涼宮ハルヒの憂鬱vsテレパシー少女蘭   作:Dr.JD

6 / 15
――――自らを価値なしと思っているものこそが、真に価値なき人間なのだ――――
ハンス=ウルリッヒ・ルーデル

どうも皆さんおはこんばんにちわ。
作者です。

かなり久しぶりの投稿となります。
今まで投稿できなかったのは、データが破損してしまい、書き直してしまったからです。
ここで注意書きをします。
破損の影響により、ストーリーの一部に矛盾が生じています。
そこは主人公視点で念写を書いていますが、読者の皆様の脳内補完でお願い致します。
お手数ですが、お願いします。

それでは、ストーリーをどうぞ。





表編 New:Episode-Ⅰ第6話 嵐前の静けさ

[嵐前の静けさ]

2012年、7月14日、11;56;31

高校2年生 SOS団雑用

キョン

?????? 1階廊下

 

キョン

「さて、どうするか」

 

部屋を出て、今後のことについて考えながら一人寂しくリアルロールプレイングを堪能しつつ他の参加者に遭遇することを考慮しながら歩くってのは、案外きついもんだな。

距離感や緊迫した雰囲気が体に大きくのしかかってくる。

ったく、主人公の御剣総一はよくこんな距離歩いてて疲れないな。

ホントは卓球部所属じゃなくて、陸上部のエースなんじゃね?

しかしそんなことを考えてるヒマはなかった。

俺はPDAの時刻を確認する。

 

『ゲーム開始から、2時間56分56秒経過』

 

と言うことは、まだ3時間は何も起こらないってことだよな。

 

キョン

「ん、待てよ」

 

俺は不意に、買い物をするためにやって来たものの、買い物リストを家に忘れてきたのを今、思い出した主婦のような感覚で足を止める。

そして記憶の一途をたどる。

嫌な記憶が、俺から嫌な汗を出させる。

念写こそカットしてしまったが、あの悲劇が起きてしまった経緯を、思い出そうとしよう。

あれは、確か………。

 

キョン

「確か、午後1時20分くらいになって、北条がエレベーターに居るんだろ?だったら、あいつは今、どこで何をしてるんだ?」

 

この問題については北条に限ったことではないが、俺は未だに遭遇していない他の参加者の性格や目的、その時起こったことなどを考えてみた。

北条かりんの場合は、唯一の肉親である妹さんの難病を治療するために、膨大な資金が必要だったはずだ。

そのために、他参加者からの襲撃などにも相まって、疑心暗鬼に陥って多くの参加者を殺めてしまう。

まぁ、その問題解決はおいおい目指そうと思う。

 

キョン

「確かあの時、皿が割れたせいで北条に気付かれてたんだよな。だけどあれは、明らかに誰かの仕業だっていう事は明白だな」

 

何もない廊下で、いきなり皿が割れるなんて、それこそ超能力かなんかだ。

 

キョン

「………!?」

 

超能力?

その単語が俺の脳に突っかかる。

確かに磯崎は超能力者で、古泉顔負けの力を持ってる。

だが、俺の見てないところで皿を持ち上げ、そいつを――――

 

キョン

「ちくしょう、何変なこと考えてんだっ」

 

そんな考えを断ち切るかのように頭を振るが、他の考えも浮上する。

そう言えば磯埼の奴、このゲーム自体がPSPのゲームの世界だと言っても、そんなありえない超常現象のこととして驚いたわけじゃなく、世界観の設定の方に驚いていたな。

普通のやつだったら絶対に前者の方を疑うはずだ。

いや、超能力者である磯埼はおそらく俺と同じ、常軌を逸脱した経験や事件に巻き込まれた可能性がある。

その経験があるなら、辻褄があう。

俺はそんな考えを磯埼への不信感から信頼性へと変換することに決めた。

あいつは何度も俺の命を助けてくれた恩人だ。

俺も期待を裏切ってはいられない。

そして、俺は運命の分岐点へと向かう。

 

2012年、7月14日、12;08;35

高校2年生 SOS団雑用

キョン

?????? 1階エレベーターホール付近

 

キョン

「ここだな」

 

