Fate/eternal rising[girl or king] 作:Gヘッド
今回は結構短めです。まぁ、たまには短くてもイイよね。
鈴鹿。彼女は初めて俺に会った時、そう自らを名乗った。だから、俺は彼女を鈴鹿と呼んでいる。
『鈴鹿』という名は幾度か聞いたことがある。古典なんか勉強してるときに出てくる鈴鹿山や、女武士の鈴鹿御前。この二つの名で『鈴鹿』という名は聞く。特に鈴鹿御前なんかは今の彼女そっくりであろう。刀を持ち、平安時代やらそこらへんの時代っぽい服装。共通点は幾つか見つけることができる。
俺は彼女に一度、「お前は鈴鹿御前なのか」と問いたことがある。明確な答えはなかった。「そうだったらいいな」と返答を少しだけはぐらかしたのか、それとも暗に否定したのかのどちらとも受け取れる返しだった。そして、その時の彼女の顔は少し暗かった。あまり彼女が見せないような表情で、それを見た俺はもう同じ質問はしないようにと思ったのである。そして、鈴鹿に対する疑問を押し込んだのだ。
だが、どうしてもやはり鈴鹿が鈴鹿御前なのでは、と思うときがある。それは彼女が刀を手にしているときだ。そう、今のように。
「ふんっ、はぁッ!」
「おお、威勢が良いな。剣筋は良くはないが、身体の動きは良いな」
鈴鹿は余裕そうにそう言いながら、セイバーが思いっきり振った剣をいともたやすく身体ごと弾き返す。よろめいたセイバーは持ち前の身体能力の高さを活かしてすぐに体勢を立て直し、鈴鹿の追撃をすんでのところでかわす。
「はぁ、はぁ。うぅ、強い……」
「強い?まだまだ序の口だぞ」
「ええ……それは嫌ですね……」
「まぁ、でも、セイバー。お前もなかなかだぞ。身体能力は高いな」
身体能力は。その言葉の裏には剣の腕はまだまだであるという言葉が隠されている。セイバーは何とも言えない表情をした。
「褒められているのか、貶されているのか……」
「いや、貶しているぞ、私は」
「え⁉︎そこ、普通言いますか⁉︎」
「ああ、鈴鹿はそういう奴だから。気にすんな」
「おい、ヨウ、口を出すな。あ、あと、お前もこれ終わったら、次だからな。最近来ていなかったから、ビシバシしごいてやる」
「え?嘘でしょ?」
「私がこういうとき嘘を言うか?」
嘘を言う奴であってほしい。俺はそうどこかでこのやり取りを見ているであろう神様に対して願った。そして、あわよくば鈴鹿という女をさっさと成仏してくれ。いや、ほんとマジで。
ってか、そもそもこの女、何で成仏しないのか。この女は幽霊であるので、何か現世に対して未練があるに違いない。ということは、その未練さえ無くしてしまえばさっさと成仏するのではないか。
いや、んまぁ、神様に成仏頼むのもどうかと思うが。
鉄と鉄が互いに幾度とぶつかる。高い金属音が落ち葉で覆われた山の中で響き渡った。だが違和感というほどのものは感じなかった。
山の中で金属音など普通にはあり得ないことではあるが、俺にとっては割と見慣れた光景にも思える。それは彼女が俺に剣術を教えてくれたからだ。
俺の家系、月城家は代々うんたらかんたらで何たらかんたら……、とりあえず武術においてなんかスゲー家らしい。もちろん俺も詳しくは知らない。爺ちゃんがそういうことを詳しく知ってて、俺にその月城家にまつわる色々な話を聞かせてくれたりするんだけど、うん、まぁ、聞いてないよね。いや、だってつまらねぇし。とりあえず、聞いてない。だから、知らない。
とにかくまぁ、俺の家系には『月城流剣術』らしきものがあるらしいけど、うん、ごめん、マジで知らない。月城流剣術、スゴイらしいっていうのだけ知ってる。
そんで、その月城流剣術を本来ならば学ぶはずの俺は正直その月城流剣術を知らないけど、実は俺、剣を案外使えちゃったりするのだ。
そう、それはどうしてか。まぁ、ここまでくれば大体分かると思うが、今俺の目の前でチャンバラしている鈴鹿、彼女が教えてくれたのだ。小さい頃、俺が神零山で彼女と出会ってから、俺は彼女の振る剣が何となくカッコいいという理由で彼女から剣を教わっていた。もちろん、中学生ぐらいになったら、カッコいいとかそういう理由じゃなくて痩せたいからという具体的な欲望に沿ってはいたが、それでも一応最近までは彼女から時折剣を教わっていた。
