涼宮ハルヒの憂鬱vsテレパシー少女蘭   作:Dr.JD

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――――相手を殺す時には、礼儀などは必要ない――――ウィストン・チャーチル

どうも皆さんおはこんばんにちわ。
作者です。

最近は涼しくなって、快適になってきたのではありませんか?

今の時期にちょうどぴったりな本作品を、どうぞ。


第6話 リーク

[リーク]

2012年、7月15日、14;15;18

中学2年生 超能力者

磯埼 蘭 (いそさきらん)

日本国 茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 郷土資料館4階 オフィス

 

郷土資料館4階。

エレベーターを使って、そこに連れられてきた私たちは、久住さんの仕事場であるオフィスへ案内された。

部屋はかなり広く、中央にソファーとテーブルのセットが置いてあって、周りには棚があって本やらファイルやら書類やらが雑にしまわれていた。

ゆったりと出来る空間で窓からこの町の景色が一望できるような配置にしてあった。

壁にはどこかの島か分からない巨大な写真が飾ってあった。

 

久住 乃里香

「その写真は、色んな思い出のある島を離れたところから撮った物なの」

 

私が写真に目をやっていることに気付いて久住さんが、ソファーに座りながら解説する。

 

磯崎 蘭

「へぇ。もしかしてその島の出身なんですか?」

久住 乃里香

「そうじゃないわ。その島に、何度か行ったことがあったってなだけ。嫌な思い出も、良い思い出も、あった」

 

私たちが席に着いた時、久住さんはさり気なく口から何か意味深な言葉が並べられた。

 

磯崎 蘭

「その、何かあったんですか?」

久住 乃里香

「何でもないわ、気にしないで。それで、私から聞きたいことって?」

磯崎 凛

「この手紙に身に覚えはありますか?」

 

お兄ちゃんは鞄から私が先日、下駄箱にしまわれていた封筒を取り出してテーブルの上に置いた。

それを見て彼女は手に取って、首を傾げた。

 

久住 乃里香

「さあ?知らないわ。それに見る限り、紙は全て白紙のようだけど?」

磯崎 蘭

「まぁ、そうなんですけど、見覚えがないなら結構です。なら次に、どうしてこの資料館には地元の人や観光客の人たちにとってマイナスになるような展示物ばかり飾ってあるんですか」

久住 乃里香

「それはうちのオーナーの意向なの。オーナー曰く、『真の歴史を世の子供たちに伝えて何が悪い!』だそうで」

綾瀬 留衣

「そうなんですか。では次に、この町はなにかすごく盛り上がるようなイベントがあるみたいなのですが、あれって何なんですか?」

久住 乃里香

「あら留衣君、あなた達知らないでここに来たの?この町とあの都市が鉄道を開通させたって話で、この地に来たと思っていたけど」

磯崎 凛

「その、あの都市って言うのはどこのことなんですか?俺達、何も知らないでここに来てしまったもので」

久住 乃里香

「そうなの………。最近ニュースになってると思ったら、伝わってないところは伝わってないのね」

 

眉を寄せて訝し目な表情になると、ゆっくりと口を開く。

 

久住 乃里香

「この尾阿嵯町と今度の鉄道で開通することになったのは――――」

??????

「おお久住君、ここに居たのかね?」

 

扉のところに中年男性がいて、その声が私たちの会話を打ち切った。

温厚そうな人で、どこかへ出かける途中なのか、随分とおしゃれな人だった。

 

久住 乃里香

「あ、オーナー。いらしてたんですね、電話で連絡をして頂ければ時間を空けたんですが」

??????

「いや、いいよいいよ。久しぶりの見学者さんなんだ、ゆっくりと話をしていくと良いよ。私もさっき下で、同じ観光客の方と話してたんだよ」

久住 乃里香

「そうなんですか。今月は変わったことばかりですね」

 

中年男性はゆっくりと微笑むと、今度はこちらに視線を向けてきた。

 

??????

「そうだね。っと、そちらの子たちは、どちらさんですかな?」

磯崎 蘭

「あ、私たちはこの町へ観光をしている者です。私は磯埼蘭で、こっちは私の友達です」

 

私はいそいそと立ち上がると、簡単に自己紹介をする。

普通に自己紹介をしたはずなのに、オーナーさんの目つきが急に変わった。

先程の温厚な表情も今は凍りついている。

久住さんは普段から見たことがないオーナーの顔を見て動揺しているし、お兄ちゃんらは彼の急変ように驚いていた。

 

??????

「きみ、今なんて言った?」

 

少し黙った後、オーナーさんはゆっくりと口を開けた。

 

磯崎 蘭

「ですから、この観光に来た者で」

??????

「その後だ」

 

扉の所から少し間合いを詰めて、私の方に近寄ってきた。

私も一歩下がる。

 

磯崎 蘭

「………こっちは私の友達の」

??????

「違うっ、その前!」

 

さらに距離を詰めてきた。

さらに私も一歩下がったが、壁のところで背中がぶつかってこれ以上下がれない。

オーナーは目の前まで来ると、ようやくそこで止まった。

 

磯崎 蘭

「えっと、磯崎蘭ですけど」

 

おずおずと再び名乗った。それほど私の名前が珍しいのだろうか?

 

??????

「磯崎、蘭………」

 

オーナーさんは口の中で何度も復唱する。

私はこの人と以前に、どこかであっただろうか?

 

磯崎 蘭

「あの、私、以前にあなたとどこかでお会いしましたか?」

 

気になって声を掛ける。

私の名を出した時から始終、顔が真っ青になっている。

 

??????

