三か月ぶりの投稿。
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「お前が言う『自由』が何なのかは分からんが、オレも『自由』を手にしたという点については否定はしない。そして、俺の邪魔をするやつは排除する。倉持、お前でもだ」
その言葉とともに放たれる殺気に恐怖を抱く。しかしそれ以上に僕の頭の中は驚きで溢れ思考が停止した。それ程までに彼の発言は予想の範疇を超えていた。たが、それは悪い意味でではない。
「……なるほどね。じゃあ、お互いにその『自由』を守る必要があるわけだね」
「ああ、そうなるな」
彼がこの場で、はぐらかすことなく返答をするということは2つの可能性が考えられる。僕を敵とみなしたか、はたまたその逆か。どちらが正解なのだろう。
「単刀直入に言おう。僕と協力してほしい。お互いの『自由』を守るために」
僕の出した答えは綾小路くんが、僕を協力者にしようとしている可能性だ。彼の立場、動き方を考えると僕という存在を協力者にするメリットは高いはずだ。
本当はここでこの提案を持ちかけるつもりはなかった。今日は探りを入れるだけで、もう少し彼の実力を計ったうえで、この試験が終わるまでに提案をできればいいと考えていた。だが、ここにきて綾小路くんが動いた。つまり彼にも僕に近い思惑があるということ。
「協力か。すでに堀北と協力関係を結んでいるはずだが」
「あれとは別だよ。本当の協力関係を築きたい」
「その言い方だと堀北との協力関係は偽物だと聞こえるが?」
「僕からしたら君が本気で堀北さんと協力してAクラスを目指そうとしているようには思えないけど?」
「……まぁ、そうだな」
ここで嘘をついても仕方ないと思ったのか、綾小路君は肩をすくめて答える。堀北さんには申し訳なく思うが彼女とは向いている方向が違いすぎる。
「それが分かっているならオレに協力関係を持ちかけるのはお門違いじゃないか?オレはAクラスを目指すつもりはないぞ」
「うん、分かっているよ。だから僕が結びたいのはお互いの『自由』を守るための協力関係なんだよ。例えば今回の試験を乗り切ることとかね」
「……やはり茶柱先生とつながっていたか」
「詳しくは聞いてないけどね。それよりも僕と茶柱先生がつながっていることに気付かれていたのがびっくりなんだけど」
この試験が始まる前に茶柱先生から綾小路君にもこの試験を勝ちにいくように言っていると聞いていた。なぜ綾小路君が茶柱先生の命令を聞くことになったかは教えてくれなかったが、どうせろくなことじゃないだろう。そんなことより僕と茶柱先生とのつながりに気付いていたのが驚きだ。そんな素振りは見せたつもりはないんだけど。綾小路君は「可能性の一つとしてあっただけだ」と言うが、ほとんど確信を持っていたに違いない。やはり侮れない男だ。
「理由は知らないけど、茶柱先生のことだから何かをネタに脅迫でもしてるんでしょ?あの人、容赦なくそういうことするタイプだもんね。僕も事情が少し違うけど同じようなものだよ」
「お互いに大変だな」
「本当にね。教師としてどうなんだろうか」
普通なら警察沙汰になってもおかしくない案件だ。まぁ、そもそもこの学校が普通じゃないんだけどさ。
「だから同じ穴の狢同士協力して、手に入れた『自由』を守っていこうと提案してるわけなんだけど、どうかな?」
「その前に1つ答えてくれ」
「ん?なに?」
「倉持がオレを協力者にするメリットはなんだ?」
「別に特別な理由はないよ。強いて言えば、綾小路くんと僕は利害が一致してるからかな」
「本当にそれだけか?もし、オレからお前と協力したいと提案するのは分かる。オレにとって倉持を協力者にするメリットがある。だが、倉持が態々リスクを背負ってまでオレに協力を持ちかける理由はなんだ?それが分からないと信用することができないな」
ㅤ信用だなんて最初からする気なんて更々ないくせによく言うよ。しかし、綾小路くんの疑問は当然のことだろう。
「綾小路くんと協力できる時点でメリットだらけだと僕は思うけど」
「まぁ、大方予想はつく。例えば、オレへの牽制。軽井沢や平田辺りか」
それだけ言われただけで、僕は悟った。彼は全て分かっている。僕が協力を持ちかけた一番の理由に気づいている。
「分かってるなら聞かないでよね。綾小路の予想通り、僕の友達に手を出させないことが君と協力する1番のメリットだよ」
綾小路くんと協力関係を結ぶ1番の理由は彼への牽制。僕の大事な友達に手を出させないための予防策だ。
「一応、先に断言しておく。もし、僕の友達に手を出したら僕は全力で君と戦うよ。それこそ捨て身でね」
「それは怖いな」
「怖いだなんてよく言うよ。頼むからやめてよ。それさえ守ってくれれば君への協力は惜しまないんだから」
「別にどうこうするつもりはないし、そもそもそんな力はない」
