唐突に弟子入りを懇願された。
あなたにあこがれてハンターになった。と言われた。
人違いだと思ったのだが違うらしい。
けど人違いだと思う。

自分ハンターじゃないです。

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あ、女の子の武器は片手剣です。


はんたーさんの弟子になりたがってた子

 

 ユクモ村の集会浴場の酒場で友人と会話中に、見知らぬ少女に話しかけられた。

 

「あなたのようなハンターになりたくて、ここまでやってきました!」

 

「え」

 

「一緒にパーティーを組んで……、あ、いや弟子にしてください!!」

 

「え……、無理です」

 

 こちらを真剣なまなざしで見つめながら弟子入りを懇願されたが、即座に断った。

 

 断られたにも関わらず、諦める気配を感じさせない目つきは若々しさを感じる。そう思ってしまうのは自分が歳をとったからなのだろうか……。

 い、いや……、まだ30なりたてだ……。まだ大丈夫だ……。

 

「そこをなんとか!」

 

「えっと……俺じゃなくてこいつに頼んだら?」

 

「うお?」

 

 間抜けな表情をしていた友人に標的を変えてもらえないだろうか。何が起きてるのかこいつも理解してなさそうだけど俺よりは絶対に適任だ。リオレウスとかの狩猟経験があるらしいし。

 

「いいえ、あなたがいいんです!」

 

「無理です」

 

 なぜ俺に執着するのか。モテ期が30になってとうとう来たのだろうか。

 

 しかしどれほど熱心に頼まれようと返事は変わらない。

 

 

 

 

 だって俺、ハンターじゃないし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠師匠、あの子また来てるよ」

 

 あの日以来、友人はふざけて俺のことを師匠と呼ぶようになった。確実にバカにしてる表情がひどくうざい。

 言われて友人の言う方角に目を向けてみれば、先日の少女がこちらを熱心に見ている……。

 

「弟子にしてやったらいいじゃん。真面目でいい子そうじゃないか」

 

「なんの弟子だよ伐採のかよ」

 

「そりゃハンターの」

 

 ため息をついてしまう。

 俺はハンターではない。ハンターだったことも一度もない。ユクモの木を仕入れるだけの木こりさんなのだ。

 あの日、俺はハンターじゃない人違いだと言ったが嘘だとでも思ってるのだろうか……。相変わらずの熱視線……。

 

「ハンターじゃないって言ってんのに……。お前からも何とか言ってやってくれよ……。ぜってぇ人違いだよ……」

 

「んー。人違いではないみたいだよ」

 

「え?」

 

 嘘をついてるような表情じゃない。見てない間に何かやり取りしてたのだろうか。

 

「まぁあまり勝手に話すのもあれだし本人と話し合って来たら? それから弟子とるかどうか決めたらいいじゃん」

 

「まあ……、そうだな」

 

 人違いではないのにハンターではない俺にハンターの弟子入りってどういうことだろうか。それともハンターから木こりさんの弟子入りなのだろうか。まあ木こりっていうかただのバイトでやってるフリーターなんだけども……。

ユクモの木はユクモ村の特産品だし温泉を焚くのにも家屋にも杖にも武具にも使われる人気アイテムだからこそ、こういう仕事ができる若手は必須だしな。先輩は最近腰を痛めてるらしいし若い働き手が来てくれるかもなら大歓迎だ。ハンターは危険な仕事だしこういう転職も案外ありえそうだ。

 なんで俺になのかは置いといて、そういうことなら弟子入りもやぶさかじゃない。後輩ができるということだしね。

 

 そんなこと考えながら後輩となる少女に向かっていく。なんだかわたわたしてるが緊張だろうか。小動物的でかわいく感じる。ヤバイ、こんな後輩ができるとか幸せもんじゃね……?

 

「あー、その、弟子入りの件?だけどな」

 

「は、はい!」

 

「木こりの道は厳しいぞ?」

 

「え? いえ……木こりじゃなくてハンターの道をお願いします」

 

「え? ハンターの?」

 

「はい! お願いします!」

 

 やっぱりハンターの弟子入りだった。何が木こりの道は厳しいぞ?だよ恥ずかしすぎないこれ? くそっ。

 というかやっぱり絶対人違いだろなんでハンターにハンターの弟子入りをされるんだよ。まあ何にせよ。

 

「無理です」

 

 返事はあの日と同じである。

 

「そもそもなんで俺なの? 俺ハンターじゃないんだけど」

 

「そんなことないです!」

 

「えぇ……」

 

 そしてこの日はお願いですからとなおも食い下がる少女をひたすら断るだけに終わった。初日の時は職員の人が俺はハンターじゃないということを少女に対して一緒に教えてくれたが、職員さんも諦めてるのか傍観である。諦めないで一緒に頑張ってほしかった……。

 

 

 

 

 

「あの子アオアシラも討伐できるみたいだよ。師匠より強いんじゃない?」

 

 

 それから1か月近く経過した。あれからも隙あらば弟子入りするためあの少女はアピールしてくる。ハンターとしての仕事もきっちりこなしてるらしい。なのに何故ハンターじゃない人間へ弟子入りを願うのかわからない……。

 

 

「俺モスにも勝てる自信ねぇよ」

 

「師匠弱気だねぇ」

 

「実際のハンターさんが弟子としてとればいいんじゃないか本当……」

 

「あの子は師匠の弟子になりたがってるんだからその役目は奪わないよ」

 

「モスにも勝てない師匠ってどうなの?」

 

「個性的でいいんじゃない?」

 

「つらぁい……。そしてあの子の視線が一気に豚を見る目に変わるんですねもっとつらぁい」

 

「大丈夫大丈夫、すぐに慣れるよ」

 

「この人冷たぁい……」

 

 

 理由がわからないとはいえあれだけキラキラした目で見られるのはちょっと嬉しいのだ。だけどそれが一気に冷たい目線になるのは避けたい。できれば穏やかにゆっくりと一般人を見る目になってほしいのだ……。

