※10月4日にサブタイトルを追加しました。
「――と、こんな感じですかね。私とキャスターのジル・ド・レェに過去にあった出来事は」
「あはは……ジャンヌと叫びながらアルトリアを追いかけるジルの姿がはっきりと想像出来ちゃったよ」
「この件に関しては今となっては少し納得しています。このカルデアに来て実際のジャンヌ・ダルクを見た時に確かに私と彼女は少し似ていると思ったのです。
アルトリアが強調していたように、体つきを除けばアルトリアとジャンヌは似ているかもしれない。セイバーでもないのにXの標的にされていることからもそれは間違いないことだろう。
ジルは精神汚染スキルを持っていたから仕方ないかもしれないが、まず胸のサイズで気づくべきではないだろうかなどと思ってしまう。
あれ、ということはランサーの方のアルトリアはジャンヌと勘違いされてもおかしくないということなのだろうか?
「む……マスター、今失礼なことを考えていませんでしたか。私の直感スキルがそう告げています」
「直感スキル本当に万能すぎない!?」
わたしの考えが完全に見透かされてしまった。直感……本当に侮れないスキルだ。このせいでアルトリアに隠し事はなかなか出来ない。
モードレッドについての話のあと、わたしは改めてアルトリアの希望通りにわたしが想定していたアルトリアが不満に思っていそうなことを洗いざらい話した。
それに対してアルトリアは回答とそれにまつわるエピソードを聞かせてくれた。
かつてメディアに拘束され着せ替え人形にされかけた事、ジルにストーカー紛いの行為を受けている経緯、マーリンの起こした傍迷惑な事件の話。どれも初めて聞くもので、とても新鮮で興味深い話だった。
『ダ・ヴィンチちゃんが正午、つまり食堂昼の部の開業時間をお知らせするよ! 本日の調理担当はタマモキャット! オススメはお魚定食だ』
館内放送を利用したダ・ヴィンチちゃんの時報兼食堂のお知らせでかなりの時間が経過していることに気づく。それに気づいたのはアルトリアも同じのようで
「おや、もうこんな時間ですか。貴方と話していると時間を忘れてしまいますね。ところでマスター、昼食はどうされるおつもりですか?」
「ふっふっふっ、実は今日の昼食は既に決まってるんだよ。そろそろ来る頃かな?」
得意げに笑っているわたしを訳がわからないと言ったような顔をして見ているアルトリア。
「いったい――」
アルトリアが何かを言いかけた瞬間、部屋のチャイムが響いた。呆然とするアルトリアを置いてわたしはインターホンの画面を見る。そこには褐色の肌と白い髪が特徴的な弓兵と赤髪を短めのポニーテールで纏めたお姉さんの姿があった。
『マスター、予約の品を届けに来たぞ』
「ありがとうエミヤ、ブーディカ姉さん。今扉開けるね」
そう言って私は部屋のロックを解除する。そこから二人のサーヴァントがたくさんの料理を乗せたサービスワゴンを運んでくる。
「マスター、これは一体……?」
「ちょっとしたサプライズだよ、最後に二人で一緒にご飯を食べたかったんだ。だからエミヤとブーディカ姉さんにお願いしてこういう形で用意してもらったの」
「びっくりしたかな? お姉さん、腕によりをかけて作ったからいっぱい食べてくれると嬉しいかな」
「という訳だよセイバー、なるべく君とマスターの好みに合わせて調理した。和食に洋食、中華に菓子類とたくさん作ったから遠慮せずに食べてくれ」
「ブーディカさん、アーチャー、そしてマスター。ありがとうございます、最高のプレゼントです」
わたしはアルトリアが食事している時に見せる穏やかで少女らしい表情が好きだ。だからこそ今回はエミヤとブーディカ姉さんに無理を言って大量の料理を用意してもらったのだった。
「じゃあ私達はそろそろ食堂に戻るよ、夕食の準備もあるしね」
「食べ終わったらワゴンに食器を置いて部屋の外に出しておいてくれ。片付けは私達でやっておく」
「うん、二人ともありがとう!」
「二人とも少し待ってください」
部屋から出ていこうとする二人をアルトリアが呼び止めた。
「アルトリア……?」
予想外のことにわたしたちは驚いてしまったが彼女の瞳は真剣そのものだった。困惑からいち早く抜け出したエミヤがアルトリアに問いかける。
「君が呼び止めるとは思わなかったよ。それで、要件は何かね」
「あの……そうですね、何と言えば良いのでしょうか…… マスターと話している間に少し心変わりしたと言いますか、えーと」
