涼宮ハルヒの憂鬱vsテレパシー少女蘭   作:Dr.JD

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どうも皆さんおはこんばんにちわ。
作者です。

3話目です。2話目と更新速度が速いのは、ストックがあるからです。

では早速どうぞ。


第3話 夏合宿?

[夏合宿?]

2012年、7月15日、9;53;48

高校2年生 SOS団

キョン

駅前付近 道中

 

今日も相変わらずの、炎天下である。

アスファルトを覗けば、水蒸気のモヤモヤが噴き出てくるしまつだ。

周りの人々は夏にも負けない身軽な服装で身を纏っていた。

俺もその内の一人なのだが、周りのガキどものテンションと俺のテンションを比較したら、世界中の登山家共がエベレストよりも高い山があると聞いて行ってみたら、どこにでもありそうな標高をした山々だと勘違いしてすぐさま戻ってくるような有様だ。

昨日の渡橋は結局、俺の家に来ることはなかった。

理由までは分からない。

むしろ来てくれた方がこの後何かが起こると言う保険が下りる事が確定だからそちらの方がありがたかった。

 

俺の全身からは嫌な意味での汗が噴き出ている。

熱さのせいでもあるのだろうが、一昨日と昨日の一件が祟ったせいで、俺のメンタルポイントはナイアガラの滝の水量以上のダダ下がりっぷりだ。

俺はそんな考えをしながら集合場所である駅前に向かっていた。

さすがに夏休みに入っているだけあって、人はそれなりにいる。

どこかへ出かけるのだろう。

んでもって、アイツらの姿を探していると――――

 

涼宮 ハルヒ

「キョーーーン!遅い!またあたし達を待たせたわね!」

 

混雑している人ごみの中、極めてやかましい音量をこんな朝っぱらから出しているのは、我が団長以外の誰でもない。

10時くらいになって朝っぱらと言うのは変か。

因みに俺以外の団員はもうすでに集合していたらしい。

相変わらずご苦労なこって。

 

キョン

「しょうがないだろ。急な夏合宿の話が出てきて、こっちは遅くまで支度をしてたんだ、それくらいのことは考慮してくれよ」

涼宮 ハルヒ

「何言ってんの!あんたが遅れたせいでみんなの1分1秒が待ち時間として無駄になっていくの!そんな訳だから、電車内での飲み物は全部あんたの奢りねっ」

キョン

「へいへい」

 

こうなってしまっては、何を言っても労力の無駄だと思った俺は、全員が駅の構内に移動する間に古泉の元へ近寄った。

 

キョン

「古泉、昨日の手紙の件、ありゃどうなった?」

古泉 一樹

「あ、おはようございます。手紙の件で、色々と調べてはみましたが、何も出てきませんでしたね。指紋やそれ以外のものが付いているか検査もしたのですが、空振りに終わりました」

キョン

「そう、か」

 

少し深めのため息をついた。

別に古泉を責めているわけじゃない。

 

古泉 一樹

「………まぁせっかくの夏休みですので、楽しみましょう。そちらの件は心配ですが、不測の事態にも対処できるようにこちらの方でも準備はしていますので」

キョン

「何から何まで、マジで悪いな」

古泉 一樹

「どういたしまして」

 

会話を打ち切ると、いつの間にか切符売り場までやって来ていた。

俺は素早く切符を買い、さっさと全員分のジュースを買い、皆が待ってるホームへ向かった。

 

2012年、7月15日、9;53;48

中学2年生 超能力者

磯埼 蘭 (いそさきらん)

駅前付近 道中

 

いつも以上の炎天下に、思わずため息と汗だくになった顔にタオルで拭いていた。

セミの大合唱するように、ひときわ大きく鳴いていた。

今日は本当に熱い1日になりそうだった。

 

磯崎 凛

「しっかし、夏だっつっても、本当に今日は熱いな。海沿いが近くにあってこの熱さじゃ、内陸地方はもっと熱いんだろうな」

 

お兄ちゃんも隣でタオルで汗を拭きとりながら駅の周りをぐるりと一望していた。

 

綾瀬 留衣

「東京あたりじゃ、気温は38℃くらいになるって予報がありました。熱くなる分、風も少しは強いとも言ってましたけど」

 

