Fate/eternal rising[girl or king] 作:Gヘッド
魔術、その
人には個々に皆が魔力という名の生命力を持っている。魔力とは言わば万物の源になり得る優れた素材である。その魔力を変化させることで火になる、水になる、雷にもなる。それだけではない。力や存在とった形を持たぬ概念にもなるのだ。それが魔力である。
しかし、魔術師の素質のない一般人にはその魔力なるものは僅かしか持ち合わせておらず、滴り落ちる雫ほどでしかない。小さな魔力では何も起こせない。それに対し、魔術師という者達はその魔力の量が一般人と比べて多いのが特徴としてあげられる。それは生まれながらの素質にせよ、日々の鍛錬により積み上げられたものにせよ、常人の魔力保有量を遥かに超える量を持っている。
そして、魔術師はその魔力を魔術回路に流し込み、魔力を変容させる。つまり、魔術とは魔力と呼ばれる何にでもなる可能性を別の何かへ変える行為。これが魔術なのである。
ただ、魔術とは魔力という可能性の塊のようなエネルギーを使うため、イレギュラーが非常に多く発生する。それは例え人類史に名を刻むほどの英霊だとしても見たことないなんてザラにある。百人の魔術師がいれば百の魔術があるのだから。
「面白い魔術をソージは使いますね〜。あれ、どうやるんですか?」
長い長い階段をひたすら下りながら、彼女はそう尋ねた。
「あれはなんか、こう、胸のあたりからわぁ〜っと血みたいなのが滲み出る感じがして、それが全身に行き渡って、そしたらなんか強くなるんだよ。って言っても分かりづらいか」
「まぁ、そんなもんですよね。魔術なんて所詮そんなもんですからね〜」
彼女はそう言うと少しだけ暗い声でこう忠告した。
「でもなぁ〜あの魔術、もう使わないでくださいね。あれは、あんまりそう易々と使うものじゃなさそうだから……」
その時の声だけ、すごく冷たかった。ただ、彼に痛い思いをさせるようなものではなく、本気で気をつかっているような忠告だった。
彼はその進言に笑いながら「分かってるよ」とだけ答えた。
それからまた長いこと階段を下りていたら、やっと最下層に着いた。彼女は最後の階段を下りると、「わーい」と大声で叫ぶ。その声は奥の方まで響いて、そして消えていった。
最下層は真っ暗で目の前が何も見えなかった。特に下に何か落ちているというわけではなさそうだが、ライトで照らしていないと恐怖で前へ一歩も進めないような場所だった。
「……ここが貯留槽?なんか、すごい暗いね……」
実はあんまりこういう所得意じゃない系の人、創慈。結構ビビってる。
「え?なんでこんな所に来たの?え?肝試しにでもしに来たの?」
「ん〜?違うよ〜。あ、あそこだ」
彼女は辺りをキョロキョロ見回してから、目的の何かを見つけると一目散に走り出した。
「ってええっ⁉︎ちょ、ちょっと待ってよ!置いてかないで!」
そんな彼女を全力で追いかける。すると、その途中あることに気付いた。
「……ん?ピカピカしてる?」
スマホのライトで彼女を照らしているのだが、彼女が向かう先に何やら光るものがあるようだ。彼女はそんな光るものに向かって大きく手を振りながら近づいて行く。
「お〜い、ハロハロ〜!お待たせ〜!」
薄っすらと創慈の目に映る二人の人影。その二人の周囲だけ少し明るく感じる。屈託のない良い笑顔で手を振る彼女の先には果たして誰がいるのか……。
「あれ?誰の声ですかな?」
そのうちの一人が創慈たちの方を振り向いた。白髪混じりの長い髪、長い髭の細く痩せこけた初老の男性である。よく見るとその男性は黄金色に輝く鎧のような物を身につけていた。
「え、誰?」
創慈はその男の人の認識がない。金の鎧を着用している男なんてヤバいやつなのは確定であるため、そんな奴がどうしてここにいるのかと困惑してしまい、一瞬足が石のように固まってしまった。
しかし、創慈の目の前を走るキャスターはその男に向かって駆け足で近づいてゆく。その状況を見て、創慈はさらに事態がよく分からなくなり狼狽えた。
