Fate/eternal rising[girl or king]   作:Gヘッド

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15話 その扉をブチ壊せっ‼︎

 夜の街。魔術の結界が市全体に張られているため、そう簡単に人影を見ることはできず、異様な光景を見ることができる。道路へ出ても車は動かず、大通りへ出ても足音すら聞こえない。冬の風だけがそこを通り、静けさは緊張と恐怖を与えてくる。

 

 しかし、その無人の街に黄色の一声が響いた。

 

「うっは〜!やっぱ、外の方が気持ちい〜!そうでしょ、ソージ?」

「いや、でも夜は敵がいるかもしれないし。ほら、家の中の方が安全だから……」

「だぁ〜、そんなメンドくさいこと言って!イイじゃん、大丈夫大丈夫、ほら、先っぽだけだから」

「先っぽ?」

「あ〜、はいはい、さすがソージ。天然無垢ピュアなのは私の目に狂いなし」

「えええっ?何のことかさっぱり分からない……」

「ああ、いいのいいの、そういう細かいこと気にしない気にしないことです。ソージはそのままタンパク質のことだけ考えてればイイから!ほら、それより、あそこへ行きましょう!」

 

 自由奔放で全く行動の読めないキャスターと振り回されるそのマスター。その二人が織丘の夜の街を歩いていた。

 しかし、この夜は戦の夜。聖杯戦争が行われている。街に出ることは他の陣営と出会す可能性を大きく上げることであり、戦闘が起こるなんてこともあり得る。

 創慈はキャスターの英霊としての強さは認めても、やはりその幼い姿から戦闘に巻き込むことに躊躇している。キャスターを聖杯戦争に巻き込ませてしまうのなら、もういっそ聖杯を諦めようかと考えているほどだ。彼にとって聖杯はそこまでの物だったというだけで、彼はその聖杯よりもキャスターの命を大事にしている。だから、夜の街に出ることは嫌だったのだが。

 30分程前、急に外出したいとキャスターが駄々をこねだした。創慈はダメだと止めたのだが、その制止に激しく抵抗するので彼は仕方なく許してしまったのだ。もちろん、何の前触れもなく突然騒ぎ出したりするなど奇行をするのは彼女らしいといえば彼女らしいのだが、それでもそのような突然の行動はマスターである創慈の今後の活動にも影響が出る。

 思い立ったが吉日のように行動的な彼女に振り回されるのは少しだけ辛いものがある。ハプニングと一緒だ。いきなり降りかかる災難、彼女の要望を断れば泣き喚いて何をするか分からない。彼はとんでもないサーヴァントを引いてしまったと日に日に感じていた。

 彼は眠そうに目頭を押さえながら早歩きで進んで行く彼女の後ろをついていく。所々でため息を吐いて振り回される辛さを言葉にしないまでも醸し出していた。しかし、そんな彼を他所にキャスターは楽しそうにスキップしている。

 

「ソ〜ジとお散歩、ソ〜ジとお散歩♪楽し〜い楽し〜い楽しいなッ♪」

「あはは……、楽しいね」

「でしょ⁉︎私も楽しい!ソージとお散歩、もう最高!ルンルンルルンっ!」

 

 鼻歌を歌いながら目的地へ向かう。彼はそんな彼女のご機嫌が良好なようで何よりと感じる。もちろんそれで疲れが消え去るわけがないのだが。どっとした疲れは彼の中にもちろん蓄積している。

 それから少し歩いて彼女は立ち止まった。彼女は目的の場所を背にして立ちながら指をさして彼に教えた。

 

「じゃじゃじゃ〜ん!こっこに来たかったのでぇーす!」

 

 彼女はニヤニヤドヤドヤとした顔で、どうだ凄いだろと言わんばかりに胸を張っている。そのあまりにも清々しいほどの顔に彼は少し面白くてにやけてしまったが、すぐに彼女が指差している物に対して尋ねた。

 

「いや、その、それは何?」

「何って?この名前のこと?」

「え、あ、うん、そう。だって、行きたいところあるからって言ったから、てっきりコンビニとか高い建物とかゲームセンターかと思ったけど、あまりにも予想外だったから。いや、予想外って言うより……」

 

 それもそのはずである。彼はその建物を目の前にして疑問を抱くのも当然のことである。

 なぜなら、彼女が連れて来た場所。そこは……

 

「貯留槽の入り口でぇーす‼︎知ってる?知ってるでしょ?」

 

 彼女は下から、オイおめぇ知らなかっただろ、凄いだろ、ん、なんか言ってみな、ほれほれと顔で語り出す。そんな彼女が物凄い顔をしてまで自分に自惚れているので、彼はそっと、あっ、私知りませんでした〜、感を演じてでも頑張って出した。

 

「す、すごーい!キャスター、何でも知ってるんだねー」

「キャスターじゃなくてひーちゃん!」

「ひーちゃんすごーい!」

「ふっふふ〜ん!わったしスゥッゴォォ〜い‼︎」

 

