清楚系ド淫乱アイドル『逢坂冬香』   作: junk

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第4話 初めての快感

 好きな食べ物は激辛冷製蒙古タンメン、嫌いな食べ物ははんぺん。どうも、逢坂冬香でございます。

 

 平均的な女子高生程度には被虐主義者の私ですが、この世にたった三つ、興奮できない嫌なことがございます。

 本当にお恥ずかしい限りなのですが……

 一つはただ一人私の本性を知る、無二の親友が寝取られることでございます。

 彼女が他の方と仲良くしてらっしゃると、なんと申しますか、なにもかも破壊したい気持ちになりますわ。

 破壊されるのは好きでも、するのは好みませんのに……不思議なこともあるものです。

 

 もう一つははんぺんを食べることでございます。

 幼い頃より「好き嫌いはするな」と教えられてきたので、殿方の吐瀉物や足の汚れまで舐める覚悟がございますが、どうもはんぺんだけは……

 はんぺんで快楽を得ようと、ダース単位で食べてみたり、お尻を叩いたりしてみたのですが、どうにもなりませんでした。ああ、もちろんお尻を叩いたはんぺんは食しました。ご安心下さい。私、食べ物を無駄にすることはしませんの。イメージが崩れますので。

 

 三つ目、輿水幸子様を馬鹿にされること。

 説明不要。

 

 さて、余談はここまでとしまして――今日は私のデビューの日。

 記念すべき初フェスです。

 お相手して下さっているのは、魔王エンジェルのみなさんですわ。

 ああっ、魔王エンジェルさんには本当に感謝です。

 このような素晴らしい時間を私に与えて下さるなんて、恐悦至極でございます。

 ご覧ください、私の放置されっぷりを!

 たまに見て下さる方がいても「あっ、まだいたの君?」とか「早く帰れようぜーな」というような視線なのです。私たいへん人に好かれやすいので、このような扱いを受けるのは初めての経験ですわ。

 はしたないのですが、腰が砕けてしまいそうで――下着など、もう取り返しがつかないところまで来てしまって、もう、ねえ? うふふふ……この快楽をもっともっと貪りたくて仕方がありません。

 

 ですが……ふぅ。正直申しますと、拍子抜けした部分もございます。

 魔王エンジェルのみなさん、ぬるすぎませんか?

 酷い妨害をなさると聞いていたので、照明が落ちてきて私の手足がぐちゃぐちゃになるだとか、ファンが暴動を起こして乱暴されるとか、曲の代わりに私の家を盗聴した音声やAVが流れるとか、そういった事を想像していたのですが……

 今のところ、私の望むようなことは起きておらず、残念でなりません。

 いえ、これだけ私に無関心な人間を集めて下さった点は素直にお礼申し上げるのですが。何故その無関心を悪意にしておいて下さらなかったのか……

 

 放置プレーも好きですが、もっと乱暴にされたいのです!

 

 それに魔王エンジェルさん自体も、正直手応えがなくて困ります。

 今は私が大分セーブしているので、魔王エンジェルさんが優勢でいらっしゃいますが、ちょっとその気になれば一分程度でファンの方を全て奪えるでしょう。

 理想としては――圧倒的な力でねじ伏せられ、手も足も出ない。あれだけ頑張ってきたレッスンとはなんだったのか……というのを期待していたのですが。

 私の方から手を抜いて蹂躙されるのは、なにか違うと申しますか。

 残念ながら、私を真に満足させる器ではないようで。

 

 そこで私は考えました。

 ここで完膚なきまでに魔王エンジェルさんを叩き潰そう、と。

 私のような新米アイドル、しかも世間知らずの無知なほんわかお嬢様に負けたとなれば、魔王エンジェルさんは怒り狂うはずです。きっと私にかつてない悪意を向けて下さるでしょう。

 

 ああっ、想像しただけでたまりません!

 

 それにここでアイドルとして上に行けば、もっと強いアイドルの方と戦える日もくるでしょう。その時私は、全力を出し切った上で、それを嘲笑うかのように一蹴されるのです。

 夢を叶えるためにひたむきに頑張ってきた無垢な少女が芸能界で潰れ、ズルズルと堕ちてゆく……シチュエーションとしては最高です。

 堕ちた後は、東豪寺麗華さんが素晴らしい就職先を斡旋してくれるでしょう。

 ああ、想像するだけで子宮が疼いて仕方ありません!

 

 というわけで、今回は勝とうと思います。

 どうか存分に、私を恨んで下さいましね。

 

 1/fゆらぎ、という言葉をご存知でしょうか。

 簡単に言えば「人を安心させる周波数」です。

 なんでも安定的なゆらぎと不安定なゆらぎを繰り返す物に、人は惹かれるのだそうですね。

 具体的に申しますと、火のゆらめきや小鳥のさえずり、普段穏やかな夫が夜だけに見せる激しい一面、などが挙げられるでしょうか。

 著名な歌手や声優の方も、この1/fゆらぎの声を持っていることが多いそうですよ。

 余談ですが、別名「ピンクノイズ」なんて呼び方もあるのだとか。

 安心――私が最も嫌悪する物の一つなので、できれば使いたくはないのですが、私はこの「1/fゆらぎ」の声を任意で出すことができます。

 魔王エンジェルさんの曲は激しいパンクロック調。そこに私の1/fゆらぎの声を差し込むとどうなるか……?

