――――人類は殺戮について考えるべきだ。善のためにどれほどの悪が為されるのかを――――
ロバート・マクナマラ(アメリカ合衆国国防長官)
どうも皆さんおはこんばんにちは。
作者です。
お久しぶりです、ようやく解禁です。
最近は仕事の都合で栃木へ行くことになり、そのための引っ越しの準備をしていた関係で、更新が遅れてしまった次第です。
さて、長話もなんですし、さっそく最新話の方をどうぞ。
[戦地へ]
2012年、7月14日、9;59;23
高校2年生 SOS団雑用
キョン
?????? 1階廊下
磯崎 蘭
「なんて言われたら、私、気が狂いそうになりそうだったもん」
キョン
「おわ!?」
俺は間抜けな驚きの声を張り上げてしまった。
いきなり風景が変わったと思ったら、隣には生きていた磯埼がそこにいることやPDAを確認したときだった。
まだゲーム開始時間から1時間しか経っていないところから、本当に戻れたんだと実感を得られた。
磯崎 蘭
「どうしたのキョンさん?いきなり変な声あげて、私変な事言った?」
俺の内心も知らず、普段通りに磯崎が話しかける。
俺は彼女を見た途端、未だかつてない安堵感に包まれていた。
キョン
「いや、何でもない。一安心しただけだ」
この時、磯崎が無事であって生きている半面、自分の判断ミスで彼女自身を間接的に死なせてしまったことに罪悪感の2つの感情が混ざり合い、複雑な表情となってしまった。
磯崎 蘭
「一安心?なら良いけど」
妙に思った磯崎であったが、もうすぐ漆山の悲鳴が館中に響く頃合いだ。
ったく橘のやろう、もうちっと前に戻せってんだ。
そうすりゃ漆山のオヤジを助けられたかもしれないのによ。
??????
「うわああああ、助けてくれ~!!」
やはり来たか。
そして案の定、磯崎が俺に食いつく。
磯崎 蘭
「キョンさんっ」
キョン
「ああ」
前と同じやり取りに呆れるばかりだが、今度ばかしはそうはいかない。
今度こそ、前のようにならないよう、磯崎や他の参加者を死なせない。
漆山さんについては………申し訳ないが、今回は諦めて貰おう。
すみません。
だけどよ、今回の俺は一味違うんだぜ?
磯崎 蘭
「危険な目に会ってるかもしれないのに、放っておけないよっ。私、様子を見てくるっ」
キョン
「待った」
俺の方を振り向きもせず、磯崎は部屋から出ようとして、俺は部屋から飛び出そうとする磯崎の腕を間一髪で掴み取る。
やっぱり運動部に所属しているだけあって、引き留めるのにかなりの力が必要だ。
磯崎 蘭
「何でよっ、早くしないとあの男の人が危ないよ」
キョン
「いいから聞け!」
俺は自分でも信じられないくらいの声で怒鳴り声に、さすがの磯崎でもそこでビクっと身体を震わせた。
キョン
「いや、すまない。こんな状況なんだ、何があってもおかしくないだろ?さっきの罠みたいなものに引っかかって、はい終わり何て嫌だろ?」
磯崎 蘭
「………何かあったの?」
キョン
「えっ」
磯崎の勘の鋭さに俺は返答に詰む。
それでも続ける。
磯崎 蘭
「だってこんな時、キョンさんだったら真っ先に出ていくはずだもん。なのに罠みたいなものに引っかかって?そんなこと言うはずないもん」
その言い方だと、俺は誰かを助けるために命を投げ出してるかのような発言だな。
確かに、自分で言うのも何だが、仲間の危機なら俺は全力で身を投じる覚悟と意思を持っているつもりだが、見知らぬ人物を助けるほど、自分に余裕があるとは思えないがな。
磯崎 蘭
「私を助けに来たときがまさにそうだったもん。私には分かったよ」
その口から出た言葉に戸惑っていると、磯崎はその隙をついて俺の手を握る。
げっ、こいつはやばいパターンじゃないか?
磯崎 蘭
「そんな」
俺はその時、あまりにも咄嗟の出来事だったため、動くことが出来なかった。
ただ単に反応速度が遅れたというのもあるが、いずれはこいつにも知れるだろうと、思ったからだ。
磯崎には酷だが、これはこれでよかったのかもしれない。
磯崎 蘭
「そんなことが、あったなんて………」
俺は罵倒される覚悟はできていた。あの時の失敗が、最終的にこいつを死なせてしまった。
だけど磯崎は、そんな反応とは正反対に。
磯崎 蘭
「そんなに責任を感じなくて、良いんじゃないかな?」
静かな声で、そう言った。
呆気に取られた俺は、少ない言葉しか出てこなかった。
キョン
「どうして?」
磯崎 蘭
「だってさ、その時、動けなかったんでしょ?私を庇ってくれて」
ああ、まあ、そうなんだが。
いや、そうじゃなくて!
