異世界ウェスタン ~Man With Gray Eyes~ 作:せるじお
右は残り二発、左は残り一発。残弾数を頭のなかで数えながら、左のコルトをホルスターに戻した。本当はすぐにでもシリンダーに弾を込め直したかったが、そうも言ってる暇はない。まずは、ナイフを取りに戻らねばならない。
投げ縄を豚面の首から外して巻き、鞍の金具に結いつける。「ハッ!」と一声拍車を掛けて、私はサンダラーを走らせる。
ナイフを顔から生やした豚面の死体の傍らには、すでに大勢の村人が群がっていた。よくもまぁこれだけの数が隠れていたもんだと、思わず呆れるほどの大勢である。酒場の主同様、皆そろいもそろって長耳であった。
「どけ!どけどけどけっ!」
私は大声で怒鳴って長耳達を退かせて通り道を作る。大勢の長耳達がサッと左右に動いて道ができる様は、まるで海の前のモーセだ。しかし預言者気取りで良い気になっている暇など無い。私は豚面の所まで馬を寄せて、跳び降りる。
ナイフは思いの外に深く刺さっていた。お陰で抜くのに苦心した。十字を切ってから死んだ豚面の顔面を踏みつけ、「ふんぬ」と力込めて一息に抜く。なんとか抜けたが、今度は『臭い』に閉口する。ナイフの刃には豚面の血がべっとりと着いていたが、これがまた名状しがたい独特の臭気を放っている。血の色も異様だ。肌の色をもっと濃くしたような青緑色の血なのだ。こんな血液にはついぞお目にかかった記憶が無い。
「オイ」
覗きこんでいた長耳達の内、適当な一人に声をかける。『えっ?』という顔をして、その長耳は目を丸くして自分の顔を指さした。良いから来いと手招きすると、恐る恐る近づいてくる。近づいてきた所で、服の裾を捕まえてナイフについた血を拭った。
『ちょちょちょ!?』
何やら慌てているが、気にせず拭い続けていると何とか綺麗になった。まだ少し臭う気もするが、気にしだすと切りがない。ナイフを腰の隠し鞘に戻すと、サンダラーに跨がり駆け去ろう――とした所であった。
『待たれよ稀人!我らが招きし救い人よ!』
そう叫びながら、一人の老婆が私の方へと土埃が上がる勢いで駆け寄って来たのである。その鬼気迫る表情、妙に甲高い叫び声に、反射的にコルトを抜きそうになったが抑える。異様な雰囲気の婆さんではあるが、殺気は感じない。婆さんは私へと向けて手にした杖の先を突きつけながら叫ぶ。
『皆の衆!お告げにあった通りじゃ!この村を救ってくださる為に我らが天の神が遣わした救い人がついに来たのだ!それがこの男の人間なのだ!』
……どうも婆さんは呆けているらしい。何やら突拍子もないことをほざきだしたので、無視して去ろうかと思うと、婆さん、なかなかどうして動きがすばしっこい。上手く私が向かおうとする先に回って通せん坊をしてくる。面倒この上ない。
「婆さん人違いだ。俺はたまたま立ち寄っただけだし、今すぐにオサラバする予定だ」
『人違いなものか!皆の衆も覚えておろう!三日前の晩、この嫗の言付かった我らが神の言葉、覚えておろう!』
婆さんが皆の衆へと振り返りがなり立てる。その皆の衆の間からは『なんて言ってたっけか?』『いつものことだから忘れちまったよ』などと言い合う声が私には聞こえたが、婆さんはそうでは無いらしい。私へと向き直ると、唾がこっちまで飛んできそうな勢いで喋くり始めた。
『その者、見るも珍しき異邦の装束に身に纏い、その顔には豊かなるヒゲをば蓄え、灰色の双眸を持つ者なり』
『その者、耳は短く肌は白く、エルフにはあらず。男の人間なり』
