セシリアに生まれたオリ主がなんとかして一夏を落とそうとするけど中の人が違う面々のせいでなかなか落とせないIS   作:キサラギ職員

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最終話 未来

「セシリアお嬢様。あなたには、私に復讐する権利がある」

 

 メイド服ではなく、私服の、地味な衣服を纏ったチェルシーが、車椅子に腰掛けたセシリアに拳銃を差し出していた。

 全てが終わった後のこと。セシリアは病院にふらっと現れたチェルシーが話がしたいと言われたので、屋上にやってきたのであった。

 

「私の妹は―――無事でした。企業連が崩壊して、東欧奥地の施設からやっと取り返すことができた。これもあなたがた学園が健闘してくれたお陰―――そして、セシリア。あなたは、私に報復する権利がある」

 

 セシリアは、無表情のチェルシーが差し出してきた拳銃を握った。

 

「やっぱり、そういうことか………エクスカリバーには妹の……エクシアが使われてると思ったけど、“こっち”じゃ使われてなかったのか。ドッキングした時も、コアの反応がなかったしな」

「あなたはどこまで知っているのですか。両親を殺そうとした企みも知っていた。パルヴァライザーの正体に一番最初に気がついたのもあなただ」

「今は何も知らないよ。今は、歩く能力を失った、ただの女だ」

 

 セシリアは銃を―――撃たず、スライドを握ってつき返した。

 

「チェルシーこそ、俺に復讐する権利がある。この場で撃ち殺してくれてもいい」

 

 チェルシーは銃を受け取ると、しかし撃たなかった。くるりと踵を返すと、銃をしまって歩き始める。

 

「妹が待っていますので」

「そうか」

「止めないのですか」

「止まらないだろ。お前が抜けた穴はそうだな、新人のメイドが入りそうだから、その子に埋めて貰うさ」

「………もう二度とお会いすることはないでしょう。さようなら」

 

 チェルシーとすれ違いに、織斑一夏が屋上にやってきた。チェルシーを暫く見ていたが、セシリアの元まで歩いてくると、車椅子の取っ手を握った。

 

「よかったのか。ここでやっておかなければ、後々怨恨を残すかもしれん」

「戦場じゃあるまいし、銃なんて撃ったら大騒ぎになるでしょ……なりますわ」

「その口調、普通にしてくれてもいいんだぞ」

「一夏には勝てないな」

 

 セシリアは目をぐしぐしと擦った。

 

「泣いてるのか」

「もう会えないなんて、悲しいなって」

「メシを食いに行くか」

「急になんだよ……」

「こういうときは空腹感を満たせば心も満たされると聞いた」

「肉を所望する。連れて行ってくれ」

 

 セシリアは車椅子を押す一夏を見上げて、にっこりと笑った。

 彼女は、多くのものを失っていた。特攻兵器の襲撃で両親を失った。自らの手で、綺麗な髪の毛を切って、セミロングになった。パルヴァライザーと融合を果たした後、零式月光剣のアポトーシス・プログラムにより強制停止させられたために、脳と神経に異常をきたし、歩くことが出来なくなった。それでも無事に生還できたのは、束が事前に帰還用のロケットを月面に設置していたためだった。

 皆が多くのものを失った。それでも、前を向いて歩き続けなければならなかった。

 

「外出許可は貰ってある」

「準備が良いな」

 

 一夏に押されて、セシリアは病院を出た。

 

「あ、来た来た。おーいせっしー!」

 

 ボーイッシュな服装に身を包んだシャルロットが病院前で待っていた。洒落たキャスケットに薄サングラスを決めている様は、見るものが振り返る可愛さである。

 

「おっそーいお腹空いちゃった~」

 

 鈴音が同じく待っていた。車のボンネットに体をもたれてリラックスしている。

 

「待たせたな」

 

 ワンボックスカーの運転席にはサングラスに煙草を咥えたラウラがいた。

 

「え、えぇぇぇぇぇ………なにこれ」

「何とは?」

「準備良すぎない?」

「生徒会長きっての提案ということらしい」

「二人っきりがいいのに……」

 

 ぶつくさ文句をたれるセシリアは、ごくごく自然に一夏に抱きかかえられた。後ろではシャルロットがワンボックスの後ろに車椅子をしまっていた。

 

「いざ出発だ―――戦場へ」

 

 店についてみると、そこはビアガーデンのような場所であった。なぜかコックの姿をして待っていた生徒会長その人が両手を広げていた。

 

「Welcome!!!!!!」

「ああこうなりゃヤケだ! いくらでも食ってやるよ!」

 

 セシリアがヤケになって大食いをしたはいいが、いつまでたってもペースの衰えないラウラに撃沈されたとか。翌日腹痛を起こしたとか。そんな日常だったという。

 

 

 

 

 

