俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

18 / 78
あと2~3話でアウギュステ終わる感じ 

【追記 2018/01/26】 2~3話じゃ終わらなかったよ……


団長=爆弾、その他=火種

 ■

 

 一 告げれぬ真実

 

 ■

 

 結局、俺はコーデリアさんにシャルロッテさんの「身長伸ばすから、騎士団休んじゃった(テヘペロ)」を伝えれずにいた。取り合えず何か個人的に思う所あっての失踪、とだけは伝えておいたが全部を話す気には、まだなれなかった。

 俺は、シャルロッテさんの言う理由を呆れてしまう一方で、騎士団と慕ってくれる仲間のためにと言う言葉も真実でもあるとわかってしまい、責められないと思ってる。あとは、ただ単純に高身長に憧れもあるようだ。

 それに、すぐにリュミエール聖騎士団の部隊がアウギュステに立寄るとシェロさんから聞いている。色々と面倒な事が重なりそうで早めに決着をつけるべきなのだが、かと言ってシャルロッテさんの話を聞いてしまった俺は、コーデリアさんにとっとと正義審問とやらをしてくれと頼みにくくなってしまった。

 上手く全部丸く収めたいものだが、俺にはそんな力も知恵も無く、宿の窓から夜のアウギュステを眺めているだけしかできない。なお同室のフェザー君はもう寝てるし、B・ビィは、ハレゼナの抱き枕と化したので別室だ。合掌。だが静かで考え事をするにはちょうどいい。

 

「か、語り合おうぜ……っ!」

「ぉおうっ!?」

「こ、拳で、語りあぉ……むにゃむにゃ」

 

 いや、フェザー君は寝てても煩かった。起きているよりはいいけども。寝相悪いなあ、ほらもう布団落ちちゃってるじゃんかー風邪ひくぞ、んもー。

 ……よしよし、フェザー君は大人しくなったね。これでもう一度考え事に集中して……。

 

「ヨォーシッ!夜ノギュステデ飲ムゾォーッ!!」

「今いないリヴァイアサンの分飲めるからなっ!!」

「あたし今日いいお店みつけたにゃ~!」

「オオ、行コウ行コウッ!!」

 

 ……宿の玄関から出ていく見慣れた(笑)二人とドラフ一人。もう日が沈んでると言うのに、煩い奴らめが。

 まあ、各々でアウギュステを楽しんでると言う事か。リヴァイアサンは故郷の海を満喫して、ゾーイもコロッサス達と食べ歩きをして毎日ホクホクしてるし、フィラソピラもクリュプトンの回転がいい具合だからまあ楽しんでるのだろう。セレストもルナールさんと色々本を見つけて楽しそうだ。コーデリアさん達もまあ、それなりにやっているようだし、ルドさんは……まあ、アレで上手くやってる方だろう。ハレゼナはB・ビィと言う犠牲のおかげで実に楽しそうだ。

 俺は……どうなんだろう。楽しいと言えば楽しいのかもしれないが、リュミエール聖騎士団の問題を抱えてしまった以上気が抜けない。明日含めあと四日か……なーんか、嫌な予感するんだよなー。大丈夫かな、俺……。

 

 ■

 

 二 赤と青の二人

 

 ■

 

 団長が頭を悩ませ宿の窓辺でウゴウゴしている。その姿を、夜の闇に紛れて覗き見る二つの影があった。

 

「あれか、例の騎空団の団長って言うのは……」

「そーそー、あのジータちゃんの幼馴染って言う少年ね」

 

 二人の男女。彼等は、一見ただの少年にしか見えない団長を星晶戦隊(以下略)の団長と知って見ていた。

 

「……あたしには、頭抱えて窓辺で項垂れてる気の毒な奴にしかみえんが……」

「僕にもそう見えてるよ。あはは~きっと苦労してるんだろうね~。結構気が会うかもな~」

「お前が何に苦労してるって言うんだ」

「いやいや~?僕かなり苦労してるよ?日々依頼をこなし暗躍し、それにちょ~っとふざけるとお尻刺してくる相棒の相手をし……」

「……」

 

 男の軽口が気に障ったのか、女の方が腰の剣を引き抜き血が出ない程度に男の尻に剣先を突き刺した。

 