 そのためにも今のうちにモスには勝てるようになるべきか……。けどあいつの頭突き怖いらしいし……、っていうかアオアシラに勝てる人に「俺、モスより強いぜ!」とか言ってもなぁ……。せめてアオアシラに勝てるようにならないと……。実は俺アオアシラより潜在能力が強くてあの子はそれを見抜いてあの発言説とかあってほしいなぁ。妄想では俺のほうがアオアシラより強いのだ。うん……うん……。

 

 

「まぁあの子が師匠に幻想を抱いてるのは師匠自身の責任でもあるんだし、目を覚まさせるなり夢を見させてやるなり、ちゃんと対応するんだよ」

 

「え、俺の責任なの? 俺あの子に何かしたの? え、いつ? 無意識にアオアシラに挑んで勝ったりしてたの俺?」

 

「師匠が無意識に挑んでたら今ここにいるのは別人だよね」

 

「辛辣ぅ」

 

 目の前でわざとらしくため息をつきやがった。夢くらい見させてほしい。というかさっきの口ぶりだと

 

「あの子が俺の弟子入りしたがってる理由知ってんの?」

 

「そりゃ同じハンターのよしみでちょっと話したときに」

 

「マジかよ教えてくれ!」

 

「本人から聞いてない?」

 

「聞いたけど憧れてーだとかでさ……。なんで憧れてるのか聞いたらはぐらかされるし、全く俺思い当たらないんだけど……」

 

「ふーん。まぁ、自分で思い出してあげなよ」

 

「え、マジで俺無意識で何かやってたの? 暴漢からあの子助けたりしたの?」

 

「さぁ? 私はあの子からしか話聞いてないから実際はどんな感じだったのかなんとも言えないし」

 

「その話を聞かせてほしいんですけど!」

 

「ふーん。まぁ、自分で思い出してあげなよ」

 

「さっきと同じセリフ言いだしたぁ……」

 

「まぁヒントだけ。たぶん10年くらい前の出来事を思い出しなよ」

 

 10年前? 10年前と言ったらまだ20前後で若々しく、自分はなんでもできると思って世間をなめ切ってた俺だったぞ? まさかその時ナンパでもしたりしてあの子に……。いやそれはないか。あの子見た感じ多めに見ても20くらいだし、つまり10年前は10歳あたりじゃん。ロリか。10はロリに入るか怪しいところだな。

 

「10年くらい前って言ったら、お前がこの村に来た頃だっけか」

 

「うんうん」

 

 10年前に友人が村に来た。以前からいたハンターが引退して、新しく来たのがこいつだった。歳が近いこともあってよく話しをして気づけば友人関係になったりしたけども。

 

「10年前って言ったらそれくらいしか思いつかないんだけど」

 

 またため息つきやがった。だけどそれくらいしか思いつかない……。

 

「私はそろそろ行くよ。今回は火山での狩猟だから当分村を開けることになるけど、あの子がいれば大丈夫だろうしね」

 

「あ、ああ。気をつけてな」

 

「おうともさ」

 

 久々の村付近以外での狩猟だが、案外リラックスしてるようだ。ずっと村からあまり離れることがなかったから、少しは緊張してるんじゃないかと思ったんだけどハンターってすごい。俺この村から別の村へ買い出しに行ったとき挙動不審になったのに。

 

 友人を見送ってから、10年前の出来事を思い出そうとしたがやっぱり新しい情報は出てこない。

 

「あ、先輩もう出ちゃったんですね」

 

 悩みの種の少女が来てたようだ。友人のことを少女は先輩と呼ぶ。木こりの弟子ルートがあれば俺が先輩ポジションだったのに……。

 

「なあ、10年前」

 

「……」

 

「会ったことあったっけ?」

 

 なんだかナンパまがいな気がしてきた。「昔あったことありませんか?」とかナンパの常套句って聞いたことあるぞ。あ、あと「お茶しませんか」とか。いや実際は知らないけど。

 まぁ直接本人に聞くのが手っ取り早い。もちろん答えてくれたらだけど……。イエスかノーだけでもわかればと思い尋ねてみたが

 

「やっぱり、覚えてませんよね」

 

「あー、ごめん」

 

 この反応はイエスっぽい。やっぱり会ったことがあるんだろうか。罪悪感が湧いてくる。

 

「いえ! 大丈夫です! 忘れてても、10年前のことですし……」

 

 語気が弱弱しくなっていく様がつらい。これはなんとしても思い出さないといけない。なんだかそんな気がする。涙が出るのを我慢してるような状態の子を前にそんな想いがよぎる。なんとかして慰めないと、安心させないと、そう思い口から言葉をひねり出す。

 

「あー……、必ず思い出すから泣くんじゃない。安心しろ」

 

「……っ」

 

 だけど出た言葉は、なんだか安っぽい言葉に自分でも思えた。こういう時、もっと気が利ける人間だったらなと思う。安心させようとして見栄を張ろうとして、それで出てきた言葉がこんなものとは。それでも

 

「はい……ありがとう、ございます……っ」

 

 なぜだかこの少女は嬉しそうに、涙をこらえながらお礼の言葉を述べた。

 

 その後少女とは別れ、自分の家でひたすら10年前を思い出していた。

 必ず思い出すと宣言したのだし、ちゃんと張った見栄を最後まで通さないとな!

