「別れ」の物語   作:葉城 雅樹

12 / 18
※メルトリリスの絆礼装テキストバレ注意!

まずは、遅くなりましたが明けましておめでとうございます。本年も当作品をよろしくお願いします。

そして予め述べておきますが、今回のメルトリリス編に立香(ぐだ子)との恋愛要素はありません。その理由は昨日の夜に投稿した活動報告に詳細を記していますので、本編読んだ後に、疑問を持たれた方はそちらを参照してください。


メルトリリス編
第一幕 「蜜の女王」と(“M e l t l i l i t h” and)人形達( Dolls)


 彼女は語った。

 かつての私は完璧で欠けたところなど一つもない強力(かんぜん)な存在だったと。

 彼女は語った。

 今の私は完璧ではなく、欠けたところだらけの脆弱(ふかんぜん)な存在であると。

 

『そう、確かに私は弱くなったわ。人によっては堕ちたとも言うのかもしれないわね。でも今こうしてここに居られるのは()()()のお陰なのよ? あの人が居なければそもそも私が生まれることすらなかったんだから』

 

 その言葉を発した時、彼女は机の上に置かれたフィギュアに目をやりながら、いつもの様に不敵な笑みを浮かべていた。かつては完全だったと言う彼女。わたしは完璧だった頃の彼女――メルトリリスの姿を知らない。だから彼女のその言葉がいまいちピンと来なかった。そして興味本位でこう尋ねたのだ。

 

『わたしは貴女がいう()()()()()貴女しか知らないけども、前はどんな感じだったの?』

 

 そう聞いたわたしにメルトリリスはそうね、と言って少し考えたあと、答えを述べた。

 

『もしアナタが召喚したのがこの私ではなく過去の私だったのなら、立香、アナタは今頃私の経験値か人形になってると思うわ』

 

 さらっとそういった彼女。わたしはその時点で既に彼女がサーヴァントとして登録された過程を知っていた為に、そんなことは万が一にもあり得ないと分かっていた。だが、ごく当然の如く述べられたその言葉に背筋が寒くなったのを今でもよく覚えている。

 

『じゃあさ、仮に過去の完璧な自分に戻れるとしたら、メルトはどうするの?』

 

 無神経にも聞こえるその言葉を当時のわたしは何のためらいもなく発していた。信頼しているから聞けた、と言えば聞こえは良いが、恐らく当時のわたしは何も考えていなかったのだ。ただ、純粋な興味で聞いたのだ。

 

『そんなこと、決まっているでしょう。私は戻らないわ。あの人が気づかせてくれたものを捨ててまで、かつての完璧な自分に戻りたいなんて思いません。同じ快楽から生まれたあの底なしの性悪女と私との決定的な違いは、()を知っているかどうかなのだから』

 

 そこまで言って彼女は一度言葉を区切った。そして一呼吸おいてそうねと言ってから再び話し始めた。

 

『ええ、確かに恋は知りました。でも私のプライドは変わりません。愛しいものは手に入れる。美しいものは傅かせる。多くの愛を踏み台にして、湖上の星として輝くわ。それが私を愛した人へ返せる、最大の感謝というものではなくて?』

 

 そう言った彼女は、やはり不敵に笑っていた。わたしが彼女に贈った、アマリリスの花束を抱えながら。

 彼女はアルターエゴ、かつて生きた人間でも、かつて在った神霊でもない。あるAIの一つの感情をベースにして作られた存在。人によっては、怪物、と呼ぶ人もいるだろう。

 だがあの時、わたしが見た彼女は、花束を贈られた感謝を伝えてきた彼女は、紛れもなく心を持つ人のようにしか見えなかったのだ。

 ――アマリリス。彼女の名前の由来になったという花。その花言葉は「誇り」、「おしゃべり」、そして――「輝くばかりの美しさ」。その言葉は、花束を抱えながら微笑を浮かべる「蜜の女王」にこれ以上無いくらい当てはまっていた。

 

 

 

 

 

 朝起きて着替えながらわたしは過去のある時にメルトと話したことを思い出していた。理由はもちろん、今日の退去予定者が彼女だからである。

 

