無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。

今回の話では
 ・伝説のオウガバトル
 ・勇者警察ジェイデッカー
のネタが含まれます。あらかじめご了承ください。


第040話_魔術予想と影の犬

---相手からより多くを得るものは賢者になり、相手からよりすくなく得るものは愚者になる---

 

俺は季節が丁度良いと判断してシャリーアに出店作業に来た。この街は勝手知ったる街だ。土地管理斡旋所に行き出店場所を決める。ついでに前世で我が家にしていた家が空き家かどうか確認すると、あの家は既に空き家になっていた。以前住んでいた老人が変死したらしい。

俺は出店作業を一通り済ませて ―内装業者はバルダが居たので彼に頼んだ― 空き家へと向かった。地下室の扉を開ける。そこには目的の物がならんでいる。プログラムされた魔石を外し人形を動かないようにすると、人形の本体と残された設計書を持ち出してブエナ地下室へと運んだ。

ブエナ地下室に来たついでに良いことを思いついた。まずは本棚に置いてある商売用の教科書とドリル3冊を手に取る。そして、シャリーアに戻るとそのままラノア魔法大学に来た。

懐かしき我が母校、ラノア魔法大学。巨大な校門の脇に守衛室がある。

 

「すみません」

 

「何か用かね」

 

守衛の男に声をかけると、気安い返事が返って来た。

 

「実は部外者なのですが、ジーナスさんか無詠唱魔術ができる先生とお会いしたいのです。あの、ご苦労をおかけすると思いますが何のアポもとっていません。ご無理でしょうか?」

 

「君、魔術師かい?」

 

「はい」

 

そう言って魔術ギルドの会員証を見せる。

 

「そうか、少し時間が掛かるかもしれないが待っていられる?」

 

「お構いなく、ここで待っておりますので」

 

「そうか取り次いでみるよ。名前は?」

 

「ロキシー・ミグルディアの弟子でルーデウス・グレイラットと申します」

 

守衛の男、推定年齢40歳はゆっくりとした足取りで校舎へと歩いていく。あの先には初代学園長の像が立っていて近くに職員室がある。

待つこと30分。

守衛より先に走ってくる男が見えた。誰かは判っている。ジーナスだ。

 

「はぁ、はぁ、やぁ!」

 

「どうもこんにちは」

 

ルーデウススマイルで挨拶する。走りながら声をかけてきたジーナスは目の前まで来ると、息を整えるのに少し時間をかけた。同じように遅れて走って来た守衛が視界の端に映る。彼は若干恨めしそうにジーナスを見つめつつ、同じように息を整え、ジーナスより先に守衛室に戻って行った。

 

「君がロキシーの弟子っていう?」

 

「ルーデウス・グレイラットです。聞き及んでいるお姿からしてジーナス教師ですね。はじめまして」

 

「あ、は、初めまして。随分礼儀が正しいね」

 

「ありがとうございます」

 

「立ち話もなんだからさぁどうぞ」

 

ジーナスの手招きで俺は魔法大学へと足を踏み入れる。その間にジーナスは守衛に感謝していた。

ジーナスに引率されて俺は応接室に至り、促されるままに椅子に座った。対面にはジーナス。それに見たことのないヨボヨボの爺さんが斜め右に座っている。

 

「それで何の用があって来たのかな?入学かい?」

 

「その前にこちらの方のご紹介を頂いてもよろしいですか?」

 

「儂の名はギゾルフィ・アリアバード。この大学では無詠唱魔術の専門家とされておる」

 

俺も名乗ろう。

 

「私はルーデウス・グレイラットです。お見知りおきを。さて、伺いましたのはお伝えしたいこと、確認したいこと、それにお願いしたいことの3つがあるためです」

 

「ギゾルフィ先生に関係するものからお願いできるかな?」

 

「そうですね。では確認したいことから。実は僕も無詠唱の魔術が使えるのですが」

 

「何?」

 

「信じられませんよね」

 

そう言ってテーブルの上に無詠唱で土のコップを造り出し、掌からコップの中へとお湯を注ぐ。

 

「こんな感じです。どうぞ」

 

そう言って俺は湯の入ったコップをギゾルフィへと手渡した。コップを受けとったギゾルフィがブツブツと考察する。ジーナスもそれを眺めて黙っていた。

 

「ルーデウス君、君は『土弾』とその整形、『水滝』と『灼熱手』の無詠唱ができるようだな」

 

ギゾルフィの結論。どうしようか。まぁ良い、ここは素直にいこう。

 

「えーっと今使った魔術はその通りですが、特に制限はありません」

 

「そ、そうか」

 

ギゾルフィが焦りの表情を浮かべる。

 

「それで無詠唱魔術を使用するときに私は魔力を練ってから威力と速度を定義しているのですが、ギゾルフィ先生の場合はどのようにされていますか?」

 

「儂の場合は、速度と数を定義する」

 

ほぅ数!!

