異世界ウェスタン ~Man With Gray Eyes~   作:せるじお

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第19話 ドーズ・ダーティ・ドッグス

 

 

 

『……』

 

 獄吏が黙って右手を差し出してくるので、私は溜息とともに銀貨を一枚、掌の上へと置く。髭面の獄吏は左手を小さく動かすと、その掌の中身を私へと握らせる。それから顎をしゃくって奥へと進むように促してきた。手の中に入れられた鍵を軽くお手玉にしながら階段を下れば、アラマが後ろからいそいそと付き従う。

 階段はせいぜい十段程度で、下りた先には半地下の空間が広がっていた。

 床は土間になっていて、地下だけにやや湿った黒い土に覆われている。壁は白い日干し煉瓦造りで、例の輝く石のランプに照らされて、少しばかり輝いて見えた。

 鉄格子が二つ並び、それぞれ向こう側に囚人の姿が見える。そしてそのどちらもが、私には実に見覚えのある人物であった。

 

「よぉ」

『遅かったな。待ちくたびれたぞ』

 

 呑気に手を振る二人の姿に、呆れて言葉も出てこない。

 

「何をやってんだ、オマエらは」

 

 私はもう一度溜息を深くつくと、ただその一言をかろうじて口にした。背後ではアラマが、彼女には珍しく何を喋って良いのか解らず、どぎまぎと混乱しているのが気配で解る。そりゃそうだろう、一騎当千の隻眼女剣士ともう一人のまれびとが仲良く並んで檻の中に入っている様に、何と声をかけるべきかなど、博識の彼女とて知るはずもない。

 

「今開ける。ちょっと待て」

 

 獄吏から受け取った鍵を鉄格子の錠前へと差し込む。余り手入れをしていないのか若干ぎしぎしと嫌な音が鳴ったが、それ以外は問題もなく檻は開いた。

 イーディス、キッドと続けて外に出て、揃って軽く伸びをした。私はダスターコートの懐から革袋仕立ての財布を二つばかり取り出し、お二人さんへと投げて渡す。

 

『よく取り返したな。ズグダ人は強欲で悪賢い。酒場の親父はすっとぼけたろうに』

「そうでもない。天井に一発ぶっ放したら、実に協力的になってくれた。他の持ち物も全部返してくれたぜ」

 

 イーディスが中身を確かめながら不思議そうに問うのに、私はこともなげに答えた。

 金か鉛か。だいたいはそのどちらかで交渉事は片がつく。

 

「おい。俺のはあからさまに中身が減ってるぞ」

「お前さんとイーディスのぶんの保釈金だよ。あれだけしでかしておいて、一晩で外に出れるんだ。値は張るのは当然だろ」

 

 文句垂れるキッドに私が毅然と言い放てば、やっこさん、眉根を寄せながらも意外と大人しく財布を上着の内側にしまった。アウトローらしく銭金のこととなれば暴れるかと思ったが、そうでもなくて少しだけホッとする。イーディスのぶんもコイツの財布から抜いたのだが、そもそもキッドの都合でイーディスは牢に入った訳だから、やっこさんも渋々納得といった格好だった。

 

 ――さて、いったい全体なんでこんなことになったのか。

 

 今朝から始まった唐突な展開には私も目を回し、軽く頭痛すら覚えるぐらいだが、要するに昨日の乱闘以上のことをしでかしたキッドと、一緒になって楽しく暴れたイーディスの尻拭いをしているというわけだ。

 私達二人と別れたあと、キッドとイーディスは別の店で仕切り直しをして、カード賭博に勤しんでいたらしい。キッドも少しは自重をして、イカサマの頻度も下げて適度に稼ぐつもりだったのだが、同席した相手が地元の与太者の中でも特に喧嘩っ早い手合だったのが運の尽き、余所者新顔が調子に乗るなと突如激高し、キッドに食って掛かって返り討ちを食らったわけだ。だがヤクザものってやつは同類でつるむと相場が決まっている。あれよあれよと大乱闘に発展し、気づけばイーディスもそこに加わっての大喧嘩、その勢いは賭場の酒場がぶっ壊れるほどの激しいものだったとか。

