異世界ウェスタン ~Man With Gray Eyes~   作:せるじお

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第20話 トゥームストーン

 

 

 何だかんだで、アフラシヤブの丘に向かうのも、もう三度目なのだ。

 だから道順などとうに覚えてしまっているし、その気になれば一人で行って帰ってくることも容易い程だ。。

 ナルセー王のお達しには至急来られたし、とあったが、慣れもあって特に急がなくても私達はスイスイと道を進んでいるし、この調子ならば昼前には廃都の丘に辿り着けそうな塩梅だった。

 

「“死ねよ。幸薄きおみなよ!”……うん、良い台詞だねぇ」

『早速覚えたのか。余程気に入ったらしい』

「いやぁ田舎芝居と馬鹿にしてたが、なかなかどうして! 戻ったらもう一回観るとするかね」

 

 先頭を行くイーディスの傍らにキッドは馬を寄せ、何やら芝居を話しの種に盛り上がっている。それも実に楽しげに盛り上がっている。その様は私としては実に奇妙であり、何とも釈然としないものを感じる。

 どうやら、監獄から出た後に本当に芝居を見に行ったらしいが、それにしてもキッドみたいな絵に描いたようなアウトローが、文化文明を愛でるような質だったとは心底意外だ。そう言えば昨日も何やら仰々しく引用の一つも披露していた所をみるに、ああ見えて実は育ちが良かったりするのだろうか。

 

『いよいよです! いよいよですよ! いよいよなのですよ! まれびと殿!』

「ああ」

『ついに! ついについに! 夢にまで見た! 夢にまで見た!』

 

 一方、私の傍らでは例のリャマ似の動物に横乗りをしたアラマが、もう本日何度目になるかも解らない喝采をあげ、私も何度目かになるか解らない生返事をする。

 独立記念日のお祭りを待ちかねる子どものように、あるいは雑貨屋でソーダ水やキャンディーを親にねだり、店主から手渡されるのを待ちかねている子どものように、アラマは金の瞳を一層、朝日のように輝かせて、鞍の上でも落ち着き無く腰を浮かしたり足をバタバタブラブラさせている。彼女からすれば念願かなったりのアフラシヤブ再訪なのだ。それは私も理解しているのだが、こうも横ではしゃぎっぱなしにされれば、付き合う私も参ってくる。あるいは先に戻った王の使いに、お呼びは私、キッド、イーディスの三人かも知れないが、まれびと流の判断であと二人ばかり連れて行くとわざわざ言伝まで頼んで彼女を同行させたのも、間違いだったのではと思えてくる。しかし、彼女は仮に街に置いていっても自分で勝手についてきた事だろうし、こと呪(まじな)い絡みのこととなったら彼女ほど頼れる者もいないのも事実だった。

 

『……まったく、金につられてついてなど来るのでは……結局こういう役回り……』

「金はもう受け取ってるんだ。文句言わないで仕事だ仕事」

 

 アラマの歓声に混じるように背後からぶつぶつと聞こえてくるのは、最後尾にいる色男のぼやきであった。自身の馬に加えて、荷物を満載した驢馬――に似た家畜――をひいてついてきている。荷物の中身は、アラマの術に必要な様々なブツであり、あるいはアラマが神殿を調べるのに使うといって持ち込んだ種々の品々だった。何に使うのか知らないが、わざわざ市場を走り回って揃えた金糸雀似の小鳥が入った鳥かごまで吊り下がっている。

 一番面倒な役目を押し付けられて色男はぼやいているわけだが、しかしやっこさんには私が自腹を切って手間賃を渡しているので、文句を言われる筋合いは全く無いのだ。

 私が色男を一行に加えたのは、何も荷物持ちをさせるためだけではない。やっこさんのクロスボウの腕前と、傭兵にしては理知的で落ち着いている性根を買ってのことだ。キッドはまだ得体の知れない所があるし、イーディスは戦闘スタイル的に私とは組みにくい。アラマの術はたいしたものだが、彼女の本職は切った張ったではない。ある程度背中を任せられる、腕利きがもうひとり欲しいというのが私の真意だった。特に、あのアフラシヤブの丘に向かう以上は。あそこでは、もう二度も多数相手にドンパチをしているのだ。こちらの手勢も大いにこしたことはなく、信用ができる相手ならばなおのこと良い。

