俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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長くなったんで、二話分割。続きは今日中に投稿します。


終わりの前夜、続く苦労

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 一 終えてアウギュステ

 

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 星晶獣ポセイドンによる被害は、【ジータと愉快な仲間たち団】、【星晶戦隊マグナシックスとB・ビィくんマン&均衡少女ZOY】の二つの騎空団、そしてリュミエール聖騎士団によって防がれた。

 ポセイドンによって呼び出された魔物の群れによって負傷者は出たものの死亡者無し。戦闘能力の高い星晶獣が怒りに任せ島を破壊しようとした状況を考えれば奇跡的な結果と言える。

 海より現れた魔物の被害は、市街地よりも沿岸部周辺にある村、観光地であるビーチなどに多く見られ荒らされた場所の復興作業が急ぎ進められている。これもまた両騎空団の活躍によりかなり被害が抑えられたため、復興完了もそう遠くないだろう。

 今回のエルステ帝国の行いによって危うくアウギュステは消滅の危機に直面した。無事防がれたものの、帝国による大きな被害が今回で二度目である事を鑑みてアウギュステは、今後更に強くエルステ帝国に対して警戒する事になる。また島の一部地域には、帝国軍の駐留区域が以前から存在していたが、必要最低限、政治的対話が可能なだけを残しその範囲も大幅に縮小された。

 大海のアウギュステ、そこは全空から見ても有数の水の島。今回の事件を受けさらに水系統の星晶獣の存在の恐ろしさ、そして偉大さを人々は知った。何よりもポセイドンの動きを止めに現れた巨大な星晶獣リヴァイアサンの姿。海の如く青いはずの姿を赤く染め上げ現れたその巨体は、はるか遠くの村からも見る事ができた。

 アウギュステを沈めんとするポセイドンへ怒り現れた姿と言われ、元よりリヴァイアサンへの信仰が深いアウギュステで更に信仰が深まったと言う。真実は間欠泉による火傷なのだが、ギュステの住民がそれを知る事は無いだろう。ポセイドンを止めに現れたのは事実なので、態々それを訂正する者もいない。

 結局のところ、星晶獣が暴れたにもかかわらずアウギュステは日常を取り戻したのであった。

 

 ■

 

 二 一夜明けて

 

 ■

 

 泥のように眠って一夜明け、俺は再びシェロさんの海の家にみんな揃って訪れた。昨日の騒動でここも少なからず被害が出ているので多少は店の修理を手伝おうと思っての事である。

 

「すみません~態々手伝ってもらって~」

「いいっすよ。早く直ってもらわないと次来る時俺が遊べないんで」

 

 ポセイドンと戦う前に現れた魔物は片づけたが、その後現れた魔物の襲撃に遭った様でアウギュステ軍とバウタオーダさん達リュミエール聖騎士団の別動隊が頑張ってくれたが海の家の床や壁やらがボロボロになっていた。

 

「────?」

「そうそう、そのぐらい。なるべく丈夫なので」

「────!」

「そうそれ。ありがとね」

 

 俺達の仕事はそれを直す事。ユグドラシルにいい具合の木を生み出してもらってその場で伐採する。即木材に加工してそれを使う。

 

「コレドコニ(・ω・)ハコベバイイ?」

「あっちの桟橋とコテージ用、あれも直すからそこ。オイゲンさん達がやってるから運んどいて」

「(*`・ω・)ゞデシ」

 

 コロッサスが張り切って多量の木材を運んでいく。海の家と言うが宿泊施設も完備されたシェロさんの海の家。海上に浮かぶコテージが幾つもありポセイドンの起した津波の影響があって全滅は免れたが数棟傾いてしまった。あちらは傾きを直したり補強で済むのでコロッサスがいれば問題ないだろう。また海の家とここを訪れる騎空艇を結ぶ桟橋も壊れたのでそこも直す。

 しかし店の方は特にキッチン周りの被害が問題だ。ここは主に木材以外が使われているので俺達で直せない。厨房の裏の壁に大穴が開いているのだが、ここは仕方なく臨時で今の所木板で塞ぐだけである。実に不格好だがその内ちゃんと直すだろう。ようは営業に問題がなければいいのである。

 

「ふんふん! ふん!」

「はい、ごくろうさん。ジータ次はこのサイズで切っといて」

 

 ユグドラシルが生み出した木をその場で切り出すのは、力有り余るジータの役割である。

 

「むぅ……あたしも釘打ったりしたい……」

「ジータ、お前は釘打つな。壁が吹き飛ぶ」

「吹き飛ばないよっ!?」

「いやジータだと店ごと吹き飛ばすんじゃねえのか?」

「言える」

「ビィまでっ!?」

 

 飽きたのかさっきからジータがどうにか自分も釘打ち作業に参加したそうにしてる。だがこいつに迂闊に大工仕事させると最悪店その物が消えて無くなるのでやらせない。大人しく木材加工してなさい

 

「プイプイプー……」

「オラ、膨れてねえで次切ってくれ。床だけは先に塞がないとなんだからな」

「はーい……」

 

 やれやれ、どう頑張っても細かい仕事出来ないと言うのに……いい加減向き不向きと言うのを理解してくれ。

 

「団長、次はどこを打つ!」

「出入口終ったの?」

「おう!」

「なら客室の床見ておいて。あそこも壊れてるなら張りなおすから。こっちは俺達でやる」

「おう! 釘打ちも語り合いだぜ!」

「それはねえよ」

 

 フェザー君は元気だなあ。ジータと違い加減と言うものをまだ知っているので板張り、釘打ちを任せられる。

 

「オイ!」

「あー?」

 

 屋根からティアマトの急かすような声が聞こえてきた。

 

「屋根ノ木材マダカ!」

「そろそろ隙間埋めちまいたいんだけどよ!」

「このままじゃ雨入っちまうぜぇ~?」

「待ってろ、今作ってる」

 

