Dr.JDです。
今回上げたこのストーリーは、1話目の選択肢のもう一つのストーリーとなっております。
パラレルワールドとはよく言ったものですが、基本的にはこっちだと互いの主人公同士は交わりません。
ただ、互いの主人公は色々な人物達と交わるので、そちらでお楽しみ下さいませ。
それでは早速始めます。どうぞ。
第2話 平和な日々
[平和な日々]
2012年、7月14日、9;24;40
中学2年生 超能力者
磯埼 蘭 (いそさきらん)
蔦野私立第2中学校 校門前
やばい、ちょーやばい。
私は今、学校の校門をくぐり抜けて、下駄箱へ直行して行った。
他の生徒達の姿はなく、でも気にしている余裕までなかった。
そう、私は今朝、思いっきり寝坊したのだ。
理由は至ってシンプルだ。
昨日戻ってきたテストの点数の悪さに自暴自棄になって、夜遅くまでゲームをしていたのだ。
たまにはストレス発散は必要だろう。
そう思っていたけれど、今日の一見で分かったことは、羽目を外しすぎると次に響くことだ。
まぁそれはさておき、私が焦る理由をもうそろそろ教えようと思う。
だって今日は、この学校で大事な終業式があるからである。
そして明日からは、待望の夏休みだ!
だから私としては今日の終業式に参加しなかったことで、夏休みに悪影響を及ぼすことはしたくないのだ!
終業式が始まるのは9時から。
完全に遅刻したうえ、昨日のテストの出来が悪かった私に待ち受けているのは………。
磯崎 蘭
「ううぅぅ!!考えるだけで頭が痛くなっちゃうよー!ああもうっ、どうしよう!」
ペナルティ受ける覚悟で教員にそのまま理由を言うか。
トイレに隠れて仮病使ったフリをするか。
………などと考えている内に、ある事に気が付いた。
廊下を歩いている時のことだ。
窓の外から見える、夏特有の絶景が目の前に広がっていた。
セミの鳴き声、子供のはしゃぐ声、車のクラクションなど………。
最後のは毎日聞いてるけど、それでもこれから訪れる夏休みに歓喜する!
??????
「あれぇ、蘭ちゃんじゃないですかぁ?どうしてここにいるんですかぁ?」
一瞬だけビクリとしたけど、すぐに聞き慣れた先輩の声だと分かり、すぐに緊張が解けた。
――――この方は陸上部の先輩で、渡橋やすみ(わたはしやすみ)先輩だ。
どこかポやっとした感じで、可愛らしい先輩なのだが、見た目によらず陸上部でも実力はトップクラスを誇る。
そんな先輩が、なぜここに居るのかと疑問を抱く。
磯崎 蘭
「えと、私はその、寝坊しちゃって、あはは………ところで、やすみ先輩はなぜここに?」
渡橋 やすみ
「うぅ、実は私も蘭ちゃんと同じ理由なんです。寝坊しちゃった上に道に迷っちゃって………」
磯崎 蘭
「え?道に迷ったって………この学校に来るのにですか?」
渡橋 やすみ
「はいぃ」
いやいや、あなたこの学校の生徒ですよね?
3年間も通ってて、未だに通うための道を忘れてしまうなんて、ある?
渡橋 やすみ
「でもでも、今日の私はラッキーですー。だって朝からカワイイ蘭ちゃんの顔が見れたんですからー」
磯崎 蘭
「んなっ、か、カワイイってっ」
突然そんなこと言われたら、誰だって動揺するよっ。
でも口で言えなくて、結局はこの可愛らしい先輩の餌食になるのだ。
うーむ、何かしらの対策はしないと………。
渡橋 やすみ
「ところで蘭ちゃんは、夏休みは予定とかってあるんですかー?」
磯崎 蘭
「え?ええと、友達と一緒に出かける予定をこれから立てようかと」
渡橋 やすみ
「ならちょうど良かったです!蘭ちゃんにピッタリなプレゼントを進呈します!」
カバンに手を突っ込んで、ガサゴソと弄っている。
それにしても、ちょうど良いプレゼントなんて、何だろう?
