未来からの手紙   作:スターゲイザー

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やり切ったよ、兄貴……。




第二十話 さらば、そして何時か

 

 

 

「元気玉だ」

 

 と、煙からでも復活する厄介な再生能力を持つブウを完全消滅させる為の策としてベジータが告げたのが元気玉だった。

 

「…………無理だ」

 

 ベジータの策を聞いた悟空は苦い顔をして否定する。

 

「多分、界王神界や近くの星の気を集めてもブウを消滅させるだけの威力は出せねぇ」

 

 嘗てナメック星で絶望的な力の差を見せつけられたフリーザを相手に使用したが、死を認識させるほどの威力だったが倒すことは出来なかった。

 この頑丈な界王神界ならば星へのダメージを気にすることなく全力で放たれる分、ナメック星で放った時よりも比べ物にならない威力にはなるだろうが、当時のフリーザと今のブウには天と地ほどの力の差がある上に完全に消滅させなければ再生してしまう。

 

「何を言っている。これは全宇宙規模での問題だぞ」

 

 ベジータだってその程度のことは分かっていた。だが、今の魔人ブウの様子を見れば、ここで斃し切ることが出来なければ全宇宙の危機になる。

 ことは既に地球とその周辺だけの問題ではないのだ。

 

「全宇宙から元気を集めるんだ」

「で、でもよ。宇宙中になんてオラの声は届かねぇぞ」

『そいつは儂に任せろ。得意技じゃ』

 

 元気を貰う為には術者である悟空の声を宇宙中に届ける必要があるが、悟空の意が届くのは頑張っても今いる星から少し離れた星程度まで。どんなに頑張っても宇宙中には届かせることは出来ないが、そこは二人の頭に響いてきた第三者が請け負った。

 

「この声は、界王様か!」

『当たりじゃ』

 

 悟空が第三者の声に笑みを浮かべると、界王が少し鼻高々となっている雰囲気が伝わって来る。

 

『魔人ブウとの戦いは儂もずっと見ておったぞ。ベジータよ、決め技に儂の元気玉を選んだのはナイスなチョイスじゃ』

 

 別にベジータは界王の為に元気玉を決め技に選んだのではなく、必要だったから選んだのだが言わぬが花だろうと口を噤む。

 

『悟空の声を声を宇宙中に届けて見せよう。さあ、儂の元気玉で界王神様でも倒せなかった魔人ブウを倒すんじゃ!』

 

 界王は実は界王神に対抗心でも持っているのだろうか。

 少しばかり界王の闇に触れたような気がした悟空だったが、努めて触れないようにしようと決めて元気玉を作る決心を固める。

 

「これで準備は整った。後はカカロット、貴様次第だ」

「ああ、やってやるさ」

 

 悟空に執着しているブロリーの気質を受け継いだブウに標的にされないように、距離を空ける為に瞬間移動で離れようとして少しだけ動きを止める。

 

「ベジータ」

 

 一人でブウの相手をしていて限界の様子の悟飯の援護をしようと超サイヤ人2のオーラを強めたベジータを悟空が呼び止めた。

 

「いいか、オメェは今死んでいる状態なんだ。そんな奴がもう一度死んだら、どうなんのか知ってるか?」

「ああ、この世からもあの世からも消えちまうんだろ。閻魔大王から聞いている」

 

 顔だけを振り返らせたベジータがらしくもなく穏やかに笑ったことに驚きながらも悟空は口を開く。

 

「死ぬなよ、ベジータ。オラもライバルがいなくなっちゃ、張り合いがねぇからな。ブウを倒したらナメック星で地球もみんなも蘇らせるんだ。勿論、オメェも生き返る」

 

 変わった自分とベジータの姿に戦いの最中でありながら同じように笑みを浮かべた悟空。

 

「ふん、大きなお世話をする前に貴様は自分の心配をしろ。俺が生き返るかどうかは貴様にかかっているんだぞ」

 

 恐らくは二度と言うことはないだろう悟空の言葉に、彼らしくもない信頼の言葉を返しながらベジータは鼻を鳴らしてブウを睨み付ける。

 

「よし、行くか!」

 

 そう言ってブウの下へ向かったベジータの後ろ姿を見送り、邪気が混じるので超サイヤ人を解いた悟空が両手を天に向ける。

 

「――――――――――全宇宙の星よ、生きている全てのみんなよ、この声が聞こえていたら魔人ブウを倒す為にオラに元気を分けてくれ! 頼む!!」

 