俺は例の、前のループの時に訪れたエレベーターホールに来ていた。

当然、そこには他のプレイヤーの姿は無かった。

周囲の安全を確認してから、俺は息を吐いた。

 

キョン

「ちょっと調べてみますか」

 

皿が突然割れた原因、とやらをな。

それに、時間との勝負でもある。

早くその原因を探りだして、優希嬢を運営側の人間から守らねばならん。

もしかしたらこのエピソードのループはこれで終わりとは限らない。

それを思って行動している。

 

キョン

「近くの部屋から潰していくか」

 

エレベーターホール付近には部屋が3つほどある。

どの部屋も原因を探ってはみたものの、そう簡単には見つからない。

あるのは缶詰の入った段ボールや汚い木箱だけだった。

部屋内のエアーダクトも一応は視野出来る範囲で探したが、やはり何も見つからない。

時間だけが、非情にも無駄に過ぎていく。

 

キョン

「くそっ、何も見つからない!今、何時だ?」

 

PDAで時刻を確認する。

まずいな、もうじき北条がここに着ちまうっ。

確かリミットは13時20分頃。

その時に北条がここへやって来て、異変に気付いて俺達を追う形となったのだ。

くそっ、あと数分でリミットが来ちまう!

 

キョン

「仕方ない。諦めて北条に話しかけた方が怪しまれずに済むかもな」

 

そう判断した俺は、急いであの時と同じ定位置で北条を迎えることにした。

のだが――――

 

キョン

「………」

コツコツッ。

キョン

「………………」

コツコツッ。

キョン

「…………………………」

 

来ないな、北条のやつ。

時間が幾分に経って、壁に寄りかかっていた俺はPDAの時刻を確認する。

もう30分も経っていた。

なぜだ?なぜ来ない?何かトラブルでも起こって――――

 

ズドーーーーーーーーン!!

 

突然の轟音が、俺の思考を容赦なく寸断する。

恐らく、建物全体が揺れるほどの巨大な地震が俺を襲う。

思わず壁に手をついた。

 

キョン

「くそ、何なんだ?この揺れは!?」

 

こいつは、爆発か何かか?

にしてもっ、こんなでけぇ爆発物が使われたエピソードなんてなかったはずだぜ?

 

キョン

「そうだ、磯崎は!?」

 

そこへ磯崎の名が頭に浮かぶ。

前回のルートの最後、俺はあいつを助けてやれなかった。

さらに追い打ちを掛けるように、彼女の死を連想しかけて――――

 

キョン

「くそ、何考えてんだ!急いで磯崎のところへ!!」

 

 

2012年、7月14日、12;15;56

中学2年生 超能力者

磯埼 蘭

?????? 1階廊下

 

磯崎 蘭

「文香さんっ、どうしてエントランスに向かわないんですか!?」

陸島 文香

「いいからここから早く離れて!」

 

文香さんの怒声に私は呆気にとられながらも、長い廊下を走り続ける。

 

??????

「待ってくれ文香君っ。もう少しペースを落として走ってくれ」

 

私の後ろを着いて来ているのは葉月克己(はづきかつみ)さん。

キョンさんの言ったとおりの中年の男性で、参加者の中でも最も良心的な意見を述べる人物だった。

年は私のパパと同じくらいで、顔に目立った皺とかがあった。

 

??????

「ま、待ってくださ~いっ。私、もうヘロヘロです~」

 

葉月さんの真横を走ってきているのが綺堂渚(きどうなぎさ)さん。

やたら派手な服装をしていて、随分とまったりな性格をしている人物。

キョンさん曰く、この人はサブマスターと呼ばれるゲーム運営側の人間で、何人もの参加者を手にかけてしまった人物と聞いていた。

私はそんなこと信じたくはなかった。絶対に。

この2人とは1階の廊下でばったり出くわし、それから色々な話をして、私たちと一緒に行動している。

そしてその後ろに、御剣さんと咲実さんが手をつないで走っていた。

咲実さんの手を引いている感じではあったが。

最後尾には麗佳さんが無言で付いて走ってきている。

それから15分後。

しばらく走り続けていたが、文香さんの足取りが徐々に遅くなっていく。

どうやらもう逃げる必要はないらしい。

 

陸島 文香

「ふう、みんなちゃんと着いて来てる?」

 

