「別れ」の物語   作:葉城 雅樹

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※11月28日午後5時55分に台詞周りや文章全体に手直し入れました。やはり深夜に眠気と戦いながら書くものではありませんね。改行時の空白すら忘れていましたし。

今更ですが、この作品のエピソードは基本的に独立していますので時系列順ではありません。
今回の話はアルトリア・ペンドラゴン(セイバー)編よりも先にあった話となります。

また、活動報告やポツポツ私情を語る用のTwitter始めました。私のユーザーページからアカウントに飛べるはずです。宜しければフォローお願いします。


神槍 李書文&宝蔵院胤舜編
第一節 「神域の槍兵」との稽古 (前)


 昼食を済ませて、部屋で今日の面談の用意をしていた頃である。

 部屋のインターホンが鳴った。わたしは、慌てて受話器の元まで行って返事をする。

 

「はーい」

 

「良かった、まだ部屋にいたか!」

 

 受話器から聞こえてきたのは大音量の男の声。元々昼から会う予定であった彼――宝蔵院胤舜――の声だ。

 

「うん、いるけどどうしたの? まだ約束してた時間じゃないよね?」

 

「うむ、おまえが遅刻したわけでは無いから安心すると良い。なに、少し今日の予定を変えてもらいたいと思ってな。構わないか?」

 

 わたしはサーヴァントのみんなに最後に時間をとってもらう時の過ごし方をこちらで決めているが、それはあくまで相手に希望がなければの話だ。

 相手の希望があるならば基本的にはそちらを優先している。わたしとしては最後にきちんとした形でお別れができればそれでいいので、時間の過ごし方に拘りはあまり無いのだ。

 

「別に構わないけど、どうするの?」

 

「時間は変わりなし。但し場所をトレーニングルーム(鍛錬場)にしてもらいたい。無論、おまえの格好も鍛錬に合わせたものでな。拙僧としては、持ち物は稽古槍だけにしておくことを勧めるが」

 

「分かった。じゃああと・・・・・・一時間後だね。その時間に」

 

「突然の変更、すまないな! ではまた一時間後に」

 

 そうして彼との会話は終わる。それにしても、突然トレーニングルームへの変更。これは明日の鍛錬時には筋肉痛かもしれないな、なんて思いながらクローゼットから道着を取り出す。

 そして道着に着替える中でわたしは、彼が退去予定日を決めている最中に書文先生と共にやってきた時のことを思い出す。その時も確か部屋にいる時にインターホンが鳴ったのだ。

 

 

 

 

 

『マスター、少し良いか?』

 

 やってきた書文先生に対してわたしは大丈夫だよ、と返して扉を開けた。

 

『マスター、失礼するぞ』

 

『あれ、胤舜も一緒だったの? 二人が一緒に来るなんて珍しいね』

 

 書文先生と胤舜。彼らの組み合わせはわたしにとって新鮮なものだった。確かに二人とも槍を極めたという共通点はあるのだが、彼らが共にいる場面は中々になかったからだ。胤舜が言うには、仕合うと間違いなく殺し合いになってしまうからとのことらしいのでわたしも無理に二人を合わせようとはしなかった。

 

『実は折り入って頼みがあってな、聞いてくれ』

 

『うん、聞かせて』

 

『実はだな、退去予定の日に儂とここにいる宝蔵院、その二人で真剣勝負をしたいと思っている。だが、お主も以前に聞いたように儂ら二人が一度勝負を始めたならばどちらかが死ぬまで終わることはあるまい。今までは人理のため、という事でお互いにそうならぬように抑えておったが、全てが終わった今、最後に誰か達人と果し合いたいと思ってな。そこで宝蔵院に話を持ちかけたのだが・・・・・・』

 

『そこから先は俺が話そう。李書文にその話を持ちかけられた俺は正直なところ受けたいと思った。以前にも言ったが、神槍の異名をとる男とは仏に使える身として仕合っておきたかったのだ。だが立香、善良なおまえはサーヴァント同士の殺し合いなど望まないだろう。だから俺は彼に告げた。マスターの意向を確認してからだと。マスターが良いといえば仕合を受け、ダメだといえば断ることにしようと思っている。それでお互いに合意したためにこうして訪れた次第だ』

 

 サーヴァントを失うこともなく、すべての目的が達成され、残すは退去のみとなった時点で、このような話が来ることは想定していた。

 確かに胤舜の言う通り、わたしは仲間のサーヴァントが殺し合うところを見たいと言うような人間ではない。だが、私はこれまでの戦いの中で知ったのだ。闘いに生きた者にとっての生死を賭けた戦いの価値を。

