「別れ」の物語   作:葉城 雅樹

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今の自分に書けるものをすべて出し切りました。


後編   おやすみなさい、「正義の味方」

「砂糖とミルクはどうする?」

 

「両方欲しいかな、量は任せるよ」

 

 エミヤオルタの部屋に戻ってきたわたし達。彼が宣言通りコーヒーを入れてくれることになった。わたしの予想とは裏腹に彼の部屋には砂糖もミルクも備え付けられていた。

 エミヤオルタは意外と甘党なのかななんて思ってるとコーヒーカップを二つ持ったエミヤオルタが戻ってきた。

 

「なんか意外だな」

 

「なにがだ?」

 

「エミヤオルタの部屋に砂糖とミルクがあるとは思ってなかったってこと」

 

 そう言うと彼は納得したというような表情を浮かべて説明を始める。

 

「オレはブラックコーヒーしか飲まないから本来は不要なものなのだが、この部屋には何故かそれなりに来客があってな。彼女たちのために置いてあるというわけさ」

 

 帰ってきたのはこれまた意外な反応。しかし彼の性格を鑑みると納得がいかないわけでもなかった。

 

「来客か、誰が来るのか少し気になるかも」

 

「覚えている限りではジャガーマンにアイリスフィール。それに彼女がたまにイリヤスフィールやクロエ。あとはさっきも食堂であったあのタマモキャット(ネコモドキ)。それにメイドオルタ(メイドを名乗る黒い騎士王)と言ったところか」

 

「なるほど、その辺りか。納得したよ」

 

 彼の交友関係はわたしが思ってたよりも広かった。意外に思いながらも、わたしは納得していた。

 彼は皮肉屋で人当たりがキツいが、そのような態度をとっても彼の周りを去らない人間に対して無理に突っぱねたりはしない。

 別人である切嗣(アサシンのエミヤ)は英雄嫌いな性格なために、サーヴァントとは関係を持たないようにしていたりするが、彼の本質は士郎(エミヤ)だ。だからアサシンのエミヤよりも人付き合いはまだ出来るほうだろうとは考えていた。

 

「全く、オレのような守護者のどこがいいと思っているのやら・・・・・・。理解に苦しむな」

 

 自嘲する彼を見て、わたしは彼に聞こうと思っていたことを思い出す。

 

「そう言えば、最初のごたごたですっかり忘れてたんだけどさ」

 

「何だ、言ってみろ」

 

「どうしてエミヤオルタは今日まで残ってくれたの? わたし、正直なところすぐに帰ってしまうかなって思ってたんだけど」

 

 以前から気になっていた事だ。彼は傭兵を自称するだけあって仕事に忠実である。だからこそ、全ての事が終わった段階で直ぐに立ち去るものだと考えていた。

 

「何だおまえ、気づいてなかったのか」

 

 そんなわたしの質問にエミヤオルタは呆れた顔をする。しかしそんなことを言われても、分からないものは分からない。

 

「全く心当たりがないんだけど」

 

 悩むわたしの様子を見て、彼はやれやれと肩を竦めながら説明を始める。

 

「まず、おまえは一つ勘違いをしている。オレの仕事はあんたの闘いの手助けだけじゃなく、抑止の守護者としてのものもあるという事だ。具体的に言うと、サーヴァントがカルデア外に出ることの防止といったところか」

 

「サーヴァントがカルデア外に出たら何が問題なの?」

 

 わたしは率直な疑問を彼にぶつける。今までの特異点では街があり、そこでサーヴァントが活動していたことも多々あったからだ。

 

「仮にサーヴァントが市街で暴れてみろ。街は崩壊し、神秘の漏えいが発生する。それが力の強くないサーヴァントなら収集をつけることも出来るだろうが、一部の化け物のような力を持つ連中がそれをすると目も当てられん。そんなことが起きないようにカルデア内で待機を続けていたというわけだ。立香、退去予定表を見てみろ」

 

 そう言われたわたしは手につけた端末を起動して退去予定表を確認する。エミヤオルタより先に退去した英霊とまだ残ってる英霊の違いを考えてみるが、あまりピンと来ないしさっきの話とのつながりも全く見えなかった。

 

「なるほど、さっぱり分からん」

 

