無職転生if ―強くてNew Game―   作:green-tea

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今回の内容には多分にオリジナル設定が含まれます。


第066話_失考

---目標を定めよ。目標を達成せよ。ただし、目標を過剰に超えることは許容しない---

 

次の日、私は師匠の容態を確認するために久しぶりにグレイラット家へと向かった。母も一緒に見舞いに行きたがったが、あまり大勢で行って負担をかけるものではなく、治療に行くだけと説得して止めさせた。口にはしなかったが腕のない姿を師匠もあまり晒したくはないだろうとも思っている。

さて、辿り着いたグレイラット家は予想通りしぃんとしていた。私は布に巻いて持ってきた抜き身の剣から布を外し、入り口にぞんざいに置かれた鞘に納め直して立てかけ直した。外して余った布を折りたたみ、鞄にしまう。

玄関を抜けてまっすぐ師匠の部屋へと向かっていく。災害を経て建て直されたはずのグレイラット家の間取りはそれほど変わっていなかった。裏口付近が少し変化していたような気もするけれどあまり気にしている場合でもない。そのまま2階へとあがり、師匠とゼニスさんの部屋であったところのドアをノックする。

扉がゆっくりと開き、中からリーリャさんが出て来た。

 

「お久しぶりですね」

「ご無沙汰しております。リーリャさん」

 

堅い表情のリーリャさんの気持ちを推し量ることは難しい。災害後に疎遠になっていたことを責めるようであり、師匠の容態に対して毅然とした態度を取っているだけのようでもある。わからない。一瞬の沈黙を破るために私は続けた。

 

「それで師匠のお加減はいかがですか?」

「朝になって意識を取り戻しましたが、まだ朦朧としているようです」

 

「確認させて頂いても?」

「ええ」

 

なんとか了解を得た私は部屋に入り、そこに横たわる師匠に近づいた。師匠の顔は青白く、死の淵を彷徨っている。私は師匠の胸に手を当て、魔力の流れを感じ取る。昨日は自分も動揺があったかもしれないし、暗闇での治癒魔術が不十分だった可能性もある。

だが、特に問題はなかった。大丈夫。最初にみた左腕の重症は完全に治癒出来ているし、右手の切断面も綺麗に塞がっている。痛みのショックで意識が落ちて、血を流しすぎたせいで意識が戻らない。数日眠っていれば、目が覚めると思う。師匠は体力がある。そこに心配はない。

確認し終わって振り向く。リーリャさんに見立てを説明し、それからこの場に居ないゼニスさんと女剣士さんの事を尋ねるとリーリャさんからの返事はこうだった。

 

「奥様は一晩中看病していらしたので今はお休みになっているわ。それと、あの女性なら戦闘の痕跡を確かめると言っていたから、現場かしら」

 

「判りました。リーリャさん。それではお暇させて頂きますね」

 

「シルフィ。パウロを守ってくれてありがとう。『あなたが居てくれなかったらどうなっていたか分からなかった』と奥様も感謝していらしたわ」

 

「そうですか。こんな時ですけど、そう言って貰えて嬉しいです」

 

師匠の妻であるゼニスさんもリーリャさんも今回の件で私を恨んではいないと判った。だけどそれだけだ。私が今回の事でモヤモヤしている気持ちが晴れてはいない。私は答えを求めてグレイラット家を後にした。

 

--

 

昨日の戦闘があった辺りにまで行くと、リーリャさんの言った通り昨日の女の人が立っていた。現場を見て何をしているのだろうか。私は少し疑問を抱きつつも近づいて行き、彼女の少し手前で止まった。

 

「少し待っていて、それ以上はこちらに入らないように」

 

どうして人が来たことに気が付いたのだろう? 私は足を忍ばせたわけではなかったけれども歩いて来ただけで気配が読まれたのだろうか? とにかく私はその場で立ち止まり、言われた通りに待った。

待つこと暫く。ようやく立ち上がった彼女が振り返り言った。

 

「お待たせして御免なさいね。私はナンシー、よろしく」

 

ナンシーと名乗った女剣士さんは、日中に見ると目の蒼さと茶髪の髪を短めに切り揃えているところに印象が残る。女性特有の曲面はやや控えめだけれどもスラっとしていて手足が長い。それを包むように金属を使った具足、胸当て、肩当て、それに籠手を付け、腰から左側に長い剣と短めの剣、2本を()いている。どこかの団に所属する騎士なのだろうか。

 

「こんにちは。私の名前はシルフィエット、皆からはシルフィと呼ばれています」

 

「よろしく、シルフィ」

 

「こちらこそよろしくお願いします。ナンシーさん、それで何をしてらっしゃったのですか?」

 

「私が来る前に何が起こっていたのか。ちょっと確認していたの」

 

地面を見て何が判るというのだろうか?