 

「と意気込んだけど、やっぱり思い出せないしなぁ……」

 

 10年前。村のハンターが交代。友人来た。

 

 大きな出来事としてはそれだけだ。俺個人での大きな変化と言えば3つ目の友人が来た。である。

 あの少女の情報は見当たらない。というか情報が少なすぎる……、もっと情報をひりださなければ……

 

「10年前、当時のハンターが最後の大仕事として近隣の大型モンスターを粗方狩ったんだっけなぁ……。ギルド側がそれについていろいろ怒ったとかなんとか。素材はすべてギルドへ。村としてのメリットは大型モンスターがいなくなりしばらくの安全?」

 

 その間にあいつが来て、新しい村のハンターとなった? だったかな。

 

「って違う違う。村のことばっかり思い出してる。俺個人のことを思い出すんだ」

 

 当時は……、ふらふらしてたなぁ……。職につかず。よその村へ行ったり……

 

「そうだ、よく別の村へ遊びに行ってた。その時に会ってた?」

 

 しかし、思い……、出せない……!

 

「そもそも憧れるような出来事があったはず……。ふらりと遊びにきた兄ちゃんに懐く、とはまた違うよな……」

 

 

 

 

 

 結局、その日は思い出せないままだった。

 

 

 

 

 今日は久々にユクモの木を取りに行く。ハンターに頼むという手が最も確実で安心だがいつもいつも頼り切るのもあれだし……、ということでこの仕事は何気に安定している。バイトだけど。たまにファンゴに追われるけど。

 だけど戦闘能力のない村人も自衛手段はもちろん持っている。常にそれを3つ携帯させられるのだ。

 

 そう。こやし玉である。

 

 正直使いたくない。けどその場面になったら使わないとヤバイ。衝撃とともに臭気が発生するため持ち運びもちょっと怖い。簡単な衝撃じゃ大丈夫だろうけどやっぱり不安だ。身の安全の確率を高めてくれる安心感と臭いへの不安が入り混じる希望の玉だ。

 

 今日の作業は5人。5×3の合計15個のこやし玉が俺たちを守ってくれる。襲われても5人一斉にこやし玉を炸裂させるのだ。絶対目に染みるから襲わないでくださいお願いします。

 

「荷車に固定終わりましたー!」

 

「おー! んじゃ運ぶぞー!」

 

 切ったユクモの木を荷車に乗せ、あとは村へ帰還である。無駄話は基本的にない。声を聴きつけてモンスターがやってこないようにだ。

 だけどみんな基本大声である。もっと静かに「荷車、固定、終了」「了解。運搬開始」とかならないのだろうか。

 そんなことを考えながら帰路を行く。周囲にはモンスターっぽい影は……

 

「ジャギィが4匹ほどいます親方」

 

「アレ1個投げとけ!」

 

「はい」

 

 こやし玉を1つ投げる。臭気の色が見えるほどの濃さだ。少し離れてたから今回はよかったけど近かったらと思うとほんとこわい。ジャギィも怖いけどこやしも怖い。

 

「にしてもここのところジャギィ多くなってんな」

 

「そうなんすか?」

 

「ああ、10年前ほどじゃねぇけどな」

 

「え!?」

 

「うるせぇぞ!!!」

 

「すいません!!」

 

 驚きの声をあげたら怒鳴られた。怒鳴り声のほうがうるさいかと……、いや、なんでもないです。だけどそれよりも、10年前という単語を聞くとは。思わぬ情報だ。これは聞かねば……!

 

「そ、それより10年前ってハンターが変わったときですよね。その時は周辺の大型は狩られて……」

 

「ああ、それでドスジャギィがここら辺を縄張りにしたんだよ。あの時は大型はいなくても逆に俺らみてぇな一般人は危険だったぜ。ちょっと村を出ればジャギィ達があちこちよ」

 

 大型がいなくなり、天敵がいなくなったことでジャギィの群れは広がったのか。ハンターも入れ替わり時期で……

 

「それで村は急きょハンターを要請。そして新しいハンターが来てジャギィの数を減らしていったってな」

 

 あいつが村に来た理由はジャギィの増加からの村の要請だったのか……。そういえばジャギィにあの頃遭遇したことがあった気が……?

 もやもやしていた記憶がよみがえったのは村についてからだった。そうだった。

 

「1回あった」

 

「あ? なにが」

 

「あ、いえなんでもないです! ちょっと用事あるんで先失礼します!お疲れさまっした!」

 

「あっ! おい!!」

 

 そうだ。一度だけジャギィの群れに追われて必死に逃げてた。

 その時逃げ込んだ洞窟で、子供と会ったんだ。急に思いだせた。そうだった。

 

 

 

 

 

 

 

 その日、その子供に、嘘をついたんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 10年前、近隣の大型モンスターが狩られ、その結果ジャギィの群れの増加を村で聞いた俺は、ジャギィを完全に舐めていた。

 モンスターとはいえ小型である。ドスジャギィにしてもジャギィの少し大きい程度と思っていた。

 大型がいたころから村の外で危険な目にあったことはなかった。その大型すらもいなくなったのだから危険なんてあるはずないと、みんなが恐れる外に平気に出る自分に優越感を抱いたりした。

 

 そしていつものように村の外へ出てよその村へ向かう途中、ジャギィの群れに遭遇したのだ。ユクモの木で作った木刀を持ってはいたが、ジャギィに見られた途端戦う気力はなくなった。

 自分より小さい相手なのに、こちらを一切恐れていない態度が、目が、牙が怖くてしかたなかった。

 動けないほど取り乱していたわけではなかったので、すぐに逃げた。必死に逃げた。

 そして逃げた先にあった洞窟へ入って隠れようとしたら、

 

「ひっ……、ひぐ…………、ひぅ……」

 

 先客がいたのだ。

 

 小さな女の子だった。泣き声を出さないように声を必死に小さくして身を縮めていた。

 

「うぁ……」

 

 追われてる最中泣きそうになっていたが、泣いてる子の前で大人の自分が泣くわけにはいかない。

 というか大人な俺が来たのだ。村の外に怯えずに出てきた俺が来たのだ。いつまでも不安がられては嫌である。

 

「泣くんじゃない。どこの村から来たんだ? 帰るぞ」

 

 自分なりに優し目に声をかけた。

 

「帰れるの……?」

 