「やれやれ、あんたの自陣のサーヴァントに対する警戒心の低さは召喚された時から全く変わってないな。このままじゃ埒が明かないから教えてやる。これまで退去した英霊たちの中にはカルデア外に被害をもたらす可能性がある奴らがいたという事だ。今残っている連中も完全にその可能性がないという訳では無いが、そのような事があってもエミヤ(腐ってない方のオレ)一人が動ければ問題ないくらいだろうと判断しただけだよ」

 

 ようやく理解した。彼はカルデアから去る時に暴走し、外に影響を出す可能性が高いサーヴァントが全員退去するのを待っていたのだ。

 確かに人理の危機は去ったとは言え、カルデアに所属しているサーヴァントが暴走するなんて事態が発生すれば大問題だ。

 実際に未遂事件が何件か起きたのに、わたしはカルデアのサーヴァント(ここに居てくれた皆)が外で被害を起こすかもしれないということは考えられなかったのだ。

 

「だがしかし、おまえのその甘さが今までおまえに対して有効に働いてきたのも事実だ。それがあんたのスタンスならオレがやるべき事はあんたの穴を埋めることというわけさ」

 

 実際、このやり方で問題が起きたことは多々あった。それこそ新宿でもアガルタでも仲間だと思っていたサーヴァントに裏切られたりした。

 そんなことがあっても、わたしはこのやり方を変えることが出来なかった。そんなわたしがここまで来れたのは、その甘さをフォローしてくれたみんなのお陰だ。

 

「つまり、エミヤオルタがここまで残ってくれたのはわたしの甘さをフォローするため?」

 

「そうだ、仮にオレがマスターならばそのような危険な英霊とは契約すらしないし、したとしても要件が終わり次第即刻退却させるだろう。だがあんたはそれをしなかった。召喚に応じた英霊全てを歓迎し、共に戦った。善を好みながらも悪を否定しないなんてことは、早々出来ることじゃない。そのあんたのやり方をオレは評価していた。だから今回も協力した、ただそれだけの事だ」

 

「少し照れくさいけどありがとう、エミヤオルタ」

 

 照れながらもわたしは彼の顔に向き合って笑顔でお礼を言う。

 

「ふん、礼など迷惑だ。オレが好きでやっているだけだからな」

 

 礼など迷惑、その言葉はわたしにSE.RA.PHでの出来事を思い起こさせる。衛士(センチネル)となったキャットを解放するべく戦った時に彼は、キャットについていたKP(カルマファージ)を壊すために銃弾を放った。

 そしてキャットはセンチネルから解放されたが、彼女が伝えた感謝をエミヤオルタは今のように斬り捨てたのだ。

 思い返せば、エミヤオルタがおかしくなり始めたのはあの事変のあとだった。BBが虚数事象として処理したはずであるのに、それを境にしてエミヤオルタは明確に壊れ始めたのだ。

 最初は一部の記憶が摩耗するだけだったそれが日に日に拡大し、彼は今となっては生前の記憶を完全に忘却し、時折頭がぼーっとするなどの症状が発生、更に体のあちこちにも傷跡のような物が出来るようになった。BBやナイチンゲールと言った医療の心得があるサーヴァントによる調査でも原因は特定できなかった。

 しかし、幸いにも症状はそれ以降は進行せず、戦闘にも支障はなかったため、彼は戦線に復帰した。そして、すべての記憶を忘却したせいなのか、彼の性格は逆に軟化した。医療に携わる人やサーヴァント達の見解を聞いたが、恐らくは記憶を失うことにより、フラットな状態になって性格が本来のもの(エミヤ)に近づいたのだろうとのことだった。そういう点も踏まえると、彼が意外と人付き合いが悪くないのも当然のことなのかもしれない。

 

「さて、そろそろ時間だな」

 

 彼の言葉を聞いてわたしは時計を見る。既に針は彼の退去開始予定時刻の一時間前を示していた。

 

「じゃあわたしは一度部屋に戻るね」

 

「ああ、立香、また一時間後にな」

 

 わたしはその言葉に肯いて部屋を出る。さて、最後の用意をしよう。そんなことを考えながら、わたしは部屋に向かって歩いて行く。

 

 

 

 

 

 

 用意を終えて部屋を出るとそこには既にエミヤオルタがいた。

 

「思ったよりも早かったな」

 

「あれ、何でここに?」

 

 反射的に尋ねる。

 

「オレの部屋を見ただろう。片付けるものもろくにない。時間が余ったから此処で待っていたという訳だ」

 