目立つのは好きでは無いから、さほど変わった格好している訳でもないし、西部や南部じゃヒゲを生やしていない男のほうが却って珍しく、白い肌も灰色の目もありふれている。人間で男なのは言うまでもない。一回聞いただけで、誰にでも当て嵌まりそうな、インチキ占い師の常套文句のような予言である。だが周りの長耳連中は何か感心した様子だ。素朴にも程がある。
などと呑気に構えていたのは、次の言葉が出てくる迄であった。
『その者、その左手に金に輝く武器を携えし者なり。雷鳴をば轟かせ、火花を吹き、白煙を撒く者なり』
これには思わず、自身の左のホルスターに目をやっていた。コルトの真鍮フレームが陽光に輝いてる。確かのそれは黄金に似ている。
『確かにそうだ!その人間の金に輝く武器は、雷みたいな音を出して、火と煙を吐いたぞ!』
婆さんの戯言を後押ししたのは、酒場の主人である。コイツが余計なことをはざいてくれたお陰で、村人一同がその気になって来た。ざわめきが徐々に大きくなる。これはマズイ。非常にマズイ。
私は左のコルトを抜き、神殿らしき建物より生えた鐘楼目掛けぶっ放した。空へと向けて撃たないのは、それをやって空から戻ってきて銃弾に当たって死んだ馬鹿の噂をどこかで聞いたからだが、いずれにせよ突然の銃声に、村の衆のざわめきは一瞬で静まる。
「喧しい!人違いだ人違い!とにかく俺は出てくからな!」
その好機を逃さず私は一方的に叫ぶと、サンダラーに跳び乗って走りださんとする。だが婆さんが叫んだ言葉に、私はサンダラーに待ったをかけざるを得なかった。
『我らを救わずして、ふるさとに帰るは能わざるぞ異邦人よ!今この地より逃げ去ろうとも、汝は永久に荒野を彷徨う破目になるぞ!』
……何だと?何やら物騒なことを婆さんは言い出したが、しかしこの地に来てからの怪奇の数々に、自分が常ならぬ状況に迷い込んだことを薄々理解していた(そして努めて考えないようにしていた)私には、婆さんの物言いは無視できる内容では無かった。
「どういう意味だ婆さん」
『汝は我らの祈りに応えて神の遣わした戦士。その使命を果たすまで、帰ることはできぬ』
『おそらくこの地は汝にとって余りにも未知で、余りにも異様に映っているであろう。神の戦士とは常に数万里を隔てた遥か彼方から遣わされると古伝にはある。汝、その馬で万里を駆けるつもりか?』
婆さんはニヤリと嫌な笑いを浮かべた。普段なら一笑に付す所だが、状況が状況だけに笑えない。つまり私はこのド田舎村を豚面の盗賊共から守らなければ、アメリカの地には帰れないということか?
「……DUCK YOU SUCKER / なんてこった」
私は思わず呟いていた。ふるさとなど遥か昔に亡くした根無し草の渡り鳥だが、流石にアメリカに永遠に戻れないのは御免被りたい。婆さんが言ってることが正しい保証もないが……仕方がない。
私はため息をひとつついて馬から降りると、婆さんへと向けて一つ問う。
「で……いくらだ?」
『へ?』
「へじゃねぇよ。俺をいくらで雇う気だって聞いてるんだ。いくら出せる?」
私のこの全う過ぎる問いかけに、婆さん始め長耳連中は一斉に鳩が豆鉄砲食らったような顔をした。連中の内の誰かが、ふと呟くように言った。
『金取るの?』
当たり前だ馬鹿野郎。
――ひとまず落ち着いて話す為に、例の酒場へと戻った。
薄暗かった酒場の窓は全て開け放たれ、そして窓という窓から村人たちが私のことを覗きこんでいる。野次馬は酒場の中にまで及んでおり、私は殆ど取り囲まれているような塩梅で、落ち着かない。ガンマンにとって目立ちすぎるのは言うまでもなく命取りだ。せいぜい、ぼんやりと風の噂程度に名前が流れる程度で良い。無名すぎれば食いっぱぐれるが、名が売れ過ぎれば背中から撃たれる。何事も程度が肝心なのだ。
