俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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前回は、色々とお騒がせしました。


クロスフェイト 邪眼が呼ぶ天災 後編

 ■

 

 一 プルプルッ! ボク悪いドラフじゃないよう

 

 ■

 

「うぇぐ……こ、怖かったよォ……」

「もう大丈夫です、魔物はみんな追っ払いましたです!」

 

 べそかいてるドラフ少女を安心させているブリジールさん。迷子保護した気持ちだよ俺ぁ。

 

「スライム達もう全部いないな?」

「大丈夫だぜ。寝てる間に放り投げたしな」

 

 セレストの“安楽”で睡眠状態になったスライム達は、マチョビィが全部遠くに放り投げた。やつらが住処にしてる壷を除けば、液状の生物だから死にはしないだろう。その隙にやられ放題だったドラフ少女を救助する。

 キングゴールドスライムは、俺も合流してルドさん達と共に引き付けルナールさんにスケッチさせた。普通の攻撃が殆ど通じないから、手加減なしでもいいのは、実にやりやすかった。別にストレス発散ではない。ほんとだよ。

 ただ結局ルドさんの発作が起き、跳弾地獄再び。こんな丘で、土と草しかないような場所で、どうしてポンポン跳弾できるんだよ。しかも相変わらず8割俺に飛んでくるし。

 その後スケッチが終わったら、キングゴールドスライムもマチョビィに遠くまで投げさせておいた。逃げ回ってたのが嘘みたいな結末である。まあ、無力化したからね、しかたないね。

 

「んで、君は結局なんなのだね?」

 

 そして最後の問題であるこの少女。

 

「ぅお……ぐじゅ……い、いじめないでぇ……」

「泣きすぎだよ……そろそろ俺も傷つくぞ……」

「うぎゅ……ほ、ほんとにいじめない……」

「だから、いじめないってば……」

「ぐず……うぅ……」

 

 結局更にブリジールさんなど癒し枠の説得を受け泣き止んだ少女。目に涙が溜まったままだが、とりあえず話せる状態にはなった。

 彼女は、名をハレゼナと言うらしい。この辺りに住んでいる……正確には、住み始めた少女。もう見ての通りのいじめられっ子で、何処に行くにも人や魔物からいじめられたらしい。小動物感あるから、いじめたくなったのだろうなあ。

 しかしいじめられる側からするとたまったものではない。呼んでもないのに寄ってきて自分をいじめる輩に嫌気がさしたハレゼナの対抗策が、この場所の様に人気が無い場所に隠れ家を見つける事と、万が一誰かと鉢合わせた場合の回転鋸と異常な言動であった。

 

「ようは、うちらのことさっさと追い出そうおもて、あんなドギツイ事叫んで追い回したんか……」

「良くそれであれだけ叫べるなお前……」

「ひゃ、ひゃは……や、やばい感じ出すと……みんな離れてくから」

 

 そりゃあねえ、大木簡単に切り飛ばすような武器振り回すヤツに追われたら誰だって逃げるわな。

 

「回転鋸……もしかして、あなた“歩く天災”ってやつ?」

「あ、うん……ケヒヒ、だ、だんだんそう呼ばれ出してるのは知ってる」

 

 ルナールさんがどうやらハレゼナについて知っているらしい。

 

「なんすか、その“歩く天災”って?」

「人気の無い場所で突如聞こえる駆動音。そして現れる回転鋸を振り回し、目に付くヤツを全て八つ裂きにする災害が如き何者か……って言う噂があったのよ」

「ああ、そらこいつだわ、間違いないわ」

 

 そもそも回転鋸なんて武器扱うヤツなんてこいつぐらいだろう。

 

「しっかし、よくまあ人遠ざけるために、こんな武器手に入れたな……」

「手に入れたんじゃないよ……自分で、作ったんだよ……」

「はっ!? お前作ったのコレ!?」

「フヒヒ……ッ、そ、そうだゼ?」

 

 どう見ても個人で作るような構造をしていないが……。ノコギリ部分を回転させるために、駆動させるエンジンも必要だし、高速回転する振動に負けない上に、いくら大木を切り倒しても刃こぼれしない強度が必要だろうに。しかもそれを、人ひとりで振り回せるサイズに収める点もすごい。

 

