俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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ユーリ君の若さは眩しい

※ユーリに関しての過去、父との会話。またチェインバースト等の戦闘での描写で独自の解釈、設定を入れているのでご注意下さい。


帝・国・魂

 ■

 

 一 来ないぞ、ポセイドン! 

 

 ■

 

「ほれ、水や。飲みや」

「あざっす」

 

 机に置かれたコップに注がれている水を一気にあおる。溺れて多量に飲み込んだ海水で焼けたようになっていた俺の喉が癒されていくのがわかる。

 

「おかわりお願いします」

「はいはい、ちょっと待っとれ」

「こちら、軽いお食事も用意しておりますので~、ご自由にどうぞ~」

 

 飲み切ったコップをカルテイラさんがお盆にのせて回収していく。シェロさんまで一口サイズのサンドウィッチやらを用意して机に置いていく。

 唐突にカルテイラさんやシェロさんがいるし、しかも場所はアウギュステのビーチにある海の家。

 今や見るも無残に崩壊しただの瓦礫の山となったカルナ砦。そこから離れた場所にある観光地「ベネーラ・ビーチ」に建つそれは、シェロさんが最近オープンさせたと言う。

 そして少し前まで帝国と星晶獣ポセイドンとぶつかり合っていた俺達が、ここに居るのは単純な理由。ポセイドン待ちである。

 

「傷癒えるまでって……何時だよっ!? じきにとか言ったじゃん、どんだけ時間かかってるんだっ! 砦からビーチまでの移動だって結構な時間だぞ!? 途中来るか用心してたのにとんだ拍子抜けだよ!」

 

 こんな傷直ぐ治るし、待ってろオラ(意訳)と言って消えたポセイドン。やつの襲来に備えてカルナ砦から移動して、途中バウタオーダさん達とも合流した俺達だが、待てど暮らせど野郎こやしねえ。何でかわからず困っていたら、何処から現れたのかシェロさんとカルテイラさんのお二人。事情を知っていた二人は、一度体を休めろと言って俺達をこの海の家に連れてきた。

 

「いやはや~お元気そうで何よりです~。帝国に連れてかれたとカルテイラさんから聞いた時は、とっても心配しましたよ~」

「あ、どうもご心配をかけてしまい……カルテイラさんも俺の場所を皆に教えてくれたそうで」

「見捨ててもおけんやろ。気になって近くまで来たけど、結局難儀な事になっとるなあ……」

 

 ほんとにね。本当は来て欲しくないけど来なきゃ困る星晶獣。放っておくと何しでかすかわからんからな。

 

「これは、奴が想像した以上にジータによる攻撃の傷が深かったようだな」

「ぱぱっと治せよ星晶獣……」

「いやいや主殿、星晶獣とは言え想定以上の深手を負えば立ち直りも遅くなると言うものだ。しかも相手はあのジータ、あいつも耐えたほうだぞ」

「あ、後から来るタイプの……痛みだったんだね……うぅ……」

 

 セレストの例えを聞いて、俺の脳裏にポセイドンが海の底で打ち身に悶える姿が浮かんだ。

 

「まあふぉのほかげで、ふぁたし達も休息ふぉ取れているのだし……はむ、いいじゃないかふぁんちょう」

 

 口いっぱいにサンドウィッチを入れたゾーイが話すが、何言ってるかわからん。まず口の中の物を無くしてから喋りなさい。かわいいけど。

 

「しかしそろそろ来てもおかしくは無い……ルリア」

「はい、ポセイドンの気配は徐々に強くなっています」

 

 ルリアちゃんはそう言うが、流石にそろそろ来てくれないと拍子抜けと言うか、いい加減にしろってなる。

 

「それで、相棒。実際来たらどう相手するんだ?」

「それな」

 

 正直な話あいつ倒す事は、そう難しい事じゃない。一度直接話してハッキリわかったがポセイドンの強さは、決して弱くは無いがマグナガチ勢よりは低い。比較対象がおかしい点に目を瞑ったとしても星晶戦隊動員した場合勝率は、殆ど10割いってるだろう。

 そしてぶっちゃけ、ジータ居るし。

 だが問題が一つ。

 

「魔物出し続けてんだよなあ……」

 

 ポセイドンが海に消えて以降海岸から魔物が現れ出した。明らかにポセイドンが生み出した魔物達で一部観光地では、パニックが起こってしまった。ここベネーラビーチもその一つ。一等地であるベネーラビーチに建つシェロさんの海の家に客が俺達以外いないのはそれが理由だった。

 直ぐにアウギュステ軍が動き魔物を駆除し住民と観光客は無事であったが、海からはまだまだ魔物が現れている。それらは軍が相手をしているが海から生まれる魔物の数は無尽蔵と言っていい。何時かはこちらが倒れる。

 海の家周辺に現れたのは、俺達で殲滅した。だがこのままでは島中が魔物で溢れちまう。

 

「思ッタヨリ傷ノ治リ遅クテ焦ッタカ……時間稼ギダナ」

「それに戦う時も魔物を出してくるだろ。ジータや俺達に対して一体で戦うわけねえし。あっちもジータのヤバさは、身に染みて分かったろうからな」

「ヤバさってなにさっ!? 失礼な!」

 

 ははは、ほざけ小娘。

 

「俺ごとポセイドン吹き飛ばしたの忘れんな」

「ふがっ! は、鼻はちゅままないでぇ~!」

 

 星晶獣ごと助けに来た人間巻き込み事故する奴がヤバく無いとはいわせねえからな。

 

「なんかあんな感じのジータって新鮮」

「俺達じゃああは出来ねえしな」

「オイラは、あっちの方が馴染みあるけどな。ジータの奴普段は無茶苦茶だけど、基本的に兄貴には頭が上がらねえんだ」

「兄は強しってか……」

「その兄は、一回ジータに瞬殺されたけどね……」

「イオ、それは言ってやるな」

 

