まさかの3部作。
どうすんのこれ!?
…それでは、38話どうぞ。
俺達は自転車を走らせた。
町行く人達は猛スピードで走り抜ける俺達を驚いた様な表情で見てくるが気にしている暇は無い。
ただただ無我夢中で漕いでいた。
とにかくスピードを出す事に重きを置いてひたすら足を動かす。
ここまでスピードを出したのはいつぶりだろうか。
穂乃果を空港に送り届けた以来か?
そう考えるとあまり時間は経っていないな。
それ以前はこんなに自転車を飛ばした事は無いというのに。
「冬夜!次を右だ」
「OK」
太陽の道案内を耳にしながら自転車を走らせる。
不思議と疲れは感じない。切羽詰まってるからだろうか?
俺の体力ならこんなに漕いだらすぐヘトヘトになるというのにその兆候すら無い。
こういう状態をアドレナリンが出ていると言うのだろうな。
「よし、そこの路地に入ってくれ。場所はそこだ」
そんな事を考えていたら後ろから太陽の指示が飛ぶ。
どうやら目的地に着いたらしい。
「…ここなんだな?太陽」
「…あぁ。ここで俺はスマートフォンを拾った」
路地裏に入り自転車を停める。
俺達は降りると、太陽はスマートフォンが捨てられていた場所を確認し俺は辺りを見渡した。
(…見覚えあるな)
辺りを見渡し気付く。
ここはあの大雨の日、絵里と一緒に通った路地裏だ。
何故このルートを選択したのかは分からないが、ここを通り抜けてスクールアイドルショップに向かおうとしたのだろう。
「俺の勘ではここでμ'sが攫われたと告げてる」
「ふむ…まぁそう考えるしかないな」
太陽の声に俺はそう返す。
根拠も何も状態ではあるが、俺も太陽の勘は当たっていると思う。
というのも、今はそういった憶測を信じて進まなければいけない状態であると言えるからだ。
警察に連絡して待っているだけではきっと間に合わない。
「μ'sがここで攫われたとしてだ。一体何処に連れて行かれたか。それが一番の問題だ」
俺がそう言うと太陽は難しい顔をする。
きっと皆目見当も付かないのだろう。まぁスマートフォン以降の痕跡がなにも無いし土地勘もある訳では無いから仕方ないと言える。
ここから少し行った所に絵里と雨宿りした廃ビルがあるが、ここにスマートフォンが捨てられていた以上そんな近場に連れて行くとは思えない。
そもそも攫った目的は何なのか。
身代金狙いか。それとも強姦狙いか。
どちらにせよ家やホテルとかに連れ込まれてしまえば俺達では探すのは不可能に近くなる。
「…くっ…もう手詰まりなのかよ!!」
太陽が悔しそうに声を上げる。
一見すれば確かに詰みな状態。
だが、諦めるにはまだ早い。
「待て太陽。一応ヒントはある」
「…!…ほ、本当か!?」
勢い良く顔を上げる太陽。
俺は直ぐ様説明する。
「あぁ、俺もいろいろ考えた。μ'sが攫われたとしてその目的は何か。身代金目的か強姦目的か。家やホテルに連れて行かれたら探すのは厳しそうだなとかも思った。だが、すぐに連れて行く場所は限られている事に気付いた」
「…どういう事だ?」
「考えてもみろ。攫われたのはμ'sの9人。そう、【9人】なんだ。という事は当然人手も必要なはずで家に連れて行くにはスペース的に問題があるしホテルは人目に付きすぎる。つまり、μ's9人を運ぶ先は人目に付かず広い場所という制限があるんだ」
「…なるほど。確かに9人も運ぶとなったら選択肢は大分狭まる。当然連れ込む場所もって事か」
「あぁ。更に言えばμ'sを攫う目的として身代金狙いだとするなら別に9人も攫う必要は無い。だからその選択肢はすぐに消え残るは強姦狙いのみ。そうなれば例え車に乗せられたとしても長距離の移動ほぼ無理だろう」
「…何故だ?」
「犯人が耐えられないからだ。強姦する様な奴は性欲が強く我慢が出来ない。つまり、犯人の頭には常に早く犯したいという欲望があるはずだ。なら、きっと犯人は近場で人目に付かない場所を選ぶはず」
まぁこれもあくまでも憶測でしかない。
だが、μ'sは俺の目から見てもとんでもない美少女達の集まり。
