Fate/eternal rising[girl or king]   作:Gヘッド

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……眠い。


11話 夜の公園

 太陽が地の真下にいる。光は土の中に消え、空に開いた覗き穴から光が僅かにこぼれ落ちているだけ。それでも自然の光は目の前を照らすには程遠く、人が作り出した明かりが街を照していた。

 

 自転車を手で押しながら俺はゆっくりと歩いていた。家の周りをぐるぐると何度も回りながら。

 

「え、マジで本当に行くの?」

 

 俺が頭を右へ左へゆっくりと動かしながら尋ねる。隣にいる彼女は苛立っていた。

 

「行くって言ったじゃないですか!もう、何度も何度も言わせないでください!」

 

 彼女は歯をむき出しにしてガミガミと強く答える。

 

「それより、何なんですか⁉︎さっきから家の周りをずっと何度もぐるぐるして!」

「え?ああ、何か、外出るの嫌だなって」

「しょうがないじゃないですか!聖杯戦争で、少なくとも私たちは一騎は倒さないといけないんです!だから、戦いに行くんですよ!」

「いや、それはそれでもちろんそうだけど、それだけじゃなくて、そういうヤベー奴らがいる夜の街に行くって事自体が嫌なんだよね」

 

 セイバーを除けば総勢6騎のサーヴァント。そんな猛獣どもが放し飼いにされているこの夜の街を歩けと言うのか?それはいささか無理があるに決まっている。

 まず、俺たちは何人もいる敵のうち、まだアーチャーしか知らない。もしかしたら、俺たちが聖杯戦争に参加しているということはもうすでに流布されていたり、漏れていたりする可能性がある。つまり、俺たちは圧倒的に情報量が少ないのだ。

 そもそも、サーヴァントを一人殺すというのは本当にできることなのだろうか。他の敵の力はいかほどのものなのか。あのアーチャーみたいなものが多くいるのならもう勝てないのではないか。そう考えるとまだ安全だと思える家にいたいと思い、そこから離れる足は重く感じる。

 そして、俺はまたさっきと同じように右に曲がろうとしたら、彼女が俺の肩を掴んだ。

 

「それでも、やらなきゃダメですよ。それはあなたのためですし、……私のためでもありますから」

 

 彼女の力が強かった。服にしわがつくくらいの握力だった。

 戦わないという選択肢だけは俺たちには残されてはいない。いや、戦わないという方法自体はなくはないのだが、俺たちには敵を迎え撃つほどの何かが備わっていない。そもそもアーチャーに俺たちは正体を知られてしまった以上、立ち止まることが危険だということは何となく理解はできた。

 だから、戦わねばならない。そう、それは理解しているはずなのだが。

 

「……ちと怖いな」

 

 あれほどの猛者が六騎もいる夜の街。怖くないはずがない。

 彼女に今の独り言が聞こえていたのかは分からない。ただ彼女は俯きながら「行きましょう」とだけ言った。

 

 それから俺たちは家から離れた。と言っても、徒歩10分程度しか離れていない公園に行っただけである。そもそも俺たちは何処へ行けば良いのかなんて分からないし、明日も学校がある。そこまで夜遅くまでいることはできないので、今回は近場までの夜のお散歩程度の距離となった。

 だが、安心はできない。たとえ家から近い公園でも敵が来ないというわけではないのだ。もしかしたら敵とばったり出会うかもしれない。その可能性を孕んでいることに変わりはないので、気を緩めるなんてことは少なくとも俺には到底できそうになかった。

 公園に着き、自転車を入り口に置いて中へと入った。

 

 小さな寂しい公園。砂場や滑り台、登り棒にブランコ、ジャングルジムなど一通りの遊戯具は揃ってはいるが、錆れていたり、汚れていたりと少し年季の入ったものばかり。市の中心部が勃興するのとは逆に急速に廃れてゆく昔ながらの住宅地。そんな中にあるこの公園は昼間なら今でも子供が遊んではいるが、午後3時くらいから突如として遊び子たちは消えてしまい、物寂しい公園と成り果ててしまう。