磯崎 蘭
「助けてくれたキョンさんが動けなくて、誰が動くのさ?その時の私は、結果には後悔したかもしれないけどさ。キョンさんを連れて行かなかったことは、間違ってないと思うんだ」
キョン
「だがそれは結果論だ。過程の時点で俺が動けなくちゃ意味がなかった」
磯崎 蘭
「でもその中であなたは私を助けてくれた。それでいいじゃない」
キョン
「ちっともよくねぇ。俺以外の人間が死んだとき、俺はどうすれば良いか、分からなかった。本来の目的も、何もかも、忘れちまった」
磯崎 蘭
「だったら私が思い出させる」
磯崎は息をゆっくり吸うと、俺を真っ直ぐ見つめる。
キレイな両の目が、俺をしっかりと捉えていた。
だけど、決して居心地の悪い視線ではなく、むしろ安心できる瞳だった。
磯崎 蘭
「このゲームを、止めればいいんだよ」
たった、それだけだった。
たったその一言が、スーッと心に入っていく。
そして、磯崎の覚悟が確かに秘められているのがすぐに分かった俺は、自分の不甲斐なさに腹が立ってきた。
その通りだぜ、磯崎。
俺はお前が死ぬところを見つめちまったがあまりに本当にしなくちゃいけないことを忘れていた。
思い出させてくれて、ありがとう。
磯崎 蘭
「ううん。良いんだよ、別に。それより、どうする?だいぶ時間を割いちゃったけど」
キョン
「それなんだが、実は俺達も本当の意味での参加者になれば良いと思うんだ」
磯崎 蘭
「え、どうやって?」
キョン
「これさ」
そう言ってカバンから2つの首輪を取り出した。
大きさは、大小1つずつある。
磯崎 蘭
「これって、橘っていう人から貰ったやつだよね?」
キョン
「ああ、お前と同じ、超能力者から貰ったやつだ」
磯崎 蘭
「まあ、その話云々は置いといて、なんで橘さんは、私たちにそれをくれたのかな?」
キョン
「奴の真意までは分からないが、これがあるおかげで、俺たちは他の参加者らと変わらない扱いになった。しかも偽物だから首輪が作動することもない、折り紙つきだ」
磯崎 蘭
「なら安心だね。早速つけて、行こうか?」
2つの首輪のうち、小さい方を磯埼に手渡す。
受け取った磯埼は2つに分かれた首輪を首にはめ、コンコンと首輪を突く。俺もそれに続く。
いざこうしてゲームの参加者となったわけだ。そんな中、俺は思った。
やっぱこう言ったゲームは、画面の中でやるのが一番だな、と――――
磯崎 蘭
「確か、もう少しのところだったよね」
PDAを開いて地図を見ながら歩いている磯崎である。
キョン
「ああそうだ………ところで、これからの事なんだが、実はもう考えてあるんだ」
だいぶ頭の中にある沸騰石の熱がなくなって、良い頃合いに冷えたおかげで頭が冴えてきた。
この数分間である程度の計画も立った。
磯崎 蘭
「それで、私はどうすれば良いの?」
キョン
「それはだな。お前がやって欲しいことはな――――」
2012年、7月14日、10;21;33
中学2年生 超能力者
磯埼 蘭
?????? 1階廊下
キョンさんの大胆にも程がある計画を聞いてから、早数分。
私自身、反対したのだが、彼も彼でなかなか引かないので、とうとう計画に同意してしまった。
そして問題の現場には、彼から読み取った通り、数名の参加者が横たわっている人物を見て驚愕していた。
――――どうする?やっぱり、この作戦はナシにして別の方法を模索してみるか?
キョンさんに少し自分の考えを改めた方が良いのかと考える。
だが、先程の自分の死顔が映りこみ、気弱な考えを持ってしまった。
いかんいかん。
キョン
「おーい!!」
隣にいたキョンさんの怒鳴り声に、他の参加者全員が、私達の方へ振り返る。
うぅ、いくら作戦とは言え、やっぱり皆の視線がちょっと痛いよ………。
キョン
「そこにいるそいつはどうしてそうなった!?」
キョンさんが尚も続ける。
他の参加者が驚いてる中、死体の近くにいたチンピラ風の男の人がこちらに手を振ってきた。
??????
「お前ら、同じ参加者か?」
だがチンピラ風の男性はキョンさんの質問に答えとは違った返答をする。
えっと、名前は確か………。
名前を思い出そうとしている間、キョンさんは自分の首とPDAを全員に見せる。
キョン
「ほら、俺もこの子も首輪もしてるし、PDAはある。そっちこそ、俺達をさらった連中共の手先じゃねぇだろうな!?」
PDAを仕舞い込んだキョンさんは、ゆっくりと距離を詰めていく。
う、うん。
やっぱり作戦だって分かっていても少し抵抗があるな、これ。
??????
「ルールの確認や相手の素性を確認する事よりも重要な事があるわよ」
そんなこととよそに、受付の服装をした女性がチンピラ風の男性とキョンさんの間に割って入る。
何だろ?
御剣 総一
「なんですか?」
問い返した少年、御剣総一さんの言葉に彼女は笑顔を覗かせた。
??????
「自己紹介よ。いつまでもテメェとかお前とかじゃ誰が誰だか分からないでしょう?」
………確かに、そうだ。
特に反対する理由もなかったので、私を含めた全員が女性の提案に乗ることにした。
磯崎 蘭
「………」
遠目で見える、男の人の遺体。
焼け焦げた衣服に、大量出血による血だまり。
そして、怒りや苦痛に満ちた表情。
その場にいた人たちが移動してる間に、私は彼の傍へ近寄った。
近くで見ると、更に現実感が一層、増してきた。
テレビでしか悲惨な光景を見ないため、目の前に広がる光景に頭の処理がパンクしそうだった。
さっき自分の死んだ光景を見た時よりも、ずっと現実味がある。
真っ赤な血。
濃い鉄の臭い。
横たわる遺体。
もうそれらだけで、十分だった。
磯崎 蘭
「ごめんなさい。そして、安らかに眠って下さい」
目を覆いたくなるほどの酷い死に方をした男性に黙祷を捧げ、その場を離れてキョンさんの後に続いた――――
場所は変わって、全員が大きな部屋に移動していた。
死体の傍で話せるほどの余裕はないため、近くの部屋へと移動してきたのだ。
この場には、えーっと、私を含めた9人がこの部屋へと集合している。
これだけ大人数であっても普通にスペースが余っているから、この部屋は大部屋と呼ぼう。
御剣 総一
「文香さん、すみません。彼女はここでも大丈夫でしょうか?」
??????