そんな創慈なんて知ったこっちゃないキャスターは先に貯水槽に来ていた二人の所に行くと、駆け足で疲れたのか、くたくたになりながらもう一人の人の肩に手を置いてこう話す。
「いや、二人がいると思って頑張って来たんだよ〜。いやぁ〜、頑張った頑張った。自分に賞賛、自画自賛!はぁ〜、思ったより疲れた〜。もう絶対ここ来ない」
たった少しの運動ですぐに息を荒げる彼女は金ピカに光ってない方の男の肩に体重を結構かけながら息を整える。汗を右手で拭い、その右手についた汗をその男の袖にべちょりとつけた。
するとその男の人は「触るな」と言い、ため息をついた。
「やれやれ、呼んだつもりはなかったんじゃが……」
そして彼は創慈の方を向いた。その時創慈はその男の姿を目にいれた。その男は老人であった。どこにでもいそうなシワだらけの老人である。
「それにマスターまで勝手に連れてきおって。しかも何にも知らない数合わせ要員か。私の存在は知られたくはなかったんじゃが」
「まぁまぁ、いいじゃんいいじゃん。ね、おじいちゃん」
「誰がおじいちゃんじゃ、たわけ。神だぞ神、敬わんかい」
神、その老人は自分のことをそう言った。もちろん、その言葉は創慈にも聞こえている。
「えっ、神?」
彼はそんな予想外の言葉に目を点にした。半信半疑、いや、5パーセントほど信じ、あとは疑ってはいる。
その姿を老人も見てクスリと笑った。
「まぁ、この姿では信じられんか」
そう言うと、手にしていた木の杖を床にコンと打ちつけた。すると、創慈は突然ゆらゆらと身体を左右に揺らし始めた。足の力が段々となくなっていき、身体の力も抜けていく。うつらうつらと瞼が重くなり、それに少しは抵抗しようとしたものの、地に倒れた。
「あっー!ソ〜ジが倒れタァーーッ!」
「ただ寝かしただけだ。この現場を見られてても邪魔じゃからな」
「そんな!ヒドい!ぶぅ〜っ‼︎この外道めッ!」
「はぁ、とりあえず、寝かしておけ。夜更かしはいかんからな」
「うーっ!」
彼女は神と名乗る男に向かって両手で親指を下に向けながらふざけた顔でブーイングする。すると金ピカの初老の男が彼女の腕を掴んだ。
「こら、やめろ。このお方を誰だと心得る、月の神、ツクヨミ様であられるぞ」
キャスターの犯した無礼に対してイカツイ形相で睨みつけた。しかし、キャスターはそんなことどうしたと言わんばかりに平然と、むしろ少し舐めた態度をとった。
「ふ〜ん、あっそ、……えいっ」
小指で鼻くそをほじり、特に意味もなく金ピカの鎧にその鼻くそを擦りつけた。そんなことされた彼は紅潮し怒鳴った。
「あああああぁぁぁぁぁぁっ!な、何をしているんだ、貴様はッ‼︎余の鎧に鼻くそをつけるな、馬鹿者がッ!」
「まぁまぁ、キャスターの鼻くそですよ。ほら、金銭的価値がきっとありますよ〜」
「あるか、馬鹿か!ふざけるなよ、この魔術師!この鎧は一品モノなんだぞ!」
「ああ、こらこら、儂を置いて喧嘩をしだすな。まったく、勝手に来て、事態をややこしくするな、キャスター」
「てへっ!だってここにいるなぁ〜って分かっちゃたからねっ!」
ツクヨミは気疲れした顔をする。頭をかきながらため息を吐いた。
「あのな、儂らはわざわざバレないようにここで話してた。だから、そこでお主なんかが現れると露呈するかもしれん。そうであろう?」
「……っとかなんとか言っちゃっても、もうどうせ今回も無理なんでしょ?だったら別にバレてもよくない?」
「良くないわ。バレたら儂とて何されるか分からんしな」
「うっわー、出たよ臆病者め。夜なのにまだビビってる?」
「いや、あれにビビらんのはそれはそれでおかしいじゃろ。それに、夜だろうと奴は強いからな」
「いや、ビビる必要なくない?だって、もう結構頭がイッてるから、怖くないでしょ?」
「あ〜、まぁ。じゃが、イッてるから、むしろ怖い」
「あ〜、それは分かる〜。そういう人怖いよね〜」
