Fate/eternal rising[girl or king]   作:Gヘッド

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13話 カラオケ店にて

「ねぇ、ちょっと、流石にこの展開はないと思うんだけど……」

「良いでしょ!これも有利に進めるため!」

 

 二人は俺の目の前でこそこそと内輪話をしていた。が、しかし、内輪話ってちゃんとやらないと聞こえるものである。

 

「あの〜、お二人さん?そろそろ話を戻してくれませんかね?」

 

 俺が二人にそう呼びかけると、二人は揃って俺の方を向いた。

 

「ああ、ゴメンね、ヨウくん。君がいたこと忘れてた」

「おい、お前、結構テキトーに返事してない?」

「そんなことないよ、そんなことない」

 

 彼はそう言ってまた彼女の方を向いて内緒話をする。どうやら俺と協力関係を結ぶことについて二人の意見が食い違っているようである。

 

 俺たちは市の中心部へと移動していた。俺たちは二人して学校をサボっており、互いの親が家にいるであろうためどちらかの家へとお邪魔して話し合うなどできないのだ。なので、手っ取り早く、近くのファミレスで話そうと俺が提案した。しかし、魔術の神秘がどうだこうだと相手方が批判してきたため、個室のカラオケに来るという羽目になった。

 で、そうそうカラオケに来て、何を歌おうかという話をする手前段階でこの状況である。

 

「……あの、二人が歌わないなら、俺が先に歌うけど……」

 

 そう言うと、雪方の鋭い眼光が飛んでくる。

 

「そういう目的で来たわけじゃないから」

 

 ひぇ〜、怖。鋭い眼光に睨まれたので肝が冷えた。雪方の目って、メガネ越しだからなのかもしれないけど、ほんと怖いよね。うん、身を以て体験したことあるからよく分かる。

 

「ってかおかしくないか⁉︎カラオケ来たんだぞ!数百円払って!歌おう!」

「いや、そういう目的で来たわけじゃないから。本末転倒はいけない」

「正論を言いおって……」

「いや、そもそも私たち二人とも歌下手じゃない」

「……そうだったか?」

「……忘れたの?」

 

 俺は首を縦に振る。すると、彼女は「あっそ」と呆れ果てたような風に言い捨てた。

 

「……とりあえず、話戻すけど、私たちと協力しない?」

 

 彼女が俺に本題の話をふっかけてきた。しかし、やはり隣にいる彼はその行動に難色を示す。

 

「ええ〜。でも、それさ、やっぱり止めておいたほうがいいんじゃないかな。ほら、だって、彼の言ってること曖昧で信用できないし、そもそも令呪がなくなったわけもわからない。そりゃ、確かに協力関係はいいけれど、彼に関してまだ分からないことだらけだし……」

 

 ライダーは俺という存在が危険ではなさそうだと判断はしているようだが、協力関係を結ぶことに関しては反対らしい。

 しかし、彼女の意思は変わらないようである。なので、彼は何度言っても無駄だと理解し、これ以上の進言は無粋だと判断したのか、そっと霊体化をしてそこから消え去った。

 俺は手元にある透明な安っぽいコップを手にし、小さなストローを口にくわえてなみなみに入った烏龍茶を飲んだ。彼女も俺と同じように飲み物を飲む。そして、彼女は氷の透き通った涼しげな音を出しながらそのコップを台の上に置いた。

 

「確かにヨウは以前から知ってるけど、この聖杯戦争に関わっている以上、もしも、実はみたいな展開になり得るかもしれない。実際ヨウは今の自分のことをあんまりよく分からないって言ってる以上、信用だってするのは難しい。でも、これは聖杯戦争。魔術師とか英雄とか、そういう戦物語でもあるけれど、人と人の殺し合いでもある。私たちはそんな戦いの中で勝ち残りたい。だから、それがたとえ裏切りの可能性を孕んでいたとしても、私たちは何かに縋らなくちゃいけない。猫の手も借りたいくらい。本当に、私は聖杯でやり遂げないといけないことがあるから」

 

 彼女は自分の足元を見ながら力強くそう俺に伝えた。それが一種の脅迫のようなものでもあると思いながらも、そもそも彼女が聖杯戦争にかけるこの思いの強さを俺に教えてくれたことは素直に嬉しく感じた。

 

「……分かった」

 