 彼らにとってその戦いは自らの命よりも価値があることかもしれない。もしかしたら聖杯に願うほどにそれを求める者もいるかもだ。

 だから、こういう提案が来た場合の返答も、既に決めていた。

 

『わたし個人としては全然構わないよ。但し、カルデア職員の皆との相談は必要だけどね』

 

 わたしはこの長い旅の中で様々なサーヴァントや人々に出会い、彼らの生き様を目の当たりにしてきた。だからこそ、武に生きる人が闘いに全てをかけようとする気持ちも完璧とは言えないまでも、少しは理解できたのだ。

 元より善意でわたしに協力してくれたサーヴァント達だ。そんな彼らが最後に闘いを望むのならば、わたしとしてはその意思を尊重したかった。

 

『良いのか? 俺達が戦うとなると、どちらかが斃れるまで止まることはないぞ。結果がどうあれ、おまえの望むであろう平穏な別れ方は出来ないであろうよ』

 

『貴方達にとってその戦いはきっと何よりも価値のあるものなんでしょう? だったら、それを止めるなんてわたしには出来ないし、したくもない』

 

 胤舜はわたしの答えに対して少し驚いた様子を見せたあと、快い笑顔を浮かべてこう言った。

 

『ふははは! どうやら俺はおまえのことをまだ見誤っていたらしい。はは! 拙僧もまだまだ修行が足りんな!』

 

『だから言ったではないか、宝蔵院。マスターは許可をくれるだろうと。こやつは儂ら武に生きたものの在り方を理解し、尊重してくれているとな』

 

 書文先生も軽く笑みを浮かべて続いたところにわたしはでもね、と言いながら割って入った。二人の決闘を認めた場合には大きな問題が起きる可能性があった。その説明をしなければならないと、その時のわたしは考えたのだ。

 

『わたし個人としては全然問題ないんだけども、カルデア的に可能かどうかは相談してみないとわからないんだ。二人の勝負を認めると、他のサーヴァントからも最後に決闘したいという声が上がるかもしれないじゃない』

 

『ふむ、確かにそれはあるかもしれんな。だが、それで何か問題が起きるのか? お主の気持ち的に問題がない以上、予定の調整さえ何とかできれば良いように思えるが』

 

『いや、拙僧には立香の言いたいことが分かったぞ。李書文、おまえや俺はサーヴァント化したからと言って、炎や嵐などといったものを扱うようになった訳ではなく、あくまで生前と同じように磨き上げた技術で戦っているだろう?』

 

 少しの説明で胤舜はわたしの危惧してる可能性に気づいたらしかった。そして、その胤舜の言葉で書文先生も理解したらしく、快活な笑い声をあげる。

 

『呵々! そこまで言われれば、儂にも分かる。儂らのような武術のみのサーヴァント同士の決闘ならば全力を出し合っても周りに被害は出ないだろうが、神話の再現の域に達するものだとそうも行くまい。サーヴァントになってから、神話に語り継がれた者の恐るべき力というのは嫌というほど我が身で体験しているというのに忘れておったわ』

 

 書文先生の言う通り、わたしが危惧していたのは全てのサーヴァントが全力で戦える場を提供するのは難しいということだった。

 一番わかりやすい例を挙げるならばカルナとアルジュナ(インド兄弟)だろう。現在の彼らの関係は一触即発という程のものでは無いが、最後に闘う機会があるというのならばそれを望むのはまず間違いないし、わたしもその機会をあげられたらと思ったのだった。

 だが、シミュレーターでそのための舞台を用意してもシミュレーターが耐えきれるかどうかは非常に怪しい。それに、すべてが終わった今では修正途中の特異点へのレイシフトを行うことも不可能だ。

 その為に、なるべく全てのサーヴァントの望みに対応できるように勝負を成立させるための決まり事や、耐久力のある舞台を作るための方法を考えなくてはならなかったのだ。

 

『そういうことなんだ、だから今回の件については一回私に預けてくれないかな? なるべく早めにカルデア職員の皆と一緒に検討の場を設けれるようにするから』

 

『拙僧はそれで構わぬよ。李書文、お主はどうだ?』

 

『うむ、マスターの懸念も確かだ。ならばここは預けるほかあるまい。何、お主なら上手くまとめるだろうよ』

 

