「別れ」の物語   作:葉城 雅樹

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なんとか間に合わせました。
年内最後の投稿になります。


終節 「二人の武人」は戦いの果てに何を見るか

「勝者、宝蔵院胤舜!」

 

 勝負の決着を宣言したわたしは走って二人のところに向かう。

 

「書文先生! 胤舜!」

 

「マスターか。お主ならば分かっているとは思うが回復は不要だ」

 

 そうだろうとは思っていた。

 恐らく書文先生の傷は、メリィの修補すべき全ての疵(ペインブレイカー)や婦長の我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)、アイリさんの白き聖杯よ、謳え(ソング・オブ・グレイル)と言った回復宝具で対処可能だろうし、そうすれば退去までの時間に余裕を持たせることもできるはずだ。

 だが、彼も胤舜もそんなことは望まない。命を懸けて戦ったのに、決着後にどちらも生きているなんて、茶番もいい所だからだ。

 

「李書文……おまえ、そのまま逝くのか」

 

「応よ、仮にお主が倒れていたとしても同じことを言っただろう?」

 

「……違いない。真剣勝負に負けたのにのうのうと生き残るのは筋が通らないからな」

 

 そう言って二人は顔を見合わせ微笑を浮かべる。同じ武に生きた者同士、通じ合うところがあるのだろう。

 

「宝蔵院、最後にひとつ聞かせてくれ」

 

「聞こう」

 

「最後の儂の渾身の一撃、お主()()()()()()ずらした?」

 

 それはわたしも気になっていたことだ。あの瞬間、わたしはどちらの槍も確実に霊核を貫く、と思った。だが結果はそうはならず、胤舜の槍のみが書文先生の霊核に届いたのだ。

 

「俺もあの一撃を見た時は死を覚悟した。だからこそ、三段突きの狙いを即座に、僅かながらずらしたのだ」

 

「なるほど。高速の三段突きのうちの二撃を儂の槍にかすらせ無理矢理軌道を変え、さらに残る一撃もずらしたために、儂の致命傷を躱す動きに追いつき、霊核(しんぞう)まで届いたということか」

 

「えーと、つまり胤舜が死を回避するために自分の突きの狙いをずらした結果、書文先生の槍の狙いを無理やり外させて、更に突きが胸に届かないように体を動かしていた書文先生の胸に届いたってこと?」

 

 書文先生の言ったことへの理解が怪しかったので、自分なりに内容を噛み砕いて口に出し、それが正しいかどうかを確認する。

 

「そうなるな、俺もここまで上手くいくとは思わなかったが」

 

「謙遜はよせ、宝蔵院。その槍の狙いのずらし加減はまぐれで出来るものでは無いだろう。儂には、お主が()()()を読んで狙いをつけたように思えたが」

 

「確かにその通りだとも。だが、咄嗟の対応なので上手くいく確証がなかったのもまた真実だ」

 

「そうか、やはり儂の読みが少し甘かったようだ。だが、だが宝蔵院この闘いはとても愉しめたぞ! 最後の相手がお主で良かった」

 

 そう言った瞬間、書文先生は再び血を吐き、霊基の消滅が始まる。わたしは思わず彼の名前を呼ぶ。

 

「書文先生!」

 

「……どうやらそろそろ時間のようだ。マスター、お主のサーヴァントとして召喚されたのは儂にとって僥倖だった」

 

「わたしも貴方に会えて、共に戦えて良かった。本当にありがとう、書文先生。さようなら!」

 

「うむ、儂の方こそ礼を言うぞ。此度のことも今までのことも含め、お主のお陰で存分に戦えた。さて、いよいよこの体も限界らしい。ではさらばだ立香、我がマスター!」

 

 その言葉と共に彼は満足そうな表情で消滅した。

 つまるところ霊基消失。本来ならば再召喚は可能だがすべてが終わった今、サーヴァントと結んだ縁を記録したデータは既に厳重保管に移されているために、再び召喚したとしても記憶は引き継がれなくなっている。つまり、今回の退去は全て今生の別れに等しいのだ。

 

「李書文は逝ったか……」

 