 

「数。どのタイミングで行うのでしょうか?」

 

「速度の終了時間を定義したあとじゃ」

 

!?

 

「お待ちください! 速度の定義の中に終了時間が含まれているのですか?」

 

「なるほど、お主の言う速度とは放射速度じゃな?」

 

俺はそれを射出速度と呼んでいるが同じ意味だろう。

 

「そうです」

 

「面白い。お主さえよければ明日、儂の研究室に来ないか。話が白熱しすぎるとジーナスが気の毒じゃからな」

 

それは願ったり叶ったりだ。

 

「す、すみません。ジーナスさん」

 

「いや、構わないよ。ウチの孫弟子は賢者ギゾルフィと高度な魔術議論ができる。鼻が高い話だよ」

 

「良い弟子を持ったなジーナス。この子のこと頼んじゃぞ。明日は儂の研究室へ連れてこい」

 

「はっ。判りました」

 

そう言うとギゾルフィは応接室を出て行った。出て行くのを見届けたジーナスと俺は話を再開する。俺がジーナスに伝えたいこととして、ロキシーがシーローンで軍事顧問をして元気にやっていること、いつか教師になりたくて挨拶にくるかもしれないこと、を話した。

また、自分がルード商店で売っている読み書き算術の教科書とドリルを授業で使って見て欲しいと願い出て、サンプルで持ってきた本を寄贈した。

俺の話を聞いたジーナスはロキシーが元気でやっているという話で気を良くし、教科書については初等科の教師に見せてみると請け負ってくれた。そして明日からも学校に来るならといくつかの書類を書かされた。まともな説明がなく騙された形をとったが、俺はその書類が何か気付いている。これはこの大学への特待生用の入学願書だ。俺はすぐには入学するつもりが無い。ただし、その書類を書くことで学生証が発行されることが判っているので余計なことは言わずにおいた。ギゾルフィの研究室へ顔パスで行けるようにするための手続きなら今は従っておこう。

ジーナスはその日の別れ際にギゾルフィの研究室への構内地図もくれた。賢者ギゾルフィ、前世で会えなかった優秀な魔術師の話を聞く日々が始まる。

 

--

 

1か月の間、ギゾルフィと議論したことでいくつかの新発見があった。無詠唱で魔術を構成するとき俺は、

 生成→サイズ設定→射出速度設定→発動

という工程を踏み、射出速度はデフォルトでゼロであるからこれを再設定しなければまともな魔術として発動できないという認識でいた。また各工程には制限時間があるので制限時間を超えるとタイムアウトして次の工程に強制移行する。

だが、俺が理解していない工程が存在するのだ。ギゾルフィの感覚によれば無詠唱魔術は

 生成→速度設定(変位設定→開始時間設定→終了時間設定)→個数設定→発動

という工程なのだそうだ。

彼は無詠唱で、『風裂(ウィンドスライス)』を使い続け、さまざまな実験をしていたある日、生成した魔力の塊に制御を加えて『どこからどこに移動させるか(変位設定)』、『どこからというのを何秒後にするか(開始時間設定)』、『どこにというのを何秒後にするか(終了時間設定)』、『いくつの鎌鼬を発生させるか(個数設定)』を変化させられることに気付いたという。尚、位置と時間を決めることで速度が求まるという。

中卒の俺にはよくわからなかった。いや理科で習った気もしたが、なにしろ百年前くらいの話で記憶が曖昧だ。難しい顔をしているとギゾルフィが物理の初歩も併せて教えてくれた。

一方で俺の無詠唱後の実験は、生成する『岩砲弾』の土の生成をより凝縮したものだ。これを俺は何となくやっていたが、それは生成の強化や重ねがけに近いというのがギゾルフィの見解だ。そして俺の無詠唱を体得した方法は、詠唱魔術を使ってからその魔力の流れを無詠唱で再現するというものだったので、変位設定や射出速度、個数設定を再現しようとしても上手くいかなかった。そもそもの詠唱内容にそんな内容が含まれていないからだ。