 当然、警吏がやってきて一番大暴れしていたキッドとイーディスをしょっぴくという流れになる。自分たちはチャカルのいち員だぞと抗議の声をあげても、ならばむしろタチが悪いといよいよもって警吏達は力強く二人を連行し、即牢屋へとぶち込んだ訳だ。

 獄吏の使いがチャカルの兵営に来たのは今朝のことだった。事情を聞いた私は頭痛とアラマを伴ってまず連中が暴れ倒した酒場に向かい、二人の荷物と財布をちょろまかそうとした店主を「説得」してそれらを回収、獄吏に銀の鼻薬を嗅がせて今に至る、と。まぁそんな所だ。

 

「アラマ」

『はいです』

 

 促せば、大事そうに抱えていたイーディスのカタナを、隻眼の女剣士へと差し出す。

 同時に私は、肩に負っていたガンベルトを二条、キッドへと黙って突き出した。

 

「……」

「……」

 

 ガンマンならば当然、自分の得物を他人に触られるのを嫌う。いや、ガンマンに限らず、自分の命を預けるものを人様にべたべた触られるのを好む者がいるものか。ましてや相手が同類の玄人であるとあらば、そこにはある種の緊張感が漂うのを避け得ない。

 ――私とキッドは真っ向見つめ合う。

 互いに言葉もなく、互いに表情もない。気持ちの悪い、息の詰まる空気だけを互いの間に漂わせながら、無言で相手の瞳を覗き合う。

 

「……」

「……」

 

 結局、キッドは自分の方へと突き出された腕にかかった、二条のガンベルトを静かに受け取った。

 一方は腰にピッタリと、もう一方はやや左斜めに吊り下がる格好で巻きつける。

 

「その左」

 

 キッドが例の逆さに吊るした右のコルトを抜き挿ししている様を見ながら、私は気になっていたことを敢えて訊いた。手を止めて私のほうを見る青い瞳はガラス玉のように澄んでいて、その裏側の感情を窺わせない。

 

「随分と、面白い銃を吊ってるんだな」

 

 アフラシヤブの丘で蝗人どもに囲まれた時ですら、キッドはその左に吊った拳銃を抜く様を見せなかった。やや古びた鈍い銀色を放つニッケルメッキのリボルバーの、その銃把の形には見覚えがあって、何か記憶に引っかかるものがあったのだ。獄吏から押収したガンベルトを取り返した時に、私はようやくその正体を知る機会を得たわけだ。

 

「まぁね」

 

 キッドは相変わらずに無感動に返事をした。ガンベルトを預かった相手が同業者であった以上、中身を探られる程度は承知済みといった調子だ。

 

「だがどこでそんなものを手に入れたんだ? 特にお前さんみたいな若い北部男(ヤンキー)が」

 

 私にはそれが心底疑問だった。なにせキッドの野郎が下げていたのは、若いガンマンには余りにも不釣り合いな代物だったからだ。

 

 ――レ・マット・リボルバー。

 それがキッドが左側に吊るしていたリボルバーの正体だ。

 フランス製のこの奇妙な拳銃は、「前の戦争」の時に我らがアメリカ連合軍が採用した拳銃で、数こそ多くはないがその独特の形状な機能故によく目立っていた代物だった。キッドのものと同じニッケル鍍金仕様のものは、あの南部随一の騎兵将軍ジェブ=ステュアートも愛用していたという話を聞いた記憶がある。

 キャップ&ボール式。42口径の9連発な時点で変わっているが、特に奇妙なのはシリンダーの中を通る軸自体が銃身となっていて、そこに63口径の散弾を込めることができる。撃鉄が可動式になっていて、撃針の位置を変えることで撃ち分けるという仕組みだ。

 

 ……だが真に不可思議なのは、この銃のことじゃない。この銃を、キッドが腰にぶら下げていたという事実だ。ただでさえ出回っていた数も少ない、しかも南軍の銃を、なぜこの「北部」の男がわざわざ吊るしていたかということなのだ。

