無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第018話_母との一日

---母はただ愛しただけというが、これまでに母以外にそれを為しうるものはおらず---

 

そういえば後回しになっていたが、2年近く前のフィールドワークの後、パウロに風呂をせがまれていたんだった。この前の決闘でパウロには大きな借りがあるような気もするし、何通も手紙を書いてくれと頼んだし、これから迷惑を一杯かけるような気もするし、自分も入りたいし、風呂を作ってやろう。

 

まずは場所についてパウロに相談しよう。いきなり家を拡張したら怒られそうだし、裏庭全部潰して良い物だろうか。あと水捌けをしっかりしないと、こういうのって家の基礎が腐って傾くってきいたことあるな。

 

「父さま、少し相談があるんですが」

 

「今度はなんだ?」

 

最近の俺はパウロに対して頼み事や相談事が多すぎなのだろう。パウロが露骨に嫌がった。

 

「そんな重い話ではないので、嫌そうな顔しないでくださいよ」

 

「おぉ、すまん」

 

一応、普通の顔に戻してくれる。さっきのはただの愛嬌だったのかもしれんな。

 

「2年前にお風呂を作ってくれって言っていたでしょう。作る場所についてどこか候補はありませんか?」

 

「おぉ、ようやく作ってくれるのか!忘れてると思ってたぞ」

 

「正直、後回しにしていましたが、旅に出る前に作っておこうと思いまして」

 

「そうか、ならいつも使ってる空地の片隅にでも作ってくれ」

 

「え?あそこ家の敷地なんですか?柵の向こうですよ?」

 

「何言ってるんだ、俺の持っている敷地なんて一つもないぞ。ここは俺の叔父でフィットア領の領主サウロスの敷地だ。家も土地も含めて叔父に借りてるだけだ。つまり、サウロスの敷地の一画にこの家があるだけで、裏は全部、サウロスの敷地だ。どうせ本人はブエナ村にくることはないし、好きに使っても構わんだろう」

 

「威張って言う事ではないと思いますが、理解しました。なら、裏の空き地の中で家に近い場所に作りますね」

 

うちって借地&借家だったのか。

 

「おぉ、楽しみにしてるぞ」

 

「あと申し訳ありませんが、最初に母さまと僕で一緒に入らせてもらってもいいですか? 旅に出るにあたっていろいろと話したいことがありますので」

 

「別にいいぞ!減るもんじゃなし。だいたいお前は俺やゼニスに全然甘えないから、つい大人みたいに扱ってしまう。大人を気にせずもっと甘えればいい」

 

「では作りにいってきます。楽しみに待っていてください」

 

「おう」

 

--

 

さて、おおよその作る場所は頭の中でイメージできてるわけだが。どのような造りにしようか少し考えよう。前世でシャリーアの自宅に作った時との違いから。今回は、屋外だ。家から出て歩いていく部分の導線、脱衣所、浴場。さらに浴場からの水回りも考えないと、剣術訓練用の空き地が水浸しになってしまうな。風呂の水は毎回抜いて、入れなおした方がいい。それと、この場所は眺めが良いわけではない。なら覗き防止に四方に土壁を立てて衝立(ついたて)にしよう。

 

そこから、俺はあーでもないこーでもないと作っては壊しを繰り返しながら風呂を製作していった。製作日数は5日だった。といっても午前中は鍛錬とシルフの指導だったから一日で使えるのは午後の時間だけだ。シルフとの魔術特訓の時間をすべて取られる形になり、あいつの機嫌が悪くなったので、しかたなく重力魔術の教本を貸し出して黙らせた。が、シルフは二日目にして俺の重力魔術の教本を「よくわかんない」の一言で切り捨て「ちゃんとおしえてー」だの「なにやってんのー?」だのことあるごとに邪魔―まとわりついてきた。鋼の心でこれを粉砕しつつ、5日目にしてようやく力作の風呂が完成した。

 

「ねぇできたの?」

 

俺の満足気な表情を見て、シルフが聞いてきた。

 

「あぁ、風呂っていって裸で入るものなんだが、入るか?」

 

「裸!?……今日はやめとくね」

 

そうだ。俺の中ではシルフはまだ男の子設定だったな。それにしても最近はシルフも話し方から幼さが抜けてきたな。年齢的には少しませている。俺みたいなやつと始終いたら話し方も大人びるってことかもな。

 

「あぁ、そう。でも俺がいないときはシルフに魔術で湯を張ってほしいから、湯の作り方だけでもみてってくれよ」

 

「うん? ルディ、この前みたいにどこかにお出かけするの?」

 

「あぁ、7歳になったら、3か月くらい旅にでるよ。ちょっと用事があってね。すぐ戻ってくるから心配するな」

 

「……わかった」

 

