無職転生if ―強くてNew Game― 作:green-tea
---迷える者は
私はあの日あの時、ルディが笑っているのを見た。
デートのときに笑顔でいた彼。次に会ったときは直ぐに蜻蛉返りで旅に出ると深刻そうな顔で挨拶しにきた。そして最後に見た彼はニヤニヤと奇妙な笑みを浮かべていた。私はそれをはっきりと見た。
私は生きてきた中で、これほど多くの人たちを一度に見たことはなかった。きっと村人の何倍もの数だろう。そんな人数の人たちが光に飲まれながら星になっていくのを見て恐怖した。そして、その惨事に巻き込まれないようにしようと必死であがく人々が我先にと、私たちのテントやもっと向うへと殺到する様を見た。人間の生の感情がぶつけられるようで身体は収縮し、ルディと繋いでいた手の力は強くなった。それから強い彼に守って貰いたくて縋る気持ちで私は彼の顔を見た。安心したかった。彼と恐怖を共有し、あの時は大変だったねなんて思い出に変えたかったのかもしれない。
でも。
彼は笑っていた。いや笑いを堪えようとしていた。本当は踊り出したい程の悦びだったのではないか。
気持ちが離れていく。なぜ彼はそんな風に思えるのだろうか。判らなくて言葉に出した。
「ねぇルディ、なんで笑ってるの?」
「え?」
彼の手の力が緩んだ。図星だったから。私の勘違いではない。今まで好きだった気持ちがみるみる内に萎んで行って、同時に私も強く握っていた手が離れていた。自分の気持ちを表してしまったようだった。
そして彼の目は全てを察していた。
--
避難キャンプでの生活が始まってから、ロアの領主夫人が率いる復興のための女性チームに、私はブエナ村代表の1人として参加した。私は自分でその代表に志願した。師匠は子供が参加するものではないと最初は辞退させようとした。でも私が村のテントにいるならば、ルディの所に行かないのは何かあったと周囲に触れ回るようなものだ。ここまで応援してくれた皆に私は何と言えば良いのか。まだ答えは見つかっていない。
指示されたテントに行くと、話にだけは聞いて知っていたエリスさんもいた。もう数年も前のことになるがリーリャさんが「領主の娘のエリスという子がルディのことを好きになってしまうかもしれない」と、そう言っていた。ならば知らせておかなければいけないことがある。
この赤い髪の女の子。ルディも友達になったと言っていた。実は私が知らないだけで、ルディと彼女は友達以上の関係になっているかもしれない。少し前ならきっと、本当はどんな関係なんだろう?と気になっていたところだ。でも今はそんなに気にならない。あれだけ私の事をいろいろと気に掛けてくれていたのに。私もあんなに好きで好きで仕方なかったのに。
だけど、私はおそらく彼の本性を見た。彼は人が沢山死ぬところを見て、大勢が命からがら逃げる様を見て心の底から笑っていたんだ。ぞっとした。
彼は弟子の私にこうも言った。「アスラ王国の宮廷魔術師とか騎士団に入れるレベルになれると思う」と。ならば私よりずっと強い彼はどんな存在なんだろうか。私が10人いても20人いても彼にはきっと敵わない。なら彼は1人でアスラ王国の宮廷魔術師部隊と闘い、勝利できる。彼は1人でアスラ王国騎士団を相手にして、勝利できる。それは人間を超越した存在だ。
彼は、彼自身が教えてくれた歴史に出てくるような偉大な豪傑たちと対等に渡り歩く存在。もはや同じ人間とは思えなかった。
師匠に6歳のときに勝ったのを見て、すごいすごいと言っていた自分はなんて呑気だったんだろう。師匠は村を守る騎士だ。村で誰よりも強い騎士だ。その騎士より強いのがルディだ。私はこの数年間で師匠の強さが分かって来た。そしてルディは6歳でそれよりも遥かに強かった。あの時のルディの動き、今思い出しても理解ができないレベルだ。そうだ、あのとき彼は魔術を使わなかった。