そんな彼女達を目の前にして長時間我慢出来るとは思えなかった。
「ここから約30分程自転車で走らせた所に廃墟がある。確か使われなくなった学校だったはずだ。俺の勘ではそこにμ'sが運ばれたんじゃないかと思ってる」
「…!…じゃあそこに行こう!今すぐ!」
そう言いながら太陽は俺を急かす。
俺は太陽に落ち着く意味も込め答える。
「待て太陽。これだけは言っておくが、俺も別に土地勘が完璧では無い。だからここ以外に廃墟があったりよそに運び込まれているなら完全に手詰まり。だから、今から行く学校にいなければすぐ警察に連絡するでいいな?」
所詮は勘。外れてる事も大いにあり得るし、更に言えば攫われたという前提から間違っている可能性もある。
その時になってから焦るのでは遅い。その為今の内に心構えしておく必要がある。
…あまり考えたくはないが。
「…分かった」
太陽は俺の言葉に小さく返し荷台に乗る。
理解はしたが感情がまだ追い付いてないといった様子だな。まぁ気持ちは分かるが。
俺も直ぐ様自転車に乗ると、そのまま走り出す。
「一応聞いておくけど、道は分かるのか?冬夜」
「あぁ。バイト先の先輩から廃墟の存在を教えてもらってから一度気になって行った事がある。だから大丈夫だ」
あそこは特徴的で道も分かりやすい。
だから一回行っただけで覚えた。
後は、どれだけ早く着けるかの勝負だ。
(強姦目的の犯行だとすれば到着してすぐ行動に移すケースも充分考えられる…覚悟はしておいた方がいいかもな)
例え今から行く場所にμ'sが居たとしても、ここからそこまではどう頑張っても時間が掛かる。
最悪の場合、行った時には既に行為に及んでいる可能性もある訳だ。
そうなれば俺はともかく太陽が正気でいられるとは思えない。
(…まぁこんな事太陽には言えないな)
今言った所で余計な混乱を招くだけ。
これは俺の心の内に留めておくとしよう。
それから自転車を走らせる事約20分。
ついに俺達は目的地に到着した。
「…ここが…そうなのか?」
太陽がそう言いながら自転車から降りる。
目の前には目的地である廃墟の学校。
しかし、最近廃校になったのかその外観はあまり朽ちておらず言われなければ廃墟とは分からない程小綺麗であった。
だが、グラウンドの方に目を向ければ地面は凸凹で雑草も生えている為整備されていないのが分かる。
こういう所を見るとやはりこの学校はもう使われていないのだと実感出来た。
「…あぁ。俺の勘ではここにμ'sがいる」
俺は自転車から降りると、廃墟となった学校を見上げながら言う。
人気は正直無い。車も無い。
ここまで来ると当ては外れたかと不安になるが、それでも諦める事は出来ない。
「よし…行こうか」
「…あぁ」
俺の声に太陽は短く返答すると、校舎の中に足を踏み入れる。
中に入ると、多少の砂埃や砂利はあるもののまだ使えそうな程整ってはいた。
並んだ下駄箱。そしてそこを抜けると正面には階段がある。
俺達は万が一犯人達がいたことに備えて慎重に…そして速やかに移動する。
「手分けする。俺は右に行くから太陽は左を頼む」
「分かった」
階段の手前は左右に道が別れておりそれぞれ教室に繋がっている。
少しでも時間を節約する為二手に分かれて行動を開始した。
すぐに連絡が取れる様にスマートフォンを握り締めたまま。
「…こっちはハズレっぽいな」
1年生のだと思われる教室からトイレ。そして視聴覚室や何使われたのか分からない空き教室まで探すも人の姿は無し。
だが向こうは数が多い為もしいるならすぐに分かる。だから窓から覗くだけで良いのは楽だった。
これで大分時間は節約出来る。でもこっちはいないみたいだ。
「太陽から連絡は…無しか」
2階に上がったなら連絡があるはず。
だがそれが無いならまだ太陽は1階を見ていてかつ進捗が無いという事。
じゃあ先に2階に上がるとしよう。
そう思った俺は階段まで戻る。
そしてスマートフォンを開き太陽にメッセージを送ろうとしたその瞬間だった。
「…!…」