――話がそれた。
机を挟んで私と座って向かい合うのは、酒場の主人、例の占い婆さん、そして村長と思しき爺さんである。一体全体幾つなのかも見当もつかないような面相である。頭は殆ど剥げかかっているが、真っ白なヒゲと眉は繁みのように豊かで、特に眉は恐ろしく長く太く殆ど両目が隠れそうになっている。長耳なのに加えて鼻も高いというか異様に長い。故に爺さんは一見して御伽話に出てくる小鬼か妖精の類のように私には見えた。
『ことの始まりは、今からおおよそ一年程まえのことであります。理由はわかりませぬが、奴らがこの村に目をつけたのです』
爺さんは顔からくる印象そのままの、老木のような掠れた声で話し始めた。
『ある日突然、やつらはやってきて。私らに食べ物や水を渡すように要求しました。それに少しでも反抗的な素振りを見せた者は、殴られるだけで済めば良い方で……中には』
爺さんの言葉は一旦そこでとまり、長耳連中の中に沈黙が流れ、何人かは目を伏せ顔を伏せた。
何があったかは問うまでもあるまい。私は手の仕草で続きを促した。
『ともかく。連中はそれから定期的にこの村にやってきて食糧や水を中心に、あらゆるモノをたかり始めたのです』
『今日の時のように、予告もなしにやってくる時も多々ありました。酒を飲み、飯を喰らい、酷い時には娘たちにまで手を出します』
ここで爺さんは俺の顔を真正面から見た。眉が動き、その下の隠れた小さな瞳があらわになる。そこには何処か強い期待の光が宿っているように私は感じた。
『だが今日は違った。あなたが現れて、まるで風の如き素早さで奴らを斃したからです』
『相手はあの鬼のようなオーク、それも7人もいたにも関わらず、あなたはたった一人でそれに勝った』
そして爺さんは声を張り上げて、よくも爺さんなのにそんな声が出せるなぁと私が思うような大きさの声で言った。
『そんなあなたに、私達のことを救って頂きたい!つまり、あのオーク鬼どもを斃して頂きたいのです!』
それに占い師の婆さんも続く。
『これは単に我らの願いのみにはあらず!神の定めし汝の使命宿命なり!』
最後に酒場の主人が締めくくった。
『もちろん無料働きだなんて言わねぇ!出せるだけのモノは必ず出す!必ず!』
言い切るなり、三人揃ってズイと私の方に顔を寄せてくる。私は手でまぁまぁと三人を制止させると、アゴヒゲを撫でながらひとまず問う。
「とりあえず連中の人数だ。連中はどれだけいるんだ?」
爺さん婆さん酒場主人の三人は顔を見合わせた。
『五十人ぐらいだ』
『我が見るに賊は七十人ぞ異邦人!』
『馬鹿言うな!連中は百人は居るぞ!』
……こりゃお話にならん。とりあえず野次馬連中に聞いてみる。
『四十人ぐらいじゃなかったか?』
『何いってんだい!連中はゆうに二百は超えた大軍だぜ!』
『いやぁそんなにいなかったろう。せいぜい五十だよ』
以下多数だが、彼らの宣うことを平均して考えるに、連中は五十前後の賊であるらしい。野盗としては中々の規模だ。ましてやそのいずれもがあの馬鹿でかい図体の持ち主で力も強く残虐な性格なのだと言う。この田舎者連中では歯がたたないのも道理である。
そして私はそんな連中に単身挑むはめになったと言う訳だ。
冗談ではない。
「……DUCK YOU SUCKER / こんちくしょう糞ったれ」
私は思わず帽子を脱ぎ、こめかみを指で押さえた。
1対50?
50対1?
