感想が多いと捗る捗る。
第十四話 探せ、希望
ベジータの自爆の衝撃を、意識のない悟飯の下に辿り着いた界王神も感じ取っていた。
「くっ、すみません…………せめて、悟飯さんだけでも」
来た方向を炯々と照らす光を見た界王神は唇を噛み、足元にいる悟飯だけでも助けなければならないと急いで跪く。
「良かった! まだ生きてる」
傍らの地面に膝を付き、悟飯の胸に手を当てると心臓は鼓動を続けていることに安堵する。希望はまだ消えてなどいない。
「魔人ブウの復活は恐れていた最悪の事態ですが、私の想像を遥かに超えたあなた達サイヤ人の力だけが希望なのです。悟飯さん、あなたならきっとあの剣を抜くことが出来る」
万が一にも追撃がないとも限らない。悟飯の胸に手を置いたまま瞬間移動で界王神界に移動する。
「さあ、これを食べて下さい」
無事に界王神界に瞬間移動出来たことに安堵した界王神は、悟空から預かった袋に入っている豆のような物を取り出して悟飯の口を開けて奥の方へと放り込む。
「はっ!?」
仙豆を呑み込んで全回復した悟飯が飛び起きる。
一瞬で超サイヤ人2へと成り、警戒するように辺りを見渡して直ぐに変化に気付いた。
「え? あれ、あの界王神様、ここは?」
見覚えのない景色といない敵に超サイヤ人を解いて普通の状態に戻った悟飯は、取り合えず状況把握する為に近くにいた界王神に訊ねる。
「界王神界、つまりは私の世界です」
「か、界王神様の!? …………ということは、僕は死んだんですね」
嘗て悟空から死んだ後に北の界王に会ったのだと聞かされた悟飯は、界王神の世界だというなら自分はあのままブウに殺されたのだろうと思い、飛び起きたのとは逆に膝からガクリと崩れ落ちる。
「いえ、危ないところでしたが悟空さんが仙豆という物を渡して下さったので大丈夫です。生きてますよ」
「あ、そうですか……」
尻餅をついたまま界王神を見上げた悟飯は、そういえば自分には肉体があるのに頭の上に天使の輪っかがついていないことに気付き、勘違いに頭を掻いて直ぐに大切なことを思い出す。
「そうだお父さんとベジータさんは!?」
自分が死んでないことを安堵している場合ではない。戦いの場に残っているであろう悟空とベジータのことを案じて界王神に掴みかかる。
「悟飯さんを見つけた直後に、私が知らない気が爆発して消滅するのを感じました。恐らくそのベジータという方のものでしょう。悟空さんの気は、その前に遠く離れた地に移動していますから恐らく無事でしょう」
「そんな、ベジータさん……」
あの誰よりも誇り高く強かったベジータが死んだなどと、とても受け入れられることではない。
「トランクスやブルマさんになんて言えば」
学校に行く為にブルマに相談することも多く、カプセルコーポレーションを訪れた際にベジータに請われて軽く手合せをすることも多かったから悟飯のショックも大きかった。
「…………なんで僕だけをここに?」
それでも悟飯は気持ちを無理矢理にでも切り替える。
敵は強い。ベジータの死を悲しんでいる暇があるのならば対策を考えるべきだと、悟飯は考えた。でなければ、ベジータを生き返らせることも出来ず、生き返らせても何をやっていたのかと怒られることは想像に難くない。
「悟飯さんは今でも十分に強いですが、魔人ブウは更に上回っています」
悟飯が無理をしていることは容易に察することが出来たが、界王神も今は差し迫った危機を解決することを優先して話を続ける。
「そうですけど、多分お父さんなら勝てる力でした。ただ、そういう意味ではブロリーの方が脅威です」
実際に倒された身としては些か情けない推測だが、悟空の修行に付き合った悟飯は超サイヤ人3の力ならば魔人ブウに勝てると考える。しかし、その悟空ですらブロリーに勝てていない様子だったので、脅威度としてはブロリーの方が高いと判断する。
「ですので、悟飯さんにパワーアップしてもらう必要があるのです」
界王神が自信を滲ませるが、そう簡単に強くなれるなら誰だって苦労はしない。
「出来るんですか?」
「出来ます。この界王神界にはゼットソードと呼ばれる剣がありまして、抜くことさえ出来れば凄まじいパワーを得ると伝えられています」
昔話に出てくるようなチープな御伽噺のような話に悟飯は眉を顰めた。
悟飯の疑わしい目に界王神は胸を張る。
「間違いありません。ただ、何人もの界王神でも抜けなかった伝説の剣ですので真偽のほどは分かりかねますが」
どっちだよ、と悟飯は思いつつも、今は藁にも縋る思いで顔を上げた。
「分かりました。で、そのゼットソードというのはどこにあるんですか?」
悟飯が界王神の案内でゼットソードの下へ移動している頃、瞬間移動で悟天とトランクスと一緒に天界に現れた悟空をデンデが治療していた。
意識のない悟天とトランクスはポポによって宮殿内で寝かされている。
「孫、まずいことになった」