「いってぇ!?ご、ごめん!じょ、冗談です、じょーだん!だから無言で刺すのやめてっ!?」

「じゃあ、刺すからな」

「いってぇえ!?よ、予告すればいいってもんじゃないと思うんだ僕っ!?」

「うるさい……それで、どうする。特にあいつに関しては、依頼は受けていないぞ」

 

 女の冷えた視線に多少の不満を覚えつつもまた刺されてはかなわないと男は、大人しくなった。

 

「切り替え早いな~……うーん、まあ確かにそうなんだけど~ただ僕としては、一度ぐらいはちょっかいかけとこうかな~って思うよ」

「なんでだ、態々相手するのか?」

「別に戦うわけじゃないよ?尤も本当にジータちゃんの幼馴染とかならどーせ戦う事になりそうだけどね~」

「まあな」

「あと最終的にそっちの方が良い方に転びそうな感じがするだよね~」

「なんだそれは……」

「んふふ?始めは敵対してて後々仲間なんて展開面白いと思わない?」

「……」

 

 女がまた剣を抜く。

 

「あ、まって刺さないで!」

「お前がふざけた事言うからだ」

「まあまあ……それにさ、単純に気にならない?」

「何が」

「星晶獣をただの騎空団の一員として率いてる少年の力……そうそういるもんじゃないよ。あのジータちゃんと同じでさ」

 

 男に言われ、女がもう一度窓辺の少年を見た。相変わらずウゴウゴしている少年、だが確かに「噂通りとしたら……」と彼の存在が気になった。

 

「……確かにな」

 

 そして直ぐに二人は、夜の闇に消えて行った。

 

 ■

 

 三 珊瑚を見に行こう

 

 ■

 

 今日はね、昨日ザニス高地へ行く過程で通り過ぎたラヤの水辺をのんびりブラブラすると言う予定でした。

 予定でした。はい、過去形です。

 

「シャルロッテさん、こっちは異常なしでーす」

「了解であります、ジミー殿!」

「次の巡回ルートは……あっちっすね」

「それでは行きましょう」

 

 俺らが今何してるかって?観光?違うんだなぁ~これが(諦め)。

 今朝方俺とシャルロッテさんが、ラヤの水辺を見て回ろうかって話をしながら待ち歩いてたら出たんですよ、ええ、よろず屋シェロさんが。またねえ、カワイイ笑顔でニコニコ来るの、俺の方向に真っ直ぐ、ええ、ええもう一直線。可愛くても怖いです。

 

「おやおや~また、奇遇ですね~」

「……本当に偶然ですかい?」

「勿論偶然ですよ~?そして、ちょうどお二人にぴったりな依頼があるのも偶然です~うふふ~」

 

 嘘つけいっ!

 

「依頼でありますか?」

「実はですね~ここ最近珊瑚の密猟をする密猟者が現れるそうでして~。珊瑚は、アウギュステの重要な観光資源ですから~許可無く獲るのは、勿論違法ですし~生態系が崩れてしまうと、今後の珊瑚礁への影響が懸念されてまして~」

「むむ、不埒な輩でありますな」

「複数犯では無いようなので~腕利きの誰かに依頼を出そうと言う事になりましてですね~ちょうどラヤの水辺方面へ行く方を探してたんです~」

 

 貴女昨日俺達またラヤの水辺行くって話し聞いてたよね?ねえ?

 

「ジミー殿、ここは一つよろず屋殿の頼みを聞こうではありませんか」

 

 ほら、この騎士道精神の塊。昨日俺が「いいよ」したから遠慮がないぞう。

 

「まあ、依頼受けるのはいいとして何すりゃいいんです?」

「珊瑚礁の巡回と怪しい人間が居た場合の対処ですね~ようは、捕まえて欲しいわけです~」

 

 軍とかの仕事ではないんだね。組織的犯罪ならまだしも、一人二人の犯罪者なら騎空団とかに依頼を出すわけか。

 

「珊瑚礁見て回れるなら……ついでって事でいいか」

「ありがとうございます~」

 