渡橋 やすみ
「ええっと、あ!ありました!はいっ、これを蘭ちゃんに進呈します!どうぞ!」
磯崎 蘭
「ええと、先輩?このチケットは?」
渡橋 やすみ
「これはこの間、商店街の福引きで当てたホテルのチケットです!これをあげます!」
磯崎 蘭
「えっ、そんな!そんな大事なチケット受け取れませんよ!」
渡橋 やすみ
「もう、蘭ちゃんってば相変わらず遠慮がちですね。でもこのチケットが使える期限の間は、私は用事があってどうしても行けないんです。だからこれは、蘭ちゃんにあげたいんです!」
キラキラした目で迫ってくる先輩を直視できなかった。
正直に言って、受け取るか拒否するかなんて、もう決まっていた。
それなら、私が旅行したいという願望と、先輩の期待に応えよう。
磯崎 蘭
「分かりました、ありがたく頂きます。このお礼は絶対にしますから!」
渡橋 やすみ
「あははっ、お礼だなんて良いですよ。それなら、代わりと言っては何ですけど、一杯楽しんで、色々な人達と出会って下さい!そうすれば、ステキな思い出ができますから!」
………ステキな思い出、か。
また、いつもの4人で楽しめたら良いな。
色んな場所へ行って、色んな人達と出会って、色んな事件と遭遇して。
でもその度に乗り越えてきたのも事実だ。
良い思い出もあれば、悲しい思いでもある。
そして今度も、そんな出来事に巻き込まれていくのだろうと直感した。
ああいや、決してやすみ先輩の悪口を言ってるんじゃなくてっ、ただいつもの直感がそう告げているだけ。
私はやすみ先輩からチケットを受け取ると、先輩はクルリと踵を返して走り去っていった。
渡橋 やすみ
「またね蘭ちゃん!帰ってこれたら、感想を聞かせてね!」
磯崎 蘭
「はい!また会いましょう!」
キーンコーンカーンコーン
学校のチャイムが鳴った。
そこから、廊下の奥から生徒達が次々と戻ってきたのが見えた。
もう既に終業式が終わったのだろう。
磯崎 蘭
「って、私参加できなかったじゃん!やばっ、どうやって先生をごまかそう!?」
自分の教室に急いで戻る。
どんな言い訳をしようか考えながら、私はただ長い廊下をひたすら走っていった――――
そして放課後。
私は今、最高に上機嫌だ。
鞄に教科書を次々に放り込んでいく。
今朝、やすみ先輩が私に旅行券をくれたのだ。
『茨城県阿御嵯(あおさ)ホテル7泊8日ご招待券』を4枚も貰えれば嫌でも上機嫌になるってものだ。
これはこれで結構ありがたかった。
夏休みを思う存分、満喫したい私達にとってどこかに旅行に行くっていうのはもう決定事項だから、渡りに船だ。
ちなみに、先生には仮病を使った言い訳を言ったら、呆れながらも今度から注意するようにと言われただけで済んだ。
やったぁ!
名波 翠
「どうしたの蘭、そんなに上機嫌になって。今日は終業式をすっぽかした磯崎蘭さん?」
鼻唄をいつの間にか歌っていたことが変に思って私に声を掛けるのは、名波翠(なはみどり)。
去年の入学時期と同時に転校してきた、私と同じく超能力者。
最初は幼い頃の不遇から周りの人間を一切信用できずにいて、そのことで度々衝突してきた。
でも、必死の説得で何とか友達になった。
そこから留衣とお兄ちゃんに出会って、お兄ちゃんに恋をして。
そして数々の事件に遭遇して多くの人に出会っては別れ、仲良くなってはたまに手紙のやり取りをしている。
最近になっての話なんだけど、ここのところ事件らしいものが全く起きず、あともう少しで2度目の夏休みに入ろうとしているのだ。
名波 翠
「そら楽しみですわ。と言うか蘭、何をさっきから私の顔をジーっと見てるの?」
磯崎 蘭
「いやー、ちょっと昔のことを思い出してたもので」
返答しつつ鞄のふたを閉じる。
磯崎 蘭
「って言うか冴子、まだ教科書なんて出して。もうホームルーム終わったよ」
伊藤 冴子
「えっ、本当?全然気が付かなかった」
隣の席で周りを見渡した後、教科書を黙々としまうのは伊藤冴子(いとうさえこ)。
中学入学時にからの知り合いで、いつも図書館で参考書と睨み合っている程の勉強熱心である。
時田 純平
「ようチャラ。伊藤と何話してんだ?」
山下 武雄
「聞いてくれよ磯埼、今度は幽霊が出るホテルにさ~」
さらに2人、話に割ってくる。
いつもぼさぼさ頭をしているのが時田純平(ときたじゅんぺい)。
私の幼馴染で、昔のあだ名である『チャラ』と呼んで、慕ってくれている。
正義感は強いけど、あと先考えずに行動するタイプである。
そしてオカルト雑誌を片手に持って、ページを指しているのがもう一人は山下武雄(やましたたけお)。
UFOとかオカルト系の話が好きで、かなり精通しているけど現実を帯びたセリフをたまに言うことがある。
磯崎 蘭
「ううん、ただの世間話だよ。え~、幽霊が出るホテル?なんか胡散臭いな~」
と、適当に返答して、そろそろバッグを担ぐ。
山下 武雄
「だってさ磯崎、去年の幽霊旅館の記事を見たときはピンと来たのに、誰かが解決したおかげでさ、幽霊の噂もなくなってただの有名な旅館になっちゃったんだぞ」
それは去年、私たちが解決した幽霊旅館のことだ。
そう言えばあの人、元気でやってるかな?