キャスターとツクヨミの二人の間で話が進んで行く。そんな状況についていけない金ピカは困惑気味で話を聞いていた。
「えっ、ツクヨミ様たちは何の話をされているのですか?」
「ん?ああ、途中で邪魔が入ったからお主にはまだ世界のことまでしか話していなかったな」
「邪魔って何ですか、邪魔ってッ‼︎ぶぅ〜っ!」
「邪魔じゃよ。呼んでもないのに来るな。お前は見てて分かってるのなら来る必要もなかろうに」
「面白いからいーじゃん!」
「はぁ……、無視するか」
「えー!ひどーい!ちょっとそれはひどいよ!ソ〜ジが寝ちゃったからつまらないもん!相手してっ!」
そう言われたツクヨミは誰でも分かるくらいすっごく嫌な顔をする。
「あのな、お前みたいに知っとる奴と違って普通は英霊であろうと知らんのが普通じゃ。だから、それをこの守護者のアーチャーに伝えねばならん」
金ピカの男はドヤ顔をする。キャスターはそんな彼に肉食獣のように歯をむき出して威嚇した。
「どうせ名無しの英霊のくせにっ!」
「あっ、それは割と結構気にしてるんですから、そういうこと言わないでいただけますかなっ⁉︎いや、そもそもこの地で名が無いだけで、有名である、はず……」
そう言いつつも悔しそうな顔を浮かべる彼の顔をニヤニヤと覗き込むキャスター。
「ふっふ〜ん、私は今回のサーヴァントの中じゃイッチバン有名人〜!格が違う、格がッ‼︎あ〜っはっはっはっ!」
「くっ、悔しい〜!何が悔しいって、この顔ですよ、この顔っ!身なりは子供でも、この顔は中々に経験を積んだゲスい顔っ!ツクヨミ様、この不届き者にとりあえず一発やっちゃってください」
「できるか、阿呆。自分で敷いたルールを自分で破るほど儂はまだ落ちぶれとらん。というかキャスター、邪魔しに来たんなら帰れ。儂にはまだやらねばならんことが山ほどある」
ツクヨミはじっとキャスターを見つめる。するとキャスターも根負けしたのか、少し不機嫌になりながら横になり寝ている創慈に近寄った。
「とりあえず、用はありますよ。用はありますけど……、その前にソ〜ジを起こしてくれます?」
「無理」
「カァ〜っ、ケチっ!」
「すまんの、ケチな神様で」
少しだけツクヨミはほくそ笑むような顔をした。
「で、用とは何じゃ?」
ツクヨミはキャスターに尋ねた。キャスターは創慈の横に座り、彼の頬をぷにぷにと押しながら答えた。
「訊きに来たのはヨウくんのことです」
その言葉にツクヨミは少しだけ顔つきが変わった。
「ヨウくんを使ってあなた達は何をしようとしているんですか?」
キャスターらしくない穏やかな、それでいて少し厳かな口調で相手に訊いた。その時の彼女はさっきまでの無邪気な少女の姿とは違って、大人びた雰囲気を装っていた。
その質問にツクヨミは少しだけ静寂を生み出した。考えていたのか、それとも何かを言うのを躊躇っていたのか。彼は何も答えられないその時間の中で一度だけキャスターの方をちらりと見て、そのあと視線を宙に向けた。
「何をしている……か。そうか、こうもなれば聞かれてしまうか。仕方ないな。それは儂ら……いや、儂の落ち度であるか」
ツクヨミは僅かに笑みをこぼす。枯れた笑いだった。
「どこまで見えている?」
「私?え〜、教えませんよ〜。私、信じられる人にしか教えないって決めてますからねっ!」
彼女はバシッとそう告げる。
「まぁ、そういう奴じゃからな。うむ」
「な、なんか独りでに納得しないでよ〜。私はあなたのこと全然知らないし、なんかムカつく〜」
「以前も同じようなことを言っていたな」
「それは過去、ここにいる私じゃありません!一緒にしないで!」
すっかりご立腹になっているキャスターを少しからかっていたツクヨミだが、それからまたすぐに真剣な表情へと戻った。
「今回のヨウは、儂がおらぬ。だから、もしかしたら成功するのやも、というところだな……」
「とか何とか言って、どうせいつもみたいに失敗して次も頑張ろ〜ってことになるんでしょ?」