 界王の力によって増幅された声が全宇宙に本当に聞こえているのかどうか分からないが、悟空には信じるしかなかったが効果は直ぐに現れた。

 

「うおほっ!? き、来たぞっ!!」

 

 術者である悟空が思わず目を剥くほどの元気が一気に集まり、見上げれば上空に巨大な元気玉が浮かび上がっている。

 

「いきなり、でかい…………でも、まだまだブウを消滅させるだけのパワーには遠く及ばねぇ」

 

 ダメージを与えることは出来ても消滅させるだけのパワーは現時点ではなくとも、こうしている間にも悟空の所感では全宇宙中から元気が続々と集まってきている。

 

「来い来い、もっと元気をくれ!」

 

 このペースならばそう遠くない内にブウを消滅させるパワーに辿り着くだろうが、その前にそのパワーを悟空が制御できるかの心配もあった。

 

「ぐはっ!?」

「がぐっ!?」

 

 しかし、その心配の前にブウの足止めをしている悟飯とベジータがもう限界だった。

 

「はぁ、はぁ、お、お父さん……!?」

「カカロット、まだか!? 早くしろ、こ、殺される……!?」

 

 三人が相手でも徐々に削り取られていくような状況だったので、一番気を引けることで隙だらけにすることが出来た悟空が抜けたことでバランスが崩壊。特に一人でブウの相手をしていた悟飯の消耗は激しく、援護に入ったベジータに負担が圧し掛かっていた。

 

「く、くそっ、堪えてくれ、二人とも!!」 

 

 元気を集める速度を上げることは出来ないし、まだ予定の半分のパワーにも届いていない。

 

「まだだ。まだ、これぐらいじゃブウは消せねぇ!」

 

 二人の様子から魔人ブウを消滅させるだけのパワーが集まるまでに持ちそうにないのに、先に元気玉を放ったところで意味はない。

 

「う、がっ……ご、おごっ!?」

「べ、ベジータさん!?」

 

 ブウに背後から首に腕を回されて絞められているベジータを見ても悟空は何も出来ないし、最早限界を遥かに超越している悟飯の援護も出来ない。

 

「止めろ! パパに何するんだ!!」

「やぁっ!!」

 

 突如として横合いから現れた一人がブウの顔面を蹴り、更に追い打ちをかけるようにもう一人がドロップキックを横腹に叩き込む。

 

「トランクス! 悟天!」

 

 完全な不意打ちに吹っ飛んで行くブウではなく、ベジータを助け出した二人に目を向けた悟空。

 それは確かに一度はブウに吸収され、助け出した後は離れた場所に意識もないまま寝かされていたトランクスと悟天だった。

 

「ば、馬鹿野郎。なんで出て来やがった!」

 

 九死に一生を得たベジータ。助けられたのは事実ではあるが息子達の登場は父としては望ましい事態ではない。

 

「僕達だってサイヤ人なんだ。戦えるよ!」

 

 正確には地球人とのハーフではあるが、その戦闘力は今は存在しない地球ではトップクラスである。

 その事実を良く理解していた悟天が意気込む。

 

「そうだよ、いざとなったらフュージョンも使えば」

「だから、お前達は馬鹿なんだ! まだ一時間も経っていないのにフュージョンが使えるものか!」

 

 トランクスが良いことを思いついたとばかりに言うも、フュージョンは一度合体すると一時間のインタバールが必要なことを知っていたベジータは子供達の考え知らずに怒るも、状況を考えれば助けは有難いことを認めざるをえない。

 

「だが、援護だけならば話は別だ。決してブウに近寄ろうとはしないで気功波で牽制してくれれば俺達も大分助かる。それでも戦う気はあるか?」

 

 怒鳴られて委縮する二人に、今は猫の手も借りたい状況に最低限の条件として提示する。

 

「や、やるよ。今以上に近づかないって約束する」

「気功波だけ気功波だけ…………うん、守れるよ!」

 

 約束した二人の頭を力加減も出来ずに撫で、厳しい面持ちでブウを睨んで飛んだベジータの背を見た悟空は元気を集めることに集中する。

 

「まだか、まだ溜まらねぇんか……!」

 

 もうかなりの元気が集まってきているが目標としているラインには程遠い。

 界王神界を中心として比較的近い星々からはともかく、遠方の星の元気が届くにはどうしても時間がかかってしまう。

 

「ゴフッ、あぅぅ……」

「兄ちゃん!?」

「ちっ!」

 