 聞こえてんですけどねえ、ラカムさん……。

 

「話し戻すけど……魔物の大群が来ると厄介だ。とにかく被害の拡大は避けたいですね。物量で押してくる可能性があるからなあ。なんせ野郎の手駒の元は海水だ。殆どが海のアウギュステじゃあ、この島全部が敵になったようなもんだ」

「となると……魔物の相手をするにしろ、ポセイドンをとっとと倒す。これだな」

「まあそうっすね」

 

 オイゲンさんの言うとおり、結局のところポセイドンをいかに早く倒せるかだ。

 

「ここだけじゃなく島の海岸への住民の接近を防ぎたいな。そこは……シャルロッテさん」

「はい、それは引き続きバウタオーダ殿に頼みます。バウタオーダ殿?」

「もちろんです。軍と連携し住民、観光客の安全はこちらで護りましょう」

「よし、それならこっちに集中できる……」

 

 戦いの場は、こっちで誘導したい。場所によっては、人口の多い場所への被害をかなり減らせる。幸いポセイドンもこちらを意識している。と言うよりも、ユーリ君という少年をだが。

 

「てなわけで、ユーリ君」

「なんだ?」

「君には重大な役目を与えよう」

「は?」

「ポセイドンとの決戦。そのとどめは、君に任す」

「……は?」

 

 俺の言葉に固まるユーリ君、そして直ぐに再起動。

 

「ちょ、ちょっと待て! あんたは、何でそう突然なんだ!」

「嫌だった?」

「嫌とか以前にそんな簡単に決めていいのか!?」

「簡単じゃないさ、むしろ君が最後やらないとだめなんだよ」

「俺が?」

「星晶獣って面倒な奴らでさ……一回戦うってなるとまず戦いは避けられない。逃げれないし、面倒だし、痛いし、怖いし、良い事なんてありゃしない。けど避けられない以上、そこには何かしら意味がある」

 

 意味の無い星晶獣なんて居ない。あんなふざけたティアマト達も存在する意味がある。理由がある。世を司るモノ、概念その物の存在達。神に等しい彼らと剣を交えると言う事は、過程はどうあれ相応の理由がある。

 ……あったはずなんだよなあ、ザンクティンゼル修行時代。そう思わないとやってられん。

 

「ぶっちゃけ俺とジータならそう難しく無くポセイドンは倒せるよ。けど今回の戦いは、それじゃ意味無い。君達親子とポセイドンの因縁、それを君が断つんだ。それが君にも、ポセイドンにも必要な事だからね」

「あんた……」

「それにポンメに息巻いてたじゃないか、親父さんの出来なかった事をやらないと、ってさ」

「……そう、だよな」

 

 携えたままの剣を握る手に力が入るユーリ君。やる気が伝わるぜ、少年。

 

「……迷いが消えたよ。俺は、俺の信じる正義をなす。これ以上帝国が悪にならないために!」

「そうそう、がんばれ男の子!」

 

 決意を新たにするユーリ君の言葉を聞いて、俺も他の皆も納得したようだ。

 

「よーし、その意気だぜ坊主っ!」

「ユーリだけじゃないっす! 自分もがんばるっすよ!」

「そうと決まれば行動だ。流石にポセイドンも傷治ったろ」

 

 シェロさん達の用意してくれた食事でこっちの体力もかなり回復した。あとは決戦である。あと待たせた事も文句言いたい。

 意気揚々と武器を取り海の家を出た。俺は再びここへ戻る。勿論バカンスでだ。今日ですっきり全部片付けて例え一日であろうと俺は遊ぶ、絶対にだ。

 ところで……なーんか忘れてる気がするんだが、気のせいだろうか? 

 

 ■

 

 ニ いっけなぁーい、遅刻、遅刻ぅ! 

 

 ■

 

 ポセイドンとの決戦の地に選んだのは、市街地から離れたとある沿岸部。ここでなら星晶獣が暴れても被害が少ない。アウギュステ軍の協力によって一般人の完全退去が行われ、一等地のベネーラビーチ程で無いにしろ通常なら観光客の姿が見えるこの場所も、すっかり人気がなくなっている。

 

「おいこら、ポセイドンッ!」

 

 大声で海に向かって呼びかけると海面がざわつき出す。

 

「来ます! ポセイドンです!」

 

 ルリアちゃんが叫ぶ。ほどなくしてポセイドンがその巨体を現した。

 

「待たせるな。水神は既に癒えた」

「待たせるな、じゃねーよ!? こっちが待ったわ! 馬鹿か!?」

 

 思わず怒鳴るとポセイドンは、ばつが悪そうに眼をそらした。 

 

「じきに癒えるとか言って、お前どんだけ時間かかってんだよっ!? そっち海に消えてお前かれこれ3時間だぞっ!? そら癒えるよ3時間も休めば星晶獣!! 夕方じゃねーかもう! あと数時間もすれば夜だわっ!!」

 

 数回時間置いて海に声をかけたが反応が無かった時は、流石にキレたぞおい。しかも待ってる間も増え続ける魔物の相手もして……この野郎。

 

「……悪かった」

「わかればいい」

 

 さすがに悪いと思ったのか、ポセイドンも視線をそらしたままだが謝罪した。こっちも休んだ以上これ以上は言うまい。

 

「なあ、あいつって何で星晶獣相手にああも強気にでられるんだ……?」

「相棒は基本的に星晶獣もただの問題児の扱いだからな」

「星晶獣を問題児扱い……」

 

 ラカムさんがB・ビィの説明に呆れている。そうさせたのは、お前達だぞB・ビィ。

 ここで仕切りなおし。

 

「で、今も絶賛魔物生み出し中なわけだけども……まだ怒ってる?」

「愚問、水神の怒りはこの程度では無い」

「ポセイドンッ!」

 

 ユーリ君が前に出てきて叫ぶ。

 

「今となっては俺もお前も、話し合いで気が済むような話じゃない! お前の怒り、俺が全部受け止める! それが俺のやるべき事だ!」

「愚行っ! 人の子が、水神に敵うと思うか!」

 

 お前ジータ見ても同じ事言えんの? 

