はるか太古の昔、超人界は混迷の中にあった。
力ある者が、力なき者たちを虐げることが当然となっている世界。負の感情が渦となって、地上を飲みこむほどに膨れ上がっている世界。
超人たちを創った神々は、その責任を取るため超人たちを滅ぼすことを決断する。
それに、ある神が異を唱えた。
見込みのある真の超人は生かすべきであると。
そして彼は、真の超人たちを救うため、ひとりの超人となって地上に降りた。

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勢いで書いたあと投稿するか迷い、今月の29日金曜日でキン肉マンの日じゃねえかと気づき、思い切って投稿しました。神のお告げだ~。
 


はじまりの始祖たち!!の巻

 (たき)火が、パチパチと音を立てていた。火の近くには、肉を刺した木の枝が六本、地面に突き立ててあった。もう少しで焼き上がることだろう。肉にかけられた香料による香りが、食欲を刺激してくる。周囲は森で鬱蒼(うっそう)としており、虫の鳴き声が時々聞こえてくる。夜ということもあって、森の深さは、一層深くなっているように思えた。

 眼を瞑る。これからどうするか、とゴールドマンは思った。

 弟のシルバーマンが、こちらをじっと見ているのを意識の端で捉えながら、ゴールドマンは思考を進めた。

 悩んでいるのは、この世界をどうすればいいのか、ということだった。どうすれば、混迷に満ちたこの世界を正せるのか。

 何度も考えたことではあるが、はっきりとした答えは出なかった。どうしようもないのではないか。そんな結論ばかりが出てくる。

 力ある者が、弱い者を虐げ、さまざまなものを奪う。それが、当たり前となってしまっている世の中だった。

 昔、ゴールドマンがほんとうに幼かった時分は、そこまで酷くはなかったと思う。いや、ただゴールドマンが見てなかっただけなのだろうか。そう思わせるほどにいまは、外道に堕ちた超人ばかりになっていた。

 シルバーマンを見る。ゴールドマンと同じく、鍛え上げられた(からだ)だった。再び眼を閉じる。

 ゴールドマンとシルバーマンは、それぞれ頭が黄金か銀かという違いはあるが、実の兄弟だ。どちらかというと厳つい部類に入るだろうゴールドマンと、すっきりした顔立ちのシルバーマンは、どちらとも腕に覚えがあった。少なくとも、そこいらの超人なら、三、四十人ほどいっぺんに相手しても勝てる程度の腕はある。

 肉体的にはややシルバーマンの方が強いが、技巧ではゴールドマンの方が上だ。その違いもあって、ゴールドマンは攻撃を重視した戦法を好み、シルバーマンはフィジカルの強さを生かした、カウンター主体の闘い方を得意としていた。

 ゴールドマンとシルバーマンの強さだったら、外道超人を倒していくことはそこまで難しいことではない。だが、そんな外道超人たちは雲霞(うんか)のごとくいるし、弱い超人たちも生きるのに必死で、さらに弱き者から奪うという、他者への思いやりや優しさというものを忘れたような者ばかりだった。

 自分やシルバーマンが外道超人たちを倒し、統一する。そんな考えも頭にあったが、結局は同じことになるだけではないか。そんな、あきらめにも似た思いがあった。

 もっと根本的な部分をどうにかしなければ、いずれ元の木阿弥(もくあみ)になってしまうだろう。そんなことを思う。

「兄さん」

「なんだ、シルバー?」

「肉が焼き上がるよ。いまはとりあえず、食事にしよう」

「――――そうだな」

 思考を切り上げ、シルバーマンに頷く。焼き過ぎないよう、食べる肉以外を火からちょっとだけ離すと、それぞれ肉に手を伸ばし、食らいついた。塩と、自作の香料をかけた肉は、自画自賛ではあるが美味いとしか言いようがなかった。口の中に広がる肉汁と塩加減もさることながら、かけられた香料による香りが、ますます食欲を促進する。