 店の屋根にはティアマトとB・ビィ、ハレゼナ達がいる。穴の開いた屋根を閉じる作業を飛べる奴と体が小柄で軽い奴に任せた。屋根は板以外にヤシの葉やらを敷き詰めた物もある。これもユグドラシルに頼んで作り出してもらい俺達で加工して直ぐ使う。

 

「隙間作んなよー、雨一滴入れるわけにいかねえんだから」

「ワカッテル、イイカラ次ヨコセ」

 

 できた材料をポイポイ上に投げてティアマト達に投げ渡す。

 このような具合に海の家の修復は急ピッチで進められる。幸いにも水回り、配管や調理用のコンロ等は無事なので床や壁の修理で済むのはよかった。この調子で修理が進めば明日には営業再開できるとシェロさんは言う。俺はもう明日帰るけどね……。

 

「ジミー殿!」

「おや?」

 

 床に板打ってたらシャルロッテさんが現れた。バウタオーダさん、そしてコーデリアさんにブリジールさんもいる。

 昨日戦いの後リュミエール組は、一時シャルロッテさんと合流していたが無事来てくれたようだ。

 

「どうもです」

「昨日の事でお疲れでしょうに、もう復旧作業でありますか」

「リュミエール聖騎士団の人達も、人助けに方々駆け回ってるそうじゃないっすか」

「困る者あれば駆けつける。それがリュミエール聖騎士団であります!」

 

 えっへんと胸を張るシャルロッテさん。かわいい。

 

「しかし……はたから見ると何と言うか……そう言う業者かと思いました」

 

 バウタオーダさんが感心したように、また呆れたように話す。

 その場で木材加工をして、即修理作業に移る我々を見てそう思うのも無理はないかもしれない。

 

「まあうちって何でも屋みたいな所あるからなあ」

「こんな技術を何処で?」

「故郷じゃ若いの少ないんで村でも何かと任されまして……大工の手伝いやら、特にユグドラシルとかが来て今みたいな事出来るようになったもんで尚更……」

「団長さんって出来ない事とことん無いですか?」

「いや、さあ……出来ないこと態々しないんで自分じゃなんとも……」

「団長職、戦闘、剪定、料理、掃除、資金管理、団員の世話……あれ、団長さん休んでるです?」

 

 アウギュステ滞在はその休みのはずだったんですよ。

 

「何でもでき過ぎるのも困りものだね、団長」

「まったくもって……」

 

 それこそ“よろず屋”である。

 

「まあ出来ないより良いでありますよ。ところで……全員揃っているわけじゃないのですか?」

「ああはい」

 

 この場にいない面子は、ほかの用事で街に行かせた。ラムレッダなんかはそもそも酔ってるのでここでの作業には向かない。彼女とフィラソピラさん、ゾーイ、ルドさん、ルナール先生達はアウギュステを出る時のための買い出し任務だ。こちらも重要な仕事である。

 あと何故かラカムさんがエンゼラを見たいと言って操舵担当のセレストを連れて抜けている。どうもセレストがラカムさんにエンゼラについて聞きたい事があるようで彼女からお願いしたらしい。操舵士と言う話だから気になる事でもあるのだろうか。

 

「みんなー、そこら辺で休憩しましょっ!」

「せんぱーい! 食事の用意できたっすー!」

「ご飯沢山ありますよー!」

「飯も食わんと力でんでー」

 

 元気な声が聞こえてそちらを向くと、大皿を持ったイオちゃん、ファラちゃん、ルリアちゃん、カルテイラさん、そして……。

 

「団長殿! 休憩にいたしましょう!」

 

 やたら爽やかなユーリ君がいた。

 

 ■

 

 三 決別ではなく、旅立ち

 

 ■

 

 ポセイドンとの戦いを終え、力を使い果たし疲れ切ったユーリ君。俺に肩を支えられて移動していた時の事。

 

「ポセイドンを降したか……」

「あんたは……」

 

 俺達の前にたった一人、帝国兵の男が現れた。男は他の帝国兵と違う鎧を身に着けた男、ユーリ君の部隊の隊長だった。

 皆が警戒したが彼から戦いの意思を感じなかったため治める。

 

「一人っすか?」

「ああ……俺一人だ」

「帝国は皆逃げたと思いましたけど」

「俺だけは残った。ポセイドンとお前達の戦いを報告せねばならないからな」

「下手すりゃ巻き込まれて死ぬと思わなかったんすか?」

「任務で死ぬならばそれまでだ。軍人とはそう言うもの……任務で、ならばな」

「た、隊長……?」

 

 俺と隊長さんの会話に気が付いたのか、何とか自分の力で立ち上がるユーリ君。

 

「何故、ここに……」

「裏切者の始末、と言えば納得するか?」

 

 堂々と言ったなあ、まあ言い方から冗談ってのはわかるが。

 

「そうか……もう帝国軍人じゃないもんな」

「ああそうだ。お前はポンメルン大尉に逆らい危害を加えた。その時点で除隊、名実ともに裏切者、反逆者と言うわけだ」

「た、隊長さんユーリは……っ!」

「ファラちゃん」

 

 ユーリ君の事を庇おうとしたファラちゃんを止める。不安そうにしているが何も言わず首を横に振る。今はただ見守るのが良い。ユーリ君にとってそれが良い。

 

「……」

「後悔しているか?」

「まさか」

 

 ユーリ君は清々しい顔で応える。

 

「あの時あの選択をしなきゃ……それこそ後悔したはずです」

「そうか……」

「ただジックとハーパー、あいつらともう馬鹿やれないのは寂しいかな……」

「ふっ……お前達はいつも一緒に組んでいたからな。大抵はお前がまとめ役だった」

「組ませたのは隊長ですよ」

「お前ならあの二人をまとめる事が出来ると信じていたからだ。おかげで俺の負担が減った。それも今日までだがな……」

「隊長……」

「ユーリ、兜をよこせ」

 