「誰か手伝ったりとかは?」

「そォんなのはナァ~ッシング! ボク一人で適当にぃ~材料集めて~、アレしてコウして、ガシャーンとして、ウィーンッてして、ここをこうして……そぉ~れぇ~でぇ~完成だァ!!」

 

 その「アレしてコウして、ガシャーンとして、ウィーンッてして」の部分がわからないのですがそれは……。いや、しかしどうもマジで自分で作ったらしい。ドラフって手先器用とは聞くけどこれほどとは。

 あと、だんだん調子が戻ってるね君。

 

「はえ~すげえな、お前」

「んふふ~~? もっと褒めてもいいんだぜェ?」

「それにあれだ。メカメカしいのが良い。ありえん組み合わせを混ぜるって言う発想が好き」

 

 いや、見れば見る程、ロマンあるなこれ。普通にかっこいいし、ちょっと欲しいぞ俺。

 

「あと、なんつったけ……これのその、名前?」

壊天刃(キルデスソー)オォ!! 天も壊す刃で、壊天刃っだアァ──っ!!」

「それな、勢いが良い。かなりイカす」

「へ、へへ……っんだよォ、お前ェ~~わかるじゃん、わかってんじゃぁ~~~~んっ!! いいよなァ、ラブリィ~だよなぁ!! サイッコーにクレ~ジ~だよなァ!!」

 

 クレイジーなのは同意するが、ラブリーなのだろうか? いや、しかし要所要所に、女性らしい可愛らしさが……ねえな。まあ、感想は人それぞれか。ラブリーと言うなら彼女には、きっとこれがラブリーなのだろう。

 

「相棒ってこう言うの好きな。そこんとこ、男の子なんだよなあ」

「いや、だって普通にかっこいいじゃん、メカメカしい所がいいじゃん、すげーじゃん」

「わから無くはないけどよう、まあいいけど」

「……黒トカゲ」

「おう?」

「このトカゲも、超、ラブリ~!!」

「んぎゃあっ!?」

 

 ハレゼナが会話に入ってきたB・ビィを見つめると、素早くB・ビィを抱きしめた。抱きしめたと言うか、抱き潰す感じだった。

 

「んごぉ──っ!? ぐ、ぐるぢっ!!」

「トカゲェ~黒色でクルクルっとしてて、モチモチっとして、お前も超ラブリ~だよ~」

「オ、オイラは……トカゲじゃ、ぐわっ!?」

「んふふ~きゃぁ~わいぃ~~っ!!」

「ぶへえっ!! ち、力がつよく、つよ……おごっ!?」

 

 こ、こいつあのB・ビィを割とマジで困らせているだと……。

 

「そんなラブリー言う程カワイイやろか、アレ……」

「ま、まあ普段何もしなければ……その、カワイイかもです」

「ふふっ! わ、わたしは、トカゲよりキノコの方が、いひっ!! 好きだなぁはははっ!!」

「……どちらも理解できないわね」

「う、うん」

 

 ああ、他の面子はやっぱりB・ビィに対してはそんな感じだったか。

 

「んきゅ~ラブリ~なトカゲェ……なあなあ、お前らってぇ、騎空団なのかぁ?」

「うん? まあ、そうだけど」

「ヒャッハーッ!! じゃあじゃあ、ボクも連れてってくれよぉー!!」

 

 おっとぉ? これは、またそういう展開ですかぁー? 

 

「……まず、理由を聞こうか」

「あんしん、あんぜーんっ!!」

 

 理由がみじかぁい! 

 

「……つまり?」

「騎空団ならさぁ? もう一々隠れ家探さなくていいもんなあー。それに、お前はあんぜんで、あんしんみたいだしぃ~? つまりぃ一緒に居れば、あんしんじゃぁ~~~~んっ!!」

 

 これは、もしかして懐かれたのだろうか……。やたらはじけた口調と裏腹に、先程からハレゼナから溢れる小動物オーラが増している気がする。まるで捨て犬を目の前にしているような感覚だ。だが、天災と呼ばれる人を仲間にすると、また妙な噂が流れるんだろうなぁ……。

 

「……だ、だめ?」

 

 あ、駄目じゃないです。涙目上目遣いで一発KOですわ。

 

「来いよ、クレイジーガール!」

「ヒャッハーッ!! やったぜぇ!!」

 

 カワイイ万歳、超ラブリー。噂なんて気にしないですよ? 言いたい奴に言わせとけばいいの。俺、噂、気にしない。

 

「あーあー……また、濃い仲間増やしおった」

「賑やかになるです!」

「また……女の子だね」

「ぷふふ、だ、団長は、基本的に変わり者に、あははっ! あま、甘いなぁっひゃはははっ!!」

 

 あっはっは。ルドさん、あなたがそれを言うのかい? 