 遂に恐れていた事態が起こってしまった。悟飯に限界が来てしまったのだ。

 こちらの最大戦力であった悟飯が度重なるダメージと蓄積した疲労によって地に伏せたまま動けなくなったことで、遂に戦況のバランスが崩れた。

 

「ウギャギャ!!」

「ぐがぁっ!?」

「パパっ!?」

 

 悟飯に変わって矢面に立たざるを得なくなったベジータだが力の差が大きすぎて一撃の下に叩き伏せられた。

 

「カカロット、ギャギャ!!」

「うわっ、僕はそんな名前じゃないよ!?」

「逃げるぞ、悟天!」

 

 動けない悟飯とベジータを放っておいて、遠い場所で元気玉を作っている悟空と比べれば近くにいた悟天を見たブウが誤認して襲い掛かる。

 間違えて襲い掛かって来るブウから逃げる為に悟天の腕を掴んで逃げ出したトランクス。その後を追いかけるブウ。

 

「二人とも!!」

 

 強さの格が違うので二人が超サイヤ人になって逃げだそうとも直ぐに追いつかれた。

 二人ではブウに一撃の下に殺される。その未来予想図を認められなかった悟空は未だ目標のパワーに到達していなくても元気玉を放たざるをえなかった。

 

「ギャッ!?」

 

 元気玉の速度は決して早くない。今にも悟天とトランクスに襲い掛かろうとしていたブウは、迫って来る自分を害するパワーを持つ元気玉を認め、瞬間移動で射線から退避する。

 

「「えっ!?」」

 

 そして残された悟天とトランクスに向かって突き進む元気玉は、嘗て地球に来たばかりのベジータに放った時、悟飯がやったように悪の気がないからといって跳ね返せる規模ではない。

 

「ちっくしょう!」

 

 悟空に出来たことはブウと同じように瞬間移動を使って二人の前に立ち塞がることだった。

 眼前に迫った元気玉を前にして、二人を連れて逃げるだけの時間はない。 

 二人を助ける為に全力で放ったので元気玉の制御権も、もうない。出来るとしたら自力で跳ね返すしかない。

 

「うぉおおおおっ!!」

 

 一気に超サイヤ人3になった瞬間に元気玉を受け止めたが、体が雲散霧消してしまうのではないかという衝撃が悟空を襲った。

 それはそのはずで、元は悟空を圧倒的に超えるブウを完全に消滅させる為に集めた元気玉のパワーは抑えきれるものではない。

 

「ぐぁあああああああああああっっ―――――!?!?!?!?!?!?!」

 

 それでも耐えなければ、息子達が、未来が失われてしまう。

 

「ぼ、僕の気を使って下さい!」

「カカロット!!」

「お父さん!」

「おじさん!」

 

 パワーが足りないならば他から持って来る。

 ダメージで体は動かなくとも残っている気を悟空に向けて分け与える悟飯とベジータ。直接、背に触れて気を渡す悟天とトランクス。しかし、それでも元気玉のパワーは悟空を上回っている。

 何よりも仮に元気玉を押し返せても、悟空の体力はすっからかんになって戦うことは出来なくなるだろう。そうなればブウに殺されるだけ。

 

「はぁあああああああああああああああああああああああああっっっ!!」

 

 制御権を手放そうが元気玉は悟空が作った物だ。

 拒絶するのではなく受容する。自らに取り込めないはずがないと、悟空は信じた。

 

「うわぁあああああああああっっっっ!!!!」

 

 本来なら受け入れられるはずもない。仮にこの元気玉のパワーが悟空の体に入って来ても、直ぐに許容量を超えてパンクする。

 ただ、この時、悟飯とベジータ、悟天とトランクスという正しい心を持ったサイヤ人とそのハーフが悟空一人にエネルギーを注ぎ込んでいた。そして元気玉にも四人の気が入っていたことで、別人のサイヤ人の気としてカウントされたことである特定の条件が揃った。

 

「お父さんの気が感じられない…………まさかっ!?」

 

 元気玉に呑み込まれた悟空の姿は光に遮られて悟飯には見えない。感じ取れる気だけを頼りにしていたのに、その気が感じ取れなくなったことで父が死んだと勘違いした悟飯が絶望の声を上げる。

 

「いや、違う。これは」

 

 ベジータが見据える先で元気玉が徐々にその規模を小さくしていく。

 パワーが無くなって消滅していく感じではなく、何かにそのパワーを吸い取られているようで。

 

「お父さん……!?」

「はぁあああああっ!!」

 