後ろに居る留衣も汗を拭いながらシャツをパタパタさせていた。

 

名波 翠

「ですけど凛さん、これさえあればそんなものは問題になりません!」

 

と最後に、翠が私の背後から巨大なバッグを漁って、少しすると手のひら大の小型扇風機を上下に揺らしていた。

 

磯崎 凛

「翠ちゃん、それは?」

名波 翠

「昨日、熱さ対策で買ったものですっ。よかったら凛さんが使って下さいな」

磯崎 凛

「ありがとう、使わせてもらうよ」

 

お兄ちゃんは早速、スイッチを入れて、風のお零れに預かった。

 

綾瀬 留衣

「それで凛さん、列車の時刻は」

 

留衣は腕時計を見ながら発車時刻を確認していた。

磯崎 凛

「10時ちょうどの列車が本当にあった。その電話の主があらかじめ調べていたんだろうが、相手の罠って可能性もある」

名波 翠

「それは後で考えましょう。手掛かりが白紙の紙だけじゃ推測も出来ませんし」

 

あの白紙の意味は分からない。

でも、その白紙が電話の主から、何らかの理由で送られて来たのなら、あの電話の事も意味があるように思える。

白紙の送り主と電話の主が同一犯の事を前提だけど。

 

磯崎 蘭

「どっちにしろ、行かないと分からないか」

 

言葉をいったん切り、改札口へと向かう。

 

名波 翠

「………あれが――――行きの列車ですわ」

 

改札口から入って、5分くらい待っていたら、赤のボディに白いラインがマークの車両がホームに入ってきた。

私たちがこれから向かう町は、この路線で終点まで乗ることになる。

 

磯崎 凛

「随分と古い列車だな」

磯崎 蘭

「そうかな?私はこういうレトロっぽいの、好きだよ?」

名波 翠

「レトロっちゅうか、ただ単にボロい感じがするだけのような」

綾瀬 留衣

「とにかく乗ろう。この列車しか、この駅に止まってる車両ないし」

 

車両がゆっくりと止まる。

列車の扉が開くのだが、そこから人が降りてくる人はいない。

 

磯崎 凛

「どうやら、この列車に乗るのも、俺達ぐらいしか居ないみたいだな」

 

お兄ちゃんの指摘に私は列車の先頭車両と後部車両を順に見ていく。

他に乗客はなく、本当に私たちくらいしか乗らないらしい。

 

磯崎 蘭

「何か寂しいな」

 

お兄ちゃん、翠、留衣、私の順に車両に乗り込む。

車内は結構広々とした空間で、席は2人用のが前後にあって、4人でちょうど会話が出来るようなスペースが確保されていた。

 

磯崎 凛

「んじゃ適当な場所に座るか。他にもお客さんはいるけど、こんだけ空席があればな」

 

私達が乗っている車両にも他の乗客がいる。

高校生くらいの男女2人に、父親らしき男性の計3人が何かを話していたり、黒くて服に白の十字のマークが入った外国人シスターさんが外の景色を眺めていたり、紫の綺麗な髪に薄青のスカーフを首に巻いた若い女性が資料を読んだりしているのが見えた。

 

綾瀬 留衣

「それにしても、古い車両なのに乗りたがる人ってのは案外いるもんですね」

 

留衣も周りの見渡してか、率直な感想を述べている。

 

磯崎 凛

「そうだな。この路線、降りる駅が2,3くらいしかないから、乗る奴も少ないってことだ」

名波 翠

「私たちでもめったに使わないですからね」

 

翠も周りを見ていた。

私たちが乗ってきた駅はさほど大きな駅でもないけれど、確かにこの路線を使うのは初めてである。

適当な席に陣取った私たちは、今回の事件のことを考えていた。

 

磯崎 蘭

「しかし今回の事件、どんなことが起きるんだろう」

 

そう言いつつ、窓の景色を眺める。

実際、様々な事件に巻き込まれてある程度の危険は慣れている。

けれど、それが不安となって、精神的に圧迫されているのに耐性なんてなかった。

 

磯崎 凛

「ふーむ、やっぱり電話の男が言ってた町から出るなって言葉が気になるな」

綾瀬 留衣

「町から出るなってことは、その町の外は危険だから出るなってことなんでしょうか?」

磯崎 凛

「分からん。そもそも蘭の下駄箱に入っていた白紙のこともあるしな」

 

