は間違い無く部室に来てくれるだろう。

 

だが、気になる点もいくつかある。

 

あの時冬夜が小さく漏らした「やっぱりか」という言葉。

放課後、部室に来る事をあっさり飲んだ事。

 

その様子からしてきっと冬夜は勘付いたんだろう。

 

俺達が冬夜を連れ戻そうとしている事を…

 

となれば冬夜はこれから説得される事を分かった上でここへ来る事になる…当然明確な答えを用意しているだろう。

 

それに冬夜の事だ。きっと何を言われても良い様に準備してきている事に違いない。

 

もしかすると彼女達じゃ…

 

「…太陽君、どうしたの?暗い顔して」

 

…!…しまった…考え込んでしまった…

 

ふと顔を上げるとそこには不安そうな表情でこちらを見つめるμ'sの面々。

 

…どうやら心配させてしまったらしい。

 

「ごめん、何でもないよ」

 

俺は笑みを浮かべ明るく答える。

 

何を考えてるんだ俺は。μ'sに賭けるって誓っただろ。

 

彼女達が一番冬夜を救う可能性の高い人達なんだ。ここにきて疑心暗鬼になってどうする。

 

大丈夫、彼女達ならやってくれるはずだ。

 

「…遅くない?」

 

ようやく心が落ち着いたその時、真姫の声が耳に入る。

 

「…そうだね…部室に来てから随分経つにゃ」

 

俺達が部室に来てから20分。

 

一向に姿を見せない冬夜にμ'sはソワソワし始める。

 

確かに連絡も来てないし少し不安だ。

 

「まさか帰っちゃったんじゃ…」

 

「それは無いよ。大丈夫、冬夜は必ず来る」

 

不安そうに呟くことりに俺は直ぐ様声を掛ける。

 

あいつは約束を破る様な奴じゃない。大丈夫、部室には来る。

心配なのはあいつが面倒な事に巻き込まれて無いかだ。

 

昔から冬夜は巻き込まれ体質だからな…変な事件と絡んで無ければ良いが…

 

 

 

 

 

 

ーーーーーコンコン。

 

 

 

 

 

 

「「「「「「「「「「…!…」」」」」」」」」」

 

その時だった。

 

部室内に響き渡るノックの音。俺達全員の顔に緊張が走る。

 

「…来た」

 

絵里がぽつりと呟く。

 

全く違う人物の可能性もある。だけど、不思議と確信が持てた。

 

扉の前に立っているのは紛れもなく冬夜であると。

 

「…どうぞ」

 

にこが扉の前の人物に声を掛ける。

 

そして、その声に応える様にゆっくりと扉が開かれた。

 

 

 

 

 

 

 

「ごめん、待たせた。それで何の様かな?」

 

【もう、マネージャーを辞めた俺に】

 

 

 

 

 

崩さ無いいつも通りの無表情。そこから感情を読み取る事は出来ない。

 

しかし、【もうマネージャーを辞めた俺に】というフレーズを強調して言う冬夜から感じた事はある。

 

それは…

 

もうμ'sに戻る気が無いという事。

 

やっぱり、冬夜は気付いてる。今からμ'sに戻る様説得される事を。

 

「…ううん、こちらこそごめんね?急に呼び出しちゃって。あまり時間も無いと思うから単刀直入に言うよ?」

 

しかし女神は止まらない。

 

真っ直ぐ冬夜の目を見つめながら穂乃果は冬夜に伝える。

 

心の底から、自分の…皆の思いを。

 

「お願い、冬夜君。μ'sに帰ってきて!」

 

特別な策なんて何も無い。やる事はただ真っ直ぐに自分の思いを伝えるだけ。

 

だけど、彼女達ならそれだけで充分だ。

 

嘘偽りの無い彼女達の気持ちなら、きっと冬夜に伝わるはず。

 

冬夜は少しだけ間を空けると、静かに口が開いた。

 

「何で、俺に構うんだ?」

 

「…え?」

 

「意味が分からない…俺は散々酷い事してきたんだぞ?大した仕事もしてないし穂乃果や皆に酷い事も言った。挙げ句の果てにはμ'sを一度壊したんだぞ?それなのに何でまだ俺をマネージャーにしようとするんだよ」

 

