ラブライブ!~太陽と月~   作:ドラしん

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お久しぶりですドラしんです。

まずは1ヶ月近くの更新の停滞申し訳ございませんでした。

休日出勤が重なり頭を使いたくない日々が続いていて全く打ち込みが進みませんでした。

もしかしたら暫く月1更新になってしまう可能性があります。本当にごめんなさい。




さて、今回は最近シリアスが続いているので申し訳程度のギャグ回になります。

ただし僕がギャグ回の打ち込みが苦手なので滑ってたらごめんなさいね。

それでは第35話始まります。




あ、今回次回予告結構雑になっちゃいました。申し訳ございません。

…ていうか今回謝ってばかりだな。


第35話【王者再び】

 

もしもあの時、素直に彼女達の言葉を受け取っていたらどうなっていただろうか。

 

もしもあの時、差し出された手を掴んでいたらどうなっていただろうか。

 

きっとそれは、とても楽しい日々が始まったに違いない。

 

だけど、結局それは一時的に過ぎない。

 

いつか必ず後悔する時は来る。

 

あいつらは俺の全てを受け止めるとは言ったけど、実際は分からない。

 

受け止めるとかの次元じゃないんだよ。俺が抱えてるものは。

 

あいつらとは住む世界が違う。だから俺は絶対に向こうへ行ってはいけない。

 

どれだけあいつらが希望に満ちた言葉を俺に掛けようと…どれだけあいつらが俺を知ろうとしても、この意思だけは変わらない。

 

だから昨日俺はあいつらの希望を踏みにじったんだ。

 

自分の言葉で…俺の手で…

 

「…はぁ…何で俺は生きてるんだろうか…」

 

何気ない休日の昼下り。

 

俺の呟きは、人混みの喧騒に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「…今日も随分賑わってるな」

 

休日の昼下り。レストランのバイトまで時間のある俺は、秋葉原を散策していた。

 

休日というのもあり人で賑わっている様子を見て俺は軽く人酔いを起こしそうになりながらゆっくりと歩を進める。

 

「…うっ…さすがにちょっと離れるか…」

 

ここにきて限界が来た俺は、人混みから少し離れて歩く。

 

…あれ?そういや前もこんな事あったな。

 

確か夏休みの時似たような場所で人酔い起こして離れたら…

 

 

 

 

「綺羅ツバサがいるぞー!!!」

 

 

 

 

あー…思い出した。

 

そういえばここ、A−RISEと出会った場所だ…

 

「…」

 

俺は徐に辺りを見渡す。

 

しかし、特段騒ぎになっている様子は見られなかった。

 

「…まさかな」

 

さすがにそんな都合良くトップスクールアイドルと出会す訳無いか。

あの時が異常だっただけで。

 

立て続けにそんな事が続くはずがない。そう思った俺は再び歩き始める。

 

人混みから離れ少しずつ人酔いが治まってきたその時、一軒の建物が俺の視界に入った。

 

「…スクールアイドルショップ…」

 

俺は無意識の内に口に出しており足を止めていた。

 

スクールアイドルショップ…全国各地にいる人気のあるスクールアイドルのグッズを販売している専門店。

 

来た事あるのは絵里と希が加入して間もない頃に来たあの時の1回のみ。

 

しかし、その1回はとても印象に残っている。

 

ことり扮するメイド、ミナリンスキーの生写真や自分達のグッズに喜ぶ皆の姿ににこの涙。

 

どれも良く覚えている。

 

「懐かしいな…」

 

そんなに時間は経っていないはずなのにそう感じてしまうのは何故だろうか?

 

どちらにせよ俺はもうあの日々に戻れない。戻ってはいけない。

 

戻れる最後のチャンスも自分の手で壊した。

 

だから俺はもう戻りたいとすら思ってはいけないんだ。

 

「…大丈夫…未練なんて何もないさ」

 

後悔はしてない。辛くも無い。これで正しかったんだ。

 

そう自分に言い聞かせスクールアイドルショップを立ち去ろうとする俺。

 

しかし、後ろから飛んできた突然の声に、再び俺は足を止めた。

 

「あら?冬夜君?」

 

聞き覚えのある女の子の声。

 

だけどその正体はμ'sでもヒフミトリオでも無い。となれば残るは…

 

「…」

 

恐る恐る振り返る俺。

 

変装はしているものの隠し切れていないトレードマークの広いおでこにこれでもかと言わんばかりに溢れ出る王者のオーラ。

 

思わず隠す気あんのかとツッコミたくなるくらいの甘い変装ぶりだが、ここは飲み込んでおこう。

 

「久し振りね。元気だった?」

 

サングラスを外しながら笑みを浮かべる目の前の少女。

 

眩しい…眩しすぎる…とてもじゃないが直視出来ない。

 

予想外の再会を目の当たりにした俺は、思わず呟く。

 

「…げっ…」

 

「…何よ【げっ…】て。まるで会いたくない人に会ったみたいなリアクションしちゃって」

 

その通りなんだよ。

 

μ'sは勿論太陽とすら会いたくなかったのに。

 

「…いえいえ、お久しぶりです【綺羅さん】。それじゃ俺はこれで」

 