 と言う事で俺とシャルロッテさんは、ラヤの水辺周辺に広がる珊瑚礁で巡回作業をしているわけで……しかしここは珊瑚礁が迷路の様になっているので、ただ巡回すれば良いと言う訳でもなく更に魔物も出る。

 

「オラァ!!」

 

 まあ雑魚なのでここ最近の鬱憤を晴らさせてもらう。すまんな魔物達、俺の諸々のストレス源を怨みたまえ。本来休日なので、俺達は武器を宿においてきてる。精々護身用の短剣があるぐらいだ。なのでシェロさん提供の実に安価な武器を使っているがまったく問題ねーなこれ。

 

「うむむ……やはり強い」

 

 あと魔物と戦う俺を見て目を細めながら唸るシャルロッテさん。

 

「武者修行とは言いましたが、どう言った方々に師事されたのでありますか?」

 

 どういった方々と言っても……田舎に居るばあさんと星晶獣ですが。だがそれをそのまま言うわけにもいかない。下手すると星晶戦隊(以下略)とバレる。

 

「まあ……武芸の達人とか言われた化け物みたいな人とか、6属性のプロフェッショナルとか……」

 

 うん、嘘ではない。

 

「ほお~それは、自分も一度手合わせ願いたいでありますな」

「止めた方がいいっすよ、マジ殺しにかかってくるんで。真空波で切り刻もうとしたり、熱波で焼き殺そうとしたり、濁流で押し流そうとしたり……」

「それ本当に修行でありますか」

 

 一方的な虐殺とも言います。思い出すだけで眩暈がしてきた。修行の時ばかりは癒し組すら鬼と化すからな。優しい顔したユグドラシルでもえげつない戦法とる時あるし。全方位土壁で囲って押しつぶすとか。

 

「正直俺は、もう修行なんてしたくないです」

「何故でありますか?鍛錬は心身を鍛えるでありますよ」

「いや、俺さっき言った化け物みたいな人に強制されたんで……本当は、もっと気ままに生きたいのです」

「はあ、実にもったいないであります……」

 

 そう惜しまれましても……。

 

「騎士団の部隊長でも申し分ない……いや、それ以上……」

「だから俺その気無いですって」

「うむむぅ……しかし、自分達リュミエール聖騎士団はいつでもその門を開いているであります。気が変わったらいつでもどうぞであります!」

「はいはい……」

 

 シャルロッテさんの視線が徐々にシェロさんっぽい視線になってるんだよなぁ。俺、狙われてる?騎士団強制入団とかないよね?いやいや……そんなまさかね。

 

「……あ、シャルロッテさん待った」

「はい?」

 

 シャルロッテさんを俺の後ろに下げる。直ぐに(一応)元ハンターであるルドさん手製の魔物威嚇用の癇癪玉を取り出す。それをそのまま俺達の後方にあるデカイ珊瑚の影に放り投げる。投げてから数秒で破裂、すると……。

 

「わ、わわわっ!?」

「ちっ!!」

 

 ドンパチドンパチ破裂する癇癪玉に驚いて二人の人間が飛び出してきた。

 

「む?曲者でありますか」

「ええ、気のせいと思ったけど……なんすか、あんたら。俺等の後つけて」

 

 エルーンの男とドラフの女、魔術師と剣士っぽいな。二人組みで特に腕章も勲章も無し……騎空士って感じでもない、傭兵かな。

 

「たはは~まいったねえ、まさか気づかれるとは」

「お前がうろちょろするからだ」

「えぇ~!?僕の所為なの~!スツルム殿のデカイ部分がはみ出してたんじゃないの~?」

「……」

「いってええ!?ご、ごめんって!!ごめん、スツルム殿ごめ、いったああ!?」

「流れの夫婦漫才師だろうか……」

「単に愉快な二人組みかもしれません」

「違うッ!!おいドランク、お前が余計なこと言うからだッ!!」

「ええ、また僕っ!?ってっ!?ごめ、はいスミマセン!!僕が悪いですごめんなさい!!」

 

 何なんだこいつら……。

 

 ■

 

 四 夫婦漫才 【スツルムドランク】

 

 ■

 

 俺達の後をつけていた二人組。ドラフの女はスツルム、エルーンの男はドランクと名乗った。つけていた理由は「おもしろそうだから」だそうだ。舐めてんの?