『人類の皆様。このメッセージが再生されているということは、私は既に死亡している。企業連が解体され、インフィニット・ストラトスと呼ばれる兵器も永久に沈黙した。だけど、これで終わりじゃない。全てのものに始まりがあっても、終わりなんてないんだ。人類にはまだ多くの脅威が残っていることを知って欲しい。それは木星にあるかもしれないし、あるいは、外宇宙からの侵略者かもしれない。今回の騒動で人類が一致団結して戦うことはできると証明されて、本当に嬉しい。決して油断しないで。外の世界には、我々の想像することもできないくらいのたくさんのものが広がっているから。君たちならば、きっと乗り越えられると信じてる。じゃあ、そろそろ録音を切るね。人類に、黄金の時代を……』

 

 ある日、そんなメッセージが篠ノ之束の名前で放送された。調査によると、インフィニット・ストラトスが機能停止することがトリガーになっているということだけが判明したという。

 人類史上類を見ない戦い―――『インフィニット・ストラトス戦争』はこうして幕を閉じた。人類は全てのISを失い、それでも、前に進んでいく。

 

「産気付いたそうだ!」

「はい?」

 

 ある日のことだ。一夏の声にセシリアが振り返った。切ってしまった髪の毛をまた伸ばし始めたのか、セミロングが若干長くなっていた。

 

「姉さんが産気付いたそうだ! 早く病院にいくぞ!」

「マジか。わかった。連れて行ってくれ」

 

 セシリアは、お嬢様らしい口調の一切をやめていた。素の口調でそう応対すると、車椅子で玄関に直行する。バリアフリーがほどこされた織斑邸に併設された車庫まで、二人は急行した。

 法定速度ギリギリの超特急で病院まで向かっていき、病院に着くなり二人は飛び出した。もちろん歩くことのできないセシリアを、一夏が車椅子を押していくということで。

 

「織斑一夏です。ここに入院している織斑千冬の家族です」

「そちらの方は……」

「妻です」

「セシリア=オルコット………ごほん、セシリア=織斑だ……です」

 

 妙に恥ずかしがりもごもごと発音するセシリアとは対照的に、一夏は真顔であった。セシリアは、指にはまった指輪をしきりに撫で付けていた。

 二人は病室に急いだ。

 

「元気な男の子ですよ」

 

 部屋に入るなり、医者がそう言葉をかけてきた。病室のベッドには、白いタオルに包まれた赤子を抱いた千冬がいた。隣には夫たる男性もいた。

 

「一夏………出産がこんなにつらいなんて思ってもみなかったよ………そうだ、名前は考えてきてくれたな?」

 

 千冬が一夏とセシリアの姿を認めると、疲れ切った表情で微笑んだ。

 一夏は千冬の腕に抱かれている赤子を、壊れ物を扱うようにそっと覗き込んだ。

 

「ああ、決まっている。名前は―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「へへへへ……ちょっとぐらいいいじゃんかよなあ?」

 

 日本の片隅。歓楽街の、路地裏にて、三人の男が一人の女性を囲んでいた。女性はすっかり怯えきっており、男たちに壊されたらしい携帯端末の残骸を見つめていた。

 

「こんなヒラヒラなカッコしてンだから遊びに来たんだろ?」

「そうだよなぁ?」

「ち、違います、私は、ただ……」

 

 女性が腕を掴まれた。壁際に追い込まれ、その服に手がかかる――。

 

「待てぃッ!」

 

 路地裏に声が高らかに響く。男三人組が振り返ると、そこには、木刀らしきものを担いだ、仮面の人物が仁王立ちしていた。街の灯りが逆光となり、輪郭が曖昧になっていた。

 

「なんだてめー!」

「貴様らに名乗る名などないッ!!」

 

 仮面を被った人物は高らかに言い放つと、あっという間に距離をゼロにしていた。ものの数十秒と立たずに三人組を木刀でなぎ払うと、女性の手を掴んで立たせる。

 

「あ、あの、助けてくれてありがとうございます………お名前を聞かせてもらってもいいですか……?」

「名乗るほどのものではない。この街もIS戦争以降、ああいう輩が増えた。気をつけることだ」

 

 仮面の人物はスタスタと歩き始めた。誰かの通報を受けたらしいパトカーのサイレンが近づいてきていた。

 

「あれ……いない?」

 

 女性がパトカーのサイレンの方向に目を向けたその一瞬にして、仮面は消えていた。

 

 IS戦争以降誕生した数多くの都市伝説のうちの一つ。仮面のヒーローがいる、というものがある。

 仮面は、どこからともなく現れて、悪人を成敗するのだという。

 女性は、その姿を思い出そうとした。暗闇の中で浮き上がったシルエットを。

 

「女の人……だったんだ」

 

 

 

 

―――???? To the next story!




これでこの物語は完結になります。
思えば二年かかってしまいました。当初やりたかったことは全部出来ました。ハッピーエンドで終わらすのが好きなので、このエンドは執筆当初から決まっていました。
TS好きをこじらせた作者の作品についてきてくださった皆様方に感謝を。

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