両腕を組むお兄ちゃんに留衣は白紙を眺めていた。

 

名波 翠

「もしかしてその男、電話で言わなかったんじゃなくて、言えなかったんじゃないですか?電話が盗聴されていたとか」

磯崎 凛

「翠ちゃん、それはさすがにドラマの見すぎだって」

 

翠の大胆な発言にお兄ちゃんが尽かさず突っ込む。

 

磯崎 蘭

「逆なんじゃないかな?家の電話が盗聴されてるんじゃなくて、向こうの電話が盗聴されていたとか」

磯崎 凛

「だとしたら、その人はそれを気付いていてその伝言を?」

綾瀬 留衣

「どっちにしても想像の域を出ません。これから調べていくうちに分かると思います」

磯崎 凛

「うーむ、この話はいったん保留だな。蘭、地図を出してくれ。インターネットで調べた資料が入ってるはずだから」

磯崎 蘭

「うん、これだね」

 

リュックから大きな地図を取り出す。

 

磯崎 凛

「よし、まず駅に着いてからホテルに向かうとして、それからの行動についてだが――――」

 

ここから、あの町について調査をすることになった。

電話の主があのような言葉を残した以上、こう言った下調べは、パソコンだけでは理解が出来ないから、実地調査も必要だった。

それに、電話の主の言葉を全て鵜呑みにする訳でもない。経験上、今までの事件だって、誰かが残した言葉が重要なキーワードになることもほとんどだったため、どのような町なのかも知りたかったというのが本音だった。

そして約1時間後。

時間がほとんど経たないくらいの感覚を持って、列車は終着駅に到着した。

 

 

2012年、7月15日、10;36;49

高校2年生 SOS団雑用

キョン

――――行き列車 3番車両

 

俺は今、列車が揺れる背もたれに背を預けている。

4人1組の席があり、それをハルヒ、朝比奈さん、長門と、その隣には俺、古泉と言うメンバーで男女別々に座っている状況だった。

列車が動き出して早30分強。

以外にも、――――行きの列車に乗る乗客はほとんど皆無で、俺達が乗った駅には俺達くらいしか乗車しなかった。

いくら夏休みでも、こんな田舎行きの列車に乗る奴なんて皆無だったのだろうか。

しかし、俺たちが向かっている町はどんなところなのだろうか?

昨日の夜、気になってインターネットを使って、少しだけ調べてみた。

町自体は大きな町でなく、海沿いに面した港町と言った文面が並んでいた気がするが………。

 

キョン

「なぁ古泉」

古泉 一樹

「何です?」

 

ここは情報源、古泉一樹に聞きたいと思う。

 

キョン

「俺達が今向かおうとしている町ってのは、どんなところなんだ?小さな港町だと言う情報をインターネットで調べたんだが」

古泉 一樹

「僕の機関の方で事前に調べました。どうやらここ最近になって、急激に成長した町らしく、いまや一部の人間では有名だと言っても過言ではない巨大な町となったらしいのです」

 

なぬ!?

俺が調べたときは、そんな事は一言も書かれてなかったぞ!

 

古泉 一樹

「まぁ、本当に最近の話ですからね。更新が遅れてるんじゃないですか?」

 

そうなのかね?

俺はあまり詳しくは知らないが。

 

古泉 一樹

「ここだけの話、その町の町長さんがかなりのやり手のようで一度、お話ししたいなと思うのですが」

キョン

「そこはハルヒと相談してくれ。俺に言われても困る」

 

と、そこまで言って、古泉から視線を外す。

そこで窓の景色を見つめる。

列車はいつの間にか海沿いを走っているようで、そこからは海が見渡す限りに広がっている。

 

キョン

「悪い、おれちょっとトイレに行ってくるわ」

古泉 一樹

「荷物は僕の方で見ておきますので」

 

ひとこと言って俺はその席を離れた。

――――10分後。

トイレに行って、戻ろうとした帰り、狭いトイレから出て、廊下に出た時である。

 

キョン

「お、長門」

 

廊下で、トイレから出てくる長門と出くわした。

 

キョン

「今戻りか?」

長門 有希

「………そう」

キョン

「だったら、少しだけ話していかないか?外の景色を見ながら」

長門 有希

「分かった」

 