綾小路くんはそう言うけど、僕の見立てでは彼は必要とあれば無情に人を切り捨てる。確証はないけど、それが出来るだけの力を持っている。
「しかし、倉持の友達と言われてもイマイチ判断ができん」
「とりあえず、軽井沢さんと洋介、それから佐倉さんには絶対に手を出さないでほしいかな」
「高円寺はいいのか?」
「あれは好きにするといい。ただ、そう簡単に相手にできるほどアイツは甘くないよ」
「随分高く評価しているんだな」
「正当な評価だよ。高円寺は冗談抜きで強いからね。じゃないとあれだけ傲慢な態度とれないでしょ」
高円寺なら強くなくても態度は変わりそうにないが、それは置いておこう。
「確かに高円寺は骨が折れそうだ。だが、それ以外はどうなってもいいという解釈で問題ないんだな?」
「……うん。僕は聖人君子ではないから。僕の手で守れるものは限られている。もし他の人を犠牲にすれば僕の大事な人達が助かるというのなら僕は迷わないだろうね」
「クラスメイト全員を守ると言われないで良かった。そんな奴と協力関係を結ぶわけにはいかんからな」
「自分の力量くらい理解してるつもりさ」
この場に洋介がいれば、間違いなく全員助けると断言するだろう。でも、僕は洋介とは違う。周りの大切なものさえ守れればそれでいい。それが僕の『自由』なんだから。
「ということで、お試しってことで今回の試験を協力するってことでどう?それから決めてくれたらいい」
「……それもそうだな。まずは目先の問題を解決だな」
「よし、それじゃあ改めてよろしくね」
僕は綾小路くんに手を差し出す。友好の証といえば握手だ。
「ああ」
綾小路は僕が差し出した手を軽く握った。この瞬間、この試験を突破するための心強い仲間ができたのだった。
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「少し時間をかけすぎたな」
「洋介あたりが心配してるかもね」
「だな。……ん?」
急ぎ足で焚き火用の枝をかき集め、ベースキャンプへと戻る道中、綾小路くんが何かを見つけた。その視線を辿ると、大木に背中を預けるように座り込む1人の女子生徒が居た。あちらも僕達の視線に気づき目線が合うが、すぐに興味なさげに視線を外した。
「どうしたんだろうね」
「何かのトラブルか、あるいは……」
「とにかく、声をかけてみよう」
女子生徒に近づくと、明らかに嫌そうな顔で睨まれたが、すぐに視線を外した。その目より気になるのは、頬にある赤く腫れた痕。誰かに殴られたか、叩かれたことによりできたものだと推測できる。それもあれだけ腫れているとなると結構な力でだ。
「おい、倉持」
「うん、分かってる。でもさすがに放ってはおけないよ」
「……好きにしろ」
女子生徒の様子を見て綾小路くんが抱いた疑念は理解している。でも怪我をしている以上無視するわけにもいかない。
「ねぇ、手を貸そうか?」
「……必要ない。何でもないから」
「とてもそうには見えないがな。先生を呼んでくるか?」
「いらない。クラスの奴と少し揉めただけだから……」
僕と綾小路君が声をかけるも、女子生徒は拒絶をしめす。どうしたものか。もうすぐ日が沈み、辺りは暗闇に包まれるだろう。その中で一人にしてしまえば遭難なんてことになりかねない。
「しょうがない。とりあえずDクラスのベースキャンプにおいでよ。怪我の手当てをしないと」
「は?何言ってんの?馬鹿なの?そんなことできるわけないでしょ」
「え?なんで?」
「なんでって、私はCクラス。つまりお前らの敵ってこと。それだけで分かるでしょ?」
要するに僕たちが、敵であるCクラスの生徒を助ける義理はないし、敵に助けられる筋合いはないということだ。
「それって今の話に関係ないよね?」
「は?」
「確かに特別試験において君は敵かもしれない。けど、別に殺し合いをしているわけじゃないんだ。同じ学校の生徒が怪我をしていれば助ける。そこに問題があるとは思えないけど」
「……偽善だ」
「そうだね。でもそれでいいんじゃない?その偽善で君は怪我の手当てをできるし、僕も満足する。意外と偽善ってのも悪くないもんだよ」
「……」
「それに顔に痕が残ったら大変でしょ?綺麗なんだから大事にしないとね」
「ナチュラルに口説いてるな」
「……余計な横やり入れないでくれるかな」
せっかくいい感じで話していたのに綾小路君に水を差された。断じて口説いていたつもりはない。
「うまく丸め込もうとしているとこ邪魔して悪かったな」
「ねぇ、その言い方は語弊があると思うんだけど」
「人を丸め込もうだなんて最低」
「君まで!?」
女子生徒は軽蔑したような視線を向けた後、目をそらす。何で僕が悪者みたいになっているのだろうか。
「ドンマイ、強く生きろよ」
「いや、誰のせいだと思ってるの?」
「自業自得でしょ」
「自業自得だな」
「なんでだよ」
理不尽だ。しかし、空気が少し和らいだのか女子生徒は顔色が良くなったように見える。