磯崎 蘭
「でも一度は行ってみてもいいかもよ?旅館の料理はうまいし、露天風呂だって」
時田 純平
「何だよチャラ、行ったことがあるみたいな言い方だな」
磯崎 蘭
「まぁその話はまた今度でって、やばっ、もうそろそろ部活の時間だ。それじゃあみんな、また今度ね!」
鞄を背負って、部室へと向かったのであった――――
2012年、7月14日、14;36;59
高校2年生 SOS団
キョン
県立北高校 2年5組
本日の授業、もとい、終業式を全て終えた俺は、掃除当番の連中の邪魔をしないようさっさと教室をあとにする。
因みにハルヒは掃除当番であるため、俺は先に部室へと退去した――――
夏の風物詩のセミの鳴き声、見慣れた校舎、半袖のワイシャツ姿、そんでもって、熱いお茶。
ん?何か最後辺りにこの季節に相応しくない緑色の液体名が挙げられたが、我が部室のマイ・エンジェルである朝比奈さんに淹れてもらったお茶なら、夏だろうが火炎地獄だろうが関係ないぜ。
と、大袈裟でもない事を思いながら部室の窓に肘を乗せる。
あとこれは余談だが、今部室にいるのは俺を含めて朝比奈さんと長門だけで、古泉は理数系の科目を取ってるだけあって、特別な話でも聞かされているのだろう。
それにしても、ハルヒがこんなに遅くまで掃除当番をやらされているのだろうか?
と言っても俺が部室に着いてからまだ10分も経っていないが。
ガチャっ
扉が開く。
そこにはいつもの営業スマイルを顔に張り付けた古泉の姿があった。
古泉 一樹
「すみません。夏休みにやらなければならない課題などの説明があったので遅くなりました」
苦笑いをしながら長机にバッグを置くと、どこからかオセロを取り出した。
おいおい、昨日のリベンジか?
古泉 一樹
「いえ、今日は違う方と対戦させて頂きます」
ほう。
それじゃあ朝比奈さんか長門のどちらかと勝負するってか?珍しいな。
古泉 一樹
「たまにはよいかと。では長門さん、朝比奈さんはどうしますか?僕とオセロをしてみては」
朝比奈 みくる
「あたしは、別にいいですよ~」
と朝比奈さんは急須に新しいお茶を淹れて。
長門 有希
「私も別に構わない。これが読み終わった後に」
長門は本を1ページ捲って、また本に目を落とす。
うむ、やけに2人ともノリノリだな。
まぁでも、たまには良いかもしれない。
古泉 一樹
「何か良いことがあったのでは?そうそう、一つみなさんに言い忘れていたことがあります」
言い忘れていたこと?なんだ?