俺の本能が告げている。急いでこの場から離れろと。

この先面倒くさい展開になるに違いない。

 

俺はそう言いその場を後にしようとする俺。しかし、目の前にいた少女…もといA−RISEのリーダーである綺羅ツバサは目にも止まらぬ早さで俺の腕を掴んだ。

 

「…は?…え?」

 

あまりの早さに驚く俺。

 

ツバサはそんな俺の様子を気にも止めずやや怒った表情で顔を寄せてくる。

 

「な・ん・で、名字呼びなのかしら?」

 

ドアップのツバサから放たれる怒気を込めた言葉には中々の迫力があった。

 

まだツバサとは付き合いは浅いし名前呼びも慣れてないからつい名字で呼んじゃったけどまさかここまで怒るとは…

 

「…あー…名前呼びじゃないと駄目ですか?」

 

「だめ」

 

…即答かよ。

 

なんでそこまで名前呼びに拘るのかが理解できん。

 

一先ずいい加減名前で呼ばないと解放してくれなさそうだしこっちが折れるしかないか…

 

「…はぁ…分かったよ、ツバサ」

 

俺は小さく溜め息をつくと、大人しくツバサの名を口にした。

 

するとツバサは…

 

「うん!よろしい」

 

と眩しい笑みを浮かべながら言うのだった。

 

「…その溜め息は気になるけどね」

 

怪訝しい視線を残しながら…

 

まぁそこはいいじゃないですか。スルーの方向で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「で、何用だ」

 

無事ツバサから解放された俺は早速用件を聞くべくツバサに問い掛けた。

 

結果的に本能から背く形になってしまった俺。嫌な予感が止まらない。

 

「何よ。用が無いと話し掛けちゃ駄目なの?」

 

少し不機嫌そうな顔をしながら屁理屈をこねだしたツバサ。

 

そもそも用も無いのに話し掛けるという事が俺には理解出来ない。

 

「…駄目だね」

 

「いやそこは【そんな事無いよ】とか言う所でしょ」

 

知らんわそんなルール。

 

「まぁいいわ。用事ならあるわよ」

 

不敵な笑みを浮かべながら言うツバサ。

 

今から練習を見て…だったり今からライブしよう…だったり突飛した思考の持ち主であるツバサの事だ。どうせまた良からぬ事を考えているに違いない。

 

面倒くさいなー…無理にでも帰ろうかな…逃してくれなさそうだけど。

 

「…用事とは何だ?」

 

まぁ折角だし聞くだけ聞いといてやろう。そう思った俺はツバサの言葉を待つ。

 

ツバサは直ぐ様口を開くが、その返答はやはり俺の予想の斜め上を行くものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これから私とデートしない?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…は?」

 

ツバサからの提案に思わず目を丸くする俺。

 

デート?…俺が?…ツバサと?…今から!?

 

いやいやいやさすがに無理でしょ!?

 

「もう、女の子の口から2度も言わせようとするなんて冬夜君も結構意地悪ね。お望みならもう一度言うわよ?今から私と…」

「用事は分かったから2度も言うな!」

 

俺はツバサの言葉を遮りながら口を開く。

 

危ない危ない…こんな人通りのある所でトップスクールアイドルにそんな事を何度も言われようものなら俺は直ぐ様後ろから刺されるだろう。

 

…とりあえずこれ以上の会話は危険だ。場所を変えよう。

 

「一先ず移動しよう。ここじゃ人目につく」

 

まだ騒ぎにはなっていないがそれも時間の問題。

 

チラチラとこっちを見ている視線を感じるしもうこれ以上はここにいれない。

 

「うーん、そうね。場所変えましょうか【人気の無い所】にね」

 

ツバサも視線に気付いたのか軽く辺りを見渡しながら言う。

 

…何故【人気の無い所】の部分だけ強調したのかはあえて触れないでおこう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「さっきのデートの件だけど返事はNOだから」

 

「言うと思った」

 

こうしてスクールアイドルショップの前から移動した俺達は、比較的人通りの少ない住宅街の小さな公園までやってきた。

 

公園に着くやいなや、デートに行かない事をツバサに伝える俺。

 

しかしツバサはそう来るのは分かっていたみたいで予想通りと言わんばかりの様子で返答する。

 

…まぁツバサに読まれてるだろうなとは思ったけどさ。

 

だからこそこの話し合いが長くなると思って場所を変えたんだけど。

 

「理由だけ聞いても良い?」

 

首を傾げながら俺に問いをぶつけるツバサ。

 

さすがにトップスクールアイドルなだけあってふとした仕草でも魅力的に感じるものだ。

 

ツバサが狙ってしてるかは分からないけど。

 

一先ず平常心を保ちながら俺は答えた。

 

「一緒にいると騒ぎになりそうだから嫌だ。後面倒くさい」

 

「め、面倒くさい!?」

 

さすがにこの返答は予想外だったのか、驚いた様な表情に変わるツバサ。

 

そりゃそうだ。普通じゃありえないトップスクールアイドルからのデートの誘いを面倒くさいの一言で断ろうとしてるんだからな。

 

「騒ぎになりそうだから嫌だは分かるけど…面倒くさいとまで言われるとは思わなかったわ」

 