息継ぎをする文香さんは後ろを振り向き、数を数える。

数は全部で、私含めて7人。

うん、ちゃんと全員居る。

そのことに私は安堵を覚えた。

 

磯崎 蘭

「ひぃ、ふぅ、みぃ………。はい、ちゃんと全員着いて来ています。それより文香さん、どうして爆発のあった方向に行かなかったんですか?」

 

数を確認し全員が揃っているところを伝えると、文香さんは低い声で私の目を合わせる。

 

陸島 文香

「これは推測かもしれないけど、郷田さんが何か仕掛けてきたんだと思うの」

 

息が整った文香さんは、今度は両腕を組んで意見を出す。

 

葉月 克己

「郷田さんって、君たちが以前に言っていた、その郷田さんかね?」

陸島 文香

「ええ、郷田さんはこのゲームについて、かなり深い知識を持っているわ。もしかしたら、まだ戦闘開始時間前でも相手を攻撃しても首輪が作動しない方法があるかもしれない」

矢幡 麗佳

「つまり、文香さんはそんな状態でホールに引き返すのは危険だっと判断したわけですか?」

陸島 文香

「そうよ麗佳ちゃん」

 

状況を整理し、いち早く結論を出した麗佳さんに改めて関心を持った。

 

磯崎 蘭

「でも、これからどうするんです?戦闘禁止解除時間までまだ時間がありますが、解除を待たずに攻撃できる方法があるなら、何処に逃げても同じような気がするんですけど」

陸島 文香

「そうね、出来れば上の階にチャッチャと行きたいところなんでしょうけど、今後のことでどうしたいとかある?解除条件についての事も考えなくちゃいけないんだけどね」

 

文香さんは私たちを一度、一瞥しながら見渡していく。

 

御剣 総一

「俺は蘭さんの首輪の解除のために、PDAソフトを探した方が良いと思います」

 

壁に寄りかかって、ルールの書かれたノートを見ていた御剣さんが顔を上げる。

 

磯崎 蘭

「私の首輪、ですか?」

御剣 総一

「そう、君の解除条件はPDAのソフトを9つ、インストールすることだ。もしこの階にPDAのソフトがあって見落としたりしたら、大変だろ?それに、君のPDAだけにはインストールしたカウンターが表示されるから、誰かがインストールしたかなんてすぐに分かるしさ」

 

確かに私のPDAの待ち受けには、ゲームが始まってから今まで、インストールをカウントする物が表示されている。

画面には『PDAソフトインストール数:0個』と書いてある。

つまり、誰かがインストールしてもカウンター数は増え、いくつインストールされるのかすぐに分かるという便利なものだった。

 

御剣 総一

「それに考えてごらん。いくつソフトがあるか分からないものを9つだよ?もしソフトが全部で20個なかったら?不安にさせるつもりはないけど、早めに集めてインストールするのもありだと思うんだ」

 

仮に本当に20個くらいしかなかったら、約半数を占める9つのインストールはかなり難易度が高い。

確かにこれなら得策として早めにインストールするのが妥当だろうが、それよりも私は心配すべき事項があった。

 

磯崎 蘭

「でも、そのために皆さんをこの階に留めさせる訳にはいきません。さっきの爆発もそうですけど、今だって郷田さんが何か仕掛けてくる可能性だって」

葉月 克己

「それこそ賭けだと思うんだ。幸い、僕らの方が人数は多い。手分けして探せば、すぐに1つや2つ、手に入るさ。このゲームに全面的に乗る訳ではないが、ルールを守らなければ本当に死んでしまうからね。僕はそういうのはごめんだよ」

 

苦笑交じりに葉月さんまでもが御剣さんの案に賛成の意を表した。

みんな危険だって分かってるの?