 

「なに。もう暫くの辛抱だ。ここからならば、丘も遠くはない」

 

 そうボヤキに気休めを返して、私は正面に向き直った。

 この調子ならば昼前には廃都の丘に辿り着けそうな塩梅だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『待ちかねたぞ、まれびと!』

 

 陣幕のなかから姿をあらわすなり、マラカンドを治める王は言った。

 相変わらず赤を主体とした、しかし城外の野戦陣地のなかゆえか遥かに簡素で動きやすそうな装束を纏ったナルセー王は、例の不可思議な真紅の瞳に期待を乗せて、私達を見遣る。

 

『さぁ来て早々だが、疾く続いて参るが良い。汝らに見せたいものがある』

 

 有り難い出迎えは一瞬で終わり、すぐに王は踵を返して陣幕の向こうに消える。

 他にしようもないので、言われるがまま後に続いて陣幕をくぐった。

 アフラシヤブの丘はナルセー王直属の親衛軍によって完全に制圧されている。廃都の上には所狭しと陣幕が数多張られ、完全武装のエーラーン人戦士たちが忙しなく動き回っている。

 辿り着いてすぐさま私達が通されたのは、廃王宮の最奥、例の岩の神殿の目の前に張られたひときわ大きな陣幕の前だった。案の定、そこは王のための陣地で、ナルセーが直々に出迎えてくれたと言うわけだ。逆に言えば、王にそこまでさせるほどの重大事が、奥には待っているということか。

 陣幕の下では、例の白布に全身を包み眼だけだした異様な集団、マゴスの連中が大勢、何がしかの作業に取り掛かっている。幾つもの机が並び、そのいずれもの上には謎めいた文字が書かれた紙切れが載っかっている。ナルセー王が中央の机へと向かい、手で合図すれば、白覆面達は一斉に外へと姿を消し、残されたのは私にキッド、イーディスにアラマ、そして色男の五人だけだった。

 

『これだ』

 

 ナルセー王が指差すのは、陣幕中央の机上に置かれた大きな文書。

 何やら、何処かから写し取ったと思しき、黒い文字列が茶色の紙面に踊っている。全くの未知の文字であり、私には読むことができない。不思議なことに、私は「こちらがわ」の言葉は自然と解っても、文字までは読むことができないのだ。

 

「……なんじゃこりゃ?」

 

 それにしても奇妙なのは、紙面の文字の連なり、その有様だった。

 最初は単なる模様にも見えたそれらは、小さな三角形とV状の文字を複雑に組み合わせたような形で、恐らくは英文同様横書きしたものであるらしい。紙面の上にはそれが大きく四行ほど書かれていた。

 

『これ……バギスタノン文字ですか?』

 

 真っ先に反応したのは、やはりと言うかアラマで、彼女の答えにはナルセー王もニヤリと笑みを返す。

 

『流石はまれびとの導き手といったところか。汝の言う通り、これはハカーマニシュの者共がエーラーンの地を支配せし時に使われた文字。世にバギスタノンの文字と称されしものよ』

 

 言うや王は僅かに横に動いて、掌でアラマに読むように促した。

 いつになく真剣な眼差しで少女は紙面の三角とV字の連なりを暫時眺め、若干の思案の後、その内容を訳し述べてみせる。

 

『求めても、求め得ず。見えず、聞こえず、ただ息吹のみ、その頬に受くるのみ。されどなお、隠されしものを求むるならば、まず稀人求むるより始めよ。稀人なれば、旅人なれば、流離い流浪する者なれば、此岸にて生まれいづるに非ざる者なれば、西方より来る者なれば、見えざるものを見、聞こえざるものを聞き、その息吹の主を探し当てん……』