古泉 一樹
「実は本日、涼宮さんは諸事情により部活を休まれると今朝、電話がありました」
そうなのか。
ったく、どうして違うクラスの奴に連絡する暇があるのに、同じ教室にいる前の席に座ってる俺に言わないんだ。
古泉 一樹
「それもそうですね。涼宮さんなら真っ先にあなたにお電話を差し上げてると思いますが」
爽やかな笑顔でオセロのチップを配置する。
朝比奈 みくる
「お茶のおかわりはいかがですか?キョン君、古泉君」
今度は本物の天使様と見間違えるほどの笑顔で尋ねてくる。
もちろん飲みますよ。
と率直な感想を述べつつ、窓の外を眺める。
外からはいつも通り、運動部の連中が大会に目指して練習に励んでいる。
それにしても、こんなボンヤリできる日が続いたら、こっちが平和ボケしてしまいそうだ。
古泉 一樹
「ええ。こちらも少しばかり平和ボケをしている日々が続いているんですよ」
良かったじゃないか。
最近ハルヒの精神でも安定してきてるんじゃないか?
ただ、休日の不思議探検ツアーしか企画されなかったせいでもあるかも知れんがな。
古泉 一樹
「夏休みがあともう少しというのもあって、楽しみのようです。また去年のような慌ただしい日々を送るかもしれませんしね」
おいおい勘弁してくれよ。
去年の夏休み初日から妙な宇宙人が主催の豪華客船に乗り込んだり、夏休み後半の2週間をま
た14500回も繰り返したくないしな。
それに、もしそんなことが起きてまた長門に迷惑を掛けるのも申し訳ないしな。
しかもそれが原因で違う世界を作られても、ちょっとな。
長門 有希
「大丈夫。あのような事は2度と起こらないよう警戒する」
キョン
「………俺の方でも気を付けるさ」
自分の事が話題に入ったと思った長門が気を使ってくれた。
そうさ。
あんな事件は、2度と起こらない方が良い。
もちろん、長門や俺達のために、だ。
キョン
「ところでよ。最近、交流はあるのか?橘京子(たちばなきょうこ)と」
橘京子。
去年の冬ごろ、未来から来た朝比奈さんを誘拐して、未来人勢力と宇宙人陣営と結託
して、ハルヒの力を佐々木に移そうと策略を企てたが、結局は宇宙人と未来人に裏切られて、話を端っこで聞くようなポジションに収まってしまった。
だがそんなことは過去に流され、今は古泉らに協力を仰ぐような形になったと聞いているが。
古泉 一樹
「そうですね。今年の春頃は頻繁に連絡を取り合っていたのですが、最近になって連絡がなくなりまして。調査中ですが、まだ何とも」
そうか。それは心配だな。
朝比奈 みくる
「古泉く~ん、お待たせしました」
古泉 一樹
「ではお相手をお願い致します」
こうして、古泉VS朝比奈さんのオセロ対決が幕を開けたのだ。
俺はただ、呑気に茶を啜ってみている。
2012年、7月14日、17;29;34
中学2年生 超能力者
磯埼 蘭 (いそさきらん)
磯埼家 玄関
磯崎 蘭
「ただいま~」
部活から帰ってきた私は、玄関から大きな声を出した。
先程まで部活動で激しい運動をしていたのにも関わらずだ。
やすみ先輩がくれた旅行券がそうさせた。
磯崎 凛
「お帰り~、蘭」
台所から返事が返ってくる。
同時にその方向からは、スパイスをふんだんに使ったカレーの匂いが家中に漂っていた。
そして自然にお腹が鳴ってしまった。
リビングのドアを開けると、お兄ちゃんが上の戸棚から食器を降ろしている最中だった。
磯崎 蘭
「お兄ちゃん、何か手伝おうか?」
磯崎 凛
「いや、いいよ。それよりも蘭、何だ?そんなに上機嫌な顔して」
磯崎 蘭
「ふっふっふー、それは夕食の時に発表します~」
磯崎 凛
「そうか?あ、そうだ。この後は留衣や翠ちゃんも来るんだろ?」
磯崎 蘭
「うん。そうだけど」
磯崎 凛
「今日はお袋も親父も、仕事でいないからな。2人っきりだと、寂しいだろ?」
磯崎 蘭
「あー、確かに」
磯崎 凛
「だからさ、もうちょっとで出来るから2人に――――」
プルルルルルルルッ
玄関から、電話が鳴った音が出て、お兄ちゃんの言葉は最後まで聞けなかった。
磯崎 凛
「電話か。悪いけど蘭、出てきてくれないか?俺はちょっと手が離せない」
磯崎 蘭
「うん、いいよ」
簡単に返事をして、玄関の電話に行って、受話器を取る。
磯崎 蘭
「もしもし、磯埼です」
??????