まぁでも本心だしな。興味も全然無いし。

 

とりあえず女の子からの誘いを面倒くさいで一蹴した俺の好感度はこれで下がったに違いない。

 

これを期にA−RISEとの繋がりも無くなるだろう。

 

「そうゆう訳だから俺はここで」

 

俺はツバサに背を向けその場を去ろうと歩き出す。

 

そもそも俺に対しての好感度が高いのがおかしいんだ。

 

μ'sといいA−RISEといい大した事もしていないのに何故かやたら俺に構おうとする。

 

俺のどこがそんなに良いんだか…

 

まぁそれもこれで終わりだ。これで俺の毎日がいつも通りに…

 

 

 

 

 

【ガシッ】

 

 

 

 

 

「…ん?」

 

公園の外へと歩き出した俺の足はそれ以上動く事は無かった。

 

何者かに腕を掴まれた感触。その正体は一人しかいない。

 

俺がゆっくりと振り返ると、そこには俯いたまま不敵な笑みを浮かべたツバサの姿があった。

 

「…えっと…ツバサ?離して貰えると助かるんだけど…」

 

只ならぬツバサの様子。

 

そして何より嫌な予感がこれでもかと言う程ひしひしと伝わってくる。

 

やがてツバサは顔を上げると、不敵な笑みを崩さ無いまま口を開いた。

 

 

 

 

 

「そんな事言われたら…尚更デートしたくなっちゃった」

 

 

 

 

 

「…え?」

 

予想外の返答に思わず声が漏れる俺。

 

まるで語尾に音符マークやハートマークが付きそうな程あざとい笑みでこちらを見つめるツバサの姿に、俺はただただ唖然としていた。

 

「やっぱりあなたは他の人と違う。今まで私に近付いて来る男性は皆下心が見え見えでバッタリ出会せば【運命だ】の一言。ちょっと一緒に歩けばデートだと騒がれる。でも、あなたは違う」

 

あざとい笑みから一転して真剣な表情に変わるツバサ。

 

その様子からとても嘘を言っている様には見えなかった。

 

「最初に私と…ううん、私達と出会った時からあなたはそうだった。私達をA−RISEだと知った上でのその興味の無さそうな反応が、私達からすればとても新鮮だった。その時に思ったの、あなたの事をもっと知りたいって」

 

…マジかよ。好感度が上がらない為に終始無関心を貫いて接していたのが間違っていたのか?

 

好感度が下がるどころか全てプラスに働いていたのか?…んなアホな。

 

「少し自惚れた発言をするけど、私からの誘いを断った男性はあなたが初めてよ。でも、後悔はさせないわ。こうなったら何が何でも私とデートしてもらうわよ!」

 

ツバサはそう言うとグイグイ俺の腕を引っ張りながら公園から出ようとする。

 

「待て待て待て!何でそうゆう結論になるんだよ!は・な・せ!」

 

「い・や・だ!それにあなた暇でしょ?いいじゃない一度くらい」

 

「暇じゃないよ!俺には街をぶらぶらするという大事な用事が…」

「それを暇と言うのよ。それじゃあしゅっぱーつ!!」

 

「だから引っ張るなー!!」

 

結局非力な俺の力ではツバサを振り解く事は出来ず、そのまま連れて行かれるのだった。

 

ああ…俺の拒否権は一体何処へ…

 

 

 

 

 

 

 

 

「さて、何処に行こうかしら」

 

「ノープランかよ」

 

そんなこんなで変装の甘いツバサとデート(仮)に繰り出した俺。

 

早速ツバサがノープランである事が発覚し、デート(仮)はいきなり手詰まりとなった。

 

…てかデートの提案その場の思い付きだったのかよ。

 

「冬夜君、何処か行きたい所はある?」

 

「ある訳無いでしょ」

 

強制連行されてる俺に聞くなよ。

 

「うーん…そっかー…」

 

俺の返答を聞いたツバサを目を閉じ深く考え込む。

 

顎に手を置き悩む素振り。実際はこの後の予定を考えているだけだが、その姿ですら絵になるのはさすがはスクールアイドルの王者といった所か。

 

おかげ様で道行く人達の視線が痛え。

 

「そうだ!」

 

その時、少し考え込んでいたツバサが閃いた様に目を開きながら顔を上げる。

 

行く所でも決まったのだろう。

 

「やっぱりデートといえばショッピングじゃない?デパートに行くわよ!」

 

自己完結かい。

 

まぁこうゆう時の定番とかは全然知らないし、何処でも良いんだけど。

 

「はいはい」

 

適当に相槌を打つ俺。ツバサのテンションは俄然高いままだ。

 

俺なんかとショッピングしても楽しくないのに…本当に不思議だ。

 

「じゃあ行くわよ!」

 

ツバサはそう言うと俺の腕を掴みながら意気揚々と歩き出した。

 

連行していくシステムなのは変わらないんですね…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳でデパートに着いたわよ」

 

「見れば分かるよ」

 

それから他愛もない会話を挟んだ後、目的の場所である街の中でもかなり大きいデパートに到着した。

 

服などのファッショングッズは勿論、生活用品や雑貨屋、飲食店も完備しておりゲームセンターやカラオケまである。

 

行き先に困ったらここに来れば良いと思う程の充実ぶりだ。

 

「確か服屋さんは3階だったわね」

 

ツバサはそう言うと直ぐ様デパートの中へと入っていく。

 

…あれ?今服屋って言ったか?