「ええ、大丈夫よ」
文香さんと呼ばれた受付のような女性は、コクリと頷いた。
御剣さんは近くに女の人を椅子に座らせる。
女性は御剣さんの手をギュッと握ったまま、身体を震わせていた。
………多分だけど、あの女の人は亡くなった彼の遺体を見て、かなり落ち込んでるんだと思う。
それなら――――
磯崎 蘭
「あの、よかったら私に彼女の様子を見させて貰っても良いですか?」
御剣 総一
「えっ、でも」
磯崎 蘭
「大丈夫です!女の子同士なら、きっと心もある程度の余裕が戻ると思うんです!だからお願いします!」
御剣 総一
「………分かった、お願いするよ。咲実さん、それでいいよね?」
??????
「はい………」
私は咲実さんの相手、と言うよりも少しでも気持ちを落ち着かせるための緩衝材を果たそうと思う。
磯崎 蘭
「あの、大丈夫ですか?具合とかは平気ですか?」
??????
「………ええ、多分………」
今にも消え入りそうな声で、彼女は頷く。
これは、かなりの重傷だ。
私が他に彼女を励ませないかを考えていると、頭上から声が掛かった。
??????
「ありがとう、助かったわ。こんな状況であなたも辛いはずなのに、ごめんなさいね?」
私が彼女の傍によって励まそうとすると、先程の受付の女性が私の近くまで寄ってくる。
彼女の表情には、いささか申し訳ないような色が含まれている。
もしかして、私に彼女の相手をさせてしまっていることを言ってるのかな?
磯崎 蘭
「いえ、気にしないで下さい!こんな時こそ、お互いに助け合うのは当然ですよ。それに、一番辛いのは彼の死を間近で見た、この方達だと思うから………」
御剣 総一
「うっ、ま、まぁ………」
??????
「………」
私は御剣さんと彼女の方を見つめた。
御剣さんは頬を何度かボリボリ掻いて誤魔化そうとしてるけど、上手くいってない。
女性は、先程にも増してギュッと袖を掴んできた。
私も答えるように、彼女の手を握り返した。
そんな中、話が始まろうとしていた。
私は咲実さんの相手をしつつ、聞き耳を立てる。
??????
「うし。なら言い出しっぺのあたしから行くべきよね」
部屋の真ん中でそれぞれが好きな姿勢になった9人。
彼女が立ち上がると、自然と視線が彼女に集まっていった。
??????
「あたしは陸島文香(りくしまふみか)、見たとおりの仕事をしているわ」
??????
「イメクラ嬢ってか?」
陸島 文香
「ふふっ、あたしのは高いわよ?あんたじゃあたしに掛かってる金額の1割も払えないでしょうね」
??????
「ちっ、これだよ。頭のいい女は嫌いだよ」
チンピラ風の男の人は盛大なため息を吐き出した。
軽く返した文香さんは続ける。
陸島 文香
「冗談はさておき、真面目なところ、どこぞの家電メーカーの受付に座ってるわ………昨日、コンビニにお昼を買いに行ったところまでしか覚えてないわ。気付けば朝で、この埃っぽい建物の中」
両腕を組んで、先程の男性と同じようにため息を漏らした。
陸島 文香
「携帯は通じないし、今日は無断欠勤になってるでしょうね。あぁ、帰ったら部長にどやされる~」
??????
「記憶が途切れる前に、怪しい人影とかは見なかったかしら?」
今度は眼鏡を掛けた女性が乗り出した。
しかし文香さんは首を横に振る。
陸島 文香
「残念ながら何も。そもそも人が多い辺りだったから、居ても気付かなかったと思います」
??????
「そう………なかなか都合よくはいかないようね」
陸島 文香
「ええ。まぁあたしはこんなところかな。次は………そうだ郷田さん、ついでにやっておきますか?」
??????
「ええそうね、そうしましょう」
文香さんの紹介が終わり、今度は交代と言った感じで彼女が立ち上がった。
??????
「もう知ってる人も居るかと思うけど、私は郷田真弓(ごうだまゆみ)、有名ではないけど、会社を経営しているわ」
??????
「へぇ、おばさん、社長だったのか。道理で来てる物が高そうな訳だ」
落ち着いた雰囲気を出してる女性、郷田さんを隣に居る私と同じくらいの年齢の少年がじろじろと見ていた。
もしかして、社長って言う身分が珍しくて観察するように見てるのかな?
郷田 真弓
「おばっ………まぁいいわ」
おばさんと言われたのがショックだったのか、眉間にしわを寄せた。
確かに、おばさんって言われるのってショック大きいよね~。
って、私まだ言われたことなんてないけど。
郷田 真弓
「ここに居る経緯は、大体文香さんと同じね。商談の帰りに車に乗り込もうとしたら、背後から突然、タオルのような物で口を塞がれて………目が覚めたらここに」
陸島 文香
「そうだったんですね………」
すると郷田さんはスッと自分の席に座った。
どうやらあれで、自己紹介は終わりらしい。
??????