 サンソンによる腕の傷の応急処置を終えた胤舜の言葉に軽く頷きを返し、わたしは再びマイクを手に取る。

 

「これにて、対決は終了です。観客の皆さんはゆっくりとシュミレーションルームより退出してください」

 

 これでわたしの仕事は終わりだ。胤舜、と彼に呼びかける。

 

「では、行くか」

 

「うん、行こう」

 

 そうしてわたしは彼と共に管制室に向かって歩き出した。

 

 ――神槍 李書文、退去完了

 

 

 

 

 

「そう言えば胤舜、勝ったら話したいことがあるって言ってたよね?」

 

 管制室に向かう途中の廊下でわたしは彼に問いかける。

 

「うむ、確かにそう言った。だが、まだその時ではないようだぞ」

 

 彼は正面を指しながらそう言った。指された方角を見てみるとそこには一人のサーヴァントの姿があった。

 

「胤舜殿お疲れ様! さっきの試合、バッチリ見させてもらいました。貴方も書文殿もとにかく凄かった、正直今胤舜殿と闘いたくて堪らないんだけど、ここは我慢すべきよね」

 

「武蔵か。驚いた、おまえの辞書に我慢という文字があるとはな。だが、これも覚えておけ、我慢とは口だけではなく体全体でするものだ」

 

 武蔵ちゃんの方を見ると、口では我慢我慢と言っておきながらその手は鯉口を鳴らしていた。

 

「武蔵ちゃん……」

 

「あはは……。立香もお疲れ様、見届けるの辛くなかった?」

 

「大丈夫だよ、書文先生も胤舜も望んでやったことだし、マスターである以上見届けたかったからね」

 

「君はそういう人間だったね。うん、少し安心しました!」

 

 ニッコリと笑う武蔵ちゃん。彼女の笑顔は元気を与えてくれるような明るさがある。

 

「ところで武蔵。こんな所にいるということは、拙僧に何か用があったのではないか?」

 

「そうそう、肝心の要件を忘れてました! お世話になった胤舜殿に最後の挨拶をしておきたかったのです! だいたいの人は朝のうちに済ませちゃったと聞いたから、今になってこうしてここで待ち伏せしてたってわけ」

 

「なんだ武蔵、待ち伏せはともかく挨拶などおまえらしくもない」

 

「私、ここに来る前は世界のあちこちを神隠しのごとく不定期に飛び回るような生活をしてたから別れの挨拶を出来る機会は大切にしてるの。だかららしく無いとしても挨拶はきっちりさせて貰います。宝蔵院胤舜殿、今までありがとうございました。かつて噂に聞いた生涯無敗の槍術に何度も感服させられました、ここでもあなたに会えて本当に良かった」

 

 その言葉はわたしに、以前彼女と()()()()()が初めて出会った時の言葉を思い出させる。あの時も武蔵ちゃんは改まって彼の武術を褒めていたっけ。

 

「ふむ、では拙僧も礼には礼を持って返すとしよう。新免武蔵守藤原玄信殿、まず最初に貴女を武蔵ではないと疑ったことについて改めて謝罪をさせて頂きたい。貴女の武術は紛れもなく二天一流の宮本武蔵のものだった。そして幾度かの手合わせ、交流に関して感謝を。拙僧も貴女に会えて本当に良かったと思う」

 

「じゃあ堅苦しいのはここまで! 胤舜殿、さようなら! また縁があったら会いましょう」

 

「そうだな、武蔵。おまえも達者でな!」

 

 そうして二人は手を振って別れた。以前の突発的な別れからの殺し合いではなく、こうしてきちんと挨拶を済ませて二人が別れられたことがわたしにはとても嬉しく感じられた。

 ふと前を見ると管制室の前まで来ていた。武蔵ちゃんと胤舜と話していたせいで全く気づかなかったのだけども。

 

「ところでさっきの話だが、管制室に着いた故詳しい話は入ってからにするが話す内容だけ先に伝えておくとしよう。()()()の話だ」

 

「え?」

 