そう結論付けると、ギゾルフィはそう判断するのは早計だという。彼の推論はこうだ。

 『もしルーデウスが再現する魔力の流れが詠唱したものと寸分違わないものだとする場合、速度がゼロになるのは魔術の発動と結果が矛盾している。そうではなくて、ルーデウスが再現している魔力の流れが詠唱したものと僅かに異なるため速度がゼロになってしまっている場合、魔術の発動と結果は矛盾しない。また、ルーデウスの再現方法によって呪文と魔力生成や制御が一対一で対になっていることが判る。つまり生成の工程の後に我々が設定していると考えている工程自体も本来は、呪文と対になる可能性を持つ。その場合、我々がサイズ設定や射出速度設定、変位設定などと呼んでいる工程に対する追加詠唱文が存在する。もしくは我々が生成と呼んでいる工程に該当する呪文が本来の呪文を短縮したものであるなら、完全呪文詠唱文が存在する』

中々に良く出来ている。確かに賢者と呼ばれるに値する男だ。なぜなら、彼の推論は無詠唱魔術を研究しようとして追加詠唱文や完全呪文詠唱文が存在するかもしれないという全く逆方向の魔術予想へと至ったが、それに躊躇いがないからだ。自分が探しているものが碁石でも、瓢箪から駒がでてきたときそれを喜ぶ懐の深さがある。

もし彼の推論が正しいとするなら、俺は追加詠唱文を手に入れて実際に使い、魔力の制御方法を体感することで遅延詠唱や個数増加/減少の魔術が使えるということになる。さらに生成の工程で行う魔力の流れを正確に再現しようと努力することで速度設定無しで詠唱と同等にすることが可能になる。まぁ後者の速度設定の工程は一瞬の話なので簡単に体得できなければ諦めても良いだろう。

ギゾルフィはこれから書く研究論文に俺の名前も追加してくれるらしい。その研究論文が認められれば俺は自動的に魔術ギルドのランクがあがるそうだから期待していよう。

その後、せっかくラノア大学に来たのだからと俺は大学の図書館へ行き、忘れていた解毒魔術の中級と上級の詠唱文をメモした。今度シルフィへ出しておいた宿題を確認するときのカンペだ。

最後に、ジーナスに「やらねばならないことがあるので来期からの入学は難しく、暇ができたらこちらからまた顔を出します」と告げてラノアを後にした。

 

--

 

シャリーアでの作業が終了してアルスに帰って来ると俺は8歳になった。実家に帰らずにもう5か月になる。

アルスに戻った俺は工房へと行き、ルード鋼の在庫状況を確認した。タルハンドは憑りつかれた様にルード剣を製作し続けている。また酒でも買ってきて差し入れしよう。俺はタルハンドの邪魔をしないようにルード商店へと戻った。

 

「ルーデウス殿」

 

「どうしたのエビス?」

 

「このままでは目標金額に及びません」

 

俺はエビスにこの支店だけでなく全支店の利益の管理を任せている。

 

「判ってる」

 

「アルスの全支店とワイバーンの属国への開店が早急に必要です」

 

アルスの東西北に各支店、ワイバーンの属国たるサナキア、キッカ、シーローン。残り6店舗。

 

「まだ予定の期日まで2年あるんだ。そう急くことがあるかな?」

 

「ルード剣をこのペースで作っても期日までにはせいぜい800本というところでしょう」

 

エビスの計算は1日1本休まず作った場合だろうけど、それでも実質200本強が不足するわけか。金貨にして10万枚以上。初期費用が不足する。

 

「予定通り、ルード商店の目標は事件発生後からの年8万枚のアスラ金貨だ。初期費用の不足は僕が転売と別の商売で埋め合わせるか、タルハンドさんを僕が補助して本数を増やすかするよ」

 

「ですが……。いえ、判りました」

 

「ハァ。しょうがないな。あと1か月はアルスにいるからアルスの残りの支店については立ち上げておく」

 

「助かります」

 

それから休む暇もなく3店舗の立ち上げを行った。ルード商店アルス東・西・北の各支店だ。一段落して南支店のカウンター横で書き取り用ドリルの製作をしていると見知った声が聞こえた。

 

「あら?ルーデウス君?」

 

声につられて顔をあげるとイゾルテが居た。

 

「おや、イゾルテさんお買い物ですか?」

 

「ここってやっぱりあなたのお店だったのね」

 

「やっぱりとは?」

 