 まあしかし……久々に星晶獣と戦う事になるな。ザンクティンゼルでは、必ずマグナ戦前に逃げ出しては捕まり気絶させられたが今回はそうもいかない。

 

「裁きの時は今! 水神が鉾の裁きを受けよっ!」

「きます!」

 

 ポセイドンが雄叫びを上げると、その身に海水が変化した巨大な海蛇を纏う。そして海面から次々と魔物が溢れ出てくる。かなりの規模、放っておくと数分でミザレアにまで押し寄せるような数だ。このまま物量で押して最後島を沈める気だろう。だがそうはさせん。

 

「ひゃっは──っ!! 来たぜ、来たぜ大群だぁっ!!」

「ティアマト達は後ろ下がれ! 魔物を一匹も市街地に向かわせんな!」

「マッタク、星晶獣使イガ荒イ奴ダ」

「いいから働け! 一々攻撃の規模がデカいお前らと混戦になると、こっちがヤバイんだよ!」

 

 星晶獣と肩を並べて戦うには、何かと慣れと工夫がいる。俺は嫌々慣れてしまったが他の面子に同じ事をやれと言うのは酷だ。かといって星晶獣と言う強力な戦力を使わない手は無いだろう。控えにあいつらが居ると思えば、かなり安心して戦えるしな。

 

「あとコロッサスは無理すんなよ! 水系苦手だろ!」

「ゴメン(;´・ω・)ミンナガンバッテ」

「大丈夫よ! コロッサスは、後ろで私の活躍見ててよね!」

「イオチャン(*≧ω≦)ファイトッ!!」

 

 魔物相手なら火属性コロッサスも問題無いんだが戦場が海である以上結構キツイだろう。後方支援の方頼むぜ。

 

「ルリア、ビィ君も下がっているんだ!」

「は、はい!」

「私が君達を守るよ」

「パワー特化の実力見せてやるぜ、オリジナル!」

「お、おう……今ばかりはB・ビィのその見た目も頼もしいぜ」

 

 非戦闘員のルリアちゃんとビィは、B・ビィとゾーイが護衛につく。これでまず大丈夫だろう。

 

「前には俺とジータ、それとシャルロッテさんにユーリ君がでる! それ以外は、援護と魔物の相手をお願いします!」

「任せとけ! そっちには一体も行かせねえからよ!」

「団長達も、安心して語り合ってこいっ!」

 

 頼もしい言葉だ。俺の後ろには、ジータ団と星晶戦隊(以下略)がいる。思う存分やるとしよう。

 

「ユグドラシル、頼むぜ」

「────!」

 

 ユグドラシルには、俺達に土の加護を頼む。星晶獣の加護とは、俺達が持つ属性の力を大きく高める事が可能。土を守護するユグドラシルの土の加護は、俺達の土属性をブーストさせる。一人シャルロッテさんは、水属性よりなので加護の力は少ないが元の実力が高いから大丈夫だ。

 

「こ、これは……すげえ、星晶獣の加護ってのはこんなにも力を高めるのか」

 

 見た目には大きな変化はない。だが体に溢れる星晶の力をユーリ君は確実に感じている。

 

「ユーリ君、ユグドラシルの加護でかなり力が上がってるが過信は禁物だ。そもそも自力のブーストだから超人になったわけじゃないよ」

「わかってる。あんた達の足を引っ張るような事はしないっ!」

「ならOK。シャルロッテさんもジータも頼みます。目的は単純、ポセイドンをぶっ飛ばす!」

「了解であります!」

「任せて! ぶっ飛ばすの得意!」

「だろうね。ただ最後とどめは、ユーリ君がやる。俺達はそのお手伝いだ。気合入れてけよ、ユーリ君」

「言われなくても!」

「うっし、なら行くぞ!!」

 

 まずは迫る魔物を蹴散らしてポセイドンに近づく。残りの魔物は皆が相手をしてくれる。

 水神の鉾だろうがなんだろうが、そうやすやすと受ける気はないぞ。

 

 ■

 

 三 三者三様、思いは一つ

 

 ■

 

「シャルロッテさん、右から頼みます!」

「了解であります!」

 

 シャルロッテ・フェニヤは、共に戦っている男を頼もしく感じた。

 自分達の目の前には、褐色の巨人ポセイドンがいる。水の星晶獣、その巨体以上の鉾を持つ水神を前にしても不思議と恐怖は無かった。

 リュミエール聖騎士団団長としての自身の実力に自信があった。だがそれ以上に、その男の存在が彼女に恐怖を抱かせなかった。

 大した装備がある訳では無い。軽装の安い鎧に、シェロカルテが用意してくれた土属性の剣一本。それだけが彼の武器だ。

 にもかかわらず、彼は見事にポセイドンと渡り合っている。鉾より放たれる雷撃もものともせずに戦い立ち向かう。

 一方で口では「ふざけんな」「いい加減にしろ」「殺す気か」と文句を叫び続けている。

 彼と出会ってまだ一週間も経っていない。だがあまりにも彼らしいと思った。その短い期間でも、その愉快な男の人となりを知るには十分すぎた。まさか星晶獣を相手にしている中でこんな事を思うとは考えもしなかった。

 島の危機、そんな中でも星晶戦隊(以下略)団長は、何も変わらないままだった。ただいつも通り文句を言いながら、自分がやるべき事を為す。きっと正義や悪など考えてはいない。彼はただやるべきと思った事をしている。そして、それは正しき事なのだ。

 

「やはり、ジミー殿は心強いであります!」

「そうですかい、っと!」

 