 世界の行く末に頭を悩ませながらも、こんなふうに食事を愉しんでしまっている。

 浅ましいと思うとともに、仕方がないことだと割り切る。ただ心を痛めているだけでは誰も救えない。自分を(ないがし)ろにして救えるものなど、ありはしないのだ。自分に言い聞かせるようにして、ゴールドマンは肉に(むさぼ)りついた。

 一本目をシルバーマンと同時に食べきり、二本目に手を伸ばした。

『っ!?』

 地響きとともに、轟音があたりに響いた。

 なにかが空から降ってきたようだった。瞬時に立ち上がり、音のした方にむき直って、構えた。シルバーマンも同じだった。

「グロロ~」

 声が聞こえた。なにかが近づいてくる。

 強い。身が思わず引き締まるような、強い気配だった。ただ、敵意のようなものは感じない。なにか、包みこむような大きさを感じた気がした。

 やがて、森の中から、何者かが姿を見せた。

 でかい。その男を見て、ゴールドマンが最初に思ったのは、それだった。

 ゴールドマン、シルバーマンの体格もそれなりに大きいが、男は二人が子供に見えるほどに大きかった。ただ身長が高いだけではない。躰中が筋肉の塊で、すさまじいまでの存在感を放っていた。

 だが不思議なことに、威圧感のようなものは感じなかった。そしてやはり、敵意も感じない。しかし、闘ったらまず負けるだろう。そう思わせるほどの凄みがあった。

「何者だ、あんた?」

「グロロ~、人に名を問う時は、まずは自分からであろう?」

「む」

「まあ、よい。私は、ザ・マン」

『ザ・マン?』

 シルバーマンと声が重なった。

 シンプルな名前だった。余計な装飾など不要。そう言わんばかりの名は、不思議と彼に似合っているような気がした。

「さあ、名乗ったぞ。おまえたちは?」

「――――私は、ゴールドマン」

「僕は、シルバーマンと言います」

 ザ・マンが、満足そうに笑った。

「それで、ザ・マン。あんたはいったい、ここになにをしに来た?」

「なに、美味そうな匂いがしたのでな、ついフラフラと吸い寄せられてしまったのだ。すまないが、その肉を分けて貰えんかな?」

 肉に眼をむけ、ザ・マンに眼を戻す。

「なぜわざわざそんなことを訊く。見たところ、あんたはかなりの腕だろう?」

 私とシルバーが二人で挑んでも敵わないぐらいには。口には出さなかったが、そう思った。

 見掛け倒しなのか、と一瞬考えたが、すぐにそれを否定する。おそらくシルバーマンと二人掛かりでかかっても、難なく打ち倒されるだろう。そう思わせるものがあった。

 ゴールドマンの言葉に、ザ・マンはなにも言わず、笑みを浮かべた。再び、なにかに包まれるような感覚を覚えた。

 肉をいただくことが目的ではないのだ。なにかを、()し測ろうとしている。そう感じた。

 シルバーマンに顔をむける。

 かまわないか、と眼で語りかけると、シルバーマンが頷いた。

「わかった。肉は焼き上がっているから、好きなものを取ってくれ」

「グロロロ、ありがたい」

「いや、こちらこそ、すまない。あんたが外道に堕ちた超人ではないかと疑ってしまっていた」

「気にするな。このご時世だ。仕方のないことよ」

 ザ・マンが焚火のそばに近づいて来て、腰を下ろした。ザ・マンが手を伸ばす。一番小さな肉だった。

「それでいいのか。別に、一番大きな肉でも構わないぞ?」

「いや、押しかけてきたのだからな。そこまで図々しい真似はできぬさ」

「そうか」