同意してくれた長門に礼を言いながら、ドアの端まで行って、壁に背を預ける。

 

キョン

「今回の旅行で、行きたいところはあるのか長門?」

長門 有希

「………図書館に行きたい」

キョン

「旅行先でも図書館に行きたいのか?まぁ、それは自由時間の時にでも寄れば良いさ」

長門 有希

「あなたはどこに行きたい?」

キョン

「ん?俺か?」

 

今度は長門の方から質問されてしまった。

こんな事はあまり日常の場面でなかったので、率直に言った。

 

キョン

「そうだな。思い出が出来るところ、がいいかな」

長門 有希

「それは具体性を含んでいない」

キョン

「とにかく色々なところをみんなで行って、多くの思い出を作りたいってことさ」

長門 有希

「理解した」

 

俺の言った意味が分かったのか、またコクリと頷いた。

 

キョン

「それでだな、長門」

長門 有希

「なに?」

キョン

「さっき話の手前、あんまりこういう事を言いたくはないが、今回のこの旅行、お前はどう思ってる?」

長門 有希

「………」

 

今度はさっきよりも、深く熟考していた。

やはりこの話題を出すのは不味かったかもしれない。

急いで話題を変えようと口を開いたが、長門に先を越されてしまった。

 

長門 有希

「あなたが昨日の手紙のことに関しては涼宮ハルヒの影響力によるものはない。危険分子を探知することもない」

キョン

「昨日の渡橋やすみの件は、あれはどういう事だ?ハルヒの中に戻ったんじゃないのか?」

長門 有希

「現段階では不明。今でも調査中」

キョン

「そう、か」

 

俺はそう答えると、下に向いた。

 

長門 有希

「大丈夫。何があろうと、あなたのことは守ってみせる」

 

下を向いたことで気になったのか、長門はそんな言葉を送ってくる。

 

キョン

「そうじゃないっ。俺はまた、何か厄介ごとが起きるかもしれないのに、長門に押し付けて」

長門 有希

「そんなことはない。これは私の使命」

キョン

「だけど――――」

長門 有希

「あなたには、あなたがやらなければならない役割があるはず」

キョン

「やく、わり?」

 

俺はもう一度、その言葉を復唱する。

長門はいつも、事態の収拾に一役も二役も買ってくれていた。

いつも危険な目に遭い、敵と対峙し、それを難なくこなしてきた。

じゃあ俺は?

俺はいつだって、そんな状況にビビッて何も出来ずじまい。

情けないったらありゃしねぇ。

 

長門 有希

「あなたはいつだって、私と古泉一樹、朝比奈みくるのことを案じている」

キョン

「それじゃ何の意味もないっ」

長門 有希

「ある。現に、私はいつも励まされてる。それは重要なこと」

キョン

「………そうか?」

長門 有希

「そう」

 

俺は長門の顔をいや、目を見つめている。

長門は何でも出来る宇宙人。

古泉は状況把握に特化した超能力者。

朝比奈さんはマスコットである未来人。

考えてみれば朝比奈さんは未来人でありながら、あまり重要なことを知らされていない。

だからポジションで言えば、俺と近いのかもしれない。

 

長門 有希

「それに、あなたは何物に対しても、立ち向かう」

キョン

「おいおい、俺はどこぞの勇者様じゃないんだぞ?」

 

長門の軽い冗談で、少しだけ元気が出てきた。

こんな俺が何も出来ないかもしれない。

何もできないのなら、自分なりに事態を収拾できるように動けばいいだけの話だ。

越えられない壁だ?くそ食らえだそんなもん。

 

キョン

「ありがとな長門。おかげで勇気づけられたよ」

長門 有希

「お礼ならいい」

キョン

「そうか。なら、皆のところへ戻ろうか?」

 

小さく頷く長門と共に、車両へ戻った――――

 

涼宮 ハルヒ

「遅かったじゃない、2人とも。どこほっつき歩いてたわけ?」

キョン

「何でもない。ちょっと寄り道してただけだ」

涼宮 ハルヒ

「ま、別にいいけど。それより2人とも、もうすぐ目的地に着くわ。支度しなさい」

キョン

「へいへい」

 

団長様の指示に従いさっさと支度をする。

 