 

「いやいや、真面目な話しさ~お兄さん達強いよね~迫る魔物をバッタバッタ倒していって見てるこっちが気持ち良いぐらいだよ!」

 

 ドランクさんとやらがヘラヘラと話すがまるで真意が見えない。

 

「流石に“おもしろそう”なんて理由でつけられちゃ堪らないよ」

「いやごめんね~あんまりにも強いから見たくなっちゃってさぁ~」

「子供かあんた」

「子供のままでかくなったんだ、コイツは」

「酷くないスツルム殿!?」

 

 力関係はスツルムさんが上か。

 

「貴女も物見遊山気分でつけたでありますか?」

「あたしは無理やり……ただの付き添いだ」

「止めてくださいよ保護者」

「誰が保護者だ。こんなヤツの保護者なんてごめんだ」

「まあ気持ちは分かるけども、軽薄そうだし」

「それにいい加減なんだ」

「あと破廉恥そうであります」

「あれあれ~?僕もしかして盛大にディスられてる?」

 

 第一印象でここまで言われるとは、中々やるなドランクさん。

 

「まま、後つけたのは悪かったよ。興味本位って怖いね~」

「これ本当に反省してるヤツですか?」

「話半分でいいのでは?」

「半分以下でいい」

「あ、スツルム殿基本そっち側なんだね~僕ショック~」

 

 これ普段から辟易してるやつだ。俺スツルムさんの気持ちちょっとわかるぞ。

 

「それで?進めてどうぞ」

「投げやり……うーん、あ!じゃあこうしようか~!!お詫びに君達手伝ってあげる!なにかのお仕事中なんでしょ?役に立つよぉ僕達~?」

 

 唐突ぅ~。これ最初からこの展開狙ってたんじゃないのコイツ?

 

「これは、どうするでありますか?」

「多分首縦に振らないと、ズルズルくっついてくるパターンですよ」

「よくわかったな、お前の方が保護者向きだ。欲しいならやるぞ」

「謹んでリリース」

「アンド、リリースだ」

「再リリース」

「ねえ、僕泣いていい?」

 

 男に泣かれても鬱陶しいだけだよ。見たくもないし。

 

「スツルムさんは、まあ大丈夫そうですけど、ドランクさん戦えるですか?」

「やるやる、僕こう見えて強いんだから~」

「こいつはこれで魔法の腕は立つ。足手まといにはならない」

 

 さてどうするか……。

 

「作戦かーいぎ」

「どうぞ~」

 

 ドランクさんから許可得たのでシャルロッテさんとしゃがみ込んでコソコソ会議。

 

「さっきも言ったけど、断っても来ますよこいつら。と言うか、ドランクさん」

「自分もそう思うでありますが、どうも信用なら無い気がして……」

「信用なんて出来ませんよそりゃ、ただもしも不審な動きみせたら、即座に麻痺かけて縛って満潮まで魔物の巣に放置しましょう」

「ジミー殿時折怖いであります……」

 

 俺は、基本俺の胃に優しくないヤツには容赦ないのです。

 

「はい、それじゃあついて来ていいですよ」

「やったねえ!ありがとうお兄さ~ん」

「ただ変な事したら即座に麻痺かけて縛って満潮まで魔物の巣に放置して、樽に二人とも詰め込んで空の底にさよならです」

「もっと凶悪になったであります!?」

「君容赦なさ過ぎないっ!?」

「樽は二つにしろ、こいつと最期まで一緒なんて想像したくない」

「スツルム殿ほんっと酷いな~!?」

 

 こうして何故か俺とシャルロッテさんとの依頼に二人同行者が追加した。そもそも休暇中に何故俺は、依頼なんて受けてるのか甚だ疑問である。

 

 ■

 

 五 火種

 

 ■

 

「いたいたいた……あっち!ねえ!あっち行ったよ、あっちぃー!」

「ちくしょう、バレたかっ!?」

「あ、この野郎逃げるな!!」

「チョロチョロと……ネズミみたいなヤツだ」

「待つであります!」

 

 あの後直ぐに密猟者が現れた。別に現れるとは限らなかったが、姿を見せた以上捕らえるのが今日の仕事である。

 