 共に戦って気持ちのいい人物だった。この戦いを終えたなら、リュミエール聖騎士団へまた誘おう。シャルロッテ・フェニヤは強く思った。

 

「ユーリ君、避けろっ!」

「うおっ!?」

 

 ポセイドンがその切っ先に雷撃を纏わせ、巨大な鉾をユーリ達へと向け放つ。団長に言われて咄嗟に迫る鉾から距離を取る。

 

「油断しちゃだめだ! いくら加護あっても、直撃受ければただじゃ済まないぞ!」

「す、すまない」

「動きをよく見るんだ! 威力は凄まじいが野郎は基本大振りの攻撃だ! よく見ていれば避ける事は難しくない!」

「わ、わかった!」

 

 ユーリは、少し前まで敵であった男に強い畏怖の念を持った。

 星晶獣ポセイドンを相手にまるで怯む様子も無く男は立ち向かう。また共に戦うジータも異常な強さを発揮しているが、彼もまた人間としての強さを超えているとしか思えなかった。

 言うなれば、星晶獣──人ならざる者に対しての戦闘プロフェッショナル。通常人間が星晶獣に対してまともに戦おうなどと思いもしない。帝国の様に訓練を積んで装備を整えた部隊が揃って初めて対抗できるかどうかなのだ。だが男は、星晶戦隊(以下略)団長は、それを殆ど個人でやれる実力があるのだ。

 同時に星晶獣との戦いに慣れていない自分を上手くカバーしている事にも気が付いていた。自分一人では例えユグドラシルの加護があったとしても、とてもここまで戦う事は出来なかったろう。

 

「親父の資料に奴は津波も起こせるとあった! 注意してくれ!」

「了解っ!」

 

 ポセイドンを相手にしながらも、ユーリは一人の戦士として今ここで彼と共に戦える事を誇りに思った。

 

「ジータ、加減間違えて島壊すなよ!」

「そこまでやんないよっ!?」

 

 ジータは失礼な事を言う兄へ憤慨した。

 思えば自分が兄と慕う男は、何かと自分へ失礼な事を平気で言う男だと思った。

 確かに自分はちょっと手加減が苦手で周りからは無茶するなと文句を言われる。兄にも昔から怒られる。だが島を壊すほどの事をうっかりやりはしない。精々数キロメートル地面を抉り吹き飛ばす程度だとジータは考える。

 とは言え、今は初めて兄と肩を並べて戦っている事への喜びが強かった。

 幼少の頃から団長は、ジータの事を実の妹の様に可愛がった。“実の”と言う所にジータとしては若干の不満があるのだが、今は横に置くべき悩みである。

 ともあれ姿をくらました両親に代わって世話を焼いてくれた兄へ感謝と愛情、あらゆる念を覚える。そんなジータだがやはり空に旅立つ時には、果たして彼を旅へと誘うべきか悩んだ。勿論本心は共について来て欲しかった。隣に彼がいないと言う事が怖くもあったのだ。

 未だ両親が帰らぬ彼女にとって、家族はビィと彼だけだった。父が自分の前から姿を消したように、自分も兄から離れる事が辛かった。しかし旅立ちの前夜、夢の中嘗て交わした約束を思い出す。

 どちらが先にイスタルシアへ着くか。幼い約束は、その時になって遂に意味を持った。

 次の日、「イスタルシアへ行く」と宣言して彼女はルリア達と共に旅立った。長い空の旅の中、また会う事を信じて。

 流石に数か月経ってから、自分達に負けず劣らず無茶苦茶な騎空団を立ち上げた兄とあんな状況で再会するとは彼女も思いもしなかった事であったが、旅の間に募らせた兄への想いを大いに発散させる事が出来た。

 

「ちゃんと言う事聞けよ! 頼りにしてんだからな!」

「こっちだって、頼りにしてる!」

 

 いつか見た共に空を行く姿。それを今重ねて兄と共に戦う。

 

 ■

 

 四 誰か忘れてませんか? 

 

 ■

 

 今の所悪くない流れだ。

 ポセイドンの強さは、こちらが予想した通りだ。やはり同じ水系でもマジのリヴァイアサンマグナ程強く無い。とは言っても島を落とせる程の星晶獣、油断すれば此方も痛い目を見るだろう。ともかく後は上手く立ち回り続ければユーリ君が居ても問題は無いだろう。

 

「愚行っ! 水神の力、この程度と思うかっ!」

 

 と、思った途端にこれかよ! やはり星晶獣、生半可な攻撃じゃ怯まないか。

 

「刮目せよ! 水神たる我が怒り! 我が力を!」

「ジミー殿、ご注意を! ポセイドンの様子が変わりました!」

「集合、集合! ユーリ君、ジータシャルロッテさんの後ろに来いっ!」

 

 ポセイドン周りの海面が勢いを増して盛り上がってきた。これはかなりデカイ攻撃が来るに違いない。

 俺もユーリ君達もシャルロッテさんの下に集まり防御体勢に入る。

 

「頼みますシャルロッテさん!」

「了解であります! しかし完璧には防ぎ切れません、余波にご注意をっ!」

「了解した!」

 

 100%攻撃を防げる等早々やれる事ではない。例え半分でも星晶獣が放つ攻撃の勢いを削ってくれるなら十分過ぎる。

 

「受けよ、水神が力の奔流を! 水底で、己の愚行を悔いるがいい!」

 

 ポセイドンが咆えると盛り上がっていた海面がうねりを上げ津波へと変化する。そして一気に此方へと大きな津波が押し寄せてきた。

 

「いかん、これはきつそうだ」

 

 波がでかすぎる。俺達が助かっても他の奴らが流されるだけじゃなく、最悪波が近くの市街地にまで届いてしまう。

 

「どうするんだ!?」

「障壁で勢い抑えられても残りが怖い……シャルロッテさんで半分、俺とジータで半分! やるぞ!」

「おっしゃあ!」

「シャルロッテさんは、そのまま障壁頼みます!」

「はい! ケーニヒシルト!!」

 