ありえない戦力の差だ。普通なら戦いにすらならない。何故なら1の側は迷わず逃げるからだ。
聞く所によれば『基本的』には連中で銃を持っている奴は一人もいないらしい。対してこっちは銃を持っている。だがしかしだ。仮に相手が弓矢や槍、投斧だけの先住民五十人だったとして、それに一人で挑む馬鹿がいるか?そんなやつは頭の皮を髪ごと剥がれてしまえばいい。
仮に戦うにしても、武器にだって問題がある。我が相棒の二丁コルトは確かに素晴らしい拳銃であるが、流石に1対50で戦って相手を蹴散らせるほどの威力はない。いや、今しがた七人ほど撃ち殺し刺し殺しした所ゆえに、残りの相手は40人前後になる勘定だが、それでも多いことに変わりはない。もしこんな目に遭うと知っていれば、そんな戦いにふさわしい武器を他に持ってきていただろう。脅威の16連発を誇るヘンリー・リピーティング・ライフル。1キロ先のバッファローを一発で仕留める威力と精度を持つシャープス・カービン。水鳥を群れごと一網打尽にできる超大型散弾銃パントガン……。だがこれらは全て無いものねだりだ。今はあるもので戦うしか無い。
「……」
私は愛馬サンダラーの鞍、そこに縄で厳重に結び付けられた革張り木製のスーツケースのことを考える。先の『仕事』に必要なので今度の旅の荷物になっていたが、これは不幸中の幸いといえるだろう。もし『アレ』がなかったらそれこそ本気で逃げ出す算段を考える所だ。
「よし解った。こうなった以上は山賊退治は引き受けたが、条件が2つある」
私は努めて目つきを鋭くして前面の三人を睨みながら見渡した。交渉事において重要なのはとにかく強気に高圧的にいくことだ。さもなくば儲けが少ないだけならまだしも、丸め込まれて馬鹿を見ることになりかねない。
「まず第一に報酬だ。額は……」
と、ここまで言ってふと気づく。こいつら一ドル銀貨すら物珍しげに驚くような田舎者だ。『ドル』といった所でその価値を理解できるのだろうか。……解らない、と考えたほうが良さそうに思える。
「そうだな……銀貨三百枚、もしくはそれ相当の現物で支払って貰おう」
まずはふっかける所から始めよう。銀貨三百枚……300ドルと言えば馬が10頭は買える値段だ。それも駿馬が十頭である。たいした額だが、本音を言えばこれすら妥協した額だ。相手は屈強で獰猛で残虐な50人からなる賊の大軍なのだ。本来なら一人頭賞金100ドル換算でも5000ドルは貰っていい仕事である。
だがそんな大金を払う能力はこの連中にはあるまい。300ドルですら目を剥くような大金だろう。あまり大げさな額を言えば逆に冗談ともとられかねないことを考えれば、この辺りの額から始めるのが妥当な筈だ。
『ぎ……銀貨三百枚!?』
『そ、そげな大金どこにあるってだ!?』
『むちゃくちゃだぞいくらなんでも』
案の定、連中はざわめきだした。爺婆主の三人も顔を見合わせあって驚いている。
「俺はプロフェッショナルなガンマンだ。仕事をする上ではそれに見合った額は必ず貰う。1セント……銅貨1枚まける気は無いぜ」
すかさずこう付け加える。まぁここまで言っておけば充分だろう。後は少しずつ値を下げて、妥協点を探すまでだ。……などと思っていたら、不意に占い婆さんが立ち上がった。そして腰も曲がっている癖にどうしてそんな動きができるのか、恐ろしい素早さで酒場から駆け出して行った。突然の予期せぬ婆さんの動きに私含め皆一様に唖然としていたのもつかの間、ものの数分で婆さんは帰って来た。その小脇には、何やら大きなつつみを抱えられている。
『蒼茫たる空の彼方より我ら見護りし天が帝よ……我ら賜わいし天の御遣いの意に沿わんが為に……』
婆さんは何やらぶつぶつと呟いていいるが、なんと言っているかは聞き取れない。一通り呟き終わると、手にしたつつみをデンと机の上に置いた。テーブルがギシと鳴ったから察するに、重さのある代物であるらしい。
『異邦人……これは本来許される筈も無きことであれど、汝が望むのならば……致し方なし』
『されどこれは飽くまで天のご意思にしてうんぬんかんぬん……』
婆さんは前置きとばかりにくどくどと勿体ぶった後、つつみを解いて中身を露わにした。
『ええ!?』
『おい婆さんそれは……』
どよめく一同を尻目に私は目の前の置かれたブツに驚き、そして呆れていた。
なにやら随分と出し惜しみするから、高価な調度品だの彫像だの銀食器だのが出てくるかと思えば、何のことはない、出てきたのは虫食いだらけの細い丸太なのだ。そう丸太。何の変哲もない、古いびた丸太だ。重ねて言うがしかも虫食いだらけだ。
まさかと思うがこれが300ドル相当の現物とやらではあるまい。そうでないに決っている。なにせ薪に使うぐらいしか使い道の無さそうな木切れ一本渡して、それで50人の賊に挑めなどと……そんな無法は通らない。
だがそんな私をよそに、長耳連中は揃いも揃って大いに興奮し、口うるさく議論を重ねているのだ。
『婆さん正気か!?これは神前に捧げるべきアガルオードの木じゃないか!』
『祭壇の下に隠してたのを引っ張りだして来たのか!』
『オーク共にすら渡さなかった宝を、余所者の人間に渡すってのか!』
『どうかしてるぞ婆さん!すぐに戻してくるんだよ!』
『だまらっしゃい!この異邦人は神の御遣いぞ!その御遣いが望むのならば、それは捧げ物!問題はない!』
……宝?この虫食いだらけの古びた木切れが宝?