 隊長さんは手を差し出してユーリ君の兜を渡すように言った。彼の兜はポセイドンとの決着と同時に壊れ今はユーリ君が手に持っている。

 

「ポセイドンとの戦いしかと見届けた。あれほどの戦いだ。裏切者の兵一人死んだ事にしても誰も疑問に思うまい……」

「隊長あんた……」

 

 この隊長さん、本当に帝国軍人なのだろうか。あまりに気持ちのいい人間過ぎる。ポンメとは大違いだ。

 

「……隊長。最後に、この兜を渡す前に俺の我が儘を許してください、誇りある帝国軍人として……最後のケジメをつけます!」

「ふん……とことん面倒事が好きな奴だ! いいだろう、最後まで見届けてやる! それが隊長としてやれる最後の事だ!」

「ありがとうございます……!」

 

 壊れた兜を無理やりかぶりユーリ君が突然俺と向かい合った。

 

「団長……頼みがある」

「……んぁ、俺?」

「ああ……俺を、俺をあんたの騎空団に入れてくれないかっ!?」

「え?」

 

 話の流れが俺に向いた。

 

「都合のいい事を言ってるのはわかってる! 俺はあんたにとんでもない迷惑をかけてしまった……! あの雨の日、ラブホテルでの事と言い、街での誤解と言い……っ!」

 

 それはもう言うなユーリ君、もうラブホテル事件は忘れたいんだから。

 

「なのにあんたは、俺とポセイドンが因縁を断ち切るための決着をつける助けをしてくれた。その時わかったんだ! 帝国を止める事が出来るのは、あんた達しかいないと!」

 

 多分ジータ一人いればいいと思います。

 

「だが俺自身も強く無きゃいけないんだ……これ以上帝国に悪事を働かせないために、帝国を悪にしないために……そのために、あんた達の団に入りたいんだ! 今より強くなるために!」

 

 ま、眩しい……っ! ユーリ君の若さと青春力が俺に突き刺さるっ! 

 

「だから……今は!」

 

 そして何かと思ったらなんとユーリ君は剣を構えた。

 

「団長、俺を殴れっ!」

「おい、死ぬぞ」

 

 冷静な言葉がB・ビィから漏れていた。

 

「俺は今一度この帝国の兜をかぶってあんたと戦う……きっとあんた相手じゃ無事じゃあ済まないだろう……そして帝国兵としての俺は死ぬっ!」

「いや、ユーリ君……君今満身創痍……」

「さあ! 全力で来い、手加減無用だ!」

 

 えぇー……。いやユーリ君が仲間になるの自体は一向に構わないんだけどさ。むしろ欲しい。かなり真面目な戦士枠。しかも男性。ロリコン疑惑を払拭できる人材だ。

 だからってねえ……全身ボロボロのユーリ君を殴るって……多分手加減すると怒るよなぁ……。

 

「お兄ちゃん、嫌なら変わろうか?」

「ユーリ君殺す気か」

「殺さないよ!?」

 

 ダメだ。ジータにだけはやらせられん。手加減を知らない全空No1のこいつにだけはダメだ。

 

「……わかった。気合い入れろユーリ君」

「ああ!」

 

 こうなってはしかたない。それに俺も男だ。若い魂に応えぬわけにもいかん。ただこう言うのってフェザー君とかの役目と思う。

 

「歯ぁくしばれええっ!」

「うおおおおっ!!」

 

 俺に向かって突進して来たユーリ君。形だけのものではない、完全な殺気をもった本気の剣、だからこそ俺も応えた。

 

「ふんっ!」

「────っ!?」

 

 彼の剣を避けてからの右フック。手応えはあった……だからこそ「しまった!」と思った。兜は首から反動で吹き飛びユーリ君も地面に倒れ伏した。やばいと思い駆け寄ろうとしたが、ユーリ君が呻きながら地面から立ち上がろうとする意志があった。思わず立ち止まった。

 

「くぅ……ぐうっ!」

 

 そして、ユーリ君はついに立ち上がる。口からは血を流し、頬は腫れている。それを見て隊長さんが深く唸り頷いた。

 

「満足したか」

「はい……燃え尽きました」

「そうか……」

 

 隊長さんが地面へと落ちたユーリ君の兜を拾い上げた。

 

「団長殿、此度の事済まなかった。そして……ユーリを頼む。兵として、教えられる事は全て教えたつもりだ。きっと君の力になるはずだ」

「ああ……あんたも、そのなんだ……こう言うのも変だけど、頑張れよ」

「ふっ……そうだな。頑張るとしよう」

「隊長……」

「……ユーリ、強くなれ! お前は若い、だからこそまだまだ強くなる。俺よりも、お前の父よりも必ずな! 鍛錬を休むなよ! 去らばだ!」

 

 そう言って隊長さんは静かに去って行った。その背中は、俺からも大きく見えた。そしてユーリ君にとっては、もっと大きな……まるで父の様な。

 

「隊長……! 今まで、お世話に……お世話に、なりましたっ!!」

 

 深く、深く頭を下げる。隊長さんの姿が見えなくなるまで、ユーリ君はずっと頭を下げていた。彼の頬を伝う熱いものは、もっとしょっぱいアウギュステの海に消えた。

 そんな事が有り入団を果たしたユーリ君。ともあれ死闘&俺のパンチで重症だったのだがイオちゃんやフィラソピラさん達による早めのヒールを受けて一日寝たら元気になっていた。若いってすごいね。

 とは言っても無理はさせられない、だがどうにか自分も復旧作業を手伝おうとする彼には昼飯の調理任務を与えてイオちゃん達についていかせたのである。

 