送られてくる太陽からのメッセージ。
そこに書かれていた内容に俺は目を見開く。
【発見した。場所は体育館で数はμ'sの皆を覗くと大学生くらいの男達が9人】
「…ビンゴ…」
思わず俺は小さく呟く。
どうやら勘は当たっていたらしい。
本当ならここでホッと一息つきたい所だがこれはあくまでもまだ第一段階。
一番最悪なケースを回避しただけで油断はまだ禁物だ。
俺は直ぐ様太陽にメッセージを送る。
【μ'sの状態は?】
【μ'sの意識はあるっぽいな。だが服は着てるからまだ行為には及んでいないと思う】
…ふむ。第二段階もクリア。
これでμ'sが既に襲われたという可能性は無くなった。
【そうか、分かった。こちらの存在には?】
【気付いてない。μ'sをどう犯すかで話し合ってる】
太陽と何回かやり取りをしながら体育館へと向かう俺。
道中、この学校内の地図が壁に掛かっていた為念の為写真に収める。
そして体育館前に到着した俺は、大きな引き戸を少しだけ開け中の様子を確認している太陽の姿を発見した。
引き戸に添えていない左手は太陽自身の力で強く握りしめられており、その手からは血がポタポタと垂れている。
腹立たしいだろう。本当は飛び出したくて仕方ないはずだ。
だがそんな自分を押し留めて俺の到着を待っている。
恐らく血が出ている事に気付いてないのだろう。そんな痛々しい太陽の姿からは怒り、悲しみ、悔しさが凄く伝わってくる。
良く我慢したな。太陽。
「太陽」
「…冬夜」
俺は太陽の隣に立つと直ぐ様声を掛ける。
太陽はチラリとこちらを見ると、短く俺の名前を呼んで再び体育館の中に視線を戻す。
冬夜も見ろという事だろう。
俺も太陽に習い、僅かに空いた隙間から中の様子を伺う。
中に確かに大学生くらいの派手な髪型をした9人の男達が何か喋っている。
微かに声は聞こえるが何を言っているかまでは鮮明に聞こえない。どうやらこの体育館は防音加工が施されているらしい。
廃校になった体育館に随分手厚い設備な事で。
「μ'sは…そこか」
体育館奥にあるステージの上。
μ'sはそこにいた。
全員ロープで縛られている様子で、表情までは分からないがこちらに気付いている様子は無い。
恐らくは男達の動向を見ているのだろう。
μ'sからしたら不安と恐怖で極限状態な訳で、辺りを気にする余裕などあるはずが無い。
…さて、ここからどう救出したものか。
場所は分かったが位置関係的に厳しい物がある。
向こうは9人に対しこちらは2人。
しかも俺に関しては武力はからっきしな為戦力にはならず、単純な殴り合いならば俺は殆ど無力である。
いくら太陽の腕っぷしが優れてるとはいえ多勢に無勢。さすがに9人まとめて相手は辛いはず。
本当なら不意打ちを仕掛けたい所だが奴らは体育館の中央にいる為それは不可能。
あいつらにバレる事なく攻撃するのは無理だ。
そしてそうなれば更に大きな問題点が一つ出てくる。
それは…
「…もう我慢出来ない。冬夜、突撃するぞ」
とここまで考えた所で太陽から声が上がる。
さすがに限界か…
だが、まだ突入する訳にはいかない。
俺は直ぐ様声を掛ける。
「待て。見た感じまだ行為に及ぶ事は無さそうだ。誰も来ないと高を括ってるのかこの状況を楽しんでるらしい。だからもう少し機会を伺う」
「…!…これ以上待てってのか?ふざけるな!皆が可哀想だろ!」
「バカ、声がデカい!」
慌てて男達の方を見る俺。
バレたかと不安になったが、どうやらあいつら話し合いに夢中で気付いていない様子だった。
「…気付かれてはいないようだな…ふぅ…無闇に声を荒げるな。見つかったらどうする」
「…くっ…すまん…だけど、これ以上は本当に見てられないんだ。冬夜は平気なのかよ!皆を…あんな恐怖に晒したままで!」
今度は気付かれない様に声を荒げながらもボリュームに気を付けて喋る太陽。
俺はそんな太陽の問いに、思考回路がピタリと止まった。
「…は?」
思わず口から出たのは、自分でもびっくりするくらい底冷えする声だった。
平気?