 

「何かわかりましたか?」

 

「そうね。あなたが『土槍(アースランサー)』で攻撃を避けたことや『土壁(アースウォール)』で攻撃を防いだけれども壁ごと斬られたっていうところは判るわね」

 

驚いた。なぜそんなことが判るのだろうか。少なくとも『土槍(アースランサー)』は通常は攻撃魔術として運用される魔術だ。もしかして

 

「あの、ナンシーさんは魔術師なんですか?」

 

「あなたと同じ、魔法剣士よ」

 

私が魔法剣士だというのは昨日の戦闘かその戦闘跡とやらから判ったんだろう。こんな人がブエナ村へ来る理由は?

 

「もしかしてその魔法剣士の技能はルディ、ルーデウス……っていう男の子から教わったんですか?」

 

「ん? 私のは独学。基本の理論はアルビレオっていう人から習ったのだけれども」

 

「そ、そうなんですか」

 

アルビレオ、知らない名前だ。そして基本を学んだだけでこれほどの事をできるなんてとんでもなく凄い。レイブンっていう男の人もナンシーさんも師匠よりきっと強い。師匠って結構な強さだって話だったけれども、やっぱり大したことないのかもしれない。

 

「あなたの師匠の……パウロさんというのは戦闘の跡からは普通の剣士に見えるから、あなたの魔術はそのルディという子から学んだみたいね」

 

「そうです。魔術の基本は彼から学びました。でも旅に出てる期間が長くて、応用部分については彼の残した教本を使って独学で学んでいます」

 

「でも、あなたは王級の治癒魔術は使えない」

 

「はい。王級どころか、聖級も使えないです」

 

「その辺りはミリスに秘匿されているから当たり前ね」

 

え?そうなんだ。ミリス神聖国が秘匿しているのは結界魔術だけだと思っていたから、てっきり魔法大学にでも行けば聖級以上の治癒魔術も覚えられるモノだと思っていたのに。でもなんで私が上級までしか使えないって判ったのだろう? 違う、そんなことを話しに来たのではないのだった。

 

「あの、昨日の男たちのこと何かご存知ありませんか?」

 

「知らないわ。でもどこかの軍隊に所属している者達ね。おそらく南側から来たのだと思うけど」

 

「南側ってミルボッツ領ということですか?」

 

「いいえ。アスラ王国の南、赤竜の下顎より先っていうこと。1番あり得るのは王竜王国かしら。あの者達が使っていた剣術が北神流だったからそう推測しているのだけど」

 

確かに、私や師匠よりずっとランクは上だったけれどもレイブンが使っていた剣術は北神流だった。剣を投げてきたところからして、ヴェルナーもそうかも。弓を使った戦術までは師匠から聞いたことはなかったけれどそういうのも含まれるのかもしれない。でもナンシーさんも知らないのならもう手掛かりはない。だから他の知りたいことを訊いてみた。

 

「付かぬ事をお聞きしますけど、ナンシーさんは人を殺したことがありますか?」

 

「あるわ、最初に殺したのは野盗だったわね」

 

「まさかとは思いますけど、人を殺すときに快感や興奮を覚えませんよね?」

 

「そういう変態的な趣味はないわね」

 

「なら、どうして殺したんですか? ナンシーさんって当時もたぶん野盗よりずっと強かったと思うのですけど。殺さずに済むなら殺さなくて良かったと思いませんか?」

 

「あなた同じこと魔物に対してもするの? それとも魔物は殺して、野盗は生かせっていってるのかしら?」

 

「野盗は同じ人間です。言葉も通じるじゃないですか」

 

「あなたは野盗と会ったことないからそう言うのだろうけど、あいつらは言葉なんて通じないわ。まぁその話は私が折れるとして、言葉が通じる相手は生かすけど言葉が通じない相手は殺すで良いのかしら?」

 

「そ、それは話し合いで解決できるからそうです」

 

「なるほど。では獣人語しか話せない長耳族とかベガリット大陸に住む闘神語しか話せない人間は殺せる。そういうことかしら?」

 

「あう……」

 