「マスター、起きてらっしゃいますか?」

 

「うん、起きてるよ。起こしに来てくれてありがとね、静謐ちゃん」

 

 インターホンの音とともに、扉の外からわたしを起こそうとする声が聞こえた。わたしはその声に答えつつ扉を開ける。外には、美しい顔と紫のショートヘアを持つ少女がいた。

 

「おはようございます、マスター。本日もお元気なようで何よりです」

 

「うん、おはよう静謐ちゃん。一緒に朝ごはんでもどう?」

 

 そう言ってわたしは彼女に手を差し伸べる。彼女は少し躊躇いながらもその手を掴む。

 

「では、お言葉に甘えさせていただいて、お供させていただきます」

 

 毒の娘と呼ばれる彼女――静謐のハサンは触れただけで相手を毒で蝕んでしまう。しかし、わたしはマシュのおかげで耐毒スキルのようなものを持っているのでその手を掴んでも問題ない。様々なことがあったせいでその毒耐性も消えてしまったかもしれないと思っていたが、幸い未だにわたしの体に残っていた。

 静謐ちゃんはその体質のせいで人との触れ合いを望んでいる。いや、飢えているというのが正しい表現だろうか。だからわたしは彼女に積極的に手を伸ばす。この手を伸ばせる間は、そうありたいと思うのだ。

 

 

 

 

 静謐ちゃんと話しながら食堂の前まで行くと、そこにはガウェインとメルトが居た。

 

「おはよう、二人とも。こんな所で何してるの?」

 

「おはようございます、立香、それにレディ・静謐。少し二人で立ち話をしていただけです。それでは皆さん、私はこれで失礼させていただきますね」

 

「ええ、ガウェイン。それじゃあ例の件は宜しくね?」

 

「了解しました。太陽の騎士の名にかけて約束を守ると誓いましょう」

 

 そう言ってガウェインはわたし達に一礼してその場を立ち去る。そして残されたメルトはこちらを見た。

 

「随分とのんびりしたお目覚めね、立香。とりあえず私はもう行くわ。後で部屋に来るのでしょう? 来る時には大きめの袋を持ってくること、忘れないで」

 

 捲し立てるかのようにそう言うと、彼女は足早に、廊下を滑るようにしてその場を離れていく。

 

「うん、ちゃんと持って行くよ!」

 

 わたしが返事をした頃には、彼女の姿はほとんど見えなくなってしまっていた。

 

「お二人とも行ってしまいましたね。確か今日の退去予定者はアルターエゴ・メルトリリス、彼女でしたか」

 

「そうだよ、今日はメルトの退去予定日なんだ。……とりあえず、ここでじっとしているのも何だし、食堂に入ろっか!」

 

「そうですね、行きましょう」

 

 そうしてわたし達は食堂の扉を開く。扉を開くと良い匂いがした。この匂いは、焼き魚だろうか。

 

「おはようございます、マスター。今日の朝ごはんは焼き魚が三種から選べる和風朝食ですよ」

 

 食堂の奥から可愛らしい声が聞こえてくる。この声はパッションリップのものだ。このカルデアに来て、いつかの約束通りキャットに弟子入りした彼女。キャットの指導の賜物か、巨大な鉤爪状の腕というハンデを持ちながらも、めきめきと料理の実力を伸ばしていった。勿論、彼女の手では限界があるのでダ・ヴィンチちゃんに頼んで補助器具を用意してもらっていたりはするのだが。それを差し引いても上達のペースが早いと思う。

 それを示すものとして最もわかりやすい例が今日のようなパターンだ。普段はキャットが当番の日に助手として調理をサポートしているのだが、今日のように月に一回くらいのペースで、一人きりで食堂を切り盛りするのだ。

 

「おはよう、リップ。さっきメルトがここに来てたでしょ? 慌てた様子で行っちゃったんだけど何か知らない?」

 

