Fate/eternal rising[girl or king] 作:Gヘッド
さぁ、ということで本格的に始まりました。まぁ、最初のほうは気休め程度に……。
—————聖杯戦争。人々の願いを何でも叶えることができる万能の器。その聖杯を巡り、魔術師たちが殺し合いをした冬木市の聖杯戦争—————
—————それはある一つの世界の話で起きた聖杯戦争である。しかし、その他の世界にも聖杯戦争は行われていた。これはそんな
「おとぉさん!おかぁさん‼︎」
そう言いながら泣きじゃくったのを覚えている。
幼い自分の小さな腕が母の足にへばりついた。母は俺の姿を目に焼き付けるようにじっと見つめ、目頭に涙を浮かべている。泣きながら抱き締め、歯を食いしばりながら俺の手を引き離した。父は後ろめたそうにして地を見ている。腰に携えた日本刀を手に母を待っていた。
そして、二人は家に背を向けた。俺が二人のところへ行こうとしたけど爺ちゃんに止められてしまう。腕を伸ばしても、幼い頃の俺の小さな腕と手では二人に触れることもままならない。
俺はただ泣きながら二人を見ていた。幼い子供の叫び声が夜の街に響く。二人が俺の目の前から消えていくまで。その時の俺は無力であった。
無力とは実に
—————もう、何も出来ないのは嫌なんだ。
朝、俺はカピカピした目尻を擦りながらテレビから流れてくるニュースを見ていた。天気予報を見ると降水確率は高いらしい。っていうか、もう降ってるし、雨。軽く天気予報士のお姉さんに向かって舌打ちを打った。
「速報です。
天気予報のあとの地域情報。まぁ地域といっても、範囲は広いから俺の家のある土地なんて報道されるわけがない。なんて思ってたら、俺の見知っている所である。
流れてきた情報は放火事件について。いや、事故って可能性もあるらしいけど、もし放火なら世の中めっちゃ物騒になってると感ぜざるを得ない。俺の家だけは標的にしてほしくないな。木造住宅住宅だし、簡単に燃えてしまいそう。まぁ、どうせ標的なんてされないでしょ、と死亡フラグだけは立てないようにしておこう。
傘を持って学校に行くなんて面倒くさい、とかなんとか考えていたら、家のインターホンが鳴った。木張りの床の廊下にインターホンの音が響いている。
「ヨウ、今来たよ!」
俺は時計を見た。7時15分。もう、そんな時間か。学校に行かないと。
……ああ、学校か。憂鬱だ。
俺はテーブルの上に置いてあったジイちゃん特製おにぎりを二個手に取って少し雑にカバンに詰め込んだ。そして、その鞄を手に持って玄関の方に行き、
「すまん、待った?」
「ううん。今来たばっかだから」
そう言うと彼は首を横に振った。
この男は
ちなみに、ジャスティスって呼んだら、彼の本気の飛び蹴りが鳩尾にやってくるから呼ぶならセイギって呼ぶことをオススメする。痛い目を見ることになるだろうから。
俺は家の軒下で傘を開いた。透明なビニール傘は目の前にいる彼の顔をぼやけさせた。
傘を差し家を出た。いつもは家から学校まで自転車で20分くらいで着くのだが、今日は生憎の雨である。ざっと見積もって40分以上はかかるだろう。
俺たちは傘をさしながら学校への長い道のりをトボトボと歩いた。毎日の風景がいつもより遅く変わりゆく。視界には上から下に落ちる雨が数え切れないくらい映っていた。音はその雨の音と度々俺たちの隣の車道を通る車の音ぐらいだ。空から落ちてきた雨水が地面に当たって跳ねて、ズボンの裾が濡れてしまう。裾はペタンと俺の肌にくっつき、嫌な感覚がした。
セイギはそんな不機嫌そうな俺の顔を見た。俺もセイギの顔を見た。セイギは俺とは違って嬉しそうな顔をしている。あんまり幼馴染の俺が見ないような満面の笑み。不機嫌な俺とは正反対と言えるほどにまで。
「嬉しそうだな」
俺がそう言うとセイギは自分の顔を叩いた。どうやらその緩みきった顔を直そうとしているみたいだが、それでも顔がニヤついている。
「金曜の夜にいいことがあったんだ」
「へぇ、どんなの?」
「秘密だよ!言うわけないじゃん!」
「女?」
「あ〜、うん。結構近い」
俺が冗談半分で言ってみたことが案外図星だったことに驚く。と、同時にこんな奴にも女はできるのだと思うと、なんかそんな人が誰一人としていない自分が惨めに思えてきた。