何の罪も無い、輝かしい未来に向かって努力して突き進んでるあいつらが理不尽な恐怖に晒されて平気だと?
俺が、この状況に何にも思ってないと?
…ふざけるなよ。
ふざけるなふざけるなふざけるなふざけるなふざけるな…
声を掛けられた時大勢の男達に囲まれた時攫われる時車に乗せられた時ここに連れてこられた時自分が縛られて身動きが取れない事に気付いた時目の前で自分をどう犯すか楽しそうに話し合いされてる時実際に犯される自分を想像した時助けが来る望みが薄いと気付いた時いつ襲われるか分からない恐怖の時間をただただ過ごすしかない時…
あいつらはどれだけの恐怖心を抱いた?
これから訪れるであろう惨劇に、どれだけ絶望した?
重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…重なる…
【チッ、今度の女はハズレだな】
【あーあ、あの女も飽きちまったな】
【泣き喚いて許して下さいって懇願してくるんだよ!誘ってんのかな?】
【何かあいつ子供身籠ったらしいわ。だから堕ろさせた】
【殺すぞって脅すだけで股開くんだぜ?チョロすぎだろw】
【なぁ、お前もそう思うだろ?
「…平気な訳…無いだろ…」
「…っ…」
前髪から僅かに覗いた冷ややかな目が太陽を突き刺す。
それは、さながら人を殺めそうな程威圧感のある眼差し。
それを間近で見た太陽は思わず両肩がビクリと跳ねる。
「…と、冬夜…お前…」
「…あぁ…思い出す…あのクソ共を見てると…あのクズを思い出す…」
「…」
「なぁ太陽…キレてるのはお前だけじゃないんだよ」
太陽の両肩を掴む。
自然と、手に…指に力が入る。
「飛び出して。暴れて。それだけで解決するならとっくにやってる。だけどさ、人数差ってのがあるんだよ。お前がどれだけ強くても、人数差には抗えない」
更に続ける。
「仮に人数差をひっくり返せたとしよう。そしたらピンチだと気付いたあいつらはμ'sを人質に取るぞ?間違いなく」
「…っ…」
「そうなったら俺達は為す術なしだ。どうせ刃物の一つぐらい持ってるだろうし、例え人を殺した事が無い人間でも追い詰められたら切りつけるぐらいするだろ」
「…くっ…」
「いいか太陽。μ'sを助けたい気持ちは一緒だ。あのクソ共に腹を立ててるのは俺だって同じだ。だから、無闇に後先考えずに動くな。タイミングを見極めろ。冷静になれ。あいつらを救いたければな」
俺はそれだけ言うと太陽から離れる。
そして俺はスマートフォンを開き、先程撮った学校内の地図を開くと体育館に背を向け歩き出す。
「と、冬夜…どこに…」
「太陽は今すぐ警察に連絡しろ。俺はステージ側にも出入り口がある事を地図で把握したからそっちに回る」
「…!…そんなのいつの間に…」
「そんなの説明してる暇は無い。とりあえず太陽は警察に連絡したらμ'sが襲われそうになった時以外で俺の指示無く飛び出すな。俺達は警察が来るまでの時間を稼ぐんだ。分かったな?」
振り向かずに太陽に告げ、返答を待たずにその場を後にする。
あそこまで言えば太陽も無謀な行動は起こさないだろう。
きっと俺の言った事を守ってくれるに違いない。
「…ふぅ…」
俺は太陽から見えない位置まで移動すると、一度深呼吸を挟む。
…危なかった。
少しの間我を失っていた。
俺としたことが、太陽の言葉一つで冷静さを欠いたらしい。
「…俺もまだまだだな」
幸いすぐに我に戻れたから良かったが、取り返しの付かない事になり得た。
闇よりも深く暗い俺の黒歴史であり人生最大の汚点。
死ぬまで抱えて生きていく。そう思っていたのに…覚悟していたのに一度その一部を鮮明に思い出せばこのザマだ。