 彼女は彼に持て囃されるとさらに有頂天になり、高笑いをし始めた。

 ちなみにそんな彼は通学のときに使う駅への道のりにその場所があるので、バリバリ知っている。

 彼の優しさがこの聖杯戦争期間中で最も表れた瞬間である。

 

「で、どうしてこんなところに来たの?」

「え?あ、それ?ん〜、まぁ、今は教えなくてもいいかな」

「え?そんなのアリ?」

「もちろん!まぁ、とりあえず中入りましょー」

 

 彼女は腕を高く上げて建物の中へ入ろうと扉に手をかけた。

 

 が

 

「うわ〜ん!開かない〜!」

 

 まぁ、それも当然である。貯留槽、行政の建物である。そう易々と扉が開いてようものなら、それこそ問題である。普通、扉があったら鍵は閉まっているものである。

 

「あれ?鍵はないの?」

「え?私が鍵を持ってると思います?」

「あ〜、そうだよね。そんな鍵を持ってないよね。まぁ

 無計画でもしょうがないよ」

「ムキー!無計画じゃないもん!」

「あ、そう?じゃあ、どうするの?」

 

 彼女は今度はムキになった顔をする。まるでフグが膨れたみたいである。丸っこい顔には不似合いな鋭い目つきで彼を見て、さらにその視線に沿うように人差し指を立てた。

 

「ソージがやってください!そう、ソージがこの扉を開ける役目なんですっ!」

「え?僕がこれを開けるの?」

「はいはい、そうです!ほら、さぁ!」

「……え、どうやって?」

「何言ってるの⁉︎ソージにはもう鍵はある!」

 

 彼女はそう言うと細い腕で力こぶを作ってみせた。いや、頑張って作ろうとしたのだが、残念ながらそれを誤魔化すほどの筋肉さえもないので、プニプニとした肌が見えるだけだった。

 

「ああ、とりあえず、そういうことね……。うん、何となく分かったよ」

 

 彼は深くため息を吐いた。

 

「はぁ、公共物なんだけどなぁ。壊すとかそれはいいけどさぁ、できるけど、倫理的にだめでしょ。ほら、監視カメラとかもあるし」

「え?監視カメラ?ああ、あんなんチョチョイのチョイですよ!」

 

 彼女は扉を映す監視カメラに向かって両手の手のひらを向けた。そして、少し大げさに息を吸い吐いた。

 

「コァ〜、ハッ‼︎」

 

 胡散臭い気功のようである。そんな訳のわからない行動に隣にいる彼も眉を顰めた。

 

「え?何をしたの?何にも起きてないけど」

「起きてるんです〜!起こしてるんです〜!もう、目に見えない魔術なんですぅ〜!」

 

 彼女はそう強く言うので、彼は半信半疑ではあるがとりあえずそういうことにしておいた。

 とりあえずカメラを何とかしたようなので、中に入ることとなった。彼女を少し扉から離れさせ、彼は扉の前に立った。

 少し強く押してみる。しかし、ビクともしない。頑丈に作られているようである。いや、もちろん、行政のものなのでそれが普通ではあるが。ちょっと押しただけで壊れるような飴細工の扉などあり得るわけがない。

 やはりこれは無理にでもこじ開けるしかないようである。彼は扉を前にして数歩後ろへ下がり、上着を脱ぎながらその場で軽くジャンプした。体の力を少し抜いて息を整える。

 足を止めた。目を開く。そして、前傾姿勢で右半身を左の脇へと丸め込むようにしながら彼は扉に向かって勢いよく走り出した。

 扉に彼の身体が当たる二歩前、彼はぐっと足に力を入れた。その時、彼の身体から一瞬にして白い煙が漏れ出した。湯気である。湯気がいきなり高熱化した彼の身体から冬の外気に当てられて現れたのだ。たった一歩、その一歩で彼の身体は、筋肉は奮い立ったのである。

 扉に当たるあと一歩。彼は自身の足に負荷をかけた。どっとその一瞬で彼の身体から汗が噴き出す。まるで綿の白衣を身に纏っているかのよう。

 そして彼は非常に強い勢いでぶつかった。すると、彼の衝撃に扉は負けて、ぶつかった所が凹んでそのまま彼の体に張り付くように扉がもげた。

 

「うぅ、いてててて……」

 

 扉と一緒に建物の方へと飛んで行った創慈はぶつかった右肩を手でさすりながら立ち上がった。

 彼の思いもよらない力強い一面を見た彼女は両腕を天に掲げながら飛び跳ねている。

 

「すごーい!ソージすごーい!そこまで期待してなかったけど、なんかすごーい!」

「ええっ?期待してなかったのって⁉︎」

「うん。無理だよ〜って言うと思ったから、その後にしょうがないな〜って開けてあげるつもりだったんだけど。なんか、自力で開けられるのかって。意外〜」

「……まさか、僕の力を試したの?」

「そんなことないよ〜、信じてた信じてた、すっごい信じてた!」

 

 大きく身振り手振りして弁明している彼女だが、嘘八百並べているようにしか見えない。彼はそんな彼女に少しモヤっとした感情を抱いたが、そこはキャスターとしての本質なのだろうと思うことにした。

 