キャスターの鋭い返しにツクヨミは言葉を詰まらせた。顔には出さなかったが、苦い表情を浮かべていることは誰でも理解できた。
「ホント、神様って勝手ですよね〜。人のことを全然考えてない。まぁ、確かにそうなる理由もわかるけど、それを肯定しちゃいけないと思う。それを肯定して道が開けるとは思えません」
その言葉は少女としての彼女の言葉ではない。人類史に名を残す英霊としての言葉である。
しかし、その言葉を相手は鼻で嗤った。
「それはお主が人であるから言えるのだ。神の苦悩はその目では到底見渡すことなぞ出来ぬよ」
人と神。その溝は深く深く、果てしなく続く。未来永劫そこが埋まることなどありはしない。
それはキャスターも分かってはいた。言っても無駄であるのだろう、そう理解はしていた。
「でも、私は人だから、それを言い続けます。それを許してはいけないと、それに屈してはいけないと、それに惑わされてはいけないと、知っていようが知らなかろうが、常に問い続けなければならない」
彼女は隣で眠っている創慈をちらりと見た。
「そして私は王でもある。人を助け、人を導くのが王たる私の使命です」
小さな少女の小さな背中。その背中はかつて国を担いでいた巌そのものである。
気高くあり続ける孤高の王。普段は隠している衣が少し露呈した。
「……神の絶望はその気高さより幾千も深いものよ」
ツクヨミは小さく呟いた。苦し紛れの言い訳ではない。ただ
老人は杖の先を床に押し付けた。コツンと小さな高い音が彼らがいるコンクリートで作られた空間に響き渡った。
「……ん、あれ?」
すると、キャスターの隣で寝ていた創慈が目を覚ました。目を開いてすぐさま彼は頭を抱えながら立ち上がり辺りを見回す。
「あれ?なんか、寝てた?」
彼のその質問にさっきまで冷たい目をしていたキャスターはふっと柔らかな視線に変えた。
「はい、さっき急に眠り出したんですよ、ソ〜ジ、寝不足ですかぁ〜?」
「え?ああ、そうなのかな。なんか急に眠くなったような気がして……、気がついたら寝てたみたい」
彼は何処かへ急に消えさったさっきまでの眠気に首を傾げた。突然眠くなり、突然寝て、そして起きたことが不思議で不思議で仕方がない。
「うん?う〜ん……」
自分は寝不足であったのか、そうでなければ何故こんなときに寝てしまったのかを深く考える。しかし、その答えが出そうになく、彼は申し訳なさそうにキャスターに謝った。
「その、なんかゴメンね」
「ああ、良いんですよ。別にそんなのは気にしてませ〜ん」
彼女は機嫌よく答えると、創慈の背後に回って手のひらで力強く押した。
「はい、ソージ、もう帰るよ〜!
「えっ?もういいの?なんか用があるんじゃ……?」
寝ていたので当然状況が分からない。しかし、使い魔であるはずの彼女は説明放棄した。
「まぁまぁ、もうそのことは良いんですよ、ハイ、解決済みッ!」
「え?本当に?」
「ええええ、もちろん。実はここへ来たのはこの二人の幸薄そうな顔を拝みに来ただけですから!もう、用は済みました」
彼女にそう言われた老人二人は目つき悪く彼女を睨むが、彼女はその視線を無視した。創慈は彼女にか弱い力ながら精一杯背中を押されていたので、彼女の望み通りに動くことにする。
そして、彼女はもう一度男たちの方を振り向いた。
「ほんっとサイテーっ!ベーッ‼︎」
犬のように大きな赤い舌を出した。彼女なりの最大級の嫌悪の表現である。その表現を見たツクヨミは彼女を鼻で嗤った。
「お主も同じじゃろ」
「ムッキーッ!違うもん、違う違うッ‼︎」
そう言って殴りかかろうとしたのだが、創慈が後ろから彼女の行動を遮った。そのまま彼はひょいっと彼女を持ち上げる。
「あー、はい、ダメだよー」
「なぁ〜っ、離して離してぇ〜ッ‼︎」
彼女はジタバタと懸命にもがくのだが、そう抗ったところで細マッチョの良質な筋肉の前には為す術もない。それを理解した彼女はまるで動力がなくなり静かになった機械のようにピクリとも動かず、ただ不機嫌そうに前を見る。