「どもども、ありがとね」

「この程度! 部隊でも野営での食事をよく任されました。次は何をしますか!」

「あー……取り敢えずユーリ君は休んでなさい」

 

 この爽やかボーイめ。

 

「私達じゃあんまり力仕事出来ないからね。このぐらいやらないとね」

「はい! 皆でサンドウィッチも作ったんですよ!」

「うちもやれる事言うたら食い物用意するぐらいやからな」

 

 想像したよりも沢山の料理が机に並べられる。しかしこっちも人数が多いのとフェザー君なんか良く食うので問題なく消えていくだろう。

 

「カタリナ先輩、これ自分の作ったやつっす! どうぞ食べてくださいっす!」

「ああ、ありがとうファラ」

 

 子犬かな? いやファラちゃんです。彼女の言っていた「先輩」とやらがあのカタリナさんとわかった昨日から彼女はずっとカタリナさんにつきっきり、と言うか後ろからついていく。尻尾があればブンブン振り回しているだろう。

 しかし食い物を用意してくれるのは大変助かる。朝から初めて丁度昼時、腹減った。

 

「シャルロッテさん達も一緒に。話したい事もありますし」

「よろしいのでありますか?」

「さっき椅子も机も直したんで休む分には問題ないですよ」

「本当にジミー殿、何でも屋であります……」

 

 それはもういいっす。

 

 ■

 

 四 【正義審問】

 

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「やれやれ、オイラ喉カラカラだぜぇ……」

「オリジナル、リンゴあるぜ食うか?」

「ああ、サンキューB・ビィ……ってえ! だからオリジナルって言うなって!」

 

 ……ふむ。

 

「あうあぁ~なんだぁ……髪がごわごわってするぅ~」

「ふむ、潮風の所為だな。海ではどうしてもな」

「むうぅ~なんか気持ち悪い……」

「帽子を被って予防もできるけどね。ハレゼナちゃんは帽子あるけど、髪が長いから潮風受けちゃったのね」

「髪ヲ結ンデオケ。潮風ヲ受ケル面積ヲ減ラセル。後デケアモシテヤル」

「先輩、後で自分も先輩の髪の毛をケアするっすよ!」

「いやファラ、気持ちはありがたいが、それは自分でやるよ」

「ケヒ……海って不思議なんだなぁ、ヒヒッ!」

 

 うむ。

 

「え、コロッサスあなた今どうやって食べたの?」

「ン? (*´-ω・)コレヲコウ……パクッテ」

「口……に入れたの? え、口?」

「なー! 思うよなー! うちも船で一緒に飯食っとる時ずっと不思議やったんや! 何度見ても鎧に消えてるようにしか見えへんし! そのくせパクパクモグモグ咀嚼音聞こえるってどうなっとるん!?」

「チャント(*´ω`)カマナイトネ」

「そもそもどう消化しとんのや……」

「……まあ、星晶獣だしね。考えても無駄か」

 

 ふむふむ。

 

「リヴァイアサン……マグナだったか? お前さん、体まだ真っ赤だが平気なのか?」

『今日一日海で冷やせば流石に治る……力を得たのはいいが、やはり我は海の青でなければな』

「ははは、ちげえねえ! 赤も悪くねえが、アウギュステの守護神の色とは違うわなっ!」

 

 ふーむ……。

 

「では~お湯が枯れる様子は無いと~?」

『うむ。何がどうなってるのか我にも分らぬがな、何でか間欠泉は出続けてる。人の出入りはまず無い場所だ。ただ魔物が多いぞ?』

「そうですか~、温泉付き海の家二号店を建てたいのですが~……専用のビーチを作るので魔物を寄せ付けないようにしてもらう事は出来ないでしょうか~」

『まあ間欠泉の所為で迂闊に近づけないところだったからな。人の手で整備して自由にできるスペースをくれると言うのなら構わんが……ビーチコンセプトの要望は出すぞ?』

「それは勿論です~。可能な限りそちらの要望には応えさせていただきます~。なにせ、アウギュステの守り神なのですから~」

『……何と言うか、凄いなハーヴィンの商人よ。我を相手に平然と商談って』

 

 用意された食事を食いながら休息時間での団欒中。……うん、なんか皆それぞれ濃い話してるなあ。特にシェロさん。

 

「団長殿、自分はもう動いても問題ないと思うのですが」

「ユーリ君、ヒールかけたと言っても全快じゃないんだからね。少し休んでなさい」

「しかし……」

「動きたいなら飯食った後軽く語り合うか? 腹ごなしに」

「拳か……自分は剣以外はあまり……」

「やめなさいっての」

 

 この二人性格の組み合わせが良すぎる。良くも悪くも……。どっちも真直ぐストイックだからほっとくとずっと語り合ってそうだ。拳で。

 

「あとその敬語辞めて。昨日まで割とタメだったじゃん、歳もそう違わないのに」

「いえ! もう自分は星晶戦隊(以下略)の団員、それも新参者! そう言うわけにはいきません!」

「いや、違和感がさあ……」

 

 ……徐々に戻すか。ティアマト達の相手してたら段々素も出るだろ。

 

「お兄ちゃん、はいあーん!」

「……それとだね」

「あーん!」

「さっきからジータは、何しぐえぅっ」

「あーん!!」

「はわわ、ジータ! お兄さんのほっぺにサンドウィッチ押し付けちゃだめですー!」

 

 先ほどから執拗に俺の口の前にサンドウィッチやらクッキーやらを突き出して来るジータ。やだよ、あーんなんて、しないよ俺。

 

「むー! ザンクティンゼルじゃ何時もやってたじゃん!」

「してねえよ」

「してた!」

「してねえっつの」

「してたもん!」

「だから、してねえっつの……してたのは」

「はむっ!」

「逆だっつーの」

「はわわ!? ぎゃ、逆あーんです!」

 