「俺が帰るぞって言ったんだ。お前が家出中でも帰らせるぞ!」

 

「でも、いっぱいこわいのが……。はんたーって人じゃないと、あぶないって……」

 

 大人な俺じゃ不安だというのか。ハンターはこないだしょんぼりしてたぞ。なんか偉い人にお目玉食らったって。引退するつもりだったらしいから問題ない気がしたけどとりあえずしょんぼりしてたぞ。あんな姿に安心して、俺だと不安なんておかしい。

 

 だけど、この子供はハンターがいないと不安なのなら、

 

「泣くんじゃない。俺はハンターなんだ。安心しろ」

 

 握りっぱなしだった木刀を掲げて恰好を付けながら言った。

 

「え……、ほんとう?」

 

「俺は嘘つきが嫌いなんだ。そんな俺が嘘をつくわけがない。だから、帰るぞ」

 

「……うん!」

 

 震える手をつなぐ。この子の前でみっともない姿をさらせない。この子の村の名前を聞いたら移動方法を考えないと……、危険のない方法……。ジャギィが寄ってこない方法が……

 

 

 カチッ! カチッ!

 

 火遊びもしちゃう俺悪もの。みたいな気分を味わうために持っていた火打石を使う。

 その様子を女の子はやや不安そうな表情で見ているが気にしない。きっとすぐに尊敬の目に変わる。

 

「よし、ついた! 行くぞ!」

 

 ユクモ木刀の先のほうに蜘蛛の糸を絡めて落ちている枯れ枝や動物の毛を引っ付けたオブジェ。それに火がついたのだ。

 モンスターでも火を怖がるものがいる。ジャギィたちはそう、だった、はず……

 

「う、うん!」

 

 女の子の手を握り洞窟の外へ出る。今までいた洞窟の落ちてた毛的にアオアシラが使ってた巣だったのだろうか。臭いでもあったのか、おかげでジャギィ達は来なかった。

 

 火が消えないように、女の子が転ばないように、慎重に、だけど素早く、移動する。

 

 茂みが、木の影が、どこからジャギィ達が出るか不安だ。一番はこのまま遭遇せずに村につくことだ。

 

「はんたーさん、そこ!」

 

「くそっ!」

 

 なかなかうまくはいかないらしい。川の近くでジャギィが3匹、こちらを見ていた。

 手をしっかり握りながら、火を確認する。

 大丈夫、まだついてる。

 

 確認してる隙に一気に走ってきたが、火を前にすると怯えるかのように止まった。

 

「さっさとどっか行け!」

 

 弱気にならないように強く言う。じりじり近づこうとするがその都度、火を振ると後ろに下がっていく。

 数分ほど繰り返して、じれて近づいてきた1匹に火が当たる。

 

 その途端一目散に走って逃げていった。それに続きもう1匹も逃げていった。

 

「お前もさっさと行け!」

 

 残る1匹にも火を当てようとして

 

「あっ」

 

 振った勢いで火が川に落ちた。蜘蛛の糸の強度では限界だったようだ。

 

 ジャギィが飛び掛かってくる。思いっきり木刀を振れば、手に痺れが走る。盛大に当たったようだ。ジャギィは吹っ飛んだのか倒れている。絶対痛い。手も痛い。

 だけどすぐに起き上がりまたこちらに向かってきた。

 

「は、はんたーさぁん!」

 

「大丈夫だ! 安心しろ!」

 

 もう一回吹っ飛ばしてやる!

 

 そう思い同じように木刀を降る。今度は、手に痺れは走らなかった。

 

 代わりに来たのは足からの痛みだった。

 

「っ!! こんのっ!!!」

 

 上から木刀をたたきつけて引き離す。

 

「ひぃっ」

 

 またすぐにこちらへ向かってくるジャギィに木刀を振る。また手に感触はない。

 

「畜生がぁぁああ!」

 

 また足に来たジャギィを、叫びながら蹴った。

 少しよろける程度だったが、ひるんだ。今度は動き出す前に木刀をたたきつける。

 

 ぎゃう、といった鳴き声を上げた後、ジャギィは逃げていった。

 

「はんたーさん!」

 

 苦戦してる様子を見てまた不安になってしまったのだろうか。目に涙をためている子を見て俺は

 

「帰れるんだから泣くんじゃない。安心しろ」

 

 少し笑いながら見栄を張った。

 

 それから少しして、無事にその子の村につくことができた。

 別れる最後まで俺のことをはんたーさんはんたーさんと言ってきた。訂正はしないでおいた。

 せっかくかっこよく、とは言えないが見栄を守り通したのだ。最後まで見栄を張りたい。

 

「はんたーさん、いっちゃうの?」

 

「泣くんじゃないっての。俺の家はユクモ村にあるんだしユクモ村に戻るだけだ」

 

「わたしも、はんたーさんみたいになれる?」

 

「どんな時も諦めない心があれば誰だってなれるぞ! ハンターさん嘘つかない!」

 

「じゃあわたしもはんたーさんみたいになる!」

 

「おう!」

 

「はんたーさんみたいになれたら」

 

 あ、この流れは「お嫁さんにしてください」宣言だな。どうしよう親御さんそこにいるのにてれるなぁ。

 

「……がんばったね、ってほめてほしいです」

 

 心の中とはいえ勘違いしたのが超絶恥ずかしかった。だけど取り乱さない、格好つけたままいきたいのだ。

 

「いくらでもほめてやるよ!」

 

 そんなやり取りをテンション高めにして、別れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 10年前の出来事が今更思いだせた。軽い黒歴史みたいなものだ。

 調子乗って危険と言われてたのに外でて、ジャギィに追われて子供に嘘をついてたってどうよ。

 

 いや、子供に嘘をついてたのは安心させるためであって……っていうか親御さんがた絶対俺嘘ついてるってわかってたよね。けど黙ってくれてたのは素直にありがたい。けど成長したあの子に一言「あの人安心させるためハンターって嘘ついてたのよ」とか言ってあげてよ。

 おかげで10年近くハンターの俺に幻想を抱いちゃってたよ。

 

 そんなこと考えながら集会所へ目指す。あの子の姿を探しに。

 

 まずは一言、ほめる? いやそれより先に謝ってからほめる? とりあえず褒める!