古泉 一樹

「お、見えてきましたよ。あれが今回、僕らが向かう町」

 

古泉の一声で、全員が窓の外へ目を向ける。

 

古泉 一樹

「港町、尾阿嵯(おあさ)町です」

目の前に広がる巨大な町に向かって、列車は悠々と進んでいくのであった。

 

 

2012年、7月15日、11;02;49

中学2年生 超能力者

磯埼 蘭 (いそさきらん)

尾阿嵯(おあさ)町 尾阿嵯駅前

 

磯崎 蘭

「ん~~~、着いた!」

 

思いっきり背を伸ばして、息を吐いた。

今後の行動についてどうするか話し合っていたので列車ではずっと座りっぱなしだったのだ。

 

磯崎 凛

「へぇ、ここが阿御嵯町か。でけぇ町だな!」

 

駅を降りて出迎えたのは、大勢の人だかりと、巨大なビルの数々だった。

私たちの町にも駅ビルはあるけれど、これほどまでに巨大な駅ビルは見たことが無かった。

 

綾瀬 留衣

「何でもここ数年で急激に成長した港町みたいなんですよ」

 

巨大な駅ビルを見上げながら留衣は地図を手にする。

 

綾瀬 留衣

「地図の大きさを考えて、やっぱり大きな町みたいですね」

名波 翠

「それで留衣君。私たちが止まるホテルはどっちや?」

綾瀬 留衣

「えっと、………ここだよ」

 

少し地図を見つめて、指を突いた。

距離はざっと見て、4,500メートルくらいの距離はありそうだ。

 

磯崎 凛

「結構な荷物の量がある。ここはタクシーを呼んじまうか?」

磯崎 蘭

「そうだね。この炎天下の中を歩くのはちょっと根性いるし」

 

やはりこの町に来ても熱さは変わらず、所々じゃベンチで休んでいる人の姿も見られる。

 

磯崎 凛

「んじゃタクシー呼んでくるわ。へーい、タクシー!!」

 

お兄ちゃんの大きな声が辺りに響き渡る。

相変わらず元気な事で。

ふふふ、着ているアロハシャツがすごく似合ってる。

 

磯崎 蘭

「それにしても、随分と賑やかな町だね」

名波 翠

「そうやね。人もやけに多いし、色んなものも置いてある。こりゃ楽しめそうやわ」

綾瀬 留衣

「何でも、外国の人も結構やって来る人は多いらしいんだよね」

 

駅から降りてきた客の中には確かに外国人が少なからず混じっていた。先程の列車の中にいた外国人シスターさんが、恐らくここに来るのが初めてなのだろう、辺りを見渡しては備え付けてある地図を何度も確認しながら、その場を立ち去って行った。

 

磯崎 凛

「おーい、タクシー捕まえられたぞっ。早く乗ってくれ」

磯崎 蘭

「はーい」

 

タクシーを捕まえられたところで、荷物を持ってタクシーに乗り込む。

中は涼しくて、生き返るような気分だった。

 

タクシー運転手

「お客さん。どちらまで?」

 

すると運転席から行先を尋ねられた。

歳は中年で、優しいお父さん的な物腰さが見られた。

 

磯崎 凛

「えっと、阿御嵯ホテルまで」

タクシー運転手

「阿御嵯ホテルね。かしこまりました」

 

そして車両はゆっくりと進み始める。

 

タクシー運転手

「お客さん、どちらからお越しなんです?」

磯崎 凛

「えっと、俺たちは蔦野町から来ました」

タクシー運転手

「ほー、蔦野からね。こっからじゃ少し遠かったんじゃないかい?」

綾瀬 留衣

「電車で1時間くらい乗りますからね」

タクシー運転手

「まぁ、ここは結構いいところだしね。ゆっくり観光していくと良いさ」

名波 翠

「そうします。ところで運転手さんは、ここに来てから日は長いんですか?」

タクシー運転手

「いや。私は今、出張中でね。ここに来たのはつい先週の話なんだ」

磯崎 凛

「それじゃあ運転手さんは違うところから、わざわざこの町まで出張してきたんですか?」

タクシー運転手

「うん。実はね、ここだけの話、この町のタクシー会社から依頼が来てね。人出が足りないって言うもんだから、ここに来たのさ」

磯崎 蘭

「そうなんですか~。それじゃあタクシー業界に来てからも長いってことですか」

タクシー運転手

「まぁね。と言っても、子供の頃から車が好きだったから、この業界に入ったのさ。子供の頃から色々な事を知ってれば、違う仕事に就いていたかもしれない。君らはまだ若いんだ、もっと色々な経験をした方が良い」