「君は、私のことを覚えていないかね?」

 

そう言われて頭の記憶からオーナーの顔を引っ張り出そうとするが、どうしてもこの人がどこの誰かが思い出せなかった。

 

磯崎 蘭

「すみません、覚えてません。………あの、大丈夫ですか?とても、辛そうですけど」

??????

「ああいや、こんなのは何でもないんだ。君の辛さに比べれば」

 

最後の言葉辺りは、私しか聞こえないような小さな声で言っていた。

それを聞き逃さなかった。

 

磯崎 蘭

「え、何ですか?」

??????

「いや。何でもない。覚えていないなら、良いんだ」

 

彼はホッとするように、両肩から力を抜いた。

 

??????

「悪かったね、不快な思いをさせてしまって。君たちも、大事なお友達に悪いことをしてしまったね」

磯崎 蘭

「気にしないで下さい。でも、体調が悪いようなら休んだ方が良いんじゃないですか?」

??????

「ありがとう。君は本当に優しいね」

 

オーナーはため息を軽く付くと、ようやく留衣たちが話に割って入ってきた。

 

綾瀬 留衣

「大丈夫かい、蘭」

磯崎 蘭

「私は平気だよ留衣。ちょっと驚いたけど」

??????

「………本当にすまなかったね。随分と、懐かしい名前だったからね」

 

やはり気になったのか、オーナーは深く頭を下げた。

真剣な表情で謝罪するので、こちらも何だか罪悪感に見舞われた。

 

磯崎 蘭

「いいですって。それより、懐かしい名前って言うのは?」

??????

「うむ、そのことについてはまたの機会の時でいいかな?ちょっと、準備があるし」

磯崎 蘭

「そうですか?なら、また別のときに」

名波 翠

『蘭っ』

 

言い終える前に翠に腕を突かれて、私の頭に直接テレパスを送ってきた。

 

磯崎 蘭

『どうしたの翠?』

名波 翠

『このおっさん、何か怪しいで。いきなり蘭の名前聞いた途端に、目つきが変わりおったんやで?普通の奴の反応じゃないやろ?』

磯崎 蘭

『そうかな?親戚の子に、私の名前が一緒だってくらいなら何もそこまで疑わなくとも』

名波 翠

『それだけならまだ疑わないけど、表情見たらわかる。このおっさん、明らかに何か隠してるんやない?』

磯崎 蘭

『じゃあ、どうすのさ?』

名波 翠

『握手でも何でもして、このおっさんから情報を入手したらええやんか!?私じゃたぶん、ガードが固いから、蘭なら心許して何か読み取れるやろ?』

磯崎 蘭

『うーん、分かったよ。あんまりこの人のこと疑いたくないけど、ちょっと調べてみるよ』

 

渋々了解して、少しため息を吐くと、オーナーに手を差し出す。

 

磯崎 蘭

「あの、せっかくお会いした記念に、握手して頂けませんか?」

 

いきなりの申し出に彼はキョトンとしているが、やがて彼は首を横に振った。

 

??????

「いや。せっかくだけど、私の手はさっきまで書類を触っていたから汚いから、あまり触れない方がいいよ。それもまた今度ね」

 

なんと、あっさり拒否されてしまった。

確かにオーナーの手は、インクで汚れていた。

 

??????

「それじゃ、私はこれで失礼するよ。どうしても私と話をしたいならまた明日にでも、来てくれるかな?出来れば蘭君1人で」

 

彼の口から、とんでもない発言をされてしまったような気がした。

 

??????

「君と一対一でなら、私の知っていることを全て話そう。決心がついたら、この番号に電話をしてくれ。それと、私の名前は江守正三郎(えもりしょうざぶろう)。ここのオーナーをやっとる」

 

 

2012年、7月15日、15;15;29

高校2年生 SOS団雑用

キョン

日本国 茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 阿御嵯ホテル『509号室』

 

キョン

「と、いう訳なんだ」

 

この町をちょいと観光、したと言うことにして頂きたい。

集合時間なんて特に指定されていなかったから良かったものの、これが予め指定制度執行なんてされていたら、罰ゲームをやらされるだけでは済まないからだ。

ハルヒ号令のもと、俺たち団員は速やかにホテルへ集まった。

まぁ俺が明日、教会のセレモニーに参加しなくちゃいけない事をみんなの前で言ってもらうのが目的らしいが。

オルソラには電話の相手が相手だったので、『また明日!』と言ってあの場から離れて大急ぎでこっちに戻ってきてしまった。

これで明日、あのセレモニーに参加する羽目になっちまった。

今までの経緯を順に話している最中だが、3人の視線が鋭かった。

朝比奈さんはいつも通りそんな視線の中に含まれてはいなかったが、長門はいつも無表情で俺を見つめているし、古泉は両腕を組んで営業スマイル浮かべの眉を顰めている顔つきで、ハルヒは何と言っても、普段と変わらぬ仁王立ちで俺の前で立っている。

 

ちなみに俺は床がフローリングで正直ありがたかった。

なぜかって?そりゃお前、俺が正座させられてるからだよ。

 

涼宮 ハルヒ

「大体話は分かったんだけどさぁ」

 

ハルヒは呆れ5、なぜか上機嫌5と言う割合の声色で話すもんだから俺は一瞬、自分の目の前にいる人物が分からなくなりそうになる。

背を向けたハルヒから古泉に視線を逸らすと、『後で説明します』、と思われる意味を持ったアイコンタクトをすると――――

 

涼宮 ハルヒ

「あたしの相談なく勝手に決めようなんて、随分と偉くなったわね?」

 

そう言いますがねハルヒよ。

俺だって、何も一人で決めるつもりなんてこれっぽっちもなかったさ。

だがな、あの天然ボケシスターさんがぜひお越しくださいの一点張りなんだぜ?さすがの俺でもあれは防ぎようがないぜ。

 