呼び止めたアルトリア自身も自分が咄嗟にとった行動に困惑しているように見えた。そんなアルトリアを見てブーディカ姉さんは彼女の言いたいことがなんとなく分かったようだ。そして微笑みながら彼女に言葉をかける。
「焦らなくても大丈夫、一回深呼吸して遠慮せずになんでもお姉さんに言ってみるといいよ」
アルトリアはすぅー、はぁーと一度深呼吸した後落ち着きを取り戻し、話を再開した。
「すみません、取り乱してしまいました。では、改めて話を聞いてください。私はつい先程まで、本日のカルデアからの退去にあたって一部の方がしていたような挨拶回りなどをするつもりはありませんでした。しかし、今リツカと話しているなかで感謝を伝えたい相手には、話せる間にしっかりと伝えてから去るべきだと思ったのです。アーチャー、それにブーディカさん。少し私の言葉を聞いてもらえませんか」
アルトリアがこういう事を言い出すとは思ってなかった。でも、ここはわたしの出る幕じゃないな。そう思ってわたしは話が終わるまでは口を閉じて、聞き手に徹することにした。
「嬉しいな、アルトリアの方からそんなことを言ってもらえるなんて。繰り返しになるけどなんでも言ってみて」
「ありがとうございます、ブーディカさん。ブリテンの勝利の女王、その話を以前少しですが聞いたことがありました。嘗てローマの侵略に立ち向かった先達がいると。実際このカルデアで貴方に会う事が出来て非常に光栄でした。私や円卓の騎士たちの為にお茶会を開いてくださったこともありましたね。他にも密かに困っている時にそれを察して相談に乗って下さったり、モードレッド卿とガウェイン卿の争いの仲裁をしてもらったりと、とても親切にしてもらって……なんと言うか頼れる
「あはは、なんか照れちゃうね。でも姉みたいって言われるのはとっても嬉しいかな。……ブリタニアを守れなかったあたしはね、キミたちの事をほんとにすごいと思ってるんだよ。あたしが出来なかったことを成し遂げたキミは私にとって
「何でしょうか? 私に応えられることなら是非」
「あたしにアルトリアをぎゅーっとさせて欲しいんだ、可愛い
それを聞いたアルトリアが頬をぽっと染める。そして少しの間を開けて
「少し気恥しいですけど、どうぞ。
ブーディカ姉さんがアルトリアの傍によりぎゅっと抱きしめる。彼女が親愛を表す手段として抱きしめることはよくある事だが、アルトリアには今まで無かったらしい。そんなブーディカ姉さんの気持ちに応えたのかアルトリアは彼女のことを初めて「姉」と呼んだ。
そして暫く無言で抱きしめたあと、彼女は名残惜しそうにアルトリアから離れて笑顔をつくる。わたしにはその笑顔は少し無理をしているように見えた。
「じゃあ私は先に戻ってるよ、夜の用意は先に始めておくからエミヤはちゃんと話し終えた後で戻ってくること。じゃあね、アルトリア」
「……
アルトリアの言葉を聞いた瞬間、彼女の表情が一気に崩れて泣き出しそうな顔になる。――私の考えていた通りやはり彼女は無理をしていた。
「……もう、せっかく笑顔でお別れしようと思ってたのに…… やっぱりね、別れっていうのは悲しいものだよ。これ以降二度と会えないんじゃないかと思うと尚更ね。でもだからこそ笑って別れたかったのに…… そんな嬉しい事言われたからお姉さん思わず泣いちゃった。でももう大丈夫、マスターのことも円卓の子達のこともリリィの方のキミのことも、皆お姉さんに任せなさい!」
そう言ってブーディカ姉さんは涙で濡れた顔で精一杯の笑顔を見せてから再び口を開く。
「じゃあ今度こそ行くね、バイバイアルトリア。あたしもキミに会えて本当に良かった!」
そうして彼女は部屋から出て行った。部屋にはわたしとアルトリア、そしてエミヤが残された。そしてその場を余韻という名の沈黙が支配する。
「……」
「……」
「……」
「……コホン。それでセイバー、私への話とは何かね。ブーディカにもあの様に言われた手前、私も君からの言葉をしっかりと聞き届ける必要があるだろう」
沈黙を破ったのはエミヤだった。彼はわざとらしく一度咳払いをした後徐ろに話題を振った。それに対してアルトリアも表情を整えて言葉を紡ぎ始める。
「アーチャー、今回の私は貴方とこのカルデア以外で出会った記憶を持っています。これまでの言動から察するに恐らくは貴方もそうでしょう」
「そうだともセイバー。私は確かに君とカルデア以外で会ったことがある」