 今は真夜中、午後11時過ぎ。人っ子一人として見当たらず、そんな時間の古びた公園は異様な存在感を醸し出していた。

 しかし、普段の公園をそもそも知らないセイバーは公園を見るなり感嘆としたようである。

 

「おお、これが公園ですか。すごいですね」

 

 彼女は周りの遊具を見回す。どうやら大きな鉄製の遊具に囲まれた空間に不思議さを覚えたようである。

 

「これが公園……。初めて知りました」

「お前の頃には……、まぁ、なさそうだな」

「いや、どうしてヨウがそんなこと知ってるのですか?」

「昼の話を聞く限りな。昔の人間だろうし」

「う〜ん、まぁ、間違ってはないですけど、公園はあったのかもしれないです」

「え?あったの?」

「いや、知りませんよ。かもしれない、です。都市はよく分からないので、なんとも言えないんです」

 

 彼女はそう言うとジャングルジムを指差した。

 

「これは何ですか?」

「ん?ジャングルジムっていうやつ。それに登ったりして遊ぶ」

「じゃあ、これは?」

「シーソー。二人で向かい合うようにまたがって遊ぶ」

 

 彼女は目に付いた遊具を次々と指差す。俺はそれにちょっと雑に答えた。

 そうして彼女が現代の遊び場に魅せられているとき、俺は特に何にもすることがないので、ふとあのときのようにブランコに腰かけた。

 見慣れた光景だった。右手に夕陽がないということだけはあのときとは違うが、変わらない景色だった。公園の入り口が見えて、前の車道、瓦屋根の住宅。変わりのないこのセットは少しばかりの安心を生む。

 まぁ、もっともこの景色はいつの間にか懐かしい景色になってしまったのだが。

 しかし、あのときのこの景色は落ちゆく陽の光があったから、多分今よりは少し明るくて、そして単調だった。何も考えていなかったわけじゃない。ただ、日々目の前を通り過ぎてゆく日々をぼーっと眺めていた。

 今は、もう少し彩りはあるのかもしれない。今でも確かにモノトーンな日々ではあるが、まだあの頃より、些かマシと考えられた。

 

 ブランコを少し揺らした。自分の身体も同じように揺れた。

 セイバーはまだ遊具を見ていた。それほど見ていて、飽きないのかと問いかけたいほどに彼女は目を輝かせていた。公園という場所が持つ不思議なパワーは何か彼女を感動させたのだろう。もう少しこのままでも良いかもしれない。戦いに行くのは嫌だから、ここで時間を潰しておこう。

 俺はそう思いながら隣見た。無人のブランコがごく僅かに揺れている。

 もう隣にいた彼女はもういない。もちろん、それは知っているはずなのにどうして見たのかと自分を心の中で罵倒した。

 まぁ、それもどうでもいい。彼女がいようがいなかろうが、どうだっていい。彼女はあの頃の何もなかった日々を色付けるための緊急用の絵の具に過ぎない。自分が欲していることを紛らわすための遊び相手。

 

「……って、何考えてんだ、俺」

 

 邪な考えだ。ふと我に帰るように自分自身を戒める。

 なんか変な思考をしてしまう。鈴鹿のことであったりと、どうにも変な気持ちがしてしまう。

 どうしてなのだろうか。この疼きは何なのだろうか。

 息苦しい。俺は大きく息を吸って吐いた。

 胸につっかえるような何か。手のひらを開いては握り、きっとそこにあるはずのものが何だか分からないのが不快感を抱かせる。

 

 俺は立ち上がった。セイバーはすべての遊具を手当たり次第に体験してどうやらお気に召した様子。しかし、ここに居座るだけなのは価値がない。彼女は俺を見ると、また違う場所へ行こうと言った。

 それは面倒くさいが、彼女にとやかく言うとガミガミと悪態をつかれそうだった。なのでしょうがなく、ここから近い目的地を決める。

 

「次か、どこ行こうか」

 

 そう呟いて、俺は彼女に声をかけようとした。

 

「なぁ、次さ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ヨウ?」

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