旅に出てその手はもしかして血にまみれたのではないだろうか。私の知らないところで、私が握っていた手で、何人もの人を殺してきたのではないだろうか。そうでなければ、あの状況であんな笑顔でいられるはずがない。ノルンが生まれた時の光景が重なり、予想は確信へと変わった。
私はどうすれば良いのだろう。自分をイジメから救ってくれた救世主が闇に堕ち魔神になった。私はそれを知っても彼を妄信すべきなのだろうか。それとも人の道に反するとして裏切るべきなのか。少なくとも、もう私は彼のことを信じたり、傍にいることができない。でも彼には恩義がある。恩人を裏切る行為はできない。それもまた人の道に反するだろうから。それなら、なるべく近づかずに生きよう。そうしよう。
--
女性部の本部は炊事、洗濯、赤ん坊の声、それらに対処するための指示の怒号、まさに鉄火場といった様相だった。この避難キャンプのすぐ近くにはアルテイル川から分岐した小さめの川がある。この川はブエナ村も通っているはずだけどブエナ村を通っているときよりも流量は増えている。たしかブエナ村の南東の村で赤竜山脈側から来た別の川と合流してここに来ているはずだ。今、その川の使い方は3つに分かれている。最も上流で炊事に、その少し下流で洗濯に、さらに下ったところで下水として利用する。
女性部で仕事場に配属される前に私は自分が魔術師だとチームに告げた。背筋のピンとした涼やかなリーダーは、私を炊事場と洗濯場の中で最も川から遠い場所に配置して、そこで水魔術をつかって真水を生成する任務に就かせてくれた。
任務は水を生成するだけでほとんどは暇だ。私と同じように避難してきた魔術師のおじさんと2人で水を生成する。おじさんはすぐに息切れするらしく、朝の食事の準備と後片付けを手伝ってどこかに行ってしまう。おじさんはなぜ初級の水魔術を使うのに詠唱を行うのか、私は良く判らなかった。1度に生成する量も操作できないし、何より顎が疲れる。非効率だ。
私はおじさんが帰ってしまった後も洗濯場、昼夕のご飯の準備と片付けまで手伝って夕方過ぎに家族のテントに帰る。
最初の頃はそれで済ませていたけど、数日で飽きてしまった私はせっかくだからとゼニスさんやリーリャさんに教えてもらったことを役に立てることにした。要は料理や洗濯を手伝った。
私は手伝いをしながらルディのことを考えていた。これまでのように愛おしいから、寂しいからではない。あの恐ろしいものになってしまった彼のことをどのように皆に伝えるかを考えていた。この3年間、ゼニスさんもリーリャさんも師匠にも私は良くしてもらった。本当にお世話になった。
皆、私と同じで呑気にブエナ村で暮らしていたのだから、もしかしなくても彼があのようになってしまったことを知らないはずだ。ならば私は伝えるべきだと思う。彼らの大切な子供だとしても彼は狂っていて危険な存在であると。それは気付いた私がすべきことだ。
どんな風に? 『あなたの息子さんは人間の皮を被った悪魔ですよ』と真実をはっきりと言葉にして伝えれば良いのだろうか。散々世話になった人たちにそんなことを言って良いモノか。
ゼニスさんはショックで寝込んでしまうかもしれない。そうだ。エリスさんに同じことを伝えるつもりだから、まずはその時の反応を見てみよう。持って行き方を間違えたくない。
--
そうした思惑から機を窺っていると、数日後にエリスさんが洗濯場にやってきて皆の輪に入って一緒に洗濯を始めた。
「お嬢さま、あまりゴシゴシすると服が傷みます」
「そうなの? でも汚れが落ちない気がするわ」
などと話している。貴族のお嬢さまでメイドさんを従えているのになぜこの人は洗濯物なんて洗っているのだろう? しかも全然嫌そうじゃない。私が見たことのある貴族は下級貴族相当の師匠だけで偉そうな感じはしない。だから貴族っていっても偉そうにするものではないと考えることもできる。だけど師匠の持っている本に出てくる王様とか大臣とかそういう人はもっと偉そうだし、その子供は偉そうにしているイメージで書かれていた。どちらが正しいのかは判断が付かない。もしかして師匠とこの子は特別に貴族っぽくないと言うのもあり得る。