 

 観客のみなさんには、次第に魔王エンジェルさんの曲が耳障りに感じられるようになるはずです。

 安心感と安らぎを求めて、ちょっとでも私の歌に耳を傾け下さったなら、後は簡単です。

 声――音とは、つまり振動。私の声は鼓膜を越え、相手方の「脳」を直接振動させます。つまりあり得ないくらいの幸福感、絶頂を「脳」に直接お届けできるのです。

 それにどれだけ遠くへ行こうと、私の声が聞こえる範囲にいる方なら、まるで耳元で囁いているように感じさせて差し上げられます。これも来るべき時に備え、喉を毎日いじめ抜いた成果でしょうか。

 

 次にダンス。

 男のダンスは自分を鼓舞するため、女のダンスは異性を魅了するため、なんて言われていますね。

 日々のレッスンはもちろん、ストリップやポールダンスを見て勉強しましたので、私は踊りには相当な自信があります。

 必ず殿方を魅了する、確かな自信が……

 

 ほら、こんな風に。

 

 私の声に釣られて、魔王エンジェルさんのファンが次第にこっちへ流れてきています。歌声に虚ろになる方や、踊りを見て放心する方もいらっしゃるようで……

 ああっ、なんということでしょう。

 また一つ、アイドルの魅力に気がついてしまいました。

 私を見るファンの方々――明らかに発情しています。

 つまり私は今、視姦されているのです!

 街を歩いているとき、少し見られる、というレベルではありませんっ!

 なんと甘美な……なんと甘く美しいことでしょう。

 こちらを振り向いていただくために艶やかな声を出し、見ていただくためにエロティックな踊りを披露する。

 これがアイドル――偶像。

 視姦されるために日々努力し、そして数多くの方に視姦していただく。アイドルという物の本質を今、頭ではなく、子宮(本能)で理解しました。

 

 ですが楽しい時間というのは、過ぎるのが早いものですね。

 そろそろ歌の終わりです。

 四分の三程度は魔王エンジェルさんのファンを取り込めたようですので、今日はプチ成功でしょうか。本来なら大性行したかったのですが……

 

(えぇ……)

 

 ところで、なぜ相嘉さんは舞台袖で大泣きしてるのでしょうか……?

 下半身と上半身、濡らすところを間違っておいででは?

 そしてその「僕はちゃんと分かってる」的な視線はお止め下さい。何も分かってない、何も分かってないですから。

 なんというか、もっとこう、ねっとりした視線が欲しいのです。

 

 うーん。

 察するに、プロデューサーの中の私は、初めてのフェス、それも格上相手のフェスで、頑張りつつも心の底からフェスを楽しみ、奇跡的に勝利を掴んだ夢見る少女、といったところでしょうか。

 それならそれに合わせた方が、後々いい気がしますね。

 そうすれば、私を「清楚系アイドル」としてプロデュースして下さることでしょうから。

 

 歌が終わり、フェスが終わりました。

 盛り上がっていたのは、明確に私のブース。

 恐らく買収されていただろう審判も、流石に私の勝ちとしました。僅差ならともかく、ここまで差があるのに私の負けでは、買収されてると言っているようなものですからね。

 

「さあ、格上のアイドルに見事勝った冬香ちゃん! 何か言いたいことはあるかな?」

 

 司会の方が、私に勝利者インタビューを振りました。

 とりあえず……泣いておきましょうか。

 この方が儚い雰囲気が出るでしょう。

 

「グスッ……は、はい。ちょっとま、待ってください。涙を拭きますので……。こんな顔では、応援してくださったファンの方々に、顔向けできませんっ!」

 

 泣き声、というのは意外に不快に聞こえることがあります。

 言ってみれば異様な高音なので、当然かもしれませんが。その辺を加味して、泣き声もしっかり上品な物にしました。

 ハンカチで涙を拭いて、深呼吸を数回。

 目元の血流を早くして、赤く腫らしておくのも忘れません。

 

「先ずは私のような新人アイドルをこのような場に誘って下さった魔王エンジェルの方々に、深い感謝を。ありがとうございます」

 

 しっかり腰をおり、深々と頭を下げました。

 日頃練習しておいたので、フォームには自信があります。

 今、魔王エンジェルさんは腹わたが煮えくりかえる思いでしょう。新人を潰そう、なんて考えているのですから。今の私のように実直な少女は、腹立たしく感じるはずもの。

 その怒りを私にぶつけて下さるよう、切に願いますわ……ふふ。

 

「そして何より――私を応援して下さったファンの方々!

 この舞台に立つとき、私は不安で仕方がありませんでした。今まで注目を浴びることと言ったら、お琴の発表会くらいのもの。ここまで多くの方に注目されるのは初めてで、とても緊張しました。足が震えたくらいです」

 

 嘘は言ってません。

 もっとも緊張ではなく、快楽で震えたわけですが。

 

「ですがみなさん、本当に私を温かく迎えてくださって……いつのまにか緊張はなくなり、いつも以上のパフォーマンスが発揮できました。本当に、感謝の言葉も――っ!」

 

 もう一度涙を。

 私の目指す理想像――無垢で清楚な女の子になれたのではないでしょうか。

 この後熱狂したファンの方が襲ってくれれば、これに勝る喜びはないのですが……それは流石に、望みすぎでしょうか。


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