「シルフィ、人を殺すかどうかのときに相手と話し合いができるかどうかなんて関係ないのよ。でもそんな質問をしてくる時点で納得はできないでしょうね。だから別の話をしましょう。そうね、まずあなたがそんな風に考える理由よ。もしかしたらご両親に人を傷つけてはいけない、人を殺してはいけないとルールを習ったのかもしれないわね。それはブエナ村の社会で、アスラ王国という社会で生きるためにお互いに課した制約なの。あなたが人を傷つけない代わりにあなたは誰にも傷つけられない。もし傷つけられたときはあなたの代わりに傷つけてきた相手を社会が懲らしめてくれる。そういう保証を得ることができる。アスラ王国はそういう国よ。なら例えば、魔族の国で相手をいくらでも殺して良いという国があったらどうなると思う?」

 

「毎日ひどい殺し合いが起こって強い者だけが生き残るのでは?」

 

「自分より弱い者を全部殺してしまったら、その国で1番弱いのは自分になってしまうか、それとも自分1人だけの国になってしまうから、そんな風にはならないと思うわ」

 

「ではどうなるのですか?」

 

「どうにもならない。敢えて言うならその国で自分より弱いからという理由で相手を殺そうとすると、殺されたくないと思う弱者が結束して逆に強者を殺してしまうってところね。強者が結束した弱者たちより強ければ殺しきることもできるけど、さっき言った通りになってあまりメリットがない状況に陥る。ルールではなくお互いの考え方で縛る、そういうこともできるの」

 

「それが野盗を殺していいということに繋がるのでしょうか」

 

「あら、難しかったかしら。つまりね、野盗と村人が住む国では相手を殺してはいけないというルールはない。野盗は金品を奪うために村人を殺そうとする。一方、殺されたくないから村人は野盗を殺す。殺してはいけないというルールがなければ、その行為は何も問題がないということよ。殺していいという世界と殺してはいけないという世界の話を混同してはいけないの。もしあなたが混同しているというならあなたは危険な存在よ。だってあなたは殺してはいけないというルールの世界にも殺していいというルールを持ち込むかもしれないのだから」

 

完全にではないけれど、ナンシーさんの言わんとすることが判った気がする。そういうことなら昨日、あの男、レイブンが言っていたことも意味が通じてくる。戦場とは殺し、殺される場所。ナンシーさんの言い方をすれば、戦場は殺すことが許される世界。戦場に立てば相手を殺さなければいけない。私とレイブンが戦場に立ったなら、私はレイブンを、レイブンは私を殺そうとしなければならない。その覚悟がないなら私は戦場に立ってはいけなかった。

 

「訊きたいことは済んだのかしら?」

 

「そうですね。ではもう1つ。ナンシーさんはなぜこの村に来たのですか?」

 

「ブエナ村が危険になる可能性が高かったから。そしてやはり危険なやつらが来た」

 

「どうして……」

 

「災害が起きてルーデウス・グレイラットがその首謀者として捕まったのは知っているのかしら?」

 

「え?」

 

「そう、知らなかったの。でも安心して。その容疑は誤りだったから既に放逐されたわ」

 

安心? 違う、私はやっぱりと思っただけだ。でもそれは否定されてしまった。ナンシーさんの話は続く。

 

「でもね。無実の罪であっても貴族社会では罰せられるはずだった。それが貴族社会のルール。そのルールをひっくり返してしまうルーデウス・グレイラットは世界から危険な存在と見做されるかもしれない。私はそう考えて彼の家があるブエナ村に来たというわけ。事件は彼が戻ってきてから起こると思っていたから少し間に合わなかったようだけどね」

 

 

--ルーデウス視点--

 

ジェイムズとの貴族談義と水神流道場での報告会を経て、まぁその後も少し色々とあったのだが今はとりあえず良いだろう。そうして一通りの用事を終えて、ようやく転移魔法陣を使ってロア近くまで戻って来た。

『ロア近くに』と言ったのは、ロキシーがロアに転移ネットワークを繋げるのは危険と判断したようで、ロアの南西、ムスペルムへの街道から少し離れたところに(ほこら)を用意して、そこに新しい転移先を作ったからだ。さすが先生、転移魔法陣の作成、マリアのプログラムの変更、設置するための位置の選定、そして地下室の作成の全てを本と書類を読んだだけでしっかりとこなしている。

