■
一 天司の誘惑
■
……うん?
な、なんだ、ここ……俺は……。
「あ? なんだぁお前?」
え? おお? なんだ、突然目の前に筋肉モリモリマッチョマンが……いや、あんたが誰だよ。
「人間か? っかしぃな……なんでただの人間が俺に干渉してるんだ?」
「知らんですよ、と言うか誰ですかあんた」
「ああ? 知らねえで来たのかよ……いや、ちょっと待て、お前確か」
マッチョマンが行き成り俺の顔をじっくりと観察し始めた。暑苦しいなあ、もうちょっと離れてくれよ。
「おおっ!? そうか、お前あの小僧じゃねえか!!」
「どの小僧ですかね」
「おお、おお……ほんと地味な顔してやがる。まじで気が付かなかったぜ、ハハッ!!」
失礼だなこの筋肉。
「っんだよ、行き成り来るんじゃねえよ、もっと後に来ると思ってたのによ……ちょっと待ってろ、あいつら呼んでくるから」
「ねえ、ちょっと……話聞いて、聞い……てないね、行っちゃった……」
マッチョマンは、俺を放置してまるで風に消えるようにして去っていった。俺はと言おうと、何故か体の自由が利かない。と言うか俺の体の感覚が薄い……どうなってるんだろうか。
そもそも、俺は何をしていた? ここに来る前に、俺は……そういや……そうだ、ラブホから出てきてジータと再会してその後……。ああ、そうかジータにやられたんだ……。く、くそ……ジータあの野郎、状況が酷いからってあんなのあるか。一瞬で意識刈り取られたぞ。どう言う動きだよ、まるで気がつかなかった。
「よお、待たせたな!」
「わおっ!?」
また急にあのマッチョマンが現れた。しかも今度は、人数増えてる。
「あら、本当に来てたのね?」
「なんと……人の身のままで我々へ干渉したと言うのか」
「ふむ……奇怪な」
「待て待て待て……勝手に話進めないで、あんたら何なの? ここは何処よ?」
突然増えた男女、どうも雰囲気が星晶感あるのだが、ティアマト達と似た奴だろうか。
「この男、どうやら意図せず現れたようだ……肉体が一時的に休止し、その精神のみが我らの次元へと干渉したか」
「待って、俺どうなってんの?」
それって死んでない? え? ここあの世なん? ジータに殺されちまったのか? ほぼ無実の罪で?
「安心していいわ、あなたは今眠っているようなもの。ただ偶然にその魂が私達の元に現れたの」
安心できる気がしないんですが。召されてない? 魂が分離してるって、それ召されてない?
「いや、そう言われても……そもそも、あんたらほんと誰? なんか羽生えてるし人じゃないでしょうけども」
「あたりめえだ、俺達は人じゃねえ」
「世を司る四大元素、それを司るのが私達」
「空を管理すべく生み出されたシステム、空の島々の浮力を生み出すのも我らが役目」
「我ら四大元素を司りし者、四大天司」
急に何言ってんだこいつら、痛々しい……しかし、なるほど、大体わかった。
「つまり、めっちゃ凄い星晶獣って事ね。Ok、把握」
「ざっくりまとめやがったな」
「まあ大体あってるけどね」
はいはい、またこう言う展開ね。もう星晶関係は、正直胃もたれ気味。飽きたよもう。気絶してても俺ってこんな事に巻き込まれちゃうんだね、こんちくしょう。
「しっかし、実際に間近で見てみっと、お前ホント地味だな」
「二度目だな。初対面でクソ失礼だよ、アンタ」
「ガハハッ! 威勢良いじゃねえか坊主! いっちょ喧嘩すっか?」
「お断りします」
この筋肉マンからフェザー臭を感じる。あれと似たタイプだ多分。
「……所でさっきから俺の事知ってる感じだけどなんで?」
確かに初対面だよね? ああ、ゾーイの時もこんな風だった。相手側が一方的に俺の事知って妙に危険視したり敵対視するんだ。いつもそう。
「無論。貴様の異常性は、我ら天司も危険視していた。あの少女共々な」
「……あの少女って、まさか」
「貴方を気絶させたあの子よ」
「またジータか……」
あいつ関わるとほんと碌な事にならねえな。
「何時かは干渉する必要があると我ら、いや天司長も考えていた」
「まだ天司いるんすか……」
「我々を束ねる天司の長だ。今もどこかでこの様子を見られている」
つまり普段から俺達、ひいては空の住民達は、天司達に見られてるわけね。
「プライベートの侵害っすよ」
「そういうレベルの話じゃないんだけど……」
「大体俺のどこが危険なんすかあー、ジータはともかく俺なんて人畜無害の少年ですよ」
「お前だけの問題ではない、お前が引き寄せる事象が危険なのだ」
くっそ、一気に身に覚えのある話になりやがった。
「それに星晶獣8体殆ど一人で倒した上にそいつら全員仲間にしといてそんな言い訳通るかって」
「うぐぅ」