呆れた様に呟く冬夜は、理解出来ないと首を横に振る。

 

好かれる要素なんて何一つ無い。きっと冬夜はそう思っているに違いない。

 

でも冬夜は気付いていないんだ。どれだけ君がμ'sに影響をもたらしたかを。

 

「そんなの決まってるよ。冬夜君と一緒にいたいから」

 

「…は?」

 

穂乃果の言葉に冬夜の表情が少しだけ変わる。この返答はさすがに予想外だったらしい。

 

「確かにあんたのした事はまだ許せてない。でも、それ以上にあんたを頼りにしてるのよ。μ'sのマネージャーとして」

 

続いてにこが口を開く。

 

上辺だけでは無く心から言っているのは冬夜が良く分かるはずだ。

 

にこの発言を皮切りに他のメンバーも冬夜に思いをぶつける。

 

「私も、冬夜君に戻ってきて欲しいです!もっと、私達が輝いている所を見てもらいたいんです!」

 

「凛も同じだよ。最初はどっちが良いんだろうって考えたけど、今ならはっきりと答えが出せるにゃ。凛はとうくんと一緒にスクールアイドルを続けたい!」

 

「…はぁ…今くらい素直になるわね?私は冬夜が辞めるって言っている以上諦めるしかないって思っていたけれど、少しだけ…我儘を言っても良いなら私も二人と同じ気持ちよ。冬夜に、居て欲しい」

 

「…!…」

 

まずは1年生組が口を開く。

 

放たれた3人の本心に冬夜の表情は少しずつ変わっていく。

 

あの真姫ですら素直に自分の気持ちを伝えたんだ。冬夜に響かない筈が無い。

 

「うちも冬夜君ともっと一緒に居たい。君はそうは思っていないと思うけど、間違い無くμ'sには君が必要なんよ」

 

「そうよ。あなたは自分が思っている以上にμ'sに貢献している。少しくらい自分の努力を認めても良いんじゃないかしら?」

 

続いて希と絵里が柔らかな表情を浮かべながら声を掛ける。

 

全てを包み込んでくれそうな二人には、大きな安心感があった。冬夜の全てを受け入れる。そう思わせてくれる様な大きな安心感が。

 

「冬夜君お願い。帰ってきて…」

 

「私達はあなたの事を理解するって決めたんです。だから、μ'sに戻ってあなたの事を私達に教えて下さい。大丈夫です。全て受け入れますから」

 

最後にことりと海未が口を開く。

 

いつもの様な誘惑じみたお願いでは無く懇願する様に冬夜に言うことりに対し希や絵里と同じ様に柔らかな笑みを浮かべる海未。

 

これでμ's全員が冬夜に気持ちをぶつけた。

 

嘘偽りの無い瞳。真っ直ぐな言葉。やっぱり彼女達は凄い…

 

目の前にいる9人は、紛れもなく女神だった。

 

「…正気か?」

 

「当然だよ。大した仕事はしてないって冬夜君は言うけど、μ'sの活動に一生懸命だったじゃん。いっぱい、協力してくれたじゃん。それだけで充分なんだよ」

 

「…そんなのはただ俺の自己満足にしか過ぎない。元々俺は楠木坂に戻る為に一時的に手を組んだに過ぎない。ただスクールアイドルを楽しんでた君達を俺は利用したんだぞ?」

 

「だとしても、協力してたくさん動いてくれた事には変わりないよ」

 

一切微笑みを崩さず言葉を返す穂乃果。

 

μ'sの思いを知り皆の言葉を聞いた冬夜の心はきっと揺れているはず。

 

これならきっと冬夜は…

 

「だから冬夜君。何も心配しないで。冬夜君がいないと、μ'sじゃないんだから」

 

戻ってくるはず。そう希望を抱いた俺は、少し表情を和らげながら冬夜の言葉を待つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しかしそれは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「でも、俺がいなくても楽しそうだったじゃん」

 

叶わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…え?」

 

「君達、10人で登校してるよね?何か宿題の話題で盛り上がってたみたいだけど」

 

「…!…」

 

あの時だ…偶然10人が揃った時の…いたのか?冬夜もあの時…

 

「凄い楽しそうだったね。俺の事なんて気にも止めなかった様子で10人の世界だった。改めて実感したよ、そこに俺の居場所は無いって」

 