「ひとまずその言葉を聞けて安心しました。これから言おうとしている事は貴方が記憶を持っている前提で話すことなのですから」
アルトリアとエミヤが過去に面識があるということは知っていた。エミヤの方からはっきりと明言したことは無かったが、それでも二人のやりとりはお互いをよく知った上でのものに見えたからだ。
エミヤはアルトリアの言葉を待つかのように黙っていた。そんな彼を見ながらアルトリアは再び口を開く。
「以前マスターにも話したとは思いますが、私は当初、アーチャー――貴方がここに召喚されて共に戦うことに対して嬉しさも悲しさも含んだ複雑な感情を抱いていました」
以前アルトリアからそのような話を聞いていた。その時のアルトリアの表情はさっきも見た少し物悲しくなるような表情だったのをよく覚えている。わたしは聞いたことがあると意思表示をするために首を縦に振った。
「しかし、カルデアに召喚されてからの貴方を見て少し考えが変わったのです。貴方はとても生き生きとしていた。貴方自身は気づいていなかったかも知れませんが食堂で見る貴方の表情はまるで
そう言ってアルトリアは少し口澱む。今まで黙って言葉を噛みしめるかのように聞いていたエミヤがアルトリアの方を向いて微笑む。
「大丈夫さ、セイバー。全部聞かせてくれ」
「私はこの戦いが終わって貴方が座に戻った後、再び今までのように戦いに身を投じ続けることを考えると少し悲しいのです。例えどのように運命が変わったとしても貴方が戦い続けることには変わりはない、そのことに対して私はやはり何とも言えない思いになる。しかし、それを踏まえた上でも私は最後にあなたに伝えたいことがある。――アーチャー、貴方と共に戦えて私は嬉しかった」
その瞬間、ずっと聞き手に回っていたエミヤは今までに見たことのないような表情をしていた。
――それはまるで、今までの全てが報われたと言ったような表情であった。
一呼吸の間を置いてエミヤは一言一句慎重に言葉を紡ぐ。
「ありがとうセイバー、おまえにそんなことを言われる日がくるなんて思ってもなかったよ。オレもまたおまえと一緒に、戦えて本当に良かった」
その言葉のあと、再び部屋を沈黙が支配する。否、この場で音を立てるのは誰にも許されない。当事者たるエミヤとアルトリアも含めてだ。
そうして永遠にも、一瞬にも感じられる沈黙のあと、その時間の終わりを告げるように、再びエミヤが口を開いた。
「ではそろそろ私は失礼するよ。せっかくの料理が冷めてしまってもいけないからね」
そう言ってエミヤは部屋から出ていく。その間にエミヤとアルトリアが口を開くことは無かったが二人は最後に顔を合わせると微笑みを交わした。
直感的にこの二人にはもう言葉は必要ないと分かる。二人の信頼関係はその域に達しているのだ。
「じゃあ、アルトリア。ご飯食べよっか!」
「ええ、マスター! 冷める前に頂いてしまいましょう」
二人の時間の終わりはもうすぐ……
前回の最後で二人だけの時間などと書いていたのにその実ほかのサーヴァントとの会話部分が増えてしまいました。申し訳ないです。ブーディカやエミヤとの会話部分はもう少し短くなる予定だったのですが冒頭にも書いたように筆が乗ってしまったので長めになってしまいました。中編でここまでなので後編は少し長くなるかなとも思っています。
完全に余談なのですが作者はエミヤを所持していません。そのためFGOでのエミヤのキャラクターについての理解が少し怪しいかも知れません。もし間違ったことを書いていたらすみません。
主役キャラに関しては所持しているサーヴァントのみで行くつもりですが脇役になるキャラクターは持ってないキャラクターでも頑張って書こうと思っています。
そして、前回の第一節に評価、感想、お気に入り等をして下さった方、ありがとうございます! とても嬉しかったです!
これを励みに書いていこうと思っていますのでこれからも是非よろしくお願いします。
それではここまで読んでくださってありがとうございました。
今後優先して欲しいことはどれですか?
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更新速度
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1話辺りの密度
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色んなサーヴァントの出番