『………』
しかし帰ってきたのは無言状態だった。
受話器を取って名乗ったのに、相手は黙ったままだった。
磯崎 蘭
「あの、もしもし?」
??????
『………』
こちらから言っても何も反応しなかった。これは、イタズラ電話なのか?
と思った次の瞬間。
磯崎 蘭
「………!?」
突如として、私の頭の中に次々と記憶らしきものが入れられる。
無理やり頭を切開して、記憶媒体をねじ込まれる。そんな感じだった。
痛みはなかった。
でも、何か違う痛みが走ってくる。
覚えのない風景、人物、そして、危機感。
様々な記憶が明滅していって、そして、虚無と呼ばれる時間がやってきたのは、本当に一瞬の出来事だった。
磯崎 蘭
「あ、あなたは、一体?」
それでも、どうにかして言葉を振り絞り、相手の出方を伺った。
すると。
??????
『………明日の朝10時に――――行きの列車に乗れ。そしてその町からしばらくは一歩も外へ出るな』
変成器も使わない、本物の生きた人の声が返ってきた。
動揺しちゃったけど、すぐに正気を取り戻した。
磯崎 蘭
「えっ、それってどういう意味ですか!?」
しかし相手からは何も反応せずに、電話が切れてしまった。
ツーツーと言う音が何処までも響き、深い迷路の中に取り残された気分に陥った。
2012年、7月14日、17;29;34
高校2年生 SOS団
キョン
県立北高校 部室棟2階 部室
今俺は、古泉VS長門とのオセロ対決を高みの見物と洒落込んでいた。
しかし相手は長門とは言え、俺は古泉の戦歴を始めから見ていたのではっきりとこう言える。
キョン
「古泉お前、前から思ってはいたんだが、わざと負けてるだろ?」
古泉 一樹
「いえ、そんなことは」
と、言いつつ長門の置いた黒のチップが、4つ目の角を難なく取り押さえていた。
分かりきっていると思うが、角を取ったのは全て長門だ。
これまでの結果を見るに、酷いと言う一言では表しきれないほどの負け試合だった。
朝比奈さんの対決のときだって、すべての角4つ取られてるし、半数以上の領土を取られているし、何と言っても一度だって勝ってないところが古泉クオリティと言うべきであろうか。
長門 有希
「これで私の勝ち」
最後のチップを置いて長門は勝利宣言をする。
うむ、これは傍から見ても、長門の圧勝だった。
キョン
「古泉、今度は谷口と勝負してみればいい。誰も見たことがない熱戦になると思うぞ」
古泉 一樹
「………そうですね。それも良さそうかもしれませんね」
と、渋々了承していたものの、何か不満がありそうな形相をしていたが、俺はそれを深く追求するのは野暮だと思い止めといた。
キョン
「しかし、何かハルヒがいないと、こんなに平和な時が過ごせるとはな」
古泉 一樹
「おや、僕はてっきり涼宮さんがいないと寂しいと思っていたのですが」
キョン
「おい古泉、少し黙れ」
古泉はそれで黙ったが、それはそれでこんな平和な時が長く続いたためしがない。
しかし、奴は今日、用事があって部活には来れないとボヤイテいたから当面の間は平気だろうと思っていた矢先だった。
ドアが何度目か分からない悲鳴が派手な音と共に、入ってきた。
涼宮 ハルヒ
「よかった、まだみんないたのね!」
相変わらずやかましいくらいの大音量で部室にズカズカと上り込んで、我が団長席にドッカリと座り込む。
キョン
「おいおい、今日は休みじゃなかったのか?」
涼宮 ハルヒ
「何であんたが知ってんのよ、ってそう言えばあんただけには言ってなかったわね」
キョン
「どうして他のクラスの奴には連絡を入れる暇が居るのに、同じクラスの前の席にいる奴の連絡を入れる手間を省くんだ?」
何かこのセリフ、前にも言ったような気がするな。
涼宮 ハルヒ
「良いじゃない別に。それよりも重要なのは、過ぎ去ったことでなく、今あるべきことにどのようにして立ち向かうかよ!」
また何か問題ごとを引っ張ってきやがったな。
涼宮 ハルヒ
「何よ、別に今回のは問題ごとを引っ張ってきた訳じゃないわよ。って言うかその言い方だとあたしが毎回、問題ごとを持ち込んでくるみたいじゃない」
なんだ、よく分かってるじゃないか。
少しはそのことに関してこっちの苦労も分かってほしいもんだね。
涼宮 ハルヒ
「ふん、そんなセリフ、いつまで言えるかしらね。………じゃあ、出てきていいわよ」
廊下に向かって、誰かに入るように促す。
そこから現れた人物を見て、俺は氷のように固まった。
外は熱波が押し寄せてきてるのにな。
??????