 断る。そうした行動をしても良かっただろう。多分雪方はそうされても怒らない。そういう時の巡り合わせなのだと、それで納得する。そもそも俺自身が今令呪という聖杯戦争の参加券を失い、自身がどの立場にいるのか分からない状況で、彼女の誘いを断っても良かったはずだ。聖杯戦争にはなるべく関わらない、今がその好機であることは十分分かっていた。

 でも、彼女を見て、彼女に協力するならいいかと思ってしまった。彼女がここまで何かに力を注いでいるのを見て、彼女の変化を感じ取って少し寂しくなったのと同時に、その彼女の願いを叶えさせてあげたいと思った。自分には特に叶えたい願いなどないが、彼女には明確に、切実に願うことがある。その事実を理解したからこそ、俺は断らなかった。

 彼女は俺の返事に「ありがとう」とだけ言った。笑わなかった。ただ、少しだけ視線を俺に向けて口元を緩ませた。それは俺の知ってる彼女の、彼女なりの笑顔だった。

 

「……でも、いいのか?なんか令呪消えたんだけど」

「うん。それは何でなんだろう。確かにマスターと協力関係を結べるならそれはいいことだけど、やっぱりサーヴァントとも協力したい。……けど、令呪が消えたってことは割と結構な案件よね」

 

 確かに曲芸程度にしか魔術を使えない俺でも仲間に入ることは嬉しいのだろうが、本命はやはりサーヴァントだろう。しかし、その本命とのパイプのはずの令呪がないとなれば、それは由々しき事態である。

 

 彼女は腕を組んでいる。そんな彼女の隣にまたライダーが現れた。

 

「令呪が消えた。なら、考えられる可能性は二つかな。一つはセイバーが誰かにやられたという可能性。これはボクたちが彼を拉致しているときに退場したということ。もう一つはセイバーが彼との関係を切って別のマスターに乗り換えたということ。この二つぐらいかな。令呪が消えたって可能性は」

 

 彼は雪方に説明をした後、俺の方を向き手を差しだした。

 

「……え?」

「ん?握手だよ、握手。ほら、この時代は握手が顔合わせでの礼儀なんでしょ?」

「え、ああ、うん」

 

 俺は彼と手を握り交わす。彼は笑顔で、特に俺を邪険に扱うような素振りも見せなかった。

 

「……なぁ、お前らさ、俺が嘘ついてるとか思わないのか?ほら、令呪実は俺が消したとか、実はここまでのは演技なんじゃないかとか」

「……まぁ、確かにそうかも。でも、ヨウはこういう場面では嘘、あんまりつかないから。それに……、まぁ、根は優しい……から。だから、こうして言ってくる」

「ボクはボクのマスターが信じるって言ってるし、それならもう信じるしかないかな」

「……はぁ、まぁ、それでいいならいいけど」

 

 それでいいのだろうか。雪方に対して盲目的になっているわけではないようだが、疑わないというのはそれは危ないことだと思う。まぁ、無論俺は嘘などついていないし、この場合は全然大丈夫なはずだが、タチの悪い場合はそれではいけないだろう。まぁ、こういう輩は「大丈夫、本番になったら本気出せるから」とか言っちゃうタイプなんだろうけど。

 

「とりあえず、セイバーとのパイプが消えたってことはボクたちからしてみても大問題だ。そうだね、まずさっき言った前者のことだけど、これは今確かめようもない。そもそも、今彼女がどこにいるのか分からないからね。じゃあ、後者についてだけど、これはどうかな?思い当たるフシはある?」

「……分からん。いや、あり得ないわけじゃねぇよ。あいつはなんか、結構叶えたい夢をがあるっぽかったから。ほら、拉致されたから、俺に愛想尽かした可能性はある。でも、どうだろうな。あいつはまだ俺以外のマスターは知らないから、そもそも誰と接触すればいいのか分からないだろうし、接触したならしたで、マスターのいないあいつは殺られると思う」

「……じゃあ、彼女は相手のマスターに接触したにせよそうでないにせよ、殺されたってこと?」

「そういうわけじゃねぇけど……、まぁ、そうなんかなぁ」

 

 セイバーは裏切るなんてしない。そういった変な根も葉もない根拠が俺のどこかにあった。しかし、その根拠を肯定すると、どうやら彼女は死んでしまうらしい。それはそれでどこか嫌な感じがした。