師匠と違うところもある。彼女の所作だ。私がリーリャさんに最近まで習っていた宮廷式の礼儀作法に似ていて、さすがお嬢様という感じだった。それでいて剣士特有の獰猛な感じもある。リーリャさんとパウロさんが奇妙に混在している感じに近いだろうか。私は彼女の隣に並んで服を洗い始めた。
少し時間が経って、私とエリスさんにお付きのメイドさんの3人だけになってから私は声をかけた。
「あの、あなたがロアの領主様のところのエリス様ですか?」
「そうよ。あなたのお名前は?」
「私はブエナ村のシルフィエットです」
「もしかして、シルフィ?」
彼女は私の名前を知っていた。ルディがロアに行っていたなら私のことも話の種になっていたのかもしれない。
「はい。ルディの幼馴染のシルフィです」
「そう。あなたが。初めましてシルフィ。私はエリス・ボレアス・グレイラット。ルディの幼馴染ならエリスって呼び捨てにしてくれても良いわ」
「そんな、畏れ多いです。それに私、もうルディとは友達を続けられないって思っているので……」
「? 何かあったの?」
彼女の質問に応えて私はルディが狂ってしまっているという話をした。さてどのような反応をするのだろうか。
「なーんだ。そんなこと」
彼女はあっけらかんとした感じで特に驚いたりはしなかった。手を止めることなく洗濯作業を続けている。私の作業は止まっていたけど、洗った衣服を彼女が渡してきたので作業は再開になった。
私は水魔術をつかって泡を落とす。
泡を落とし終わったら隣のメイドさんに衣服を渡して
「私は剣で魔獣を倒したことがあるから、別にルディが沢山の人を殺していても平気だわ。剣王や水帝に勝てる男だもの。それに彼はそこらの雑魚なんていちいち殺さない。そういうヤツは簀巻きにしたあげくに猿轡を噛ませてからほっぺをひっぱったり、デコピンしたりするタイプだもの」
なぜか彼女がそういうと隣のネコミミメイドさんがクスクスと笑った。今の話のどこかに笑うところがあったのだろうか。もしかしてこの人たちも狂っているのだろうか。
「まぁいいわ。それで? つまり、あなたはもうルディと付き合うのを控えてくれるのね」
「そう……なりますね」
「でも困ったわ。私はもうルディに捨てられてしまったのよね」
「そうなんですか?」
「えぇ。あなたのが大事だからって捨てられてしまったの」
「それはその……申し訳ありません」
「謝らないでよ。選んだのはルディよ。それにあなたがそれを私にわざわざ伝えたってことにも意味があると思っているわ。でもそうね。少し不思議に思うのだけど、なぜ私にそんなこと言いに来たの?」
「その……。ルディのご両親にはお世話になっているので、この事を伝えなければいけないと思ったんです。でも内容が内容ですから聞いた人がどう感じるのかなってそれで……」
「私は実験台ってわけね」
「あ、はい。その通りです」
不味い。やはりお嬢様を怒らせてしまったかもしれない。なんとか宥めるための説明を考えていたけど、その必要はなかった。
「良い度胸してるわねって言いたいけど、私にも色々得るものがあった話だもの。許してあげるわ。そう。でも私を実験台にしたくらいでは私だけ得してるわね。釣り合いはとれていないといけないわ。だから良いことを教えてあげる。その話はルディのご両親には言わない方が良い。とっても失礼な話なんだもの。あなたがあなたの中でルディを嫌いになるのは仕方がない話だとしてもね」
「そうですか……あの失礼なことをしましたのにご丁寧にありがとうございます」
「ふん。次に私に会うときに後悔しないと良いわね」
最後に彼女は訳の分からない捨て台詞を残して去って行った。
--エリス視点--