 

 アラマの声は淀み無く、驚くほどに流暢なものだった。

 正直な所、私は英語で書かれた文章であってもこうもスラスラと読み上げることはできない。恐らくは遠い昔の文字であろうに、それをこうも見事に読み、訳すアラマには感心するしかない。これにはナルセー王も同感であったらしく、すぐさま己の腰帯に差し込んでいた短剣を抜いて、アラマの手に握らせた。

 

『見事。マゴスどもよりも余程博識とみえる。褒美じゃ、とっておけ』

『え!? あ、はい! 恐悦至極に存じます!』

 

 短剣は鞘にも柄にも金や銀のラインが引かれ、宝石で飾られた見るからに高価な一品であった。

 ナルセー王は自身が成り上がり者だけに、功のある者には物惜しみしない。兵にやる気を出させる秘訣は結局の所、ただ報酬であると良く解っているのだ。

 

『これは神殿の壁に刻まれし文字を写したもの。他にも同様の碑文が幾つか見つかったが、いずれも旧き神々への讃歌、古の王たちへの礼賛ばかり。わしの眼に適うものはコレだけよ。あるいは、我が求むるモノの在りかを示すやもしれぬものは』

「求めるもの?」

 

 気になる言葉を鸚鵡返しに私が言えば、王はイーディスのものとよく似た獣染みた笑みを深め、嬉しそうに告げる。

 

『我らエーラーン人の間にあっても広く知られたズグダ人のどもの言い伝え……かつてこの朽ちた都を治めしハーカマニシュ家のダーラヤワウシュがアフラシヤブの最奥に封ぜじ何モノか……それこそがわしの求めるもの』

 

 王の言う意味が解らず、アラマに眼で助けを請えば、彼女は流れるように講釈を始める。

 

『ハーカマニシュ家のダーラヤワウシュはかつて「四界の王」と称されし偉大なる王の中の王なのです。王にしてマゴスでもあったかの王は、王の手の届く限りの世界の全てから、あらゆる書、あらゆる呪具、あらゆる触媒を集めたと伝えられているのです。かのマート・アッシュル王ナブー・バニ・アプリが築きし大図書館の蔵書の数々も、王の御代に全てアフラシヤブに移されたとのことなのです。今や見る陰もないのですが』

 

 ――なるほど、さっぱり解らん。

 イーディスに色男はうんうん頷いているが、所詮は余所者の私には前提となる知識がなくてサッパリだ。それとキッド、解らんのはオマエも同じはずだろう。何を訳知り顔で頷いてやがるこの野郎。

 

『わしが求めるのは、ダーラヤワウシュがこの神殿のどこかに封じたと伝えられる何かなのだ。それが何であれ、随一のマゴスと伝えられる王の遺したもの……ただの金銀財宝や書物であろう筈もない』

 

 ――なるほど、そういって貰えれば私にでも解る。

 要するに、大昔の王様兼魔法使いがわざわざ遺したものだから、単なる財産以上の価値を持つもの、例えが俗で恐縮だが、特許でもとれそうな何か途方もない機械か発明品でも隠してるんじゃないか、そうナルセー王は期待しているらしい。

 

『神殿の碑文に従えば、それを探し出すのはまれびとである筈だ。故に、わしは汝らを呼んだのだ』

 

 期待に少年のように瞳を輝かせる王に、私は飽くまで冷静に言った。

 

「その大昔の王様がわざわざ封印したもんなんだろう? そんなもの掘り出せば、地獄の窯の蓋を開けることになりかねんと思うがね」

 

 だが、私のこの物言いは、王の瞳を一層怪しく、そして危うく輝かせるだけだった。

 

『その地獄が欲しいのだ! 我に立ちはだかるもの、その全てを焼き滅ぼすような地獄がな!』

 