 ゴールドマンたちも腰を下ろし、再び肉に手を伸ばした。

 肉を食っている間、誰も声を発さなかった。

 ザ・マンが、ひと足早く肉を食べ終わった。

「美味いな。塩加減もそうだが、味の秘密は、この香料かな?」

 ザ・マンが言った。

「ええ。兄さんが作ったんですよ。強くなるために必要なのは、鍛練と食事。ならば、鍛練だけでなく、食も追求するべきだと」

「シルバー」

「いいじゃないか、兄さん」

 わざわざ話すことではないだろう。そう(たしな)めるようにして言うが、シルバーマンはしっかりとゴールドマンの眼を見返して言ってきた。まったく、と息をつく。

「グロロー。仲がいいのだな、二人は」

「まあ、たった二人の兄弟で、家族だからな」

「ええ」

「そうか。ほかに身内は?」

「もう、いない」

 父も母も、すでにこの世にはいない。外道に堕ちた超人たちによって、殺されてしまった。ゴールドマンとシルバーマンが、世界の情勢を知るために外に出て、帰ってきた時には、殺されていたのだ。家族だけでなく、故郷の者たち全員だ。どちらかが家に居れば、みんなは殺されずに済んだのではないか。そう後悔したのも、いまは昔のことだった。そう思うしかなかった。

 ザ・マンが、頭を下げた。

「すまぬな。悪いことを訊いてしまったようだ」

「気にしないでくれ。もう昔のことだ」

「兄さんの言う通りです。それより、肉はもうひとつあります。ザ・マン、いかがですか?」

「グロロ、貰えるのならありがたいが、いいのか?」

「ええ。いいでしょう、兄さん?」

「ああ。私たちも二つずつ食べたからな。遠慮しないでくれ」

「では、その言葉に甘えよう」

 再び全員が肉に食らいつき、無言となった。肉に舌(つづみ)を打ちながらも、このザ・マンという男は、いったいなにが目的なのだろう、とゴールドマンは思った。

 やがて全員が、肉を食べ終わった。

「美味かった。そうとしか言えぬな。()走になった」

 ザ・マンの言葉に頷く。シルバーマンが微笑んだ。

 ザ・マンが、じっとゴールドマンとシルバーマンを見つめてきた。

「なんだ、ザ・マン?」

「二人に、訊きたいことがある」

「聞きたいこと、ですか?」

 なんとなく居住まいを正すと、ザ・マンが頷いた。強い光を湛えた瞳だった。

「いまのこの世界を、おまえたちはどう思っている?」

「正したい、と思っている」

 言葉が、口を()いて出ていた。

「正す、とは?」

「力の強い者が力の無い者を虐げ、食い物とする。そして弱き者も、その弱さを免罪符とし、より弱き者からなにかを奪っていく。これが、超人の世か。違うはずだ。かつては、そうではなかったはずだ」

「そうだな。だが、なにかいい考えはあるのか?」

「いや、ない。国を作り、外道に堕ちた超人たちを併呑(へいどん)する。そんなことを考えたことはあったが、際限がなさすぎるのだ。時間もかかり過ぎるだろう。その間に、この混迷はどれだけ広がり、深くなることか。いや、すでに収拾がつけられないほどになっているかもしれない」

「やってみなければわかるまい?」

「確かにその通りだ。だが、超人がいない。私とシルバーは方々(ほうぼう)を旅したが、さっき話したような者たちばかりだったのだ。たとえその場の外道超人を倒しても、ほかから流れこんでくる。実のところ、何度か勢力を起こそうとしたことはあったが、いがみ合い、憎しみ合う者たちばかりでどうしようもなかった。寝首を掻かれそうになったこともある」