 あと嘘ついてたことをちゃんと謝らないと!

 

 集会所を見回したがあの子はいない。クエストに行ったのか?

 

「あの、すいません。あの子……、あ、いやハンターの子はどこ行ったか知ってますか」

 

「はい、ジャギィの群れの討伐に今は出られてますよ。どうしたんです? とうとう弟子をとるんです?」

 

「んなわけないでしょう……」

 

 受付の人から揶揄われたよ。しかし、そうか、クエスト中かぁ。

 戻ってきたら謝って褒めて謝って褒めよう。なんか緊張してテンパりそう。

 

 受付の人にあの子が戻ってきたら教えてほしいと頼もうとしたところ、別の職員の人が受付の人に何か渡していた。

 手紙? なにらぶれたー? 俺も欲しい。

 

「……避難の準備をしてください」

 

「へ?」

 

「あとで村長からも正式な発表をされます。今すぐ避難の準備をしてください」

 

「え、いやちょっと」

 

 俺に伝えながらも何かテキパキと作業をしていく。他のギルドの職員の人もあわただしく動き始めた。

 

「な、なにがあったんです!」

 

「後で村長からも連絡が入ります。今はとにかく避難の準備を」

 

 このあたりにはジャギィくらいしか今はいない。ジャギィ相手に避難? 友人がいないからと言ってもあの子がいる。あの子もハンターだ。アオアシラも狩れるほどの。

 

「避難って、ジャギィからですか!?」

 

 それともまさか、あの子がジャギィにやられたというのか。数の暴力はまた違う力だ。あの子がやられたなんてそんなことない、と以前までならキッパリ言えたが、ジャギィの群れにトラウマとかがあったのだろうか。

 

「まさかあの子がジャギィにやられたんですか!?」

 

 返事をしてくれない受付嬢に問いかける。否定してほしい。けど避難誘導がされるということは……

 

「……イビルジョーです」

 

「は?」

 

「この村の近辺にイビルジョーが確認されたそうです。また、イビルジョーによって食い荒らされた他のモンスターの死骸が多数。周辺の大型はイビルジョーによって捕食された可能性が高く、大型がいなくなると次は人里を狙いかねません。対抗できるハンターは現在この村にはいません」

 

「そういうことですか……」

 

 あの子がやられたわけじゃなかったようだ。危険な状況ではあるがほっとした。

 

「……」

 

「わかりました。避難の準備を進めます」

 

「……あのハンターさんは、現在イビルジョーとの交戦中です。いつまで持つかわからないので、急いで、ください……」

 

 

 

 

 

 今、なんて言った?

 

「イビルジョーと、交戦中?」

 

「イビルジョーと遭遇し、交戦しているとの情報が先ほど入ったんです」

 

「いつまで持つかって……」

 

「彼女の力量ではイビルジョーに退けることは、難しい、とギルドは判断しています……」

 

「じゃ、じゃあすぐにあの子を撤退させないとだろ!? いつまで持つかとかじゃなく!」

 

「おそらく、イビルジョーとの遭遇は村からそう離れていません……。もし彼女が抗戦してなければ、イビルジョーは村に現れているかもしれません。イビルジョーの注意をひく存在が、今この村には必要なのです……」

 

 それは

 

「……囮、としてですか」

 

「……そういう判断を、したのでしょう」

 

 その言葉を聞いて、いてもたってもいられなくなり、すぐに走り出した。受付嬢が何か言いたそうにしていたが、気にする余裕はなかった。

 

「うおっ、どうしたんだそんな慌てて」

 

「俺ちょっと隣村まで遊びにいってくる! みんなにもそう伝えておいてくれ!」

 

「お、おう」

 

 門番気取りの青年にそう言って村を出る。あの子がどこにいるかわからない。

 あの子のもとにいってもイビルジョーの餌が増えるだけだとも冷静な部分で考えてしまう。

 ハンターでもない自分が狩猟の場に来ては逆に足手まといになる可能性のほうが高い。

 

 だけど

 

 

 

『どんな時も諦めない心があればきっとなれるぞ!』

 

 

 

 この言葉が、あの子から諦めを、撤退という道を奪ってたら

 

 

 

『あなたのようなハンターになりたくて、ここまでやってきました!』

 

 

 

 あんなことを言ってしまう子が、俺のついた嘘のせいで、退路を捨ててしまったら

 

 

 

 

「俺の見栄で不幸な結末になんかさせてたまるか! さっさと見つけて、俺に抱いてるその幻想をぶち壊すからな!!」

 

 自身を奮い立たせるように叫んで走り出した。

 

 

 

 

 

 手掛かりはあった。そこら中の木々が倒れている。何か大きなものにぶつかったあとのように。

 イビルジョー。とんでもない化け物らしい。友人いわく、奴の中では自分以外はすべて餌という認識だとか。

 自分の尻尾すら、自分の身から離れたら餌として食べてしまう食欲の塊。

 

 あの時友人から聞いた情報を必死に思い出す。思い出す情報は危険なものばかり。確実に今回は木刀じゃ見栄をはれない相手だなと感じてしまう。

 

「というかこの木の倒れ方じゃ、情報なくても木刀じゃ無理だな……」

 

 時々咆哮のような音が聞こえる。方角はあってる。

 咆哮が聞こえるということは、まだ、大丈夫なはずだ。

 

「無事でいろよ! ぜってぇバカみたいな嘘を信じてやられんなよ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 走る。ただ走る。もう10分近く、咆哮が聞えない。

 

 大きな姿が見えた。

 

 近場の岩の影に隠れてその姿を見る。

 

 対峙してる相手はいない。あの子は逃げてくれた?