俺はため息を吐くと、彼は悪戯を喜ぶ子供のように笑う。
「お先でぇ〜す」
その言葉に俺の手は鉄の拳へと変貌しそうだった。大丈夫、暴力はしない。自制心はしっかりしているタイプだから。
クールに行こう、俺。
それからいつものたわいない会話が
それからほどほどに歩いていたら、白い校舎が見えてきた。俺たちが通っている学校だ。
織丘市は海が近くにあり、かつ山も近くにある。またこの頃は交通機関もちゃんと通っているため市中央部の方は結構人気がある。しかし、俺たちの住んでいるところは市の外れ。
「ヨウが歩くって言ったから歩いてるんだよ。大変すぎる」
「いや、電車を利用したくねーんだよ」
「何で?楽じゃん」
「いや、そうだけどさ……。色々あるんだよ。俺にも」
理由を教えたくなどない。だから、セイギが俺に理由を教えろとせがんできたが、俺は「秘密」と言い返してやった。
俺たちは上履きに履き替えて自分の教室へと向かう。俺とセイギは違うクラスで、階も違う。俺はセイギと別れて自分の教室に行った。
クラスにはまだ誰もいなかった。そりゃ、しょうがない、この時間は朝早い。そう生徒がいるわけなかろう。
静かな教室。しんしんと外の雨音だけが聞こえる。誰もいないこの部屋は殺風景だが、どこか開放感を感じれる何かがあった。
そんな空間では何をしてもいいし、何も言われない。好きなことを好きな分だけやれる。誰かが来ない限り。
まぁ、俺は特にしたい事とかはないから寝るだけなんだけどね。宿題とかする気も無いし。そう、別に朝早く来たのはセイギがこの時間に来たかっただけなのだ。
俺は机の上に突っ伏して目を閉じた。腕と腕、そして机に密閉された小さな空間に顔を埋めた。その密閉された空間は暗く俺の眠気を誘うのには最適だったが、いかんせん空気の通りが悪い。すぐに息苦しくなってしまったので、今度は顔を天井に向けて背もたれに体重をかけてだらけた態勢になる。そして、目をつむった。
それから10分後、俺は再び目を開いた。そして辺りを見回す。そして誰もいないことを確認するとこう叫んだ。
「何で誰も来ないんだよ!寂しいじゃねぇかっ!泣いちゃうぞコノヤロー!」
曇りなき本心である。いや、さすがに誰もいない教室に一人でいるのは何かとキツイ。せめて誰か一人くらいは来いよ。
で、なんか、ただ寝て待っているのはつまらないのでなんとなく一発ギャグとかしてみる。腰に両手をそえ、前方に銃口となった人差し指を向けた。そして、ノリよく
「—————ゲッツ‼︎」
なんて言ってみたから困ったものである。しっかりとポーズを決めて全力で真似してみたのだが、何やら視線を感じるのだ。
恐る恐る振り返ると、そこにはクラスメートの
「あっ、見、見てた?」
「見、見てない……」
どうやら見られていたようだ。最悪だ、死にたい。
彼女はさっきの俺の奇行をなかったことにして、静かに席に座った。俺も茫然自失な状態で、目の前が真っ暗になりながらもとりあえず席に座る。
俺は最後列にいる雪方をちらりと見た。実は彼女が俺の後ろでクスクスと馬鹿にしているのではないかと気になってしまったからである。
しかし、彼女にそのような様子はなかった。彼女は今日の英語の宿題を広げて粛々と勉強していた。その彼女の顔は思わず見惚れてしまうような真剣さと美しさが混じっていて、思わずじっと見つめていた。すると、彼女は俺の視線に気づいた。じっと見つめてられていたことを悟ると少し顔を赤らめた。
「……何?」
「あっ、いや、何でもない」
彼女は美人だ。この学年の中でも一二を争うほど、質が良い。それにこのクラスの委員長もしている。だが、何処か近寄りがたい雰囲気を放っている。眼力が強いわけでもなく、高圧的な態度でもないのだが、人と接するのが不得意であると感じられる。
まぁ、そんな彼女が悪い奴じゃないのは知っているつもりでもある。といっても、たった数日、ちょっとワケありの関係があった程度だが。
俺と雪方が二人っきりで教室にいた時間がすごく長く感じられた。スズメの鳴き声を何回聞いただろうか。早朝の二人きりの教室は緊張と絶望で俺の心をズタズタにしていった。
しかし、そんな二人だけの空間を彼女が打ち破る。
「おっはよ〜ごッざいま〜す!ハロー諸君、エブリバディ元気ですか〜?」