 

「ほら、冬夜君も早く!冬夜君に服選んでもらいたいんだから!」

 

マジかよ…聞き間違いであって欲しかった…

 

何でこうゆう展開になっちゃうかな…

 

「それ本気で言ってんの?」

 

「勿論」

 

いや無理だろ…俺みたいなファッションに無頓着な奴がトップスクールアイドルの普段着を選ぶなんて荷が重すぎる。

 

何とかして断りたいが…

 

【ガシッ】

 

腕も掴まれたし…これ以上は無理そうだ。

 

「…はぁ…どうなっても知らんぞ?」

 

「大丈夫よ。あなたならきっと」

 

…プレッシャーが凄い。何で俺に対しての信頼がそんなに厚いんだよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、これどっちが似合うかな?」

 

それから数分後。

 

腕を掴まれながら服屋に到着した俺は、現在ツバサから質問攻めに遭っていた。

 

「…こっちかな」

 

「分かった。こっちね、ありがとう!」

 

ツバサはそう言うと、嬉しそうに笑みを浮かべながら俺が選んだ服をカゴに入れる。

 

ふとカゴに目を移すと、そこには俺の選んだ服達がぎっしりと詰まっていた。

 

俺が選んだとは言っても毎回ツバサから2択を提示されてそこから俺が選ぶ形ではあるが。

 

…それにしてもツバサは何着買うつもりなのだろうか。

 

「さぁ、次はこの2択よ」

 

「ちょっと待てツバサ。いくらなんでも買いすぎだろ」

 

意気揚々と新たな2択を用意したツバサに俺は声を掛ける。

 

着る服にそんなに困ってる様には見えないしこんなに買っても全部は着ないだろ。

 

それに金銭的な問題もあるし明らかに女子高生が買う衣類の範囲を超えている。

 

「あら、確かにちょっと張り切りすぎちゃったかしら」

 

「いや、ちょっとどころじゃないだろ」

 

「まぁ良いわ、あって損は無いし」

 

マジかよ!?そんだけあっても損無いの!?

 

…女の子は本当に分からん。

 

「とりあえずこれで最後にするわ。どっちが似合うかしら?」

 

「…こっちで」

 

「こっちね!」

 

変わらずテンションの高いツバサは服がたくさん入ったカゴを手に持つとそのままレジへと向かっていく。

 

こんだけ買って何でそんな余裕そうなんだよ…

 

いくら持ってきてるんだ?この人は。

 

「…そんなに着るのか?」

 

俺は疑問に思った事をツバサにぶつけた。

 

するとツバサはチラッとこちらを見てクスリと笑うと、

 

「女の子にしか分からない事もあるのよ」

 

と言うのだった。

 

…ますます分からん。

 

「これお願いします」

 

ツバサの答えに更なる疑問が生まれた頃、俺の耳にツバサの声が入る。

 

ふと目を向けるとそこにはカウンターにカゴを置くツバサの姿があった。

 

どうやらレジに着いたらしい。

 

「…えっと…お客様、これ全部でよろしいですか?」

 

顔を引つらせながらツバサに問う店員。

 

それもその筈、さっきも言った通り今回ツバサが買おうとしている量は女子高生の範囲を超えている。

 

いくらここがリーズナブルな店とはいえ塵も積もれば山となる様に沢山量を買えばその値段も当然跳ね上がる。

 

「…?…ええ」

 

しかしツバサは涼しい表情を崩さないまま当たり前と言わんばかりの様子で淡々と答える。

 

店員からの質問に疑問を抱いてるぐらいだ。

 

「…かしこまりました」

 

店員は一言だけそう言うと、慣れた手付きで商品を通していく。

 

凄い勢いで上がっていく合計金額に俺は目が離せなかった。

 

「…マジか…」

 

「…ん?どうしたの?」

 

「え、あ、いやなんでもない」

 

跳ね上がる金額に思わず声が漏れる。

 

普通の服屋でこんなに買い物する人見た事ねぇよ…

 

「…合計6万5000円になります」

 

ろ、6万5000円!?

 

おいおいマジかよ家賃より高いじゃねぇか…

 

一応今デート中らしいから本来なら男の俺が出すべきなのだろうが、こんな金額を目の前にすればここは俺が持つなんて口が裂けても言えない。

 

さすがにこの値段は無理だろう…と思い俺はチラリとツバサに視線を移す。

 

すると、ツバサは涼しい顔で財布を取り出し当たり前の様にお金をレジに置いた。

 

「じゃあこれで」

 

レジの上には1万円札が6枚と5千円札が1枚。

 

…マジかよ。あっさり現金で払いやがった…

 

「ちょ、丁度お預かりします」

 

店員さんも引いちゃってるじゃん。

 

ていうか簡単にそんな大金出すってどんだけ今お金持ち歩いてんだよ…

 

UTXの生徒達は皆こうなのか?お金持ちは多いみたいだけど…

 