『二人ともありがとう、二人の望みが叶えられるように全力を尽くすよ』

 

 

 

 

 

 

 そうして、彼らの望みを預かったわたしはカルデアスタッフに相談を持ちかけたり、闘いの舞台を作り上げるために力を貸してもらえそうなサーヴァントに協力を求めるなどあちこちを走り回った。

 その結果、三つの条件付きではあるが、最後に真剣勝負を行いたいサーヴァント達が戦える仕組みを作り出すことに何とか成功したのだ。

 ちなみに三つの条件というのは

 一、勝負の実施は事前に定められた舞台で、決められた時間に、誰でも観戦可能な状態で、審判役を入れて対戦を行う。

 また、これらの決まりに抵触したり、審判の指示に従わない場合は警備サーヴァントや技術職員によって即時強制退去処分となる可能性があることに留意するべし。

 二、勝負の成立には参加者全員の合意が必要であり、拒否するサーヴァントや、無関係なサーヴァントや人を巻き込んではならない。

 また、執拗な勧誘を阻止するために申込期間は定められた三日間のみとし、その期間外の申し込みは例外なく認められない。

 三、対戦人数に応じて、その日もしくはそれより前の日に通常退去サーヴァントと同じようにマスターとの面談機会を設ける。

となっている。

 一つ目の条件は魔術協会に許可を出してもらうための方策である。日時や場所、審判役や罰則を決めておくことにより安全性の保証。そして観戦自由としたのは、どんな人でも神秘の塊とも言えるサーヴァント同士の戦いを見れる様にし、貴重な研究資料の提供を行うという意図だ。

 二つ目の条件は双方の同意を必要とし、厳格に期間を定めることと無関係な人への被害を出さないという決まりによって、一方的に勝負を申し込むことを不可能としている。これによって、望まぬサーヴァントに対戦を強要することなく、先程の見学者たちの安全も保証されるという話である。

 そして三番目。これはわたし個人の願望を決まりに入れてもらった。最後に望む相手と戦うのだとしても、それはそれとしてお別れをしておきたいわたしの個人的な感情。その辺りをカルデアスタッフの皆さんが拾ってくれた。

 この三つの条件だってほとんどスタッフの皆さんが考えてくれたものだ。様々な外野に配慮した決まりを作ってくれるスタッフの皆さんには感謝してもしきれない。

 

「さて、そろそろ行かないと」

 

 道着に着替えたわたしは一人呟く。決闘を成立させた経緯を思い出しているうちに結構時間が経ってしまっていた。わたしは、ロッカーの中から一本の樫で出来た稽古槍を取り出す。

 そして、これまでの鍛錬の量を示すようにボロボロになっているそれを持って廊下へ出る。明日は胤舜と書文先生の闘いの日だ。その前日に槍を持ってトレーニングルームに来いという事は恐らく、胤舜が最後の稽古をつけてくれるのだろう。全ての事件が終わってからは自室での動きの確認くらいしかして来なかったからちゃんと出来るか心配だなぁ、なんて思いながらわたしはトレーニングルームに向けて歩き出した。

 

 

 

 

 学校の体育館に近い形をしているトレーニングルームに入ると、そこには既に胤舜の姿があった。彼もわたしの物によく似た道着を着ており、わたしよりもよっぽど様になっていた。

 

「来たか」

 

 視線をこちらに向けることなく彼は話しかけてくる。

 

「うん、これが最後の稽古・・・・・・かな?」

 

「左様。事件が全て解決してから稽古をつけていなかったが、最後におまえがどこまで出来るのか確認したい。何せ、ほぼ四百年ぶりの弟子なのだからな!」

 

 そう言って彼は立ち上がり、足元においてあった、普段戦闘時に使うものではない、先端まで樫で作られた稽古用の木槍――わたしが持っているのとほぼ同じもの――を手に取る。

 わたしも彼の前に適切な距離を取って立ち、槍を構える。

 

「良いぞ、何処からでもかかって来い!」

 

 彼の呼びかけを受けてわたしは頷き、これまで胤舜から学んで来た宝蔵院流槍術、その全てを披露する。

 無論、稽古の相手は達人、わたしの突きも払いも何もかも全てが捌き切られる。

 わたしが彼から学んだ槍術は、護身用のものが多い。特異点ではサーヴァント以外にも現地の人と戦闘になることがある。サーヴァント戦ならば数の差はほとんどないが、人との戦闘時には数が多すぎてわたしの所まで敵がやって来ることもあった。わたしが彼から槍術を学んだのにはそういった時に自力で対応する為でもあった。