「……まぁ、僕なんかは振り回されるよね」

 

 ぼそっとそう独り言を呟く。そもそも、自分でキャスターを召還したいと考えたのだから、そうなることくらい元々分かっていた。見た目は見るからに子供だが、やはり内面は人類史に名を残すような魔術師。試されるぐらいはされてもおかしくない。

 

「汗が……」

 

 身体から大量に噴き出た汗。汗を拭たいのだが、その拭うハンカチなど持っていなかったので彼は仕方なく服の胸のあたりを摘んで風を腹部に送る。

 

 すると

 

「はい、タオル」

 

 いつの間に持って来ていたのか、自然とタオルを彼に出す。彼はその行動に少し戸惑ったが、そのタオルで汗を拭った。

 

「よし、じゃあ下へ行こう!」

 

 扉を破壊して、その少し奥にはコンクリートで作られた階段が地下へと続いていた。彼はその階段の下へ行くことに少し躊躇したが、彼女が彼の背中をグイグイ押すし、そもそも扉をもう破壊してしまったので、残念ながら戻るという選択肢がなかった。彼は大きく罪悪感と絶望が入り混じる溜息を吐きながら「はい」とだけ伝えた。

 

 彼女を先頭に彼らは不法に地下への階段を下りて行く。彼は胃がキリキリと痛む音が聞こえ、腹を腕で覆うようにして抱えていた。

 

「はぁ、犯罪者への第一歩だ」

「大丈夫大丈夫!カメラは止めておいたから、なんかあっても問題ない!」

「本当に?見た目何にもなかったけど?」

「あれはそういう魔術だから。大丈夫大丈夫」

「はぁ〜、不安だ」

「ねぇねぇ、それよりさ、さっきの魔術?あの身体からぶわぁ〜って湯気が出たやつ」

「え?ああ、あれね……、うん、まぁ、そうだね、魔術……みたいなものだね」

 

 彼はそう答えると少し暗い顔をした。しかし、前を向いている彼女にその顔は見えない。

 

「え?でも魔術でしょ?」

「いや、まぁ、そうなんだけどね。強化の魔術だよ。君たち魔術師なら誰にでもできるあの強化の魔術」

「ん?強化の魔術?本当に?」

 

 創慈がそう説明すると、彼女はその説明がどうも腑に落ちないようで食いついて来た。

 

「だって痛そうだったよ、なんか身体がミシミシ〜って!強化の魔術ってそこまでならないと思うなぁ〜。ほら、強化の魔術なら痛くもないだろうし」

「え?そうなの?ごめん、僕、魔術師じゃないから詳しいことは分からないや。どうなんだろ、独学だからさ、これが強化の魔術かなぁ〜って思ってるだけだから」

「独学なの?誰かに教えてもらってないの?」

「ないないない。ないよ、そんなこと。だって……、あ、やっぱり何でもない」

 

 彼は言い出そうとした言葉を口の中に押し込める。どこまでも下に続いている暗い階段をずっと下りているからか、振動がその口の中の言葉を吐き出させようとしていた。でも、彼はその言葉を飲み込んでなかったことにした。

 しかし、彼女はそんな彼の気を知っているのか知らないのか、呑気に彼のことを話す。

 

「でも痛そうだった〜。あれは魔術回路が暴走?いや、なんかもっと危ない感じになってるような……」

「それがどうなのかは分からないけど、まぁ、確かに痛いよ。でも、慣れたから」

「あ〜、痛みに慣れちゃったのか〜。そうかそうか〜。それは分かりますね。私も痛いの慣れちゃうと、もうなんかどうでもいいんですよね。蚊に刺されたみたいな痛みになりますよね。はいはい、分かるぅ〜」

「ええぇ?そうなの?」

「はいはい、そうなんですよー!まぁ、もちろん痛いときは痛いですよ。でも、痛いときでも、目標とか生きがいみたいなものを心の中に持っておけば楽になるってもんですよ!」

「じゃあ、もしかして、キャス……ひーちゃんが聖杯に望むことはそのこと?」

「そうとも言うー‼︎」

「え、なにそれ。教えてよ」

 

 彼がそう言って彼女の聖杯への望みを訊き出そうとした。が、彼女はくるりと彼の方を向いて、ニコッとした笑顔でこう答えたのだ。

 

「秘ッ密〜!」

 

 彼女の楽しそうな声がいつまでも続く階段で響き渡る。彼女はその木霊に反応して子供のように叫んで興奮気味に飛び跳ねながら下へと降りていった。

 彼はそんな彼女の後ろ姿を見て少しだけ笑顔になった。

 

「はぐらかされたよ。まぁ、楽しそうだからこれでいいか」

 

 いつの間にか肩の痛みは消えていた。いや、じわりと仄かに滲むような痛みはあるが、大したことではない。

 

「これぐらいの痛み、慣れてるさ」

 

 我慢できる、これぐらいは。

 

 彼女の笑顔がこの程度の痛みで見れるのなら、それはお安い御用である。

 

 彼にとってあの笑みは誰も傷つかない、そんな素敵な笑顔となっていた。

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