私の10歳の誕生日のとき、ルディからギレーヌとお揃いらしいというカトラスを貰った。私は舞い上がっていた。ギレーヌにお酒を飲まされて、いつのまにか彼の部屋に居座って、彼が使っているベッドで眠ってしまった。彼は体調が良くないらしかったのに、もしかしたらベッドを使わずに居てくれたかもしれない。彼、本当に優しいから。それとも私と一緒にベッドで並んで寝たのだろうか。そうだったら私……記憶が無いことが残念だなって思った。全然嫌だと思わなかった。ベッドの中でちゃんと彼と向き合えていたら、彼の気持ちをもっと知ることができたのに。
向き合い方はお母さまが事あるごとにさり気なく耳打ちしてくるのでもう判っていた。でもお母さまは昔ルディが禁止したボレアス家特有の獣族の真似を教えてくるときもある。そういうのはきっと間違いだと思った。でも実践経験があるわけではないから確証もなく、ギレーヌに訊いてみた。すると「私はそういうことに疎い。他の者に訊くと良い」と話に付き合ってはくれなかった。それで年齢の近いエルーニャや数少ない人族のメイドに相談していた。
でも目が覚めたとき彼は居なかったから、一緒に寝たのか私だけで寝ていたのか分からなかった。彼のベッドで匂いを楽しんで、朝練に間に合うように急いで自室に戻って準備した。
朝練を終えて朝食を摂り、その辺りのことを聞こうとしたけど、ギレーヌに呼び止められて、聞けずに冒険に出かけてしまった。また帰ってきてから話せば良い。そんな風に考えたのだ。だってカトラスがある。そうして呑気に冒険から戻ってきて、私は大事にしているカトラスを新調した鞘ごと落っことした。だって、ルディの部屋は綺麗に掃除されて何もかも残っていなかったんだもの。
この日もしかしたら私はお別れを感じたのかもしれない。お母さまに早く決めてしまいなさいと言われて、あのカトラスを貰って、それでもう勝手に大丈夫だって思って。全部逆だとしたら、あのカトラスを貰った時が最後のチャンスだったとしたら……。
その後、アルフォンスからルディの手紙を受け取った。中身を読む。
短い手紙の内容は「役目が終わったので帰る。また用事ができたら来るからそれまで元気で。その時には冒険の話をしよう」と書いてあった。それから「カトラスを大事に、勉強したことも忘れないように、礼儀作法のレッスンをさぼらないように」と追伸が書いてあった。
--
そして2年が経ち彼が戻って来た。
どういう話の流れかは知らないけれど内々で彼の10歳の誕生日パーティーを開くということになったらしい。私はもし彼が来なくても10歳の誕生日プレゼントを持って彼の故郷に行くつもりでいた。だから、この屋敷でパーティーを開くことになって嬉しかった。お祖父さま、お父さま、お母さま、皆がルディを歓迎しているってことだもの。
しかし中々挨拶に来ない。冒険の話をしようって手紙に書いてあったはずでしょう? 屋敷に居るはずの彼とは食事の時にも顔を合わさなかった。そうこうしている間に彼の誕生日が来た。
お母さまと花束をつくることになって庭師に聞きながら花を選んだ。ギレーヌと用意した剣もある。喜んでくれると良いな。
誕生日パーティーが始まり、プレゼントを渡すと彼はすごく喜んでくれた。でも冒険者に一緒になろうという提案は拒否されてつらかった。私はいままでなにをやってきたのだ。
次の日、ルディは朝食に来なかった。彼はパーティーの最後に意識を失って倒れたらしい。2年前も体調は悪そうだった。それが悪化しているそうだ。結局、お母さまがご飯を食べさせに行ってくれた。メイドに行かせないとは、お母さまもルディのことをすごく心配している。
同じ日から神級の魔術を使う魔術師が現れて、この地に危険が起こるかもしれないと言う話を耳にした。トンデモ話だったが、お祖父さまもお父さまも顔は大真面目だった。
