次話投稿が遅くなり、申し訳ありません。
ああぁ…学校始まってしまった上に、書き溜めも少なくなってきたので、亀更新ぶりが本格化しそう…
ま、そんなことはさておき、「戦火と人魂は夜闇に映ゆる」第9話、ごゆっくりお楽しみくださいませ!
今回はベティたちは登場せず、ギルドの人達のほうにスポットが当たります。
どこまでも続く青空。その下に広がるは、蒼く煌めく海。
打ち寄せる波が、崖にぶつかり、砕ける音が響いた。
それに混じるようにして、人々の生活騒音が聞こえてくる。
前には蒼き海。後ろには延々と続く大砂漠。
自然の雄大さをそのまま表現しているような、2つの広大なものに挟まれるようにして、人家が並び立ち、船が行き交い、武具屋のハンマーの音が響き渡る。
ここは、タンジアの港。渓流地域を含む、広大な「第二大陸」の南端に位置する、同大陸最大級の港町である。その酒場に設けられたクエストカウンターに、ギルドマスターを務める、竜人族の老人の声が響いた。
「幽霊じゃと?」
「はい、こちらがユクモ村の出張所に提出された、その幽霊の報告書です」
ギルドマスターの声に応じているのは、エリナ。タンジアギルドの、いわゆる「銅鑼打ち係」である。
「渓流…そのユクモ村に程近い
「ユクモ村…あそこの温泉には、また行きたいものよのぅ。それはそうとして、幽霊とは興味深い。その報告書を、見せてくれんかのう」
「はい。それと、これも」
「ほう、これは何じゃ?」
「その幽霊とやらのスケッチだそうです」
マスターが見ているのは、ベティたちが提出した報告書…正確にはそのコピー…である。まだ印刷されて間もないため、インキは完全には乾ききっていない。が、この熱帯の日差しだ、じきに乾くだろう。
幽霊のスケッチ(これは原本。この世界のコピー技術では、残念ながらカラーコピーなんてことはできない)と共に、出現の経緯や出現場所、交戦所見などが書かれている。一見すると、どうみても夢物語としか思えないような行動の数々が記録されているが、報告書を記した当人たちは、極めて大真面目に書いているのである。
その報告書の最後は、以下のように締めくくられていた。
『ここまで記してきた通り、今回発見された幽霊は、現実離れした行動を多数取った。しかし一方では、この幽霊には一種の知性のようなものも備わっているのではないかと思われる。その理由としては、幽霊の放った謎の光に捉えられた私達3人が、生きて帰ることができたことが挙げられる。もしあの光を幽霊が全力全開で放っていたとすれば、私達3人は皆等しく、あの者のように屍と成り果てたことだろう。以上のことから、私見ではあるが、私達は、今回遭遇した幽霊を、極めて高い戦闘力と、野生のモンスターよりも高い知性を有すると考える。もしこれを生物だと仮定するならば、分類としては、龍 の字をあてることとなるだろうと愚考する。』
「………」
「…マスター?」
「………」
「マスター?」
「…ふぅむ、これは実に興味深い。これまでに見たどの報告書よりも面白いと思えるのぅ」
そこで一旦言葉を切り、一息ついてからギルドマスターは続けた。
「エリナよ、このギルドの書庫に、この幽霊と同じものを記したと思われる記録がないか、探してくれんかの」
「はい、承知いたしました」
…数時間後…
「書庫の大分奥のほうから、幾つか見つかりました」
頭から埃をかぶり、折角の美貌が台無しになったエリナが報告する。
「そうか、見つかったか。有難い。ではわしは、その記録と件の報告書とを持って、立つとしようかの」
「どちらへ?」
「ドンドルマじゃ。こやつを生物とするかどうかは、わしの一存では決められん。マスター会議にかけねばならぬの」
「では私たちは、各地のギルドマスターに、書簡を送ることにします」
「頼むでの。それと、わしが留守の間、タンジアをよろしく頼む」
「かしこまりました」
この会話が交わされた時点で、ベティたちの帰還から既に4日が経過していた。
Now Loading…
さらに1週間後。
「なんだそれは!?」
第一大陸のほぼ中央にある、山あいの大都市ドンドルマ。その中心に建つ元老院の一室に、若い男の声が響いた。
彼の名は、アーガス・オルレアン。若くして古龍観測隊の副隊長に任じられた、秀才である。
「幽霊だと!?そんなものいるわけがないだろう!このハンター達の集団幻覚か何かじゃないのか?」
ベティたちの出した報告書(のコピー)を前に、彼はそう言い切った。それに対し、ドンドルマギルドの司書を勤める女性、クリスタ・エリーゼが言い返す。
「いえ、そうでもないようです。ドンドルマの書庫を調べてみたところ、今回報告されたのと同じような幽霊…同一個体かはわかりませんが…の記録が発見されました。書庫の奥のほうから出てきましたよ」