「確かにメルトが珍しくここに来て朝ごはんを食べていきました。でもマスターも知ってるようにメルトって手の感覚がほとんど無いじゃないですか? それで食べるのを苦労しているのを見たガウェインさんが、メルトの食事を手伝ってくれて。そして食後にそのまま二人で食堂を出ていったところまでしかわたしは見てません」

 

 そう言えば、食堂でメルトを見たことはほとんど無かった。彼女は神経障害を持っていて、手の感覚がほとんど無いのだ。

 そして、サーヴァントは本来食事を必要としないので、上手く食べることの出来ない彼女がわざわざ食事をすることはほとんど無かったのだろう。

 そう考えると、今日食堂に来たというのはかなり意外だった。ガウェインに助けてもらってまで食事をとったのは何故だろう。

 確かに、ガウェインは正しく騎士と言えるような立派な人格をしている。彼女の頼みも一切ためらうことなく引き受けて、紳士的に対応してくれるに違いない。

 だが、問題はそこではない。後でメルトに聞いてみようと思っているとリップが声をかけてきた。

 

「マスター、大丈夫ですか? 少しぼうっとしてたようですけど」

 

 どうやら考え込んでいたらしい。わたしは全然大丈夫だよ、と返しながら後ろで待っている静謐ちゃんに声をかける。

 

「わたしはシャケにするけど静謐ちゃんはどうする?」

 

「それでは・・・・・・私はサンマを頂こうかと」

 

 少し考えてから彼女は答える。それを聞いたわたしは、リップに注文を伝える。

 

「じゃあリップ、シャケとサンマ一つずつお願いね」

 

「分かりました!」

 

 リップは笑顔で答えたあと、食堂の奥に戻ってわたし達の朝食の用意を始めた。

 

 

 

 

 朝食を美味しく味わったあと、静謐ちゃんと別れ、わたしは部屋に戻ってきていた。メルトは大きめの袋を持ってくるように言っていたがそんなものはあっただろうか?

 しばらく探していると、以前バレンタインの際にチョコ作りの材料を集めた時に使用した袋が出てきた。サーヴァントの皆にも、職員の皆さんにもあげたのですごい量が必要になったのを覚えている。

 

「うん、この袋でいいかな」

 

 そうやって呟きながら時計を見る。既に時間は約束の時間の三十分前を示していた。

 

「もうこんな時間!? 急がないと遅刻しちゃう!」

 

 遅刻なんてしたらメルトを怒らせてしまうのは間違いない。わたしは慌てて用意をするのだった。

 

 

 

 

 何とか用意を終えたわたしは、メルトの部屋の前に来ていた。腕につけている端末が示す時間は約束の時間ちょうど。部屋のインターホンを鳴らして、来たことを伝えると、返事なしで扉が開いた。

 部屋に入ると一人の少女の姿が目に入る。勿論、この部屋の主であるメルトリリスだ。

 

「時間通りね、優美(エレガント)ではないけど、ギリギリ及第点って所かしら」

 

「もう少し早めに来ようとは思ってたんだけど、袋を探してたら結構カツカツになっちゃって・・・・・・」

 

 こちらを採点する彼女に対して咄嗟に言い訳するわたし。

 

「間に合ってるんだから、別に構わないわ。それより袋のサイズを見せてくれる?」

 

 わたしは持ってきた袋を広げて見せる。それをまじまじと見つめる彼女。

 

「これくらいで良かったかな?」

 

「そうね・・・・・・。丁度いいくらいだと思うわ」

 

 どうやら彼女の希望通りの大きさだったらしく、ひと安心する。そして、先ほど聞き逃した質問をする。

 

「さっきは聞けなかったんだけどさ、この袋、何に使うの?」

 

「それは後で教えるわ。とりあえずは机の上にでも置いておいてちょうだい」

 

 彼女に言われたとおりに机の上に袋を置く。それを確認したあと、彼女は改めて口を開く。

 

「言っておくけど、今日の時間の使い方はわたしが決めるから。アナタの段取り通りに進むとは思わないでね?」

 

 そう言って彼女は不敵に笑う。確かに段取りは考えていた。だがわたしは、退去する本人に考えがあるのならそれに越したことは無いと考えている。だからそんな彼女の様子に気を悪くすることもなく尋ねる。