 

運転手さんはハンドルを右に切って右折する。

 

タクシー運転手

「それを考えたら、うちの息子だって、近所の女子高生に科学だの化学だの色んなことを教わったりして」

磯崎 蘭

「お子さんは今何歳くらいですか?」

タクシー運転手

「今年で小学5年生になるかな。君らは、いくつになったんだ?」

磯崎 凛

「俺は高校2年です」

名波 翠

「私たち3人は中学2年です」

タクシー運転手

「そうか、若いっていいね~」

 

と、談笑しているうちにその10分後、ホテルに着いた私たちは運転手さんに別れを告げた。

 

 

2012年、7月15日、11;02;49

高校2年生 SOS団雑用

キョン

尾阿嵯(おあさ)町 尾阿嵯町駅前

 

ようやく人ごみの中をどうにかして潜り抜け、駅の外に出られたと思っていたら、待ち構えていたのは、炎天下と言う名の日のパラダイスだった。

しかし、この町に着いた時、ネットで調べた情報と差異があり過ぎて、最初は唖然としたもんだ。

どこが小さな港町だよ、ちょっとした都市じゃなぇか。

 

古泉 一樹

「まぁ、元々は小さな港町だったので、あながち間違ってはいないかと」

 

だとしても今のこんな姿を見て、ギャップの違いさを目の当りをしたら誰でもこう思うわい。

 

古泉 一樹

「そこは言葉の彩と言う奴ですね」

キョン

「ところで、ハルヒはどこ行った?もしかしてトイレか?」

古泉 一樹

「いえ、涼宮さんはタクシーを捕まえに行っています。ホテルは距離にして4,500メートルありますからね」

確かに、こんな炎天下の中を歩くのには結構体力と度胸が必要だからな。

古泉なら平気そうだが。

 

古泉 一樹

「行けなくはありませんが、せっかくタクシーを使うのですから、ここはお言葉に甘えて車両の方を使わせて頂きます」

 

ちっ、かっこつけやがって。

 

古泉 一樹

「お、涼宮さんが戻って来たようです」

 

古泉の指差す方へ顔を向ける。そこにはやけにご機嫌斜めな少し可愛らしい顔があった。

 

キョン

「おいおい、どうしたんだよハルヒ。そんなしかめっ面して」

涼宮 ハルヒ

「どうしたもこうしたもないわよ。先にあたしがタクシーを見つけて、駆け寄ろうとしたら、あたしと同じくらいの高校生に横取りされたのよっ」

 

なるほど。

どうやらハルヒは自分が先に見つけたのに、違う奴が現れて目の前のタクシーを使われたことに対して、やけにご立腹な訳だ。

 

キョン

「まぁ、仕方ないだろ。こんな熱い中、歩きたくない奴だっているってことさ」

涼宮 ハルヒ

「でも先に見つけたのはあたしよ!?どうして他の奴が後からやって来たのに横取りされんのよ!?」

キョン

「ならハルヒ。今度は俺が行ってくるから、少し待ってろ。他の皆も待っててくれ」

涼宮 ハルヒ

「ちょっと、キョン!?」

古泉 一樹

「かしこまりました。お任せを」

 

古泉が爽やかスマイルを端から無視して、タクシー乗り場を漁りに重い足取りで向かって行きその20分後にしてようやく、タクシーにありつけたときは、今日の行動はもうホテル内で済ますと言う意見が心の内に囁かれたのは言うまでもあるまい――――

 

 

2012年、7月15日、11;36;24

中学2年生 超能力者

磯埼 蘭 (いそさきらん)

尾阿嵯(おあさ)町 ホテル尾阿嵯 カウンター前

 

磯崎 蘭

「うわー、結構広いね!」

 

目の前に広がるエントランスを見渡しながら、入り口から中へ歩き出す。

お客さんの数はかなりのもので、休日になっているからだろうか、子供連れの親子がかなり目立っていた。

ホテルの内部は左右対称の構造をしており、中央には大きな噴水が設けられて、その奥にホールへと続く階段が2階へと続いている。

清掃も行き届いていて、巨大なプラントに水をあげているボーイさんの姿もある。

 

綾瀬 留衣

「このホテルはこの町でもかなりの大きさと実績があるから、人気もすごくあるらしいんだ」

名波 翠

「これやったら、うまい料理も期待できそうやな!」

 

留衣の豆知識に翠はうまい料理を連想しながら妄想に吹けっている。

辺りを見渡しているうちにカウンターへと到着する。

 

??????