 

姫萩 咲実

「それともう一つ、ソフト以外で重要な事があります」

 

そこでようやく、咲実さんの口が開いた。

今まで息継ぎをしていたらしい。

 

陸島 文香

「なにかしら?」

姫萩 咲実

「他の参加者についてです。皆さんでここを出る為には、他の参加者も探す必要があるんじゃないでしょうか?」

陸島 文香

「咲実ちゃんの言う通りよ。そう言うわけだから、散策対象は2つ。まずPDAソフトを出来れば複数個。もう一つは他の参加者。好戦的な相手の場合は、ルールを教えて戦闘禁止時間のことを教えてあげる。麗佳ちゃんもそれで良い?」

 

成り行きを見守っていた麗佳さんが重く口を開ける。

 

矢幡 麗佳

「そう、ですね。私は皆さんに従います」

 

このとき、麗佳さんの口調が、最初の頃の部屋を飛び出そうとした時と同じものだと悟った。

もしかしたら、今は戦闘禁止だから組んでいるだけで、解除されたら私たちの元から離れるつもりなのかな。

 

陸島 文香

「と言うことだから、蘭ちゃんも。良いわね?」

 

文香さんが顔を覗き込んできたため、その考えを途中で打ち切るかたちとなった。

 

磯崎 蘭

「は、はい。それにしても、すみません。私なんかのために足を引っ張ってしまって」

陸島 文香

「何言ってるの。皆で生きてここを出るって言ったのは、キョン君じゃないっ。恋人との約束を守らなくていいの?」

 

そこは普通に皆と同じ共通点だからともに生き残ろうでいいではないかと思ったのだが、文香さんはあえて私がツッコミを入れるところに強調した様だった。

 

磯崎 蘭

「ちょっと、文香さん!?だから私とキョンさんは恋人同士じゃないって言ってるじゃないですかっ。ワザと言ってるでしょ!?」

陸島 文香

「そんなことないも~ん。私だって、若かった頃は恋は一つや二つしたもんよ」

磯崎 蘭

「文香さん。それって今は若くないって言ってるような気がするんですけど」

陸島 文香

「く、しまったっ。蘭ちゃん、お姉さんを小馬鹿にするような言い方はあまりよくないわ。まあ、今回は許すけど、次言ったら額に凸ピンよ?」

磯崎 蘭

「うわ~、痛そう。今度から気を付けます………」

 

ちょっと場を和ませようと思ってつい調子に乗ってしまったようだ。

本当に約束事を守らなければ凸ピンを食らいそうで怖かった。

 

陸島 文香

「冗談よ♪それより早く行きましょ。戦闘禁止が解除されるまでまだ時間があるから手分けして探しましょう。3人と4人の2組で分かれて探した方が良いわね」

 

誰と組む?

そう言ってるような感じがしたので、誰と組むか考えた結果――――

 

磯崎 蘭

「御剣さん、咲実さん。私と組んでもらっても良いでしょうか?」

御剣 総一

「俺たちとかい?良いよ別に、咲実さんもそれでいい?」

姫萩 咲実

「はい、私は構いません。宜しくお願いしますね、蘭さん」

磯崎 蘭

「こちらこそ宜しくお願いします」

 

互いに握手しあい、行動を取ることに対して強調する。

 

陸島 文香

「それじゃあ、そっちの3人組は、この付近の方をお願い。私たち4人は反対の方を探すから集合時間は………30分後で、この階段近くの大部屋に集合ってのはどうかしら?」

 

PDA画面の地図を開きながら、配置を素早く決めていく。

 

御剣 総一

「分かりました。30分後にその部屋で落ち合いましょう。皆さん気を付けてください」

陸島 文香

「そっちも女の子たちを守ってあげてね総一君」

 

そう言ってこの2組はそれぞれ違う道を歩き出した。

 

2012年、7月14日、12;20;59

高校2年生 SOS団雑用

キョン

?????? 1階エントランス・ホール付近廊下

 

爆発から早数分。

あれから爆発音が全く起こらなかった。

逆に建物全体が静寂に包まれた状態になっていた。

爆発の音源は、どうやらエントランス・ホールにあったようだ。

確かこのエピソードの御剣たちの行動パターンは、ゲーム開始から6時間経つ前に部屋を出てその後に葉月さん、綺堂の2人と合流し、出口を探すべく一度このホールへ行ったのちに、2階へ直行だったような気がする。

 

キョン

「お、ホールが見えてきた」

 