 思わず聞き返したが、胤舜は先に管制室に入ってしまっていた。

 一方わたしは、胤舜から出た「下総国」という言葉に衝撃を受けて完全にフリーズしている。

 何故、胤舜からその言葉が――。思考回路はその事でいっぱいになってしまっていた。

 

 

 永遠にも思える硬直を終えて、ようやく平静を取り戻したわたしは管制室に入る。まだ彼の言葉にどう答えるかは決めあぐねているが、それでも進まないといけない。

 

「遅れてすみません、少し固まってました!」

 

「? 先輩、時間的にはまだ大丈夫ですよ」

 

 先に来ていたマシュにそう言われたので手元のデバイスの時計を見ると時間はほとんど立っていなかった。体感時間というのはなかなか当てにならないなと思う。

 

「では、早速作業を始めていこうか、藤丸候補生。宝蔵院さんはどうされますか?」

 

 カルデアの技師であるダストンさんが声をかけてくる。彼は人理焼却の時からずっとカルデアにいた職員の一人だ。そのせいか未だにわたしのことを藤丸候補生と呼ぶ。本人に一度何故未だに候補生呼びなのかと聞いてみたが、候補生呼びが馴染みすぎて変えにくいらしい。そして、彼はかなりの期間この施設に務めてきたというだけあって能力がとても高い。

 

「拙僧もマスターと話したいことがあるので一緒に同伴させて貰いたい」

 

「わかりました。ではこちらへ」

 

 そう言っていつもの作業場所に案内される。

 

「それでは作業は基本的にこっちで進めておきますので我々にお構いなく話をしておいてください。それと分かっているとは思うが、藤丸候補生は令呪のある手を台の上に乗せておいてくれ」

 

「分かりました。ダストンさん、宜しくお願いします」

 

「任せてくれ」

 

 さて、どういって切り出そうかと思いながらわたしは胤舜の方を見やる。至って平然としている彼の様子を見てわたしは、普通に話を切り出すしかないと思い彼に話しかける。

 

「じゃ、話を再開しよう」

 

「うむ、ではまずはおまえが最も気になっていることについて答えようと思う。何故俺が下総国での出来事(知りえないはずのこと)を知っているかいう疑問についてだ。結論から言おうか、拙僧が武蔵に聞いたのだ」

 

 出てきた名前はまたまた意外なもの。だが逆に一番当然であるとも言えるものだった。理由は明解、あの下総国での胤舜殿を詳しく知っているのはわたしか彼女しかいないからだ。しかし、約束こそしなかったが、わたしも彼女も胤舜にあの時あの場所で起きたことを気安く言えるはずがないのだ。

 

「どうして武蔵ちゃんがそれを言ったの? あとそれはいつの話?」

 

「時期としてはまだすべての問題が解決する前の話だ。そして、武蔵が拙僧にそれを教えてくれた理由だが――」

 

 胤舜は下総国のことを知った時の出来事を話し始める。

 

 

 

 

『胤舜殿、手合わせしましょう! 負けた方は勝った方のお願いひとつ聞くって感じで!』

 

『またいきなりだな。手合わせ自体は構わないが、一つ聞こう。何故そのような条件をつける?』

 

『そっちの方が緊張感あって良いでしょう?』

 

『いや、違うな。正直に言えば考えてやらんこともないぞ』

 

『実は今月少しお金使いすぎちゃってね、でも今ものすごく食堂のスペシャルうどんが食べたい気分だから勝って奢ってもらおうかなーって』

 

『はぁ、そんなことだろうとは思っていたが……。仕方ない、その勝負乗った! 無論勝つのは拙僧だが』

 

 

 

「と、その日はこのような流れで手合わせして、拙僧が勝ったのだ」

 

「何というか武蔵ちゃんらしい感じのエピソードだね。でもこれがどういう風に下総国の話に繋がるの?」

 

 カルデアのサーヴァント達には給金として月に一定額と成果に応じた追加額のQPが配給されることになっている。だが、武蔵ちゃんのような金遣いが荒いサーヴァントは月末になると金欠に苦しんでいたりするのだ。