「超人、か」

「ああ、そうだ。同じ志を持つ、同志がいないのだ」

 不思議と、語っていた。シルバーマン以外とこのように語るのは、はじめてだった。

「ザ・マン」

 シルバーマンが、口を開いた。真っ直ぐにザ・マンを見つめる。

「なにかな、シルバーマン?」

「あなたは何者なのですか?」

 見つめるその眼と同じように、シルバーマンが真っ直ぐに言った。

「グロロロ。どういう意味かな?」

「先ほどは、肉の匂いに吸い寄せられたと言いましたが、あれは真実ではないでしょう?」

「なぜ、そう思うのかな?」

「わかりません。ですが、あなたは僕たちを知っていたのではないですか?」

 ザ・マンが、笑みを深くした。肯定しているように、ゴールドマンは思った。

「仮にそうだとして、おまえたちはどうする?」

「あなたの目的次第です。少なくとも、あなたは僕たちを襲いに来たわけではないでしょう?」

 問いかけるようであったが、声には確信があった。

 ザ・マンが目を閉じ、口の端に笑みを浮かべた。

 少しして瞳を開いたザ・マンが、頷いた。

「シルバーマンの言う通り、私はおまえたちのことを知っていた。そこまで詳しく知っていたわけではないがな。ここに来た目的は、おまえたちを救うためだ」

「救う?」

 今度は、ゴールドマンが聞き返した。再びザ・マンが頷く。

「ゴールドマン。おまえが言う通り、この世界の混迷はもはやどうしようもないほどになっている。力あるも心なき者たちが、力なき者たちを虐げ、力なき者たちは財産だけでなく、心の豊かささえも奪われていく。それがさらに連鎖し、深くなりすぎているのだ」

 淡々とザ・マンが言った。声には深い悲しみがあった気がしたが、それ以上に力強い声だった。己がやるべきことを思い定めた、強い声だったように思えた。

「もはや、この混迷はどうにもできない。神々は、ひとつの決断を下した。そして私は、その決断に異を唱え、ここへ来たのだ」

「神、だと?」

「ザ・マン。あなたは」

「改めて名乗ろう。私は、『ザ・マン』。おまえたちを完璧な存在に生まれ変わらせるため超人となった、元神だ」

 ひと際高く、焚火の炎が舞い上がった。

 

 神の座を降り、超人となった男、ザ・マン。その目的は、ゴールドマンたちを救うことだと言った。

 なにを馬鹿な、と一笑に()すのはたやすかったが、嘘だとは不思議と思えなかった。そう信じさせるだけの雰囲気が、ザ・マンにはあった。

 だが、それとは別に、気になることがあった。

 シルバーマンに視線をむける。シルバーマンの視線と、交錯した。頷き合い、ザ・マンに顔をむけた。

「ザ・マン。お聞きしたいことがあるのですが」

「グロロー。ほんとうに私が元神なのか、かな?」

 シルバーマンは首を横に振った。

「ふむ。では、なにかな?」

「あなたは、僕たちを救いに来たと言いました。しかし、この世界の混迷はもうどうにもならないとも言いました。救うというのは、いったいなにを、どのようにして救うのですか?」

「その疑問はもっともだ。まず、神々の下した決断について話そう」

 ザ・マンの言葉に頷いた。嫌な予感はあったが、いまは彼の話を聞こうと思った。

「神々の下した決断はこうだ。もはや、超人という種はどうにもならない。このままでは全宇宙の星々が穢され、壊されていくことになるだろう。そうなる前に、超人という種をすべて滅ぼす、と」

「っ」

「そんな」

 超人がいるのは、いまゴールドマンたちがいる、この地球という星だけではない。超人はみんな飛べるし、巨大化することもできる。地上に生息する動物たちとは違って、酸素などがない宇宙空間であっても活動が可能だ。

「私たちもさまざまな星を巡ってはみた。それらの星も同じだったのは私たちも見ているが、すべての星がそうなのか、ザ・マン?」

「うむ。嘆かわしいことだがな。自滅するようにして滅んだ星も数多くある。生物が住めなくなるほどに、環境が破壊された星もある。いまこの瞬間にも、同じような星が生まれていることだろう」

 怒りとともに、悲しみを感じさせる声だった。真実なのだと、受け止めるしかなかった。

 大きく息をつくと、再びザ・マンを真っ直ぐに見つめた。

「ザ・マン。あんたはどうして、私たちを救おうと思ったんだ。いまの話を聞いただけでも、神々が超人たちを滅ぼすという決断を下すのもやむなしだと思えてしまう。なのに、なぜ?」