「修行で蹂躙と言う名の鬼ごっこを経験した俺から簡単に逃げられると思うなよ……」

「ジミー殿本当にどう言う修行を……」

 

 マグナ6体から追われてみてください、気持ち分かるから絶対。

 

「んで、どうするの?パパっと派手に倒しちゃう?」

「珊瑚に影響がある事出来ないんで追い詰めて拘束!」

「追い詰めるのはいいが、相手の方が道を知っている。このままでは逃げられるぞ」

「そこは、任せて」

 

 走りながら懐から羊皮紙を取り出し広げる。

 

「マッピングは、基本だよねっと」

 

 迷路のように入り組んでいると聞いて、ここで仕事を始めた時点でちゃんと地図を作りながら進んでいた。帰り困るからね。ここ周辺の地図なら既に出来ている。

 

「この先三叉路は、どっちに曲がっても、最終的に開けた場所に出ますから、そこで挟み撃ちにしましょう」

「ジミー殿流石であります」

「マメだね~」

「お前も見習え」

「俺とシャルロッテさんは右へ行きます。二人は左から。途中また三叉路が幾つかありますが、全部右に曲がってください」

「わかった、右だな」

「じゃ、またあとで~!」

 

 三叉路で一旦別れ俺とシャルロッテさんも走り密猟者を追いかける。三叉路を曲がると、遠くに密猟者の後姿が見えた。まだまだ追いつける距離だ。しかし道は覚えているが、流石に慣れているヤツの走りには迷いが無い。追いつけないと困るから速度上げるか……。

 

「シャルロッテさん、ちょっとペース上げ……」

 

 俺の後方を走るシャルロッテさんを見て気がつく。体力にはまだ余裕がありそうだがハーヴィンの彼女では、どうしても俺との歩幅が違いすぎる。同じぐらいの速度で走っても追いつけないだろう。どうしようかな……。

 

「なんでありますか?」

 

 俺の困った視線に気がついたシャルロッテさん。

 

「……その、走るスピード上げようと思ったんすけど」

「え、あ……」

 

 何で俺が困ってるのか察したようで、何となく気まずい感じになる。きっと騎士になる前からこんな事で悩まされたんだろうなこの人。しかたが無いので、何時かのルナールスタイルで行く事にする。

 

「失礼!」

「うわあ!?」

 

 THE・山賊担ぎ。ただし今回は、脇に抱える形にする。

 

「突然なんでありますか!?」

「多分あのままだと面倒なやり取りになって、話がややこしくなるんで」

「だとしても担ぎ方はなんとかならないでありますか!?これじゃ人攫いであります!?」

「全ては依頼達成のため……正義のため」

「それらしい理由言えばいいわけじゃないでありますよ!?」

 

 色々言われているがその甲斐あってスピードアップ、ドンドン距離を詰める。仲間が居る様子がないし、シェロさんの言うとおり単独犯のようだ。アイツ一人捕まえれば終わりだな。

 とか考えている間に入り組んだ道を抜けて、開けた場所へ出る。

 

「はいは~い!さっきぶり!」

「げっ!?」

「追い詰めたぞ珊瑚泥棒、この野郎」

 

 反対方向から現れたドランクさん達と俺達に挟まれて密猟者が動揺している。ふふふ、見たか袋の鼠だぜ。

 

「ち、ちくしょう……捕まってたまるかよっ!」

「あ、コラ!!」

 

 往生際の悪い事に密猟者は、積み重なった珊瑚の壁をよじ登り出してまだ逃げようとする。ある意味小物犯罪者の鑑だな。だが逃がさん。

 

「シャルロッテさん、投げるんで頼みます」

「了解であります!……ん?投げ……」

「犯罪者め、シャルロッテ砲をくらえい!」

「あ、ちょま……っ!?」

 

 小脇に抱えていたシャルロッテさんを、砲丸投げのように密猟者へと投げ飛ばす。

 

「わああぁぁーーーーっ!?」

「は?あ、お、うおおぉぉーーーっ!?」

 

 結構な速度で投げたので、シャルロッテさんの悲鳴が上がり、また自分に向かって飛んでくるハーヴィンに驚く密猟者。

 