「んじゃ、次は俺かな?」
今度は郷田さんを観察していた男の子が勢いよく立ち上がる。
私と歳が近いからか、どこからか親近感が沸く子だった。
??????
「俺は勇治、長沢勇治(ながさわゆうじ)、塾帰りに拉致されたらしい」
??????
「塾通いねぇ………見た目通りのガキか」
??????
「いったいお前はなんなんだ!さっきから人にけちばかりつけて!」
??????
「ガキなのは事実だろう?」
チンピラ風の男性が勇治君を挑発していって、彼の表情がみるみるうちに赤くなっていく。
ああ、これはキレる一歩手前だな。
そう判断すると、私は彼がキレる前に先手を打った。
これは、キョンさんの言われたことの一つだった。
磯崎 蘭
「ねぇ勇治さん!勇治さんって、中学生ですよね?」
長沢 勇治
「えっ?あ、ああ。中学2年生だけど。あっ、まさかお前も俺をバカにするのか!?」
磯崎 蘭
「ううん、違うよ!!!私と同じ年齢の人が居てくれてよかったって思ったの。私も中学2年生なんだ!だから、敬語を使った方が良いか、全然分からなくて!」
長沢 勇治
「そ、そうなんだ。でも同じ中学生なんだし、別に敬語は使わなくて良いよ」
磯崎 蘭
「ありがとう!私、こんな所に連れて来られて、すごく不安だったんだ!だから勇治君と会えてよかった!」
長沢 勇治
「えっ?あ、そ、そう?」
磯崎 蘭
「そうだよ!だからよろしくね!」
怒濤のラッシュを掛けた後は、最後に握手で締める。
うん、我ながら勇治君とは上手く行けそうな空気を作り出せたなと思う。
でも実際、本当に彼とは友達になりたいと思っている。
キョンさんからの記憶を見た限りだと、解除条件もあるからか、彼は殺人への傾向が薄い。
だから悪人って考えるのは、早計な気がするから。
それに………最初から悪い人なんて居ないから。
一同が男性と勇治君が揉めないかどうか不安だったけど、私が無理矢理入ったおかげで、ホッとしているようだった。
郷田 真弓
「ついでにあなたも名乗ったらどう?」
??????
「はぁ~ぁ………手塚義光(てづかよしみつ)だ」
一瞬、私に言ったのかと思ったけど、チンピラ風の男性、手塚さんが答えた。
彼は他の人達と違って立ち上がらなかった。
勇治君の方をチラッと見てみると、先程の握手された手を何度も握っては、開くの繰り返しをしている。
あはは、それほどまでに握力が強くて、痛かったかな………。
手塚 義光
「職業は、まぁ、会社員って事で」
嘘だ。
その服装で品のない格好で会社員?
この人って会社員に見えるアンケートを取ったら、十人のうち十人が首を横に振るだろう。
この人が誘拐犯だって言われても、私は驚かないよ。
手塚 義光
「ここへ連れて来られたのは状況は、仕事の出がけだな」
………この人が本当は何をしてたのか気になる。
裏で色々と悪事を働いてそう。
手塚 義光
「車に乗ったところまでは覚えてるんだが、そこからが思い出せない。車の中で薬でも嗅がされたんだろうさ」
ずっと口元をにやけさせていた手塚さんだったけど、最後の薬辺りの話をしたら、あからさまに不機嫌になる。
自分が不意を突かれて、拉致された事に苛立ちを感じてるんだろう。
手塚 義光
「とにかく楽しくやろうぜ、ご同輩」
しかし彼はすぐに嫌な感じの笑みに戻り、ようやく手元が落ち着いた。
郷田 真弓
「それじゃ次は麗佳さん、お願いできる?」
??????
「………はい」
郷田さんが麗佳と呼びかけた女性は、大真面目な表情でコクリと頷くと、立ち上がった。
ところどころ服が汚れてしまっているけど、真っ白なワンピースは彼女によく似合っていた。
??????
