月の明かりが灯る海に…存在は立っていた。
それは……人間の様な姿をしているが、人間とは『少し』、と言うより『かなり』違う。なぜなら存在は、深海棲艦呼ばれる人間、艦娘の敵。
…駆逐棲姫。それが存在の名前。
青白い肌に蒼い瞳、蒼い髪を持ち、ボロボロの布切れのようなもので髪を左側に纏めており、紺色のノースリーブのセーラー服を着ている。
彼女が最も異型な存在を醸し出しているのは……『足』がないこと。
どういうわけか分からないが、元から足がない。
じゃあ何故浮いているのか。
それは艤装によるもの。この艤装によって、陸上でも海上でも浮くことが可能で、いわゆるホバーの役割を果たしている。
駆逐棲姫 : 月ガ…綺麗……。
駆逐棲姫は月が好きだ。私のこの異型の姿を優しく包み込んでくれる。そんな気がするから、月を見る。
先程の砲撃戦で受けた傷を治してくれる…そんなことできるわけが無い。でも、この光が好きだ。そう思い、月を眺めていた。
駆逐棲姫: …(アッ…帰ラナキャ……)
いつまでもこの月を見ていたいが、先ほどの艦娘達に遭遇するかもしれない、追撃をしている可能性もある。
駆逐棲姫 : …(帰レバマタ来レル…)
昼戦で彼女の艦隊は駆逐棲姫を残し、皆沈んだ。そして自身も中破に及ぶダメージを受けている。
…悔しい。自分の目の前で、友が次々に沈んでいく。何故友達は、自分を助けたの?何故私は助けなかった。その問いかけに答えるものは、誰もいない。
その時だった。
駆逐棲姫 : !!
私が装備している電探に反応がある。数は…6…。
駆逐棲姫 : (最悪…コンナ時ニ…!)
私が最も恐れている事態だった。
もう、すぐそこに艦隊は来ている。
燃料も残り少ない。このまま戦っても、弾薬が底を尽きる。
駆逐棲姫に残された道は…逃げるしかなかった。
駆逐棲姫: …クソッ……!
私は悔しかった。
何せ、目の前で仲間が沈んでいくのに、艦娘一人の轟沈もすることが出来ず、こうやって逃げているのだから。
すると、数メートル程離れた艦娘達から砲撃をしてきた。
弾幕を貼って、動きを止めるつもりなのだろう。だが、そう簡単には捕まるものか、そう思い、右へ、左へと進んだ。
駆逐棲姫: …(相手モ弾薬ガ残リ少ナイハズ!コノママ…逃ゲ切レ…ウッ!)
その時、駆逐棲姫の体に弾丸が当たった。
この砲撃で当たりどころが悪く、艤装が機能停止となった。もうこれで、逃げることはできなくなった。
駆逐棲姫 : …(アァ…月ヲ見レルノモ、コレデ最期ニナルナノネ…結局、何モデキナカッタ……セメテ、セメテ…一撃…一矢報イタイ…)
右手に装着されてある主砲を艦娘達の方へ向ける。1発だけでも…そう思い、砲撃を行おうとしたその時、彼女の目の前が炎で包まれる。艤装があちこちで、爆発。それは、あっという間に広がり、その身を焦がした。
その体は、ゆっくりと傾き…やがて水底へ沈んでいく……。
駆逐棲姫: (…アァ、何テ無力ダ…
私ガモット強カッタラ…仲間ガ沈マズニ済ンダノダロウカ…思イ返セバイツダッテ、護バカリダ……)
駆逐棲姫は薄れゆく意識の中で、そんなことを考えていた。そして、海中でうっすらと目を開け……強く願う。
駆逐棲姫: (神様…ナンテイルカ分カラナイ。ケド、モシイルノナラ、ソシテ聞コエテイルノナラ…私ニ…)
―守レル〝力〟ヲクダサイ―
そう願った時、あの月の光が差し込んだ。彼女の好きな、あの月の光だ。
駆逐棲姫: (……暖カイ。コノまマ、眠ってシマいソウ……。)
月の光が、駆逐棲姫の体を包む。そこで彼女の意識は途絶えた。
―――――――――――――――
…ジリリリリ!
春雨 : ひゃっ?!ゴツン!痛た……
目覚まし時計の音に驚き、飛び起きたため勢い余って二段ベッドの天井に頭を打ってしまった。
村雨 : …起床時間、過ぎてるよ…?
そう言われた春雨は、掛け時計を見る。起床時間は7時。
現在の時間は7時。掛け時計はそう示している。
春雨: うわぁぁぁ!!セットしたはずなのに〜!