 

 だとしたら今度は自分が無事に逃げないと。息をひそめながら離れようとして、気づいた。

 

 イビルジョーの足元に折れた剣が落ちていた。その近くには砕かれた盾が。

 イビルジョーの口元を見れば血が付着している。

 

 

 いや、違う……。ジャギィだ。

 

 近くにジャギィの死骸がある。無残な喰われ方をした、死骸が。あの子ではない。

 

 そのはず。

 

 イビルジョーが地面に顔を近づけだした。

 何を、と思い目を凝らすと血痕が続いている。

 

 逃げたってことか? そして血痕を、追うのか? ジャギィを食べて満足してくれたりは……

 

(食欲の塊か……)

 

 追う。イビルジョーは追ってしまう。血痕を。

 

 だけどそれがわかってどうする? あの子のもとへ先回りして一緒に逃げる?

 無理だ。イビルジョーに気づかれないよう回り込むのも厳しい。

 

 イビルジョーの気を惹いて俺が囮になる?

 

 いっそそれもありかと思った。が、ダメだ。大した時間稼ぎにもならない。それどころかあの子が自分から出てきてしまうのではという不安が芽生える。それだと意味がない。

 自分の尻尾まで喰うやつがジャギィとちっぽけな男一人喰って満足するとも思えない。

 

 そんなことを悩んでる間にイビルジョーはどんどん血痕をたどっていく。

 

(あれは……)

 

 洞窟だ。入口が狭く、イビルジョーの巨体は入らない。その洞窟の入り口まで血痕は続いている。

 あの中に逃げたのだろう。あの中にいれば、ひとまずは大丈夫か。そう安心しかけたが

 

 

 イビルジョーは洞窟に顔を突っ込み、掘り始めた。

 

 

 一気に近づく。

 

 もう悩んでる場合じゃない!

 

 夢中で掘ってるのかイビルジョーは俺には気づいていない。

 

 乱暴な掘り方だからなのか、別の場所から崩れ始めている。

 そこからあの子の姿が見えた。イビルジョーが掘り進めている入口を泣きそうな表情で見ている姿が見えた。

 

 すぐにそこまで走る。イビルジョーにも、少女にもまだ気づかれてない。少女の左手を取り引っ張りあげる。

 

「ひっ、ぁ……」

 

 突然引っ張られて驚いたのか声が漏れたが、気づかれていない。

 そのまま引っ張って逃げる。

 

 

 

「まだ掘ってるみたいだな……」

 

「あ……ぅ……」

 

 ……右腕がひどい怪我だ。見てるだけで痛々しい。

 

「ある程度イビルジョーから距離はとれたし、ここからは慎重に逃げよう。この布傷口にあてて血が落ちないようにな」

 

 服を破って渡す。距離をとっても血で追ってくるのだから対策しないと。

 

「は、はい……」

 

「つらいだろうけど、移動するぞ。いつ別の道の血痕に気づくかわからないから」

 

「わかり、ました……」

 

 表情は暗いままだ。泣いてはいない、けど、いつ泣きだしてもおかしくない。

 安心させるためにまた見栄を張るかとも思った。けどその見栄がこの子をハンターにしてしまったのだ。

 これ以上、見栄を張りたくない。

 

「……ごめんなさい」

 

「何がさ」

 

「わたし、はんたーさんに、なれなかった」

 

 

 ……イビルジョーに追い詰められたことより、憧れた姿になれなかったことを謝っているのか。

 

 

「諦めなければ、なれるって言ってくれたのに、剣が折れて、盾もかみ砕かれて、諦めてしまいました……」

 

「なあ」

 

「ごめんなさい……ごめんなさい……」

 

「俺、ハンターじゃないよ」

 

「……そんなことっ」

 

「あるってわかってるだろ。もう子供じゃないんだし」

 

 子供に言い聞かせるように、優しく言う。

 この状況でもまだ幻想を抱いてるこの子に、事実を言う。

 

「たしかに正式なハンターじゃないけど、あなたはわたしにとって」

 

「君の中での俺は、イビルジョーにも勝てるハンターなのか?」

 

「それは……」

 

「本当の俺は驚くほど弱いよ。モスにも勝てるか怪しいって太鼓判つけられた。ジャギィの時はラッキーヒットが続いたしな。群れで狩猟するジャギィと1対1でラッキーヒット付きでぎりぎり勝ちだ」

 

「それは10年前です……! 今はあのころと違って」

 

「10年前から俺は大人だよ。子供のころの君と違う。10年の間にすごく成長した。それは君で、俺はただ歳をとっただけ。落ち着いたって言ってもいいけど」

 

 もちろん大人になってからでも成長する人だっている。俺は少なくとも強くはなっていない。

 心は若く渋くありたい。

 

「10年前、諦めない心があれば、って言ったけど」

 

 諦めてもいい。というべきだろうか。いや、とらえ方の問題かもしれない。

 

 

 

『まぁあの子が師匠に幻想を抱いてるのは師匠自身の責任でもあるんだし、目を覚まさせるなり夢を見させてやるなり、ちゃんと対応するんだよ』

 

 あいつはこう言ってた。ちゃんと対応、しないといけない。

 どういう対応がちゃんとした対応になるかわからない。だから

 

「勝つだけじゃなく、あがくことを、生き延びることを、諦めない心を持てばいいんだよ」

 

 

 別の夢を、見せてやる。

 

 

「でも……わたしは」

 

 何か言おうとしたとき、咆哮が聞えた。洞窟の中にいないことに気づいた?