戦場は超サイヤ人2ですら弱卒扱いされる場であったから駆けつけることなく天界にいたピッコロ。悟空達がいなくなった後の下界を見ていた彼が厳しい表情で治療を終えた悟空の下へとやってきて言った。
「まずベジータが死んだ」
「そうか……」
ベジータの気が全く感じられず、何をするのか分かっていたので悟空に驚きもない。あるのはただ無力感だけである。
「で、これ以上、何をどうやったらまずいことになるんだ?」
少しつっけんどんな言い方になってしまったのは、ベジータに死を強いてしまったのではないかという強い自責とあれ以上のまずい状況を想像できなかったからである。
「ブウがブロリーを吸収した」
「は?」
最初、悟空はピッコロが何を言っているのか分からなかった。いや、分かりたくなかったのかもしれない。
「ベジータの自爆でブウもブロリーもダメージを負っていたが死ぬほどではなかった。ブウは罠を張り、ブロリーの隙を突いて吸収した。今は恐らく消耗した力を回復する為に眠っているのだろう。動く様子はない」
今直ぐに動く兆候がないのは良い情報ではあるが、ただでさえ悟空の遥か上を行っていたブロリーを吸収したブウの力は想像すら出来ない領域に至っているだろう。
「後、ブウは眠る前にバビディを殺している」
「呆気なかったな」
「数少ない朗報だ。悟飯は界王神様にどこかに連れて行かれて行方が分からん以上は我々だけでどうにかしなければならん。くそっ、ベジータも余計なことを」
バビディの所為でややこしい事態になっていたこともあって、あっさりとブウに殺されたことに悟空は少しの肩透かしを覚えながらも対策を考えなればならず頭を抱えたくなった。
「ベジータを責めることは出来ねぇ。本当ならオラがやんなきゃなんねぇことだったけど、仮にオラがやったところで倒し切れてた保証もない。今はベジータのお蔭で時間的猶予が得られたことを喜ぶべきだ」
「そうか、すまん」
所詮は可能性論に過ぎずとも、ベジータが稼いでくれたこの時間を活かさなければならない。
制限時間はブウが目覚めるまで。今直ぐに目覚めてもおかしくはなく、今残っているのは悟空だけでベジータも悟飯もいない。
「しかし、どうする? 情けない話だが俺の及ぶ領域ではないし、何も思いつかん」
サイヤ人に水を開けられた形のピッコロが手を出せるレベルの戦いではなかった。
今のブウは超サイヤ人3の悟空ですら及びもしない前人未到の領域に至っている。ピッコロもまた何も出来ず、何も良案を思いつかない自分を罵っていた。
「…………オラ一人じゃ絶対に勝ち目はねぇ。たった一つだけ可能性が
「その方法とはなんだ?」
微妙におかしい言い方をした悟空にピッコロは問い質すことなく先を促した。
「フュージョンを使うんだ」
「フュージョン…………融合だと?」
意味が分からなかったピッコロとは違ってデンデが何かに気付いた。
「聞いたことがあります。メタモル星人の得意な術ですね」
「知ってんのか、デンデ」
まさかデンデが知っているとは思わなかった悟空は目をパチパチと数度瞬きする。
「最長老様から聞いたことがあります。ある二人の力と体の大きさがかなり近い場合だけに出来る合体技なのだと」
「ああ、そうだ。あの世で会ったメタモル星人から教えてもらった術さ」
悟空はセル戦後、一年ほどいたあの世で出会って仲良くなったメタモル星人から聞いた話を思い出す。
「二人が一つに融合することで、それぞれではとても出来ねぇような凄い力を持つ新しい一人の人間になれるんだ。あの世で出会ったメタモル星人はてんで弱っちくて大人しい二人だったんだがよ、フュージョンを使ったら相当の戦士に変身したんだぜ。あの世にはオラと同じぐらいの奴がいなかったから試したことはねぇんだけど」
「な、成程…………そうか、だから『可能性があった』と言ったのだな」
悟飯は行方知れず、ベジータの死は確定している。
ピッコロではどう考えても悟空とは釣り合いが取れず、これではフュージョンする相手がいない。
「ああ、どちらかが無事ならフュージョン出来たのに」
と言いつつも、ブロリーを吸収したブウの力は未知数で、例えフュージョン出来たとしてもどれだけ強くなれるかは分からないので博打の要素が大きくなることは否めなかったことは言わなかった。
他に策はないかと皆が考え込んでいると、悟天とトランクスの気が近づいて来る。
「「
「悟天、トランクス……」
静まり返った場を切り裂くように現れたトランクスと悟天がそう言って宣言する。
「おじさん、俺と悟天なら体の大きさも気の大きさも大差ないよ。俺達ならそのフュージョンってやつ出来るよね!」
「駄目だ。お前達を危ない目には」
「待て、孫」
ベジータの仇を取るんだと目で訴えかけるトランクスを止めようとした悟空を何故かピッコロが制止した。
「二人は条件に合致している。戦力は少しでもあった方が良い」
「しかし……」
ピッコロの言いたいことは悟空も良く分かる。