 

「貴方、こうやって無茶苦茶な騎空団になっていくのね」

「言わないでルナールさん、俺もわかってるんです……」

「苦労性と言うか、何と言うのか……それじゃあ、スケッチも全部済んだから今日はもう帰るわよ。家まで護衛お願いね」

「了解です」

「……ところで、あのトカゲ死にそうだけど」

 

 そう言えばB・ビィがハレゼナに捕まったままだった。

 

「た、たすけ、たす……あいぼ……」

「んふふ~トカゲェ~? これから一緒だぞぉ~楽しいな、うれしいなあ~、サイッコーにラブリ~!」

「……ふむ」

 

 これ、対B・ビィ用の抑止力になるな。

 

「ハレゼナ、B・ビィと仲良くしてやってくれ」

「んなぁっ!?」

「言われなくてもヒャッハーッ!!」

「オ、オイラを売ったな、あいぼごぼぉ────っ!?」

 

 マチョビィ形態にならず、されるがままなのを見る限り彼女に対しての遠慮があると見た。よしよし、上手くすればこれで俺の胃痛の一つが減るかも知れん。

 

「……胃痛が減るとか考えてそうやけど、天災がおるとむしろ胃痛増えるんと違うか?」

「可愛ければ許せる」

「このガキ……」

 

 B・ビィもせめて見た目が元のビィの通りならよかったのにな。その姿になった君が悪いのだよ、B・ビィ。

 

 ■

 

 二 今解かれし、禁じられた書

 

 ■

 

「はぐ……ほあぁ……」

「ラ~ブリ~、ラ~ブリ~♪ ラ~ブ、ラ~ブリ~♪」

 

 B・ビィが白目をむいている。珍しい光景だな。

 

「本当に助けなくていいの、あれ?」

「いいのいいの。たまには、あいつも苦労すればいいんだ」

「あっそ……貴方達は、適当にくつろいでちょうだい、今日は疲れたろうからね。お互いに」

「いやあ……なんか、すんません」

「いいわよ、別に」

 

 我々は、ルナールさんの自宅で休ませてもらっている。家までの護衛で終わろうと思ったが、俺の視界の隅に見えるルドさんが発作を起こしたため、お言葉に甘えて休ませてもらっている。少なくとも、ルドさんの発作が収まるのを待つ必要がある。

 

「ふひ……あは、なははっ!! ぎゃひっ!! ぐほっははひゃっ!!」

「ほんと、すんません」

「今回と言い、よくアレを仲間にしようと思ったわね……」

「返す言葉もねえ」

 

 実際依頼も、想定したよりも大変な依頼になってしまったからな……あれ? いつも想定より疲れてるような……。いや、よそう。あんま考えたくない。

 

「ルナールさんはお休みにならないです?」

 

 ルナールさんは、今日使った道具を整理した後スケッチブックを広げている。休む用が無いのでブリジールさんが気にして声をかけた。

 

「わたしは、このまま仕事。絵を仕上げないといけないからね」

「ん? 絵はさっき描き終わったんと違うんか?」

「あれはスケッチ。描いた魔物のイメージが残ってるうちに、修正したりして着彩、それで終了よ」

「はぁー、絵師っちゅうんも大変な仕事やな」

「仕事だから割り切れるけどね。クライアント側の指定した、ここまで描けてればOKって言うラインがあるのは、色々考えなくていいし」

「そう言うもんかいな?」

「そう言うもんよ」

 

 やはり俺達にはわからない、絵師の世界の苦労があるのだろうなあ。絵を描くって、もっと楽しいものと思ったけど。

 

「……あれ、セレストがおらんわ?」

「は、さっきそこに……あ、いない?」

 

 カルテイラさんが指摘して気がついた。ソファでぐったりしていたはずのセレストがいない。

 

「便所か?」

「言い方……星晶獣言うても女やで、せめてお手洗いと言わんかい」

「お手洗いの場所は聞かれてないわよ?」

「じゃあどこに……」

 

 外に出た様子も無いので、星晶獣だし星晶的な力で勝手に消えたかと思ったその時。

 