なので眩く美しい銀色の光が宙で舞う姿は何度か見ているし、それはむしろどこか懐かしいような気も俺には感じてしまう。まぁ、俺の剣術は鈴鹿の剣術とほぼ一緒なので、彼女の剣の動きを真似しようと思えば真似できるのだが。……あ〜、いや、無理か。いや、うん、無理だな。
とまぁ、そういうこともあるので普通な光景だなと思っていたらあることにつまづいた。
「あれ?鈴鹿、お前の剣とその剣は触れてるな?」
俺の言葉が二人の間に入る。そのまま彼女たちは動きを止めた。
「ん?どういうことですか?ヨウ?」
「え?いや、そのさ、鈴鹿って現実世界のものに触れられないんだよ。ほら、こいつ幽霊じゃん?だから、こいつさ、自分の剣しか触れられないんだよ。そして、その剣も霊体的なカンジだから、現実世界のものじゃない。つまり、その剣も現実世界のものと触れることはできないんだよな」
「えっ?あ、ああ、あ〜、そうだったな……」
「いやでもさ、今見てみたらセイバーの剣にバリバリ触れてるからさ、あれ?おかしくね?ってなったんだけど」
そう、彼女はある一つの呪いのようなものを持っていると自身で言っていた。彼女は幽霊だ。それは霊的存在であるということであり、現実世界の物体とは非なる存在。つまり彼女はこの世の物質と呼ばれる類いのものではない。では彼女は何処から来たのか、異世界から来たのかなどそういう話は一旦置いといて、とりあえず彼女はそういう存在であると定義しておく。まぁ、精神と似たような存在とでも思っておけばいいだろう。形はないし、物質は物質としか触れることができないので、物質とも彼女は触れ合えない。だが、認識はできる。そういう存在だ。
以前、軟弱だった俺は爺ちゃんの対応があまりに酷くて、それに耐えきれずに夜中に家出したことがあったのだ。そんな時、俺はふと心の拠り所を求めて神零山に寄った。もちろん、鈴鹿に会うためである。鈴鹿も割と厳しいが話し相手にはなってくれるし、なんか話していて安心するし、まぁ何よりあの時はセイギが日本にいなかった時だったから彼女ぐらいしか会う人がいなかったというのもあるが。そう、だから俺は鈴鹿に会いに来た。だが、俺はそこで思いもしない彼女の姿を目撃した。
彼女は泣いていたのだ。樹の根元に座り、涙を流しながら何かをつぶやいていた。だから、俺は「大丈夫か」と姿を彼女に見せて尋ねた。彼女は頷いて、事の次第を話してくれたのだ。彼女は現実世界の物の多くに触れられないと。生命物質など一部の物は触れることができても、やはり触れられないものが圧倒的に多いと。そして、また彼女は一粒の涙を瞳から零したのだ。「あはは、私はバカだな。幽霊なのに、これぐらいのことで悲しんでいては……」と、言っていたのを覚えている。
が、
「え?あれ、嘘だったの?」
俺のその本気の質問に彼女はどっと汗を吐き出し目をキョロキョロと泳がせながら頑張って返答した。
「えええっと……、あ〜、いや、確かにそんなことも言ったが……、うぇ、あ、いや、嘘じゃないぞ、嘘じゃ!嘘じゃない、ただ、ちょっと説明が足りなかったかなという、ああ、それだけだ。説明が足りなかったんだ」
「説明が足りなかった?本当に?」
「ああ、そうだ。もちろんだとも」
ずいぶんと早口で答える。だが、そんな姿を見て信用などできるわけがない。
俺が彼女を白い目でジッと見つめると彼女は辻褄を合わせながら説明しようとしてきた。
「だぁっ、おい!そんな目で見るな!違う、本当に嘘ついてない!分かるか⁉︎」
俺は首を横に振る。
「はぁ〜、分かった、いや、あのだな、一本の線を思い描いてくれ。その線の端が幽霊と人間だ。分かるか?私は幽霊純度100パーセント、ヨウ、お前は人間100パーセントだ!そして、私の剣は幽霊純度75パーセントぐらいなんだ!そして、そのセイバーという子は幽霊純度45パーセントぐらいだ。理解できるか?つまり、この子には私は触れられるんだ!分かるか、理解できたか?」
「いや、信用できんな」
「なんだと!お前、少しは信用しろ!」
「そ、そうですよ、ヨウ。鈴鹿さんが苦しんでいるじゃないですか」
「苦しんでなどいなぁい!」
強がりなのだろうが、その強がりも鬼の形相で言われてしまえば手を出すこともできない。絶対嘘だろ、何かあるなと思いながらもとりあえず「ハイハイ」と返事だけしておいた。