涼宮 ハルヒ

「………まぁいいわ。わざわざ合宿を企画してまでやることじゃないわね。それに自由行動って言ったのはあたしなんだし、別にいっか。それに教会に招待されるなんて、やるじゃないっキョン!」

 

と、いきなり感情のベクトルを変えて、下手褒めしやがった。

さきほどまでの態度はどこへやら。

内心動揺していた俺は――――

 

涼宮 ハルヒ

「それじゃ明日その教会のところ行って、不思議探しツアーでもしちゃいましょう。せっかく遠路遥々、この地に来たんだから思い出の一つや二つ、持ち帰らないと損だわ!」

 

などと特別あがたいとも思えなくもない言葉を送られて複雑な心境になっていると、アイコンタクトを取った古泉が近寄ってきた。

ハルヒは窓際に行って、朝比奈さんと一緒に会話を始めて、長門は分厚いハードカバーの本を読み始めた。

 

キョン

「おい古泉、何があったんだよ?普段のハルヒなら、『キョンの分際で勝手に決めるなんて、生意気よ!』で定番のシーンなのに、俺はどう対処していいか分からなかったぞ」

古泉 一樹

「定番のシーンですか?まぁそれはさておき、涼宮さんがなぜあんなに上機嫌なのかと言いますと、実は僕らもその理由を伺っていないのです」

キョン

「ならハルヒにでも聞けばいいだろうが」

古泉 一樹

「一度は聞いてみたんですが、どうしてもお答えにならなかったんですよ。しつこく聞くのも失礼ですし、その話は保留と致しました」

 

古泉は大げさに両腕を上げてお手上げポーズを決めた。

本当にこいつは何も聞いてないらしい。

 

キョン

「なぁ、長門」

 

俺は古泉から離れ、椅子に座って本を読んでいる長門へ尋ねることにした。

 

長門 有希

「なに?」

キョン

「ハルヒが何であんなに上機嫌なのか、聞いてないか?まさかこれは何かしらの前触れで、この後にまた不思議現象が起きるってことなのか?」

長門 有希

「私は聞いていない。彼女が上機嫌な理由は、何らかの現象が発生しうるポイントを独自に突き止めたか、あるいはそれに類似する情報を入手したかの2つ。また彼女が新たに現象を起こす可能性は極めて低い」

キョン

「どうしてだ?」

長門 有希

「観測的結果から見て、彼女はその得た情報自体をあまり信用していない可能性が高い。それによって、曖昧な回答しか導けていない」

キョン

「なら、今のところは大丈夫だってことか?」

長門 有希

「そう」

キョン

「それなら安心した。ありがとう」

長門 有希

「お礼ならいい」

 

短く返答すると、また本と睨めっこを再開した。

 

古泉 一樹

「まぁ何にしても、もしもまた現象が起きてしまったのなら、真っ先にあなたにご連絡を入れますよ」

キョン

「へいへい、気長に待ってますよ」

 

会話を途中から聞いていた古泉を適当にあしらいつつ、会話を終えたハルヒに近付いた。

 

キョン

「それで、これからどうするんだ?まだ4時前だからこれからまたどこかへ探索に出かけるのか?」

涼宮 ハルヒ

「そうね、また自由行動でいいわ。ただし、ディナーの時間である午後7時までにホテルの食堂へ集合ね!それじゃあ、解散!」

 

そう言い残すと、ハルヒはさっさと俺たちを置いて、部屋から飛び出して行ってしまった。

 

キョン

「何だ?あいつあんなに急いで」

古泉 一樹

「いつもの事じゃないですか。涼宮さんは興味があるとすぐに突っ走るじゃないですか。そういう訳ですので、僕もこれで失礼します」

キョン

「お前も人の事言えないじゃないか」

古泉 一樹

「ちょっと寄りたいところがあるだけですよ。では」

 

古泉もハルヒに続いて、部屋を出て行った。

 

キョン

「ん、長門もどこか行くのか?」

 

椅子から立ち上がった長門がコクリと頷く。

 

長門 有希

「………図書館」

キョン

「図書館?ああ、今読んでる本がそこのか?」

長門 有希

「そう」

 

そしてそのままのペースで部屋を出て行った。

 

キョン

「朝比奈さんも、どこかへ行かれるんですか?」

朝比奈 みくる

「はい、私は鶴屋さんとクラスのお友達のお土産でも見て行こうかなって思ってるんです。あと出来ればこの町限定のお茶葉を買いに、ちょっと行ってきます」

キョン

「では、お気を付けて」

 

とうとう朝比奈さんまでも部屋から出て行ってしまわれた。

この狭い部屋に残っているのは俺一人だけ。

 

キョン

「俺もどこか出かけてくるかな」

 

だるくて重い体をどうにかして動かして扉の前まで来たのだが、そこで気分が変わった。

 

キョン

「………やっぱりだるい。テレビでも見てよ」

 

私生活を送っているダメな中年男性のように、よろよろとベッドへダイブして、ドレッサーの上に置いてあるテレビのリモコンのスイッチを押すと、部屋の角に設置してある10インチの中型テレビの画面が映し出された。

 

ニュースキャスター

『次のニュースです。アフガニスタンに駐屯しているアメリカの部隊が本日、行方知れずとなった情報が入りました。当基地の司令官の会見によると、『事態の収拾に向けている』と全力を尽くすとのコメントを残しています。また、周辺地域に無人兵器の開発、運用の疑いがあるとのことで先日、アメリカの諜報機関が情報を入手したばかりでしたが、今回の騒動と関連づけて捜索を続けております』

 

点けた途端に物騒な事件の概要が、俺の耳を通過していく。

やれやれ。

俺の知らないところで、この世の中はいつの間にか物騒な出来事で一杯になってるんじゃないだろうな?