本当に俺の事を見てたらしいなこいつ等、いやーんな感じ。
「と言うか貴方達の行動で空に異変が起き続けでちょっと私達でも困ってるんだけど。さっきもパンデモニウムの方で、何かの封印解かれたようだしちょっとは加減してね?」
「いや、知りませんよそんなの……なんすか、パンデモって」
「空と地を結ぶ塔よ、魔物と星晶獣が封印されてる場所でもある。詳しくはその内わかるわ」
「そらトンデモニウムですわ」
「……下らん」
言わないでニヒルさん、言っといてなんだが俺も無いと思った。
「それだけでは無い。貴様と少女の行動によって、運命の流れが崩れ新たな可能性が生まれた。それによってあの島に今危機が迫っている」
”あの島”ってアウギュステの事か? やはりあの島で何かが起きてるのか。大凡帝国関係の事だろう。
「アウギュステが危険なんですか?」
「このままではね」
「……それを聞かされちゃ、寝てる場合じゃねえな……」
「ほお? 急に闘志を溢れさせたな」
当然である。このまま帝国の好き勝手させる気は無い。
「俺はまだアウギュステのビーチでバカンスしてないんだ」
「……所詮は、人間。俗物であったか」
うるさいぞなんかニヒルな人。
「はっはっはっ!! いいではないか、戦う理由などそれぞれだ」
「この子のこう言う所が見てて飽きないのよね」
「やっぱ一発喧嘩してえな。良い喧嘩できそうだぜ」
嫌だっつってんだろこの筋肉。
「駄目よ、そろそろ彼目が覚めるもの」
「そうだ。手合わせできるのならば、我とてそうしたいが今回は、時間が足りぬ」
「時間あったらする気だったんかい」
「無論、貴様とは良い戦いが期待できる」
なるほどねー四大天司の内二人は、基本脳筋か。特に筋肉の方。
「これが俺達の空司ってるとか、ちょっとショックなんすけど。ただの喧嘩好きじゃん」
「まあまあ、普段はちゃんと仕事してるのよ」
「……あれと一緒にするな」
星晶獣ってのは、こんなのばっかなんだな。天司(笑)。ははっ、わらっちゃう。
「さて、そろそろね」
一番まともそうな天司の彼女がそう言うと、俺の意識がフワフワし始めた。
「貴方の肉体が目を覚ますわ。また会いましょう」
「なるべく会いたくないっす」
「そう言うなよ、俺はウリエル、土の天司だ。次こそ喧嘩しようぜ!」
「我はミカエル、火の天司。カオスを体現せし少年よ、次は手合わせ願おう」
「私はガブリエル、水の天司。もしかしたら、すぐ会うかもね」
「……ラファエル、風の天司。人の子よ、さらばだ」
それぞれが妙に意味深な事をいいやがった。言いたい放題だな、天司。
「君と会える日を楽しみにしているよ」
……うん? 今のは? 四人とも違う声、あれ……だれ、だ……──。
■
二 死ぬかと思ったぜ!!
■
「……き、……あ、に……っ!」
「……ん、うぅ~ん?」
「……ちょう! だん、ちょ……っ!!」
なんか、声が聞こえる。全部知った声だけど、あれ?
「意しき……が、もど……」
「きが……だん、ち……おい……っ!」
うるさいな、分かったから、今目覚ますから……。何かわけわからん奴等に絡まれてて大変だったんだ、少し待て。
「イイ加減、起キロ」
「ぼはあっ!?」
突如腹部への打撃ィっ!? て、てめえ!! 今のは、ティアマトだなっ!?
「こ、こんのクソ星晶獣(笑)!! なんつう起こし方しやがるっ!?」
「私、団長ナラコノグライ平気ッテ信ジテタワー」
「ワザとらしい言い方するな気持ちわりいな!?」
「兄貴、目を覚まし──」
「お兄ちゃん起きたあっ!!」
「ぬごおほおおっ!?」
「兄貴ぃーっ!?」
ま、また腹部への衝撃がっ!!
「兄貴しっかりしろおっ!!」
「ジータッ!? 目を覚ましたばかりなのに、そんな腰の入ったタックルするヤツがあるかっ!!」
「あっ、ごめんっ!!」
「お、おおぉ……ごおぉ……うぼあぁ……」
「ほら見ろ、えらい疼き方しちまってる……落ち着け坊主、呼吸整えろ」
髭の兄ちゃんが親切にしてくれる。ありがてえ、ありがてえ……。
「あ、ありがとうございます……」
「かまわねえよ、ジータが悪かったな」
「いえ、いいっす。慣れてるんで」
「そうか……お前が、本当にアイツの兄貴だったんだな」
あれあれ? 一気にこの人の俺を見る目が哀れみへと変わったんだけど何故かなあ~? いや、やっぱ言わなくていい。分かってる、ビィ辺りに聞いたか。そうか、初対面でも哀れまれるぐらいにジータは、この騎空団で無茶苦茶してるんだね。
さて、周りを見渡すとコーデリアさんと星晶戦隊に、ジータとその仲間らしき人達が揃っている。ここは、エンゼラの俺の部屋か。何でここに……まあいいや、とりあえず今の状況が知りたい。