 彼女には叶えたい夢があったはずだ。その夢があって、彼女はこの地に舞い降りたはず。そんな彼女が死んだという考えは胸糞悪いとしか思えない。

 裏切ってはない。でも、死んでもいない。現実がどちらを取れども多分俺は傷つく。少しその事実だけは知りたくないと思ってしまった。

 雪方は俺のその話を聞いていて一つ疑問が浮かんだ。

 

「……でも妙。だって、サーヴァントが一人倒されたなら監督から連絡が来るのだと思っていたけど」

「監督?おい、お前、監督役の人知ってんのか?」

「当然でしょ。聖杯戦争に参加したなら監督役に連絡するのがルールらしいし」

 

 なんということだろう。俺が知りたがっていた監督役の情報を彼女は知っているというのだ。

 俺は彼女にその監督役のことを教えろアピールを視線で彼女に送る。彼女は「え〜」とめんどくさそうに思いながらも一応説明してくれた。

 

「ヨウは私の出自、知ってるよね?まぁ、その関係であの教会に行ってたときに、たまたま古文書を発見したの。それを読み解いて、聖杯戦争ってことを知って、その古文書、あ、いや魔道書通りに儀式をやったらライダーを召還できたの。で、その時は監督役なんて知らなかったけど、彼を召還してから少しして電話がかかってきて、その監督役って人から参戦を受理したって連絡が来た」

「へぇ、それだけ?」

「……まぁ、それだけだけど?それがどうかしたの?」

「え?ああ、いや……」

 

 いや、もう少し詳しい情報を知っているかと思っていたのだが、残念ながらそこまで情報は持っていなかったっぽい。まぁ、確かに彼女に協力すると言っておきながら、この聖杯戦争から降りようとするのはタチの悪いことではあるが。

 しかし、そうか、監督役なる人物はいるのか。セイバーが知らなかったから、監督役が本当にいるのかわからなかったが、雪方が言うのならばその人物はいるのだろう。

 

「なぁ、その監督役ってどんな人だった?」

「え?ああ、男の人だった。男の人で、ちょっとだけ片言だった。海外の人かな?そう感じた」

 

 海外の人か。まぁ、何でも願いを叶えられる聖杯が絡んでいるのだ。全然この舞台の事情は知らないが、ありえない話ではなさそうだ。

 俺が監督役のことを知りたがっている。それを感じ取った彼女は気を利かせてくれた。

 

「監督役に電話、かけてみる?」

「え?そんなことできるの?」

「うん。電話かけてきたときの番号をメモしてあるから大丈夫だよ」

 

 彼女はそう言うと自分の携帯の画面を指でポチポチと押し、その後俺にその携帯を渡した。俺は彼女の携帯を耳に押し当てる。

 が、しかし、その携帯から流れる音声は俺の期待通りの結果を示さなかった。

 

「……繋がらねぇ」

「え、嘘っ⁉︎」

 

 彼女は俺の手から自分の携帯を取ると、もう一度画面をポチポチと押してから顔の横にぺたりとつける。

 

「あ、ほんとだ繋がらない」

「え?繋がらないの?あれ、でもボクを召還したときは繋がったよね?」

「そうだけど……。もしかしたら、相手の方から一方的に電話するのはいいけど、私たちからはできないような設定なのかな?」

 

 彼女は首を傾げて悩む。俺はそんな彼女にそこまで本気でやらなくてもいいと伝えた。

 

「いや、ほら、俺が何となく知りたかっただけだし」

「あ、そう?」

 

 彼女は自分のポケットに携帯を入れた。それから彼女は立ち上がり、部屋のドアノブに手をかけた。

 

「じゃあ、行こう」

「え?どこ行くの?」

「どこって……、セイバーを探しに行くんだよ。ほら、この協力するって話は私たちだけで交わされた話だし、セイバーは聞いてないでしょ?だから、彼女にも話しておかないと」

「でも、令呪ないぜ、俺」

「……それは、確かにそう。ちょっとそこは私たちにも分からない。だから、その真相も探しに行かないと。私はセイバーは死んでないと思うし、ヨウは裏切ってないって思ってる。どっちが本当か分からないし、もしかしたら第三の状況になっているかもしれないけど、それでも彼女にこの協力の話はしておいたほうがいいと思うの。だってその方が彼女のためじゃない?」