そして9日後、戻ってきてからはじめてルディが朝ご飯を食べに食堂に来た。もう調子は良いのだろうかと不思議に思ったが、誰も彼が朝食に来たことに触れなかった。朝食に来ることは当たり前のことだ。いちいち驚いたらまた引っ込んで出てこなくなるかもしれない。そんな風に考えていると、一度だけみたことのある仮面の男が音もなく、気配さえまったく感知させずに食堂に現れた。
「魔力の上昇を感知した。避難しろ。俺は他の地域にも知らせに行く」
ルディはそれを聞くと、突然席を立って走って行った。お祖父さまそっくりだ。お祖父さまもまけじと走ってどこかへ行った。お父さまも深刻な表情で、すぐに出立するから準備しなさいと私たちに言い、この地に本当に危険が迫っているのだと漸く私は理解した。
--
復興の手伝いをするために女性部のチームが編成され、その先でルディの幼馴染のシルフィに語られた内容に笑いが込み上げた。彼女はルディのことを何も理解していない。
私はピンと来た。ルディが3年前にロアに来てからお祖父さまやお父さまにあったり、水神にあったり、何かをこそこそしていた全てがこの災害から私たちを守るためだったんだと。もしルディが居なかったらきっと、もっと多くの被害が出てしまったんだと。
何が狂っているものか。彼に私はまた命を救われたってことだ。そのために体調を崩していたに違いない。
確かに助けられなかった人もいる。でもあの子は一番近くで助けられた子だし、全員を助ける義理なんてそもそもない。それを狂っているってとんだ甘ちゃんの考えだ。
冒険者仲間なら笑い飛ばすだろうし、貴族も自分の命を拾ったことを喜び、民草のことは数で勘定するだろう。そこらの村娘じゃ……この程度なのかしらね。あの子はルディに相応しくない。
まぁ他人のことはもう良い。彼女が身を引くなら私が身を引くことはない。ルディの元に向おう。一度、自分のテントに戻って、少し身綺麗にしてから出かけようとした。
「エリス、どこへ行く」
ギレーヌが私を呼び留める。
「ルディの所よ。せっかく近くにいるんだから挨拶くらいはしないとね」
「待て、行かない方が良い」
「どうしてよ」
「それは……」
「ギレーヌの言う通りだぜ、エリスお嬢様。ルーデウスは3年も身を粉にして働いたんだ。今は家族の中で心静かに休ませてやるのが好きな男のためってヤツだ」
ギレーヌの後ろからサル顔の男が出てきてそう言った。誰こいつ? 何でこいつが私の気持ちを知っているのよ。まぁいい。一応、丁寧に対応しよう。
「ギレーヌの知り合いの方ですか? 前にお会いしたことがありましたかしら?」
「俺はギース。初めましてだな。ギレーヌやルーデウスの両親と黒狼の牙っていうパーティをやってたモンだ。まぁ所謂、昔馴染みってやつかな」
そう言ってギースの手がギレーヌの肩を叩こうとして、ギレーヌに避けられて空振りする。
「っとっとっと。何も避けるこたぁねぇだろ、ギレーヌ」
「ふんっ」
ギレーヌはツマラなさそうにしている。それほど仲が良くないのかもしれない。
「あなたも冒険者なら、こんな避難キャンプにいつまでもいてもしょうがないのではなくて?」
「今はちょっと金がなくてな。ちょうどロアで全財産を博打で失ってよ。だから、ここで配給物資貰った方が腹が膨れるっつーわけだ。酒がねぇのが玉に瑕だがな。まぁ後は……」
「後は?」
「ジンクスだ」
「ああ、そう」
最後のはまったくもって意味不明だったが、その言葉を聞いたギレーヌが少し笑った。昔のパーティ内での鉄板のネタか何かだろう。
初めて聞くネタだったのでさっぱり面白さが判らなかったが、そういうのは冒険者には珍しくもない。私もいくつかよく使われる物は覚えている。
それで結局、しばらくはルディに会いに行くことは控えることになり、会わずにロアへと帰還してしまった。
次回予告
旧パーティメンバー4人が
ブエナ村で再会を果たすため、
仕事中の番狼の代わりを務める。
となれば、彼女との顔合わせは
避けられない。だから
次回『説得』
俺は殴られるのも覚悟していた