「以前、ここで本を買ったのだけどその著者が貴方の名前だったから」

 

「本、買ってくれたんですね。ありがとうございます」

 

「あなたの本のおかげで救われた子もいるの。こちらが感謝したいわ」

 

「そうですか、今は別の本を書いていますので出来上がったらまた買って頂けると嬉しいです」

 

「わかったわ。そうだ! 直筆のサインが欲しいっていう子がいるんだけどお願いできるかしら?」

 

「お安い御用です。僕はいつもここに居るわけではないですから……今からサインしても良いですよ」

 

「御免なさい。本を持ち歩いているわけじゃないから」

 

「それなら新品の本にサインしますので取り替えてください」

 

「でも、もう随分と読み返してくたびれてるから悪いわ」

 

「んー。なら水聖イゾルテ・クルーエルのサイン付きでお返し頂ければウチにも得がありますので」

 

そんなやり取りの後、結局、イゾルテにサイン付きの読み書きの教科書を押し付けた。数日して約束通りにイゾルテは自分のサインが入った同じ本を持って寄越したらしい。俺はその時にはもう別のところに移動していた。ただまた別の機会に訪れた彼女は、本が店先に飾られて客寄せに使われていることにショックを覚えたという。

 

『売れてます!あの美人剣士の愛読書!』

 

--

 

前回の帰宅から6か月が過ぎていたので流石に1度、実家に戻った。パウロ・ゼニス・リーリャに挨拶する。両親たちに無事を報告したが、彼らとできるだけ話さないようにした。たぶん他所他所しかっただろう。いや心を閉ざしていた。なぜ自分がそのように振る舞ってしまうのか何がしたいのか、もう自分が良く分からなくなってきた。特に母たちはエリスの話を聞きたがった。しかし、この6か月の内、サウロス邸に居たのはたったの2週間だ。他は俺が行くはずがない場所で過ごしている。俺が隠しているから彼女たちはそんなことすら知らない。何も語ることがない。語ろうとすれば何もかもが矛盾するだろう。

妹たちは無邪気に庭を走り回っている。それを部屋の窓から見ていた。当たり前のことだが、妹たちの周りにはリーリャかゼニスかはたまたパウロがいる。妹たちと遊んでやりたかったが、彼らと必要以上に関わることがもう恐ろしく感じていた。

なぜ恐ろしいのか、バレること自体が恐ろしいわけではない。剣術と魔術の腕は、才能と出会いで誤魔化せるならまだ良い。誤魔化せない事態に直面したとき、その先に得体の知れないものを見るような扱いをされる可能性があるのが恐ろしい。いや普通なら、この両親たちは信頼できる。彼らの人格は拒絶や忌避と無縁のものだ。でも俺から先に隠し事をしたのだから、露見したときにその信用は失われてしまうはずだ。駄目だ思考が付いていかない。それ以上のことを考えようとすると胸焼けと吐き気がする。

無事であることは伝わったんだ。早々に退散しよう。ロアのときのように眩暈で体調不良がバレるのは絶対に無しだ。

そう心に決めてからシルフィとすれ違いのままではいられないので、こちらから彼女の家に会いに行った。

 

「ルディ、大丈夫?」

 

彼女の話し方も随分、子供らしさが抜けてきている。

 

「あぁ、元気だよ」

 

彼女が飛び込んできたら抱きしめようと思った。でもそうはならなかった。

 

「また旅にでるの?」

 

「寂しい?」

 

「私も連れてって」

 

「ロールズさんとフィアーナさんを悲しませたくない」

 

「ルディだって、おじさまやおばさまたちを悲しませてる」

 

「そうだね」

 

「ごめんなさい」

 

「良いんだ。本当のことだから」

 

本当はここで抱きしめるべきだと思った。でも今の俺には出来なかった。馬鹿なことだ。シルフィ1人だけを愛そうとしているのに、その1人から距離を置く。

矛盾している。何もかもが。胃がキリキリしてきた。少し前まで彼女だけが癒しだったのに。

その後、話を逸らすようにシルフィに出しておいた宿題について確認すると、ゼニスに聞いたものだけが補完されていた。不十分な気もしたがやる気があるので良しとした。あとで確認するようにと残りの詠唱文を書いたカンペをそのまま彼女に渡す。やっぱり俺はシルフィに甘い。

そこまでで限界だった。家族は難色を示したが俺はたった1日で自宅を後にした。その時、10歳の誕生日までには帰ってきますと置き手紙をした。

 

--

 

