清楚系ド淫乱アイドル『逢坂冬香』   作: junk

10 / 20
第9話 集うアイドル達

 今日は珍しく美城内での仕事のようで、相嘉さんに呼ばれてやって来ました。どうも、逢坂冬香でございます。

 

 しかし、何の用件で呼ばれたのでしょうね。仕事は順調ですし、思い当たる節は――沢山ありました。ひょっとして、自分で自分の脱ぎコラを作ってネットに流してるのがバレたのでしょうか。

 あるいは複数回線を使って自分のアンチスレを伸ばしまくったこととか。

 他には、こないだのフェスの折に、“うっかり”下着を着け忘れたことでしょうか。うーん、分かりませんわ。

 まあ行けば分かることです。

 相嘉さんのオフィスを目指しましょう。

 

 私アイドルになって以来、フェスに撮影にインタビューに、で。あんまり美城プロダクションにはいたことないんですよね。

 美城プロダクションのアイドル部門は新興とはいえ、かなり設備が整っています。エステやサロンは、社内の人間なら無料で出来るそうですよ。ですが残念ながら、SMクラブや怪しい地下室はないみたいですね……手抜き工事でしょうか。

 

「失礼いたします」

 

 指定された部屋に入ると、仕事をする相嘉さんがいました。

 ……いえ、相嘉さん一人だけではありませんね。

 この匂いと気配――目には見えませんが、この部屋に後二人いる。恐らく女の子、背丈は私より低く、そして年齢も私より下。うーん、殺気は感じないので、襲撃犯の類ではないようです。残念。

 

「おはよう冬香!」

「おはようございます、相嘉さん」

 

 何がそんなに嬉しいのか、私を見た瞬間、子犬のような笑顔を浮かべました。

 

「うん、今日も調子良さそうだね。最近仕事が沢山入ってたから、少し心配だったんだ」

「相嘉さんがケアをしっかりして下さるので、健康そのものです」

「そう言ってくれるのは嬉しいな。ほら、僕は男で一回りくらい違うからさ。その辺の機微に疎くてね」

「そんな。相嘉さんはまだまだお若いと思いますよ」

 

 ……うへぇ。

 爽やかな会話すぎて、自分のことながら嫌悪感が。

 助けて下さい奈緒。貴女とのお互い叩きあうような会話が、今の私には必要です。

 

「さて。実は冬香に紹介したい人がいるんだ」

「新しい営業相手でしょうか?」

「違うよ。僕がプロデュースする、他のアイドルさ」

 

 ほら、挨拶して。

 相嘉さんがそう仰ると、相嘉さんの机の下から二人の女の子が出てきました。

 えぇ……

 見たところ机の下で相嘉さんに“奉仕”していたわけでもないようですし、何故机の下に?

 

「初めまして、冬香さん。佐久間まゆです」

「は、初めまして……星、輝子です。フヒッ」

「初めまして、お二人とも。どうも、逢坂冬香でございます」

 

 お近づきの印に、と。

 佐久間さんからは手作りのクッキー、星さんからは手作りのブナシメジをいただきました。

 何か返礼を……と思ったのですが、私の手元にあるのは穴開きコン◯ームとピンクロ◯ターしかありません。せめてお二人と同じように手作りだったら……!

 

「さて、自己紹介も済んだところだし、そろそろ本題に入ってもいいかな」

 

 真っ白な垂れ幕が降りてきて、相嘉さんがそこに映像を映しました。美城プロダクションの設備は凄いですね。

 

「もうすぐ美城プロダクションの大規模ライブがある。輝子はサブで参加、まゆはメインで参加だ。そして冬香。冬香には、楓と二人でダブルセンターを務めてもらいたい」

 

 ほお。

 なるほど、ダブルセンターですか。大役ですが、私のような新人に任せてしまってもよろしいのでしょうか。

 

「大丈夫だよ。冬香は初参加だけど、今や美城を代表するアイドルの一人だ。誰も文句は言えないし、僕が言わせない。

 アイドル部門創設以来ずっとトップを走り続けてきた楓と、異例のスピードで駆け上がっている冬香。絶対良いペアになると思うんだ」

「……そういうことでしたら、喜んでお受けいたします。非才な身ではありますが、ファンの皆様に喜んでいただけるよう、精一杯努めさせていただきます」

「うん! 良い返事だ。まゆ、経験者として冬香を助けてあげてね」

「はぁい、奏加さん。冬香さん、よろしくお願いします。分からないことがあったら、まゆになんでも聞いてくださいね」

「ええ。若輩者ですが、どうか良くして下さい」

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 これから早速レッスンがある、ということで。美城プロダクション内にある一番大きなレッスンスタジオに参りました。とっても大きいです。ひろーい。

 もう既に何人か、アイドルの方が来ているようですね。

 

「こんにちは、冬香ちゃん」

「どうも、逢坂冬香でございます。そして初めまして、川島さん」

「あら、私のこと知ってたのね」

「もちろんです。美城プロダクションの方は全員、プロフィールを暗記してますよ」

 

 最初に話しかけてくれたのは、川島瑞樹さんでした。

 今回のライブ参加組で最年長らしく、メンバーを引っ張っているそうです。川島さんを皮切りに、他のアイドルの方々が次々と話しかけてきて下さいました。

 この中に私を倒してくれる方がいるかどうか、良い機会なので見定めておきましょう。本命は高垣楓さんですが、もしかすると思わぬ伏兵が――

 

「ふふーん、カワイイボクが挨拶に来ましたよー」

 

 くぁwせdrftgyふじこlp!