「こちらレシートになります」

 

「ありがとう。さ、冬夜君行くわよ」

 

ますます深まる謎に頭を悩ませていると、ツバサの声が耳に入る。

 

ふと目を向けるとそこには大量の買い物袋を持ったツバサ。

どうやら会計は終わったらしい。

 

「…ああ」

 

改めて実感する今の非現実さ。

 

デート(仮)をしている相手がトップスクールアイドルのリーダーでしかもあの様子を見る限りお嬢様。

 

只でさえμ'sの面々との出会いがあった今年なのにこんな偶然が重なったら近い将来隕石が俺に直撃しても文句は言えない。

 

「…持とうか?」

 

俺は自然と口にしていた。

 

傍から見れば男女二人が歩いていて女性は手荷物がいっぱいで男性が手ぶら。

 

立場逆だろと思う人が殆どだろう。

 

まぁ第三者がどう思おうが俺にはどうでも良いんだが、万が一その陰口を耳にすれば恐らくツバサが良い顔をしない。折角楽しんでいる様子だしその雰囲気を壊す僅かな可能性があれば潰しておいた方が良い。

 

ツバサは俺の言葉を聞くと柔らかな笑みを浮かべ、優しい声色で俺に言った。

 

 

 

 

 

 

「優しいのね。でも大丈夫よ、あなた非力そうだし」

 

良くご存知で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「じゃあ次はゲームセンターに行くわよ!」

 

服屋を出て少し歩き出したその時、テンションの高いツバサが張り切って言う。

 

服屋の次はゲームセンターか…

 

「そんなに買い物した後にゲームセンターって金は大丈夫なのか?」

 

素直な疑問をツバサにぶつける。

 

ちなみに俺が奢るという選択肢は無い。

 

「大丈夫よ。まだ20万くらいあるから」

 

「…ん?」

 

あっさり言い放つツバサの言葉に俺は思わず自分の耳を疑った。

 

今、なんて言った?

 

さすがに俺の聞き間違いだよな…

 

「…2万…か?」

 

「あら、聞こえなかった?20万よ」

 

聞き間違いじゃ無かった…

 

え、じゃあ何さっき6万5000円払ってもまだそんだけあるって事は30万ぐらい持ち歩いてたって事?

 

何それ怖っ!?え、現金30万を持ち歩いてる高校生なんて聞いた事ねぇよ!

 

「…それ、マジ?」

 

「ええ本当よ。何なら見ても良いわよ?この財布にちゃんと…」

「わぁぁぁぁ!!!財布を出すなバカ!」

 

何考えてるんだこいつ!?こんな人目の付く所で大金の入った財布を出すなんて…

 

「ば、バカって久し振りに言われたわね…それにしてもどうしたの急に大声なんて出して…財布を出したのがそんなにいけないの?」

 

「駄目に決まってるだろ!もっと危機感を持て危機感を!」

 

俺はそう言い周りを警戒する。

 

世の中どんな人間がいるか分かったもんじゃない。

もしツバサがそんな大金を持っている事が知られればその財布を奪おうとする輩が現れるかもしれない。

 

それは阻止しないと…

 

「…とりあえず場所を移そう…凄い視線を感じる…ツバサの財布が狙われているかもしれない」

 

「…いや、それは冬夜君が大声出したからだと思うけど…」

 

「次はゲームセンターだったな?ならこっちだ」

 

「聞いてないのね…」

 

いつの間にか立場は逆転。

 

気付けば今度は俺がツバサの手を引っ張る形でゲームセンターへと向かった。

 

形振り構っていられるか。こちとら大金背負ってるんだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…よし、不可解な視線は今の所無いな」

 

それから数分。

 

周りの警戒を解く事無く進んだ俺達は何事も無くゲームセンターに辿り着く事に成功した。

 

気分は敵のアジトに潜入したスパイである。

 

「…ねぇ、いつまでそれやってるつもりなの?」

 

ツバサが少し呆れた様子で言う。

 

いつまで…か。随分おかしな事を言うものだ。

 

「最後までに決まってるだろ。君の手にその大金がある限り、俺は警戒を緩めんぞ」

 

何せ今この場には20万があるんだ。

 

いつ誰がこの20万を狙って襲ってくるか分からない以上1秒たりとも油断出来ない。

 

俺はそう言うと、ツバサの表情が怒った様な表情に変わり口を開いた。

 

「もう!そんなのどうでも良いわよ!30万を持ち歩いてるのはいつもだし今まで襲われた事も無いし何の心配もいらないわ!折角のデートなのに冬夜君がそんな感じだったら私も楽しみ辛いじゃない!だからそれ今すぐ止めて。お金の事は大丈夫だから!」

 

「お…おお…」

 

ツバサの予想以上の剣幕に俺は思わず後退る。

 

まさかここまで怒るとは…でも大金を耳にしてちょっと正常じゃなかったかもしれないな…

 

…ん?ていうかいつも持ち歩いてるって?