 

「……親父は前の戦争に従軍した。そこで殺した南部野郎(ディクシー)から戦利品として剥ぎ取った。そしてそれを俺が下げている」

 

 私が視線で促せば、答えは予想に反してすぐに、いともあっさりと返ってきた。

 その内容に、私が何の反応も見せないのを訝しんだか、キッドは敢えて挑発的に訊き返す。

 

「ソイツを俺に向けたくなったかい? 今の話を聞いて」

 

 私のコルト・ネービーに視線を落としながらの問に、私も無感動に返事した。

 

「……いや。戦争は終わったんだ。そうだろう?」

 

 そう、終わってしまったのだ。それが問題だ。

 だからこそ私は今日も寄る辺もなく、行先も知らず、果ては異界を彷徨っている。

 

「ああ、そうだな。戦争は終わった。確かに終わった」

 

 前の戦争の時はまだ赤子か小僧っ子だったろうに、キッドは何故か感慨深いと何度も肯いている。私が胡乱な視線を向ければ、はぐらかすようにキッドは気障ったらしく表情を作って呟いた。

 

「“To be , or not to be , that is the question.”」

「……あ?」

 

 言っている意味が解らなくて、私が唖然としていると、むしろキッドのほうが少し驚いた顔を見せる。

 

「ハムレットだ。知ってるだろ?」

「?」

「シェークスピアだよ! わかるだろ! それぐらい!」

 

 なおも私が怪訝な顔をしていると、キッドは語気を強めて言うが、いや知らないものは知らないのでどうしようもない。

 

「……ええいもう野蛮人!」

『どこへ行く?』

「口直しに芝居でも見る! ……できればエスコートを願いたいもんだがね!」

 

 何やら急に様子がおかしくなったキッドは、そのままイーディスを伴って監獄からどたどたと出ていった。

 取り残され、呆然としている私に、やはり傍から見ていて訳が解らなかったらしいアラマが問う。

 

『シェークスピアってどなたなんですか?』

 

 私は次のように答えるのが精一杯だった。

 

「さあ? 海の向こうのガンマンなんじゃねぇの」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『光明の神、不敗の太陽、偉大なるミスラの徒の集いがあります。まれびと殿も、ぜひいかがですか?』

 

 何やら唐突にアラマに誘われた。

 今日も今日とて行くアテもなく、キッドのお陰で妙な気分になっていた私は、深く考えることもなく頷いた。

 

『やりましたのです! やりましたのです! ついにまれびと殿を我らが神の社にお誘い申し上げたのです! やりましたです不敗の太陽!』

 

 舞い上がるアラマをあやして彼女の先導に従う。

 「こちら側」に呼び出されてから既に幾日も経つが、いまだに私が呼び出された理由(わけ)、すなわち戦うべき相手が現れない。今か今かと多少は緊張感を持って待ち構えてはいたのだが、こうも待たされると流石にくたびれてくる。アラマとの物見遊山は、実に良い気晴らしになっていた。何より、彼女は一緒にいて楽しいタイプの乙女だ。物をよく知っているし、実際色々と頼りにもしている。

 

『光の君! 真実の神! 死から救うもの! 浄福を与えるもの! 広い牧場の君!ナバルゼ! アニケトス! インスペラビリス! インヴィクトゥス! そして牡牛を屠るもの、ミスラよ! 偉大なる君の御印に感謝いたします! 私めを「まれびと」と相見えさせまし給いたることを!』

 

 ――まぁ、些か暴走気味な所があるのはご愛嬌だが。

 興奮気味のアラマに引っ張られるようにして私が辿り着いたのは、外から見れば何の変哲もない民家以外の何物でもない、マラカンドではありふれた日干し煉瓦作りの建物の前だった。

 

『大ガラスが参りました』

 

 扉の前でアラマが大声で呼びかければ、即座に扉は開いてアラマと同じ赤い先折れ帽子を目深に被った。髭面の男が顔を出す。まずアラマを、次いで私を見て、何を言うでもなく黙って奥へと引っ込んだ。扉は開け放たれたままだ。