 わたしは彼の部屋を思い出す。確かに物が少ない部屋だった。何着かの服とコーヒーの一式、それに筆記用具くらいしか見た覚えがない。ミニマリストもビックリのものの少なさである。

 

「じゃあせっかくだから護衛してもらおうかな」

 

「オレは『執事』でも『騎士』でもないが、お前に雇われた『傭兵』だ。任務として引き受けるとも。但し、後で()()は頂くがね」

 

 エミヤオルタは微笑を浮べながらそう言う。

 

「報酬? でも今から貴方にあげられるものなんてわたしは持ってないよ」

 

「なんてことは無い、オレの去ったあとに部屋の後片付けをあんたにやってもらいたいだけだ。既に片付けたがいくつかものが残っている。もし使うならあんたが持っていってくれても構わない」

 

「何それ、報酬じゃないよ」

 

 彼が言ったことをそのまま実行した場合、わたしが得するだけ、むしろわたしが報酬を貰うことになる。片付けもほぼ済んでいる以上、ほとんどすることもないだろうし。

 

「オレはそれで構わないと言ってるんだ、それともなんだ。他に差し出せるものがあるのか?」

 

「確かにそれはないけども・・・・・・」

 

「なら決まりだ。いいか、オレの退去が終わり次第直ぐに行ってくれ」

 

 半ば強引に押し切られてしまった。仕方ないなぁと口に出しながらわたしは彼と管制室へ向かって歩いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 管制室の扉を開けると、いつもの如く見送りのサーヴァントが待機していた。

 

「来たか、デミヤにご主人」

 

 まず、最初に声をかけてきたのはキャット。

 

「待ってたわよ、黒い方のエミヤくん」

 

 続いてアイリさんが声をかけてくる。そしてその後ろからイリヤとクロエも顔を出した。

 

「そして当然、私もいるというわけニャー! アイリ師匠ある所にジャガーマンも有り! 次いでに弟子EX号もいる! 師弟三代集結スペシャルやっちゃいますかニャ?」

 

SSJ(そこまでにしておけよジャガーマン)!」

 

 反射的に言葉口から出てしまった。相変わらずの謎生物(ジャガーマン)がそこにはいた。・・・・・・というかキャットとジャガーが揃っていて大丈夫なのか!? 唐突に不安になってきた。

 

「やあ」

 

 次に声をかけてきたのは意外な人物。アサシンの方のエミヤだった。

 

「アサシンのエミヤ!?」

 

「驚いた。まさか、あんたが来るとはな」

 

「君には何度か世話になったからね。同業者でもあるし挨拶くらいはしておこうと思っただけさ」

 

 確かにエミヤオルタはアサシンエミヤとも上手くやっていけるような背景と性格を持っている。戦闘スタイルも割と似通っているし。

 

「エミヤオルタ殿」

 

「風魔小太郎か、オレ達はさっき会った時ばかりだったと記憶しているが?」

 

 小太郎とエミヤオルタは確かにあの時初対面だったはずだ。そんな彼が顔を出すというのはやはり先ほどのことを気にしているのだろうか。

 

「ええ、確かにその通りです。顔を出すか悩んだのですが結局こちらに顔を出すことにしました。それと・・・・・・」

 

 小太郎がそう言ったタイミングで彼の後ろから最も予想外でありながら、居てもおかしくないと思える人物が顔を出した。

 

「彼に助言を受けてね。気は進まなかったが、顔を出すことにした。驚いたか、()()?」

 

「ああ、おまえが来ることだけは全く計算外だった。やはりオレたちは別人だ。こんな風に、互いの考えてることを読み取れないからな」

 

 そこには、エミヤがいた。この場で恐らく最も彼のことを嫌っているであろう人物。場の空気が一瞬凍ったのをわたしは感じた。

 

「だからこそ、最後に思いの丈をぶつけさせてもらおうと思ってね。オレ(おまえ)もそれで構わないだろう?」

 

「悪くない話だ、初めて気があったんじゃないか?」

 

 険悪な空気は、彼らの会話で霧散するとまでは行かないが少し弱くなった。

 その時ふととある職員の方の姿が目に入った。わたしを呼んでいるみたいだ。

 

「じゃあわたしは帰還のために必要な作業にかかるから皆仲良く・・・・・・ね?」

 

 不安を感じながらその場を離れる。

二人は大丈夫だろうか?