「それで? あの後何があったんすか? 他のやつらは?」
「ああ、それは私から説明しよう」
ああ、コーデリアさん。なんかこの人がいるとそれだけで安心できるな。もう全部任せてしまいたい。よっしゃ、聞こ聞こ。
「まず君が彼女の攻撃を受けてずっと気絶し眠っていた」
「ジータの攻撃を受けてって時点で、もうわけわかんないよね」
「ご、ごめんね?」
おう、素直に謝れるのはいい事だぞ。
「その後意識が朦朧とし程なく完全に意識を失った君を、私達がエンゼラへと運んだ。外傷は、少なくほぼ全ての攻撃……と言っても、私は果たしてどれ程の連撃を入れられたのか分からなかったが、それらは全てが衝撃となって君の体内へ正確、的確に放たれた」
「大体千発ぐらいだったと思うけど……」
一瞬で千撃か、鬼神かなにかかよ。流石ザンクティンゼルのリーサルウェポン、スーパーザンクティンゼル人。
「そうか、また強くなったなジータ」
「そ、そう? えへへ」
「ジータ、多分褒められてないぞ」
お、カタリナさんだっけ? わかってるねえ、ただの皮肉だよ。
「急ぎ治療が必要だったが、イオ君……ジータ団長の仲間の少女がヒールをかけてくれて最悪の事態は、免れたよ」
「イオ?」
「私ね」
杖を持ったツインテールの少女が軽く手を上げていた。
「そうか、君が助けてくれたか。ありがてえ」
「お礼なんていいわ、当然の事よ」
あ、この子良い子だ。俺わかる、うちの団に欲しい。主に癒しとツッコミ要因で。
「その後直ぐに私達は、リュミエール聖騎士団とも合流を果たしたのだ」
「あ、そうだそうだ。シャルロッテさん、それになんか知り合いっぽかった人達いたな。あの人達は?」
「今君が目を覚ましたと知らせに──」
「ジミー殿っ!?」
ばばんっと扉が開いて飛び込んできたのは、丁度話題に出したシャルロッテさん、そして後ろからは、体の大きなドラフの騎士が着いてきた。部屋の密度が狭くなる。
「ああ、本当に目を覚まされたのでありますね!」
「やあシャルロッテさん、ご心配おかけしました。うちの船にいたんすね」
「はい、ジミー殿の目が覚めるまではと。他の騎士団の皆は、バウタオーダ殿が乗って来た船に居ますが……う、うう……しかしあの後、ジミー殿がうわ言でわけのわからぬ事を呟き、呼吸まで止まりかけた時は、もうダメかと……」
「待って、俺呼吸止まってたの?」
「ちょっとクリティカルしちゃったみたいで……」
ちょっとじゃねえよ、ジータ? 天司との接触が、ほぼ天に召される5秒前じゃん。やっぱ魂召されかけてるじゃん。
「何とか無事なようですね。安心しました」
「貴方は?」
「自分は、リュミエール聖騎士団の部隊長をしておりますバウタオーダと申します。以後お見知りおきを」
おお、丁寧な人だ。やはりリュミエール関係は、癖強くとも基本皆常識人だな。しかもうちの団に慣れた所為で男性の常識人は、珍しいと思ってしまうな。
「シャルロッテ団長も来たので、話を戻そうか。色々と確認したい事も山積みであったが、我々は、まず君の治療を優先してエンゼラへ運んだ。宿とも思ったが、エンゼラには、エリクシールもあったからね」
「何せ君とシャルロッテ殿がその……ああ言う宿から出て来たものだから、皆混乱していてな。尤も直後のジータの暴走である程度冷静になったのだが」
皆が冷静になるために俺は、犠牲になったんですかね。
「すまなかった坊主。俺が余計な事言ったせいで嬢ちゃんを混乱させたみてえだ」
髭のおっさんが申し訳なさそうに頭を下げる。ああ、あんただったな態々俺がラブホから出て来た事言ったの。まあいいや、誰でも気になるわあんな状況。仕方ない仕方ない。
「いいっすよ。ありゃしかたねえっすわ」
「そうか? すまねえな」
「まあその事は、シャルロッテさんとあなた達がお世話になった宿の主人が事情を説明してくれたから誤解は解けてるわ、安心して」
ロンゲのお姉さんが説明してくれた。ところでこの人からユグドラシルと近い雰囲気を感じる。と言うか、星晶獣なんじゃないのあんた? なんて言いそうになるが、それを察したのかそっと人差し指が口に添えられた。意味深な微笑と共に。まだ言うなって事ね、はい了解です。
「船でエリクシールを君に飲ませたら、直ぐに容態が落ち着いた。流石は、秘薬と言うところか、それとも君の回復力によるものか……ともあれ、無事でよかった。気絶していたのは、1時間程度だと思うよ」
「1時間か、まああの攻撃受けて1時間の気絶ですんだと思うとします」
「結構本気で攻撃したんだけど、お兄ちゃん凄いね! 前より丈夫になってる!」
前より強くなってるとかじゃないんだね? 丈夫になってなんだね?