 野心家の王は、さらなる力をお望みらしかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ったく。こんな仕事だと知ってりゃ、街に残ってるんだったね、俺としては」

 

 キッドは両手で何か、紙切れのようなものをもて遊びながら、独り言には大きな声でぼやいた。

 

「腕っぷし頼りの仕事なら俺にももってこいだけども、こういうのはどうもね。学者センセじゃあるまいし」

『全くだ。私としても、もっと胸の沸き立つような仕事を期待していたのだがな』

 

 傍らで手慰みにカタナを手入れするイーディスが同意する一方、やはり得物のクロスボウの整備をする色男は言えば、楽して小銭を稼げると解ってか珍しく機嫌が良いように見えた。

 

『ここの模様が示すのは書記の神、豊穣の神。だとすればこの先に……』

 

 視線を前に戻せば、壁に張り付き、そこに描かれた文様を穴が開くぐらい見つめて何やら呟くアラマの姿が見える。私はちょうど、熱心な一人と不熱心な三人の間に挟まれて、心身ともに何とも中途半端な立ち位置にいるのが私だった。 所在なく、ぼんやりと四方の壁や天井を見遣り、何とはなしにそこに描かれた模様や書かれた文字を眺める。

 ようやく足を踏み入れることを許された、アフラシヤブの丘の最奥で待っていたのは、だだっ広く殺風景な古い神殿の跡だけだった。

 床に刻まれた痕や、所々に見える妙に綺麗な砂埃の空白地帯は、つい最近までこの神殿内部に所狭しと置かれていたであろう様々な文物が、既に運び去られてしまった後であることを意味している。

 あの蝗人どもが血眼になって守っていた神殿の宝の数々は、既に全てナルセー王のものになったようだ。

 先日の死闘を思い出しながら殺風景な神殿の内部を見れば、何といえない、わびしい気持ちになってくる。

 

 今の私達の仕事は、このがらんどうの神殿を探り、隠された何かを見つけ出すことだった。

 

 神殿内部の間取り自体は極めてシンプルで、探るのに然程人手も時間も要しない。

 長い一直線の廊下と、等間隔に左右に伸びた横穴が数条あるのみで、しかも先に探索に入ったマゴス達が置いていったのだろう。マラカンドの街のあちこちで見かけた、例の輝く石がランプのように置かれ、窓もない神殿内部を昼のように明るく照らしている。

 今、私達がいるのは神殿の一番奥の、左の横穴の突き当りだが、熱心に調べているのはアラマのみで、私も含めた他の者は皆、既にやる気を失って久しい。最初のほうこそ宝探しの気分で色々と観察したり考察したりとしていたのだが、幾つ目かの横穴を探る頃には、延々と続く壁画と古代文字の羅列に、単純にうんざりし、アラマ以外は興味を失ってしまっていたのだ。

 この探索がもしかする「こちらがわ」に呼び出された理由を知ることに繋がるのではと、私だけはアラマの背中にくっついて探索を続けているが、内心では殆ど後ろで暇を持て余している三人と変わりない。ここに連れてこられた当初は色々と予感のようなものを覚えたものだが、どうも単なる勘違いだったらしいと、殆ど私は諦めていた。

 

『ボルシッパの印がここにあるのだから、こちらには……』

 

 未だ諦めを知らないアラマには悪いが、望みは薄そうだ。

 

『ほう。それはヒッポグリフか? 器用なものだな。そちらの世界にもいるのか?』

「……生憎だけど、こっちじゃ『ありえないもの』って意味なんだぜ、コイツの名前は」

 

 何となく会話の内容が気になって振り返れば、何やらキッドの足元に不思議なブツがちょこんと置かれている。

 前に、太平洋を渡って来た東洋人が同じようなことをやっていたのを思い出す。それは、一枚の紙切れを器用に指先で折って色んな形を作るという遊戯で、その東洋人は鳥を一羽、読み終えた新聞で作っていた。