 皿から一個小ぶりのサンドウィッチを手に取って大口開けてるジータの口に放り込んだ。一瞬驚いた様子のジータだったが直ぐに満足したのかニコニコして大人しくなった。

 

「はあ……ああ、すみません。それで……」

 

 話をリュミエール組に移したかったのでジータ達との会話を切り上げたのだが、ふとコーデリアさんを見ると俺を見ながら口を開けていた。あまり見せない表情なので呆気に取られていると、途端にコーデリアさんはワタワタと顔を赤くした。

 

「コーデリアさん?」

「……あ、ああっ! いや、その……う゛、う゛んっ! 昨日の疲れが残ったのか、はしたないのだが、欠伸を少々……いや申し訳ない」

「大丈夫でありますか、コーデリア殿?」

「ご心配無く、もう大丈夫です……ええ、ええ」

 

 うーん? なんかあんま見ない反応だが……。まあ本人が大丈夫って言うならいいけども。それに俺も色々話したい事がある。そっち優先、まずリュミエール聖騎士団の件に関しては聞いておきたい。

 

「昨日の今日ですけど……シャルロッテさんの事ですが、どうなりそうですかね」

「まあなんとも……それこそ一日しか経ってないので自分からも詳しくは」

「ですよねえ……」

 

 結局帝国との戦いに参加させてしまったシャルロッテさん。恐らくポンメの方から既に帝国本国にその事が伝えられ、直ぐにリュミエール聖国にも伝わるだろう。そうなると何度も言われたように現状友好的な関係であった二国は対立、最悪アウギュステの様に戦争なんて事もあり得る。帝国は手が早いからな。

 そうなってしまえばリュミエール聖騎士団団長のシャルロッテさんの立場も危うい。本人はそれも承知でもう団長職を辞する気満々のようで俺が困る。

 

「改めて、ほんと申し訳なかったです!」

「いえいえ! もうそれは終わった話、頭を上げてください!」

 

 深々と頭を下げるとシャルロッテさんは、ワタワタと慌てて俺の頭を上げさせる。しかし何度でも謝罪しとかないと気が済まぬのでもう何度か謝っとく。

 

「それで、コーデリアさんの……その、【正義審問】の方は」

「それはね……」

 

 やおらコーデリアさんは立ち上がる。それを見てシャルロッテさんも立ちあがりクラウ・ソラスを引き抜き皆に見えるように掲げて見せた。俺が驚き絶句していると、コーデリアさんは雄々しく言い放った。

 

「聖王陛下の偉大なる御名の下、リュミエール聖騎士団が【正義審問】に則り改めて、神妙に貴君に問わん」

「……」

「貴君にとりて、正義とは何ぞや。その碧き剣に誓い、返答なされよ」

 

 ……え、今ここでするんすか!? と、思うがとても言える雰囲気じゃない。二人は元よりブリジールさん、バウタオーダさんも真剣な面持ちで見守っている。思わず姿勢を正してしまった。

 

「自分にとって、正義とは……」

 

 迷いの無い表情でシャルロッテさんが口を開いた。

 シャルロッテさんの【正義】との出会い、故郷で出会い命を助けられたリュミエール聖騎士団の騎士。そこから生まれた正義への憧れ、そして熱意。それを彼女は粛々と語る。思わず周りの面々も会話を止めて耳を傾けた。

 

「あの時の騎士達の姿は……今でも強く覚えているであります。あの出会いが自分の正義の歩みの始まりでした。あの方達のように、次は自分が誰かを守れる者になろうと……そう強く思いました。そんな気持ちが、ただ雪降り積もる故郷で多くのハーヴィン同様商いを学ぶだけだった自分を変えたであります。ペンを剣へと持ち替えて、挫けそうになっても只管に……きっと皆にも知ってほしかったからであります。助けてもらった時の嬉しさ、感謝……そして感動を。自分があの騎士達の姿を見てそう感じたように、自分もあの騎士達のように正義を信じていれば、誰かが自分を見て同じ思いを感じるはずだと……。そう、繋がるのであります。助け合いの輪は、途切れる事無く……初めは小さく細い正義の想いも、幾つも紡ぎあい大きな輪となって広がるのであります。ここにいる皆が正に、昨日あの場で一丸となりポセイドンへと立ち向ったように」

 

 かつてと今、そしてこれからの事。それらを思いながらシャルロッテさんが話す。見た目通りの少女の様に、年相応の女性を思わせ、偉大な騎士の威厳を持って。

 

「だからこれからも、自分は清く、正しく、高潔に……自分の信じる正義を貫くであります。今回の事でリュミエール聖騎士団にいられなくなっても、その信念が変わる事は無いのであります。立場や力が正義なのでは無い、正義とは……常に尊き御心と共にあるものでありますから」

 

 俺の中の全空の住民が総立ち、スタンディングオベーションしている……。こ、こんな素晴らしい人を俺を助けに来たせいで騎士団辞めさせるなんて出来ない。この人は騎士であるべきだ。シャルロッテさんのためにも、他のリュミエール聖騎士団の騎士のためにも。

 

「貴君の正義、しかと拝聴した」

 

 そしてコーデリアさんは、その場で頭を垂れ忠誠の形をとった。

 

「貴方は清廉を忘れてなどいない。我らリュミエール聖騎士団が誇る団長殿にほかありません」

「コーデリアちゃん……っ」

 

 コーデリアの言葉を聞いてブリジールさんが感極まって目に涙を浮かべている。

 

「これは……つまり、あれですかね? シャルロッテさんにはお咎めは……」

「咎めるべき事も無き者をどう咎められようか。清廉潔白とは正にこの事。本国へもありのまま伝えるだけだよ」

「……うん、ならよかった」

 