 だからこのエピソードは非常に彼女らしいのだが、口にも出した通り下総国の話との繋がりがまるで見えない。

 

「そう、下総国の話が始まるのはここからだとも。ともかく、拙僧が戦いに勝った後に武蔵が呟いた一言が発端だったのだ」

 

 

 

『くっそー、()()()()()屁理屈で押し通れないほどの完敗か。仕方ない、スペシャルうどんは諦めよう』

 

『ん? 前みたいに? 確かにおまえとは何回か手合わせしたが、屁理屈で勝ちを無しにされたことなどなかったはずだが……』

 

『やばっ、()()胤舜殿は知らないんだった! 今のは忘れてくれない……かな?』

 

『……ほう、大体読めたぞ武蔵。では勝者の俺からの頼みを述べるとするか。おまえの知っている()()()()()宝蔵院胤舜について知っていることをすべて教えてくれ』

 

『しまった……。仕方ないか、こうなった以上話すけれども、覚悟はいい? あなたからしたら辛い話もあるかもしれないから』

 

『大丈夫だ、聞かせてくれ』

 

 

 

「事の顛末はこういう訳だ。これ以降武蔵から聞いた話は立香、おまえもよく知るところだろう」

 

 そう、わたしは知っている。

 あのとても頼りがいがあって優しい宝蔵院胤舜を。

 あのとても怖くて、恐ろしい怪物の宝蔵院胤舜(ランサー・プルガトリオ)を。

 

「……そっか、知ってたんだ」

 

「もう少し早めにこの話はしたかったのだが、中々勇気が出なかったのだ。言っておくが悪いのは武蔵ではない、全ては我を通した拙僧の責任だ。おまえ達が気を使って隠してくれていたことを暴いてしまったのだからな」

 

「分かってる、武蔵ちゃんのせいじゃないよ。わたしだってこれまで何回か怪しい発言しちゃってるしね。それに、胤舜も悪くないよ。自分の知らない自分というのを知りたがるのは当然の気持ちで、わたしだって同じ立場ならそうしただろうし」

 

「……実はここからが本題なのだが……」

 

 そう言って胤舜は少し距離を置いて、槍を壁に立てかけてから地面に膝をつく。

 

「本当にすまなかった!」

 

 その言葉と同時に胤舜が行ったのは土下座だった。日本に古来から伝わる最上級の謝罪方法。それを胤舜は行ったのだ。

 

「何やってるの胤舜! そんなに気にしないで、頭をあげて!」

 

 余りの衝撃に思わず語気が強くなってしまう。

 

「立香、こうでもしないと俺の気は収まらない。一度しっかりと逃がすと約束しておきながら敗北し、霊基を歪められたとはいえあろう事か守ろうとしたもの達を殺すために襲い、姿を隠したからと言って二つの村で虐殺を行った! 仏に仕える身でありながらそのような行為をしてしまった自分を俺は許せないのだ! おまえに許してくれというつもりも許してもらうつもりもないが、どうかあの時の行為を謝らせてほしい!」

 

「でもあの時の胤舜は今の胤舜とは違うし、宿業を埋め込まれて霊基を歪められてたんだよ!?」

 

「それでもだ! 例え仕方なかったことだったとしてもこうでもせねば俺は自分を許せない!」

 

「胤舜……。…………胤舜はそう言うかもしれないけどね、わたしからしたらやっぱり胤舜は悪くないんだよ。全滅を避けるために六騎もの英霊剣豪からわたし達を逃がしてくれて、おぬいちゃんの気遣いを受け取りつつも水を残してくれて、そして宿業を埋め込まれて以降も最後まで逃げろと警告してくれて、血の涙を流しながら自分を殺せと言ってくれた貴方は絶対に悪くない! ……だからね、胤舜。どうかそんなに気を病まないで、顔を上げて欲しいんだ」

 

 わたしは彼に思いの丈をぶつけて手を差し伸べる。気づけばわたしの目からは涙が零れていた。

 

 そして、胤舜はわたしの手を掴み、立ち上がる。

 

「すまない、俺も少し気が動転してしまったようだ。マスターにここまで言わせるなどサーヴァント失格だな……」

 