 シャルロッテさんが左手を突き出すとその前方に蒼の障壁が張られる。それは魔晶とやらで強化したポンメの攻撃も防げる強度を誇る。

 そして展開された障壁に向けて一気に津波が突撃した。

 

「くっ! これは……想像以上に、重いっ!」

「俺が支える!」

「た、助かります!」

 

 ポセイドンの生み出す津波に障壁ごと後ろへと押されるシャルロッテさん。それをユーリ君がどっしりと構えて後ろから支える。ユグドラシルの加護を受けた今の彼ならば、それぐらいの事は出きる。

 

「いいぞユーリ君、ちょっとの辛抱だ! 構えろジータ、重ねて行くぞ!」

「あいさー!」

「俺に合わせろ、どっちかが強すぎても弱すぎても駄目だからな!」

「それってどのくらい?」

「六割半っ!」

「了解!」

 

 まだまだ津波の勢いは強い。波は今障壁で二つに割れ出している。だがそれを全部吹き飛ばす。

 

「ドライブッ!」

「バーストオォッ!」

 

 エッジ部分では無く、剣の腹ですくい上げるように剣圧を飛ばす。上手く俺とジータの剣圧が同調したらしい、二つ同時の剣圧が互いに真直ぐ前方へと進み波を巻き込み吹き飛ばしていく。

 

「なっ!? うぐおぉ──っ!?」

 

 そしてそのまま波と一緒にポセイドンへと直撃。ポセイドンを後方へと吹き飛ばした。

 

「す、すげえ……全部吹き飛ばしちまった」

「ふう……ジミー殿、ジータ殿流石であります」

「シャルロッテさんにユーリ君もありがとうね。上手く行って良かったよ。ちょい加減ずれると波の方向が変わるだけで海に戻らねえからな」

 

 どうしても押し返した波の反動があるが海岸までも行かないだろう。あのまま押し寄せられるよりは遥かにいい。

 

「ほらほら、ちゃんと私も加減できたし!」

「はいはい」

「プー! ちゃんと褒めてっ!」

「まだそう言う状況じゃないの」

「じゃあ、ポセイドンは……」

「まだまだ。ユーリ君、星晶獣はしぶといんだぜ?」

「オオオオオォッ!!」

「……ね?」

 

 吹き飛ばされたポセイドン、カルナ砦の時と違い今度は即立ち上がる。ダメージは与えたがまだまだ動けるようだ。いかにも偉丈夫な見た目どおりかなり打たれ強いな。

 

「愚行を……我は、退かぬ!」

「だろうね……皆、気合入れ直してけ。星晶獣との戦いは、相手が倒れる寸前が怖いんだ」

「あんた、流石に慣れてるな」

「真に遺憾ながらな」

 

 星晶獣8体と戦いもすれば慣れざるをえないよそりゃあね。

 

「例え我の鉾を払い、波を砕こうとわが身は不滅! 裁きは下す!」

「怒りは尤もだが、その矛先ってもんを考えろ! アウギュステの人達は関係無いっての!」

「水神の怒り、神の神罰! それは人の子全てに下す! 神は裁くのだ!」

「だーめだ……いよいよ頭に血が上りすぎてる」

 

 問答で如何にか出来るとは勿論思っちゃ無いが頑固な事だ。

 

「体力は削れてる。隙が出来たら全員で大技叩き込む……それで決めれるはずだ」

「となると、ポセイドンへ接近する事になるぞ。大丈夫なのか?」

「簡単とは言えないけどね。そこはまあ……気合だよ」

「急に根性論かよ……」

「そうなって来るんだよ、星晶獣との戦いって……あーめんどくさ」

 

 下手すると運要素もあって、マジどうしようもない時もあるんだからな。気合でどうにかなる余地があるだけまだマシだ。

 

「オオッ!」

「うおっと、やばっ!? 何かしてくるぞっ!」

「全員、息の根を止めてくれよう!」

「ちょ、ガボッ!?」

「ジミ―ど、ウゴボボッ!?」

 

 ポセイドンが鉾を振るうと突如俺達の足下の海面が膨らみ全身を包み込んだ。急な事に俺もシャルロッテさん達も対応できず包み込まれてしまった。

 

(これは、ちょっと……やばいっ!)

 

 これはただの水じゃない。異常な弾力のある水球は、いくもがいても水をかくのみで意味が無く脱出が出来ない。物理的な水では無く星晶獣の力で生み出された特殊な水の牢獄か。剣を振るっても同様で、中身がかき回されるだけ。さっきの様に吹き飛ばす事が出来ない。

 シャルロッテさんとユーリ君も息ができずもがいている。

 

「ンガァババッ!! アッババッ!! ボッババ、バベエェェッ!!」

 

 ……ジータは狂ったように暴れているが意味が無いようだ。物理的な手段での解除が出来ないじゃないか……。

 

「最早容赦せぬ! 貴様等もろとも、島を葬ってくれるっ!」

 

 そしてポセイドンの野郎はなんか鉾に力込め出してるしいっ! 島もろともとか言ってるしいっ!! と言うか、容赦なんて最初からなかったでしょ!! 

 ヤ、ヤバイ……! 体が自由なら防げ無い事も無いが、このままだと島がヤバイ! 全部が崩壊しないとしても、この一帯が吹き飛んでしまう。そうなったらいくらジータが居てもどうしようもない! 