座った首を少し横に動かす。ここから出ようという合図。創慈は少し微笑みながら「うん」と答えた。
そうして彼らはそこから去って行った。キャスターは終始奇声を発しながら何かを叫んでいたのだが、何を言っているのか、少なくとも老人二人には聞こえなかった。
「最近耳が遠くての……」
「いや、ツクヨミ様、流石にそれは無理があるかと。なにせ若々しいバージョンに変化できるんですから、そのネタは流石に……」
そう言われたツクヨミは少しだけ舌打ちした。
「ふん、まぁ、いいわい」
彼は杖の先をまた地面にコツンと当てた。するとどうしたことか、突然その老人の身体が光り出した。淡い光である。柔らかで衣のようなその光に身体が包まれる。
そして、その光が段々と弱まっていき、光に覆われた身体が現れる。しかし、そこに現れたのはさっきまでの老人の姿ではなかった。青年である。歳は十代後半から二十代前半であろうか。まるでアルビノのようなまでに白い、雪でできたかのような肌。漂うオーラは高貴で清潔で厳かである。その美しい美青年を前にして金ピカは膝を地につけてひれ伏した。
「……やはりそちらの姿の方が神の威光を表していらっしゃり、大変美しいですな」
「ふん、分かっておる。それより、わざわざ地球の修正力が効くのを早めるようにして、お主を呼んだんじゃ」
「ええ、それは存じてますとも。しかし、何をすれば?まだこの世界のことぐらいしか教わってないのですが」
「それは今から教える。あと、やることは一つじゃ。それは……、スサノオ、あやつが何をしようとしておるのかを調べてほしい」
「スサノオ……、それはこの地の三柱のお一方、その方ですか?」
ツクヨミは首を縦に振る。
「その方を?何故?」
「あやつは我々の中でも特殊じゃ。神でありながら神の身体を持たぬのじゃ。詳しく言えば神格があるが、その身を持たぬから、あやつは死ぬのじゃよ。儂らとは違ってな」
「……それが何か原因でも?」
「冥府に行けばそこは儂らの管轄外、故に何をしているのかさっぱり分からぬ。儂らのように記憶に繋がりはあり、永劫の螺旋に囚われてはいるが、存在する場所が違う」
「なるほど、分かりました。ですが、その方を捜査するには一度三途の川を渡るということですか?それは少し難しいですが」
「いや、その必要はない。スサノオ本人を調べなくとも、ある人物を調べればいい。ただそれだけだ」
「ある人物?」
「うむ。それは……、我ながらに恐ろしい宿命を負わせたと思わせる男じゃ。名は……」
ツクヨミは伝えた。その男の名を。それを聞いた金ピカは一瞬身体が硬直した。緊張と驚きで身体が動かなかった。
「その男が今、この織丘の地にいるのですか?」
「うむ。じゃから、その男を調べてほしい。我々の計画の邪魔をされたくはないからの」
金ピカはその時僅かに唇のふちをキュッと強く結んだ。
「ええ、分かりました。守護者の役目と並行して、そちらは行いましょう」
その言葉にツクヨミは小さく「うむ」とだけ呟いた。
「……この戦いには幾多の望みが渦巻いておる。目標のため、欲望のために戦う者、狂気に囚われた者、とりあえず掴もうとしている者。幾多の想いがたった一つの盃に注がれる。所詮は儂らもその中の一つ。神……、その言葉は儂らにとって然程の威厳もない戯言。……落ちぶれたな、儂らは」
突然の弱音。それを聞いた金ピカは少し渋い顔をする。
「それを聞かれたら大変なのでは?」
「ふん、聞きたければ聞けば良い。どうせ狂い神どもじゃ。自分の運命から抗う荒神に戯言なぞ届きはせん」
そう言ってツクヨミは深くため息を吐いた。
「いつまでじゃったか……。儂らが神として在り続けられたのは……」
神にも苦悩がある。人にも、英雄にも、神にも、悪魔にも、結局は全て悩み苦しむ存在なのだ。
この地で渦巻く数々の望み。それを叶えるたった一つの聖杯。
盲目的にその杯のためだけに走り続け、果たして何が残るのか。それは神でさえも知る由もない。