「矢幡麗佳(やはたれいか)、大学の2回生」
陸島 文香
「あら、大学生だったのね」
聞いていた文香さんは驚いたように目を丸くする。
麗佳さんはまた頷いた。
陸島 文香
「落ち着いて見えるから、もう少し上かと思っていたわ」
矢幡 麗佳
「………大学のキャンパスを歩いていて、研究室へ向かうところまでしか覚えていません。途中に人気の途切れる場所があるので、そこで拉致されてきたんでしょう」
………拉致、か。
その単語を聞いて、私は今いる現状を知ることとなる。
いつもはテレビやニュースでしか聞かない言葉だった。
だけど、今は私が拉致されて、こんな場所へ閉じ込められている。
明確化された、言葉だ。
矢幡 麗佳
「ここで目が覚めて、外へ出ようと少し歩いたら、郷田さんと文香さんに出会って、その後に爆発音が聞こえたのでここへ。後は皆さんのご存知のとおりです」
麗佳さんはここで言葉を切ると、腰を下ろした。
そしてみんなの視線が御剣さんとその後ろの女性に注がれる。
うん、この感じだと私とキョンさんが最後に自己紹介をやりそうだ。
御剣 総一
「あ、えっと」
御剣さんは立ち上がった。
一瞬だけ咲実さんの方を見下ろしたが、私がコクリと頷くと、御剣さんはホッとしたようだった。
御剣 総一
「俺は御剣総一、そして彼女は姫萩咲実。彼女とはここで初めて出会ったんですが、それ以降は一緒に行動しています」
陸島 文香
「えっ?恋人同士じゃなかったの?」
御剣 総一
「ち、違いますよ!」
キョン
「俺も恋人同士だって思いました。だって、ねぇ?」
陸島 文香
「ほら、彼だってこう言ってるわ。ねね、本当に付き合ってないの?」
御剣 総一
「付き合ってませんって!と言うか、それを言うなら君達だって恋人同士に見えるし!」
キョン
「えっ?もしかして俺と磯崎を言ってます?」
御剣 総一
「そうそう」
磯崎 蘭
「えっと、キョンさんとですか?ありえませんよ。だって私、幼馴染で好きな人が居ますし」
キョン
「俺は別に好きな奴とかは……………………いないっす」
最後の部分だけびみょーに間を置いてまま、視線を逸らした。
その反応からすると、多分いるね。
陸島 文香
「えっ、そうだったの?やっぱり最近の子達は………あっと、話がそれちゃまずいわね。あなた達、ついでだから自己紹介しちゃったら?君達で最後だし」
磯崎 蘭
「なら私から。私は磯崎蘭、中学2年生です!陸上部でキャプテンを務めてます!元気が取り柄なので、皆さんどうかよろしくお願いします!」
キョン
「俺は………まぁ、学校からキョンって呼ばれてます。高校2年です。よろしく」
郷田 真弓
「磯崎さんに、キョン君ね。あなた達はどういった経緯でここまで来たの?」
来た。
郷田さんからこの質問が来たって事は………。
キョン
「大した話じゃありませんけどね。目が覚めて、そこの磯崎と出会って一緒に行動している内に、爆発音と男の悲鳴が聞こえたんで、そっちに来たんですよ。それで、あなた方と会ったって所ですね」
郷田 真弓
「なるほど、ね。御剣さんや磯崎さん達までが赤の他人って事になると、ここには全然関係のない人間が集められてるってことになるのかしら?」
手塚 義光
「俺にはガキの知り合いは居ねぇよ」
長沢 勇治
「お前なぁ!!」
手塚 義光
「誰もお前のことだなんて言ってないだろ。そうやって反応してると、自分がガキだって言ってるようなもんだぞ」
長沢 勇治
「ぐっ、お前、それ以上言うと………!」
磯崎 蘭
「ふーんだ、私なんてまだ中学生なんだから、子供も大人もないですよーだ」
無理やり入っては、プイッと手塚さんから露骨に視線を逸らした。
長沢君を刺激しすぎると、後々きつくなるかもしれないから、わざとらしく振舞った。
陸島 文香
「長沢君、蘭ちゃん落ち着いて。あなたもよ、いちいち話に口を挟んで、時間の消費したいの?」
手塚 義光
「そうだったそうだった。ありがとよネーちゃん、忘れるところだったぜ。まだ本命の話題が残ってたな?」
手塚さんは特に悪びれた様子はなく、PDAを取り出して左右に振った。
私もPDAを一応取り出す。
手塚 義光
「話し合うべきは、俺達よりもコイツだ。俺達は何をすると死ぬのか、まずそれを確かめなくっちゃな?」
郷田 真弓
「さしあたって確認した方が良いのはルールと、首輪を外すための条件ね」
手塚さんの言葉に従ってPDAを取り出した郷田さんも続いた。
ルールはPDAに全て記載されてる訳ではないのは、既に知っている。
それぞれのPDAに対していくつか分けて記録されていると、キョンさんは言っていた。
今後どう行動するかによって私達の命運が決まる。
ならば、ルールの共有は必然だ。
手塚 義光
「ルールの確認までは賛成だが、その先は賛成できねぇな」
御剣 総一
「何でですか?協力し合った方が首輪を外しやすいんじゃ?」
手塚 義光
「基本的にはそうなんだがな、何事にも例外があるって事さ」
郷田 真弓
「そしたらまずは………ルール1番からかしら?」
郷田さんはそう言いながらPDAを覗き込む。
私もそれに従うと、電源を押して画面に注目する。
実際にルールの項目を開くと、上からルール1の記述が並んでいる。
うぅ、こんな長い文章を飲むなんて、国語のテストのとき以来だよぅ………。
ルールなんて、私には理解できるかな?
陸島 文香
「郷田さん、ルール1と2は全員のPDAに書かれているみたいですよ」
郷田 真弓
「そうね、1と2は全員のPDAに書かれていて、他の2つのルールがランダムに割り振られているらしいわ。だからこの2つに関しては省略するわね」
ルール1
参加者には特別製の首輪が付けられている。
それぞれのPDAに書かれた状態で首輪のコネクタにPDAを読み込ませれば外す事ができる。
条件を満たさない状況でPDAを読み込ませると首輪が作動し、15秒間警告を発した後、建物の警備システムと連携して着用者を殺す。
一度作動した首輪を止める方法は存在しない。
ルール2
参加者には1-9のルールが4つずつ教えられる。
与えられる情報はルール1と2と、残りの3-9から2つずつ。
およそ5,6人でルールを持ち寄れば全てのルールが判明する。
手塚 義光
「なるほどな、あらためて読むとコイツと首輪のコネクターは首輪を外す為のモノなんだな」
手塚さんの方を見てみると、PDAの下部のコネクタと首輪の正面に位置しているコネクタを指先でなぞっていた。
私も自分の首輪を触れてみるけど………よくよく考えてみたら、この首輪って偽物なんだっけ?