「なんだろうな……俺、少し涙が……」
「オイラもだよ、ラカム……」
泣くな泣くな、こんな事で。泣かれると、俺も泣きたくなる。
「宿に居た者達には、ブリジールに頼み既にこの事を伝えてある。この騎空団の事を説明するのに象徴であり、生き証人でもあるティアマト達には、先に来てもらったが、他の者達も、もう少ししたら来るだろう」
「状況がややこしくなるだけじゃないですかね?」
「とは言え、話さないわけにも行かないからね。今後の事もある」
確かに。リュミエール案件だけでなく、まさかのジータとの再会は、ある意味非常事態だ。今後の展開がまるで読めなくなってしまった。しかも帝国関係の問題まで控えている。
ああ、こんなはずじゃなかった。俺のアウギュステバカンス。
■
三 幼馴染三日会わざれば刮目して見よ
■
「あ、そうだ! 私達の紹介遅れちゃったね!」
不意にジータがパチンと両手を叩き、明るく話し出した。流れぶっちぎりやがったな。いいけどさ、どの道聞く事だから。
「ルリアとカタリナは、ザンクティンゼルでも会ったよね?」
「おう、よく覚えてるわ。怒涛の展開だったな」
「あの時は、何かと迷惑をかけた」
「す、すみませんでした」
「いいのいいの、全部帝国が悪いの」
何時かそのツケ払わしてやるからな……。
「それでその後仲間になったのがこちらっ!!」
「なんだその紹介……たく。俺は、ラカム。お前の事は、ビィからよく聞いてるぜ」
「そりゃ、なんともお恥ずかしい」
「いや、お前が苦労して来たって言うのがよくわかったぜ……」
「ラカムは、特にジータの被害が多くてよ……それにオイラも助けられてるんだけども」
そうか、多分この人が【ジータと愉快な仲間たち団】でのかなり重要なポジションと見た。押さえ役と何かしらのトラブル被害を受ける要因か……。
「で、次に仲間になったのがイオッ!」
「ま、さっき挨拶はしたけどね。よろしく」
「いや、改めてヒールありがとうございます」
「はいはい、もういいから」
スカウトしたい、ぜひこの常識&癒し&ツッコミ要因をスカウトしたい。
「そして次がこちらっ!」
「おう、俺は、オイゲンってんだ。まあ、見た通りの爺だよ」
「爺ってか、老熟の騎空士って感じですね」
「ほう? 分かるかい?」
「そう言う人間を知ってるんで」
元気かなばあさん。まあ、間違い無く元気だろうけど。ジータも元気だぞ、ばあさん。俺を殺しかけるぐらいには。
「でっ!!」
「最後に私ね。私は、ロゼッタ。きっと今後もお世話になるわ、よろしくね」
「……ああ、確かにそんな気がします」
「ふふ、長いお付き合いになりそうね?」
これは、間違いなく星晶獣だな。しかもユグドラシルの事知ってるなこれは。なんせ、部屋の隅にいるユグドラシルがメッチャニコニコだからな。
「……で、ジータは、何でそんなテンション高いわけ?」
「自慢の仲間を紹介したので!!」
「そうですか……」
めっちゃ懐いてるな、ジータが仲間皆に。一つ保護者の様なポジションでも会った俺としては、改めて挨拶をせねばなるまい。
「俺の幼馴染が、大変ご迷惑をお掛けしていると思いますが、今後とも何卒よろしくお願いいたします」
「あーっ!! 何その言い方っ!? 私いっつも頑張ってるんだよ!?」
「頑張るから大変なんだよなぁ……」
俺がそう言うと、ジータの後ろに居る【ジータと愉快な仲間たち団】の面々が激しく頷いていた。ほんと、いつもご苦労おかけします。ほんとすんません、俺の幼馴染が……。
「だが噂で聞いちゃいたが、お前の騎空団も無茶苦茶だぜ。何なんだその、このぉ……なんだあ……こいつ等は?」
そう言ってラカムさんが俺の仲間達、と言うか(笑)共を指さした。
「ほんと、なんなんでしょうね?」
「いやいや!! お前がそれ言うのかよっ!!」
「エンゼラで待ってたら、ティアマト達が現れて最初びっくりしました!」
「宿デ待ッテタラ、エンゼラニ来イト言ワレタ。折角ワイン飲ンデタノニ」
「お前って、俺が大変な時本当に暢気してるよね」
「ショウガナイダロ、ソッチノ状況ナンテ知ランノダカラ」
もう普段通りだし。お客来てんのに部屋のソファーで寝っ転がってんじゃないの、はしたない。
「星晶獣が居るとは、噂で聞いてはいたがまさかティアマト達だったとは思わなかったぞ」
「いや、予想できるわけないでしょこんな面子」
イオちゃん、よくわかってるねえ。団長である俺ですら何でこうなったのかわからないんだから、他の人がわかるわけない。
「それで、こいつらって俺達の知ってるティアマトって事でいいのか? そこら辺は、まったく聞いてないんだけどよ」
「どうなんでしょうか……私達の出会って来たティアマトやコロッサスとは、少し雰囲気が違う気もします。シュヴァリエとセレストは、そもそも姿も違いますし」
「ほぼ同じ存在と思ってくれて構わん」
「わ、私達は……島々を守護したり……あと何か、色々してる本体から分かれた、断片みたいな存在だから……」
「ミンナ (*・ω・) オチャト、オカシイル?」
コロッサスがなにやらお茶やお菓子を準備していたらしい。居ないと思ったらそんな事を……ティアマトも見習えこの野郎。
「このコロッサス見て、あのコロッサスと殆ど一緒の存在とか想像付かないんだけど」