「あの、先輩方、お久しぶりです!」
そこには何と、ハルヒの分身である渡橋やすみの姿があった。
俺はそっと古泉にアイコンタクトを送ると、奴は肩を竦めて大袈裟に両手を挙げた。
朝比奈 みくる
「ひやああぁ、やすみちゃん、久しぶり~~!」
久しぶりの再会に感動する朝比奈さんであったが、うれしいのか、渡橋は抱き着かれるままにされている。
古泉 一樹
「それで涼宮さん、彼女を連れてきた理由と言うのは?」
涼宮 ハルヒ
「うん、これからそれを彼女の口から言ってもらうことにするわ。やすみちゃん、お願いね」
渡橋 やすみ
「は、はいっ」
朝比奈さんは渡橋を解放すると、部屋の真ん中までやってきて、立ち止まった。
渡橋 やすみ
「えっと、実は、皆さんに私からお渡ししたいものがあるんです」
と言って、バッグから何枚かの縦長の紙を取り出した。
サイズから見て、多分何かしらのチケットだろう。
渡橋 やすみ
「実はですねっ、私の知り合いがこの招待状を送って来たんですけど、一身上の都合により、行くことが出来なくなってしまったんです」
涼宮 ハルヒ
「で、その券をあたしたちにくれるって、そういう話」
最後にハルヒが渡橋の言葉を繋ぐ。
何だ?じゃあハルヒの奴、今日来れないって言ったのは、渡橋からこのことを言わせるためにわざわざ呼んできたってことなのか?
何ともご苦労なこった。
特に渡橋に対してだが。
朝比奈 みくる
「へぇ~、旅行券ですか。いったいどこに泊まれるんですか?」
渡橋 やすみ
「はいっ、茨城県にある阿御嵯(あおさ)ホテルって言うところなんですけど、商店街の福引きで当てたものなんですよ。でも、私、行けなくなっちゃって」
キョン
「それで俺たちにその券をやるってことか?」
俺の問いに渡橋はコクリと頷く。
それにしても、どういうつもりだ?
これも何かの事件の前触れなのか?
そう思い再び古泉にアイコンタクトを送ってみるが、前と同じリアクションしか返ってこなかった。
昨日の謎の女の手紙の件と言い、突然のハルヒの分身である渡橋の登場と言い、旅行券をくれると言い、何だか嫌な予感しかしてこなかった。
だがそんなことを口に出来るわけがなく、ハルヒが渡橋の話にうんうんと頷いている。
キョン
「古泉、お前の方で何か知らないか?渡橋の件と言い、昨日の手紙の件と言い」
古泉 一樹
「昨日の手紙、ですか?何の話です?」
古泉は何のことを言っているか分からないような口調で首を傾げた。
あ、そう言えば古泉と長門には昨日の女と手紙の件は言ってなかったな。
聞いたことがない関連でか、長門も分厚い本を閉じて俺の目を見つめていた。
キョン
「実は昨日、登校してきた時に下駄箱で見知らぬ少女と会ったんだ。制服もうちのじゃないからどこか違う学校の生徒だと思うんだが」
古泉 一樹
「そうなんですか?しかし、他校の生徒が何のご用で?」
キョン
「分からん。むこうも大した用事じゃないらしくて、すぐに立ち去ったんだがそいつから手紙を一通、手渡された」
古泉 一樹
「手紙とは?」
キョン
「こいつだ」
そう言って俺は鞄からハルヒと朝比奈さんと渡橋に気付かれないよう、そっと古泉と長門に手渡した。
古泉 一樹
「普通の封筒のようですね。長門さんからはどう見えますか?」
キョン
「……普通の封筒。その中を確認しない限り断定はしきれない」
古泉 一樹
「そうですね。中を拝見してもよろしいですか?」
キョン
「ああ、いいぜ。ハルヒらに見られないようにな」
最後辺りはハルヒに聞かれないように呟く。
もっとも、そのハルヒは今、旅行券で手渡された場所に着いて渡橋から色々聞きだしている真っ最中だった。
古泉は中を取り出して4枚の手紙を順序に読んでいった。
そして一枚目の文章を読んで僅かに眉を顰めた後、あとの3枚の白紙を順に眺めていった。
古泉 一樹
「この手紙の内容に、あなたは従わなかった、と」
キョン
「………何というか、すごく嫌な予感がしてな。あのまま集合場所に行ってたら、とんでもねぇことに巻き込まれる気がしてよ。悪い、もっと早く言うべきだったな」
古泉 一樹
「いえ、今までの経験則からして、それが恐らく妥当な判断だったでしょう」
キョン
「なぁ俺、本当に行かなくて大丈夫だったか?また何か重要な事件に巻き込まれる前触れだとか」
長門 有希
「心配はいらない。恐らくこれはあなたをおびき寄せるための口実だと思われる」
古泉と長門にそう言われて安心はしたが、別の事も考えていた。
仮に、俺があの場所へ行っていたら、どうなってた?