「も、もうやけくそでありますぅーーーーっ!!」

「ぐえっ!?」

 

 弾丸のように飛んでいったシャルロッテさんは、見事密猟者の頭に激突。がっちりとしがみついた。しかしパッと見おんぶだなあれ。

 

「捕まえたでありますよ、素直に投降するであります!」

「ふ、ふざけんな……こ、この……離しやがれ、ガキッ!」

「ガ、ガキ……ふんっ!」

「ぉぐえ……っ!?」

 

 ガキと言われてカチンと来たのだろう、シャルロッテさんは相手の片腕だけを持ち上げ、これを首に沿わせて両手足で固定。そのまま一気に閉め落とした。ハーヴィン流間接技(サブミッション)だろうか。いや、ちと違うか?まあいいけど。

 

「うーむ、流石騎士団長、剣が無くとも強い」

「君酷い事するね~」

「緊急時ゆえ致し方なし」

「そう言う問題か……」

「そうであります、酷いであります!」

 

 皆から不満を買ってしまった。特にシャルロッテさん。まあそうだろうね。ごめんなさいでした。だがのびた密猟者をズルズル引きずる姿を見ると、まあいいかってなる。そんでもって……はいまあ、密漁者はこれで確保。そのまま縛り上げてギュステの軍にでも引き渡せば終わりだ。

 ……ところで、今日って俺休日のはずだよね?

 

「貴様ら、そこで何をしてるっ!!」

「は?」

 

 突如大きな声が響く。

 

「貴様ら傭兵か?アウギュステの軍かっ!!」

「バカな、今ここで軍の動きは無いはず……」

 

 何かと思うと俺達の周りを武装した兵達に囲まれた。鎧が統一されており、アウギュステの傭兵ではない事が一目で分かる。

 

「帝国兵……」

 

 俺達を包囲した兵を見てシャルロッテさんが緊張した様子で呟いた。

 ……もう一回。俺、休暇のはずだよね?

 

 ■

 

 六 帝国はいつでも悪いやつ

 

 ■

 

「全員動くな、大人しくしろ!」

 

 銃を構えた兵が俺達を包囲し相手の指揮官が叫ぶ。帝国兵、実際には初めてみるな。ザンクティンゼルでの暴挙から俺の旅先での騒動の原因だったりと、ろくな事をしない奴等と言うイメージだが……。

 

「あらら~これは、まいったねえ」

「そこのエルーン、大人しくしてろ!!」

「ドランク、黙ってろ」

 

 ああ、撃つなこれは……変な事したら間違いなく。一先ず両手を挙げておく。

 

「ふむ……おいその男、ここで何をしていたか答えろ」

「……あー」

 

 チラリと視線だけでシャルロッテさんを見る。彼女は俺の視線に気がつき、僅かに頷いた。応えて良いって事だよね?

 

「何というか、ただ依頼を受けまして……」

「依頼?」

「珊瑚の密猟者が出るってんで……コイツね、コイツ」

 

 シャルロッテさんが気絶させた密漁者を足で軽く蹴って教える。

 

「それだけか?隠し事はしない方が身の為だぞ」

「そこの少年の言ってる事は間違いないであります」

 

 ここでシャルロッテさんがインターセプト。

 

「なんだ貴様?」

「自分は、リュミエール聖国はリュミエール聖騎士団の団長シャルロッテ・フェニヤであります」

「何……」

 

 シャルロッテさんの名を聞くと、帝国兵の間に動揺が走る。

 

「シャルロッテ・フェニヤ……確かに、リュミエール聖騎士団の団長が女のハーヴィンに成ったとは聞いているが……何故ここに」

「騎士団の任務ゆえ細部は話す事はできないであります。ただここに居るのは、密漁に困る方を助けるためにそこの少年と依頼を受けたからであります。傭兵の二人は、ここの巡回中に知り合って、依頼のために自分が個人的に雇った二人であります」

「そーそー、ほんとだよ?」

「ドランク、いいから黙ってろ……」

「うーむ……」

 

 相手の指揮官は、判断しかねる様子であった。よくわからんが、シャルロッテさんの存在がかなりいい感じに動いてるぞ。

 