 槍というのは近づいてくる敵に対してはリーチの関係上相性が良い。最も、戦いの際にそう都合よく手元に槍があるとは限らないのだが。

 

「まだまだ甘い! 姿勢が乱れているぞ! ふむ……とは言え間が空いていた割には劣化が見られない。お主、すべてが終わった後にも部屋で鍛錬していたのか?」

 

 胤舜が少し手を休めて訪ねてくる。わたしもそれに合わせて一度槍を置き、答える。

 

「せっかく胤舜に教わった技術を忘れたら勿体ないから、少しだけね」

 

 一騎当千の英霊から武芸を学ぶ。今に生きる人々が願っても叶わないような機会をわたしは得ている。

 その事を分かっていたから学んだことを無駄にはしたくなかった。平和が訪れ、戦う必要が無くなった今であっても教わった技術を忘れたくはないと思ったのだ。

 胤舜は型の名前等は不要として教えてくれなかった為に、わたしは自らの体を動かすことで忘れないようにするしか無かった。

 

「はは、そうか! それは中々嬉しいことを言ってくれる! では再開するとしようか」

 

 そう言って、胤舜は再び槍を構える。それに合わせてわたしも槍を構えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「よし、ここまでにしようか」

 

「ふぅ、久々に全力でやると体力的にも少しきつい・・・・・・」

 

 途中で休憩を挟みながらだが、三時間ほどの鍛錬が終わった。今まで彼から学んだことは全てぶつけられたと思う。

 トレーニングルームの床に座り込み、水を飲んでいるわたしに胤舜は告げる。

 

「うむ、とりあえず言いたい事は何点かあるが、それは後ほど拙僧の部屋で話すとしよう。それより今は汗を洗い流し、衣を変えるべきだな。ふむ……では、一時間後に拙僧の部屋で再集合とするか!」

 

「じゃあ、一度部屋に戻ってシャワーを浴びることにするよ」

 

「そうすると良い。お主は人の身、汗で体を冷やして風邪など引いては大変だからな! では拙僧は先に戻らせてもらうとしよう」

 

 そう言って胤舜はトレーニングルームから出て行った。さて、わたしも一旦マイルームに戻ろう。そう思いながらわたしは立ち上がり、自室に向かって歩きだした。

 

 

 

 

 

 

 一時間後。部屋に戻ってシャワーを浴び、カルデアの制服に着替え直したわたしは胤舜の部屋に向かって廊下を歩いていた。

 すると、廊下の先、というか目的地の方から良い香りがしてくる。その良い匂いにつられて歩いていくと、目的地である胤舜の部屋に着いていた。どうやら、匂いの発生源はここらしい。

 とりあえず止まっていても仕方ないのでインターホンを押す。

 

「立香か?」

 

「うん。開けてくれる?」

 

「承知」

 

 その言葉の直後、扉のロックが解除されたので、わたしは扉を開けて部屋に入った。

 部屋に入ってまず目に入ったのは、大きな鍋である。そしてわたしは同時に確信する。あのいい匂いの出処はこの大鍋(こいつ)だと。よって、彼に質問する。

 

「胤舜、この鍋はいったい何なの?」

 

「そうだな、質問で返す形で悪いが、立香、以前今日の予定を決めた時に、夕餉(ゆうげ)を一緒に取ろうと言ったことを覚えているか?」

 

 確か、そんなことを言ってた気がする……。なのでわたしは覚えていると答える。その答えに対して、彼は置かれた鍋の蓋を開けながら話し始めた。

 

「うむ、折角の機会であるから拙僧の作れる料理を作ろうと思ってな。これは狸汁と言い、宝蔵院に伝わる伝統料理の一つだ。本来なら正月明けの初稽古のあとに出すものなのだが、今回の稽古は今年になってから初めてのものである故問題ないだろうよ」

 

 そう言ってニカッと笑う胤舜。そこでわたしはある違和感に気づく。この料理は狸汁と言うのに、狸の持つ獣臭いような匂いを感じない。中を覗いてみると狸かどうかは分からないが肉のようなものは見えた。とりあえずそれを狸(仮)として質問を投げかける。

 

「あれ、これ狸汁なのに獣臭さが無いんだね」

 

 率直な疑問だったので迷うことなく胤舜に尋ねることが出来た。

 