村雨 : 春雨ったら、昨日寝ぼけて七時丁度にセットしたんだもの…あれだけ夜更かしするなって言ったのに…
ため息混じりに喋る薄い暗めの茶色の髪を持つ艦娘。村雨のその顔は迷惑という感じはしない、むしろ楽しんでる。
春雨はすぐに寝巻きから白露型共通のセーラー服に着替え、髪を左側に纏め、髪留めをし、白いベレー帽を被る。
村雨 : 用意、出来た?
春雨 : はい!いつでも行けます!
なんだかんだ言いつつも、待ってくれてた村雨はすぐに部屋を出る。
食堂に向かい、二人は朝食を食べていた。
村雨 : えっ?変な夢を見た?
春雨 : …はい。春雨が、深海棲艦で…。
春雨は自分が見た夢のことを村雨に詳しく話した。信じてはもらえないが、村雨なら何か知っているかもしれない。思い切って、彼女に話した。
村雨は、箸で器用に魚を開いた後。こう答えた。
村雨: …それ、ひょっとして春雨の前世の姿だったりして…。
春雨 : えっ?!春雨の…前世…?
オウム返しで問いかける春雨に、村雨は そう。と答える
村雨 : …ある資料によるとね、私達艦娘の中には『ドロップ』って言う現象で海上に現れることがあるらしいの。
春雨 : はい、それは聞いたことがあります…。
村雨 : でもね、ドロップって未だに議論が尽きなくて、詳しい事ははっきり分かってないの。ただ唯一、有力な説と言われてるのが…『深海棲艦が生まれ変わった姿』って言われてる。確証は、ないけどね。
村雨は春雨よりも先にこの鎮守府に着任した艦娘だ。
知識も、技術も春雨よりも遥かに超えるほどの膨大な技量がある。姉であり、先輩でもあるその姿を見ながら、春雨は日々、村雨に教えてもらっている。
春雨 : …深海棲艦の…生まれ変わり…?
村雨 : あくまでも有力な説の一つよ。あまり深く考えない方がいいわよ…それよりも春雨、早く食べないとまた提督に怒られるわよ?
春雨 : あっ…。
村雨は既に完食しており、トレイを持って席を立ち、洗い場に持っていこうとしている。春雨はまだ5割程度残ったままだった。話をしてから時間が経った気がしなかったので気付いてなかったが、もう殆どの人が食堂を出ていた、急いで残った朝食を食べ、トレイを持っていき急いで執務室に向かう。
執務室へ向かい、その扉を開けるとそこには既に提督と、4人の艦娘が、提督の提督席の前に横一列に並んでいた。
村雨 : おはようございま〜す…
春雨: お、おはようございます…司令官!
? : …2人とも、遅かったですね、どうしたんですか?
黒く長い髪と凛とした顔に、黒の縁取り眼鏡を掛ける提督。
春雨の提督。朝比奈香織(あさひな かおり)
春雨: え、えぇと…それは…
村雨 : 春雨ちゃんが夢の中にいたので起こしてあげたんです…
朝比奈 : ふむふむ…春雨ちゃん、あれほど夜更かししちゃダメって言ったのに…
村雨 : そんな事言う提督も、たしか昨日こっそり深夜にやってる恋愛ドラマ、観てましたよね?アレについては一体どう説明するんですか?
朝比奈 : …?!ど、どうしてそれを?!
図星。そう思った村雨は、一気に畳み掛ける。
村雨 : …春雨に対して、夜更かししちゃダメって言ってる人が…夜更かししてちゃおかしいですよねぇ…?
朝比奈 : ……はい…自粛します…
春雨 : …(恐るべし、村雨姉さん……)
どうやら村雨には頭が上がらないらしいようだ。
その傍らで、村雨に尊敬の眼差しで見つめる春雨。
村雨 : 気をつけてくださいね?朝比奈提督?
朝比奈 : はい……。
先程のあの態度はどこへ行ったのだろうか。すっかり小さくなってしまった。
朝比奈 : ……えぇと、気を取り直して、おはようございます。じゃあ、早速……
春雨 : (……生まれ変わり……私は、深海棲艦……じゃあ、若しかしたら、村雨姉さんも、ほかの艦娘さんも……)
そんなことを考えながら、朝比奈から言われた仕事を今日もこなす………。
pixivの方でも、同じ小説を出してます。もし気に入っていただければと、そう思いながら、日々努力しています。下手くそですが、ご愛読して頂けたら幸いです。