「ほ、ほわぁ~~~~っ!?」

 

 家の奥から間の抜けたセレストの声が聞こえた。

 

「わ、わたしの仕事部屋から……っ!」

「あいつ、人の家でなに勝手に!」

 

 リビングの奥の扉が、薄く開いている。どうやらそこにセレストがいるらしい。変わってはいるが、こんな失礼な事するような奴じゃないのだが、どうしたんだアイツ。

 

「おいおい、セレストなに勝手に人んちうろついて……うわ、暗っ! 窓ねーのかこの部屋!」

 

 入った部屋は、深い暗闇であった。入り口から入るリビングの明かりだけが部屋をわずかに照らしている。窓も見ればカーテンで覆っているので、まだ日は沈んでいないのに真っ暗だ。

 その部屋の隅でうごめくもの、暑苦しいドレスですぐにわかる。セレストだ。

 

「お、おぉー……これ、ええー……わ、うわぁ……」

「セ、セレスト?」

 

 そのセレストだが、部屋の隅で座り込み俺にも気がついていない。何かを読んでいるようだが……。と言うかこの部屋、ルナールさんの仕事部屋だよな。

 

「セレスト、こら、セレストお前……って」

 

 セレストに近づいたら床に何枚も紙が散らばっていた。ルナールさんの仕事の絵かな? まさか、セレスト君が散らかしたのかい、んもー。片づけないとだめよ君ぃ。

 

「人ん家の物散らかしてまったくもー」

 

 ひょいっ、と拾ってその瞬間、俺は紙に描かれた絵を見た。見てしまった。そして。

 

「見るな嗚呼あぁぁ!!」

「うわあぁぁっ!?」

「あ、あわ──っ!?」

「うなあああ──ーっ!?」

 

 ルナールさん登場により驚いた俺、そしてセレストがやっと俺達に気付き声を上げ、セレストと俺がばっちり何かを見てるのに気がついて悲鳴を上げるルナールさん。

 

「見たなっ!! なあ!? それ、見たなっ!?」

「あ、わ……その、あわわ」

「ちょ、落ち着いてルナールさん」

「落ち着いてられるかぁーっ!!」

「なんや、なんや騒がしい」

「うわあ──っ!!」

 

 ドタバタしてると他の面子が来てルナールさんが更に悲鳴を上げた。

 

「なんで来るのよっ!?」

「あんな騒がしくしおったら様子見に来るわ。あんたら何しとん?」

「なんもないわよ、とにかくここから出て」

「ヒャッハーッ!? ク、クク、クレージーッ!?」

「ギャーッ!?」

 

 ハレゼナが叫んだと思ったら、一冊本を手に持っていた。それをみてまた更にルナールさんが叫んだ。目にも止まらぬ速さでハレゼナの手から本を奪い取る。今日の動きといい、とっさの動き凄いなこの人。

 

「なんで! 勝手に! 見るのっ!?」

「は、はわわ……ご、ごめん……」

「とにかく、ここは仕事部屋だから貴方達は」

「ね、ねえねえルナール……こ、この本なんだけど……っ」

「なんで見開きページを開いて来た────っ!?」

 

 必死に見せまいとしていたルナールさんの行動むなしく、セレストが手に持っていた本をバッチリ開いて駆け寄ってきた。勿論みんな見てしまう。そう、見てしまったのだ。

 おぞましい絵のタッチで二人の男達が、ほぼ全裸で絡み合う姿が描かれた見開きのページをっ!! 

 

「うわあ────っ!?」

「ひやあぁ────っ!?」

「うひゃーっ!? クク、クレージーッ!?」

「あひゃははっ!! ふはーっ!! ふひ、んははははっ!!」

 

 約一名笑ってるだけだった。

 

「な、ななななんちゅうもん見せるんやっ!? し、しまえやはよっ!!」

「わわわ、お、男の人が、男の人が男の人ですですぅ~~~っ!!」

「サイッコーにクレージー……だけど、ラブリ~じゃないィ……」

「ぶははははっ!!」

「他の意見もあれだけど、笑われるのも腹立つっ!!」

 

 ごめんね。そればっかりは、もうどうしようもないです。

 

「これ、すごい……これ、他にない……っ?」

「セレストは凄い食いついてるし……」

「あ、あぁ……な、なんで……」

 

 どうも、今日の騒ぎはまだ終わらなそうだ……。

 