 

「先輩、お二人をあのままにしておいて良かったのでしょうか」

 

 作業場に着くと、マシュが声をかけてきた。彼女の心配も確かに最もだと言える。

 

「二人が衝突しそうになっても止めてくれそうな人がいるから大丈夫だと思ってるよ」

 

 恐らくジャガーマン一人が止めに入れば解決すると思われるので、そこまで大きな心配はしていなかった。

 

「ではいつも通り、始めていきましょう」

 

 わたしはマシュの言葉に頷きながら退去に向けた作業を開始した。

 

 

 

 

 結論から言うと、わたし達が心配していたようなことは起こらなかった。途中怒鳴り声が聞こえてきたりもしたが、衝突までは行かなかったらしい。

 

「これで大体の作業は完了です。あとは私達に任せて、先輩はエミヤオルタさんのところに行ってあげてください」

 

「そうだね、行ってくるよ」

 

 あとは帰還を促進する術式の所まで行くだけだ。準備が完了しかけていることはさっき既に伝えていたのでサーヴァント達の別れの挨拶はもう終わっているように見える。

 

「お待たせ、準備が完了したよ」

 

「よし、行こうかマスター」

 

「うん」

 

 彼は後ろを振り返ることなく私と共に並んで歩き始める。

 

「皆に最後の挨拶をしなくて良かったの?」

 

「挨拶なら既に済ませたさ、それに、長く居座る理由もない」

 

 別れを惜しむ様子もなく、彼は進む。

 

「立香、最後の機会だ。少し話を聞いてくれないか」

 

 前を歩いていた彼がこちらを振り返ることなく切り出した。

 

「いいよ、聞かせて」

 

 わたしはそう答え、彼の言葉を待つ。

 

「初めておまえと会った時、何とも頼りない印象を受けたのを覚えている。そしてその甘さのせいで、直ぐに命を落とすのではないかとも思った」

 

 わたしは何も言わない。ただ無言で、続きを待つ。

 

「しかしおまえは最後まで戦い抜いた。敵対していたとしても正しくそこにある人を殺すことはなく、人の死に心を痛める。その自らの甘さと言われる在り方を変えることはなかった。更にあんたはオレたちサーヴァントにすら殺すことをさせようとしなかった。例えそうした方が効率よく事態を解決に導けるとしても、だ」

 

 確かにわたしは変えなかった。例え後で修復されるだとしても、自らの手で人の命を奪わず、サーヴァントに奪わせることもなかった。偽善だと言われるかもしれない。そうであったとしてもわたしはそのやり方を変えなかった。それが正しいことだと信じていたために。

 

「お陰でオレはここにいた間に、ほとんど人を殺すことがなかった。人殺しだけが上手なサーヴァントに人を殺させない。おまえのやり方は愚かだとも言えるだろう」

 

 そうだ、エミヤオルタの能力は人を殺す事に向いている。対サーヴァント戦でも強力だが、彼が本来最も得手とするものは殲滅なのだろう。そんな彼にわたしは人殺しを禁じた。今でもその判断が間違っていたとは思わないが、彼からすれば愚かなことなのだろう。

 

「だがな、愚かだと、非効率だと、無駄だと言わせたい奴らには言わせておけばいい。誰がなんと言おうと、おまえにはそのやり方しかなかったんだ。甘さを捨てることの出来ないあんたには、できる限りを救うという最も茨の道を進むしかなかったんだろうさ。だが、その道をあんたは走り抜けた。例えオレたちの助けがないと不可能だったとしても、その助けを掴んだのはあんたのその甘さのお陰だ。だから、誰になんと言われようとも、あんたは立派だとも」

 

 皮肉屋な彼らしくもない言葉。だけども、その言葉は本物だった。嘘偽りのない、本心からの言葉だ。そして一呼吸おいて彼は続ける。

 

「あんたこそ正義の味方だ。弱きを助け、強きを挫く。オレのようなただの人殺しとは違ってな」

 

「それは違う! 誰がなんと言おうと、貴方自身が否定しようとも、それでも貴方は、無辜の民が虐げられ、嘲笑われる事に憤る貴方は、わたしにとって間違いなく正義の味方なんだ」

 

 口を出すつもりは無かったはずなのに、気がつけば捲し立てるように感情をぶつけていた。今の言葉にはどうしても耐えきれなかったから。

 SE.RA.PHでの出来事から少したった日、BBにわたしが知らなかった出来事を教えて貰った。BBは渋ったが、あの出来事を覚えているわたしは全てを知って背負うべきだと思って無理に頼み込んだのだ。