 

ニュースキャスター

『では、次のニュースです。先日から『学園都市』と『尾阿嵯町』の合同で建設していた鉄道が完成し明日、そのセレモニーを控えてるこの尾阿嵯町では、全国から来ている観光客で賑わっています。この鉄道開通によって『学園都市』は今後どのような発展をしていくのか、専門家の方にお越しくださいました。では先生、お願いします』

 

ふぅん。

この町って新たに線路でも敷いて、こんなにもニュース沙汰になってたとはな。

チケットをくれた渡橋に文句を言うつもりはないが、それなそうと前もって言ってくれればいいのに。

記念撮影とかで、カメラなんて持って来てないぞ。

そこいらの売店で買えば済む問題だが。

 

ボーっとリモコンを操作して、他のチャンネルへ切り替える。

他には見たことのないアニメの特番や、胡散臭そうなテレフォンショッピングなんかを適当に見ていたが、どれも1分でチャンネルを切り替えるほど退屈なものばかりだった。

そしてそんな作業を繰り返していくうちに、俺はある番組、見たいなものを発見した。

 

背景は、どこか室内を思わせる場所でコンクリート造りが目立っている。

廊下だと思うのだが、壁自体に舗装がされていないので客向けの用途で建設された場所でないことは分かる。

カメラのアングルからすると、これは天井付近に設置された監視カメラの影像なのかもしれない。

と、ボーっとしながらそんなことを考えていると、その廊下に誰かが通り過ぎる。

どこかの軍隊を簡単にイメージさせられそうな装備や服装で固めている。

人数は8人。

内2人が前方を歩いて偵察の役割を果たしていて、その次に私服の男女が数人歩いている。

そして最後尾に軍服を着た2人の歩兵が後ろ歩きに見張っている。

その4人がライフル銃で武装していた。

これは何かの映画か何かだろうか?

敵陣地に迷い込んだ軍人が、そこで出会った囚われた現地の人と共に脱出する。

そんな感じのシナリオの映画だろうか?

だとしたらカメラが固定視点のままの映画なんて、面白いだろうか?

新たな試みとして、そう言ったムービーが作られたと考えるのが自然だろう。

だがその映像も長くは続かず、最後尾の軍人が通り過ぎて拳銃を取り出して、カメラを撃ちぬいたようで、テレビ画面がすぐに黒い砂嵐が埋め尽くされる。

その後も画面を見ていたが影像が切り替わることなく、しばらくするとブルースクリーンに変わった。

俺は首を傾げたが、どうせテレビのアンテナが不具合でも起こしたのだろうと、大して気にせず他のチャンネルに変えた。

 

その後、特にすることもなく番組を適当に見ていたがすぐに飽きて、かと言って今さら外に出る訳にもやる気メーターが限りなく0に近いので、ベッドの上で寝転がることにした。

テレビも消して、仰向けになって天井を眺めていた。

この町に来て、頭の中で今日起きたことを確認をしていた。

後輩からのチケットでこの町を訪れて、観光しているところに天然シスターに出会って、なり行きで教会に案内されて、トラブルが起きてそれで明日、オルソラの教会に招待される事態に陥ったわけだ。

大丈夫なのだろうか?このままあの場へ行っても。

俺は不安だった。

オルソラの事が信用できないとかではなく、見えない敵によって明日、巨大なトラブルに巻き込まれる事はないだろうか?

色んな不安が過るなか、俺は一体何が出来るだろうか?

電車で長門にも言われたが、俺は良くも悪くも一般人だ、だからそんな俺でも出来ることはしようと思う。

様々な思考が脳内で呼びかう中、俺はいつの間にか意識を失って眠ってしまったようだった。

 

 

2012年、7月15日、14;47;38

中学2年生 超能力者

磯埼 蘭 (いそさきらん)

日本国 茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 郷土資料館付近 レストラン

 

名波 翠

「蘭っ、これは罠やで!行ったらあかん!」

 

テーブルをバンッと両手で叩いて置いてあるグラスの中身が若干揺れているが、大して気にしていない興奮気味の翠を、私の隣から席に付いて口元に手を当てながら留衣も同じような意見を言った。

 

綾瀬 留衣

「僕もそう思う。1人で呼び出すなんて、どう考えたって罠だよ。蘭、行っちゃだめだ」

 

2人とも真剣な顔で言うので、渋々頷くしかなかった。

 

磯崎 蘭

「分かったよ2人とも。でも、私にしか言えない事ってどんなことか、かなり気になるんだけどさ」

 

あのオーナーさん、江守さんは私と一対一なら全てを話すと言っていた。

どんなことについて話すのか分からないが、かなり気になっているのが現実だ。

 

磯崎 凛

「いやー、お待たせ。トイレに長くいる奴がいるから、遅れちゃったよ」

 

トイレに行っていて後から来たお兄ちゃんは、両手にジュースの入ったグラスを両手に2つ、手に持っていた。

 

磯崎 蘭

「お兄ちゃんそれ全部、1人で飲むの?」

磯崎 凛

「おう。ちょうど喉が渇いていたから、これくらい飲まないとやっていけん!」

 

席にドッカリ座り込むと、隣にいる翠がうるうるした目でお兄ちゃんを眺めていた。

 

名波 翠

「ですわよね凛さんっ。今日みたいな暑い日には、それぐらい飲まないと!」

磯崎 凛

「そうそう、翠ちゃんもお代わりしたかったら俺に言ってくれ。通路側の席にいるから、すぐにでも行けるからさ」

名波 翠

「まぁ、凛さんお優しい!」

 