「なんで、こうなるのよぉ~~~~っ!?」

 

 ■

 

 三 その欲望、開放しろ

 

 ■

 

 世の中、男同士、或いは女同士の愛と言うのはあるのだろう。俺にはわからないが、わかる者にはわかるのだろう。そしてわかる者同士が出会い、通じ合えばその愛は、更に深まるのだろうな。

 まあ、現実の話はともかくそれを空想、想像、物語で楽しむ人もいるんだろう。同性だからこその良さがあるのだろう。うん、そういう人もいるんだろう。そうだろう。

 

「だからね? 今まですれ違ってた二人が、立場も変わり敵と味方で再会してからの……苦悩がね?」

「ふんふん……っ」

 

 と言うか、目の前にいた。そして今日の依頼人だった。ようは、ルナールさんだった。

 

「今まで会いたかったのよ? 会いたくて、いろんな事を話したかったのに、いざ再会したら敵と味方……国を背負う故に、己を殺し友をも殺さないといけない、そこで揺れる思いがね? もうね……」

「おぉ……ポ、ポポルゥ……」

 

 そしてルナールさんは、主にセレストに対し、熱心に何かを語っていた。あとセレストの食いつきが凄まじい。

 

「……これいつまで続くん?」

「お二人がとことん満足するまで……でしょうか?」

「そら長くなりそうやな……」

 

 ……えらい事になったなぁ。

 発端としては、勝手にルナールさんの本を読んだセレストが原因だった。そう、ルナールさんは男同士の愛を描く通称【耽美物】と呼ばれる絵物語が大好きだったのだ。そして彼女は、自身でも耽美絵を描いていた。それをセレストは見つけた。ちなみに、セレストが勝手に部屋に入った理由は、曰く「ジメッとしてて……暗くって……閉鎖された感じ」を感じ取ったから吸い寄せられたとの事。

 もうね、すごい内容だった……内容と言うか、絵柄がね? こう、魔物が上手い方だったけど、人のとかもそのまんまのタッチだったから……内容とのギャップがさぁ。

 様子見に来た全員にそれ見られて「いっそ殺してっ!」と叫び出すルナールさんを落ち着かせるのは大変だった。ちょっと男二人が出てる絵なら人体模写とか誤魔化せたかもしれないが、その……つまり、バッチリな絵だったからもう言い訳のしようが無い。そういうのに免疫ないのか、セレスト以外ほとんど赤面して混乱状態だった。ああ、けどルドさんは、単純に笑いまくってそれどころじゃなかったけど。

 落ち着かせたルナールさんは、即弁明を始めた。部屋に積み重なった大量の絵。それは全て仕事の絵ではなく耽美絵だったのだ。よくもまあ、こんな数こさえたものだ。更に全てがオゾマシイ絵柄なのは、最早仕方ない。

 つまりルナールさんは、本当はこう言う耽美絵を描く耽美絵師になりたかったようだ。だが絵柄が絵柄のせいで、いまいち上手くいかない。本人もそのギャップに悩まされ、一冊二冊耽美物の絵物語を作り店に置いてもらってるようだが現状一冊も売れては無いらしい。セレストが見つけたのは、その一冊だった。内容はお察し。

 だがここで更に問題と言うか、事態をややこしくしたのがセレストがそれを非常に気に入った事だった。星晶獣になって以来、生まれて初めての衝撃。耽美の世界がセレストを受け入れ、セレストは一瞬にしてその世界へとのめり込んだのだ。

 なんてこったい。

 その後色々と聞いてくるセレストに同志の匂いを感じ取ったのか、ルナールさんは、俺たちには分からない世界を語り出し、セレストはそれを熱心に聴いていた。

 

「つ、続きは……」

「ちょっとまって、こうなったらポポル・サーガ全巻持ってくるわ……」

「いや、それも待って、ちょっと待って」

「何よ良いところで」

 

 そう言わないでくれよ、これほっとくと終わらないやつだよ。

 

「これ長くなります?」

「……まあ、ちょっと?」

「具体的には?」

「…………2、3時間は欲しいわ」

「夜中じゃねえか」

 

 駄目に決まってんだろ。エンゼラに帰れねえよ。

 

「だ、団長……私、まだ話したいかなって」

「いやいや、出来れば今日中にエンゼラに戻りたいんだよ。途中宿とかないんだぞ」

「なら泊まってきなさいよ、わたしもまだ話したいし……」

「ええ……」

 

 そう言われてもなあ……趣味人って話すると長いからなあ、もー。どうしたものか……。

 

「んふーふふ……っ、だ、団長」

「なんすかルドさん」

「あ、あれ……ほっひ」

 

 ルドさんがソファを指差す。そこには、ぐったりとしたB・ビィを抱きしめたまま穏やかな表情で眠るハレゼナの姿がっ!! 