 振り向き、歩いた道を確認する。

 

 血は、落ちてない。

 

「まあ話はあとだ。今は逃げるぞ」

 

 血をたどるのは途中までできてもその先は無理なはず。とはいえ、姿を見られたらもう終わりだ。

 

 できる限りまっすぐ見渡せる道は避ける。木の影に、岩の影に、なるように進む。

 

 それで逃げられる。そう思ってたのに

 

 

 

「……っ」

 

 少女の顔がどんどん青ざめていく。怪我が痛むのもあるだろうが……

 足音がどんどん近づいてきてるから、だろうな……

 

「血は落ちてないのに……、バカみたいに勘がいいのか?」

 

 

 思わず愚痴ってしまう。

 

 

「イビルジョーは、嗅覚も、優れているんです」

 

「……」

 

「わたしの血のにおい、覚えたんだと……、おもいます」

 

「そうか」

 

「わたし……が、のこり、ます」

 

 なんとなくそう言うとは思ってしまった。ハンターとして、一般人に被害を出さないように、というつもりなのか。どんなつもりであろうと

 

「なんのために俺がここまで来たんだよ。無駄足になるから却下」

 

 

 そんな条件のむつもりはない。

 

 

「でもこのままじゃ……! 二人ともっ」

 

「却下ー」

 

「この、状況で! 一緒にいてもどちらも死ぬだけです! 諦めるなって、言ったじゃないですか!」

 

「諦めるなって言ったから君も諦めず」

 

「現実的に無理なんです! 二人とも! 生き残るのは!」

 

 

 言い争ってる間にも響く足音が大きくなってくる。

 

 しかしそうか。現実的に無理か。

 

 やっぱり、嘘つきは嫌いだ。

 

 

「大丈夫だ。安心しろ」

 

「なにをっ……」

 

「俺はハンターだからな」

 

「そんなわけ……!」

 

 涙を流しながら睨み付けてきたが、抗議はあとでいくらでも聞くとも。

 着替えずに仕事着のままで助かった。ポケットには兵器が入ったままだったのだ。

 

 兵器に手を伸ばしすぐそばまで近づいていた顔面に、盛大に投げつけるっ!!

 

 イビルジョーはその瞬間うめき声をあげて大きく後ろに下がった。

 

 さすがわれらの希望の玉。

 

 

 こやし玉だ。

 

 

「よしいくぞ!」

 

「えっ、まっ」

 

「俺はハンターだぞ! 正式なハンターじゃない! だけどあの時も今も、ハンターだ!!」

 

 自分でも思いつくままに叫ぶ。現実を見始めた子に、別の夢を見せてやる。

 今度は泥だらけでかっこ悪い、幻想を!

 

「イビルジョーを狩猟する! そのための準備を急ぐぞ!」

 

「そんなことできるわけない!」

 

「諦めない心があればハンターになれるって言っただろ! 俺はあきらめてない! 君はどうなんだ! ハンターか!? ただのかよわい女の子か!?」

 

「わたしは……」

 

「ただの女の子ならまっすぐ村に戻れ! もしハンターなら」

 

「わたしも! ハンターに、なれますか……」

 

「諦めなければ、な!」

 

「は、はい!!」

 

 

 ハンターが二人、ここにいるのだ。ただの獲物じゃない。

 反撃の準備の、開始だ。

 

 

「ではまず!」

 

「はい!」

 

「服を脱げ」

 

「はい! ……はい?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イビルジョーはただ空腹だった。

 この付近の大きな肉は食べたがすぐに空腹は訪れる。何か餌を探し回ってたところ小さい餌があった。

 その小さい餌は動き回ったが、爪のようなものが折れ、岩のようなものをかみ砕いたら小さな穴に逃げ込んだ。

 

 穴からは逃げられたが、その時の餌のにおいを覚えおいかけた。すると餌は別の餌といるではないか。

 迷わず捕食しようとしたら、餌に何かをぶつけられた。

 とんでもない臭いで、苦しんだ。

 気づけばまた餌に逃げられた。

 

 イビルジョーは怒った。餌を追うにも先ほどのにおいのせいで鼻がまだうまくきかない。

 ただ動くものを探して渓流を歩き回る。

 

 しばらくしてようやく鼻が利き始めた。

 

 すぐににおいを探す。においは二つあった。

 

 一つは最初の餌のおいしそうなにおい。

 もう一つはあの顔に当てられた異臭。

 

 別々に別れたようだ。

 

 一瞬、あの異臭への怒りを思い出したが、空腹を満たすのが先決だと判断した。

 異臭は歩きにくそうな茂みの中に続いているが、おいしそうなにおいは坂道に続いている。

 

 坂道を上りおいしそうなにおいのする餌のもとへ走る。

 異臭のする餌はいないのだろう。ならすぐに喰える。

 

 上った先に餌はいた。足場は狭いがそんなことは気にならない。空腹を満たすことが優先なのだから。

 

 近づき、喰らおうとするも、壁のほうへ逃げられた。

 まだ逃げる元気がある。

 

 だけど最初のころよりはるかに遅い。問題なく喰える。

 

 

「モンスターにもあるんだな。油断とかって」

 

 何か鳴き声を出した。気にせず口を開けて近づこうとした。

 

「あとは、これにもう一度驚いてくれよ!」

 

 口にまた、異臭のかたまりがぶつけられた。

 思わず後ろに下がる。

 

 しかし後ろには何もなかった。地面が。そのまま落ちていく。怒りが満ちていく。

 この落ちていく感覚が終われば今度こそあの餌を喰う。絶対に喰う。

 

 そして近づいてくる地面を見えてきた。

 

 イビルジョーは、脚から着地した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 正直ここまでうまくいってくれるとは思わなかった。

 あの子と服を交換して、少しでもこちらへ来る確率をあげたかった。

 うむ、言ってしまえばハンターのコスプレ状態である。しかも女ハンターの。ヤバイ。

 

 あの子にはこやし玉を常に持ってる作業着を着てもらい、イビルジョーが追いづらそうな道を行くようお願いした。

 抗議されたが真剣な顔で説得した(女装しながら)。ヤバイ。

 

 そして渓流の岩棚になってる場所で待ち伏せ。壁を背にし、イビルジョーが崖側になったところをこやし玉さま大作戦だ。

 

 この高さから落ちたらさすがに……ねぇ?