「うむ、実を言うとその狸肉のように見えるものは炒めた蒟蒻(こんにゃく)なのだ。拙僧が宝蔵院の院主をしていた頃は本物の狸の肉を使っておったのだが、何時頃からか寺の境内で肉を食うのは如何なものかとなって、狸を蒟蒻で代用するようになり、精進料理として変化したらしい。だから今回は現代風に合わせて蒟蒻の方で作ってみた。食ってみるが良い。温まるぞ!」

 

 彼は話しながら器に狸汁をたっぷりと入れて渡してくれた。湯気が凄い勢いで立っていて、汁の熱さを想い起こさせる。

 

「ありがとう! じゃあ、いただきます」

 

 口の中に狸汁を運ぶ。想像通り、かなりの熱さだ。だが美味しいのと温まるのは確かだった。そして、狸肉を模したとされる炒めた蒟蒻を口に入れる。確かに食感は肉に似ている。

 他に入っているのは大根に人参、ゴボウにうすあげ、といったところだろうか。感想としては味付けを含めて少し豚汁に似ているなと言ったところか。いや、豚肉は入っていないのだが。

 

「味はどうだ? 坊主故、こういった事には自信がなくてな」

 

「美味しいよ! これ胤舜一人で作ったの?」

 

 聞くと、胤舜は一旦悩むように口を閉じた。そして、少しの間を置いて話し始める。

 

「実のところ、俺は既に狸汁の作り方をハッキリとは覚えていなかったのだ。困った俺は、食堂のエミヤに相談した。すると彼は現代で復元された狸汁の話を教えてくれた。そして彼に教わりながら()()()()()()()なるものを使い、作り方を学んで、自分の記憶と照らし合わせながら狸汁を作ったのだ。だからこれは厳密に言うと俺一人で作ったものではない。エミヤや、いんたーねっとで作り方を書いていてくれた者のお陰で出来たものだな」

 

 胤舜の口からインターネットなんて言葉が出てきたことにも驚いたが、現在でも狸汁が存在していることにわたしは驚いた。

 

「そっか、それにしても胤舜の口からインターネットなんて言葉が出てくることにビックリだよ」

 

「ふははは! 確かに俺のような坊主には全く似合わない言葉だな。だが、あれは便利なものだ。大量の書物の中から目当てのものを探すまでもなく、調べたい言葉を入力するだけで求める情報の書かれた場所を教えてくれるのだから」

 

 江戸時代を生きた彼には、インターネットの技術はそのように見えるのか、とまたもや少し驚く。

 

「胤舜がインターネットを使ってどんなことを調べたのか少し気になるな」

 

「ほう、そこが気になるのか。別に教えても良いが・・・・・・。大して面白い話でもないぞ?」

 

 彼はそう言ったが、わたしはそれでも彼が何を調べたのかは気になったのだ。

 

「いいよ、それでも気になるから良ければ教えて」

 

「第一に調べたのは、拙僧が死んだ後の日本の歴史だ。召喚時にある程度は知識として与えられているとはいえ、しっかりと確認することには大きな意味があった」

 

 確か彼が死んだのは江戸時代初期のことだったはず。そんな彼からしたら今の日本はどう映るのだろう。そう思っているうちに胤舜は次に調べたことについて話し始める。

 

「そして次に拙僧は、宝蔵院がどうなっているのかを調べた。それは聖杯からの知識としては与えられなかったものではあるが、先程調べた日本の歴史からある程度想定はしていた」

 

 宝蔵院という院は確か現在では既に存在していなかったはずだ。

 

「そこで見た話は余りにも意外なものだった。宝蔵院が既に壊されていることは想定通りだったが、宝蔵院流槍術が未だに伝承されていたのだ。俺や胤栄師匠が宝蔵院で編み出し伝えた技術等は失われていたが門派の一つが残っており、正当な宗家の手続きは踏まれていなかったものの、技術は現在も伝えられている。お主は高田又兵衛を知っているか?」

 

「確か、胤舜と兄弟弟子に当たる人で、宮本武蔵と戦ったんだっけ?」

 

「その通りだ、よく知っていたな」

 

「前に胤舜が言ってたよね、確か・・・・・・」

 

 と、そこまで言って気がついた。武蔵ちゃんと話していた()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

「うん? どうした、唐突に黙って」

 

「いや、胤舜から聞いたんじゃなかった。武蔵ちゃんから聞いたんだったよ、すっかり勘違いしてた!」

 

「・・・・・・」

 

 慌てて取り繕ったが、誤魔化せたかな? その時の胤舜の表情は見えなかったので若しかしたら怪しまれているかもしれない。

 