 緊張の糸が切れ椅子にズブズブと沈むように腰を深くした。他の面々も同様に長く深いため息やらをついていた。

 

「う、うう……シャルロッテ殿! 貴方の言葉、深く感銘を受けました! 帝国の正義を盲目的に信じていたのが恥ずかしい……っ! 隊長にも正義を振りかざすものではないと度々言われ、自分もそうあるべきと思いつつ、やはり帝国軍人としての誇りが……」

「俺の心にも強く響いたぜあんたの言葉……っ! どうだ、もっと熱くなるために語り合わないかっ!?」

「ストップストップ、二人とも君熱くなるな」

 

 えらい感動したのかユーリ君が男泣きに熱く語っている。フェザー君は瞳に炎を宿して拳を握る。暑苦しいよう、もう水でもかけてやろうかな。

 

「しかし驚いた……突然始めるんだもの」

「はい、私もびっくりしました……」

「すまない団長殿、そして皆も」

「実は……自分が希望した事なのであります」

 

 照れくさそうにしながらも、シャルロッテさんがどうして行き成り【正義審問】をここで始めたのかを話し出した。

 

「昨日の戦いを経て、皆がどれほど素晴らしい方達なのかをしりました。だから自分の正義の志を知ってほしかった……そしてジミー殿には、見届けてほしかったのであります」

「……そっすか」

 

 一週間程度で妙に信頼を得てしまったものだ……。まったくもって、まったくもって……まったくもって……なんにも、言葉が浮かばんわ。ちくしょう、嬉しいじゃんか。

 

「だけどリュミエール聖国には、当然昨日の報せが行くだろ? 大丈夫なのかい?」

 

 俺も先ほどから心配している事をオイゲンさんが代わりに聞いてくれた。

 

「それに関しては、何とかして見せよう。リュミエール聖騎士団遊撃部、最後の切り札としてシャルロッテ団長の潔白を証明して見せるよ」

「自分もとことんシャルロッテ団長は間違った事をしてないと証明するです!」

「ええ、私も部下達も力になります。皆最後は迷う事無く昨日の作戦に参加したのです。それに島の危機を知った上に見過ごしたとあれば、それこそリュミエール聖騎士団のモットーに反します」

「コーデリア殿、ブリジール殿、それにバウタオーダ殿も……み、皆自分の様な団長のために……」

 

 なんと美しき騎士団の結束であろうか。清く、正しく、高潔に。それをモットーとする騎士団と言うのはやはり本物だ。力になれるかわからないが、俺だって協力を惜しまないぞ! 

 

「まあ、身長を伸ばしたい……と言う理由だけは報告するのに抵抗がありますが」

「はうあっ!?」

 

 あ、そこはもう聞いたんですね。なんか連日の騒動で有耶無耶になっていた気がしたが流石にシャルロッテさんも話したか。

 

「まああくまで目的は『部隊視察のための国外活動』と『自己修練』。その点を強く上手く強調し報告すればなんとかなるだろう」

「偶然にも我々の部隊がいたので部隊視察の点は嘘になりません。我々も視察を受けた事を証明すればいいでしょう。とは言えそれで誉れ高きリュミエール聖騎士団の団長職を休みがちになっては困りますね」

「けど自分もとことん気持ちわかるです。ハーヴィンだととことん困る事多いです」

「うぁうあうぅ~……」

 

 反論の余地が無いシャルロッテさんは、耳を小さな手で塞ぎながらワタワタとしていた。カワイイかよ……。そして先程までの感動的な雰囲気は四散霧消した。尤も嫌な空気じゃない、何と言うか緩い居心地がいい感じだ。

 

「おーい! 坊主いるかぁっ!?」

 

 和んでいたら店の外からラカムさんの声がした。セレストを連れてエンゼラから戻ってきたのか。しかしどうも俺を呼んでいるようだった。飲みかけのコップを置いてラカムさんの所へと向かう。

 

「どうした、んす……か……?」

「あ、ああ」

「ぉう……うぎゅぅ……ううっ!」

 

 ラカムさんとセレストのそばに行くと、非常に気まずそうなラカムさんと涙を流し嗚咽するセレストがいた。

 なに、え? どゆこと? 

 

「あーなんだ……前はゆっくり見れなかったが改めてエンゼラ見せてもらったよ。中古って聞いたけど悪くねえ、良い船だった」

「……そりゃよかった」

「う、うう……うじゅ……おうぅ……っ!」

「ただ、な……そのー」

 

 最初にエンゼラの事を褒めてくれるのだが、とにかく隣の泣き続けるセレストが不穏すぎて気になる。

 超絶ウルトラ嫌な予感がした。

 

「……なんかありました?」

「ああ、そのな……落ち着いて聞いて欲しいんだけどよ」

「はい……」

「エンゼラなんだが……このままじゃ、最悪飛べなくなるぞ」

「……は?」

「ごめ゛ん゛な゛さ゛い゛ぃ゛~~~~っ!!」

 

 衝撃的な言葉が聞こえた気がした途端セレストがその場で座り込んで泣き叫んだ。

 え? 

 

「……え?」

 

 え? 

 

 ■

 

 五 飛べねえ船は、ただの船

 

 ■

 

「竜骨に数か所深い亀裂が入ってた。このままずっと飛ばしてれば最悪空中で分解しちまう」

「あー……」

「他の場所にも亀裂、破損が多い。まだ確認できてねえが海面より下、ようは水中に被害が多そうだ。見えねえ場所だから気が付かなかったんだな。こっちはまだ小さな傷だが、それだってその内大事故につながるかもしれねえ」

「あー……」

「でだな」

「あー……」

「……聞いてるか?」

「あー……」

「あーダメだ。相棒放心しちまってる」

「ジミー殿……なんと、声をかけていいのか……」

「兄貴……」

 

 あー……。

 

「マッタク……イイカゲンニシロッ!」

「ギャバンッ!?」

 

 は、腹に激痛が……っ!? 