「ナンカ (*´・ω・`) ゴメンネ」
「あ、別に責めてる訳じゃないのよ?」
直ぐ打ち解けるコロッサス。流石癒し枠一号、見た目とのギャップが凄い。
「ところで、リヴァイアサンはいねえのか? 流れ的に居てもおかしくねえけど」
「アイツ今この島のリヴァイアサンと海満喫してます」
「あいつ、そう言うタイプなのか……」
「本当なら、談話室か個室の生け簀に居るんですけどね」
「それ、本当にリヴァイアサンの事か?」
「残念ながら」
「マジかよ」
聞けばオイゲンさんは、アウギュステに住んでいたらしい。更にラカムさんは、ポート・ブリーズ、イオちゃんは、バルツとマグナシックスの半分が【ジータと愉快な仲間たち団】の誰かが居た島の守護だったり何か関係のある奴らだ。そう思うと、このゆるキャラ化を見ると複雑だろう。
「ロゼッタさんは、あんまユグドラシル見ても驚きませんね」
「この子は、あんまりかわんないからね。元からこんな感じなのよ」
「────!」
元からか……確かルーマシー群島だったか、本体があるのって。つまり、そこにいけばもう一体のユグドラシルがいる……。おいおい、パラダイスやんけ。その内行こう。
さて、全員を把握したところでいい加減状況を進めていかないといけない。色々滞ってる状態だからな。さあ、話を進め──。
「へいへい、へ~い~っ!! 団長お無事かぁ~~っ!?」
「うわあっ!? 突然何よ!」
扉がまた突然開いたと思ったら、ハレゼナが突撃をかけてきた。イオちゃんが驚いてしまったが、その次からまた更に知った奴らが現れる。
「うぇっぷ……だ、だんちょうきゅん、死にかけたって、ほんとヴオッ!! ……うぇぷ、うぇぇっ!?」
「お、おい大丈夫かこのねえちゃん!? って、酒くさっ!?」
「団長!! 団長を一瞬で倒したって言う少女と語り合いたいんだがっ!!」
「み、皆さん行き成り部屋に入っては駄目です! 慌てちゃ駄目です! まだ団長さんも、安静に……うわあっ!?」
「なははははっ!! だ、だんちょう、大丈ばふはははっ!! ひひ、ひひいひひぃーひひっ!!」
「おいおい、なんかやべえのが、何人かいるぞ……」
「おお、色んな人が集まってるねえ……ねえねえ、そこの貴方? お一つ問うね」
「え、私? 何々?」
「ぜえ……あ、あんまり走らせ無いでよ……急な移動は、勘弁だわ……」
「こ、この者達は、一体……」
「団長、はむ……あの少女がいると、あむむ……聞いたが本当かい? 均衡大丈夫?」
「な、なんだか一杯来たであります!」
「いよう、相棒目ぇ覚ましたな」
「うわあっ!? なんだあ、こいつっ!?」
「よう、オリジナル、ここで会う事になるとはな……」
どったんばったん大騒ぎ。メンバー殆どが俺の部屋に入ってきやがった。一応は、団長室なので普通の個室より広いけど、限度がある。
ラムレッダ、吐くなら部屋出ろ。フェザー君、うるさい部屋出て。ルドさん、深呼吸して部屋出ようか。フィラソピラ、問うな問うな部屋出て。ルナールさん、無理しないで部屋出て。ゾーイ、均衡崩れてないからその片手の菓子パン食うかしまうかしろ、部屋出て。B・ビィ、表出ろ。
「お前ら一回部屋から出ろオオッ!!」
狭あぁいっ!!
■
四 あーあ、出会っちまったか
■
ぎゅうぎゅう詰め状態になった俺の部屋から、エンゼラで一番広い食堂に移動した。俺の部屋の大きさ考えろ、そもそもジータ達だけでも狭かったのに。
とりあえずグループごとに座ってもらい、順々に話をつける事にする。もう夜も遅いのでとっとと今日の事を終わらせたい。
人数も多いので、コロッサスとセレスト、ブリジールさん達がせっせとお茶とお茶菓子を用意してる。関心である。ティアマト? 呑み損ねたとか言ってたワインを隅で一人優雅に飲んでる。あいつ……。
「兄貴、このオイラの偽者誰なんだよっ!?」
「偽者とは、言ってくれるぜ。お前とオイラは、光と影の様なもの。どちらも違い、どちらも同じだ」
「わ、わけのわからねえ事言いやがって……」
さて、俺の目の前では、机の上に座ったビィとB・ビィが言い合っている。俺が恐れていた光景が今、目の前にある。
「ビィ、気持ちは察するが基本無視しておけ。黒いナマモノとでも思えば、気にならん」
「いやいや気になるって!?」
「黒いナマモノとは、ひでえな相棒。オイラはビィだぜ」
「それは無い」
「ねえよっ!!」
「うむ」
俺とビィがB・ビィの台詞を否定していたら、ちゃっかりカタリナさんも頷いていた。
「まあ、真面目な話するとティアマトとかみたいな奴だ。勝手にお前の姿をモデルにしたらしいが、似ても似つかねえパチもんだよ」
「真面目な話なのにふざけた話だなそりゃあ」
ラカムさんもすっかり呆れてしまっている。だが正しい反応だ。プロバハの話したってよくわからないだろうから、今回は省略する。
「オイラは、ブラック・ビィ、相棒や他のやつ等からは、B・ビィって呼ばれてる。よろしく頼むぜオリジナル」
「そのオリジナルって呼び方やめろぉ!! オイラは、ビィって名前があるんでい!!」
「そうか、そりゃ悪かったな。ほれ、詫びと言っちゃなんだがリンゴ食うか?」
「リンゴォ!?」
ああ、ビィがリンゴであっさり買収された。チョロ過ぎだぞ、ビィ!!