 

「……静かだと思ったら」

「つ、つかれて寝ちゃったんだね、んはは……っ」

「子供かよ……いや、子供か……」

 

 だが「むにゃむにゃ……クレ~ジ~……」とか寝言を言ってる姿を見ると、起すのが申し訳ねえな。カワイイ。

 

「B・ビィの息は?」

「呼吸はしてるようだから、うひ……っ、だいじょう、ぶだよ、ひひっ」

「……あと笑い方が相当無理してるけど、どしたんすか?」

「おこ、起こしちゃ……はひっ、わ、悪いと思って……んっふぅぅ……ふぐっ!」

 

 さっきまで酷い発作だったしなあ。今も笑い声が出そうになるたび、息を飲み込んでるからルドさんも大変な事になってるなあ。

 しゃーねーなー、んもー。

 

「泊まっていいんすかね?」

「良いわよ、仕事用で住んでる無駄に広い家だから、部屋はあるし」

「いいんですか、団長?」

「うん、なんか俺も疲れました……」

 

 帰るのも面倒になってきたよ、俺ぁ。

 

「セレスト、好きにしていいよ」

「あ、ありがと……ね、ね続き」

「はいはい……」

 

 ああ、セレストが耽美の世界に入り込んでいく……。お堅い感じの星晶獣より、人間臭さが出てきたが、これって喜ぶべき事? それとも辞めさせるべき事? 俺にはわからん。

 

「子供の育て方に悩む親父の哀愁が出てるで」

「マジっすか……」

「18で出す雰囲気じゃあらへんわ」

「そりゃ、まいっちゃうなあ」

 

 その夜、ルナールさんとセレストがいる部屋から、二人の語り合う声が止む事はなかった。

 ほんと、まいったなあ……。

 

 ■

 

 四 「やはり星晶戦隊か……いつ出発する? わたしも同行させろ」 「強引」

 

 ■

 

「騎空団に入れば、他の島の耽美絵物が手に入るんでしょうね……」

 

 次の日、朝食を頂いてる時にやたらと露骨に俺を見ながらルナールさんが呟いた。思わず手を止めてしまう。

 

「……そっすね」

「耽美物ってね、一般的に流通するものじゃないから、描いてる絵師さんがいる島じゃないとまず手に入らないのよね……」

 

 それは昨日聞いた。その所為でコレクションも増えず、絵の模写も出来ない事も延々と聞かされた。

 

「きっと空には、わたしの知らないような耽美物があるのよねえ……」

「い、今まで行った島も……気にしなかっただけで……色々、あったかもね」

 

 おっとぉ? セレストが会話に混ざってきたぞこれ。

 

「ルナール先生は……色々絵をみて、もっと絵の勉強……したいんだよ、ね……」

 

 ルナール先生なんて呼んでんのセレスト? 昨日の間にどんだけ語り合ったんだよ。

 

「ええ、そうね。自分の絵柄じゃ耽美物には向かないってわかってるから、ね」

「そ、そうだね……色々、手に入るといいよね……ね」

 

 ね、の所で二人とも俺を見た。

 

「あんた、遠まわしやけど、あれ完全に連れてけって意味やで」

「言われんでもわかりますよ。けど何故突然」

 

 カルテイラさんと小声で会議。誤魔化しきれてない露骨なアピールに苦笑すら出ない。

 

「あははっ! んっは……っははっ!!」

「ヒャッハーッ!! 今日も朝からクレージーだなァ、オイィ!!」

「んぎぎ……っ、め、飯が……食え、ねえ……」

「あ、あのハレゼナちゃん、B・ビィさん離してあげた方がいいです」

 

 笑ってますが、これは別です。うーん、にぎやかでよろしい。

 

「あーあー……偶然一人の絵師を仲間にしてくれる様な、変わった騎空団がいないかしら、ね?」

「そ、そうだね……どんなに扱い辛い仲間でも……仲間にしちゃう様な、変わった騎空団とか……ね」

「OK、OK……どうした?」

 

