俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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IF系をやりたかったマン


少し違う空編 Ⅰ
スープが冷めない距離ぐらいズレた空


 ■

 

 一 もしかしての空

 

 ■

 

「はわわ!で、出ました!」

「でけえな。だが星晶獣じゃあねえ、話も通じないようだし……ルリアちゃん、ビィと下がって。ビィ、ルリアちゃんを頼むぞ」

「任せろ!」

「カタリナさん、ディスペルマウントお願いします!」

「了解した!」

 

 とある島、そこの奥地の洞窟で数人の人間達が巨大なドラゴンを相手に立ち回っていた。天井に空いた僅かな穴から差し込む光しか自分達を照らす光源が無い中、この者達は10メートルはあろう体長のドラゴンを相手にする。

 

「ラカムさん、閃光弾っ! 野郎目が弱い!」

「了解だっ! 全員目閉じとけよ、食らえっ!」

「GUGAA!?」

 

 ドラゴンと言うが、その異型の化け物は暗い洞窟に生息する怪物。通常のドラゴンと比べると遥かに手ごわい相手。

 

「GAAAA!!」

「これは、瘴気のブレスかっ!?」

「ゲホッ! くっさ……! けどディスペルマウント頼んで正解っ! イオちゃん、アイスで腕を凍らせてやれ!」

「任せてよっ! それ!」

「GUGYAA!?」

 

 しかしこの者達は臆する事無くそのドラゴンへと立ち向かう。

 

「いいぞ、怯んだ! オイゲンさん、野郎の頭にデカいの頼みます!」

「あいよっと!」

「Gua!」

 

 ドラゴンはわけがわからなかった。自分より遥かに小さな二足歩行の生物が、ドラゴンのブレスすら恐れず向かってくる事が。

 

「ロゼッタさん! あいつの足を止めて下さいっ!」

「任せてちょうだい」

 

 四肢を突然現れた茨で固定され、身動きが取れなくなるドラゴン。地面へと倒れそしてその視線の先に見たのだ。

 

「仕上げだ! やっちまえジータ」

「任せてお兄ちゃんっ!」

 

 一振りの剣を構え閃光を放つ少女の姿を。

 

「食らええ!!」

「あ、馬鹿! それじゃ、威力が大き、ぎゃああああーーーーっ!?」

「あ、兄貴いぃーーーーっ!?」

「お、おにいさあぁーーーーんっ!?」

「やばい、今ので天井が崩れたぞ!?」

「地面に穴も開いたわ!?」

「坊主が落ちたぞ!!」

「い、いかん塞がれる!」

「不味いわ、この先は魔物の巣よっ!」

「ご、ごめーんっ! おにいちゃああああーーーーんっ!?」

 

 それと自分ごと攻撃の餌食になった少年の姿を。

 

 ■

 

 ニ まあ然程変わることなし

 

 ■

 

 目を覚ますとグランサイファーの自分の部屋に戻っていた。どうやら“何時も通り”に無事? 助けられたらしい。

 

「あだだっ!」

「あ、兄貴目が覚めたかっ!?」

 

 ベッドから身を起こそうとすると体中に激痛が走る。痛みにもがくと、これまた何時も通り俺にとっての相棒、赤い子竜のビィが俺の無事を確認した。

 

「……今日はどのぐらい?」

「あ、ああ……大体2時弱間寝てたぜ」

「前より短いな」

「あ、兄貴が強くなったんだよ、きっと」

「丈夫になっただけなんだよなあ……」

「ご、ごめん」

「謝るなビィ、虚しいから」

 

 揃ってため息を吐く。もう“俺一人だけの身”ではないと言うのに、あの娘は全く学習せん奴だ。まことに遺憾である。

 

「そう言えばルリアちゃんは?」

「兄貴がうなされて汗が酷くってさ。今タオル変えに……」

 

 ビィがそう言うと扉が開いた。手に水を入れた桶を持って入ってきたのは、蒼い髪を伸ばす少女ルリアちゃんだった。

 

「ビィさん、戻りまし……あ、お兄さんっ!」

「おっす」

「よかった目を覚ましたんですね!」

「今丁度ね」

「ルリア戻ってきたし、オイラ皆に知らせに行くぜ」

「ああ、頼むわ」

 

 ビィがふよふよ浮いて部屋から出て行くと俺とルリアちゃんだけになった。

 

「悪いねえ、何時も、あちち……」

「あ、無理しないで下さい!まだ治ってないんですから」

 

 体には湿布やらが貼られている。打ち身や打撲は後引いてヒールでも治り辛いからなあ。

 