「ようこそお出で下さいました」

 

するとそこから満面の笑みを浮かべた受付嬢が現れた。

 

磯崎 凛

「あの、このペアチケットを貰った者なのですが」

 

お兄ちゃんがやすみ先輩から貰ったチケットを受付嬢に手渡す。

 

??????

「確認いたしました。何名様でお泊りでしょうか?」

磯崎 凛

「えっと、4人です」

??????

「かしこまりました。ではこちらの『508号室』の鍵をお受け取りください」

 

受付嬢から『508号室』と刻まれた鍵をお兄ちゃんが受け取る。

 

??????

「部屋の扉は全て、オートロック式になっており、お出かけになる際にはかならず鍵をお忘れなくお持ち下さるよう、お願い致します」

磯崎 凛

「あ、はい。分かりました」

??????

「では、よい旅を満喫してください」

 

最後に受付嬢から見送られて、気分が最高潮に達しそうになっていた。

 

磯崎 凛

「508号室か。いったん荷物を置いてから、この町の散策について話そうか」

綾瀬 留衣

「そうですね。電話の主の方から、何か連絡があるかもしれませんし」

磯崎 蘭

「え、どうしてそう思うの?」

 

留衣が思わぬ物言いに私は疑問を投げかける。

 

名波 翠

「蘭、さっきの受付のとき、あの受付嬢、私らの名前を聞こうともしなかったやないか」

磯崎 蘭

「あ、そういえば」

 

本来のホテルなら、自身の名前を聞くはずだ。なのにそれがないと言うことは?

 

磯崎 凛

「俺たちの名前がすでに知られていたか、あるいは知る必要がないか、そのどちらかって事」

 

あ、なるほど。

言われてみて初めて気づいた。

 

磯崎 凛

「確かにチケットを見せただけじゃあ、普通は泊まれないよな」

名波 翠

「はい。もしかすると、その電話の主はこの町でもかなりの有力者なのかもしれません」

綾瀬 留衣

「名波さん。その話はここでは止めとこう。誰が聞いてるのか、分からないし」

名波 翠

「そうやね。と言っても、うちらが泊まる部屋もどこかしらに盗聴されてるかもしれんし」

磯崎 凛

「それも考えて、出来るだけ部屋でもこういう話をするときは、場所を考えないとな」

 

と、色々な意見が私の目の前で飛び交っていた。

エレベーターホールに着いた時、私は先程の受付嬢の方へ振り返ると、そこにはもう、受付嬢の姿はなかった。

 

2012年、7月15日、11;42;39

高校2年生 SOS団雑用

キョン

尾阿嵯(おあさ)町 尾阿嵯ホテル『509号室』

 

涼宮 ハルヒ

「ふー、ようやく着いた!」

 

ホテルの自室に着くや否か、ハルヒはベッドにダイブして思いっきり背伸びをする。

俺たちは全員で5人。

一部屋につき寝泊りが出来るのは4人までとなっているため、部屋は2つ借りることになったのだ。

それにしても便利なのが、部屋を2つ借りようが料金の割り増しは発生しない。

それどころか宿泊費用なんかはチケットで肩代わりできるから事実上タダというフロイト先生もビックリするほどの代物だったのだ。

因みに部屋割は俺と古泉でハルヒ、長門、朝比奈さんの2と3人組となっている。

つまり、男女別と言う奴だ。

 

涼宮 ハルヒ

「さて、皆にこの部屋に集まって貰ったのは他でもありません!今後の活動方針について話し合うためです!」

 

と、いきなりハイテンションなハルヒが部屋内をそれぞれ物色していた全員の視線を集めさせると、地図を広げて赤い丸を書く。

 