 とりあえず話を聞いたほうが良いなこれ。

 

「べ、別に……? も、もっと話したいし、耽美絵の事勉強したいから仲間にするために打ち合わせしたとか、ない……よ?」

「ええ、まったくそのような事実はないわ、ええまったく」

 

 こいつら、急に早口になりやがった。

 

「あ、あれ? そう言えば……エンゼラには、まだ部屋いっぱい余ってるなー……」

「えーなんですってー、ああ、けど突然わたしが同行するなんて、そんなあつかましい事できないわー」

「わ、わーどうしようー……」

 

 へたくそか。棒読み極まれり、演技する気無いなこいつら。

 

「……昨日と言い、俺が何時もこう言う状況だと、なあなあで終わるから押せばイケると思ったろ、セレスト」

「はう……っ」

「や、やばいわセレスト……作戦がっ」

「ど、どどどうしようルナール先生」

 

 目に見えて慌て出したぞ、ポンコツか。

 

「で、どないするん?」

「さーて、これは……」

 

 ぶっちゃけ、この人来てどうする? 耽美物集めるだけは論外だ。何もしない人を乗せれるほど余裕はない。かと言って絵師だからなあ、旅の記録の絵を描いてもらうとかはそれっぽいが、それだけと言う事も出来ない。戦えないだろ、依頼どうするのさ。戦いだけではないけども。

 

「弊騎空団をご希望のようですが、入団した場合どのような活躍ができますか?」

「へぁ!? え、えっとぉ」

「面接かっ!?」

 

 カルテイラさんにハリセンでどつかれた。だが聞いておくべき事ではある。今までは、聞くまでも無い人達だったから聞いてないが、絵師だぞ? 聞かないとね。

 

「ル、ルナール先生……っ、き、昨日のあれ」

「はっ!! そ、そう! わたし戦えるわよ!? 役に立つわっ!!」

 

 セレストが何か耳打ちすると、ルナールさんが張り切って応えた。

 

「……いやいや、どうやって?」

「き、昨日試しに星晶パワーの加護を与えたら……描いた絵を短時間だけ、具現化して……攻撃できるようになったよ」

「魔物とかなら、ごまんと描いてきたわ!! 速筆で魔物を描いて攻撃できるわ!」

「そ、その速さなんと……0.02秒っ」

「おいおいおい」

 

 こらこら、何勝手に星晶パワー安売りしてるのこの子は。あと0.02秒は流石に嘘だろ。

 

「うん……本当は、1秒か0.5秒ぐらい」

「うそやん」

 

 ワーオ、どの道すごかった。

 

「絵の熟練のルナール先生だから……出来た技だよ……っ」

「いや、だけどセレスト、お前ねえ……」

「だ、だって……ルナール先生と、お話するの……た、楽しいから……騎空団で、活躍できるなら……一緒に旅できると思って……ダ、ダメ?」

 

 ダメ? &上目づかいコンボ、昨日に続いて二度目です。あーもーあーもー、うちの子はなんでもう……こう、カワイイのか、畜生め。

 

「おとうちゃん、しっかりせな」

「ハッ!?」

 

 またハリセンで頭叩かれハッとする。あと誰がおとうちゃんじゃい。

 

「くぅ……ほら、ルナール先生も」

「ええ、わたしもっ!?」

「団長は……ハーヴィンとかの小柄な、かわいいのに……弱い」

「な、なるほど……そんな趣味が……」

「聞こえてんだけど?」

「け、けど私別にかわいいとは……」

「だ、大丈夫……ルナール先生ならイケる……っ」

「聞こえてんだけど?」

 

 誰が小柄なかわいいのに弱いだ。その通りだよ畜生この野郎。

 

「だが心構えが出来てる今、安易なおねだり攻撃なんて」

「ダ、ダメ……?」

「あ、団長白目向きおったわ」

 

 えーなにあれ、えーハーヴィンの上目遣い、えーちょっと……あれ? ルナールさん、あんな可愛かった? 昨日今日だけどこんな印象変わる? あ、ダメ……た、耐えろ俺の常識ぃ……。

 

「……あ、あんまり、船で耽美物の布教は、しないで下さい」

「や、やったっ!!」

「よ、よかったね……ルナール先生っ!」

 

 あ~可愛いのが二人はしゃいでるよ~。

 