ロア本店を経由してアルスに戻って来た俺は資金稼ぎと剣の修行をあわせてダンジョンや迷宮、魔物の討伐をすることにした。まず向かったのが、魔大陸リカリス南西の山だ。この魔力が充満する山を魔物牧場とすることを考えた。俺はフェンリル2体とバルバトスの4人編成で周囲の魔物を討伐し、魔物がドロップする魔石と共に、収穫用の人形精霊を造ってその死骸を転移魔法陣近くに集める。集まった死骸を切り分け用の人形精霊を使って部位ごとに分けていく。作業の光景はさながらキャンプの調理場のようだった。ただ匂いは生臭くてきつかった。因みに使わない部位はゴミ箱用の穴を掘って捨てさせた。焼却処分はしない。これらの死骸は他の魔物の糧となる。集まった部位はキラーマンティスの外骨格、ゼラチナス・マターの内臓、トウテツの角・皮・骨、火食い鳥の羽、魔石を集めるとともに、これらはネリス魔道具工房に素材として卸した。ただ、一か月に3日も討伐すれば周囲の魔物が少なくなるのであとは別のことをする必要があった。

丁度良いのでシーローン周辺にルード商店を出店しつつ、迷宮の攻略を始めた。シーローンに行くと決めたことで俺は別の選択もしなければいけなくなった。それはロキシーと会うかどうかだ。もし会うとすれば『何を話す?どうしてシーローンにいる?』その説明がつかない。また、会わない選択をしても『迷宮を攻略して有名になり、ロキシーの知るところ』となれば、どうしてシーローンにいる?という点で問題が起きる。

結果として、俺は【会わない】を選んだ。そして問題にならないように迷宮探索のときはルード・ロヌマーの偽名と仮面をつけることにする。段取りが良かったおかげで迷宮攻略は順調に終了した。

ドロップアイテムを集め終え、1番信頼がおけるラノアの魔術ギルド本部へ鑑定に出す。鑑定依頼が済み、アルスに戻り、工房に行ってタルハンドへの挨拶と在庫確認、ルード剣の製作の手伝いをした。それからさらにルード商店に戻って、皿の補充、像の製作、魔力結晶と魔石の販売をした。そうして販売状況からエビスと資金繰りの相談をする。だが以前もエビスが言った通り、それでも資金が足りないという。

結局、3つのことを追加で行った。第1にキシリカ城に潜入してソーカス草を失敬し、転移ネットワークの各地下室で栽培。茶葉として販売する。第2にルード鋼をつかった製造用の器具を軍務省へ納品する。第3にアルマンフィ人形:Ver.立ち姿、赤竜、王竜、地竜、水竜、魔石多頭竜の像、空中城塞のジオラマをペルギウスへ販売する。

そんなことを繰り返し、また魔物牧場に行く。あっという間に1年と半年が過ぎた。

いつも通りにエビスと資金繰りの相談をしようと南支店に行くとエビスが言った。

 

「おめでとうございます」

 

「ん?何が?」

 

「復興の初期費用の資金繰りが軌道に乗りました」

 

転移事件が起こるまで残り数か月、ギリギリのラインだったな。少し感慨深いものがあるが出て来た言葉はあっさりしていた。

 

「あぁ。そうなんだ」

 

「嬉しくなさそうですね」

 

「そんなわけはないよ」

 

「そうですか」

 

この1年半はあまり細かいことを考えなくて済んだ。それがもう終わると思うと少し残念だった。また胃が痛い話か、ギレーヌは俺が死ぬなんていってたけど全然平気だったな。

金が集まったなら、次にやるべきことは決まっている。

 

--

 

まず夜のシルバーパレスへと赴く。重力魔術で空から後宮に忍び込んだ俺は、アリエルが普通にしていることを願いつつ、彼女の部屋へと入って行った。中に居たのは何人かのメイドだけで、ルークとデリックはおそらく隣の部屋で待機しているのだろう。

 

「こんばんは。夜分に失礼します。アリエル様」

 

そう言った瞬間、土魔術で扉も窓もすべて塞いだ。

 

「何者です?」

 

「ルーク従弟兄(にい)さんの親戚でルーデウスという者です」

 

「私を殺すのですか?」

 

「まさか。その逆です」

 

「貴方をお守りする守護魔獣を召喚するために参上しました」

 

「私には守護騎士と守護術師が既におりますから余計ですわ」

 

「これから起こる凶行を生き残れませんよ」

 