「依頼発注者は、アウギュステの軍とよろず屋シェロカルテ、確認を取ればすぐにわかる事であります」

「むう……」

「逆に帝国兵がここでなにをしているでありますか?以前アウギュステでの暴挙はリュミエール聖国でも聞き及んでいるであります。またよからぬ事を企んでいるのでありますか?」

「こちらも任務だ。細部を語る事は出来ん」

 

 暫し、にらみ合いが続く。上げてる両手が疲れるんだが……。

 

「……いいだろう、おい」

「はっ!」

 

 指揮官の男が手で銃を下げるよう仕草で伝えると、直ぐに銃を構えていた兵達が銃を下げた。

 

「今は、互いに追及は無しとしようか、騎士団長殿」

「……致し方なし、でありますな」

「うむ。おい、戻るぞ!」

「はっ!」

「ではな、騎士団長殿。なるべく、もう会わぬ事を願う」

「ええ、自分もであります」

 

 帝国兵達は、ズラズラと隊列を組んでどこかへと去って行った。割と話の通じる隊長だったな。完全に居なくなるのを確認してから両手を下ろす。

 

「いっや~スリリングだったね~」

「冗談じゃないっすよ、こんなスリル」

「まったくだ……」

 

 別にあれぐらいなら負けるとは思わないけど、いらん騒動はお呼びではない。帝国と喧嘩するつもりはないぞ俺。

 

「……突っ立ててもしょうがない。一先ずコイツ引渡しに戻りましょう」

「そうでありますな。自分も少しやる事が出来たので……」

「あそっか~リュミエール聖国って帝国と友好関係なんだっけ?」

 

 ドランクさんが割りととんでも無い事言ったぞ。え、え?そうなの?

 

「……マジっすかシャルロッテさん」

「ええ、事実であります」

「ヤバイじゃないっすか。これ、国際問題的な……」

「いえ、ジミー殿が心配する事ではありません。それに、先ほどの男も衝突は避けたいようでした。いきなり国家間での問題にはならないであります」

 

 ああ、ちょっとほっとした。したけど安心できない。

 

「帝国、来てるのか……アウギュステに」

「バカンスって感じじゃないよね~」

 

 ドランクさんの軽口が炸裂、そりゃそうだ。だがジータの事もある。帝国には、思う所がありすぎだ。会ったら色々と確かめたい事があったが、しかしこれは……嫌な感じがするなあ。

 

 ■

 

 七 帝国過激団

 

 ■

 

「よろしかったのですか隊長。奴等をあのままにして」

 

 彼ら帝国兵は、現在極秘の任務を受けて行動していた。ゆえに部隊の隊長が作戦行動中、偶然出くわした二組の男女をそのままにした事に不安を感じる者が居た。

 

「もし奴等が我々の行動を調べてたとしたら――」

「わかっている。だがあのハーヴィン……シャルロッテ・フェニヤが本物だとすると、迂闊な行動はとれん」

 

 隊長の男は、リュミエール聖騎士団の団長シャルロッテ・フェニヤを直接見た事は無い。ただ小柄なハーヴィン種にして歴代最強と言われる者だとだけ聞いていた。

 帝国――エルステ帝国――は、現在ファータ・グランデ空域での勢力を一気に伸ばしている。その為に多くの国との争いは絶えない。だが、シャルロッテの所属するリュミエール聖騎士団本拠地リュミエール聖国とは、現在も友好関係にある。その事を勿論シャルロッテは知っており、この男も承知している。ここで無駄な小競り合いを起こしてしまえば、自分達の受けた任務の遂行に障害が出る可能性があった。シャルロッテが本物か否かを確かめる術が今無い以上は、危険な賭けをする気にはならなかった。

 一つ気になる点は、リュミエール聖騎士団の団長が持つと言う蒼の聖剣【クラウソラス】、それを彼女が持っていなかった事。理由は色々考えられるが、その事が彼にとって彼女が本物であるかわからない要因となった。

 

「だが、このままと言うわけにもいかんな……ユーリ!」

「はっ!!」

 

 隊長にユーリと呼ばれた兵がその場で敬礼し声を上げた。

 