「チョロすぎやで自分」

「可愛い無罪」

「大丈夫かいなこの騎空団……」

 

 うーむ、島移動する度仲間増えるなあ、俺。これも喜んで良いんだか、悪いんだか。だが喜ぶセレストの笑顔、プライスレス。

 ちなみにエンゼラに帰った時、「今度は団長が、どんなヤツを連れてくるか」の賭けが行われていた。ふざけんな。なお「女性で濃いキャラで、ドラフとハーヴィンの二人」と中々にピンポイントな予想をしたゾーイの一人勝ち。ヒューマン女性を予想して負けたティアマトに文句を言われたが、知ったこっちゃない事であった。

 

 ■

 

 五 (笑)と癒しの星晶獣が七体いて、割と吐く大酒飲みのドラフと、格闘馬鹿と、回る哲学者と、イケメン騎士と、頑張り騎士と、名の知れた商人相場師と、始終笑い続けるキノコキチハンターと、歩く天災のファッションクレージーと、腐女子絵師がいるアットホームで団長の胃痛が耐えない騎空団です

 

 ■

 

 ある時、街を歩いていたらまた俺達の噂を話す男達がいた。どうせろくな噂じゃないとは思いつつも、聞き耳を立てる

 

「聞いたかよ、【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】にまた仲間が増えたってよ」

「ちょっと待てよ、ちょい前に笑いまくるハンターが仲間に入ったって聞いたばっかだぞ……」

「そうなんだが……しかも仲間になったと言うのが噂の歩く天災と、有名な絵師を仲間にしたって話だ」

「なんなのあの騎空団」

 

 そんな事言われても知らん。俺だって自分の騎空団ながらわけわからんと思うわ。

 

「……ところで、星晶戦隊の面子……女子多くね?」

「それな」

 

 どれな? いや、ああそう言えば確かにうちは、女所帯である。今回の事で更に増えたからな。人間の男なんてフェザー君しかいないし。

 

「あとさ、なんでかハーヴィンとドラフ多いけど……これさ」

「え? ああ……いや、けど」

「いやいや、流石に狙わないとこれ揃わないだろ?」

 

 え、なになに? なんか嫌な予感するよー? 

 

「確かに……全員ちっさいな」

「一部デカイけどな」

「ああ、一部な。ドラフはな……けど、やっぱり」

「うむ、もしかしたら……」

「あそこの団長、ロリコンか……」

 

 違いますッ。

 違いますッ! 

 違いますッ!! 

 

「しかもハーヴィン、合法ロリ……考えたな」

 

 考えてねえよ、何言ってんだよ。馬鹿なのこの人達? 

 

「けど団長って、まだ子供だよな? 会った事ねーけど」

「合法ロリの年上ハーヴィン、ドラフ特有のトランジスタグラマー……すでに目覚めてやがる」

 

 何に? 何に目覚めたって? 

 

「こりゃこれからも見逃せねえな……あいつらの活躍によ」

 

 全力で見逃せ。

 

「まったくだな……今度友達になろうかな」

「え、お前……」

 

 二人の会話に打ちひしがれながら、その場を後にする。また、この事を後でコーデリアさんに相談すると、そっと蜂蜜を入れたホットミルクをくれた。

 少し泣く。

 




前書きにも書きましたが、前回はお騒がせして申し訳ありませんでした。これからは直ぐに対応できるよう心掛けます。

以下、あとがき色々。

実は、団長君の10連ガチャ内容が判明した第六話の時点で、うちの騎空団にハレゼナいませんでした。書いたら出ると思ったが……けど書いたほぼ直後にサプチケが来た。やったぜ。

団長、ロリコン疑惑。メンバー選出は、自分の好みもありますが、最近コーデリアが追加され、平穏が見えた団長の胃痛を増やそうとしたら……すまんな。

グラブル本編に関わらないが、コラボキャラである白蛇のナーガ。とてもとても、この騎空団に入れてあげたいですねえ。大丈夫、優秀な水属性だよ。

当初は、イッパツを入団させる予定があった。そのうちにやりたい。

見ようと思えば、ネットで逃した過去イベは見れるが、やっぱり自分でやりたい。プラチナ・スカイ復刻で来たので、レースに参加させたいね。ロボミィー早く来てくれぇー!

ジータとは運命的な再会をすると団長は、常々思っているでしょうなあ。

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