抱き着いてきて嫌だと、引き留められるかと思ったがそうでもなかった。あの萌えイベントは今回は無しか。剣術の修行で心身が鍛えられて思ったほど俺に依存していないのか、この前のパウロとの模擬戦をみて俺が何かするって察したか、それとも俺の家族の誰かから話をきいたのか、いや、パウロは「ロールズにはこちらで上手く言っておく」と言っていたからロールズがシルフを説得したのかもしれないな。

 

「同時無詠唱による混合魔術ができなかったら、一旦水を張ってから、温めてもいい。でも鍛錬だと思って毎回、同時無詠唱に挑戦してくれよ」

 

「わかってるってば」

 

シルフの返事を待ってから、俺は湯船に混合魔術で一気にお湯を張った。

 

「あぁ、そうだ。母さまたちに許可を取ったら、シルフも好きに使って良いぞ!ただし、そのうち彼女ができても変なことに使うなよ。んじゃまた明日な!」

 

俺はそう言いながら、今度はシルフの返事もまたずに家へ帰った。

 

「え?なんで彼女?」

 

シルフはしばらくボケっと突っ立っていた。

 

--

 

次の日、俺はこの日をゼニスへ親孝行をする日と決めた。いつもならシルフと遊ぶ時間を断って、俺は昼過ぎにゼニスに話しかけた。

 

「母さま、少し前に、メーマックさんが持ってきた種から花と草を育てたいのですが、お庭の一部お借りできませんか?」

 

「あらあら、ルディが私と花を育ててくれるの? いいわ、一緒にやりましょう」

 

ゼニスに面倒を見てもらうつもりだったけど、なぜか一緒にやることになった。

 

「えーっと50本ずつ植えて、出来上がったら種をとって増やしたいのですが」

 

「大丈夫、母さんね、花を育てるのは得意よ」

 

「よかった、こちらがクーエル草の種で、こちらはカスミザミの花の種になります」

 

「結構な数を育てたいのね」

 

「はい、友人の力になってやりたくて」

 

「あら、あの子のためなの」

 

そう言ってゼニスは少し残念そうな顔を一瞬だけした。

 

「んーならこっちのスペースじゃだめね。ルディ、あっちのスペースに新しく花壇を造りましょう」

 

そう言ってゼニスは庭の反対側のスペースを指でさした。

 

「判りました。少し待ってください」

 

そう言ってゼニスが指定した位置に花壇をつくる作業に取り掛かった。手順をまとめるとこうだ。

 1.レンガのような硬さの土塊のバーを4つ創り出す。(レンガバー)

 2.レンガバーを重力魔術で4辺に置く。

 3.レンガバー同士の接触面に混合魔術でつくった泥を塗っていく。

 4.混合魔術スチームドライを使って泥を乾かす

これで枠が完成したので枠の中が一杯になるように魔力で土を作る。

 

ゼニスは俺の作業を見て、一言「便利ねぇ」と言った。俺がこれくらいやることは想定内なんだろう。

 

「母さま、お待たせしました!庭づくりについてご指導お願いします」

 

そこからはゼニスが先生だった。

畝をつくり、種を等間隔に土から人差し指の第二間接くらいの深さに埋めていく。大人なら第一関節くらいの深さで良いらしい。最後に水をあげればOKだといわれたので土が軽くしめるくらいに水魔法で水をかけた。

 

「ちゃんと芽が出るといいわね。他人に任せずちゃんとやりなさい」

 

ゼニスは優しくそう言って、手を洗いましょうとかお昼寝する?とかいつもより甲斐甲斐しく世話をしてくれた。よく考えると、俺を本当の意味で子供扱いしてくれるのってゼニスだけなんだな。他の皆は俺のことすごいすごいと言って、見る目を変えてしまうけど、この人はずっと俺の何かを見て、そこからブレずに居てくれるのかもしれない。転移事件からゼニスを絶対助けなくては。資金なんてあつまらなかったら知りもしない人のことなんて良い。サウロスには無駄金を使っても良くならないと説得して、エリスは家出させてブエナ村で皆で住むだけなら金貨120万枚なんて必要ないんだから。

 

--

 

俺は夕食の後、ダイニングにいた家族の前でパウロに報告した。

 

「父さま、お待たせしていた風呂を(こしら)えましたのでご堪能ください」

 

「おお、できたか!なら母さんにも言ってあげろ」

 

「はい」

 

俺は、パウロから向き直ってゼニスの方を向いた。

 

「母さま」

 

「なぁに?ルディ」

 

「実は……その、母さまとお風呂をご一緒したいんです。ダメですか?」

 

「いいわ!私からお願いしたいくらいよ!母さん、お腹が少し大きくなってきたでしょう?だから手伝って」

 

「はい!お風呂に入るときに呼んでください」

 

息子と母親の微笑ましいやり取りの後ろでパウロがやらしい目つきになっていた。

 