本当に…俺は弱い。
「落ち着け…落ち着け俺…μ'sを救う事…時間を稼ぐ事だけに集中しろ…」
自分を落ち着かせる。
何度も深呼吸を繰り返し、さっきまで溢れそうになっていた負の感情を無理矢理押し留める。
やがて徐々に心は落ち着いていき、視界がクリアになってきた。
時間にしておよそ3分。これ以上は時間の無駄だ。
「…よし。行ける。冷静さを欠くな。目的を見失うな。全ては…全部終わった後に」
俺はそう自分に言い聞かすと、再び歩き出す。
足取りは思ったよりもしっかりしている。自己暗示が効いた様だ。
「何があっても、あいつらを救う。俺がどうなったとしても」
理由はどうあれ俺は理不尽にあいつらを傷付けた。差し伸べられた手を身勝手な理由で振り払った。いくら自分では間違って無い選択だと思っても、事実としてμ'sの好意を踏み躙ったには変わりない。到底許される事では無いだろう。
そう思うとやはり、俺にはあのクズの血が流れているのだと再認識出来る。そんな自分が殺したい程憎い。
酷い後悔と自己嫌悪。そんな日々を過ごす中で訪れた今。
これはもしかしたら、神様がくれたμ'sへの贖罪の機会なのかもしれない。
相手が何人いても、何を持っていても関係ない。
勝つ必要は無いんだ。警察が来るまでただ耐えていればいいだけ。
そんなの慣れてるだろう?
海未やことりを不良から救った時も、にこの妹達を庇った時も、そして…あのクズが
それが例え…
「…命を落とす事になったとしても」
いいじゃないか。
誰かを守って死ねるなら。それで。
「…なんだ。簡単じゃん」
不思議と、気分が晴れた。
今まで何度か自分の命を終わらせようとした。でもその度にどうしても後一歩の所で踏み出せなかった。
俺はこれをただ自分で死ぬ事が出来ないビビリでどうしようもない臆病者だけだと思っていたけど、そうじゃなかった。
きっと、自分の命の使い道がある事を心の奥底で信じていたんだ。
だから本能的に止めた。
都合が良い?自分勝手?良い様に捉えすぎ?なんとでも言うといい。
現実として、自分の命を散らすのに相応しい場所が現れたんだ。だからきっとこの考えは間違いでは無い。
向かう。決戦の地へと。
薄い笑みを浮かべた俺の足取りは…
今までで一番軽やかだった。
「…冬夜…」
冬夜の姿が見えなくなる。
俺は無意識の内に呟いていた。
「…久しぶりに見たな…冬夜のあんな表情…」
一見冷静でありながらもその目は人を殺めるのではないかと錯覚する程鋭く、その雰囲気は殺意すら纏っていた。
普段の冬夜とは違う。さっきまで頭に血が登っていたはずなのに、あの態度と言葉で瞬時にクリアになった。
飄々としていて何事に対しても動じない表の顔。でもその奥底には黒く歪み、闇に包まれた人格…謂わば裏の顔が眠っている。
深刻…その言葉さえ軽く感じる程重い過去。
長年一緒にいる俺でさえその全てを知らない。
激しい憤りや絶望感を感じた時にふいに現れるその人格は、まるで自分の過去、トラウマを無理矢理抑え込む様に出ている様に感じる。
俺もあの状態の冬夜を見た事は数える程しかない。片手で容易に足りる程に。
「…ふぅ…」
一息つく。
心を落ち着かせる為に目を閉じ深呼吸を1回挟むと、再び体育館の様子を伺う為に引き戸に手を掛ける。
冬夜の事も気になるが今はμ'sの事だ。
確かに冬夜の言うとおり、下手に飛び出せばよりμ'sを危険晒す可能性がある。
それを伝え周りが見えなかった俺に喝を入れてくれたのは感謝しかない。
中の様子を確認する。どうやらまだ状況は変わっていない様だ。
「…まずは警察に連絡だったな」