 

「ソロソロ現実ニ戻レ」

「ティ、ティアマトか……何時もながら、もうちょっと優しいやり方にしろ……」

「イイカラ、話ヲチャント聞イテロ」

 

 あー……仕方ない、現実を見よう……。

 

「すみません、一応話は耳に入ってました」

「そうか……まあ気持ちはわかる。突然だからな」

「ようは、つまり……エンゼラに割と深刻な傷が沢山あって……」

「早く直さねば、エンゼラは崩壊する、か……」

「ソ(;ω;*)ソンナァ」

「──!」

 

 そう、エンゼラがやばい。マジでヤバい。

 どうも昨日戦いが終って帰ってからどうも違和感を感じたセレストが、今日改めて操舵士であるラカムさんに相談して色々と確認をしてもらったら判明した。

 

「陸から見た感じ、傷自体は古くなかった。騎空艇の停留地区だから海底に岩やサンゴ礁はねえ、あっても取り除かれてるはずだ。だから擦ったってわけでもねえだろうな。第一ぶつかってりゃ誰か気が付いたはずだ」

「となると原因はなんでしょうか……」

「いろいろ考えられるが、劣化で限界が来たのか、着水時に衝撃が入って今になって亀裂が走ったのか……」

「ごめ゛ん゛な゛さ゛い゛ぃ゛──っ! わ、わたしがぁ……ちゃ、ちゃんと操縦できてれば……ご、ごんな゛ごと、にばぁ゛……っ!」

「あ、いや! まだお前の所為と決まったわけじゃねえよセレスト! 俺も水の中じゃ傷の確認は上手くできねえからよ」

「け、けど……それいがい考えられないし……うぐぅ……」

「セレスト、多分君の所為じゃない。ほら、鼻チーンッてして」

「うじゅ……チーンッ! ……うぅ……!」

「ほら、服が涙と鼻水で汚れちゃうわ……あんたいい顔してんだから、そんなギャグキャラみたいに泣かないの」

 

 セレストはさっきから責任を感じてボロボロに泣いている。ゾーイとルナール先生が隣について慰めているが一向に泣き止む気配はない。

 買い出し組も戻ってから俺達全員でエンゼラに一度戻った。なんにしても実際に調べてみない事には始まらない。

 

『今戻った』

「おう、ありがとう」

 

 海からマグナの方のリヴァイアサンが省エネモードで現れた。今エンゼラは迂闊に飛ばす事が出来ないため、特に傷が酷いとされる船底部をラカムさんでも詳しく調べる事が出来ない。そのため海に浮かべたままで水中からリヴァイアサンに問題の傷を確認してもらった。

 

『言われた箇所を水中から確認したが……確かに幾つか亀裂があった。そこの操舵士の言う通り岩やなんかでの傷ではないな』

「やっぱり私のせいだああぁぁ────っ!!」

『落ち着け……』

 

 かなり情緒不安定になったセレストがまた泣いてしまった。リヴァイアサンは呆れた様子である。

 

『着水時の衝撃と言う話もあるが、我はそうも思えぬ』

「するってーと?」

『エンゼラは元々アウギュステの様な水の豊富な島向きの船だ。水の加護もされて調査船としても動いていたと言う話もある。それだけに丈夫な船だ。それに中古ではあるがよろず屋の手でレストアもされていた』

「はい~、中古とは言えお客様に不良品なんて売るわけにはいきませんから~」

 

 俺に船を売ってくれた(厳密には、ばあさんが手配したのだが……)シェロさんもエンゼラの異常とあって話に混ざってくれている。

 

「団長さんに下した際は、殆ど新品同様だったはずです~」

『ああ、それは間違いない。あの日我々も隅まで確認したからな。だから多少着水に失敗したとしてもあそこまで一気に傷は入らんはずだ』

「……要は?」

『あれは魔物の仕業だ。それも無数のな』

「魔物だあ?」

 

 リヴァイアサンの見解を聞いてオイゲンさんが怪訝な表情を浮かべた。

 

「ここは騎空艇の停留許可がある地区だぜ? エンゼラぐらいの船に傷をつけれる魔物は出ないはずなんだがなぁ」

「そもそも魔物が人も居ねえ船を襲うかあ?」

『無論知っている。だが忘れたか、昨日は事情が違った事を……』

「……もしかしてだけど」

「あ! ポセイドンですか!?」

 

 ルリアちゃんが気が付いたらしい。そうだ、昨日はポセイドンの手によってアウギュステ中の海から海水を元に魔物が生み出され続けていた。その出現場所はバラバラ、だからこそ早急な解決が望まれたのだ。

 

『野生の魔物と違ってあれはただ島に被害を出す目的で生み出された魔物だ。手あたり次第暴れて船に被害が出ても不思議じゃない。水中に入った部分に深刻な傷が多いのも、水生の魔物がいたからだろう。ここ周辺で魔物が暴れてなかったか軍に確認を取れ、おそらく相当数の魔物が居たはずだ』

「だとしても、ピンポイントにエンゼラだけが狙われたのは……」

『そこはお前の運の無さだ』

 

 OH……。

 

「そ、そのだな……傷は深いが何も直せねえってわけじゃねえからな? そう落ち込むなよ」

「……修理ってどこで」

「アウギュステにも腕の良い職人はいるから、俺知り合いで良きゃ紹介してやってもいいが……」

「しかしこれは~……いっそ再レストアか、オーバーホールさせてから強化した方がよろしいかもしれませんね~……」

「確かにな。お前さんの騎空団ってのは他と違って異質過ぎっからなあ……星晶獣8体の旅に耐えれる船ってなるとこのまま普通に修理してはい終わり、ってわけにもいかねえかもしれねえ」