などのコメントを頂いたわけだけど、留衣が1つ咳払いすると本題に入った。

 

綾瀬 留衣

「さっきの江守さんの話ですけど、僕は蘭の安全を考えて彼の申し入れは断った方がいいと思います」

磯崎 凛

「俺もそうした方が良いと思う。あのおっさんが何考えてるか分からないけど、俺達がいる目の前で2人で話さないかって持ちかけるのもどうかなものかと思う」

名波 翠

「私も留衣君と凛さんの意見に賛成です。当の本人はあまり乗る気じゃなさそうですけど」

 

翠がズバリと指摘して、お兄ちゃんと留衣は互いに私の方へ視線を合わせた。

 

磯崎 凛

「そうなのか、蘭?」

磯崎 蘭

「えっと、うん。そうだよ。だってあの人なんか、寂しそうだったよ?昔、誰か大事な人をなくして、憤ってると言うか、何というか………言葉にし辛い感じだった」

 

私は同じ心境になってしまったので、胸に手を当てる。

幾多の事件を乗り越えて来たからこそ言えることはある。

大事な人がいなくなるのは、残された人がどれほど悲しくなるか、ちゃんと分かっている。

 

磯崎 蘭

「だから私は明日、江守さんに会って話を聞きたい。昔あの人が、どんなことをして私に似てる人がどんな人だったかについての話を聞いてみたい」

 

懇願する私の姿を見て翠ははぁ、っとため息をついた。

 

名波 翠

「蘭にその顔されると、私弱いわ。仕方ない、手伝おうじゃない。凛さん、留衣君。どうします?」

 

翠があっさり了承したので私はビックリしていると、同じことを考えていたのか、お兄ちゃんと留衣は互いに顔を向けた。

 

磯崎 凛

「蘭がそんなに言うなら、仕方ないか。留衣はどうする?」

綾瀬 留衣

「分かりました。僕も皆さんに従います。でも蘭、絶対に無茶だけはしないで」

磯崎 蘭

「分かってるよ留衣。危なくなったらすぐ逃げるよ」

 

皆が同意してくれて嬉しく思い、ジュースのストローを口につけると、隣の席からの会話が聞こえてきた。

 

??????

「ところで、今回のあれ。楽しみで仕方がありませんわ」

 

女性の声だった。

声からすると、30歳代くらいの人だろうか?

ブロンドの髪で顔は見えなかった。

 

??????

「きみ、外で『ゲーム』の話をするんじゃない。しかしまぁ、わしもその意見には同意じゃ。今回はどんな展開が待っておるんじゃろうな?」

 

今度は60近い老人の声が聞こえた。

あまり機嫌のよろしくない様子だった。

 

??????

「あなたも人の事言えないんじゃなくて?でもそうね、前回はあまり面白くなかったから、今回の『ゲーム』は運営の人達に期待して、私たちをガッカリさせてくれないように、切に願うしかないようだわ」

??????

「まったくじゃ。あいつら、こっちがどれほどの金を払ってると考えているか!それで今回もつまらんものじゃったら、わしはあいつらを――――」

 

なにやらかなり不穏な話をしていったので、耳を逸らそうと意識をこちらのテーブルへ戻した。

 

綾瀬 留衣

「どうしたの蘭?よそ見なんてして」

 

隣にいた留衣が、声を掛けて来たので一瞬だけ驚いた。

 

磯崎 蘭

「わっ、っと。ごめん、ちょっとよそ見してて」

磯崎 凛

「大丈夫か蘭?もしかして、急にあのおっさんと話すことにプレッシャーを感じてんのか?」

磯崎 蘭

「違うよっ、別に何でもない。ところでさ、次はどこに行く?資料館に行って、レストランで飲み物充分に飲んだから、今度は違うところに行ってみようよ」

綾瀬 留衣

「それなんだけど、今度はここに行ってみない?」

 

バッグの中から雑誌を取り出した留衣に全員がその手にある物を注目する。

 

綾瀬 留衣

「駅で雑誌を配ってたの貰ったんだけど、次はこの町にとっての主役となるターミナルへ行ってみたいんだけど、どうかな?」

 

 

2012年、7月15日、15;21;48

中学2年生 超能力者

磯埼 蘭 (いそさきらん)

日本国 茨城県 尾阿嵯(おあさ)町 総合交通ターミナル・第4番ゲート前

 

目の前に広がる行きかう人々を前に、私たちは歓声を上げてしまった。

 

磯崎 蘭

「うわー、すごく広い」

 

高い天井や2,3階とフロアが吹き抜けになっている光景や、様々な買い物店やレストランが多く開店していることに呆気を取られる。

私達がいるのはこの町が明日、久住さんに聞き損ねたが、どこかの都市とこの町が開通するセレモニーが行われる『総合交通ターミナル』と名付けられた大型公共施設を訪れていた。

地上8階、地下4階にも及ぶこの建物は4~8階がホテル、1~3階が大型デパートや交通関連(主に鉄道)を占めている。

地下4階は全て、地下鉄と高速バスで成り立っている。

また、このターミナルは空港も兼ね備えていて外には管制塔が建っていたり、広い滑走路が何本も整備されている。

その滑走路からジャンボジェット機が1台、離陸するのが見えた。

他にも広がる滑走路の端にはプライベートジェット機が何台も止まっていて、倉庫に入れられている。

 

名波 翠

「この町の交通面を一手に担うのが、この総合交通ターミナルなんだって」

 