「グロロ~。それはほかの神たちからも訊かれたな。まず私は、神というのは、常に完璧な存在でなければならないと考えている」

「なに?」

「と言いますと?」

「勝手に創り出しておいて、勝手に見限り、勝手に滅ぼす。言い方は悪いが、一度野に放ったおまえたちを失敗作としてしまったら、それを創り出した私たちは神ではない、と認めるしかなくなる。私は、それが我慢ならんのだ」

「むう」

 彼の言い分もなかなか勝手なものではあったが、それだけに納得のいくものでもあった。

「理由はもうひとつあるが、まずは話を続けよう。超人たちを滅ぼすために、神々が用意したものがある。カピラリア七光線と呼ばれるものだ」

「カピラリア七光線、ですか?」

「うむ。ある物質から放たれる光なのだが、これは超人にのみ害となる光で、強い光ならば一瞬で躰を溶かされるほどだ。これを全宇宙に照射するのが、神々の計画だ」

「それは、いつだ?」

「七日後」

 短い。だが、そんな決断をさせたのは、超人という種なのだ。

「ほとんどの超人は、救うに値しない者ばかりとなってしまっている。力弱くとも善良な者たちも確かにいたが、そういった者たちはそうそうに殺され、残っているのはおまえたちが見たような醜き者ばかりだ」

 その言葉に、ゴールドマンは(かぶり)を振った。

「ザ・マン。僕たちを助ける、もうひとつの理由とは?」

「おまえたちが、強く、正しき者たちだからだ」

 ザ・マンの顔を見る。ザ・マンは、笑みを浮かべていた。

「阿鼻叫喚の地獄のような世界となった中で、おまえたちはこの世界をどうにかしようともがいていた。そのために、あらゆる努力をしていた」

()には、ならなかったがな」

 自嘲するようにして言うと、ザ・マンは頷いた。

「そうだな。だが、おまえたちは腐らなかった。超人たちの中でも上の方の力を持っていながら、ほかの者たちと同じように弱者を虐げることを、よしとしなかった」

「それは、ただの意地だ」

 弱者を虐げることが超人の、男のやることか。そんな思いがあった。ただそれだけに過ぎない。

 故郷を滅ぼした外道のようになってたまるものか。そういった思いもあった。

「意地でもなんでも、おまえたちは強く、正しき者、真の超人だった。私はそう思ったのだ。そして、おまえたちのような真の超人をさらに鍛え上げ、完璧な存在にする。それを、私は神たちに見せたいのだ。超人を作ったことは間違いではなかったのだと彼らに、なにより自分自身に証明したい。それが、おまえたちを救う理由だ」

 途方もない大きさを感じた。厳しくも優しき男なのだ、と思った。

「ほかに、あんたが救おうと思ってる者は?」

「八人。おまえたちを含め、十人の超人を救おうと思っている。その十人と私を、新たなる超人、完璧(パーフェクト)を目指す超人たちの始祖、完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)とするつもりだ」

完璧超人(パーフェクト)――」

始祖(オリジン)――」

「うむ。その中で私が最初に見(いだ)したのはゴールドマン、そしてシルバーマン。おまえたち二人だ。『完璧(パーフェクト)壱式(ファースト)』ゴールドマン、『完璧(パーフェクト)弐式(セカンド)』シルバーマンとして、私とともに来てくれぬか?」