 

「いつも持ち歩いてるって…」

 

「え?ああ、なんか自慢みたいになるからあまり言いたくないんだけど私の家結構裕福なの。今私は一人暮らししてるんだけど親がちょっと過保護でね…そんなにいらないって言ってるのに仕送り凄い送ってくるのよ。多いからって返したら怒るし…だからそんなに遣うつもりはないけれど常にそれだけ持ち歩いてるって訳。何が起きても良い様にね。…ていうかもうお金の話は良いじゃない!はいもう今後のお金の話は禁止ね?折角のデートなんだから」

 

「…いや、しかし…」

「良いわよね!!」

 

「…はい…」

 

…そんなに顔を近付けなくても良いだろ。

突然過ぎて驚いたじゃねぇか…

 

まぁ確かに折角のデートにお金の話ばかりしてたら楽しくないよな。

 

これに懲りてもうお金の話をしない様にしよう。なるべく大金の事も気にしない様にする。

 

ちゃんとデートに集中しないとな。

 

 

 

 

 

 

…あれ?もしかして俺もうこれがデートだって飲み込んでない?

 

違う違う!デート(仮)だから!(仮)!

 

「じゃあ早速あれからいくわよ!」

 

そう言いツバサが指を指した先を見ると、そこには某太鼓のリズムゲーム。

 

ダンスゲームじゃない事に驚きだがこれも人気で有名なゲームだ。

 

ツバサの気が済むまで付き合おう。

 

俺とツバサのデート(仮)はまだまだ続く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あー楽しかった!」

 

それから数時間。

 

気付けば外はすっかり夕暮れで時間も17時を過ぎていた。

 

ゲームセンターで遊び倒した他にも雑貨やペットショップ等様々なコーナーを回った。

 

全てツバサの先導で俺はただ付いていくだけ。でもその中でもツバサは俺を気に掛けて気さくに話し掛けてくる。

 

「これ可愛いわね。冬夜君はどう思う?」

「これ冬夜君に似合うと思うわよ」

 

…といった風に世間話だけで無く商品の感想を俺に求めてくる。

 

いつもなら鬱陶しく感じるのはずが楽しそうに話すツバサの表情を見ていたら不思議とそんな気分にはならなかった。

 

これもトップスクールアイドル綺羅ツバサの魅力の1つだろう。

 

最初は乗り気じゃ無かったデート(仮)も、気付けば【もうこんな時間か】と思ってしまうくらい変わってしまった。

 

無意識の内に俺は楽しんでいたんだ。ツバサとのデートを。

 

「まだバイトまで少し時間あるわよね?そこの公園でちょっと話していかない?」

 

ツバサが柔らかな笑みを浮かべながら俺に言う。

 

この後俺にはバイトがありデート(仮)ここで終了。

 

でも、ツバサからのお願いに俺は思わず頷いていた。

 

「じゃあ決まりね。そこのベンチに座りましょう」

 

人気の無い公園に少し小さめの二人掛けのベンチ。

 

若干距離が近い事を気にしつつも俺達は座った。

 

「今日はありがとね。私の我儘に付き合ってもらって」

 

ベンチに座るやいなやツバサが口を開く。

 

一体ツバサが何の目的で俺と話そうとしているかは分からないが少し付き合うくらいは良いだろう。

 

俺は直ぐ様疑問をぶつけた。

 

「それは良いんだけど、何で急にデートだったんだ?」

 

ツバサの急な思い付きであるデート。

 

俺の事が気になっている…といったふんわりとした理由は聞いているが、それだけでは無いような気がしている。気になっているという理由がフェイクの可能性もあるし。

 

まぁこれは単なる直感ではあるが。

 

「冬夜君と一緒にデートしてみたかったのは本当だよ。でももう一つ理由はあるけど」

 

…あ、それは本当だったんだ。

 

「その理由って何だ?」

 

「気分転換よ」

 

「気分転換?」

 

ツバサの返答に俺の頭に?マークが浮かぶ。

 

気分転換?それはきっとツバサの事だろう。という事は今回のデート(仮)はツバサの息抜きも兼ねているという事か。

 

「冬夜君、少しはリフレッシュ出来た?」

 

「リフレッシュ?」

 

突然のツバサからの質問に思わずまた聞き返してしまう。

 

リフレッシュ…どうゆう事だ?

これはツバサの息抜きでは無いのか?

 

「まぁ出来たけど…」

 

質問の意図が分からないまま答える俺。

 

すると、俺の言葉を聞いた次の瞬間ツバサが満面の笑みを浮かべると、嬉しそうに口を開いた。

 

「良かったー…それならデートした甲斐があったわね」

 

「…?…それどうゆう意味だ?」

 

「最初会った時の表情が少し暗かったからちょっと元気づけてあげたいって思ったのよ。それがもう一つの理由」

 

そうゆう事だったのか…

 

だから突然無計画にも関わらずデートを強行したんだな。

 

…って違う違う!食い付くのはそこじゃない!

 

「俺、暗い顔してた?」

 

「してたわよ、少しね」

 

マジか…俺が暗い表情をしていたのか?何に対してだ?