 彼女は全てを詳らかに教えてくれた。わたし達がやってくる前に起きた出来事。ガウェインが消えた経緯の詳細。エミヤオルタがわたし達と離れていた時のこと。彼とサーヴァントとの戦い。そして、彼の最後。

 一度わたし達と戦い、倒れた彼が再び立ち上がったのはビーストⅢ/Rが無辜の民を虚仮にした時だったという。そして彼は最後にメルトリリスを助け、彼女の断末魔を聞き届けたあと、再び停止したという。

 やっぱり彼は誰がなんと言おうと正義の味方だった。その事を私は知っている。だから彼が自らそれを否定するのを耐えきれなかったのだ。

 

「・・・・・・」

 

 彼は何も言わずにこちらに振り返る。その時目に映った彼の表情は嬉しさと悲しみとが織り交ぜられて酷く歪なものに見えた。そして、彼の瞳には涙があった。

 

「エミヤオルタ・・・・・・。貴方・・・・・・」

 

「どうしてだろうな。正義の味方なんて、オレを表す言葉としては程遠いはずなのに、それをあんたに言われた瞬間、涙が流れてきた。だが、不思議と悪い気分じゃない」

 

 かつてあったであろう理想。その理想は腐り果て、今となっては思い出すことすらできないのだろう。だがしかし、彼の中にそれは確かにあるのだ。だって彼は()()()なのだから。

 

「あぁ、こんな気持ちで去ることになるとは思ってもみなかった。たまには、(オレ)の言うことも聞いてみるものだ」

 

 再び正面を向くエミヤオルタ。彼の表情はもう見えない。そうしているうちに術式のもとへとたどり着いた。そして彼の退去が始まる。

 

「これでお別れだ、立香。今までで一番長かったお前との契約、悪くなかったよ」

 

「わたしも貴方とともに戦えて良かった。ありがとう」

 

 最後には忘れずに感謝を伝える。

 

「これからもお前の人生は続く。せいぜい悪党に殺されないように気をつけることだ。言い忘れていたが、部屋に置き土産をしてある。使うかどうかはおまえの自由だが」

 

 消えかけていた彼は最後にそう伝えてくる。最後に贈り物をしてくれるのも(エミヤ)らしい。

 

「大事にするよ! じゃあね、エミヤオルタ」

 

 できる限りの笑顔でそういった瞬間、彼は頷き、そして消えた。退去が完了したのだ。

 最後に見えた彼の表情が穏やかな笑みだったのはわたしの目の錯覚だろうか。いや、そうではないと信じたい。きっと彼は笑って去れたのだと。

 

「エミヤ〔オルタ〕さんの霊基消失を確認。退去完了です」

 

 その言葉を聞いたわたしは走る。

 マシュの所で一度止まり、急ぎの用事があることを伝えてからまた走り出す。

 そうして息を切らしながらも彼の部屋に辿り着いた。鍵は掛かっていなかったのでそのまま突入。

 部屋に入るとテーブルの上に封筒があるのが目に入った。迷わず取り、その表面を見ると立香へという文字。裏面の差出人の所にはエミヤ〔オルタ〕と書かれていた。

 封筒を開ける。手紙には机の引き出しに置き土産があることと退去したあとに消えてしまっている可能性があるということへの謝罪が綴られていた。

 引き出しを開ける。彼の危惧は杞憂で終わっていて、確かにそこにはあるものがあった。彼の愛用していた銃剣、干将・莫耶のグリップ部分である。取り出してみるとその下に紙があるのが目に入った。

 広げてみるとこちらも手紙であった。

 

『無事に見つかったようで何よりだ。そのグリップはオレの愛用していた銃剣のものだ。銃剣自体はこれから一般社会に戻るであろうおまえには不要なものだろうからグリップだけを置いてある。これを胸ポケットにでも入れておくと良い。効果が残っているかは分からんがオレのスキル、防弾加工を使ってある。効果が生きていれば防弾チョッキの代わりにはなるだろう』

 

 読み終えたわたしの目からポツポツと涙が零れた。それはグリップに当たることなく外に弾かれる。どうやら防弾加工スキルは明確に機能しているらしい。

 

「――ほんとに、ずるいなぁ。エミヤオルタ、ちゃんと置き土産は受け取れたよ」

 

 空に向かって言う。そして、ボロボロになりながらも最後まで共に戦ってくれた彼のために祈る。

 ――おやすみなさい、「正義の味方」。叶うなら、どうか安らかな休息を。

 