 

「人の子等に裁きをっ!」

「アッ(´゚ω゚)タイヘンダッ!!」

 

 俺達のピンチにコロッサス達が気が付き駆け出した。だが距離が遠い、このままでは間に合わない。

 

「おいおい、あれヤベエんじゃねえのか!?」

「……イヤ、大丈夫ダ。アレヲ見ロ」

 

 ポセイドンが完全に鉾をこちらに向けて投げる直前、海面下に巨大な姿が見えた。巨人ポセイドンよりも遥かに巨大なそれは、見覚えがあった。

 

「その身を穿つ! 食らうがいいっ!」

『ガアアアアアアァッ!!』

「なっ!?」

 

 まさにポセイドンが鉾を投げようとした瞬間、海中から突如巨大な物体がその身を現しポセイドンの身体へとグルグルと巻き付いて行った。そしてそんな事が出来るのは、アイツしかいない。

 

「ぬうっ!?」

『小童が……我が守護するアウギュステ、みすみす堕とさせると思うか?』

 

 威風堂々、威厳たっぷりにポセイドンに言い放つのは、我が団星晶獣(笑)第二位リヴァイアサン・マグナだった。

 ……ただお前、なんか赤くね? 

 

 ■

 

 五 赤いギャラ〇スの類似品

 

 ■

 

 超ひっさびさに姿を見せたリヴァイアサン。かなりピンチのタイミングで現れてポセイドンの動きを封じてくれた。そして何故か奴の身体が異様に赤い。殆ど朱色だった。夕日が原因では無いだろう。

 

「貴様、リヴァイアサンか……っ!?」

『如何にも、我も貴様を知っている。同じ島、水の星晶獣ポセイドン。尤も姿を互いに姿を見せたのは初めてか』

 

 マグナ形態のリヴァイアサンの力は、例えポセイドン程の大星晶獣であってもそう簡単に破れない。鉾こそ手放していないが奴の身体のきしむ音がここまで聞こえる。

 

「ボボバ、ガババッ!!」

 

 だがそれよりもこっちを助けて欲しい。俺だけでなくユーリ君達も窒息しそうなのだ。

 

『暴れるな、今開放してやる』

「ガバ……ッ!?」

 

 水球の中でもがいていたら更にもう一体のリヴァイアサンが目の前にあらわれた。こちらは、この島のリヴァイアサンか。

 

『ふんっ!』

「ごはぁ……っ! ぜーっ! あ、くっそ鼻に……水が……」

「ぷはあっ!!」

「げほ、げほ……っ!」

「あだあっ!」

 

 リヴァイアサンが唸ると俺達を包んでいた水がはじけ飛んだ。飲んでしまった水を吐き出し必死に空気を吸う俺達。一人暴れ続けてたジータが解放されたのと同時に地面に叩きつけられていた。

 

「た、助かりました……」

「まったくだ……ありがとよ、リヴァイアサン。ただ来るの遅いぜ」

『すまぬ。だがこっちも何かとあってな……先日海であちらの我と休んでいたら、何故か間欠泉が吹き出し大変だったのだ。我は大丈夫だったが、あちらの方は全身に熱湯を浴びてしまってな……動くに動けなんだ』

「……もしかしてあいつの体のが赤いのって」

『うむ』

 

 間欠泉って……アウギュステでそんな場所あるのか? そんな異常な事早々起きるはず……。

 

「あ」

「げほ、げほ……え、なにお兄ちゃん?」

 

 あ、あん時か!? ラブホ事件!? あり得る、ジータのアレの所為なら十分に可能性がある……っ! 

 

『敏感肌に熱湯直撃で死ぬかと思ったぞ……おかげで未だにヒリヒリして、我の身体の火照りが取れぬわあっ!』

「な、なにをおぉっ!?」

 

 なんかウチのリヴァイアサンがポセイドン締め付けながら吠えてる。

 熱湯浴びて赤い体のリヴァイアサン。こんな事ってある……? 

 

「褐色マッチョの星晶獣が海辺でがんじがらめ……ふむ」

「ル、ルナール先生……インスピレーションが……」

「……後でじっくり考えましょう!」

「うん……!」

 

 ……あの二人、たぶんろくでも無い事話してるな。距離あるから聞こえないけど。

 

『人に利用された怒りは我もわかる。だがこの島を沈めさせるわけにはいかぬな』

「リヴァイアサン! 貴様ほどの星晶獣が人に服従するかっ!」

『服従ではない、彼らは仲間だ。そしてここは我の故郷。そして愛しき者達の住処。護る理由は充分だ。貴様も水神を名乗るならば少しは慈悲を持て、貴様を汚した罪人はここにはおらぬ』

「愚行っ! 神の怒りは無慈悲! リヴァイアサン、たとえ貴様相手でも我は引かぬっ!」

『ぬうっ!』

 

 ポセイドンが手に持ったままだった鉾に雷を纏わせリヴァイアサンの顎へと突き出す。咄嗟にそれを避けたリヴァイアサンだがその際体が緩みポセイドンが抜け出した。

 

『顕現間もない小童が……』

「おい、リヴァイアサン!」

『すまん、放してしまった』

「いやそれはいいよ。ただもう時間をかける気も無い。野郎に一気に接近してトドメを入れたい……頼めるか?」

『容易い事よ……』

「させぬっ!」

 

 ポセイドンが俺達の行動を阻止しようと再び鉾を構えたが、リヴァイアサンが余裕の態度のまま鼻で笑ってた。

 

『ふん……ついでに見せてやろう。我の新しき力をな』

「は?」

『カアアアアッ!!』

 

 なんかリヴァイアサンが吠えたかと思うと、ポセイドンの周りに幾つもの水柱が立ちだした。

 ……てか、熱っ!? ここまで熱いっ!? 何これ、熱湯じゃねーか!? 