「お前もリンゴ好きなのか?」
「そりゃお前をモデルにした存在だからな、リンゴも好きだし多少差異はあれど、共通点はあるさ。まあ、食えよ良いリンゴだぜ」
「な、なんだよ、お前結構良い奴だな……うめえ!!」
くそ、B・ビィの奴あっという間にビィを手懐けやがった。やはり仮にもビィをモデルにしただけはある。相手の事をよくわかってやがる。
「けど結構可愛いよね、B・ビィ!」
「おっ? オイラの可愛さがわかるかいジータ」
「うん、なんか独特の良さがある!」
「むぎゅうおっ!?」
ああ、ジータがB・ビィを抱きしめ……抱き潰したっ!! いいぞもっと潰せっ!!
「おおっ!! お前もトカゲがラブリィって思うかァ?」
「うんうん、なんか癖になる感じッ!」
「だよな、だよなっ!! クレ~ジ~でラブリィだよなあっ!! ……う~ん? けど、そっちのトカゲも超ラブリィ!!」
「げっ!?」
「抱きしめていいよ?」
「マジでっ!? やったぜ~っ!!」
「ま、待てよ! オイラが良くねえよっ!?」
「きゃっはあっ!!」
「ぎゃああっ!?」
「私もぎゅうっ!!」
「ぐあわああっ!?」
「はわっ!? ビィさんとB・ビィさんが大変な事に!!」
……うん、よし。
「良い具合に状況を混乱させる奴が固まった所で、こっちは話を進めましょう」
「こいつ、相当場慣れしてるな……」
「あの状況をもう意にも介してねえ」
ジータを相手にしてる貴方達も似た感じだと思うよ。
「本来ならうちの団の連中全員を紹介する所ですが面倒なので省略します」
「雑だぞ団長!?」
「ちゃ、ちゃんと……しょうか、うぇぷ……してほし、おぷっ!?」
数名からブーイングが来るが無視する。大人しくしてろ、忙しいんだから。あとラムレッダは、いい加減トイレでも行って吐くもん吐け。
「と言うか、大体見たままの奴らなんで察してください」
「お、おう……ほんと、大変そうだな」
ほんとにね、ははっ!!
「で、話を進めさせてもらいますが……ジータ関係の方ですが、島を発つ時に彼女に俺の使ってた毛布とクッションの新しいのをあげておきます」
「助かる……まさか、あんな事になるとは、思わなくてな」
「まあ、あれは知ってても防ぐのは無理です。俺もザンクティンゼルで初めて経験した時は、もう駄目だと思いました」
お兄ちゃん分不足による突発性偶発的異常現象……発動するたび名称がパワーアップしてる気がするが、今は横に置いておく。あの現象が一人の人間が起したものと果たして誰が思うだろう。その原因のある意味一端である俺としては、責任感じちゃう。
「ジータに兄離れをさせようと思った事もありましたが……」
「あれは、もう無理だろ……お前さんとあった事も無い俺達にも、何かとお前さんの話をするからな」
「空に旅立ってるわけだから依存してる訳じゃないけど、相当よねあれって」
曰く、最高のお兄ちゃん、最強のお兄ちゃん、全空一の主夫……そんな話を良くするらしい。恥ずかしいなもう。ただ、最後おかしいね? なんだよ主夫って。あと最強って言うけど、俺ジータに一瞬で気絶させられたんだが、それは。
「それと、俺のクッキーとかのレシピも教えるんで、たまに作ってあげてください」
「それは助かる。君の味とは違うかもしれないが、気休めにはなるだろう。私がしっかりと──」
「私が作るからっ!!」
「イ、 イオ?」
かなり必死な形相でイオちゃんが身を乗り出してカタリナさんの言葉を遮ってきた。それ以外のラカムさん達メンバーも、戦慄の表情をしている。
「そう言うのは、私が作るから!」
「し、しかし私もたまには」
「いいから!! 私がやるから!!」
あ、これはアレですね……カタリナさん、つまりそう言う事ですね。
「……イオちゃん、後でレシピ書いた紙あげるね」
「うん……なんか、ごめん」
「いいよ……そっちも大変だね」
言葉は少なく、それでも俺とイオちゃんは、何か通じ合えた気がした。一方で、カタリナさんは、一人わけがわからないと言う表情のままだった。ジータだけがこの団の問題と言うわけじゃなさそうだな。
「心なしか、ビィよりモチモチしてるね、B・ビィって!」
「あ、相棒……たすけ、たす……」
「こっちのトカゲは、ラブリィ! あっちは、クレ~ジ~!」
「あに、き……たす、た……」
……ほんと、どいつもこいつも……はあ。
■
五 アウギュステの今日は土砂降りだった
■
「で、次ね次。リュミエール案件」
「なんだか、蔑ろな扱いであります」
「しゃーないっすよ、事態が事態だから」
いい加減ヤバイビィとB・ビィは、カタリナさん達に任せた。俺は、こっちのリュミエール案件を勧めないと駄目なので。
「俺の方の事情って何処まで聞きました?」
「……コーデリア殿からある程度。あの【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の団長であると言う事と、今回の事は」
「そっか……騙してごめんなさい」
「あ、いえ。そちらにも事情があるようでしたし、ジミー殿が謝る事では……あ、ジミーは偽名でしたか」
「まあそうですけど、好きにどうぞ」
「そ、そうでありますか?」
「そうそう。最初は気に入らなかったけど、シャルロッテさんなら悪い気しないからね。愛称みたいな感じでどうぞ」
「そ、そう言う事なら……実を言うなら、ほんの数日でしたがジミー殿の呼び方に慣れてしまって……」
「あはは、ところで本名ですがね──」
「……では、団長の呼び名も決まったところでいいかね?」
「え? あ、そっすね」
あれ? なんかコーデリアさんからちょい不機嫌オーラを感じたが……気のせいか? あと、俺の名前、名前……まあ、あとでいいか。
「えっと、バウタオーダさんも今回お騒がせしてすみませんでした。なんでも任務の途中だとか」
「いえ、お気になさらず大丈夫です。運命の悪戯の様なものでしょう」
良い人だなあ。本当に良い人だなああ!!