 

『まれびと殿のことは既に伝えてありますのです。さぁ、共に中へ』

 

 彼女の信じる神の、その象徴のように朗らかに微笑むアラマに促され、私は奥の見えぬ扉の向こうに足を踏み入れる。暗い廊下を若干歩けば、すぐに大きな広間へと出た。外からは想像がつかないぐらいに、大きな部屋だった。ちょうどダンスホールに使えそうな程度の大きさだ。家具などは何もなく、明りとりの窓すらない。ただ部屋の中央部では大きな篝火が燃え、その煙は天井に黒々と開いた穴へと吸い込まれていた。

 

『……些かお久しぶりですね、まれびと殿』

 

 その炎に照らされて、陰から姿を現したのは栗色の髪に豊かな肢体、そして灰色に濁った双眸を持った美貌の女だ。

 

「フラーヤ……だったか」

『再びお目にかかれて光栄です、太陽の使い』

 

 アラマが不思議な二つ名で呼びのを聞いて、フラーヤがアラマと同じ神を奉じる信徒であったかと今更に思い出す。相変わらず盲(めしい)ているのもかかわらず、あたかもまるで見えているかのような自然さで、彼女は私達のほうへと歩み寄ってきた。

 

『暫くですね大カラス。しかし二度相まみえて、そのどちらもで「まれびと」を伴うとは、大鴉の名にふさわしくまたとない僥倖です』

『はい、確かにまたとない僥倖です』

『またとなき』

『またとなけめ』

 

 ……何やら信徒同士でしか通じない世界へと入ってしまった二人から視線を外し、私は広間のなかを改めて見渡した。

 アラマと同じく赤い先折れ帽子を被った老若男女が胡座かいて座り、中央の篝火を静かに見つめている。

 部屋の最奥、篝火の向こうに鎮座するのは牡牛の首を刃で掻っ切る最中の、信者と同じ帽子にマントを纏った雄々しき神のレリーフだ。どうも、あれがミスラであるらしい。何気に、その姿を具体的な形で見るのは今日が初めてであった。

 

『――さて、談笑が過ぎました。大カラスのアラマ、まれびとを伴って片隅へ』

『はいなのです』

 

 ミスラの神像をぼんやりと眺めていた私の意識が現実へと連れ戻されたのは、アラマが私の手を引いて部屋の隅、陰になっている場所へと向かったからだ。そこで彼女が地面に座り込んだので、私もそれにならってどっかりと座り込む。

 

『いざ立ち上がれ、血を受けて豊富なれ。空の如く、海の如く無尽なれ――』

 

 フラーヤが祈りの言葉らしきものを歌うように唱えれば、信徒たちは一斉にそれに続く。

 傍らのアラマも、続く。しかしその声は他の信者と違って、フラーヤ同様歌うようで耳に心地よい。

 

『無尽なれ、無尽なれ。うず高く積もり、地に満ちよ。溢れに溢れ、龜よ爆ぜよ――』

 

 フラーヤの傍らに信徒の一人が、何やら大きな杯を持って現れた。

 それを受け取りフラーヤが中身を篝火に注げば、燃える油に水を注いだように、じゅうじゅうと音を立てながら四方へと散る。宙を舞う赤い雫は、地に落ちる中でその姿を金色に変じている様が見えた。跳ねに跳ねて足元までそんな金色の何かが転がってきたので手にとって見る。小麦だった。見事に実った、黄金に輝く小麦だった。床に散らばったそれらを、信徒たちは集めて回っている。私は手近な一人に、拾った小麦の粒を手渡した。

 集められた小麦の粒は鉄製と思しき大鍋に入れられ、篝火にくべられた。加えて鍋へと注がれた乳らしきものによって小麦の粒は煮られ、オートミールに似た咆哮が私の鼻をくすぐった。