そして視線を、テーブルの反対側に座る、メガネをかけた男性に向けた。
「書士隊のほうはどうでしたか、ロンさん?」
メガネの男性…名前はギュスターヴ・ロン、王立古生物書士隊現隊長…は立ち上がった。
「書士隊のデータにも、いくつかそれらしいのはあったよ。といっても日記レベルのものしかないし、数もそんなになかったがね」
そう言って、テーブルの上にノート1冊と数枚の紙を置いた。それが、書士隊が保有する、幽霊と思われる記録の全てなのである。
「わかりました。それでは、ギルドマスターの皆様、ご報告をお願いします」
クリスタの司会進行のもと、各地のマスターたちが次々と報告を重ねていった。それらを纏めると、以下のようになる。
・タンジアギルド管轄域…今回のものを含め、複数の目撃報告らしきものあり。すべて渓流で見つかっている。
・ロックラックギルド管轄域…孤島、および水没林にて目撃例が合計7つほど。ただし大まかなことしかわからない。
・バルバレギルド管轄域…原生林で目撃されたことがあるらしい。チコ村にその記録があった。
・ミナガルデギルド管轄域…幽霊の報告らしきものあり。見つかった(と思われる)フィールドは森丘。
・ドンドルマギルド管轄域…密林で目撃されたか?詳細不明。
・メゼポルタギルド管轄域…報告なし。
これらの報告を受け、大長老が口を開いた。
なおこの大長老、特注の大型椅子に座ってなお、床から7メートルの位置に顔があるという巨漢のため、話を聞く人は必ず見上げる格好になる。
「ヌシたちの話を聞く限り、この幽霊とやらの出現地点には、共通点があるようじゃのう」
「と仰いますと?」
クリスタの疑問に、大長老が答える。
「目撃報告らしきものがあった場所は、全て、川などの適度な水源があり、そして緑が多い地帯だ、ということじゃ」
大長老の言葉に、あちこちで「なるほど」とか「確かにそうだ」とかの呟きが上がる。
ここで、アーガスが再び発言した。
「この報告書を書いたハンターたちはどうした?証人喚問しないのか?」
「それなんじゃがのう」
タンジアのギルドマスターが答える。
「幽霊と対峙した時に、生還したハンター全員が重症を負ってしもうてのぅ。今はユクモ村で療養中で、動くに動けんのじゃ」
「むむ…そうでしたか。それは、仕方ないですね…」
ここで、再び大長老。
「では、いよいよ本題じゃ。この幽霊とやらは、龍、ないし竜と分類してよいものかのぅ?」
Now Loading…
結局、この大長老の疑問に対する、一致した答えが出るのには、更に7日を要した。これを長いとみるか短いとみるかは、人それぞれだが、とにかく7日かかったのである。
出された答えは、要約すれば次のようなものであった。
『今回報告された「幽霊」は、並みのモンスター…それこそ下手な古龍も含む…をはるかに凌駕する、強大な力があると考えられる。しかし一方では、どこか自然界に生きる竜らしいところもあり、人間のそれにも匹敵しうる知性を秘めているとも思われる。さらに言えば、出鱈目な力を持つ、というのは、古龍及び一部の特異な竜にもいえることである。よって、ハンターズギルドならびに王立古生物書士隊は、今回報告された「幽霊」を、正式に龍と認定することをここに決議する。また、これに合わせて、新たなるモンスターの分類区分を設ける。「幽霊」の名称および分類先は以下の通りとする。
名称: 緑霊龍 ユリス
分類先: 霊龍種』
お楽しみいただけましたか?
ここで本作世界の設定について補足します。
1. この世界は、第一大陸(いわゆる旧大陸。ドンドルマやメゼポルタ、シュレイド地方、バルバレ、雪山一帯を内包する)と、第二大陸(いわゆる新大陸。ロックラック及びタンジア地方。孤島もここに含まれる)に分かれている…とされているが、実は1つの大陸である。海と大砂漠によってあまりにも遠くに隔てられているだけ。
2. 活版印刷術(コピーの技術)と羅針盤が実用化されている。世界史において、ルネサンス期の三大改良が、火砲と活版印刷術と羅針盤だったので、大砲のあるモンハン世界にもこういうのがあってもいいよね。あ、羅針盤はどっかの艦隊戦略ゲームみたいに回すものではなく、きっちり航路を示してくれるものです。古龍とかの影響が凄まじいと狂ってしまいますが…
3. 紙が普及してきている。ただし田舎の方だと、粘土板やら木簡やらパピルスやらが使われることも。
まさかこの話のために世界史の知識を使うことになるとは思わなかった…
では、次回予告です。
ギルドで会議が行われているその頃、ベティたちもまた、体の回復を待ちつつ会議を行っていた。
で、その状況はというと…
次回「戦意盛んなれども…」 乞うご期待!
P.S. 亀更新となりますが、引き続き拙作をよろしくお願いします!