 

俺の中で未練なんて何もないはず…

 

…いや、まさか。

 

「この前会った時は一切の表情変化も見せなかったあなたが分かるくらい表情を暗くしてたからよっぽどの事があったんじゃないかって思ったのよ。余計なお世話だったらごめんなさいね」

 

少しだけ申し訳無さそうにツバサが言う。

 

相手に心を悟られない様にポーカーフェイスを俺はずっと意識してきた。

 

例え自分が傷付いたとしても、絶望したとしても、何が起きても表情を一切変えない事を。

 

だけどそれはいつの日か少しずつ崩れていった。

 

ーーーそう、μ'sと出会ったあの日から。

 

「そんな事無いよ。ありがとう」

 

何にせよツバサに非は無い。

俺の事を思って行動してくれたんだ。

 

ここは素直にお礼を言っておこう。

 

「それなら良かった」

 

笑みを浮かべなかまらツバサが言う。

 

ツバサは一体何処まで俺の心を見透かしているのだろうか。

 

俺が気付いていないところを含めた全てなのか…それは検討もつかない。

 

だが、ツバサに気付かれる程の表情の変化を見せたのはきっと事実だ。

 

その理由はもしかして…

 

 

 

 

 

 

【μ'sとの決別を後悔している】

 

 

 

 

 

 

「ねぇ、冬夜君?」

 

「…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「少しくらい貴方も言ったら?我儘」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…!…」

 

ツバサの言葉に思わず目を見開く。

 

「冬夜君と出会ってからまだ日は浅いし何も知らない。でも、冬夜君と過ごしてみて1つだけ気付いた事があるの」

 

「…気付いた事?」

 

「そう。最初こそは拒んでいたけど、結局はその後一切の文句も無く私の我儘に付き合ってくれた。最初に会った時もそう。最終的には私達の練習を最後まで見てくれた。これは半分勘もあるんだけど、冬夜君はあまりこれをやりたい、こうしようって我儘を言わない人なのかなって思ったの。だから、1つだけ聞かせて?」

 

 

 

 

 

 

 

 

「あなたは今まで、自分の為の我儘を誰かに言った事ある?」

 

 

 

 

 

 

 

「…」

 

ツバサからの問いに俺は言葉が出なかった。

 

我儘…それくらい言った事ある!

…そう言いたかったのに声が出ない。

 

我儘とは何だろうか。

 

自分の為の我儘とは何だろうか。

 

他人にスクールアイドルを勧めた時?μ'sを突き放した時?

 

…それは本当に自分の為の我儘なのか?

 

穂乃果みたいに周りを巻き込んでスクールアイドルを始めたり、留学する友達を当日に引き留める様な強引さは無い。

 

太陽の様に真っ直ぐで皆を引っ張っていく力も無い。

 

皆の我儘に付き合う事は何度もある。だけど…

 

俺は…我儘を言った事あっただろうか…

 

「冬夜君が何を抱えてるのかは分からないし、無理に知ろうともしない。冬夜君が抱えてる何かが、誰かに話す事で少しでも楽になるなら喜んで聞くけど」

 

「…ツバサ…」

 

あくまでも受け身で俺のペースで良い。

 

そう励ます様に言うツバサの言葉からは、ツバサなりの優しさを感じた。

 

…でも、その優しさに俺は甘える訳にはいかない。

 

「冬夜君の話したくなったタイミングで良いから。私が介入しないで解決するのも全然構わないわ。だから、もしどうしようも無い時は私に話してね」

 

それでもツバサは暖かい言葉を俺に掛け続ける。

 

まだ2回しか会っていない女の子にまさかここまで言われるなんて思ってもいなかった。

 

ましてや、ツバサの優しさに溺れても良いんじゃないかと思ってしまうくらいに心を動かされた事も。

 

だから俺は考える間も無くツバサに言ったんだ。

 

「うん。そうするよ」

 

優しさに触れて見せてしまった弱さ。

 

でも、ツバサのおかげで少しだけ…ほんの少しだけ心が晴れた様な気がした。

 

「ツバサ。ちょっと待ってて」

 

「…?…」

 

俺は徐に立ち上がるとツバサに声を掛ける。

 

ツバサは?マークを浮かべながら可愛らしく首を傾げていた。

 

「すぐ戻る」

 

俺は足早に公園を去ると、すぐそこにある自動販売機へと向かった。

 

「えーっと…俺はこれで良いや。ツバサは…」

 

ツバサとのデート(仮)が始まってから暫くして気付いた事がある。

 

こまめに俺に話の話題を持っていったり即席で次のプランを考えたりと常に俺の事を気に掛けていた。

 

それはもう飲み物なんて買う暇が無い程に。

 

つまりデート(仮)が始まってからツバサは飲み物を一口も飲んでいない。

 

俺は持参していた飲み物があったからこまめに摂っていたけど。

 

普段の俺なら絶対にやらない行動。でも今不思議とこうしなければ気が済まなかった。

 

俺の為に一生懸命行動してくれて少しでも俺の心を晴らしてくれたツバサに対してのせめてものお礼のつもりだ。

 

「…しまった…突発的な行動すぎて何が良いか聞くの忘れた…まぁスポーツドリンクで良いだろ」

 

俺は一瞬動きが止まるも、スポーツドリンクが嫌いな人なんていないだろうという謎の結論に達し躊躇い無く押した。

 