 キッドの手になるそれは、東洋人が拵えた鳥よりも遥かに高度な細工と見えた。

 それは、実に奇妙な形をしていた。頭は猛禽で背には翼が生えているが、体は四足獣で、しかも前足と後ろ足の形が異なっている。前足は爪があるが、後ろ足は馬の蹄のようになっていた。

 

「『狂えるオルランド』って物語に出てきてな、それの中じゃあ――」

 

 またキッドが何やらわけのわからない引用を得意顔で披露しつつ、懐から出した葉巻に火を点けている。マッチの頭を親指の頭で擦り一発で火を起こす様は、実に手品染みていた。

 色男はそれを見るや、うげぇと顔を顰めてキッドから距離をとるが、それも虚しく風に漂う紫煙は色男の逃げた先へと向かい、やっこさん、げほげほと噎せ返る。

 全くキッドの野郎、色男が煙草が嫌いと承知で風上から――……風上?

 

「……」

 

 私はキッドの吹き出す煙、あるいは葉巻の先端から昇る紫煙を見た。

 それは、確かに漂っている。窓もない、この神殿の最奥で、確かに色男のほうへと漂っている。

 

「……」

 

 私は前へと向き直り、アラマが格闘している壁を改めて見た。

 鳥の化け物と格闘する、髭面の戦士の壁画に、例の三角形とV字の文字の羅列がそこには踊っている。だが私の意識を引き止めたのはそれらではなく、美しい壁画を汚すように走った、幾筋かのひびだった。ひびは一点で合流し、僅かではあるが穴が開いている。余りに小さく、穴は小さな闇に覆われて、その中を窺い知ることはできない。

 

「アラマ」

『え? なんですか、まれびと殿』

 

 私は、アラマに脇へとどくように背中をポンと叩いて、壁のひび割れと穴に顔を寄せ、頬を向けた。

 するとどうだろう。僅かだが、確かに感じる。風のそよぐ感覚、空気が吹き付ける感覚。私は狙撃手だ。風の流れには人一倍鋭く、人の二倍三倍も繊細にそれを感じ取る。

 

「……」

『え!? あ!? ちょちょちょまれびとどのののののの!?』

 

 私は左手でコルトを引き抜くと、右手でその銃身を握り、思い切り銃把を壁のひび割れへと叩きつけた。

 古い拳銃は、弾が切れた時の為にグリップを頑丈に作り、棍棒代わりになるように作られている。故に一撃は強烈で、ヒビの集まっていた穴はあからさまに広がっている。

 脆すぎる。明らかに脆すぎる。

 私は確信をもってさらなる一撃を壁面に加える。

 

『なにをなさるんですかぁ!? まれびとどのぉぉぉぉっ!?』 

 

 美しい壁画を躊躇いなく破壊する私の所業に、アラマは目を白黒させ叫ぶばかりで制止にも動けないでいた。ラマの叫びに、びっくりして私を見るのはキッド以下さぼり組の三人だが、私はそんな視線は意に介さずさらに壁面を叩いた。

 四度目。そう四度目だ。

 四度目の一撃は、手応えが今までと違った。

 恐ろしく軽く、何かが突き抜けるような、そんな感触だった。

 

「……やっぱりな」

 

 私は手を止めて、大きく開いた穴の向こうの、深い闇を見た。

 

「……」

 

 声もなく近づいてきたキッドの口から葉巻をむしり取り、穴の向こう側へと差し込んで見る。

 仄かな灯りに照らされて、いったいどれほどの年月隠されていたか解らぬ、秘密の部屋の内側が微かに見える。

 そこには所狭しと、膨大な数の巻物石版が、うず高く積み上げられていた。

 

『――』

 

 アラマは、私の横から、穴の向こうの様子を覗き込んだ。

 

『――いやったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!』

 

 そして快哉した。

 余りに大きく快哉したので、その声は狭い神殿内を反響し、私の両目には火花が散るほどだった。

 

 

 


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