超サイヤ人に成れる二人の力は仲間内でもトップクラスで、例え幼くともその手に力がある以上は戦力に数えるべきなのだ。しかし、悟空の親心がそれを直ぐには受け入れられない。
「フュージョンを試したことはないのだろう。メタモル星人以外が使った例を聞いているか?」
「いや、ないな」
「二人に戦えと言う気は無い。術に危険性がないのなら、こいつらで試すことも一つの手だ。本番の前に実験しておいた方が良い」
ピッコロは何がしかの確信を持って、悟天とトランクスに前例を作らせようとしている。
その理由が分からない悟空にピッコロは少し呆れているようだった。
「自分が嘗てしたことを忘れたか」
そんなことを言われても、悟空には思い当たることがない。
「悟飯の行方は分からない。これはどうしようもないが、ベジータは分かっているだろう」
「…………そうか、占いババか!」
ようやくピッコロの言いたいことが分かった悟空は喜色を露わにする。
「地獄行きであろうとも直ぐに魂が洗われるわけではない。時間的猶予はまだあるはずだ」
「そうだ、オラと同じように占いババの力で一日でだけ現世に戻って来れる! この方法を使えばベジータとフュージョンが出来るじゃねぇか!」
セル戦後に死者でありながら天下一大武道大会に参加する為に一日だけ現世に戻って来たことを思い出す。
占いババは死後の世界に精通していて、死者を一日だけこの世に呼び戻すことができる。その力を使えばベジータを現世に呼び戻して悟空とフュージョンすることが可能になる。
「パパが戻って来る?」
「良かったね、トランクス君!」
なんであれ、ベジータともう一度会えるかもしれないと分かったトランクスの背を叩いた悟天。
「デンデ、あの世に行って閻魔大王に話しを付けて来てくれ。孫、お前は俺達にフュージョンを教えた後は直ぐに占いババの下へ向かえ」
今はまだ絶望の暗闇に閉ざされた中であっても、その中で遠くで輝くたった一つ見つけた希望だった。
「急げ、時間との勝負だぞ」
希望をその手に掴む為に皆が動き出した。
「如何ですか、悟飯さん。伝説のゼットソードは?」
その頃、事前に超サイヤ人2になって無事にゼットソードを抜いた悟飯は界王神に聞かれても訝しげだった。
「別にパワーアップした感じはしませんね」
やたらとゼットソードは重いだけで特段パワーが湧いてくるような感じはしない。
「実は触れただけでどんな物も切り裂く凄い切れ味とかなんでしょうか」
「では、とっておきの堅い物で試してみましょう」
勧めた界王神としては何もないでは笑い話にもならない。せめて悟飯の言うように物凄い切れ味でもないと土下座をしなければならなくなる。
仮にも宇宙で一番偉い界王神がそんなことをするわけにいかないので、手を上げて鉱物を呼び出す。
「これはこの宇宙で一番堅いと言われている金属であるカッチン鋼です。ゼットソードなら豆腐のようにスパスパと斬れるはずです。行きますよ!」
「何時でも来てください!」
悟飯としても貴重な時間を割いてでも抜いたのに何の意味もない剣だったとは思いたくないので、野球のフォームでゼットソードを構えながら界王神に向かって叫ぶ。
「それっ!」
念動力かなんかで投げられたカッチン鋼に向かって一歩踏み込んだ悟飯がゼットソードをフルスイングする。
「てぇやあああああああああっ…………ぁあああああああああああああ??!!」
わざわざ超サイヤ人2になって全力のフルスイングを放った悟飯の口が、気合から驚愕に変化していった。
カッチン鋼に押し負けて目の前で期待のゼットソードが真っ二つになったのを見た悟飯だけでなく、無傷で突き進んでいくカッチン鋼を投げた界王神も予想もしていなかった光景に顎がカクンと落ちた。
「う、うそ、折れちゃった……」
物の見事に真っ二つに折れたゼットソードを見下ろした悟飯の口から我知らずに言葉が漏れる。
「…………………………………………………………」
手にした者は世界一の力を持つことが出来るという聖域の伝説の剣の末路に開いた口が塞がらない界王神は言葉も出ない。
「ちょっと大袈裟な伝説だったみたいですね」
「す、すみません」
真っ二つになってしまっては伝説の剣にも意味もないので地面に落とした悟飯の言葉に、界王神は頭を下げて恐縮することしか出来ない。
「これ、界王神ともあろう者が人間に頭を下げてどうする」
「!?」
いるはずのない第三者の声に二人が慌ててそちらを見ると、界王神と同じ服を着た老人が立っていた。
界王神によって界王神界に連れて来られた悟飯はゼットソードを抜き、折った。そして出て来た老人は?
あの世でしっかりとフュージョンを学んでいた悟空。死んだばかりのベジータを占いババの力で一日現世に戻せばフュージョンが出来るぞ!
でも、勝てるかは分からない様子。
希望は見えて来た!! ような気がする。
原作でブウを相手にしていた時のベジットは超2だったのだろうか? 最初はスパーク走っていたがその後はないし。