 フラーヤが小さな木椀に煮られた麦を注ぎ、信徒一人ひとりに配って行く。私にも差し出されたが、それは丁重にお断りした。これを食すべきはミスラを信じる者であって、私ではない。するとアラマまでもが私に合わせて食べるのを断ったのには閉口した。お前さんは立派なミスラの徒だから私に合わせる必要などないのだと言っても、頑として首を縦には振らなかった。全く、頑固な娘である。

 

『私も、あの麦を食べて育ちました』

 

 十歳ほどの少女が、ふぅふぅと息吹きかけて椀を冷ましている様を、何とはなしに眺めていたら、アラマが呟くように話し始めた。

 

『父もなく、母もなく、身よりもない私が今日まで生きられたのは、ひとえに大いなるミスラの麦のお陰なのです』

 

 アラマの金色の瞳は、今を見てはいなかった。彼女の眼は、遠いアラマ自身の過去へと向けられていた。口には一言も出してはいないが、その声に篭った感情の唸りは、私にも聞き取ることができた。語ることもおぞましい何かが、恐らくはアラマの過去にあったのだろう。そしてそこから彼女を掬い上げたのが、あの牡牛を屠る神であったわけだ。

 

『私は、私はただ、偉大なるミスラとは、そういう神であらせられるということをですね……それだけはまれびと殿に知っていただきたかったのです』

 

 アラマが彼女には珍しくたどたどしく告げる時、その横顔は妙に美しく私には見えた。

 

『……まれびと殿は、いかなる神の徒であらせられるのですか?』

 

 そんな彼女を見つめる私に、ふと飛び出してきた問は、信ずる神があることを前提としたものであった。

 当然だ。「こちらがわ」では奇跡は確かに実在し、神のその息吹を肌で感じることもできる。

 私は何と答えたものか言葉に詰まった。あの戦争が終わり、故郷が失われた時から、神が南部を見放した時から、私の方も神を見限ったのだ。信じるに足るのは、己と、己の命を預ける銃だけ。そう思って生きてきた。

 

「……あの、ミスラの神の横にいるのはなんなんだ?」

 

 答えに窮した私は、唐突に訊いて己への問を誤魔化した。

 私が言っているのは、ミスラのレリーフの隣に、小さく彫られたもう一つの神の像についてのことだった。獅子頭人身、体躯に巻き付く蛇に一対の翼、携えられた錫杖という異形の姿をした、その神の姿を見るや、アラマは自身の発した問いかけを忘れて、嫌悪を込めてその名を呼んだ。

 

『あれこそが闇の、邪悪なるものアリマニウス。敢えてその姿を刻むのは、かつての闇を忘れぬためです』

 

 かつて世界を滅ぼしかけたというその邪神の姿が、私の記憶に妙に残ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ミスラの信徒の会合が終わり、その集会所からアラマと出てきたところで、エーラーン人の警吏と出くわした。

 ナルセー王の支払う禄を食む小役人達はマラカンドの街の至る所にいるが、今私達の前に現れたこの男は、どうやら私達を探していたらしかった。

 

『まれびとの戦士よ』

 

 警吏は、懐から巻物を取り出して、その中身を読み上げた。

 

『ロスタムが裔、エーラーン人ならびに非エーラーン人が王バフラムを父とし、マラカンドならびにレギスタンを治める者、王ナルセーの名において告る。至急、アフラシヤブの丘に来られたし。もうひとりのまれびと、チャカル戦士イーディス=ラグナルソンもまた伴って、至急来られたし』

 

 唐突な、ナルセー王からの呼出状。

 読み上げられたそれを聞いた時、私の体を奇妙な予感が走った。

 「何か」を待たされるのは、いよいよ終わりらしい。ようやく事態が、動き始めたらしいな、と。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『では早速、かのエーラーン人についた忌まわしきまれびとの始末を――』

『え? それは後回し? 何を言われますリージフ殿! それでは約束が――』

『な、何をするか!? キサマ、この私がスピタメン家のロクシャン――』

『ぎえ!? が!? ががががががががががががががががががが……――』

『……』

『……』

『……』

『……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……シュヨオオセノママ』

 


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