そんな中、俺はギレーヌにもタルハンドと同じく口止めをしようとした。すると、「その話ならロキシーに説明された。少し難しかったが魔法陣が無ければどうせ使うこともままならん」と煩わしそうな顔をされた。そうか行きも3人で転移してきたのならそうなるよな。ロキシーは段取りをしっかりこなしてくれている。今、考えたばかりのことじゃないか。その点を俺が誤認したせいでギレーヌに煙たがられてしまうとは、今まで独りでやっていたことを複数人で運用するのはやっぱり難しい。オルステッドを社長に据えて、アイシャに細かい運用を任せていたときとは大違いだ。俺の能力不足でロキシーと喧嘩せぬように気を付けねばならない。それに今回のギレーヌに対するように周囲に迷惑をかけるときもあるだろうが、あまりくよくよしないようにすべきだな。

さて、そこから歩いて4人でサウロス邸に帰って来た。まだ俺が無事だったという一報は届いていないらしく、対応に出て来たアルフォンスは俺の姿を見て、俺が元気そうにしているので不思議そうな顔をした。事態を飲み込むのに少し時間を要したものの、根気よく説明して、アルフォンスにサウロスへの取次を依頼する。そうしてアルフォンスによってサウロスの執務室へと案内されると、ギレーヌ以外の3人が並んで席に着き、ギレーヌは護衛という立場からいつも通り入り口近くの壁に立つ。

そこにフィリップとヒルダが順にやって来る。この光景も既視感があるが、今回はこちらにロキシーがいるのが目新しい。ヒルダが座り、アルフォンスが扉を閉めるとサウロスが仕事の手を休めて応接用のソファに座った。

 

「ルーデウス、頭と体が繋がったまま戻ってくるとは思っていなかったぞ。とすると王都で事件でも起こして帰ってきたか?」

 

「まだお話が伝わっていないかもしれませんが、甲龍王による災害の真相を書いた書状によって私の疑いは晴れました。ですから事件を起こさずに戻ってくることができたのです。それとサウロス様にはジェイムズ様への指示・連絡だけでなく、減刑の嘆願書まで書いて頂いたと聞き及んでおります。復興でお忙しい時期にお手数をお掛けしたこと、またご心配をお掛けしたことをまずはお詫びさせてください」

 

「詫びか……。なぜ詫びる。答えろ、ルーデウス」

 

「ですからお手数とご心配を……」

 

サウロスの顔が鬼のような形相になった。鬼神、鬼神様じゃ……。

 

「判らぬのか。仕方のないヤツだ。ジェイムズのところで少しは勉強してきたとも思ったのだが……まだまだ足りぬようだな。良かろう、今回ははっきりと言っておいてやるぞ。お前が詫びるのはな、こう思っているからだ。儂が手間を掛けて心配をすることなど本来はなかったのに、お前自身の行いのせいで儂がそれをしなければならなくなった。それについて申し訳ないと思っている、とな」

 

こんな会話になると全く予想できていなかった俺が、次の言葉を探している間にサウロスは続けた。

 

「お前は出会った頃に比べれば、随分と身体は大きくなった。だが、出会った頃からそのぬるい考え方を改めておらん。お前は誰にも出来ぬことをやり、儂らはその過程もお前がどれだけ苦労してきたかも見てきた。お前が隠そうとするから見えたのはその一端であろうがな。そうやってボレアスとフィットアの民をお前が救ったのだ。お前に感謝する全ての者に胸を張って応えるのが、この件に関するお前に残された務めだ。儂がお前のためにあれこれと腐心したのも、お前への感謝にすぎん。微力であったようだがな」

 

サウロスの言う事にも一理ある。だが俺にはまだやれることが残っているとも思う。

 

「ははは、父さんがここまで褒めているんだ。ルーデウス、君は胸を張るべきだよ」

 

「そのようですね」

 

「それに父さん、これはルーデウスの性分みたいなものかもしれませんよ。大丈夫です。私たちの感謝の気持ちは彼に伝わっています」

 

「ふん」

 

最近こういうタイプのことを忘れていたが、もしやツンデレ……? そして話し手はフィリップに移った。

 

「そうそう、君のおかげで上下水道の修繕が早まってね。修繕できたところから街作りを開始するからロアは復興まで5年とかからないかもしれない。思っているよりは早くなるだろうから商店を再開するつもりなら声をかけて欲しいね」

 

つまり、町中に張り巡らした地下道のチェックは終わり、修繕に着手した上で部分毎に問題なければ送水と排水を始めるということだ。1年未満でもうそこまで辿り着くとはフィリップと生き残った部下達の努力は計り知れない。

 

「それは素晴らしいです。でしたら、僕はフィットア領で復興の遅れている他の町を手伝いに行った方が良いのかもしれませんね」

 