目の前には巨大なホールが広がっており、埃に被ったテーブルやイスやらのガラクタが、爆発の影響で吹っ飛び、爆発源はどうやら壁の中に設置されていた爆弾の様だった。

またアメリカ軍で見かける車両が2台止まっている。

なぜか先頭車両はホールにある柱の一本にぶつかったようで、爆風でフロントガラスやタイヤの部分が少し焦げていた。

また、壁が大きく抉れており、人が通れるくらいの穴が開いていたが、やはり外には通じてないようだ。

爆風のせいで辺りが黒く焦げている。

 

キョン

「誰も、居ないな」

 

肝心の磯崎たちの姿が見当たらなかった。

当然、俺はあの磯崎の事だからかならずこの場へやってくるのかと思っていたのだが、残念ながらそれは無駄な想像で片付いてしまった。

 

キョン

「陸島さんに止められたのかな?」

 

彼女のことだから、安全を考えて先に上の階にでも行ったのだろう。

そんな考えをよそに、背後からこえがするまで俺は気付けずにいた。

 

??????

「おい少年」

 

しっかりとした声が、俺の耳の奥深くに流れ込んでくる。

振り返ると、そこには筋肉質な男が立っていた。

 

キョン

「あの、あなたは?」

 

がっちりとした体格に、どんな時でも冷静な態度、そして凛々しい目が特徴的なゲームプレイヤー最強の男の姿があった。

 

??????

「俺は高山浩太(たかやまこうた)だ。気が付いたらここに居た。君は何か知らないか?」

 

さすが高山さん。

必要最低限な事しか言わない性格はこのエピソードでも健在である。

 

キョン

「いいえ、俺は何も。さっき爆発音が聞こえて、今来たところです」

高山 浩太

「そうか。首輪をしてるってことは同じ境遇の人間が居ると言う事か」

 

高山さんは自身の首輪を弄りながら俺の首に目をやっていた。

 

キョン

「申し遅れました。俺は、キョンって呼ばれてます。それで高山さんはここで何を?」

高山 浩太

「キョン、君と同じ理由さ。俺も爆発音が聞こえて、駆けつけたら君がいたってことだ」

キョン

「なるほど。あー、変な事聞くようですが、他の参加者たちに会っていますか?」

 

俺は少々、このエピソードでの高山さんの動向が気になった。

もしかしたらゲームの中では知らない話が始まっていたのかもしれない。

 

高山 浩太

「いや、君が初めての他プレイヤーだ。他の13人は知らない」

キョン

「そう、ですか………。じゃあ、高山さんは俺と出会うまで何をしてたんですか?」

高山 浩太

「建物の散策だ。出口があると思ってな。それでさっきの話に戻る」

 

いやあ、現実ってのは案外厳しい。

俺の期待をことごとく完膚なきまでに粉々にけし飛ばしてくれる。

 

高山 浩太

「それでキョン。お前はどこまでルールを把握している?」

キョン

「全て知ってます」

 

俺の返答に高山さんの目が見開かれる。

 

高山 浩太

「全てと言うことは、お前は俺と出会う前に、すでに他の参加者たちと会っているのか?」

キョン

「はい、最初は俺含めて9人で行動していて、ルールの確認なんかをしていたんですが、その中に俺たちを誘拐した連中の仲間がいたんです」

高山 浩太

「なにっ、俺たちを?詳しく聞かせてくれ」

キョン

「はい、実は………」

 

俺は、あの部屋の出来事を一つ残らず高山さんに説明した。

漆山と言う参加者が死んだこと。

互いにルール確認し合ったこと。

郷田が本性を表して部屋を後にしたこと。

首輪が無効化することが出来るかもしれないと言う可能性、俺は単独行動を取っていることも全て。

 

高山 浩太

「そうか、このゲームと言われるものが、俺たちの命を賭けたエンターテインメントというものとははな」

 

ホールにある椅子に座っていた高山さんは、多少の動揺を見せていたが、長く傭兵生活をして

いた影響なのか、すっかち落ち着いているようにみえた。

エピソード4じゃああんなに驚いてたくせに。

 