「とにかく、一緒にベースキャンプに戻るってことでいいね?」
「相当なお人好しだな。うちのクラスじゃありえない。でもいいわけ?私にベースキャンプの場所を教えても」
「まぁ、良くはないよね」
「そうだな。まぁ、何とかなるだろ」
「おまえら良い奴ではあるんだろうけど、馬鹿だな」
女子生徒は呆れたようにため息をつく。僕らは馬鹿かどうかは置いといて、良い奴なんかでは絶対ないんだけど。
「自己紹介がまだだったね。僕はDクラスの倉持勇人。こっちが綾小路清隆くん」
「よろしくな」
「……私は伊吹」
伊吹と名乗った女子生徒は、目を合わせることなく赤く腫れた頬を押さえていた。ここまで話していて感じたが、彼女は人と目を合わせるのが苦手なのだろう。佐倉さんとかもそうだし、特に気にすることでもない。伊吹さんが立ち上がるのを手を貸し、ベースキャンプへと一緒に歩き出す。
「綾小路くん、どうかした?」
「いや、なんでもない」
僕らが歩き出したにもかかわらず、綾小路君は足を止め何かを見つめていたが、すぐに歩き出した。視線の先を辿ると伊吹さんが先程まで座っていた木の根元に土を掘り起こしたような形跡があった。そういえば伊吹さんの爪の間に土が挟まっていたようにみえたな。
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数分後、僕たちはベースキャンプへと戻ってきていた。綾小路君は焚火用の枝を持って火を熾しに行った。池君と山内君も火熾しに参加しているようで、池君がレクチャーをしていた。一方、伊吹さんは他クラスに迷惑をかけたくないと言い、ベースキャンプと少し離れたところで座っている。僕は手当てだけ行い、洋介のところへ向かった。
「あ、勇人君。戻ってきてたんだね。なかなか戻ってこないからみんな心配してたんだよ」
「ごめんね。綾小路君と話が盛り上がっちゃってさ。軽井沢さんと佐倉さんも心配かけてごめんね」
洋介のもとには軽井沢さんと佐倉さんも一緒にいた。どうやら森の中で食べれそうなものを探してきてそれを選別しているところらしい。
「ぶ、無事でよかった、です。ね、恵ちゃん」
「べっつにー。あたしは心配とかしてなっかたし」
軽井沢さんはそう言ってそっぽを向いた。明らかに機嫌が悪い。陽とのことをまだ怒っているようだ。怒る理由は良く分からないんだけど。
「口ではこう言ってるけど、軽井沢さんが一番心配していたんだよ」
「ちょっ、平田君!?」
「ふふっ、落ち着きなく立ったり座ったりしてたもんね」
「愛里まで!?別にそんなんじゃなくて」
頬を赤く染め慌てる軽井沢さん。心配をかけたのは申し訳ないが、そこまで気にかけてもらえていたのは素直に嬉しい。
「軽井沢さん、心配かけて本当にごめんね」
「だ、だから、あたしは……」
「それからありがとう。不謹慎だけど、心配してくれたと聞いて嬉しかったよ」
「うっ、ちがくて……うん。怪我とかなくて良かった、です」
「ははっ、何で敬語なのさ」
「うっさい!倉持くんのバーカ」
恥ずかしさが限界に達したのか、僕をポカポカと叩いてくる。痛くもないので笑いながらそれを受ける。
「僕たちもいることを忘れないでね」
「もちろんだよ。忘れるわけないだろ」
「まぁ、いいけどね。それより焚火用の枝は拾えたのかい?」
「うん。今、綾小路君たちが火を熾してくれているよ」
「助かるよ。ご苦労様」
「礼なんていらないよ。協力するのは当たり前のことなんだからさ」
「そうだね。ありがとう」
「結局お礼いってるじゃん」
軽井沢さんのツッコミにみんなで笑う。こんな感じで平和に学校生活を送れれば幸せなんだけどな。そんなに甘くないのがこの学校だ。
「洋介、大事な話がある」
「どうしたの?」
「実は……」
伊吹さんの事を洋介に話す。偶々怪我をしているところを通りかかり、ベースキャンプまで連れてきて手当てをし、現在は少し離れたところで待機していることを掻い摘んで話した。
「なるほど。それは放ってはおけないね。勇人君の判断は間違っていないよ」
「で、でも、その人がスパイの可能性もあるんじゃ……」
「そうだね。今からそれを確かめてくるよ。勇人君、案内してくれる?」
「分かった。二人はここで待ってて」
あまり大人数で行っても委縮してしまう。二人にはここで待っててもらって僕と洋介の二人で行くのが無難だ。
「待って。あたしも行く」
「え?でも……」
「相手は女子なんでしょ?じゃあ、女子のあたしが行った方がいいじゃん。それともあたしが行くと不都合なことがあるの?ねぇ?」
「いいえ、ないです」
「じゃあ決まりっ」
軽井沢さんの剣幕に押されて了承してしまった。別に何の問題もないけど、そこまで話してみたかったのか?何か小声で「また新しい女の子が……」と言っていたが、よく意味が分からなかった。ちなみに佐倉さんは絶対力になれないからと言ってその場に残った。
話が全く進んでない……。