まだ動きが無い事を確認した俺はスマートフォンを取り出し冬夜の言い付け通り警察に連絡しようとする。
そして、気付く。
「…つっ…あれ…いつの間に血が…」
右手からポタポタと垂れている血。どうやら拳を握り締めすぎて爪が食い込んだらしい。
そんな事にも気付かないとなると、俺もよっぽど切羽詰まっていたんだな。
他の事が考えられないくらいに。
「…ってそんな事どうでもいいか」
俺はポケットからハンカチを取り出すと血を乱雑に拭きとった。
傷は深くなかった様ですぐに止まる。少しヒリヒリするが問題ない。
「すぐに来てくれるといいが…」
警察へと連絡をする。
すると警察はすぐに出、事情を説明する。
最初は信じてもらえるか不安であったが、他にも同様に被害にあった事件があり丁度捜査を行っていたという事で驚くほどスムーズに進んだ。
すぐに来てくれるみたいで、思いの外時間稼ぎは短く済みそうでホッとした。
俺は冬夜にメッセージを送ると、スマートフォンを仕舞い再び監視を開始する。
冬夜は襲われそうになったら突入していいと言っていた。
だから男達の一挙手一投足。決して見逃しがないように見ていなければならない。
まだあいつらは話し合いに夢中みたいだ。このまま警察が来るまで続けてくれるとありがたい。
そう思いながらジーッと見つめていたその時、男の一人がついに動き出す。
どう犯すか決まったのか、それとも我慢の限界が来たのか。
分からないがその足取りは軽やかであり、ステージに近付いていく。
もう飛び出すしか無い。
そう思ったその時、スマートフォンが震える。
「…!…」
直ぐ様ポケットから取り出す俺。そこには冬夜からのメッセージが来ており、そこには簡潔にこう記されていた。
【準備完了。作戦開始】
俺はそのメッセージを見た瞬間、勢い良く引き戸を解き放った。
驚く男達。
全員こちらに顔を向け、先程まで楽しそうだった空気感は一瞬で変わる。
ゆっくりと歩み寄る。
一歩ずつ。一歩ずつ。何も喋る事無く。
「た、太陽君…」
声が聞こえる。
ふとステージ上に目をやると、そこにはμ'sの全員がいて一人一人の顔を確認する事が出来た。
ことり、花陽、凛は涙を流し震え、海未、真姫、絵里、にこは酷く怯えている。
いつもは飄々としている希でさえ恐怖で表情は歪み、口を開いたであろう穂乃果も、微かに希望が灯った表情を浮かべるがそこには涙の跡がしっかりと確認出来た。
辛かっただろう。
怖かっただろう。
何も出来ず悔しかっただろう。
でも、もう大丈夫。
これ以上、μ'sには手出しはさせない。
「おいクソ共。覚悟出来てるんだろうな」
骨を鳴らしながら近付く俺。
対する相手は、俺一人だと分かりニヤニヤしながらこちらに近付いてくる。
「お前誰だよ」
「こいつ確かあれだよ。μ'sのコーチとかしてるって奴」
「まさかこいつ一人で来たのか?」
「この数を一人でどうにかなるとでも?」
「もしかしてヒーロー気取りか?」
相手は9人。それに対し今この場にいるのは俺一人。
普通に考えれば無謀。
どうしようも無い状態。
だが、不思議と俺は負ける気がしなかった。
「一人で助けに来るとかバカなん?」
「よし決めた。こいつの前であいつら犯してやる」
「お、それいいね!」
「見せ付けてやろうぜ」
俺達の勝利条件は警察が来るまで時間稼ぎをする事。
そう。別にあいつらに勝つ必要は無い。
「返してもらうぞ」
拳を構える。
両足に力を入れる
さぁいよいよ【μ's救出大作戦】も佳境だ。
この悪夢を終わらせるぞ。冬夜。
あー…雑になっちゃったなー
それでいて無理矢理。
太陽視点の所がちょい適当かも。
ご都合主義ばんざーい!