キョン

「はい、どうやら連中は、俺たちを見世物にするつもりらしいです。話は変わりますが高山さん、これからどうするんですか?」

高山 浩太

「そうだな。俺はとりあえず、上の階へ行くつもりだ。それで、お前はどうするんだ?」

キョン

「俺は他の参加者に会って、戦う必要がないことを伝えに行きます。出来れば、高山さんの方でも伝えてもらっても構いませんか?」

高山 浩太

「分かった。だが、相手が攻撃してきたら、こちらも応戦する可能性が高いが、それで構わんな?」

キョン

「それは高山さんの判断に任せます。さすがに行動の制限に対しての有無は俺には」

高山 浩太

「避けろ!!」

 

高山さんの怒声がホールに響き渡る。

俺は最後まで台詞を口に出すことは出来なかった。

なぜなら、この薄暗いエントランスホールを灯していたシャンデリアの一つが、突然俺たち目がけて落下してきたからである。

ガシャンッ。

派手な音が反響してホールが僅かに暗くなる。

ガラスの破片が飛び散って、俺の手に被弾する。

 

キョン

「あつっ!?」

 

いきなりの熱さで驚く。

手を何度か振って、手を摩る。

シャンデリアの近くまで行って調べたいところだが、情けないことに腰が抜けちまって動くことを許されなかった。

 

高山 浩太

「おい、大丈夫か!?」

 

俺の飛び込んだ方向とは逆から高山さんの声が響き渡る。

 

キョン

「俺は大丈夫ですっ。高山さんは?」

高山 浩太

「俺も無事だ。しかし、なぜ突然シャンデリアが?」

 

それは分からない。

運営側が建物の装飾を整備していなかったからなのか、はたまた郷田の横やりなのかは定かではないが、少なくとも後者の可能性はほぼないと断言できる。

もしこれを郷田がやったとすれば、タイミングが遅過ぎる。

全てを高山さんに話しちまった後だし、仮にそれで俺たち2人を潰せたとしても、戦闘行為と見なされて首輪が作動するかもしれない。

そんなリスクを犯してまで、郷田がそのような行動をするとは思えない。

ではやはり事故なのだろうか?

 

キョン

「しょうがねぇ。ちょいと危険だが、向こう側を覗いてみるか」

 

俺は意を決して、ホールの入り口辺りを覗き込み、そして――――

見てしまった。それが嘘だと心から信じたかった。

だが異常にも現実がそれを拒んだ。

俺が見たのは体中血濡れになって、大型ライフル、M16を両手で持って、立っていた北条かりんの変わり果てた姿があったからだ。

あの血は何だ?

誰かの返り血か?

それとも怪我をしていてここまで来たのか?

そして上の階でしか手に入らないライフル銃なんてどこから持ってきやがった?

俺は今までにない戦慄と恐怖を嫌なくらい堪能させられていた。

ルールが適応されないことで首輪が作動していない事ではなく、彼女の血濡れた姿に恐怖を覚えていると言った方が良い。

間違ったらゾンビと見間違えるくらいの迫力があったからだ。

 

高山 浩太

「おいキョン。大丈夫か?」

 

いつの間にかそばにやって来てくれた高山さんが俺の体を床に伏せさせる。

どうやら俺はずっと立ったままでいたらしい。

 

キョン

「それよりも、北条が」

高山 浩太

「北条?彼女がお前が最初に会った参加者の一人か?」

 

俺は一度も会ったことのない彼女の名を言ってしまったが、そんなミスを犯すくらい、俺は平常心を失っていた。

いつもの妙な現象に巻き込まれて少しは耐性ができてると思っていたが、それは人間が作り出したこの空間の中じゃまるで役に立ちそうになかった。

 

高山 浩太

「キョン、ここは二手に分かれよう。北条はライフル銃で武装している。なぜルールが適応されていないかどうかは知らんが、ここは態勢を立て直そう。俺は目の前の通路を走って行く。だからお前は、左の通路からそれぞれ逃げ込むんだ。いいな?」

キョン

「は、はい………」

 

俺は高山さんに肩を揺すられて、どうにか現実世界に戻っては来れたが、調子は最悪だ。

 

高山 浩太

「123で行くぞ。1,2,3,今だ行け!」

 

その一瞬、俺は途方にも長い時間を生きていた感覚を覚えた。

走りこむ足は象みたく遅くて、北条が俺の見るや否や、何かを口走っているようにも見えるが

俺はそれどころではなかった。

それからしばらくして、ホールはまた、嫌な静寂が訪れた。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。