「ねぇ、胤舜。やっぱり英霊剣豪の時の自分のことは許せない?」

 

「それはもちろんだ。だからこそ、償いと言う訳では無いが、知って以降は全力以上の力を注いで特異点での戦いに望んだとも」

 

「うん、やっぱりそっちの方がいいよ。胤舜は、頭を下げて懺悔するよりも前を向いている方がいい」

 

 そう言ってわたしは穏やかな笑みを作る。さっきまで泣いていたから変な顔になってなければいいけど。

 

「……そうか……そうだな。はは、こんな事ならもっと早く話しておけばよかったかもしれぬ」

 

「過ぎたことを後悔しても意味無いよ、話すのが遅れたことに関しての問題はなかったんだし」

 

「それもそうだな。うむ、最後にこの話に蹴りを付けられただけで良しとするか!」

 

「そうだよ、蹴りが付いただけでも良かった」

 

 わたし達はお互いの顔を見合わせて笑いあった。これで胤舜の悩みが払拭されたかは分からない。でも、きっと少しは良い方向に向いたはずだ。

 

「藤丸候補生、基本工程が完了した。そろそろ退去促進術式の元へ向かってくれ。宝蔵院さんもお願いします」

 

 ちょうどその瞬間にダストンさんから声がかかった。タイミングが良かったのだろうか? いや、そうではない。きっと、話が終わるまで待っていてくれたのだろう。

 

「分かりました。じゃあ行こうか、胤舜」

 

「承知!」

 

 

「胤舜、書文先生との戦いはどうだった?」

 

 退去促進術式まで歩く途中にそんな話題を振る。最後に、彼の感想を聞いておきたかった。

 

「すごく良い戦いだった。予想通り、殺し合いになってしまったがな」

 

「前にも言ってたもんね、その話。だからこそ、最後に二人の望みが叶えられて良かったよ」

 

「恐らくもう二度と無いであろう経験だった。今回のような機会を設けてくれたことは感謝しているとも。ただ、贅沢を言うならばもう一度戦いたいものだ。今度はどちらが勝つか分からないからな」

 

「そうなの?」

 

「如何にも。実を言うとだ、槍を落とされた瞬間に負けは覚悟したのだ。実際、回収に成功するまではかなり押されていたのをお主も見ただろう?」

 

 わたしは頷く。確かに、武器をお互いに持っていない状態では胤舜は書文先生の攻撃を凌ぐのが精一杯だった。

 

「それに、老人の李書文が相手ならばもっと不味かったかもしれぬ」

 

「どういうこと?」

 

「以前に老人姿の彼と面識がある沖田総司が言うには、老人の方の李書文は力は若者より劣るも、技術と冷静さにおいては若い頃の彼を超えるらしい。そのような相手では()()()を読むのも一苦労だろうよ」

 

 老人の李書文、結局出会えなかったのは実に残念だった。

 

「再戦、どこかで叶うといいね」

 

 わたしはそう伝えた。気づけばすぐ目の前に退去促進術式があった。

 

「さて、いよいよ拙僧も去る時だな」

 

「うん、お別れだね」

 

「最後におまえに伝えておこう」

 

 そう言いながら胤舜は術式の上に乗り、術式が起動する。

 

「おまえがこのカルデアにいる間に積み上げてきた全てのものはお前をいつか助ける。だから、お主は精一杯生きてくれ。苦しいことがあっても悲しいことがあっても諦めないでほしい。そして幸せに生きてほしい。それが俺の、最後の願いだ」

 

 胤舜の姿が徐々に透けていく。

 

「分かった! 私頑張る! ありがとう、そしてさようなら胤舜!」

 

「こちらこそ有難う。さらばだ我が弟子、藤丸立香よ!」

 

 その言葉と共に胤舜の姿は消えた。

 

「宝蔵院胤舜、退去完了です。お疲れ様でした。先輩」

 

「ありがとう、マシュ。少し遅いけどおやつでも食べよっか!」

 