 

「オオオッ!? こ、これは……ぐああっ!?」

『体の色が変わっただけと思ったか? 偶然だが我に”熱”の力が新たに宿った……炎は無理だが熱だけならばコロッサスにも負けぬ。例えポセイドンでも、四方から熱湯を浴びせられては苦しかろう?』

 

 割とえげつない事するなコイツ……。そして熱湯を浴びて熱湯を操る術を得たとか無茶苦茶だなお前。

 

「だがチャンスだ! 奴の動きが止まった。頼むぞリヴァイアサンズ!」

『一纏めか……まあいい、行くぞ!』

『我らの波を堪能しろ』

 

 リヴァイアサン達が力を籠めると俺達の立つ浅瀬に水が集まり一気にポセイドンまで筋の様に四つの水流が放たれた。

 

「ジミー殿これは?」

「速攻でポセイドンに近づける……最高速の水の道! 乗りますよシャルロッテさん、ユーリ君、ジータ!」

「こ、これに乗るってのか!?」

 

 リヴァイアサン達に制御されている波の道、強い水流の勢いにユーリ君が多少怖気づいてしまう。

 

『安心しろ、沈まぬように我らが運んでやる。お前達の動きに合わせる』

「うだうだしてる暇も無い、まあやらなきゃ俺が倒しちゃうけど?」

「……誰がやらないって言ったよ!」

 

 発破をかけたら闘志をむき出しに乗り出す。若いって素晴らしい。

 

「シャルロッテさんも」

「何時でも! 星晶獣との戦い、元より無茶など承知の上であります!」

「ジータは……聞くまでもねえか」

「何でも来い!」

 

 ならばやる事は一つ、迷う暇なし! 

 

「行くぞおっ!」

 

 俺が最初に水流へと飛び乗った。普通なら沈むはずだがリヴァイアサンの力を受けて水の中に体が沈む事なく俺はそのまま水流の上を滑るように移動した。そして次々ユーリ君達も飛び乗る。

 

「おっとと、乗れたであります……!」

「全員準備はOKか!」

「問題無いっ!」

「全員全力全開だっ! ユグドラシルの加護の力出し切るぞ!」

「りょうかーい!」

 

 走るより遥かに早い速度でポセイドンへと接近する。向こうもそれに気が付き熱湯で焼かれた体を何とか動かし鉾を握る。

 

「まだ……まだだっ! まだ我は倒れぬっ!」

「いいや、倒すね! 俺達がな!」

 

 鉾を突き出せば届く距離、ポセイドンが俺に向かって鉾を突き刺して来たが、俺を運ぶ水流は生き物のように動きそれを避けた。そしてそのままポセイドンの右側へと回り込む。

 

「最初は俺だっ!」

 

 戦っている最中に奥義を放つための力は十分に溜まった。後はそれを立て続けに放つのみ。

 

「くらえや、渾身の地烈斬!!」

「ぐうぅっ!?」

 

 大地を割く程の力を込めた斬撃、これでポセイドンの脚を完全に止める。膝はつかないがグッと奴の体を揺らしバランスを崩せた。

 俺はそのままポセイドンから離れるが、間を置かずに俺が乗った水流とすれ違うのはシャルロッテさんを乗せた水流だ。

 

「二番手は自分が!」

「頼みます!」

 

 バトンタッチ! 

 

「小癪……っ!」

「星晶獣ポセイドン、貴方の怒りを罪なき民達に向けさせるわけにはいきません!」

「人の子が、水神に意見を……っ!」

 

 ポセイドンが怒りを込め鉾でシャルロッテさんを薙ぎ払おうとする。だが自分に鉾が当たる直前に左手のバックラー自体に障壁を纏わせ瞬間的に巨大な盾を作り出す。

 

「ケーニヒシルト!」

「ぬぐぅッ!?」

 

 流石に体格差があり打ち弾く事は出来ないが、迫る鉾の勢いを利用し障壁にぶつけると巧みに別方向へと”流し”てみせた。十分凄すぎる技術と度胸だ。

 

「剣の誓いを今こそ! ノーブル・エクスキューション!」

「ガアァッ!?」

 

 攻撃を逸らされ隙が生まれたポセイドンの胴体に向かい、青色の閃光がシャルロッテさんの愛剣、リュミエール聖騎士団団長の証であるクラウ・ソラスより凄まじい勢いで放たれた。直撃を受けてたまらずポセイドンも仰け反りもだえる。

 

「次、ジータ殿!」

「まっかせてっ!」

 

 また更にシャルロッテさんの水流とジータの水流がすれ違いバトンタッチ。手に握る剣に並々ならぬ力を込めたジータがポセイドンの後方から迫る。

 

「き、貴様等ぁ……っ!!」

「喧嘩する相手間違えちゃだめだよポセイドン! そう言うの八つ当たりって言うんだからね!」

「愚行……! 水神を侮辱するか!」

「これはお説教って言うの! 星晶獣だからって容赦しないから! 頭冷やしなさい、レギンレイブ!」

「ガハ……ッ!?」

 

 背中へ強烈な一撃を食らいエビ反りになるポセイドン。その顔は空を仰ぐ形になる。そしてポセイドンは視線の先に自身の頭上を行く一筋の水流を見た。

 

「最後だ! バッチリ決めろユーリ君っ!」

「任せろおぉっ!!」

 

 俺の声に応えてユーリ君が水流から飛び降りポセイドンへとむかいダイブする。全身に土属性のオーラを纏いユグドラシルの加護の力を最大まで高めている。

 

「貴様ぁ……っ!」

「ポセイドンッ!」

 

 ユーリ君から溢れる力を感じてついにポセイドンが両手で鉾を持ち横に構え咄嗟に防御の体勢をとった。だがユーリ君はそれにかまわず自由落下の速度でポセイドンへと迫って行った。

 

「ユーリ殿! 貴殿の想いを乗せてっ!」

「ユーリ君! 迷わずぶかませえっ!」

「そうだユーリ君、やっちまえええっ!!」

 

 シャルロッテさん、ジータ、そして俺も叫んだ。

 これが最後の攻撃。

 この戦いは彼によって終わらせる。

 

 ■

 

 六 絆

 

 ■

 

「まだお前は、始まったばかりだ」

 