ターミナル前に設置してあったパンフレットから、なぜか自慢げに翠が鼻を鳴らした。

この町の観光客もかなり多かったのだが、外国から来た人も少なくなかった。

飛行機で搭乗してきたお客さんの中にかなりの確率で外国人が、搭乗口から次々と出ていくのが見れる。

少し歩くとセレモニー用に設けたのか、巨大な看板や十人分くらいの席が置かれていた。

どうやらこの鉄道開通に携わった関係者や著名人専用の席なのだろう。

 

磯崎 蘭

「こんなすごいことがうちの町の近くで起きてるなら、ニュースや新聞に載ってると思ったのに」

磯崎 凛

「確かにそうだな。こんなに人が集まって、これだけの規模のセレモニーとなると、やっぱりテレビ局がそこいらにいる訳だな」

 

お兄ちゃんはさっきのセレモニーを行う場所の近くに数十台のカメラやスタッフが待機しているところを指差した。

あの様子だと全国のお茶の間に瞬く間に放送されるのだろう。

 

磯崎 凛

「それにしても、何で俺達の住んでるところじゃこんな話題も出てこなかったんだろうな。翠ちゃんたちはクラスで話題とかにならないかい?」

名波 翠

「少なくともクラスの中じゃそんな話題は一切ありませんでしたわ、凛さん」

綾瀬 留衣

「蘭たちとは違うクラスになっちゃいましたけど、僕もそんな話は聞いたことがありません」

 

2人が首を横に振ると、お兄ちゃんは唸り声を上げる。

 

磯崎 凛

「う~む、俺の高校でもそんな話は聞いてない。となると、考えられるのは1つだ」

 

何か思いついたように、お兄ちゃんは私たちに振り向いた。

 

磯崎 蘭

「どんなことが考えられるの?」

磯崎 凛

「それは、俺たちが違う世界に迷い込んだかもしれないと言うことだ」

 

大真面目な顔で、そんな突拍子なことを言ったお兄ちゃんに私はぶんぶんと顔を横に振った。

 

磯崎 蘭

「いやいやいやっ、そんな訳ないでしょ!いきなり何言いだすのさお兄ちゃん!」

磯崎 凛

「考えても見ろよ蘭。俺は毎日新聞や広告、ニュースを見てるんだぞ。これだけのイベントがあるなら、何かしらの出だしや記事で掲載されているはずなのに、そんな文面なんぞ見た事もない!だから俺たちの今ここに居る世界は異世界だ!」

 

一気に喋ったせいか、ハァハァと両肩を上下させて息を整えていた。

 

磯崎 蘭

「あのさ、確かにそれだけ毎日新聞を読んでればこのイベントに関する情報が手に入らない時点でおかしいけどさ。だからってここは異世界だって極論付けなくてもいいんじゃない?」

磯崎 凛

「え、そ、そうかな?だってあんなにテレビ局のカメラや人員が動員されてるのにさ、全く報道されてないのも何か変じゃね?」

 

言われてみれば、確かにそうかもしれない。

こんな大イベントに一切の報道をしないのも妙な話だ。

傍から見ていても分かるが、テレビスタッフらは何やらピリピリした雰囲気を漂わせていて、近寄りがたかった。

 

綾瀬 留衣

「まぁ、その話はいったん置いておきましょう。警備もより強力なものになるでしょうし」

 

留衣が隣から口を挟んで、ある方向を向いた。

その方向を見ると青い服に防弾ベストを着た特殊部隊のような人たちがターミナル入口に押し寄せてきた。

その後ろに白いロボットが何十台も付いて行く。

人々は道を開けて特殊部隊の人たちが通っていった。

一瞬、私は僅かに背後から気配を感じて後ろへ振り向いた。

その先には、柱の陰に隠れていた黒服で胸のあたりに白い十字マークが入った修道女数人が、なぜか私達を睨んでいた。

あの眼は完全に、こちらに対して敵意をむき出しにしているような、そんな錯覚さえあった。

服装が黒いだけに、その錯覚がより濃厚なものとなっていた。

内心冷や汗が出てきて、その視線から目を離すことは出来なかった。

まるでヘビに睨まれたカエルのように。

だけどそれも一瞬、足元にガツンと何かが当たった感触があったので今度はそっちを見た。

するとそこには私の腰ぐらいの高さの白いロボットがあった。

ロボットに内蔵されているカメラが私の姿を確認すると、

 

??????

『モウシワケアリマセン、ダイジョウブデスカ?』

 

と、いかにも電子音から発せられる声でこちらを見てきた。

 

磯崎 蘭

「は、はい、大丈夫です」

 

一言そう言うとロボットは戦列のような場所へ戻って行った。

通り過ぎるのを確認し、ホッと一息を付いて再びそっと背後を振り返るけど、そこにはもう誰もいなかった。

気のせい、だったのだろうか?

 

綾瀬 留衣

「どうしたの蘭?ロボットにぶつかってたけど」

磯崎 蘭

「ううんっ、何でもない!それより、あの青い服装の人たちはなんなわけ?」

綾瀬 留衣

「うーんと。パンフレットによれば、『学園都市』っていう都市で警察みたいな役割をしている人たちだって」

磯崎 蘭

「警察みたいな?警察じゃないの?」

名波 翠

「そうじゃないみたい。まぁ、『学園都市』に関する情報はホテルに戻ったら説明したる。私としても、信じがたいものもあるしね」

 

隣にいる翠がなぜか珍しく、口ごもっていた。一体何が書かれているのだろう?

 

磯崎 凛

「んで、どうする。まだ見学していくか?もうちょっと情報を集めたいしな」

磯崎 蘭

「そうだね。私ももうちょっとここで」

 

その後の言葉を言おうと思ったのに、あろうことか横から20歳代のエプロンを着た女性が、私たちの間に入ってきた。

 

??????