「そ、そんな事無いよ!」

 

穂乃果がすかさず否定する。

 

しかし冬夜は止まらない。

 

「君達は俺が必要だと言ってるけど、充分俺無しでやっていけてるじゃないか。合宿で真姫と他メンバーとの壁を取り除いたのも、μ's再結成を決意させたのも、全部君達の力だろ?そこに俺は関与していない」

 

「で、でもっ」

「でもも何もねぇよ。事実なんだから。心配すんな、何も俺は怒ってる訳じゃないんだ。むしろ安心してるんだよ」

 

「…安心?」

 

「ああ、俺無しでμ'sは充分やっていける。俺の力が無くたって君達は輝ける。これで心置きなくμ'sを去れるってもんだ」

 

何故だ…さっきまで確かに心は揺らいでいたはずだ…表情だって変わってて…

 

まだ足りないのか?…っ…そんな事はない!

 

「何でそこまで否定するんだよ…少しは皆を信頼しても良いんじゃないのか!?冬夜だって最初は皆の事を信じてたはずだ!」

 

このまま終わらせたくない。その一心で俺は冬夜に声を掛ける。

 

少しでも心が動いて欲しい…そう願いながら。

 

しかし、冬夜の表情は何一つ変わらなかった。

 

「…何を勘違いしている太陽。俺は今まで一度もμ'sを信用した事は無いぞ?」

 

「「「「「「「「「「…!…」」」」」」」」」」

 

冬夜の言葉に全員の表情が変わる。

 

ただただ驚いてる者。ショックを受ける者。悲しむ者。それは様々だった。

 

「正確には、スクールアイドルとしての能力は信じていたけど人としては一切信用していない、だな」

 

「…」

 

誰一人として声を発する事が出来なかった。

 

表情の変化はあったけれど、心には響いてなかったんだ。皆の言葉が…思いが…

 

「皆は覚えてる?合宿の時に海の前で皆で手を繋いだ事」

 

「…!…覚えてるよ!ラブライブに向けて頑張ろうって皆で誓ったあの時だよね?【全員】で手を繋いだ…」

 

「そう。【全員】で手を繋いだね」

 

あれは皆との絆が深まった大きな出来事だ。鮮明に覚えてる。

 

自然て互いに手を繋いで横に並んで10人で…

 

 

 

 

 

…え?【10人】で?

 

 

 

 

 

「そこに…俺はいないんだよ」

 

「…!…」

 

冬夜の言葉で気付いた。気付いてしまったんだ。

 

あの時冬夜がいなかった事…冬夜の事が頭から離れていた事…

 

μ'sの絆が深まった時にはいつも…冬夜の姿が無かった事を…

 

「今ので分かっただろ?君にとっての全員は、俺を除いた10人である事が」

 

「そんな事無い!冬夜君だって大切な友達だよ!?大事なμ'sのメンバーなんだよ!」

 

必死に言葉を紡ぐ穂乃果。

 

でも、その言葉は冬夜には届かない。

 

「もういいって」

 

冷たく突き放す様な冬夜からの言葉。

 

これまで何気なく笑って過ごしていた日常でさえも冬夜を遠ざけていた。心が離れていった。

 

それこそ気付いた時には手を伸ばしても届かなくなる程に。

 

認めたくない。気付きたくない。

 

そう思っているはずなのに、無意識の内に感じてしまったんだ。

 

 

 

 

 

 

 

もう、冬夜の心は動かないと。

 

 

 

 

 

 

 

「どうしてそこまで自分を否定するの!?」

 

諦めたくない気持ちが穂乃果を突き動かす。

 

だから穂乃果は必死に手探りで可能性を探し手を伸ばした先にある言葉を冬夜にぶつけるんだ。

 

冬夜が戻ってきてくれる事を信じて。

 

「…」

 

「どうして私達と一緒にいる事をそんなに拒むの!?」

 

冬夜は口を開かない。

 

ただ、穂乃果の言葉を黙って聞いてるだけ。

 

穂乃果の悲痛の叫びはまだ続く。

 

「私達の事が嫌いなの!?何か酷い事をしちゃったなら謝る!だから教えてよ!」

 

「…」

 

「冬夜君がいない所で楽しんでいたのがいけないの!?冬夜君がいないの所で結束を高めたのがいけないの!?」

 