 今日去った二人。仲間であり、友人であり、師匠であった彼らは最後までカッコよかった。わたしも20歳を超えて、大人と言っていい年にはなったけど、彼らのようなカッコいい大人にはまだまだ遠い。いつか彼らのようなカッコいい大人に慣れるように頑張ろう、とわたしは思うのだった。

 

 ――宝蔵院胤舜、退去完了




ここまで読んでくださってありがとうございます。
結構無茶をしましたがなんとか年内に完結まで間に合わせました。
これも読んでくださっている皆様のおかげです。本当にありがとうございます。評価や感想、お気に入り登録は本当に励みになりますので宜しければまだの人はして下さると作者がとても喜びます。

まずは次回の予定を。次回はメルトリリス編に入ります。実は全四篇のうち三つの話は完成済みなのですが、新年以降少しの間書く時間がほとんど取れない予定なのと、全て書き上げてから投稿したいので、更新は早くて一月の三週目になると思います。
それ以降は時間が取れる目処が立ち次第極力間が開きすぎないタイミングで投稿していくつもりです。お待たせするかも知れませんがよろしくお願いします。


さて、では半ば恒例となっている補足説明をさせて頂きます。

・この話の時系列
アルトリア編より前です。まだほとんど退去は済んでいません。退去済みな英霊は1割にも満たないと想定しています。

・対決に関する細かなルール決めについて
これは今後、対決回を書く時のために作りました。作中でもあげたカルナとアルジュナの激突は本当に洒落になりませんからね。しっかりとルールは決めて起きたかったのです。

・胤舜との修行とその後の会話について
これに関しては第一節の後書きでも書いたように現在の宝蔵院流槍術の公式サイトや動画などを参考にさせてもらいました。
特に狸汁については新年に奈良で振る舞われたりするそうなのでお近くにお住みの方がいらっしゃったら検索の上行かれるのも面白いと思います。同様にとあるレシピサイトにもレシピが上がっていたりするのでそちらもよろしければご覧になってみてはどうでしょうか

・八極拳について
軽く調べたところ、カルデア内での短期間では習得不可能という結論に至りましたのでこのように書文先生オリジナルの練習方法を勝手に作らせてもらいました。作中でも書文先生が言っていたように間違いなく邪道です。八極拳を収めている方がいらっしゃいましたら謝っておきます。申し訳ございません。

・老書文先生について
実装される説もあるのですが、不明瞭なところも多い上に書くための資料も少ないので召喚されなかったことにしてあります。

・眼鏡について
悪ノリです。すいませんでした! ついでにひむてんよろしくです!

・三蔵ちゃんについて
彼女は今回の二人共に関係のあるキャラクターなのですが、あまり上手くいかせなかった気がします。これは反省点ですね。

・対戦直前の面会について
お互いに頑張れというのも考えたのですが、それをサーヴァントの命をも大切にするぐだ子が言うことはないだろうと判断しあのような内容にしました。

・バトルシーンについて
久々すぎるのでかなり苦戦しました。日頃から見ているバトルモーションや様々な型を書いてあるサイトなどを参考に書いたのですがどうだったでしょうか?

・対戦の結末について
書文先生の負けにしたのは胤舜は既に完成された技術を持っていて、書文先生の技術の完成系は老書文先生だからです。この二人の戦いだと、純粋な力ではなく技術がものを言うと判断しました。なのでこのような結末にしてあります。
ちなみに勝手な脳内設定ですが、若書文先生と胤舜だと3対7、老書文先生と胤舜だと7対3というふうになるかなーと考えてます。

・胤舜と下総国について
このような扱いの形にしました。プルガトリオのやったことを胤舜が知ったらどうなるかと自分で考えた結果があの土下座です。賛否両論あるかなとは思いつつも胤舜ほどの人格者であるからこそ気を病むかと思います。特に無辜の民を虐殺したことや幼子に手をかけようとしたことは。

・ダストンさんについて
出しやすかったので出してみました。

補足説明は以上です。繰り返しになりますがここまで読んでくださってありがとうございました。

今後優先して欲しいことはどれですか?

  • 更新速度
  • 1話辺りの密度
  • 色んなサーヴァントの出番

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