 

「それでメルト、最初は何をするの?」

 

「よくぞ聞いてくれたわ、最初はこの部屋にある私の大切なガレージキットの整備をするわ。手伝ってちょうだい」

 

 人形蒐集家(ドールマニア)。彼女を指す言葉としてこれ以上ない言葉である。メルトリリスはガレージキット――特に日本のフィギュア――が大好きだ。以前こんなことがあった。

 

 

 

『人形が好きなの?』

 

 それは、わたしがそう尋ねたことが始まりだった。

 

『人形はいいわ、私は人間のことは嫌いだけれども、フィギュア文化を作り上げたところは感謝しているのよ。せっかくだから今日はアナタに人形の素晴らしさをみっちり教えてあげる。まずは――』

 

 そこから続くフィギュア文化の形成されるまでの過程と現在のフィギュア文化についての見解、日本人の職人の繊細さに対しての暑い語り。そしてある種の夢とすら言えるトイ・ストーリー王国建国への展望。

 そこで話が終わると思いきや、私が漏らしてしまったメディアさんの話。そこから彼女のことを根掘り葉掘り聞かれて紹介する約束をさせられ、開放されると思ったら今度は、

 

『せっかくだからアナタにもガレキ作りを教えてあげるわ。そうよ、アナタの腕を磨いて私専属の作り手として育ててあげる』

 

 と、今度はガレージキット作りのレクチャーが始まり、全てが終わる頃には日が暮れていた、なんてことがあったのだ。

 

 

 

 

 そしてそれ以降、たまに手の不自由な彼女の組み立てを手伝ったりしている。作り手育成計画とでも言うのだろうか。みっちり彼女に鍛えられたわたしの腕はそれなりのものになったと自負している。

 

 最も、このカルデアにはそれこそ、ガレージキット自体を作り上げることの出来る職人(メディアさん)や、美少女に関しての彩色や造形へのこだわりについては右に出る者がいないオタク(黒髭)や、その手先の器用さはトップクラスとされる引きこもり(刑部姫)、更に少し守備範囲はずれるが、メイドゴーレムを作るほどのゴーレムマニア(アヴィケブロン)がいるので、わたしの出番はあまり多くはないのだが。

 

「分かった、じゃあどれから手をつける?」

 

「そうね、あのフィギュアからにしましょう、こっちまで持って来て」

 

 そう言って彼女が指したのは棚の上の方にある白百合の騎士王(セイバー・リリィ)のフィギュアだ。このフィギュアの製作者(メディアさん)が語るには自らの最高傑作と言っても過言ではないほどの出来らしい。

 

「よいしょっと」

 

 椅子に登り、棚の上のフィギュアに手を伸ばす。無論、手袋やマスクは既に装着済み。フィギュアを手入れする際は慎重に、指紋一つ、手汗や唾の一滴も残さないのが好ましい。

 落とすのなんて論外だ。慎重に運んだフィギュアを机の上に置き、用具入れから整備キットを取り出す。

 

「何度もやってきたから流石に手慣れてきたわね。私が言わなくてもやるべきことはもう分かっているでしょう?」

 

 わたしは無言で頷き、ブロワーの電源を入れて大半のホコリを吹き飛ばす。そして続いて化粧用のフェイスブラシを持ち、それでも残ってる細かいホコリを取り除く。

 それが終わり次第、お湯を桶に入れる。温度は四十度になるように調整。そしてもう一つの桶を用意し、そこには水を入れる。

 そして洗剤をスポンジに付け、洗っていく。この時、力加減に気をつけることは忘れてはならない。汚れを落とそうとして傷をつけるなど本末転倒も良いところだ。

 

「順調ね、気を抜かずに続けて」

 

 ひと通り汚れを浮かせたらもう一つの桶で洗剤ごと落とす。そしてフィギュアを気をつけないようマイクロファイバークロスで水分を拭き取りベビーパウダーを塗布。それが完了したら、乾燥用の台の上にクロスを敷いてその上に置き、あとは自然乾燥させる。