ヒートアップしていく穂乃果の叫び。

 

違う…そうじゃない…そうじゃないんだ穂乃果…

 

ただがむしゃらに掴んだ言葉をぶつけてももう…

 

「穂乃果…もうこれ以上は…」

 

「海未ちゃんはこのままで良いの!?皆はこの結果で満足出来るの!?冬夜君は勘違いをしているんだよ。それを今から教えなきゃ…」

 

穂乃果は止まらない。目に見据えているのは冬夜のみ。

 

もはや冬夜を連れ戻す事しか頭に無かった。

 

痛々しい穂乃果の姿に他のメンバーの表情は暗く落ち込み、冬夜の表情が少しずつ険しくなる。

 

止めないと…そう思った俺は穂乃果の肩に手を乗せる。

 

穂乃果はビクッと肩を跳ね上がらせると、ゆっくりと俺の方を見る。

 

「…あ…」

 

そして皆の表情を見ると、少しずつ穂乃果の熱が冷めていく。

 

どうやら少し落ち着いたらしい。

 

「…ごめん…また私、暴走しちゃってたね」

 

穂乃果がぽつりと呟く。

 

今までの穂乃果ならこのまま壊れるまで暴走していた。

 

こうして自分で気付き冷静になれる辺りが穂乃果が成長している証拠

だ。

 

ただ、この場面で実感したくは無かったが。

 

「海未ちゃんもごめんね?」

 

「…いいえ、大丈夫ですよ。穂乃果の気持ちも分かりますし」

 

海未の言葉に他の皆も頷く。

 

どうやら気持ちは同じらしい。

 

「太陽君ありがとう。止めてくれて」

 

「気にしないでくれ」

 

これ以上は逆効果だった。

 

一歩間違えばまたメンバー内で大きな亀裂が入ると可能性もあった。

 

だからつい止めてしまったけど、これで俺達冬夜を連れ戻す術を失った。

 

まさかここまで心が動かないなんて…

 

「ねぇ冬夜君」

 

穂乃果が再び冬夜に話し掛ける。今度は冷静を保っているから大丈夫だろう。

 

冬夜は変わらず無表情のまま穂乃果の言葉を待つ。

 

「何で貴方がそこまで自分を、私達との繋がりを否定して拒むのかは分からない。でも、これだけは言っておくよ」

 

「…」

 

「貴方は一人じゃない」

 

「…!…」

 

冬夜の表情がまた変わった…

 

「どれだけ冷たく突き放しても、私達は冬夜君を追い掛け続ける。冬夜君が私達を受け入れてくれるまで何度も」

 

ゆっくりと優しく紡がれる穂乃果の言葉に冬夜の表情が揺れる。

 

そして、ついに冬夜が口を開いた。

 

「…何でそこまで…」

 

「分かってるからだよ」

 

「…分かってる?」

 

「そうだよ。私達は分かってる」

 

きっとこれがラストチャンス。

 

これが駄目ならば、冬夜を連れ戻す事はきっと出来ない。

 

穂乃果は優しく微笑むと、冬夜に歩み寄りながら口を開いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「冬夜君が何かを抱えてるのは分かってる。だから、話してほしい。冬夜君の全てを…そして一緒に頑張って乗り越えよう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

沢山の希望と、思いを込めた言葉。伝えたい事は全て伝えた。

 

後は冬夜に響いてくれるのを祈るのみだ。

 

大丈夫、穂乃果なら…皆なら受け止めてくれる。

そう思わせる程の暖かさがそこにはあった。

 

真っ直ぐ冬夜を見つめる皆。冬夜の言葉を待つ皆。

 

そして、言葉は紡がれる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…頑張って…か…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「その言葉、俺大嫌いなんだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それでも、陰の少年は笑わない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 







冷たくμ'sを突き放した冬夜。

そんな冬夜の目の前に現れたのは、意外な人物だった。

「久し振りね。元気だった?」

「…げっ…」

ひょんな事から始まってしまった一人の少女とのデート(仮)

その中で交わしていく会話の先、少女が冬夜に掛けた言葉とは…







「少しくらい貴方も言ったら?我儘」







〜次回ラブライブ〜

【第35話 王者再び】

お楽しみに。
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