 眼を閉じ、二、三度息をついた。眼を開き、ザ・マンの眼を見つめた。

「その十人を除き、超人たちは皆殺しか」

「そうだ。言い(つくろ)うつもりはない。ただ、おまえたちに真の完璧(パーフェクト)超人となって欲しい。それが、私の願いだ」

「ザ・マン。もしもその十人が全員あんたの申し出を断ったら、あんたはどうするつもりだ。神の世界とやらに戻るのか?」

「いや、一度超人になってしまった以上、神に戻ることは不可能だ。天上界に戻ることもな」

 シルバーマンと揃って絶句する。彼の眼は、嘘をついているようには見えなかった。

「あんたは、なぜそこまで」

「言っただろう。神とは、完璧でなければならないと考えていると。おまえたちの信頼を勝ち取れず、死なせることになるのなら、自らを完璧と言えるはずもない。超人として、カピラリア七光線を受けて死ぬつもりだ」

 この男は、自らの誇りのために、ここに来たのだ。

 大きな男だ。これまであった誰よりも、大きく、眩しい超人だと思った。

「わかった。あんたとともに行こう」

「兄さん」

「シルバー。ザ・マンの言う通り、もうこの世界はどうしようもないのだろう。ならば私は、彼が伸ばしてくれたこの手を掴もうと思う」

 ()(まん)なのかもしれない。ただ自分が助かりたいだけなのかもしれない。だがザ・マンは、自らも死ぬかもしれないというこの世界に、神の座を捨ててまで来てくれたのだ。ゴールドマンたちを救うために。その手を()ねのけるなど、男としてやっていいことではない。この男を、死なせてはならない。そう思ったのだ。

 シルバーマンが、ハッとした。うつむき、しばし考えこむ様子を見せたあと、顔を上げた。

「わかりました。僕もあなたとともに行きます、ザ・マン。ただ、あなたが目をつけている超人たちのほかにも、見どころのある者がいたなら」

「皆まで言う必要はない、シルバーマン。真の超人ならば、喜んで完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)に迎え入れよう」

「はい」

「それで、ザ・マン。これからどうする。すぐに、そのほかの始祖(オリジン)候補とやらのところに()つのか?」

「いや、その前に一度やっておきたいことがある」

「なに?」

「グロロロ~!」

 ザ・マンが立ち上がり、手を広げて声を上げた。

「むっ」

「これはっ」

 焚火を中心に、リングが地面からせり上がってきた。三人ともリングの上にいる。焚火が消え、同時に(かがり)火がリングの四方に立った。

 ザ・マンを見ると、ひとつ頷いてきた。

「勝手なことを言うようだが、おまえたちの実力をこの手で確かめておきたい。完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)となったあと、おまえたちは真の完璧(パーフェクト)を目指して修行の日々を送ることになる。心身ともに強くなければ、途中で脱落することになるだろう。私の目が間違っていなかったことを、いまここで確かめさせて欲しい」

「なるほど。確かにその通りだな。私としても、あんたの実力がどれほどのものか知っておきたい」

「兄さん」

 ゴールドマンが構えると、シルバーマンが不服そうな声を上げた。制止の声ではない。シルバーマンもまた、腕に覚えがある超人なのだ。強者との闘いは、ゴールドマン同様に血が(たぎ)性質(たち)だった。

「シルバー、まず私にやらせてくれ」

 シルバーマンが、ゴールドマンとザ・マンを交互に見た。

 ふう、と息をつき、シルバーマンがリングを降りた。

 ザ・マンを見据える。大きな男だ、と改めて思う。躰だけではない。あらゆるものが大きい。これだけ大きな男に、真の超人だと言って貰えたのだ。

 その期待に応えなければな。そんなふうに思う。

「いくぞ、ザ・マン!」

「来るがいい、ゴールドマン!」

 同時に(マット)を蹴り、ゴールドマンとザ・マンはリングの中央で組み合った。

 

***

 

 懐かしいものだ。

 ザ・マンと出逢った時のことを思い出し、石の()(しょう)に座っていた悪魔将軍は、そんなことを思った。

 大きな石の器に溜められた水に映し出されるのは、完璧(パーフェクト)超人軍の精鋭だという、完璧(パーフェクト)無量大数軍(ラージナンバーズ)。その中のひとり、ストロング・ザ・武道と名乗る、剣道着らしきものに身を包んだ巨漢の超人を見て、はるか昔のことをふと思い出した。あれは、何十億年前のことになるだろうか。