キョンさんの方をチラッと見てみると、コクリと頷いた。
万が一に何かしらのルール違反をしたとしても、この首輪は発動しないのは、前に聞いた。
でもこれは偽物だと分かっていても、さっきの男の人の遺体を見て、私は萎縮してしまいそうだった。
これ一つで、その人の人生が終わるかもしれないからだ。
手塚 義光
「条件を満たして、コイツを首輪にはめ込めばいいわけだ」
コツコツと指先で小突く仕草を見て、私はものすごい罪悪感に見舞われた。
私とキョンさんの首輪は偽物だから、解除条件を満たさなくても作動しないから死にはしない。
でも他の参加者は?
彼らだって死なないために、そして解除条件を満たすために行動するはずだ。
その過程の中で、もしも誰かを殺してしまったら?
その過程は、私達には不要のモノだ。
正直に言って、これを聞いたら不公平だと言われるだろう。
実際に私も今、感じていることだ。
陸島 文香
「ならばルール3はどうかしら?」
八幡 麗佳
「3なら私のPDAに書いてあります」
郷田 真弓
「読んでくれるかしら?」
コクリと頷くと、麗佳さんはルール3を読んでいった。
ルール3
PDAは全部で15台存在する。
15台にはそれぞれ異なる解除条件が書き込まれており、ゲーム開始時に参加者に1台ずつ配られている。
この時のPDAに書かれているものが、ルール1で言う条件にあたる。
他人のカードを奪っても良いが、そのカードに書かれた条件で首輪を外すのは不可能で、読み込ませると首輪が作動し着用者は死ぬ。
あくまで初期に配布されたもので実行されなければならない。
長沢 勇治
「15台って事はさ、全部で15人居るって事だよね?」
キョン
「恐らくは、な」
長沢 勇治
「ここにいるヤツ以外にあと6人、いや、5人か」
ここに居るのは全員で9人。
1人につき1台のPDAを持っているとしたら、15人の参加者が居る算段だ。
今生きている参加者の人数は14人。
途中で数の訂正を入れたのは、さっきの男性が死亡したのを途中で思い出したからだろう。
………と、ここで私は隣に居る御剣さんへ視線を向ける。
彼は周りの人が言ったルールをノートに書き写していた。
私も片手だけど、小さなノートにルールを書いている。
ま、一応念のために記述しておきます。
手塚 義光
「お前達、何やってるんだ?」
すると手塚さんが私達の手元を覗き込んだ。
声を掛けられたので、私達は自然と首を上げた。
御剣 総一
「ルールを全部書いておこうと思って………」
磯崎 蘭
「私もです。まぁ、私の場合はすぐに忘れちゃいそうだから、書いてるだけなんですけどね。それに、こうやって書くと案外、ルールの穴を見つけられそうな気がするんです」
手塚 義光
「なら、後で俺にもそれを写させてくれ」
御剣 総一
「分かりました」
キョン
「悪い磯崎、俺にも後で見せてくれるか?」
磯崎 蘭
「もちろん!」
私達がそれぞれ頷くと、不意に手塚さんは口元を少しだけ上がる。
どうしたんだろう?
手塚 義光
「なぁ、御剣、磯崎。俺と………」
私達の顔をそれぞれ見ながら手塚さんは口を開いたけど、それが途中で止まった。
――――御剣の坊主は使えそうだが、あの娘が居るとどうなるか分からんな。
私の頭の中に、そんな声が聞こえてきた。
これは手塚さんが考えている声。
だから私は彼が次に何を言おうとしたのか、自然と理解した。
彼は、私達のどちらか、あるいは両方を仲間にするつもりだったんだ。
だけど私や彼には咲実さんがいるから、ためらったんだ。
咲実さんには悪いけど、彼女はまだ復帰しきれてない。
彼の言う戦力として扱うには、心許ないのだろう。
まぁ、仮に仲間になってくれって言われても、すぐに断るけどね。
手塚 義光
「よし、郷田さんよ。御剣や磯崎がメモするペースに合わせて、先へ進めてくれ」
郷田 真弓
「そうね、分かったわ。次は4番目のルールね」
ルール4
最初に配られる通常の15台のPDAに加えて1台ジョーカーが存在している。
これは、通常のPDAとは別に、参加者のうち1名にランダムに配布される。
ジョーカーはいわゆるワイルドカードで、トランプのカードをほかの15種のカード全てとそっくりに偽装する機能を持っている。
制限時間などは無く、何度でも別のカードに変えることが可能だが、一度使うと1時間絵柄を変えることができない。
さらにこのPDAでコネクトして判定をすり抜けることはできず、また、解除条件にPDAの収集や破壊があった場合にもこのPDAでは条件を満たすことができない。
手塚 義光
「JOKERだと?」
長沢 勇治
「へっ、JOKERがどうだって言うのさ」
手塚 義光
「………ふふ、なんでもねぇよ」
………ほっ。
一瞬だけ、この2人がまた揉めるのかと思ったけど、珍しく手塚さんの方が退いた。
それにしてもJOKERか。
過去の記憶から読み取ったけど、そんなPDAがあるだなんて、全く知らなかった。
ここに来て、初めてその機能を知らされて、私は恐ろしく感じた。