 

「うん、こんなものかな」

 

 フィギュアを置いて十分に距離をとってからわたしはようやく口を開く。わたしの作業をじっくりと観察していたメルトは作業の出来栄えを評価している様子なので結果を告げられるのを待つ。

 

「作業の素早さ、質、扱いの丁寧さ・・・・・・。全てにおいて問題なし。おめでとう。満点よ、立香」

 

「最後の回で初めて完璧に出来た・・・・・・」

 

 少し気を緩めたわたしにメルトは感慨深そうな表情で語りかけてくる。

 

「思えば最初に教えた時は整備のせの字も知らない出来栄えだったわね。あの時はここまで出来るようになるとは思わなかったわ。・・・・・・これなら・・・・・・」

 

 最後の方がボソボソとなって聞こえなかったのでわたしは彼女に聞き直す。

 

「ごめん、最後の方が聞こえなかったんだけど、もう一度言ってくれないかな?」

 

「大したことは言ってないから、気にする必要は無いわ。そんなことより、次に行きましょう?」

 

「オッケー、次はどれ?」

 

 本人が大したことではないと言っている場合の追求は野暮というもの。わたしは気合いを入れ直して再びフィギュアに向き合うのだった。

 

 

 

 

 

 三時間くらいは経っただろうか。全てのフィギュアの整備が終わった。途中からは不器用ながらもメルトも一緒にやっていたので少しペースが上がっていたかもしれない。

 

「漸く終わった・・・・・・。メルト、 始めた時からどれくらい経った?」

 

「今で丁度二時間ってところね。以前に比べて数も増えてるのにこの時間で終わらせるなんて、正直驚いたわ」

 

「この量を二時間でやったの? 自分の事ながら信じられない。メルトがやった分もあるとはいえビックリだよ」

 

 体感時間より経過時間は短かった。わたしが驚いているのと同じくらいメルトも驚いているようだ。

 

「ところでメルト、全部綺麗にしたけどこれは退去時に持っていくんだよね? あっ、そうか。だから袋が必要だったんだね。納得したよ」

 

 自分で言って、ようやく袋が必要になった理由が分かった。彼女のこのフィギュアたちを運ぶためだ。

 

「早合点してるところ悪いけど、違うわよ」

 

 と、思ったのはどうやらわたしの勘違いだったらしい。ドヤ顔で分かりましたアピールをしていた自分が恥ずかしい。

 

「うん、じゃあ丁度いいから教えてあげる。袋を持ってきてもらった理由がフィギュアを入れる為なのは間違いではないけれども、そのフィギュアの行き先が違うのよ。簡潔に言いましょうか。アナタに私のフィギュアをあげる。勿論、全てという訳ではないけど」

 

「えっ!?」

 

 彼女の言葉にわたしは一瞬耳を疑った。メルトがわたしに宝物とも言えるフィギュアをくれると言ったのだろうか。信じられないと思っているとメルトは不満そうな顔を向けてくる。

 

「あら、私が何のためにアナタに技術を仕込んだと思ってるの? 私が去ったあと、フィギュアの管理をしてもらうために決まってるじゃない。地球でのトイ・ストーリー王国の夢はアナタに託すのよ」

 

 さも当然の如く言う彼女。嬉しいか嬉しくないかで言われるともちろん嬉しい。それは彼女がわたしに信頼を寄せてくれてるという事だからだ。だが、このフィギュアは彼女の宝と言ってもよいもののはずだし、彼女が抱いていた夢もそんなに安いものではないだろう。そんなものを簡単に手放せるのだろうか?