そう言うと、フィリップもサウロスも目を見開いて固まってしまった。おかしい。同じことを繰り返さぬようにと建設的なことを言ったはずなのだが。どうもエリスの親族が集まるときは、面接を受けているような面持ちになる。

 

「ルーデウス、もう十分よ。そういうのはお辞めなさい」

 

ヒルダが諭すように言った。だが"そういうの"とは何だ。俺が何かミスしたみたいだが、そこがわからない。ヒルダの言葉によって呪縛の解けたフィリップが続けた。

 

「父さん、性分と言ったのは取り消します。これは性分では済まされない根の深い問題だと漸く私も認識しました」

 

「そうだろう。ルーデウス、1つ尋ねる。お前は貴族や役人になりたいのか?」

 

「いえ、落ち着いたら剣術の道場を開くつもりでいますから貴族にはなりません」

 

「ならば先ほども言ったようにお前に残された役目は感謝を受け入れることだ。儂はお前にこれ以上の復興の手伝いをやらせようなどとは考えておらん」

 

ヒルダが言ったことも何となく判って来た。3人の意見は一致している。もうこの件に関わるな。なぜだ。なぜそう思う?

 

「あの……」

 

俺の隣でおずおずとロキシーが口を挿んだ。

 

「君は?」

 

「ルディの魔術の家庭教師をしていたロキシー・ミグルディアです。少し良いでしょうか」

 

「魔術の師匠というわけか、どうぞ」

 

「ありがとうございます。ルディ、あなたはこの後どういう予定でいるんですか?」

 

フィリップに促されたロキシーは、後半は俺の方を向いて質問してきた。

 

「ええと、ブエナ村に帰って両親と暮らしながら妹たちが望むなら勉強を教えようかと。それとギゾルフィに会いに魔法大学へ。あとはそうですね……ルイジェルドさんとキシリカ様に会いに行って……成人を過ぎたら親離れして剣術の道場を開きたいと思っています」

 

シルフィとの愛とか、オルステッドからヒトガミ打倒のための依頼があればそれを請け負うつもりだというのは、ここで出す話題ではないので口にすることは控えた。

 

「なら、それをしましょう。ボレアスの皆さんが言っているのはそういうことです。私はどこまでも付いて行きますよ」

 

ロキシーが言っていることはなるほどと思えたが、俺は少し返事を待った。もしかしたらロキシーが言っていることも的外れである可能性があるからだ。だが、否定する声は上がらなかった。

 

「そういうことですか」

 

俺がそう言うと、フィリップとヒルダは頷き、サウロスは両腕を組んで鼻息を一つ鳴らした。あれれ、俺以外全員が気付いていた? なぜ俺が気付かないのかといった感じか。そんな空気を破ったのはエリスだ。

 

「あたしもついて行くわ!」

 

エリスがそう言ったので全員の視線が彼女に集まった。

 

「うっ」

 

俺はロキシーに会話を助けられた。なら、俺がエリスを助けたら良い。いつかエリスがロキシーの思いつかなかったことを言って、ロキシーを助けてくれるかもしれない。

 

「エリス、その話についてはちゃんとご両親と相談してから決めたら良いと思うよ。遠くに出掛けるときは必ず声をかけるから、結論が出たら知らせて欲しい」

 

「わかったわ」

 

なんだか前世の家族が甦った気がした。そしてここに居ない人のことも少し気になった。そんなやり取りを大人たちは誰も何も言わなかった。急ぐことはない。しっかり話し合ってそれから決めれば良い。

 

--

 

報告を終えて、他愛無い世間話をしながら4人で屋敷を出る。エリスとギレーヌは孤児院で寝泊まりするから行く先は違うが出る時は一緒だ。俺は少し遠回りにはなると考えつつ、孤児院方面に歩き出した。ロキシーはそれについて何かを言うことは無く、そのまま一緒に歩く。

孤児院が見えるとエリスが振り返って俺とロキシーを見た。

 

「あんまり遅いようならこっちから会いに行くわ!」

 

「そうしたら両親に紹介するよ」

 

「ば、ば……」

 

何やら言いかけたエリスだったが、顔を真紅にして子供たちの輪に逃げていった。その様をみて俺とロキシーは顔を見合わせ笑った。エリスに残された形になったギレーヌは、この場でそのまま番狼をするらしい。

 

「ルディ、またな。そうだ許しが出ればだが……」

 

「何です?」

 

「剣の聖地に一緒にいこう。私の師匠にお前の剣を見せたい」

 

「判りました。忘れないようにしておきますよ」

 

 




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