ずっと、助けてもらえることを信じて。
オリジナルです、あしからず。
キイ、キイ。ブランコが揺れる。
「私はね、いつかこの世界から脱出するの。大きな鹿がね、助けに来てくれるの。私ずっと待ってるのよ。こんなバカらしい世界から早く出られるのを、ずっとずっと待ってる。ほら、あそこにいるでしょう、あの鹿よ。早く助けに来てくれないかな」
彼女は、ブランコを漕ぎながら楽しそうに呟いている。
キイ、キイ。ブランコが揺れる。
「…何で来てくれないんだろう。私はあの鹿に見えるところでずっと待ってるのに。気がついてないはずがないの。そうよ。気がついてないはずがないの。おかしいわ、めっぽうおかしいわ。何故、何故、来てくれないの。私はあなたの助けがないと、ここから出られないのに」
彼女は、苛立ち始める。
キイ、キイ。ブランコが揺れる。
「分かった! 私から会いに行けばいいのだわ。きっと、きっとそうなのよ。甘えん坊のままじゃいけないのね。分かったわ、すぐにそっちに行くわ。逃げないでね。私も逃げないから。ね、そこにいて。そこでいつものように私を見て、立ち尽くしていて」
彼女は、鹿に向かって歩きだす。
ガサ、ガサ。草をかきわける音がする。
「…ああ、ああ、そんな。あの鹿は鹿ではなかったわ。私、あの鹿に乗ろうとしたの。走り出すと思って。とても大きいから、思わず角をつかんで上ろうとしたの。そうしたらね、そうしたらね、その角がズルリとおちて、中からドロリって血が出てきたの」
彼女は、泣きながら帰ってきた。
シク、シク。息をしゃくりあげる声がする。
「私、怖くなって、その角を取り落としたわ。それに気がついた鹿は、角に向かって一歩進んだの。その瞬間、私まだ目に焼き付いているわ、あの鹿の皮もズルリとおちてしまったの。中から現れたのは…馬。そう、馬だったのよ。助けてくれない、馬だったの」
シク、シク。シク、シク。
その時、彼女は気付いた。
「本当にここは『馬鹿』な世界だったんだわ、そうだわ。私に茶番をさせるためだけの世界。助けなんて来ないの。ええ、来ないの。それだけははっきりとわかるわ。だって人に『馬鹿』なことをさせるところだもの、来るはずないわ」
彼女が泣き続けていると、突然体に異変を感じた。
目から手を離すと、足がひづめと化していることに気がつく。
キャア、と彼女は叫んだつもりだったが、実際はヒヒンという声が響いただけだった。
そうして、そうして、彼女は馬と化した。
だから早く鹿の皮を探さなければいけない。
だってここは『馬鹿』な世界なのだから。
茶番は、続いていく。