「それで、本題ですけど……まあ、これは俺の関われる事は無いけども、コーデリアさんの任務ですけどどうします? 場所移してやりますか?」
「……」
「コーデリアちゃん……」
本来ならもう終えている任務だ。【正義審問】、シャルロッテさんに正義を問い質し、リュミエール聖騎士団に恥じぬ人物かの判断。遊撃部としてのコーデリアさんの仕事。シャルロッテさんは、神妙な面持ちでコーデリアさんの言葉を待ち、ブリジールさん、バウタオーダさんも緊張した様子で見守る。
「……いや、今はよそう」
コーデリアさんは、小さく首を振った。
「……コーデリアちゃん?」
「今日は、あまりに状況が混乱し過ぎている。我々には、休息が必要だ。明日、また改めて貴方に正義を問わせてもらう。リュミエール聖騎士団、遊撃部として」
「……わかりました。全ては、自分が起した事であります。逃げも隠れもしません」
「その言葉、信じさせていただく。ならば明日改めてこの船で会いましょう」
「はい」
……終わった? 終わったね。持ち越し、明日で解決です。ね、もう今日は休もう、みんな休みましょう!! 終了、解散っ!!
ジータ達も落ち着いた? そっちどうなってるの?
──その瞬間、彼が目にしたものは、利き手を軸にして高速回転し、地面へと叩きつけられるフェザーの姿であった。それは、樽の机を使い繰り広げられていた小さな腕相撲大会。団長達の話し合いの間、せっかくだからとフェザーがジータとやりたいと申し出て行われたその催しであった。ただの腕相撲、その筈であった──
「ぐわああああ──ッ!!」
「フェザーくーんっ!?」
ジータの方を見たらいつの間にか開かれていた腕相撲大会で、フェザー君が叫び声を上げながら床に沈んでいった。相手はジータでした。
「ジータやりすぎだっ!?」
「だ、だって彼が本気でやれって言うから……」
「加減しなさい、莫迦!」
「ひ、ひどいっ!?」
ほんの数分目を離した隙にどういう事態だっ!? フィラソピラさん、回復っ!!
「フェザー君しっかりしろ!!」
「だ、団長……へへ、本気でやったんだけどな……彼女、すごいぜ……」
「何と言う無茶をっ!!」
「け、けど……俺は、満足だ……次は、必ず俺が……勝って見せる、ぜ……」
「フェザー君っ!? フェザーくーんっ!?」
腕相撲だよね!? 普通に腕相撲してたんだよね!? なんで真っ白に燃え尽きてるのっ!? ちょっと、フェザー君っ!? しっかりしろおっ!!
「ジータっ!! 俺以外と何か競う時は、力の加減上手くしろって言ったろっ!?」
「お、お兄ちゃんの丈夫さに慣れちゃって……てへ」
「つまり、団長の異常な打たれ強さは、ジータによって、さながら鉄を打つ様に鍛えられたんだね」
「むう、私は主殿に打たれたいが……主に鞭で」
うるさいぞシュヴァリエ!! 喜んじゃうからやりたくないが、ほんとぶった叩いてやりたいな、この野郎!!
「主にケツ狙いで頼むっ!!」
うるせえ!
「だ、大丈夫かにゃ……フェザ、うぇ……うぶうっ!!」
うわああっ!? ラムレッダ、なんで態々吐きそうなタイミングで俺に寄り掛かるっ!?
「てか、なんで一度スッキリしとかなかったラムレッダっ!?」
「い、一度スッキリはしたにゃ……けど、さっき腕相撲見ながら、また飲んで、ぼおっ!?」
「わあ、馬鹿馬鹿っ!? 桶、だれか桶っ!!」
「オイ、団長」
ええい、よりによってティアマトかっ!!
「なんだっ!?」
「モウ用事スンダナラ、私ハ部屋戻ルゾ」
「勝手に戻っとれえぇ────っ!!」
今は、それよりも桶を……なに、もう桶じゃ無理!? どんだけ飲んでんだお前はっ!! トイレか、我慢できんのか!? 良いか、吐くなよっ!? 俺につかまるのは良いが吐くなよっ!! 絶対だぞ!!
「なはっ!? なははっ!! ほひいぃひひっ!? あ、やば……いひっ!! あはーはははっ!!」
「お、おい! この姉ちゃん笑いが止まらなくなったぞ!?」
「~~~~!!」
「あらあら……どうやらユグドラシルが言うには、発作らしいわ」
「いや、どう言う発作だよっ!!」
ラカムさんや、オイゲンさんの言う通りだわ。初見じゃわけわからんからなルドさんの発作。
「セレスト! 【安楽】で軽く気絶させとけ!!」
「う、うん……」
「ぎゃああああっ!?」
悲鳴!? 今度はなんだっ!?
「なんだ、お前は体変形できねえのか?」
「で、出来るわけねえだろっ!!」
「B・ビィの体はどうなってるんだ……」
マチョビィかよっ!? お前ジータから解放されたと思ったらなに勝手に変身してんだ!!