「明らかに観光客気分を味わっているお客様のために、特別に様々な衣服などをご用意しております~」

 

キラキラ光るその笑顔は何とも眩しいのだが。

 

磯崎 凛

「あの、確かに観光客ではあるんですが、別に衣服に関して特に困ったわけじゃ」

??????

「ご安心ください。今日は特別サービスデーで無料なんです。多くの外国の方々が来日されて様々な国の文化や衣服がどのような物なのかを体験していただけるのです」

名波 翠

「へ~、そんなイベントが………」

??????

「この近くにそのお店があるのでよろしければいかがですか?」

 

そこでようやく、ショップの店長と名札を見られた。

彼女の名は、後藤焼江(ごとうあきえ)さん。

 

磯崎 蘭

「ねぇ。どうしよっか?」

私は振り返り、3人はそれぞれ違う表情を見せる。

綾瀬 留衣

「良いんじゃないかな。異国の服がどんなものなのか知りたいし、俺は賛成だよ」

名波 翠

「私も留衣君に賛成や。ふふふふ、ゴージャスな服装が目に、ふふふ………」

磯崎 凛

「外国の服装か、うーむ。今は調査をしている最中だが、少しくらいならいいか」

 

反応はそれぞれだが、反対する者はいないようだ。

 

磯崎 蘭

「それじゃ案内、お願いします」

後藤 焼江

「分かりましたっ。それじゃ3名様、ご案な~いっ」

 

2012年、7月15日、16;13;42

中学2年生 超能力者

磯埼 蘭 (いそさきらん)

尾阿嵯(おあさ)町 総合交通ターミナル・衣服店

私たちは多くの種類の衣服を着ては、また別のに着替えるの繰り返しをしていた。

店員さんが言っていた以上に服の種類が多かった。

そもそもお店自体、かなり大きかったので、種類や量がかなり豊富だった。さすが、このデカ

いターミナルにお店を開いてるだけあった。

今私は試着室に居て、着替えている最中である。

綾瀬 留衣

「蘭、終わった?」

留衣の声だ。もう着替えが終わったのかな?

因みに今まで着た服は

磯崎 蘭

「ごめん、もうちょっと待って」

綾瀬 留衣

「ああうん。無理に急ぐ必要ないから」

返答してちょっとそそくさと上着を着て、試着室から出た。

磯崎 蘭

「じゃじゃ~んっ。今度の私は中世ヨーロッパ風の女性貴族の服装を着てみました~。どうか

な?って、留衣!その服似合ってるけど、どんな服なの?」

試着室から出てきて、留衣の服装がかなり似合っていて驚いた。

綾瀬 留衣

「これは中世ヨーロッパ時代から現代まで使われている服で、ローマ人の宗教団体が着ている

ものでこれはその内の『枢機卿』と呼ばれる階級で表されるんだ」

磯崎 蘭

「枢機卿?」

綾瀬 留衣

「うん。カトリック教会の階級の1つだよ。他にも、司祭や司教、主教があるんだ」

磯崎 蘭

「へぇ。それじゃ、お兄ちゃんが着てるのも?」

磯崎 凛

「いやこれは、その階級の下で『司教』が実際に着ている服だ」

ふーん、そんな感じの服か。

お兄ちゃんが下で、留衣が上か。

磯崎 蘭

「ところでさ、翠はどこ?まだ着替え終わってないの?」

綾瀬 留衣

「まだみたいだね。着替えに手間取ってるのかな?」

名波 翠

「お待たせ~。ちょっと着方が分からなかったから、ちょっと手間取っちゃって」

私の隣の試着室から出てきた翠を見て、3人とも絶句した。

その服装は、全体的に黒を強調したもので胸の辺りで白い十字が縫われている代物だった。

深いフードも被っていて、完全に新米のシスターさんの出来上がりだった。

名波 翠

「どうですか凛さん?翠のこれ、似合ってます?」

磯崎 凛

「ああ。とてもよく似合うよ。やっぱり翠ちゃんはどんな服でも似合うよ」

翠がフードを少し払って、ちょっと色っぽい行動に出る。

私は先程の同じ服装のシスターたちのことを思い出して、複雑な気持ちになった。

さっきのシスターたちは、明らかにこちらの様子を伺っていた。私の中でのシスターさんは、

人のために尽くす、具体的には人助けやお祈りとかを日々欠かさずに行っている人たちだけあ

って、あれほど敵意を向けられることにショックを受けた。

だから翠がその格好で出てきた時は、表現しずらい気持ちになった。

名波 翠

「何や蘭?そんなに私のこの服装が羨ましいなら、蘭もお揃いにしてみる?多い方がそんな雰

囲気になるけど」

磯崎 蘭

「遠慮しとく。その服着んのは、また今度の機会に」

控えめに言って、そっと肩を落とす。

磯崎 凛

「さて。十分に満喫したことだし、そろそろ着替えて情報をいったん整理するためにホテルへ

戻ろうか」

綾瀬 留衣

「そうですね。情報も十分に収集できたことですし、さっさと着替えてって。あれ?」

留衣は試着室に戻って、その中に設置してあるカゴの中に入ってるはずの服がないことに気が

付いた。

磯崎 凛

「あれっ、この中にあった俺の服は?」

名波 翠

「ああー!こっちにもあらへん!」

続いてお兄ちゃんと翠の試着室からも叫び声が聞こえてきた。

実際に叫んだのは翠一人だけだけど。

自分の試着室のカゴも見てみるが、こちらにもなかった。

磯崎 凛

「くそっ、さっそく事件か!おいみんな、財布があるかどうかチェックするんだ!」

お兄ちゃんが血相を変えて試着室から出てくると、私たちは衣装のポケットからそれぞれ財布

を取り出して見せあった。

磯崎 凛

「良かったぁ。財布取られてなかったよ」

綾瀬 留衣

「それにしても、誰が盗っていったんだろ?とにかく店長さんに知らせないと」

走り出そうとした留衣に、後ろからさっきの店長さんが声を掛けてきた。

後藤 焼江

「お客様。どうかされましたか?」

磯崎 蘭

「店長さん、実は私たちの試着室から私服が盗られてしまったんですっ、早く警察に電話して

貰ってもいいですか?」

窃盗事件が起きたてまえなのに、冷静に状況を知らせられる翠は相変わらずすごいなと思って

いると。

??????