 

「ええ!? ど、どうしたんですか逢坂さん! は、鼻から大量の鼻血が!」

「だ、大丈夫でよわ。おほほほ。さ、幸子様。どうかお気になさらず。へへ、ただの持病なもんで」

「な、なんか凄まじくキャラ崩壊を起こしてますが……」

「ぐはぁ!」

 

 ま、不味いです!

 幸子様から心配されたことで脳内麻薬が多量分泌、血流が加速し過ぎてます!

 鼻だけではなく、口や目や耳、身体中の毛穴や汗腺からも血が! このままでは後五分ほどで出血死してしまいます!

 と、止めなくては! もし幸子様のお洋服にでも血がついたら大変です!

 

 大丈夫です、私ならやれます。

 集中……先ずは身体中の血流と筋肉の動きを感知。

 次に筋肉を最大まで膨張、後に硬化させることで血管を圧迫。同時に筋肉を操作し、心臓の鼓動をスローペースに。最後に副交感神経を使って脳内麻薬を落ち着かせれば――

 

「どう見ても大丈夫じゃないですよね、これ!? 床がち、血のプールになってますよ! え、えっと救急車! 救急車呼んでください!」

「ブハァ!」

 

 だ、ダメです!

 幸子様がこんなにお近くに!

 わ、私の意思とは無関係に身体が動く、動いてしまう! 細胞の一片までが狂喜乱舞してて、手がつけられません!

 これはもう……仕方がない。一度死ぬしかないようです。

 

 ――次の瞬間、冬香は渾身の力で己が胸部を叩いた。

 

 適切な角度、適切な力で放たれた拳は、筋肉や骨を一切傷つけることなく心臓のみを揺らした。

 強い衝撃を受けた心臓は一瞬強く鼓動した後、停止!

 紛れもなく心肺停止!

 逢坂冬香は、紛れもなく死んだのだ!

 血流が止まり、脳に血が送られなくなる。停滞した酸素の通ってない血では、冬香の脳といえど流石に十分な動きができるわけもなく……脳内麻薬の分泌をやめた。

 

 ――こんな噂を聞いたことがないだろうか。

 人は死んだ後も動く、という噂を。

 この噂は真実である。

 江戸時代初期、1675年のこと。決闘に敗れた侍が、死した後に刀を取り、一太刀だけ振り抜いた、という文献が残っている。

 強い意志が細胞に刻み込まれ、死んだ後も10秒ほど死人が動いた、という実例は確かに存在するのだ。

 

 人類にできることなら、冬香は大抵できる。それも今は幸子に会い、細胞がこれ以上ないほど活性化している状態なのだ。出来ないはずがない。

 冬香の左腕はひとりでに持ち上がり、先程と同じように胸部を殴打した。

 ――ドクン。

 心臓が鼓動を始め、血液が身体中に巡りだす。

 脳死寸前まで追い込まれていた脳も動き始め、先程の高揚状態と差し引きゼロでイーブンへ。

 

 復活!

 逢坂冬香復活ッ!

 

「ごきげんよう、幸子様」

「何事もなかったように!? も、もう大丈夫なんですか?」

「ええ、おかげさまで。少し貧血気味ですが、この程度なら問題ありませんわ。心配してくださってありがとうございます」

「まあ、ボクは気配りも完璧ですからね。もっと感謝してくれてもいいんですよ!」

「はい。本当にありがとうございます、幸子様! 私にできることならなんなりと! 全力を以て尽くさせていただきます!」

「そ、そこまでは言ってませんが……。まあいいでしょう。それより早くレッスンしませんか。みなさん時間がないと思うので」

 

 この日冬香は、今までで最高のパフォーマンスを見せた。

 

 

   ◇◇◇◇◇

 

 

 レッスンも終わり、帰路に就いている最中。

 私は一つのことを考えていました。

 相嘉さんの話を聞いた瞬間、私の中に一つの考えが浮かび上がったのです。

 ――そろそろ潮時、なのかもしれません。

 アイドル業界にいる方々は、みんな良い人です。相嘉さんも佐久間さんも川島さんも幸子様も。

 だからこそ、私の欲は満たされない。 

 高垣楓さんや765プロのみなさん、それからジュピターさんあたりと戦えなかったのはわずかに残念ですが。そろそろ引退、ですかね。

 かの小説家井伏鱒二様は、干武陵様の漢詩『歓酒』の一節「人生別離足 人生別離足」を「さよならだけが人生だ」と訳しました。

 つまりこういうことです。

 

「やり捨て上等」

 

 大きなライブ――そこで私の本性を全て告げ、引退することとしましょう。





 相嘉Pはアニメにいた『存在は明記されてるけど出てこないまゆのP』です。まゆが好きになるのはどんな人だろう、と考えた結果、仕事は有能だけど実直過ぎて欠点も多い、みたいな人かなと。まゆってほら、世話を焼くのとか好きそうだし。


【オマケ・『雪の降る中で死ねたら』第4話予告】
 博士の不手際で火星探査用に乗り込み地球を後にしてしまった冬香。
 極限状態の中襲いかかる過去最大の敵エスパー・ユッコ!
 冬香は博士から託された『普段は何の意味もないけど自分をエスパーと偽る敵だけにはえげつない殺傷能力を発揮する兵器』を守りきれるのか!?


 次回『雪の降る中で死ねたら』第4話。
 『えっ、本当にエスパーじゃないんですか?』
 乞うご期待ッ!

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。