さすがに今から何の飲み物が良い?って聞くのは何かダサいしこれで良い事にしよう。

 

 

 

 

 

 

 

「はい、お待たせ」

 

俺は直ぐ様公園に戻ると、早速ツバサに飲み物を差し出した。

 

さすがにこれは予想していなかった様で、少し驚きながらツバサは飲み物を受け取った。

 

「ありがとう…これどうしたの?」

 

「どうしたのってそこの自動販売機で買ってきたんだよ。何?万引きでもしてきたと思ったか?」

 

失礼な。そんな犯罪犯す訳ないだろう。

 

確かにそうゆう事しそうな風貌はしてるけども。

 

「ち、違うわよ!どうして急に飲み物買ってきたのかなって思っただけよ」

 

「あぁそうゆう事」

 

何だ。万引きしたと思われた訳じゃ無いんだ。

 

「当たり前でしょ!?むしろ何で真っ先に万引きが浮かぶのよ!」

 

いやー、この風貌のせいで良く万引き犯に間違われたからな。

 

何せ俺は、

 

 

 

「ちょっと待ちなさい。あなた、レジ通してない商品あるわよね?」

 

「ありませんけど」

 

「…え?」

 

 

 

という風に万引きGメンを失敗させた男だからな。

 

こんな経験したのは世界中探しても俺だけな自信がある。

 

そもそも外見で判断する奴が万引きGメンやってる時点でやばいけど。

 

「一先ず何で買ってきたかだったな。ほら、ツバサずっと俺に話振ったり次の行き先考えたりで水分全然補給出来てなかっただろ?だから買ってきた」

 

「え?あ…言われてみれば確かに…」

 

俺の言葉にツバサが思い出した様に呟く。

 

デートの段取りによっぽど夢中だったみたいだな。

 

「にしてもよく気付いたわね」

 

「人間観察が趣味なんで」

 

「ふふ、あなたらしいわね」

 

ツバサは軽く微笑むとキャップを開けスポーツドリンクを口にする。

 

一人の少女がただ飲み物を飲んでいるだけ。

それだけなのにとても絵になる所を見ると、改めてA−RISEのリーダー綺羅ツバサの凄さが分かる。

 

味わうように喉を潤した後、ペットボトルを口から離すとツバサは満面の笑みを浮かべながら言った。

 

「ありがとう。とても美味しいわ」

 

「そりゃ良かった」

 

やはりスポーツドリンクは最強だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…おっと。もうこんな時間か。じゃあツバサ、俺バイトだから」

 

ふとスマホを見るとバイトが始まるまで後少し。

 

バイトの服は職場にあるので持ち物は手ぶらで良い。

 

ここからなら走れば充分間に合うな。

 

「うん。行ってらっしゃい」

 

柔らかな笑みを浮かべながら言うツバサ。

 

くそ、ちょっと恋人みたいな会話だなって思っちゃったじゃんか。

 

「ああ。今日はありがとう、楽しかったよ。じゃあまたな」

 

俺はそう言うとツバサに背を向け走りだそうとする。

 

すると、ツバサは直ぐ様口を開いた。

 

「あ、ちょっと待って!飲み物代だけ…」

「いらない」

 

財布を取り出そうとするツバサの声を遮りながら俺は言った。

 

ツバサは驚いた様な表情を浮かべながら手を止める。

 

「え…でも…」

 

「大した事じゃないけど、これぐらいはさせてくれ。それに…」

 

俺はここで一度言葉を止めると、少しだけ微笑みながらツバサに言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これ、デートなんだろ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それから俺はツバサと別れ、バイトへと走り出す。

 

あの天下のA−RISEのリーダーである綺羅ツバサとまさかのデート。

 

そしてツバサから掛けられた言葉。

 

頭の中をグルグルと駆け巡る我儘という言葉が一向に頭から離れない。

 

「少しくらい貴方も言ったら?我儘」

 

「あなたは今まで、自分の為の我儘を誰かに言った事ある?」

 

今までそんな事言われた事も無かった。

 

考えた事も無かった。

 

…俺なんかが我儘なんて言う資格なんて無い。そう思っているはずなのに、離れない胸のもやもやがとても心地悪い。

 

ツバサのその言葉を聞いてからずっと。

 

追い掛けてしまう我儘という問題。

 

俺は我儘を言いたいのか?だとしたらその我儘は何だ?

 

その答えは分からないし見つけられる気もしない。

 

だけどもし、その答えが見つかった時…

自分の心の整理がついた時…

そして何より、自分を少しでも許せる様になった時…

 

 

 

 

 

 

 

 

いつの日か俺も…

 

 

 

 

 

 

我儘を言える日が来るのだろうか?

 

 

 

 

 

 





一度はμ'sを切り離した冬夜。

しかし、完全にμ'sを忘れていた訳では無かった。

「…じゃあ音乃木坂に行ってくるから」

「…ああ」

ついに戻ってきた楠木坂での学校生活。

少しずつ離れていく太陽との距離。

ツバサからの言葉が駆け巡り、流れていく時の中で冬夜に芽生えた変化。

そして…

物語は加速していく。







〜次回ラブライブ〜

【第36話 おかえり、楠木坂高校】

お楽しみに。
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