例の神殿から持ってきたそうだが、ひょっとして聖遺物か何かだと言うのだろうか。大陸ヨーロッパの古い教会なんかで祀られている、やれキリストが磔にされた時の十字架の一部、だの、復活する前のイエスにかけられていた布、だの、だれそれとかいう守護聖人の遺骨だの、ホントか嘘か解らない胡散臭いアレである。
長耳連中が喧しく言い合いをしている間に、私は件の木切れを手にとって観察してみた。
ふと、その重さが気になった。虫食いもかなり進んでいるのに、この重さはちょっと普通ではない。顔を寄せて眺めていると……気づいた。ただし眼で、ではなく鼻でである。
(……匂いがする。微かだが良い匂いだ)
ここで思い出したのが、以前どこかで聞いた話で、東洋では火をつけると良い香りのする木を珍重しており、上物であればかなりの高額で取引されているという話だ。そして特に高価なものは水に沈むほどに重く、それでていて虫食いで穴だらけな不思議な気なのだという。この話を聞いた時は、気が向いたらひとつ探してみるかと思っていた程度だが……ひょっとするとコレがその香る木というやつなのか?
(清国人の商人に売れるかも知れんな)
相場がどうなってるか見当もつかないが、上手くやれば金になりそうだ。そして何より、聖遺物だがなんだか知らないがこんな腐った木切れが宝物扱いの村で、これ以上突いても金になりそうなモノなど他に出てきそうにも無い。
「よーし解った!コイツで手を打とうじゃないか」
こっちをほったらかしにして口喧嘩を続いていた御歴々に、そう大声で一方的に告げると、香る木を包みなおして足元に置いた。連中のうちで何やら無念そうな溜息が漏れたりするが……知ったこっちゃ無い。仕事する以上は、それに見合う報酬は貰ってしかるべきなのだ。
「さて、報酬についてはコレで良いとして、もう一つの条件についてまだ言ってなかったな」
私がこう言うと村人一同は身構えた。今度は何をふっかけられるか、と思っているのだろう。ひどい連中だ。私は当然の権利として報酬を求めただけだというのに。それに今度の条件は、さほどおかしなものでもない。
「なーに。別にたいした話じゃあない。今度の仕事は流石に相手の数が多いからな。俺一人だとやや手に余る部分がある。だから……お前たちのうちから一人。俺の助手となるやつを一人選んで欲しい」
ただこれだけの話である。連中はギョッとした様子で、俺の言葉を聞くやいなや互いに顔を見合わせたが。まぁ皆一様に百姓連中であろうし、この反応も無理は無いとは思うが……。
「お前さん達の言いたいことも解るさ。俺たちゃ鋤か鍬しか握ったことはない。荒事なんてとんでもない、って思ってるんだろう。だが忘れないでもらいたいんだがな。俺が守るはお前さん達の村ってことさ」
「自分の家を守るために戦うなんてのは、一人前の男には当たり前の話だろ?いや……男なら子どもにとっても当然だ。別に全員に一緒に戦えって言ってるんじゃない。ただ一人、それも俺の仕事の簡単な手伝いだけで良いんだ」
ここまで言って私は一同を見渡した。みな私に見つめられると、慌てて目をそらしたり顔を伏せたりする。
――ふん、田舎百姓どもめ。こりゃ私自身が選ぶ必要があるか、などと考えた、その時。だった。
スッと、人混みの中から一本の手が挙がるのが見えたのだ。コレには私も驚いた。実に意外な展開だった。
手を挙げたまま、長耳連中の間から割って出たのは、まだ十を幾つか過ぎた程度の少年だったからだ。
少年は言う。
『俺がやる!俺があんたの助手になってやる』