誰かのPDAに偽装して、他の参加者を騙す。
そこから連鎖して、疑心暗鬼に陥り、殺し合いが――――
郷田 真弓
「2人とも、書き終わったかしら?」
郷田さんの声で私は現実世界へ戻ってきた。
書き終えたからコクリと頷く。
郷田 真弓
「そう。じゃあ、次へ行きましょうか。次は5番ね」
御剣 総一
「あ、5番なら俺のに書いてあります」
御剣さんはPDAを取り出すと、読み上げていった。
ルール5
侵入禁止エリアが存在する。
初期では屋外のみ。
進入禁止エリアに侵入すると首輪が警告を発し、その警告を無視すると首輪が作動し警備システムに殺される。
また、2日目になると侵入禁止エリアが1階から上のフロアに向かって広がり始め、最終的には館の全域が侵入禁止エリアとなる。
陸島 文香
「ちょっと待って。進入禁止エリアがあるなら、外へ出られないって事?」
御剣 総一
「このルールが事実なら、多分そう言うことになるんだと思います。首輪を付けたまま外に出たら、きっと」
ギュッ
隣から、袖を掴むのを感じた。
やっぱり、彼女も緊張や不安があるのだろう、先程から小刻みに震えている。
磯崎 蘭
「大丈夫ですよ、咲実さん。嫌な方向になんて、行きませんから」
御剣 総一
「………ありがとうね、磯崎さん」
磯崎 蘭
「いいんですよ。引き受けたからには、ちゃんとしないと」
郷田 真弓
「困ったことになったわね。これは何としても首輪を外さなくてはいけないようね」
郷田さんの不安な声が上がる。
それと同時に、長沢君も立ち上がった。
長沢 勇治
「でも本当に外にもああいう仕掛けがあるかどうかも問題だよね」
郷田 真弓
「私はそれを自分の首輪で試したくはないわ」
長沢 勇治
「それもそっか」
本当にそんな仕掛けがあったとしても、それを試したくはないのは当然だ。
だって、試した瞬間に首輪が作動したら警備システムに殺害されるのだ。
………もっとも、私の首輪は偽物だから心配はいらないとのことだけど………。
キョン
「ま、実際にあるかどうかも分からないモノに気を使ってたらキリがありません。次のルールを確認しましょう」
郷田 真弓
「そう、ね。あまり気は進まないけど、確認しないわけにはいかないわね。6番のルールは私のPDAに載っていたわ、読むわね?」
磯崎 蘭
「お願いします」
ルール6
開始から3日間と1時間(73時間)が過ぎた時点で生存している人間を全て勝利者とし20億円の賞金を山分けする。
長沢 勇治
「20億!?」
長沢君はあまりの巨額に驚きを隠せないようだ。
そりゃそうだ、私だって驚いてるんだもん。
長沢 勇治
「ほんとかよオイ!」
手塚 義光
「落ち着けよ、ガキが」
長沢 勇治
「だって20億だよ、20億!!」
ありゃ、手塚さんの悪態にも気付かないほどテンションが上がっている。
その証拠に彼は興奮したまま郷田さんに近寄って、PDAを覗き込んでるから。
って、そりゃそうか。
だって20億円のお金があったら………。
磯崎 蘭
「家族と友達みんなで世界一周旅行も出来るじゃん」
長沢 勇治
「うっわ、マジだよ!すっげぇぇぇ!首輪を外せれば一気に金持ちの仲間入りできるじゃん!」
八幡 麗佳
「でも、本当にお金なんてくれるんでしょうか?」
それまでずっと黙っていた麗佳さんが沈黙を破ってきた。
あっ、確かに。
私達を誘拐しておいて、首輪を外せたらお金くれるって、どう言う事だろう?
チラッとキョンさんを見てみると、両腕を組みながら口を開いた。
キョン
「多分ですけどくれると思いますよ」
手塚 義光
「理由を聞いて良いか?」
キョン
「この馬鹿でかい土地と、建物を建築してる時点でほぼ確定かと。数百億って金が動いてます。俺達を拉致して首輪を掛けて、PDAだって相当こだわってる。こんだけ金かけてるなら、俺は案外すんなりと払ってくれそうだと思います。それに」
一間置いて、言う。
キョン
「それに、あの男は現に死んだ。このルールが嘘なら、他のルールも疑わしくなる。それが理由だ」
長沢 勇治
「ほら、やっぱり貰えるんだって!!」
郷田 真弓
「御剣さん、先に進めてもよくって?」
そこでボーッとしてた御剣さんに、郷田さんが声を掛ける。
考え事でもしてたのだろう、ノートにはまだルール6が記載されてなかった。
御剣 総一
「ちょ、ちょっと待って下さい。えと、20億円の賞金を山分けする………はい、OKです」
郷田 真弓
「では、次はルール7だけど」
長沢 勇治
「7なら俺のに書いてあるよ」
郷田 真弓
「では長沢君、お願いね」
長沢 勇治
「はい」
ルール7
指定された戦闘禁止エリアの中で誰かを攻撃した場合、首輪が作動する。
手塚 義光
「戦闘禁止エリア、ね」
長沢 勇治
「それはいったいどこなんだ?誰か知らないのか?」
御剣 総一
「………あっ!」
首を横に振ると、御剣さんはメモしていた手を止め、PDAを操作し始める。
心当たりでもあるのかな?