「あなたのように瞳の奥が暗い子供が1番危険に見えます」

 

「この歳になるまでに色々あったんですよ。でも仕方ありませんね。召喚はあなたの信頼がなければ成功しません。今日がダメならまた後日、お伺いしたいと思います。もし必要であればアスラ王に僕が信頼できるかご確認ください」

 

7日後、同じ方法でアリエルの部屋へと来たが、そこに彼女は居なかった。ルークかデリックの考えで部屋を移動したのだろう。溜息をつきながら、バルバトスを召喚してアリエルの居場所を探させる。バルバトスが1つの部屋で立ち止まったのでその部屋へと悠々と入って行った。真っ暗なメイドのための部屋。灯の精霊を使って部屋を照らす。そこにアリエルが居た。夜も遅かったので少し眠た気だ。

 

「本当に来たのですね」

 

「お約束通りです」

 

「ルークに話を聞きましたわ。あなたのお父上はノトスを出奔されたパウロという男らしいですわね。その恨みですか?」

 

「上級貴族など興味ありません。ただアリエル様をお守りする必要があると言っているだけです」

 

「守護魔獣を使って?」

 

「私がお守りしたいところですが、あいにくと忙しい身でして。あなたが納得しないならもう1度だけ来ますがどうしますか?」

 

「いえ、早く終わらせた方が良い気がしてきました。どうすればよろしいので?」

 

「自分を守る動物をイメージしてください。できればアリエル様と一緒に王宮に居ても問題がないものが良いですね。イメージできましたか?」

 

「そうですね。胸の谷間で隠れるような小動物が良いですわ」

 

「判りました」

 

俺は彼女の説明のふざけた部分は無視してイメージする。強くてアリエルを常に守れる動物!

 

「でませい! 守護魔獣!」

 

俺の魔力に呼応して魔法陣が光を放ち、召喚光が部屋を染める。魔力を込め続けると魔力が引っ張られる感触、その感触の元を手繰り寄せる!

すると1匹の黒い犬が魔法陣から引っ張り出された。召喚光が収まり、灯の精霊だけが残る。黒い犬。俺の知識で言えばドーベルマン。大きさは……これは胸には収まらないです。普通に大型犬です。

 

「さすがに、この大きさは私の胸には収まりませんが」

 

犬はアリエルの影に入るとすぅっと闇に沈んだ。

 

すげぇ!影に溶け込む魔獣。これ敵で出て来たらめっちゃ厄介だけど……

 

「あら、便利」

 

すぅっと戻ってくるドーベルマン。

 

「お前は今日からシャドウ丸だ。アリエル様をお守りするのが役目だ」

 

シャドウ丸はだまって座っている。こいつ音を全く立てないタイプの犬っころだな。

 

「アリエル様、普通に食事を摂ると思うのでエサをあげてくださいね」

 

「判りましたわ。よろしくねシャドウ丸」

 

アリエルに頼まれたシャドウ丸はアリエルのスネに耳の後ろを擦りつけて同意を示した。大丈夫だろう。

 

「では、ご無事でアリエル様」

 

「疑って悪かったですね」

 

俺は頷いてそのまま窓からテラスに出て帰った。シャドウ丸、俺も飼いたい。

 




ルーデウス9歳と8か月時

持ち物:
 ・日記帳
 ・着替え3着
 ・それなりに上等な服
 ・パウロからもらった剣
 ・ゼニスからもらった地図
 ・ミグルド族のお守り
 ・魔力結晶×7 (資金不足のため、シーローンで得たものと共に販売)
 ・魔力付与品(マジックアイテム)
  短剣(未鑑定)
 ・魔石
  黄色(大) (資金不足のため、シーローンで得たものと共に販売)
 ・神獣の石板
  スパルナ
  フェンリル
  バルバトス
  ガルーダ
  ダイコク
  エビス
  フクロクジュ
  ジュロウジン
  ビシャモン (New)
  ベンザイ  (New)
  ホテイ   (New)
 ・商い行為許可証inフィットア領×3
 ・商い行為許可証inアスラ王領×4 (+3)
 ・アルマンフィ人形:Ver.立ち姿 (ペルギウスに販売)
 ・ラトレイア家人形
 ・ミグルド族秘伝の香辛料×2袋

ブエナ地下室
 ・復興資金:771721枚 (+727060)
 ・狂龍王の残した自動人形の設計書 (New、以後は保管棚へ)
 ・狂龍王の残した自動人形     (New、以後は保管棚へ)

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