「ああ、お客様方の私服でしたら先程、クリーニング業者の方にお預かりいたしましたけど」

さっきの店員さんとはまた別の女性店員さんがこちらに気付き近づいてきた。

女性と言っても、お兄ちゃんとあまり年齢は変わらない風貌の人だが。

磯崎 凛

「えっ、クリーニング業者に?」

姿勢がそのまま固まった店長さんに胸の名札に『西野』と書かれている女性店員さんはコクリ

と頷いて。

??????

「はい。今は無料クリーニングキャンペーンを実施していまして、お客様には当店の服装をお

貸しする際に並行して私服の方をクリーニング店に預かるキャンペーンなのです」

磯崎 凛

「いやいやっ、別に俺たちはクリーニングに出してくれって、頼んだ訳じゃないんですけど」

お兄ちゃんがガックリと両肩を落としてその店員さんをじと目で見ていた。

後藤 焼江

「それに奈菜ちゃん、そのキャンペーンは昨日で終わっちゃったじゃない」

さらに店長さんからも無料クリーニングキャンペーンはすでに終了していたという、かなり痛

いミスを犯してしまったことで顔が徐々に真っ青になっていく。

西野 奈菜

「も、申し訳ありません!すぐに業者の方にご連絡を入れますのでっ」

慌ててカウンターにある電話で連絡を取ろうとするが、お兄ちゃんはそれを止める。

磯崎 凛

「いいですって。折角クリーニングに出してもらうならそのままで結構です。ホテルの住所を

書きますんで、後で届けて貰ってもいいですか?」

西野 奈菜

「え、ですけど………」

磯崎 凛

「俺の服、前々からシワとかが結構服に出来ちゃってたから、ちょうどいいっすよ。ですから

このホテルの508号室に届けて貰ってもいいですか?」

お兄ちゃんは胸ポケットから私たちが泊まってるホテルに関するポスターを取り出して、店員

さんに見せる。

西野 奈菜

「あ、分かりました。では少々お待ちください」

そそくさと受付に戻った店員さんを見て、今度は店長さんが驚いた表情を浮かべる。

後藤 焼江

「お客さん、もしかしてこの町で一番有名な尾阿嵯ホテルに泊まってるんですか?」

名波 翠

「いやーそうなんですよ。実は隣りにいる私の大親友の蘭の先輩から貰ったみたいで、そのお

零れに預かってる状態でして」

磯崎 蘭

「ちょっと。何で翠が自慢げに語るのさっ」

名波 翠

「良いじゃないの、別にぃ」

後藤 焼江

「へぇ、羨ましいです。あのホテルって主に外国人がよく利用してるビジネスホテルを改装し

て、今のホテルになったんですよ」

磯崎 蘭

「どれくらい前から改装を?」

後藤 焼江

「う~んと、10年くらい前からですかね。今のホテルオーナーの先代が工事を行ったんです

よ。それからもうめっさ稼いでるらしくて、今見たく繁盛したみたいなんです」

磯崎 凛

「ほうほう。んで、その時期くらいから何か事件とかって起きたりしてませんか?」

磯崎 蘭

「ちょ、ちょっとお兄ちゃん!」

後藤 焼江

「えっ?事件ですか?すみません、私はこのお店に来たのは半年くらい前からなんで、そんな

に前の出来事は覚えてないんです」

磯崎 凛

「あー、そうですか。すみません、変な事聞いちゃって」

後藤 焼江

「いいですよ、ヒマを持て余してたところですし。でももうそろそろ仕事に戻りますね。……

……あの、先程の件はすみませんでした」

磯崎 凛

「大丈夫ですよ。ちゃんと戻って来てくれるなら」

最後に店長さんが頭を下げると、カウンターの方へ引っ込んでしまった。

磯崎 凛

「………早速トラブルに見舞われたが、そのうち戻ってくることを願って待つしかないな」

名波 翠

「まぁ幸いにも財布はこっちにありますし、個人情報を取られる心配もなくなるでしょうし」

磯崎 蘭

「ちょっと翠、それは考え過ぎだって。そりゃあ、向こうの手違いだけどさ」

綾瀬 留衣

「それに、電話の相手はこっちの情報なんて、調べ尽くしてると思うから、今さら俺たちの事

を調べたって特に何も出てこないはずだよ。名波さん」

名波 翠

「っ、もう。蘭も留衣君も緊張感なさすぎ!」

磯崎 凛

「翠ちゃん、ちょっと落ち着こうよ。確かに用心に越したことはないけどさ、せっかくの旅行

なんだからもう少し楽しもうさ」

名波 翠

「はいっ、凛さん!」

磯崎 蘭

「ちょっと。一番緊張感ないの、お兄ちゃんと翠なんじゃない?」

急にコロッと態度を変える翠に対して留衣も留衣で、

綾瀬 留衣

「まぁ、いつもの名波さんになったんだから、良かったんじゃない?」

 

苦笑する留衣を見て、そりゃそうなんだけどと言いたくなったけど、やっぱりやめた。

 

 

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