御剣 総一
「やっぱりそうだ!戦闘禁止についてのルールの続きがあります。俺のに書いてる8番がそうです」
手塚 義光
「読んでみろ」
御剣 総一
「はい」
ルール8
ゲーム開始から6時間以内は、全域を戦闘禁止エリアとする。
違反した場合、首輪が作動する。
ただし、正当防衛の場合のみ除外。
長沢 勇治
「げっ」
手塚 義光
「クックック、おいガキ。そこのネーちゃんに感謝するんだな。さっき止めて貰わずに俺に飛びかかっていたら、今頃どうなっていたことか」
手塚さんがまた悪態を吐くけど、今回は事実なので長沢君も特に騒いだりはしなかった。
間違ってたら、長沢君の首輪が作動してたかもしれないのだ。
八幡 麗佳
「開始から6時間というのは、なんでしょう?」
手塚 義光
「多分PDAだ。電源ボタンを押し込んですぐに出てくる画面に、時間経過についての項目があった。御剣、今の時間は?」
御剣 総一
「えと、ゲーム開始から2時間42分、残り70時間18分、だそうです」
手塚 義光
「って事は、まだ3時間は何も起きないって事か」
陸島 文香
「それが過ぎたら何が起きるって言うの?」
手塚 義光
「俺の読みだと、酷いことになるだろうな」
文香さんの疑問には答えつつ、手塚さんは楽しげに笑っていた。
かなり人を不安にさせる笑みだなと思った。
陸島 文香
「たかだか首輪を外すってだけで、そんなことが起るって言うの?」
手塚 義光
「あんたの首輪を解除する条件は、そう思えるモノなんだろうな。だが俺はそんな風には思わないぜ。ルールの9番、コイツを聞けばあんたの意見も変わるだろうぜ」
陸島 文香
「な、何が書いてあるのよ?」
手塚 義光
「そうさな、さしずめ地獄の門の開き方、だな」
手塚さんは困惑する私達をよそに、本当に楽しそうに笑い続けるのだった。
彼曰く、首輪の解除条件は以下の通りだという。
ルール9
カードの種類は以下の15通り。
PDAの種類と首輪の解除条件
AのPDA………QのPDAの所有者を殺害する。手段は問わない。
2のPDA………JOKERのPDAの破壊。
このPDAのみ半径1m以内でJPOKERの偽装機能は無効、初期化される。
3のPDA………3名以上の殺害。ただし首輪の作動は含まない。
4のPDA………自分以外の首輪を3つ取得する。首を切り取っても、解除条件を満たし外すのを待つのも良い。
5のPDA………館全域の24個のチェックポイントを全て通過する。特殊効果として地図上にポイントの表示がされる。
6のPDA………JOKERの偽装機能を5回以上使用。自分で使う必要も、近くで行う必要も無い。
7のPDA………開始から6時間目以降に全員と遭遇。死亡している場合は免除。
8のPDA………自分のPDAの半径5m以内でPDAを5個破壊する。6個以上破壊した場合は首輪が作動する。
9のPDA………自分以外の全参加者の死亡。手段は問わない。
10のPDA………首輪が5個作動すること。ただし2日と23時間より前に行うこと。
JのPDA………開始から24時間以上行動を共にした人間が2日と23時間時点で生存していること。
QのPDA………2日と23時間の生存。
KのPDA………PDAを5台以上収集する。手段は問わない。
14のPDA………自身のPDAにソフトウェアを9つ、インストールすること。同じソフトをインストールしてもカウントされない。
15のPDA………トラップに掛った人物を3人以上、助けること。また、このPDAのみ全ての参加者の状態が表示される。
JOKERのPDA………A-KのPDAに偽装可能。1度機能を使用すると1時間は別の番号に変えられない。
御剣 総一
「な、なんです?それは………」
御剣から零れた言葉に、私は愕然とする。
殺害、首の切り落とし、首輪の作動。
どれも日常では全く聞かない言葉だし、言う機会も全くない。
なのに、この建物の中にいるだけど、こんなにも日常からかけ離れた世界が広がるなんて………。
私は辛うじて、言葉を口にすることが出来た。
磯崎 蘭
「こんなの………こんなのみんなで協力し合えば、解除なんて」
手塚 義光
「いや、そいつは無理だぜ。俺は協力はしない」
八幡 麗佳
「私も協力するのは難しいわ」
でもあっさり否定したのは、手塚さんと顔面蒼白な麗佳さんだった。
磯崎 蘭
「なっ、何でですか!?このままだったらみんな殺されちゃうんですよ!?だったら」
手塚 義光
「冷静になった方が良いぜ、嬢ちゃんよ。俺は仲良しごっこの果てに殺される趣味はネェよ」
磯崎 蘭
「な、仲良しごっこって………!」
陸島 文香
「ちょっと、2人とも落ち着いて!!言い争ってる場合じゃないわ!」
手塚 義光
「はぁ、どっちが落ち着けだよ。この条件を同時に満たすのは不可能だ。条件が競合してるのもあるし、中には皆殺しなんて物騒な条件もある。例えばよ」
手塚さんは嫌な笑みを浮かべながら咲実さんを見て、くっくっくと笑う。
手塚 義光
「そこで震えてる嬢ちゃんの首輪を外すために皆殺しが必要だったら?お前は協力して殺されてやるのかい?それとも、そいつにだけ諦めて死ねって言うのかい?」
磯崎 蘭
「うぐっ、そ、それは………」
反論が、全く出来なかった。
さっきは血が上っていて冷静に考えられなかったけど、全部手塚さんの言ったとおりだ。
条件が競合している以上、他の参加者との争いは不可欠。
全員が、このゲームから抜け出せないようにルールが決められていた。
誰かが、誰かを殺さないと条件が満たせないように設定されている。
――――このルールから、ものすごい悪意を感じる。
私達の命をもてあそぶゲームが、始まる………!!
そう考えずにはいられなかった。
今から始まった考えではないけど、どうやら私の予測は最悪の形で現実化したようだった。
はい、えー、途中からはほとんどゲームと同じ展開となってしまいましたね。
ただ次回からはオリジナルストーリーを提供したいと思います。
ストックはまだ大分あるのですが、細かな点で修正を入れる必要があるので、もうしばしお待ちくださいませ。