急激に膨らむ解析不明な不安と焦りで、全身から嫌な汗が間欠泉の如く吹き荒れる。
古泉 一樹
「念のためにこの手紙を預からせてもらっても宜しいでしょうか?調査をしてみますので」
キョン
「あ、ああ。悪いな、昨日のうちに言っていれば」
古泉 一樹
「珍しいですね。あなたがそんなに弱気になるなど」
キョン
「………俺自身でも分からない不安に煽られてんだ、あまりつつかんでくれ」
古泉 一樹
「すみません、少し無神経でした。ですがご心配なく、早期解決できるように努力します」
キョン
「頼んだぜ古泉」
と、台詞と同時に部室の扉が開かれた。
今の時期にこの部室にやって来るのは相当な変わり者か、はたまた今頃になって新入部員になりたくて、ここまで来たのか。
だが扉を開けた主を見てそのどちらでもない事に気が付いた。
??????
「な、長門君は居るかい!?」
その主は、お隣のコンピューター研究会、通称コンピ研の部長氏だったのだ。
しかしどういう訳か、額や髪が汗びっしょりとなっていらっしゃる。
あと、かなり焦っているようだ。
全員が部長氏に向いている中、ハルヒだけはいつも通り平然としていた。
涼宮 ハルヒ
「有希ならいるけど?」
コンピ研の部長
「悪いけど、長門君っ、急いで来てほしいんだ!大変なんだ!」
部長氏の大きな声が部室に響く。
どうやら事態はかなり緊迫しているようだった。
涼宮 ハルヒ
「何があったか知らないけど有希、行ってあげて。んで、終わったら、何でも奢ってもらいなさいっ」
コンピ研の部長
「ああ良いとも!今回の一件が済むなら、何でもしてやるさ!」
ハルヒの軽い冗談でも部長氏はその要求を飲むと言ってきた。
さすがのこれには俺もハルヒも驚いていたが、当の長門はコクリと頷いて扉に向かって歩き出した。
コンピ研の部長
「助かったよ長門君!実はさ――――」
長門が出て行くなり扉は閉められて、部長氏があの後、なんて言ったか聞き取れなかった。
まぁ、部室のパソコンにコンピューターウィルスが入って来たか、間違って新作ゲームのプログラムが無くなったから、その復元に協力してくれとか、そう言う話なんだろう。
涼宮 ハルヒ
「コンピ研は相変わらずうるさいわね」
扉を派手に開けるお前に言われたくないが。
もちろんこれは口に出して言わない。
渡橋 やすみ
「あの、私、もう行かなくちゃ。この後、用事がありますので、これで失礼しますっ」
ぺこりと頭を下げて部室を出ていく。
おいおい、まさかその用事ってのは、また俺の家に転がり込む気じゃねぇだろうな?
涼宮 ハルヒ
「うん、今回はアリガトねやすみちゃん」
朝比奈 みくる
「それじゃあね~、やすみちゃん。またいつでも遊びに来てね~」
渡橋 やすみ
「はいっ、では失礼します」