「ならリーリャも危ないから俺と一緒に入ろう」

 

「いえ、私は一か月ほど遅いのでまだ一人で大丈夫です」

 

「そ、そうか」

 

残念だったなパウロ、でも一か月後には入れるぞ。そう残念がることもあるまい。

 

--

 

夕食から1時間程経ち、俺はゼニスをエスコートして風呂場にきた。

 

「ここが脱衣所かしら?」

 

「そうです、身体を洗うためのタオルを用意したので恥ずかしかったら、前を隠してください」

 

「?何を恥ずかしがるの?」

 

まぁ家族なんだし、そうだよな。ちなみに、結局脱衣所には雨が入ってこないように屋根をつけた。どうしても床に簀の子を敷きたくて、風雨や直射日光にさらされ続けて簀の子がダメになるのを回避するためだ。ただ、そのせいで脱衣所は持ってきたカンテラを使っても少し暗かった。しかたがないので精霊召喚で灯の魔法を使った。他の人たちが使うときのためにもう一つくらいカンテラを引っ掛けておく場所がいるな。

 

そして俺はゼニスの分をあわせて二人分のタオルを持って浴場へと入っていった。前世で嫁と入ったときは興奮が強かったが、今回は娘や妹を風呂に入れてやるときに感じがそっくりだ。それだってもう50年以上前の話で懐かしい話だが、まぁ変な緊張とかはしなかった。

 

「母さま、この椅子に座って体を洗ってから湯船に入ってください」

 

「手順があるのね?」

 

「はい、あとよろしければお背中を流させてください」

 

「お願いするわ」

 

そう言って、俺はゼニスの背中を優しく洗った。その後二人で並んで湯船につかった。

 

「あー、あったかい。これ凄くいいわね!」

 

「でしょう?僕も以前のフィールドワークでやってみてから結構気に入っているんです」

 

湯船に浸かって1分もたたないうちに、ゼニスが笑いだした。急に笑い出すものだから俺はゼニスの顔をまじまじと見たと思う。そんなに風呂が気に入ったんだろうか。

 

「んふふ、ルディってすごい早さで先にいっちゃうんだから母さん少し寂しかったの」

 

「そうですか、申し訳ありません」

 

「だってあんなに強いパウロをもう倒しちゃうんだもの。びっくりしたわ」

 

正確に言えば、5歳のときにはもう倒せる算段がついていたよ、母さま。

 

「でもねこうやって一緒にお風呂に入って、あなたの成長を確認したら、なんかね。うれしくなっちゃって。うちのルディはどんどん先にいっちゃうけど身体は小っちゃな6歳児、まだまだお母さんのおっぱいが恋しいのかなぁ?」

 

そう言ってゼニスは、段差になっている一段高い所に座り直した後、俺をひょいと湯船の中から持ち上げて、彼女自身の右膝の上に横向きに座るように俺を座り直させた。腰までは湯につかっている状態だ。

 

「母さんが恋しかったらおっぱいどうぞ」

 

むぅ・・・別に恋しくはないんだが。一瞬の判断だった。大人ぶるか子供ぶるか。でも今日は子供らしく親孝行しようと思ったんだ。なら選択は一つ。

 

「母さま、好き」

 

そう言って俺はゼニスの胸に頬をあてるように抱き着いた。さすがに吸い付いたりはしなかった。ゼニスも俺を抱きしめて、背中を(さす)ってくれた。しぐさが昔会ったテレーズに似ていて笑顔が抑えられなかった。姉妹だからな当然か。

 

その後、一緒に風呂を出て、着替えて、久しぶりに一緒のベットに入った。枕はゼニスの二の腕だ。

 

「ねぇルディ?好きな子ができたら大切にしてあげてね。浮気は駄目よ」

 

「はい、母さま」

 

「シルフィアーナの子のことはどうなの?」

 

「シルフですか?彼は良き友人ですよ」

 

「そ、そう」

 

俺はそれ以上の話が都合の悪い話だったのでゼニスにしがみついた。

 

「あらあら」

 

ゼニスは俺の頭を撫でた。石鹸の香りが一杯してすごく幸せだった。俺は眠りに落ちた。

 

こうして俺のゼニスへの親孝行な夜は終了した。

 

そうそう、次の日、パウロとリーリャから風呂が良かったとお褒めの言葉を頂いた。彼らに対しても、ついでになってしまうが親孝行できただろう。

 




次回予告
今の状況・状態というのは成るべくして成っている。
それはある種の真理だ。
しかし未来が無限の可能性を持つのと同じく
状況・状態というのは誰かの意図や気付きにより
容易に変わり得るのも、ある種の真理だ。

次回『植物学者ルーデウス』
だからこそ目の前の当然に疑問を抱き、真理を解き明かそう。
未来を変えるそのために。
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