一人の女子がハイテンションで教室に勢いよく入ってきた。ポヨンポヨンの悩殺オッパイを引き下げ、朝の雰囲気に似つかわしくない声で眠気と戦う俺の神経を逆なでしてくる。
「おい、ルーナ。お前、朝からよくそんなテンションで行けるな。眠くないのか?」
俺が彼女に声をかけると、彼女は驚いた。
「ワーオ、
素直に彼女の口から早起きしたという単語が出てこないのが悔しい。というか、どうして不純異性交遊とかいう単語が口から出てきたのか。こいつまだ来日一年しかしてないのに、どうしてそんな単語知ってんだ。
かく言う彼女の名はルーナ・フィンガルである。一年前にイギリスから留学してきた女の子だ。ちなみに、彼女の血の四分の一の血が日本人の血である。いわゆるクウォーターってやつ。いや、にしてはおっぱいデカすぎだろ。
俺が彼女のおっぱいぱいに視線を向けていると、彼女はそういえばと何かを思い出し、ガサゴソとカバンの中を漁りだした。ちらりと彼女の指にはめられた金色の指輪がカバンの中から美しく光を反射するのが見えた。が、そんなものより砲丸のような胸のほうが見る価値があるので、やっぱり元に目を戻す。
彼女が取り出したのはきつね色の小さな細長い食べ物。芋けんぴである。
「あのっ、
「ん?ああ、それ、芋だよ、芋」
「ジャガイモ?」
「サツマイモのほう。ほら、似てるだろ?色とか」
彼女は俺の言っていることをじっくりと確かめる。芋けんぴをじっくり観察して、う〜んと唸った。のだが、どうにもピンとこないらしい。
「そもそも私、サツマイモ食べたことありません!ネヴァーです!」
これは大問題だ。彼女はサツマイモを食べたことがないらしい。それはいけない。今年の秋に食べなかったのだろうか。
と由々しき事態だと感づきながらも、それを指摘してしまうと彼女の知識欲を掻き立ててしまうこととなる。それはめんどくさいので、サツマイモのことはもう言わないようにした。
その後、教室に人がゾロゾロと入ってきた。8時20分、朝学活が始まる時間である。教室の扉が開いた。担任が入ってきて、教壇の上に立つとやる気のない声を出した。
「ほら、立て、朝礼だ」
俺たちはまるで操られた人形のようにゆっくりと席を立ち教壇に向かって頭を下げた。
◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
放課後、俺はセイギと一緒に、また同じ道を歩いていた。いつもの通りの道は俺の目には何度も映っているためなのか、何の変化もない俺の知っている街並みに少しつまらなさを感じる。
雨はもう降ってはいなかった。午前で雨は降り止んだ。だが、それでも、俺は歩かねばならない。朝、雨が降っていなければ自転車で帰れたのだが、残念ながらその自転車がない。
馬の歩く音のように革靴で音を鳴らす。道の上にある水たまりを避けながら通り、向かいの道ではランドセルを背負った子供たちが水たまりで遊んでいた。その子供たちの無作為で無邪気な笑顔は風に吹かれ波紋が立ち、ぼやけながらも綺麗に映る。
俺はそんな子供らを見ていて、少しだけ疑問を持った。平和を体現したかのような笑み。俺にもあんなに無邪気に笑う時はあったのだろうかと。
でも、俺は考えるのをやめた。自分の子供の頃の記憶はあまりにも少ない。何が起きたのか、自分は何をしていたのかというような記憶が全然ないのだ。
ただ、一つだけ覚えている記憶がある。それは俺が唯一覚えている父さんと母さんの記憶。でも、それは父さんと母さんが俺から離れようとしているシーンの記憶だ。どうしたことか、俺が泣きじゃくって母さんにしがみついており、爺ちゃんはそんな俺を母さんから引き離す記憶だ。母さんも悔しそうに涙を流しているのを覚えている。そして、父さんと母さんは何処かへ行ってしまった。—————俺の知らない何処か遠くへ。
これが十数年前の
俺はあの時、何で泣いてたのかも覚えてない。けど、今なら推測はできる。
父さんと母さんは『聖杯戦争』へ行ったんだ。と言っても聖杯戦争がどのようなものなのかも俺は詳しくは知らない。ただ、爺ちゃんが酒を飲んだ時にその言葉をぽろっと俺に言ってしまった。その時、俺は聖杯戦争の存在を知ったのだ。何でも、人の願いを何でも叶えられるものだとか。
……まぁ、どうせ空想上の存在だとしか思っていないし、本当にあるのかという真偽も