 悟天とトランクスの前に浮かぶ悟空が元気玉のエネルギーを吸収していき、そのオーラが黄金から赤い輝きへと変化して染まって行く。

 超サイヤ人3の長髪が普段の髪に戻ったが、超サイヤ人独特の逆立った感じではない。

 

「なんだ、あの変化は?」

 

 赤く染まった髪の毛と炎のようなオーラを纏う悟空に困惑するベジータだが、不思議な安堵と共に勝利を確信していた。

 

「カカロット、グギャギャ!!」

 

 少し離れた場所にいたブウは悟空の変化に疑問を抱くような知性は既に無く、残った破壊衝動と悟空への執着に従って襲い掛かる。

 

「グギャ!?」

 

 なのに、次の瞬間に逆再生するように吹っ飛んでいたのはブウの方だった。

 

「今、お父さんは何を?」

「この俺にも見えなかっただと? ふざけた野郎だ」

 

 強くなったはずの悟飯ですら何故ブウが吹っ飛ばされたのかが見えなかった。ベジータは更なる領域に辿り着いた悟空に嫉妬を抱きながらも自分も必ず辿り着くと決意を新たにする。

 

「グ、グギャ……」

「怯えてんのか、ブウ」

 

 赤いオーラを纏った悟空に怯えるように、殴られた頬によるダメージで口からダラダラと血を垂らしながらブウが後ずさりする。

 

「どうしてこんな力が湧いて来るのか、オラにも分かんねぇんだ。決着を急がせてもらうぞ」

 

 変化の理由が分からずとも今が勝利を掴む時だと判断した悟空の赤い目がブウを見据える。

 

「オメェの顔はもう見たくねぇ」

 

 瞬間移動ではなく、超速度でブウの背後を取った悟空が両手を腰に引いて気を溜めていた。

 

「じゃあな」

 

 放たれたかめはめ波は振り返りかけていたブウをあっさりと呑み込み、末期の言葉さえも許さず問答無用に塵も残さずに消滅させた。

 直後、悟空の全身を覆っていた紅いオーラは蝋燭の火が消えるように輝きを弱めて、やがて完全に消えて髪の毛も元の黒髪へと戻った。

 

「…………ふぅ、終わったぁ」

「お父さん!」

 

 暫く残心してブウが復活しないのを確認して全身から力を抜いた悟空に悟天が飛び掛かる。

 悟天を受け止める力すらも残っていなかった悟空はそのまま地面に落ちるが、その直ぐ近くにベジータと悟飯もいてトランクスも降りて来た。

 

「やったね、俺達!」

「魔人ブウを倒したんだよ!」

「「イエェーイ!!」」

 

 無邪気に喜ぶトランクスと悟天と違って、もう一杯一杯だった三人は起き上がることも出来ない。

 

「後はナメック星に行って破壊された地球と殺された人達を蘇らせないとな」

 

 しかし、その前に一休みしなければ本当に死んでしまう。

 悟空とベジータと悟飯は、目を合わせて軽く拳を合わせて勝利の余韻と共に眠るのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 地球から遥か彼方にある、どこかの星で破壊を冠する神の鼻提灯がパチンと割れた。

 

「むにゃ、ゴッド……」

「おや、ビルス様がもうお目覚めになるとは」

 

 偶々、近くで作業をしていた天使が主の目覚めに驚いていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 また遥かに離れた宇宙の海を泳ぐ機械惑星ビック・ゲテスターが新ナメック星へと迫る。

 

「孫悟空、貴様はこのクウラ様が必ず殺してやる」

 

 悟空達の戦いはまだ終わっていない。

 

 

 




 地球やあの世、ナメック星や界王神界とその他の星から元気を集めるよりも、界王様の力で全宇宙に声を届けて元気玉作るよ! でした。
 悟飯、ベジータ、悟天、トランクス、もしかしたらどこかにいるベジータの弟だというターブルのエネルギーが元気玉に混じったことで超サイヤ人ゴッドの未完成状態、疑似超サイヤ人ゴッドみたいなものになりました。
 なんとかブウは倒せましたが、ゴッドの力を感じたビルス様が目覚めてしまったようです。
 また、本世界線では新ナメック星を襲っていなかったメタルクウラ様が………。

 でも、もう完結でも良いような?
 続くとしても、サイヤ人五人が地球を復活させる為に新ナメック星に訪れることから始まります。
 その後は作中時間で一年後にまだビルス様が訪れていないのに始まるゴクウブラック編や、その後の復活のF以上に強くなった復讐のフリーザ編で本当の完結までの構想は出来ていますが。
 感想が今週中に100件を超えたら続きます。


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