 ――エミヤ〔オルタ〕、退去完了




ここまで読んでくださってありがとうございます。これにてエミヤ〔オルタ〕編は完結となります。
エミヤ〔オルタ〕編の投稿を始めて以降、急激にUAやお気に入り数が増え、前回の中編では日刊ランキングに載せていただくとができました。これも読んでくださった皆さんのお陰です。そして、お気に入り数も100を超えました。こちらも登録してくれた人に改めて感謝を。
皆様の感想や評価、お気に入り登録等のお陰でここまで書くことが出来ました。読者の皆様、今後ともよろしくお願いします。
次回は宝蔵院胤舜と李書文の二人の話を全四篇で書く予定です。十二月頭までには投稿できるようにしたいところです。


それでは少しばかり補足をしていきます。キャラを書いた時の所感等の小話は先にあげた活動報告の方に記載していますので、そちらを参照してくださると有難いです。

・この話当時のカルデアの状況
八割程の英霊が既に退却済み。エミヤオルタが本編でも言っていたように危険性の高いサーヴァントは早期に退却しています。

・暴走事件について
前編で軽く触れたキアラ以外にも何人かがやらかしています。ある程度メンバーは決めていますのでそのうち触れることもあるかと。

・護衛組について
完全に悪ノリで作ったものです。英霊剣豪終えてから取り組み始めたせいもあってかこのようなものがいつの間にか出来ていました。

・小太郎について
実のところ彼は初期プロットでは影も形もありませんでした。寝起きのシーンを書いている時に思いついたために書き足したのですが、前編の終わりのシーンに繋げられたので悪くはなかったかな、と思っています。

・エミヤオルタのご飯について
彼の味覚が弱くなっているというのは最初から決めていたのですが、どのような料理を作るかは割と悩みました。そんな中、ZeroのドラマCD、「イートイン泰山」にて切嗣が麻婆豆腐を美味そうに食べていたことを思い出し、麻婆豆腐を採用、流れるままに残りも中華で決定しました。
しかし、そこは腐ってもエミヤ、ザビーズとは違って激辛麻婆が無理なぐだにも食べられるとても辛いけどたしかに美味しい料理に仕上げています。

・コーヒーについて
エミヤオルタに何らかの嗜好品を持たせようかと考えた時に、絵面のことも踏まえて、最初は酒やタバコで行こうと考えていました。しかし、来客の設定上その二つは却下し、コーヒーを採用する次第になりました。

・CCCコラボに関する設定について
本編で書いたように全て虚数事象となってます。しかし、あのイベントで接点ができたサーヴァント達は、カルデアでも何故か仲良くしていたりするという設定で処理しています。今回はタマモキャットとデミヤの関係性を少し書いたくらいですが、今後もそこに触れることはあるかと思います。
また、本編後のBB/GOの下りで出てきた嫁王、無銘、キャス狐の3人についてもカルデアに戻ってきて以降、出来事についての記憶は無いことになっています。
そして、BBに聞いたことにより主人公は出来事の全てを把握しています。但しBBちゃんの配慮により余りにも悲惨すぎることはオブラートに包んだりはされています。それが冒頭の夢のあとでの独白であった、ここまでだとは思わなかったというところの理由ですね。

・エミヤオルタの崩壊について
こちらも本編で触れたようにCCCイベントの出来事のあと、壊れて言ったということにしてます。CCC時のエミヤオルタは召喚初期に近い形だったので、あの出来事を契機に記憶の消失や体の崩壊が始まったということにさせてもらいました。

・最後の会話や置き土産について
彼らしくない、と言われればそれまでかも知れません。しかし、私は、絆レベル5の彼のセリフで逆に可能性を感じました。記憶をすべて失いフラットな状態の彼ならあのような事を行うのではないかと。これに対しては批判を受ける覚悟もありますが、一つの解釈として受け止めてくださると嬉しいです。
また防弾加工の効果は判明していないので独自に解釈させていただきました。

・ぐだ子の一人称について
これまで「私」と書いてきましたが、公式に合わせて「わたし」に変更しています。気づかなかった自分が恥ずかしいです。

補足説明は以上となります。繰り返しになりますが、ここまで読んでくださってありがとうございました。

今後優先して欲しいことはどれですか?

  • 更新速度
  • 1話辺りの密度
  • 色んなサーヴァントの出番
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