 

「どうやらバカなことを考えているみたいだから教えてあげましょう。そもそも私には英霊たちと違ってちゃんとした座が残っているのかすら怪しい。英霊でさえ座に記録以外は持ち込めないらしいのに、私がフィギュアを持って戻っても私と同じように消えてしまうだけ。どうせ消えるくらいなら、完璧な管理ができるようになったアナタに任せた方がいいと思った。それ以外の理由は無いわ」

 

 彼女は少し照れた様子でそう説明してくれた。

 英霊の座に物を持ち込めない。そのような話をしてくれたのが誰だったのかハッキリと思い出せないが、その話を聞いた覚えはあった。

 

「まあ、どうしても持っていきたい幾つかは意地で持っていくことにするのだけど。それに、私が譲ると言ってるのよ。そこは素直に貰っておくのが道理ではなくて?」

 

 そう言った彼女の表情は、既にいつも浮かべている不敵な笑みに戻っていた。

 

「そうだね。ありがとうメルト、大切にするよ」

 

「ええ、私からフィギュアを貰えるなんて光栄に思いなさい。そして、必ず大切にすること。今のアナタなら大丈夫でしょうけど」

 

「勿論、任せて。いつ見られても大丈夫なようにしておくよ!」

 

「いい返事ね、でも取り敢えず乾くまで収納するのは待って。……なんて今のアナタには言うまでもない事だったわね」

 

 そう言いながら、彼女はわたしを見て少し口角を上げた。

 それに応えるようにわたしも笑みを向けるのだった。




ここまで読んでくださってありがとうございます。
感想、評価、お気に入り登録などいつもありがとうございます。大変励みになっております。宜しければそれらをして下さると作者冥利につきます。
このメルトリリス編はリクエストを受けて書いた作品なのですが、実のところかなりの難航でした。一度カルデアのメルトについての考えの整理を挟み、何とか書くことが出来たくらいです。一度書き始めると順調で、今回の後半部の話なんかはフィギュア整備の内容を調べる時間以外は止まることなく書けた程です。
そして先に言っておきますが、第三幕にはかなりの手応えがあります。私の中では、カルデアのメルトリリスにしか出来ないような内容が書けたのではないかと思ってます。ですので、お付き合いいただけると幸いです。

次に第一幕の内容について、一点だけ補足を。
静謐ちゃんの幕間を見るとわかりますが、主人公の彼女の呼び方は「ハサン」になっています。ですが、他のハサンもいるカルデアでこれを使うのは難しいだろうと判断したために「静謐ちゃん」に変更させていただきました。ご了承ください。

続いて、ご報告を。
活動報告の方に一つ目の内容は書いてますので、重要なのは二つ目と三つ目です。
一つ目、神槍 李書文&宝蔵院胤舜編の加筆修正を行いました。所々セリフが増えていたり、表現が変わっていたり、誤字脱字が消えていると思います。内容は大差ないのですが訂正入れましたよーという話でした。
二つ目、前書きにも書いたようにカルデアのメルトリリスに対するこの作品での位置づけに関して私の意見を活動報告に纏めておきました。これを読んでくだされば私のメルトリリス編に対する考えが理解していただけると思いますので、ご一読いただけると幸いです。そして、読んでもなお思うところがありましたら活動報告のコメント欄や、メッセージ機能、名前を知られたくないのでしたら先程あげた質問箱等で意見を下さるとありがたいです。頂いた意見には必ず回答いたします。
三つ目は本作品の舞台設定についてです。一応現時点では、二部終了後にカルデアを奪還、事件の事後処理(2,5部的なもの)をしながらカルデアでの生活を少しした後にカルデアの解体が決定。そして第一話で書いた内容に至るという形で考えています。これは、今後の公式の情報によって変動するので確定という訳ではありませんが、一応ご報告を。

さて少し気が早いですが、次回以降の予定を。
第二幕は二月上旬に更新予定です。そして三月中にはメルトリリス編の完結と次の話を始めるところまでは行きたいところです。
次の話はクー・フーリン(ランサー)を予定してます。メルトリリスがかなり長い話になりますので、槍兄貴の話は短めの予定です。あまり長々と書くのもさっぱりした性格のクー・フーリンらしくないと考えていますので。出来れば前後編に纏めたいところですが、まだ未定です。

それでは、繰り返しになりますがここまで読んでくださってありがとうございました!

今後優先して欲しいことはどれですか?

  • 更新速度
  • 1話辺りの密度
  • 色んなサーヴァントの出番

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。