 姿を変えてこそいるが、間違いなく、あやつだろう。あれほどの存在感を放つ超人は、宇宙広しといえども、ほかにいない。そう言い切れるほどだった。

 対峙する正義超人軍の戦力はいまのところ、傷を負ったテリーマンと、たったいま姿を現したばかりのキン肉マンの、二人のみ。ロビンマスクをはじめとするアイドル超人たちもじきに現れるだろうが、こちらも配下の者たちを放ってあった。

「陽動部隊はすでに放った」

 バッファローマンを隊長とする独立部隊、通称『七人の悪魔超人』。彼らを、完璧(パーフェクト)無量大数軍(ラージナンバーズ)との闘いの場へ送り出してあった。もうすぐにでも現場に姿を現すことだろう。

 だが、こちらは本命ではない。『七人の悪魔超人』はあくまでも陽動だ。バッファローマンには期待を懸けているが、死ぬならばそれまでのこと。そう思い定めている。

 悪魔将軍が作り上げた、悪魔将軍を(おさ)とする軍、悪魔超人軍。すべては、あやつとの、ザ・マンとの約束を果たすために、彼らを鍛え上げた。

「あとは我ら本隊が、やつらの本陣へと斬り込むのみ」

 完璧(パーフェクト)超人軍の本拠地にいるのは、かつて悪魔将軍がゴールドマンであった時の同志たち。いまも、同志と呼べるのかもしれない。同じ志を持ち、同じ目的地を目指した、完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)。彼らを、これから討ちに行く。無論、ザ・マンもだ。

 あやつのすべてを止める。己ではもはや止まれぬ歩みも、息の根も。それがゴールドマンの、悪魔将軍の全人生を懸けた宿願。それを果たすべき時が来たのだ。

 あやつを、ザ・マンを追い詰めてしまったのは、不甲斐ない自分たちだった。悪魔将軍も含め、みんなそれはわかっていた。

 だから、それぞれの方法で償いをしようとした。

 新たな道を探すべく、(たもと)を分かった者。

 それでも忠誠を誓うと決めた者。

 邪道に手を染めた者。

 しかし皆、道だけは見ていた。

 はるか昔、超人の中の超人だった男とともに見た道を。

 見つめることしかできない罪悪感を抱えたまま、何億年も。

「時は満ちた」

 完璧超人始祖(パーフェクト・オリジン)の強さは、互いの相性こそあれど、悪魔将軍と同格。悪魔将軍の配下の中でも最高位に属する大幹部たち、『悪魔六騎士』といえど、勝ち目はほとんどないだろう。

 だが、まったく勝ち目がないとは思わない。その勝ち目を引き寄せられるかどうかも、いまを生きる超人たちが見せる可能性だ。

「これより悪魔超人軍は、超人墓場への侵攻を開始する」

 あやつの、錆びつき、止まってしまった時計を、いまこそ動かそう。

 胡床から立ち上がり、悪魔将軍は歩き出した。

 




 
人気投票はロビンマスク、悪魔将軍、ペインマンに入れた作者です。
投票数三つじゃ足りねえよ。アビスマンとかミラージュマンとかにも入れたかったよ。っていうか始祖全員好きだよ。
ゆで先生、ザ・マンが始祖を集めた時の話やってくれないかなあ。

ゴールドマンの『食も追求するべきだ』というのはオリジナル設定。強くなるためにいろいろやりそうな人。実際やった人。サタン関連とか多分それなんじゃないかなって。
ゴールドマンが技巧寄りでシルバーマンの方がフィジカル強めというのは独自解釈。


悪魔将軍(ゴールドマン)220cm 162kg
ストロング・ザ・武道(ザ・マン) 290cm 320kg
サイズ差ありすぎ。
 

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