「それにですね~、団長さんの事ですので、今後また仲間が増えると思いますから~お部屋や設備の拡張工事もおススメ致します~」

 

 ラカムさん達による意見がどんどん出てくる中、その意見に確かに……と、思う一方で俺には最大の懸念がある。

 

「それってお値段は……」

「まあ、そりゃ……安くはねえよ」

「修理にしてもこの傷の数では~……どうしても、それなりのお値段になるかと~……」

「あ、お兄ちゃんしっかり!?」

「兄貴ぃーっ!?」

「膝から落ちて行ったな……」

「燃え尽きてるわね……かわいそうに……」

 

 カタリナさん達の声がまるで遠くから聞こえてくようだ。

 それなりのお値段、お値段……何ということだ。ここに来て出費を強いられる事になるとは……。今回のごたごたではあまり金を使わなかったと安心したのに……。

 な、何とか金を使わない手は……あ! 

 

「そうだ、ユグドラシルに海の家みたいに補強してもらうのはっ!?」

「────!」

 

 こ、これは妙案ではないでしょうか!? ユグドラシルもそれだ! って感じで同調してくれた。

 

「いや、止めた方が良いと思うぜ」

「え」

「──!?」

「今日みたいな海の家の修復とか陸の上の建造物なら問題はねえが、騎空艇ってのは想像以上にデリケートだ。翼、装甲、装飾に至るまで全部含めて上手く飛ぶように考えられてる。星晶獣とは言え素人が下手に手を加えると余計に危険だ。流石にお前も騎空艇の知識は無いだろ? もし弄って重量のバランス崩すと横転する可能性もある」

「私もおススメは出来ないわね。そもそもユグドラシルは土系統でも大地よりの星晶獣、木や蔦を生み出してもいるけど、あれはどちらかと言うと遊びが入ってるから……命にかかわる騎空艇の修理は止めた方が良いわ」

「なんて……こった……」

「────!?」

「ああ、また倒れた」

「今度は膝が折れたように……」

 

 ユグドラシルが慰めてくれているが、そんな声も聞こえないようだ……。出費……修理費用だけでも厳しいのに、改修ともなると……借金……。

 

「もう団長きゅんの精神がボロボロにゃ……」

「ここに来て彼にとってはあまりに酷な出来事だねえ」

「は、はひひ……さ、流石に笑いもおき……うひっ!」

「漏れとる漏れとる、ルドはんしっかり笑っとるで」

 

 こんな、馬鹿な話……そんな……。どうしてこんな目に……どうして、どうして……どうして? 

 

「ポセイドン、あの野郎……」

「お、相棒が再起動した」

 

 そうか、ポセイドンの生み出した魔物が原因か……。魔物はもう居ない、だがポセイドンはいる。あいつかなり屈強な体つきだったな……。

 

「……ルリアちゃん」

「はわっ!? はい、なんでしょう!?」

「確かポセイドンの断片が君の中に入ったよね? それを経由して本体を呼び出せないかな?」

「え、今ですか!?」

「うん、今」

「で、出来なくはないですけど、どうして……」

「まあまあ、別に物騒な事しようってわけじゃないよ……ただね、ちょ~っと話し合いをねえ」

「だ、団長……」

 

 ルリアちゃんにお願いしていたら、後ろから先程まで泣いていたはずのセレストに声を掛けられる。ベールで見えにくいが目元はまだ赤い。

 

「わ、私も……ちょっと言いたい事がある、から……一緒に……」

「そうかそうか……」

「うん……エ、エンゼラは、私達の船だし……ちょっと……激おこ、です……」

 

 だろうねえ、操舵担当の分エンゼラへの思い入れも強いだろう。

 

「そう言うわけでルリアちゃん」

「お、お願い……ね」

「あ、はい……それじゃあ、一応」

 

 怯えなくていいよルリアちゃん、大丈夫、大丈夫怒ってないよ? 

 ルリアちゃんが海に向かって集中すると、直ぐに反応は無かったが徐々に海面がざわつきだし昨日の様にあの偉丈夫、星晶獣ポセイドンが現れた。間違いなく本体だ。

 

「人の子よ、声は聞こえた……まさか、また呼び出されるとは思わなかったぞ。何用だ?」

「え、えっと……」

「おう、ポセイドン……用があるのは俺。ちょっとこっち来て」

「む、貴様は……ぬおおっ!? きさま、なにを……っ!」

「いいから、いいから」

「お、おのれ、貴様っ!? 再び水神を愚弄する、か……やめよ、ひっぱるなっ!」

「い、いいからいいから……ほら、あっちに行こう、ね……」

「なっ!? 貴様昨日いた星晶獣の一体か……っ! 貴様までなにを……お、おお!? な、なんだこの力は……っ!?」

「さあさあ」

「ほらほら」

「ぬ、ぬおおおーっ!?」

 

 あそこに丁度いいヤシの林があるね。そうだね、話し合いに丁度いいね。人気も無いしね。行こうね、さあどんどん行こうね……。

 

「怒ってるなぁ……兄貴のやつ……」

「だ、大丈夫なのでしょうか? もしまたポセイドンが島を破壊しようとしたら……」

「案ずるなユーリよ、主殿は強い……こと星晶獣に関してはな」

「セレストもついているからね。団長に任せておくとしよう」

「コノ展開ハモウ慣レタ。多分何時モ通リニ終ル」

「ポセイドンも可哀そうな奴だぜ……怒るにしても無差別にならなけりゃこんな事にはならなかったろうになあ」

 

 さあさあ……どんどん、奥に行こうねえ……。

 

 




エンゼラの破損に関して「そんなんじゃ壊れねえよ」とか「いやむしろ傷深刻すぎ」とか思うかもですが、船に関しては素人なので許して下さい。ごめんなさい。


後半へ続く

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