「それキモいからいきなり知らん人……てか、ビィやカタリナさんに見せるな馬鹿っ!!」
「キモイとか言うなよ傷つくな」
勝手に傷ついてろ、そもそもダイヤモンドコーティングの心で掠り傷一つねえクセに!!
「あははははっ!! お兄ちゃんの仲間の人ってみんな楽しい人ばっかだね!」
「ああ、そうだな全く飽きないよ畜生めっ!!」
「ご、ごめんにゃ……だんちょ、きゅ……ヴぉえっ!?」
ああ、待ってろ、ラムレッダ!! 今トイレ連れてくから!!
「……ジミー殿の騎空団は、いつもこうなのでありますか?」
「今回は、ジータ団長もいるせいもあるが……大凡こうです」
「団長は、いつも苦労してるです」
「……気の毒に」
シャルロッテさん達に色々言われてるがそれどころじゃない、今は収集を、この場の収集を……桶、桶も一応くれええっ!! 早くっ、ああ────っ!?
■
六 驚き!? 正義の聖騎士団長に情夫の影? 若い燕が、アウギュステの空に飛ぶ
■
アウギュステ、普段人気の全く無いの某所。そこには、帝国の紋章が刻まれたテントが幾つか設営されていた。ここで活動し始めた帝国部隊の野営地である。その中にある指揮官用のテントに、二人の男がいた。
「……それは、本当か?」
「はいっ! この目で確かに」
一日別行動を行っていた帝国の若き兵士ユーリ。彼は、降り続ける雨の中、ラブホテルへと消えていく調査対象であったリュミエール聖騎士団騎士団長であるシャルロッテ・フェニヤについての報告を行っていた。
「あのシャルロッテ・フェニヤが、そのようなホテルに……」
「自分も目を疑いましたが、雨の中とは言え互いに嫌がる素振りも見せないために……もしやと思い」
「ううむ」
部下であるユーリの報告を聞いた隊長は、まさかこんな報告が来るとは思わず非常に悩んでしまった。一応は、ユーリの報告に間違いはない。確かに二人は、嫌がる素振りも見せずに宿の主人に勧められるがまま宿へと入った。その時点でどんな宿であるのかに気が付いていなかった点を除いてだが。
しかしこんな報告、ともすれば一大スキャンダルである。自分一人でどうにか出来る内容でも無く、そもそも本国に報告するような事でも無い。とんでもない情報を手に入れてしまったと隊長は、頭を抱えた。
「……あの少年の身元は、わかるか?」
「いえ、それまでは……ただ、あまり良い噂は、聞きませんでした」
「……よし、わかった。この事は、一先ず俺とお前で止めておけ」
「よろしいのですか?」
「ああ、少なくともこの時点でシャルロッテ・フェニヤが我々の邪魔をする意思が無い事は確かと思う」
100%とは言えないが、夜若い男とラブホテルに行くような状況で帝国の暗躍にいちゃもんを付けるような人間が居るとは、あまり思えない。だが、警戒も怠らないのがくせ者揃いの部隊を束ねるこの隊長である。
「万が一と言う事もある。明日本隊も到着し行動を起こす際、その後彼女が我々の邪魔をするようであれば、この情報が利用できるかもしれない」
「……まさか、人質として男を捕えるのですか!?」
「馬鹿を言うな!」
ユーリの言葉に隊長は、強く一喝した。
「そんな外道の手は使わん。とは言え、正々堂々とも言い難いがな……」
「と、言うと」
「うむ、どう言う事情か知らぬが、宿へ入ったのは確かだ。しかもラブホテル、この事をちらつかせるだけで相手は、多少動揺するだろう。見られていたと言う事にな」
「な、なるほど」
「まあそんな事態にならぬ事が一番だがな。ユーリ、今日はご苦労だった。明日に備えてもう休んでおけ」
「はっ!! 失礼いたしますっ!!」
敬礼し挨拶を終えると、ユーリはテントから出て行き兵達の共有テントへと戻っていった。一人残った隊長はと言うと、一つ大きなため息を吐いた。
(まさかこの様な事態になるとはな……シャルロッテ・フェニヤも、どう言った事情か知らぬが、迂闊なものだ)
だがそれもまだ年若い女の行動と思えば、不思議と可愛げのあるように思えた。とは言え一つの騎士団を率いる騎士団長としての立場を考えれば、まず”迂闊”と思ってしまってもしょうがないだろう。
また、もう一つ。例の少年の事。
(彼がシャルロッテ・フェニヤのただの情夫と言う事は……いや、無いな。アレが情夫? 馬鹿々々しい……)
一度のみの邂逅、その時の少年の戦士としての片鱗をこの隊長は、僅かに感じ取っていた。今になって調査すべきは、シャルロッテ・フェニヤではなく、あの少年の方であったかもしれない……そう思わずにはいられなかった。
(……明日は、荒れるかも知れんな)
今はまだ穏やかなアウギュステの海の音に耳を傾け、隊長は一人明日の混乱を予感していた。
流石に全キャラ喋らせる事が難しくなってきました。それでも自分なりに頑張りたいと思います。
何時も感想、また誤字報告ありがとうございます。励みになります。
些細な変更ですが、アウギュステ編が思った以上に長くなったので、一つの章として区切りました。
サプチケ、ラスティナ。