「まあ、その高田又兵衛なのだが、彼は高田派という門派を開いていてな。その門派が江戸、そして東京である程度伝えられてきたらしい。一部は失伝してしまったらしいが、本家の宝蔵院が取り壊されてもなお、今でも高田派として宝蔵院流槍術は生きているのだ。俺はその話を最初に見た時にひどく驚いた。武術など不要な世の中になったこの時代で、戦うために作られた宝蔵院流槍術が辛うじてとはいえ生きていたのだ」

 

 少しの間が空いた後、再び話し始めた胤舜だったが、高田又兵衛に関するその話は初耳だ。そして、未だに宝蔵院流槍術が続いているというのはわたしにとっても意外だった。

 

「その話はわたしも初めて聞いたけど、ビックリだよ。意外と古武術というものは伝承されるものなんだね」

 

「いかにも。そこで一つ提案と言うか頼みなのだが・・・・・・、立香、おまえカルデアから日本に帰った後も宝蔵院流槍術を続ける気は無いか?」

 

「えっ!?」

 

「先程の稽古を見る限り、おまえは既に基本は全て身につけている。確かに達人と呼ばれる人間のように卓越している訳では無いが、お主は既に努力によって宝蔵院流槍術の基礎的なものはすべて身につけているのだ。聞くところによれば、最近になって、女性に対しても指導を始めたらしい。折角久々に鍛えた弟子だ。例え本来の目的を終えていたとしても、今後も続けてほしいと思うのは悪いことではないだろう?」

 

 胤舜は、とても正直である。坊主だからというのもあるのか、建前等で自分の本心を取り繕ったりしない。そんな彼がこういってくれるのは本当に嬉しい。だからこそ、わたしも正直に答える。

 

「わたしも続けてみたいという気持ちはあるよ。でも、約束することは出来ないかな。ごめんね」

 

「やはりな、お前ならそういう気がしていたさ。だが俺はそれでも良いと思うぞ。他にやりたいことがあるというのならば俺から強制するのは筋違いだろうからな。亡者が生者に干渉するなんて本来は良くないことなのだからな。はっはっはっ!」

 

 そう言って彼は快活に笑う。

 

「やっぱり胤舜はかっこいいね。」

 

「そうか?」

 

 それは、とある平行世界での会話の焼き直しだったのかもしれない。だけどそれを知っているのはわたしだけだ。

 

「それとな・・・・・・」

 

 胤舜が再び神妙な表情になり、何かを言おうとする。

 

「何?」

 

「いや、今は辞めておこう。ここですべてを話してしまうと最後の別れの瞬間に話すことがなくなってしまう」

 

 彼はその話を明日の決闘後の退去時にするつもりらしい。彼がそこで話すをやめた以上、わたしも詮索はしない。

 

「あぁ、そうだ」

 

 胤舜が何かを思い出したかの如く呟く。そして、

 

「おまえが今後どうするのかは分からないが、俺からの最後の贈り物だ、良ければ持っていけ」

 

 そう言って彼が差し出してきたのは先程の稽古で彼が用いていた方の木槍であった。

 

「ありがとう、今後槍術を続ける続けないに関わらず、大切にするよ」

 

 わたしはそれを迷いなく受け取った。胤舜は一瞬、虚をつかれたような表情をしたが、すぐに笑いだした。

 

「はははは! そうやって素直に受け取ってくれるのはお主の良いところだな。さて、冷めぬうちに食べきってしまおう!」

 

「そうだね!」

 

 そうして、二人の食事は再び賑やかなものになっていったのだった。

 




ここまで読んでくださってありがとうございます。
前回の話で初めて推薦をいただきました。ありがとうございます。
また、感想や評価、お気に入り登録をしてくださった皆さんにも感謝を。
そして、活動報告の今後の予定について。を更新してあります。宜しければそちらもご覧ください。
それと、すでに活動報告に書いたのですが、現在この話の次のエピソードも並行して書き進めていますので、投稿ペースが遅くなるかもしれません。ご理解いただけると嬉しいです。

今回取り上げた宝蔵院についての話は基本実話です。
狸汁の話も、現存する宝蔵院流槍術についての話も、女性に対する指導を始めたという話も。
宝蔵院流槍術の公式ホームページに色々と興味深いことが書かれているので興味のある方はそちらもご覧になられると良いと思います。

それでは改めて、ここまで読んでくださってありがとうございました!

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