 帝国軍へと見事入る事が出来た時、父と夢を語り合った時の言葉。

 ユーリはまるで走馬灯の様にその時の言葉を思い出していた。

 憧れの父の姿、帝国軍人、それとなる事がユーリの夢だった。だが帝国軍へ入隊した今その夢は終えた。

 では、今は──。

 

「夢など一つの通過点でしかない。どんな夢も追い求めれば何時しか叶う。そして人は、また新たな夢を追う。ユーリ、お前の新しい夢はなんだ?」

 

 真剣な父の眼差しは、今でもよく覚えている。軍属の者としてでなく、父としての言葉だった。

 しばし言葉に詰まったユーリだったが、ある想いが芽生えた。それは夢と言って良い息子としての想い。

 

「親父、俺は──俺は、親父と何時か一緒に戦いたい」

 

 それを聞いたユーリの父は、一瞬目を見開き驚いた様子だったが直ぐはにかみながら軽く、撫でるようにユーリの頭を叩いた。

 

「ならば強くなれ! 俺は強いぞ! その俺の背中を任せられるぐらいには成ってもらわんとなっ!」

 

 期待を込めた言葉を受けてユーリには新しい夢が出来た。

 ──今、その父はいない。

 だが、彼の手には剣があった。亡き父より送られた剣が。

 

(親父、俺は……親父がやろうとした事を、やれなかった事をやり遂げる! 親父が信じた正義をっ! だから……だから親父!)

 

 彼にとって誰よりも偉大な父は、何よりも大きな勇気をユーリへと与えた。

 

(俺と一緒に戦ってくれっ!!)

 

 一際剣が輝いた時、ユーリはついにポセイドンへと刃を振り下ろした。

 

「ヌオオオオッ!?」

「これが俺の、”俺達”の……帝国魂だあああっ!!」

 

 ユーリの攻撃を鉾で受け止めたポセイドン。だがユグドラシルの加護、それだけでは無い大きな力を纏ったユーリの一撃はポセイドンの鉾を二つに切り、その勢いのまま縦一文字にポセイドンを切り裂いた。

 この場には、団長達による激しい三つの攻撃エネルギーが蓄積されていた。そして四つ目、ユーリの攻撃によってそのエネルギーは一気に解放される。

 

「弾けろっ! ディアストロフィズムッ!!」

「グッ!? ガアアァァ──ッ!?」

 

 ポセイドンを巻き込み土属性の攻撃エネルギーが激しく炸裂した。海面だけでなく海底、大地を巻き上げる強烈な爆発。鉾が折れ、力を消耗していたポセイドンにそれを防ぐ術は無く、そして爆発が止む。

 奥義連続攻撃によって生まれる連鎖反応(チェインバースト)。それが終わった時、激しい爆発によって海底が姿を見せ、その中心には額当ても真っ二つとなり大地へと落ち、満身創痍となり膝をつくポセイドンの姿があった。

 

 ■

 

 七 暁に終える

 

 ■

 

「ぜっはー……っ! はーっ! ……ああっ!」

 

 全ての力を出し切ったユーリ君が剣を支えにして立っている。俺が急いで彼の元に駆け寄ると、後ろで魔物達の相手をしていた皆も急いで駆けつけた。

 

「やったのか兄貴!?」

「多分な……それより、イオちゃん! ユーリ君にヒール頼む!」

「了解、任せて!」

 

 星晶獣の加護を受けてそれを一気に使えば、例え鍛えた兵士でもかなり反動がある。特に彼は最後の攻撃で自身の力も全て出し切ったのだ。体力気力共にもう空っぽだろう。

 

「大丈夫?」

「あ、ああ……大丈夫だ……なんとかな」

 

 イオちゃんのヒールを受けてなんとか体力だけは僅かに回復されたユーリ君。支えさえあれば歩く事が出来るようだ。

 

「ポセイドンは……」

「……安心してください、ポセイドンの怒りが鎮まって行くのを感じます」

 

 ルリアちゃんがポセイドンの意志を感じ取り告げる。それに応える様に膝をついたままポセイドンが顔を上げた。

 

「膝を、つかせるか……この水神に……。見事だ……人の子よ……」

「ポセイドン……」

「人の子よ……貴様に免じよう。裁きはここで下すまい。だが……」

「わかっているさ……。二度とあんたを人間のエゴに巻き込んだりしない……」

「ならばよい……」

 

 ユーリ君の言葉を聞いて満足したのか、ポセイドンは安らかな表情を浮かべて光となって消えていく。そしてその断片が、ルリアちゃんの中へと消えて行った。

 

「……もう、大丈夫です。ポセイドンは、私の中で静かに眠っています」

「そっか……ああ、終わったああぁっ!」

 

 ルリアちゃんの言葉を聞いてどっと疲れが溢れて来た。思わずその場に倒れ込む。

 

「なっがい一日だった……帝国に捕まり、ジータに砦とポセイドン諸共吹き飛ばされ、海で溺れて、さっきも何だかんだで死にかけて……」

 

 俺のアウギュステバカンス計画……。

 

「マア無事荷物モ戻ッタ。良シトシヨウ」

「勝手に良しにすんな」

 

 ティアマトめ……張り倒したいがそんな気力は無い。

 

「お兄ちゃん、お疲れ」

「ジミー殿、今日はゆっくりとお休みください」

「二人も……お疲れ様……」

 

 明日も明日でやる事がある。今日はもう帰って寝よう。

 つまり……俺は疲れたのである。

 




やっとポセイドンを倒しました。次で今度こそアウギュステ編は終わらせます。つまり、団長達アウギュステ滞在予定最終日です。

初めにも書きましたが、ユーリ君に関しての過去、父との会話は自分の妄想です。ただ同じ軍に入った者同士、何か会話したのでしょう。語り合って、何時か酒も飲み交わす事もあったはずでしょう。

100連来ないよ。まあ最終的にやれるから良し。

カルテイラのホワイトデー……あれ、ちょっと……あれ、なん……もうがっつり狙ってるじゃん……。


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