キョン

「ハルヒ、その赤い丸は一体なんなんだ?」

 

不安を煽っている俺とは別に、ハルヒは悪戯を考えてそうな悪ガキのような表情をすると。

 

涼宮 ハルヒ

「この丸はね。ここに来る前に調べた、この町特有の、怪奇現象が起きそうなポイントなのです!」

 

ハイテンションを通り越して、途中から何を言っているか分からなかったが、ここに来てようやくその意味を捕えた。

待てよ、それなら………。

 

キョン

「ようするに、お前はそこに行ってその怪奇現象とやらを調べに行きたいんだろう?なら話し合いも何もねぇじゃねぇか」

涼宮 ハルヒ

「どういう事?」

キョン

「お前はそこに行きたいって、表明したわけだろ?だったら俺たちは俺たちで好きなところに行ってもいいわけだよな?」

涼宮 ハルヒ

「ええそうよ。この怪奇ポイントはあたし一人で行くから別にあんたたちはこの町の散策をしていればいいわ。でも2日目からはあたしもそっちと合流するから」

 

ハルヒにしては珍しく、まっとうな意見を言っている。

それにしても、自由行動、ね。

 

古泉 一樹

「では、僕たちはこの町から出なければ自由行動でよい、と?」

涼宮 ハルヒ

「そうよ古泉君。これはSOS団で3度目の合宿なのよ、うんっ、と面白いことを見つけてくるのよっ。分かったわね!」

 

この言い方は、ようするに自由に遊んで来いと言う解釈でいいんだよな?

 

朝比奈 みくる

「しかし涼宮さん。一人で大丈夫なんですか?今日初めてこの町に来て、道とか迷わないですか?」

涼宮 ハルヒ

「大丈夫よみくるちゃん。そんな簡単に道に迷ったりなんかはしないわ!」

 

毎回思うのだが、その根拠のない自信はどこから湧いてくるんだ?

聞いてもまともな回答が来なさそうだから、あえて聞かないが。

 

古泉 一樹

「ちょっといいですか?」

 

と、ここで古泉に腕を引っ張られる。

態度から察するに、どうやら話があるらしい。

 

キョン

「どうしたんだ?ハルヒの行動について、俺は何も」

古泉 一樹

「そうじゃありません。涼宮さんの行動については、こちらからマークしておきますので、その点はご心配なく」

キョン

「じゃあ何なんだ?」

古泉 一樹

「僕が危惧しているのはそこじゃありません。先程の受付の時です」

キョン

「受付?あの場面に何か重要な事でもあったのか?」

古泉 一樹

「先ほどの受付嬢、僕らにチケットの掲示を求めました。しかし、僕らが泊まると言うのに、名前も聞かずに部屋のカギを渡すなんて、どう考えても変じゃないですか」

キョン

「それは俺も気付いてた。やはり手紙をよこした女の仲間か?」

古泉 一樹

「分かりません。ですが、これは調べを入れた方がよろしいかと」

 

古泉はそっと、ハルヒの方を見つめる。

ハルヒは窓を眺めながら、朝比奈さんにこの町の地図を広げて何が何処にあるのかを説明している最中だった。

 

キョン

「だったら、俺はどこも出かけない方が良いのか?」

古泉 一樹

「いえ、それでしたら反って涼宮さんに怪しまれます。それに、この部屋に留まっても、相手が何もしない確率の方が低いでしょう」

キョン

「それなら俺は少し人気の多いところに行って、時間でも潰しますかね」

古泉 一樹

「すみません、本当は僕が守ってあげられなければいけないのですが、僕のもやることがありますので、調査をしながら護衛と言うのも大変です」

キョン

「俺は一人で平気さ。長門も俺のことなんか気にせず、思いっきり遊んで来い」

長門 有希

「………分かった」

 

分厚い本と睨めっこしていた長門が一度顔を上げて、小さく頷く。

そうだ、せっかくの夏休みなんだ、俺なんかのことで気を使わんでくれ。

 

涼宮 ハルヒ

「よーし、みんな!そろそろ、町に出かけるわよ!」

 

真夏の太陽に負けないくらいの眩しい笑顔が飛び込んできた俺は、自分の身くらい自分で守る

ことを、ここで固く誓おう。




長門嬢の口調が難しい………

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