 

 彼女のその話ぶりに俺は一抹の不安を抱いた。今の彼女の発言、実に聖杯戦争には不似合いな発言だなと感じた。

 アーチャーと対峙したあの瞬間の光景が今でも俺の中で蠢いているのだ。その場にはどちらかが死に、もう一方が生きるという何でもありの弱肉強食の世界が垣間見えた。

 だが、今の彼女の発言。それは弱肉強食の世界においてはあまりに甘いように感じたのは俺だけだろうか。セイバーは言っていた。聖杯戦争で勝ち残る陣営は一つだけだと。

 みんなが大勝利なんてそんなことは絶対起きない。そういったシビアな戦い。そこでこの発言は不適切と言っても過言ではない。

 そして、俺の心の中でその彼女の甘さに対して、違う、とそう叫んでいた。

 

 彼女はトイレに行くから先に外に出ていてと言うと、部屋から出た。俺は彼女の言葉から覚えた違和感、そこからさらに生まれる謎の疼きに少し気持ちを整理させていたら、隣にライダーがやってきた。

 

「ボクのマスター、面白いよね」

「え?」

「君も感じたでしょ?彼女のあの言葉。セイバーのためじゃない、だって。よくそんなこと言えるよね。聖杯戦争、勝ち残った勝者のみが望みを叶えられる。そんな戦いにおいて、相手であるはずのセイバーのことを気づかってるんだよ?あんな発言、彼女じゃなきゃできないよ」

「それは、サーヴァントであるセイバーと協力関係を築けて、自分が勝ち残れる可能性が高くなるからじゃないのか?」

「本当にそう思う?いや、違うさ。彼女は本気であの言葉を言ってるよ。勝ち残るとかそういうこと考える前に、相手のことを彼女は考えちゃうのさ。彼女はああいった人間なんだろうね。聖杯戦争にはスゴく不適合だけど」

「……なぁ、お前はこんなんでいいのか?」

「こんなの?どんなの?」

「ほら、そんな雪方のサーヴァントでいいのかって。ほら、だって、お前だって叶えたい望みあるんだろ?」

 

 彼は首を横に振った。

 

「え?無いの?」

「まぁね。望みはないよ。望みはないし、欲望もない。だから、ただボクを欲した彼女の手助けをするのみ。裏切ることはしないさ。まぁ、強いて言うなら、美しい欲望の手助けをしたい、ってことぐらいかな」

「美しい欲望?」

「そう、美しい欲望。見る人が、ああ、この欲望は紛うことなき善から生まれた欲望だって感じる。その欲望の成就はあの方がお喜びになるからね」

「あの方?誰だよ」

「えー、それは秘密。ほら、それより、早く行かないと撫子怒るよ!」

 

 彼は俺を早く部屋から出るよう急かした。俺は老人のように重い腰をゆっくりと上げて立ち上がる。彼はそんな俺の背中を店の外まで軽く押した。

 店の外に出て、少し経ったら雪方も出てきた。彼女は水色のマフラーを首に巻き、両手を擦る。

 

「寒い」

「しょうがねぇだろ。冬だし」

「冬、あんまり好きじゃない」

「はいはい、そうですか」

 

 彼女が冬の寒さに肩を縮ませていた。なので、自分の上着のポケットに入っていた手袋を彼女に渡す。彼女は渡された手袋を一旦じっと見て、それから手に嵌めた。

 

「……大きい」

 

 愚痴の多い女である。どうして彼女はこんな風になってしまったのか。前はもっと静かだったのだが。

 俺がため息を吐くと、彼女はじろりと睨む。俺が少したじろぐと、今度は彼女の方がため息を吐いた。

 

「とりあえずセイバーを探しに行きましょう。きっといるとしたらヨウの家でしょうね」

「どうしてそう言えるんだ?」

「だって、公園じゃ敵に見つかる可能性があるじゃない。なら、家に戻った方がまだマシじゃないの?」

 

 彼女の言うことはもっともだ。俺が今日の夜誘拐されたあの公園に彼女がずっと居続けることはリスクが高い。それならば、家に帰ったほうがいくらかマシだろう。

 しかし、彼女がそうしていない可能性ももちろんあり得る。なので、とりあえず一番可能性としてあり得るだろうという公園と俺の家に行くことになった。

 

「それじゃあ、行きましょう」

 


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