ただ、本当にあるとすれば、父さんと母さんに会いたいという願いを叶えたい。一度だけでいいから。と、たまに思う。
俺たち二人はトボトボといつもの帰り道を4分の1倍速で歩いていた。ボケっと何も考えずに家までの遠い道のりにため息を吐いていた。
その時だ。
「……ッ⁉︎」
ふと何かを感じた。道の途中で、何となくだが視線のようなものを感じたのである。いや、視線?違う。まるで、自分が捕食者に狙われたのだと感覚で本能的に理解してしまうような感覚だった。背筋が凍え上がるほどの今までに感じたことのない尋常じゃないような恐怖を与えるような殺意、のようなものを感じた。
俺はすぐさま振り返った。しかし、後ろには誰もおらず、いるとしたらさっきの子供たちがまだ無邪気に遊んでいる姿だけが俺の目に映った。
おかしいな。そう思った。さっき俺が感じた感覚は嘘だったのであろうか。いや、しかし、そんなことはないだろうと思いあたりを見回すが、それらしき人影は見当たらない。
俺は首を傾げた。隣にいるセイギはどうしたのかと声をかけたが、俺は「何でもない」と言ってはぐらかした。
それからまた少し歩いて、いつもだったら民家の塀を越えて歩道に枝がはみ出るほど大きな木のところの交差点を左に曲がるところまで来たのだが、彼はその交差点を右に曲がろうとした。
「あれ?お前、今日、こっちじゃねぇの?」
「いや、今日は用事があるから」
「ああ、そう。でも、赤日山の方だろ?何しに行くの?」
「まぁまぁ、いいじゃん。じゃぁね〜」
彼はいつも通りの笑顔で手を振って来たので、俺もとりあえず手を振り返した。
セイギの返事は少し曖昧だった。けど、俺の考えの中にはクエスチョンマークがつくことはなかった。いつものセイギとなんら変わりはない。だから、いつもの日常が少しずつ変わり始めていりなんて、この時点で気づくはずもなく、普通の日常を感じていた。
俺はセイギと別れた後、まっすぐに寄り道せずに家に帰った。別にそこまで早く帰りたかったわけではないのだが、こんな都会から外れたところだと寄り道しようにもする場所なんてないから、家に帰るしか方法がないのだ。
家に帰ると爺ちゃんがいた。爺ちゃんは
爺ちゃんは険しい顔をして俺を見た。というより、不機嫌そうな顔。多分、また道場で何かあったな。
「おい!ヨウ‼︎どこへ行っていた⁉︎」
「いや、学校だよ……」
「遅いじゃないか!」
「だって雨降ってたんだから自転車で通学できなかったの!」
俺がそう言うと爺ちゃんは竹刀を地面にパンッと叩きつけた。
「まったく、最近の若いもんはなぜこうもダラけておるのだ⁉︎日本男児としてあるまじき
「まぁ、俺は今現在の日本男児だからね」
そんな事言われた爺ちゃんはまた決まり悪そうな顔をした。「けしからん‼︎」って言いながら庭の方に移動する。その隙に、俺は玄関から家に入って二階にある自分の部屋に行く。
そこで俺はふぅと一息をついた。
爺ちゃんは自分の道場を持っていて、そこで先生をやっている。それだけあって、爺ちゃんが竹刀を持ったら俺みたいな武道を本格的にしていない俺はまず勝てない。だから、俺は爺ちゃんの機嫌を
けど、この頃爺ちゃんの道場から辞める人が続出しているらしく爺ちゃんはいつも機嫌が悪い。なんでも、爺ちゃんが厳しすぎて嫌になる程だとか。
爺ちゃんが機嫌を損ねてしまうと、つけは俺に回ってくる。そういう時こそ、『相手にしない』が役に立つ。実際に、この手の方法で何回か生き延びている。
俺はまた爺ちゃんが何かグチグチ言わないうちに、夕食の用意と風呂の支度をした。さて、今日は何を作ろうか。
いつもの日常。これが俺のつまらない日常である。固定化された生活を日々黙々とこなす。特に大きな変化があるわけもなく、蚊取り線香みたいにゆっくりとじわりじわりと変わりゆく生活が過ぎ去ってゆくのをたそがれて見ているだけなのだ。
でも、そんな日常の中に非日常があって、その歯車も俺の目で見えない所で確かに回っている。俺はまだ知らなかった。この生活はあるものを基盤としてできており、その基盤は時に血にも骨にも絶望にも変わりえるものだということを。平穏は気が付けばいつのまにか去っている。
日常が日常でなくなったのはここから7時間後のことである。
「……ん?波の音?」