 

 

 しかし、咆哮が聞えた。

 

 

「しぶとすぎるだろう!?」

 

 崖下からの咆哮。どういう生命力だよあいつ……!

 もう完全にお手上げだ。村に逃げるか、どこかに隠れるかしてやり過ごさないと……。

 村はもう無人になってるだろう。村に戻ってにおいをごまかすしかない。とにかく少女と合流して逃げなければ……

 

「大丈夫でしたよ」

 

「へ?」

 

 いつの間にか少女がそばに来ていた。

 合流できたのならばすぐ逃げないと……。しかし大丈夫とはいったい

 

「イビルジョー、まだ生きてますが動けなさそうです」

 

「動けない?」

 

「脚がひどい折れ方をしてました。たぶんもう歩けないかと」

 

「あの脚が……、というか見に行ったのか!?」

 

 はい、という少女に少し焦ったが、なるほど。あの脚が折れて……。

 前脚もあるがイビルジョーは2足歩行だ。動けないなら後脚だろう。

 

「ということは」

 

「はい、ちゃんとした討伐とは言い難いかもですけど討伐完了です」

 

 

 

 

 

 

 

 こうして、イビルジョーの狩猟が終わった。

 

 

 村に戻れば無人ではなく、村人が全員残っていた。逃げろよ。

 だけどなんで逃げなかったかは聞く元気がない。安心感が一気に来たのか、正直疲れたし、村について早々眠ってしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「師匠師匠。お疲れさま」

 

「うっせ。肝心な時にいなかったからおかげで大変だったんだぞ」

 

 家に友人が訪ねてきた。緊張感のない顔してきたので少し嫌味を言ってしまったが、たぶん気にしないだろうこいつ。

 

「それを言われるとつらい。私もその時いればなぁ」

 

「あ、いやすまん。事故だったし気にすんなよ」

 

 まさか気にするとは。意外に繊細な面があるのだろうか。

 

「その時いれば師匠の女装姿を見れたんだよね。見たかった」

 

「ちくしょうが!」

 

 

 あの時疲れてたのと村は無人だろうという油断から、すぐに村に戻ったのだ。

 そして村についてすぐ眠ってしまったわけで、盛大に30のおっさんの醜い女ハンター姿が村人に見られたのだ。

 っていうかなんで広まってるの? いなかったこいつにも話がいってるってことはだれが広めたの?

 近年まれにミラー裏切りだよ? イビルジョー狩猟した英雄だよ?

 

 

「まぁなんにせよ、おつかれさま」

 

「あーもう、どうも」

 

「まぁ女装うんぬんは置いておいて、見てみたかったよ」

 

「何をだよ」

 

「あの子の英雄の姿?」

 

「くっそ恥ずかしいからやめて?」

 

「でも聞けば聞くほど英雄譚じゃん。心折れた自分を叱咤してくれたとか、策でイビルジョーを狩猟したとかもうずっとしゃべるよあの子」

 

「言いふらしてる犯人あいつか!!」

 

「嫌がらせじゃないんだしいいじゃん」

 

「よくねぇよ!?」

 

 嫌がらせじゃないことはわかるけど恥ずかしいわこのままじゃ村の外まで広まるんじゃないのこれ。英雄譚部分だけでも恥ずかしいんだけど! それと女装ハンターも痛々しいんだけど!?

 

「ししょーー! お見舞いにきましたー!」

 

「お、噂をすればお弟子さんですよ師匠」

 

「弟子じゃねぇよ!」

 

「あ、先輩も来てたんですね! ししょー腰は大丈夫ですか!」

 

「大丈夫だけど心は大丈夫じゃねぇよ!」

 

 

 実は腰を痛めました。長時間運動して最後は倒れるように眠ったのですが、倒れるようにっていうか倒れてその時打ち所が悪かったのか、腰が痛いノデス。療養中なのに優しくない環境な気がするよ……

 

 

 

「まぁお弟子さんも来たことだし私はこれで~」

 

「あ、先輩!」

 

「なんだいなんだい」

 

「わたし、弟子じゃないですよ。それに、もう弟子になろうとはしてません」

 

 

 友人が少し驚いた顔をした。そのことを指摘しようにも無理だった。俺も驚いた顔をしてるよきっと。

 

 

「わたしは、はんたーですから!」

 

「まぁよくわからないけどよくわかったよ。まぁごゆっくり?」

 

 

 そう言いながら退室していった。絶対わかってない。俺もわかってない。

 

 

「ししょーは大丈夫ですか? おなかすいてません? こんがり肉焼きましょうか?」

 

「チョイスがワイルドだなあ。弟子じゃないのに師匠呼びなのな」

 

「はい!」

 

「まあいっか……」

 

「ししょーししょー」

 

 何か期待する目でこちらを見ている。

 弟子入りはもうする気ないって本人言ってたけど、何を……?

 

「……?」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 だんだん落ち込んできた気がする。気のせい、じゃないだろうなぁ。いったいなんだ……?

 

 

 

「あっ」

 

「……」

 

 

 もしかして、これだろうか。

 でも違ってたら恥ずかしいなあ。

 

 でも、嘘つきは嫌いって言ったしな。

 嘘にしないためにもやろう。これ以上、嘘はつきたくない。

 

 

 

「がんばったね」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 




登場人物の名前は考えてません。
ないほうが案外妄想広まってくれるかなあとか思いましたので。

強いて言うなら「師匠」「友人(先輩)」「少女」

登場人物少ないですからいけますよ。うん。

装備に関しても想像に任せるスタイル。
ちなみに好きな装備は女ハンターのジンオウEX一式です。
関係ないけどジンオウEX広まって。

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