「往来の激しいアウギュステとて、商人以外のハーヴィンは比較的珍しい。聞き込めば場所の特定は難しくないはずだ」

「では……」

「シャルロッテ・フェニヤと思われるあのハーヴィンの動向を探れ。我々の行動に支障が無いかを調べればいい」

「しかし、もしも我々の邪魔をするようであるなら……」

「いや、迂闊に手は出すな。お前では勝てん」

「そ、それは……」

「不満か?」

「い、いえ……」

「誤魔化すな、わかっている」

 

 実にきっぱりと「勝てん」と言われショックを受けるユーリを見て、カラカラと笑う隊長。兜で見え無いが、ユーリは酷く赤面した。

 

「お前も何度も強い者と戦えばわかる。何もしていない時ですら、その者の強さを感じるのだ……」

「うっ……」

「だが、本当にシャルロッテ・フェニヤであるなら、そう迂闊な事はしないとは思うが……だが我らに正義がある様に、奴等の正義もある。その時が来ねばわからんか……」

「しかし、帝国の正義が負ける事などあるはずがありません」

「……ふっ、ああその通りだ」

 

 強く真っ直ぐなユーリの答えに、これもまた隊長は笑う。だがこの笑いには、苦笑がある。

 

「隊長?」

「だがユーリ、これも覚えておけ。己の正義を信じる者は強いとな」

「己の、正義ですか?」

「自分の正義を信じるのは、間違いではない。だが相手も同じだ。だからこそ、正義を武器にするな。正義とは、掲げ背負う物だ。それが同じなら全ては対等、差を分けるのは、己自身の強さ、それが真の武器だ。忘れるな」

 

 ユーリの前に歩み寄った隊長は、握った拳をユーリの胸に数度軽く押した。鎧越しにユーリは、自分達をまとめ上げる隊長の男としての熱さを感じた。

 

「了解です、胸に刻みます!」

「よし、ならば今より行動を開始せよ!」

「はっ!!」

 

 再度敬礼し、ユーリは颯爽とミザレアへと向かった。それを見送り残った部隊は、そのまま本来の任務を続ける事となる。

 

「引き続き我々は、周辺の魔物の分布を調査する!海とは言え、遊びではない!気を抜くなよ!!」

 

 隊長の声に応えた部隊の兵達は一斉に散り、各々の任務へと走った。それを見て自分の部隊の練度と士気の高さに満足している隊長だが、未だ気がかなりな事があった。

 

(何もしていない時ですら、その者の強さを感じる、か。我ながらなんとも……シャルロッテ・フェニヤは、当然としてあの場にいた傭兵二人も相当の手練れだった……だが、あの男)

 

 脳裏に浮かぶのは、まるで顔がぼやけた様に印象の薄い少年。

 

(奴は何者だ……?底知れぬ強さ、シャルロッテ・フェニヤのモノと思ったが、あれは……)

 

 もしも、あの少年が星晶戦隊(以下略)の団長だとわかっていたのなら、彼の対応は少し変化し、ユーリに対して『シャルロッテ・フェニヤと共にあの少年も監視しろ』と言ったかも知れない。だとしても、大した違いは無いのだろう。この時点であのジータが来ているのだから。

 ”たられば”に意味無し。全ては、後の祭りだ。

 

 

 ――星晶戦隊(以下略)、ギュステバカンス四日目。帝国、アウギュステにて活動開始。【ジータと愉快な仲間たち団】アウギュステ到着まで、あと一日。

 




Sザンクティンゼルク人書き始めた当初から、若き義勇篇は考えてて、ユーリ君がメインでは無いにしても出そうと思ってました。なんか性格違ったり感じたらごめんなさい。ドランク、スツルム殿もしかり。
帝国兵全員がドランク達を知ってるわけでは無いと思うので、ユーリ達は黒騎士との関係は、あまり気がついてないと言う感じで。
あと本来の流れとは、もうすっかり違うので、そこら辺もご注意ください。

なんかシリアスな感じありますが、まあ団長君はいつも通りひどい目に遭うので大丈夫です。大丈夫?大丈夫。

正直団長君動かしやすすぎて、他にオリ主物考えてもコイツになる。

シャルロッテ団長、こんな「ありますあります」言ってただろうか……いや言ってる?

サプチケ、クラリス

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。