「ヒールってイオちゃん?」

「はい、直ぐに使ってくれましたよ」

「後でお礼言わんとな」

 

 毎度毎度迷惑をかけて申し訳ない。

 

「ルリアちゃんもごめんね……何時も危ない目にあわせて」

「そ、そんな事無いです!」

「ジータも前よりは巻き込み事故減ったんだけど」

「それは、その……ジ、ジータもお兄さんが大丈夫だって信じてるからああ言う風に、つまり、えっと……」

「……やめよう、ルリアちゃん」

「はい……すみません」

 

 謝るなルリアちゃん、君は悪くないから。悪いのは。

 

「お兄ちゃん起きたっ!? さっきはごめ、ぐえっ!?」

「おう、反省会じゃ」

 

 こいつなんで。

 

 ■

 

 三 キミの名は?

 

 ■

 

 今からもう何ヶ月も前の事。それは突然起きた。

 俺が住む小さな島ザンクティンゼル。田舎と言うのに相応しいその島には、俺が住む村以外に村と言う村は無く森が広がるぐらいの島。俺はそこで生まれた。

 過疎気味の島には若い者は少ない、俺と同年代の奴も多いとは言えない中で俺には幼馴染の少女が居る。少し歳は下だが俺がまだ小僧だった時に島に越してきた子供、名前をジータと言った。

 歳が比較的近い事に加え、家が隣だったので自然と俺はジータの親に代わり面倒を見る事があった。その時から俺は彼女にお兄ちゃんと呼ばれるようになる。またジータと共にいる子竜ビィもまたこの時からの付き合いで、俺の事を兄貴と慕ってくれている。

 そしてある日、ジータの親父さんが行き成り旅立った。突然の事に驚いていたのだが親父さんは元騎空士と言うので何か目的があったのだろう。

 だが困った事にジータは一人親、母親の方は俺は行方不明と聞いており親父さんは多くをジータにも語っていない。なのに父親の旅立ちである。おい娘どうすんだ、と思ったのだが一切を俺に任されてしまった。おやおや?

 まあ俺の方からも日頃「面倒見ますよ」とは言ったよ? だが全部任されるとはな。

 それはともかく、それから更に彼女は俺の家に入り浸るようになる。そうでなければ村に住むあるばあさんに剣や弓の稽古をつけられていた。本人は遊びのようだったが、まさかあんな化け物級になるなんて……。

 まあこっちもともかくとして、そんな日々が続くと思ったある日運命の日が訪れる。

 普段どおりの一日が始まると思った日の朝、空に巨大な戦艦が見えたのだ。行商等の騎空艇が稀に来る程度のザンクティンゼルであんな戦艦を見た事が無い俺達住民は驚いた。だが更に突如として戦艦の脇で爆発が起きる。そしてその中で戦艦から何かが堕ちるのが見えた。

 人かどうかはその時点でわからなかったのだが、ジータがそれを見つけて駆け出した。それを見て俺もまた慌てて彼女を追った。きっとここで急ぎ追わなかったら、運命も変わったかもしれない。

 途中ジータとビィと逸れた俺が森の中で見つけたのは、意識を失っていた少女だった。その子こそがルリアちゃんだ。カワイイ。

 幸い怪我は無く気を失っているだけだった。声をかけると意識が戻りルリアと言う名を告げる。だがどうしたのか聞いてもどうも要領を得ない。少なくとも空に未だ浮かんだままだった戦艦と関わりがあるのは確かだった。

 どうも嫌な予感がした俺は、ジータ達の事を気にしつつもルリアちゃんを連れてその場から急ぎ逃げ出した。こう言う時の悪い予感と言うのは、この頃から常に当たる事が多く俺は実に嫌だった。そして案の定その予感は当たる。

 森でルリアちゃんの手を引いて走る中、戦艦から降りて来たと思われる兵達と出会う。だがルリアちゃんを保護しに来た親切な人達には見えない。向こうは問答無用でルリアちゃんを渡せと言うので、理由を尋ねると秘密の一点張り。怪我をしてるかもしれないからせめて治療ぐらいさせてくれと言うと、なんと剣を抜かれてしまう。

 現地の村人Aである俺に向かって剣を抜くとはただ事ではない、いよいよもってこの兵隊が信用できないので此方も相応の対応を取った。ジータ程じゃあないが俺も彼女に強制的につき合わされたばあさんとの組み手のせいでそれなり以上に強くなっていた。武器は無いが無手でも十分対応できる。途中剣は奪わせてもらったが。

 そうこうしてると兵が集まり出してしまい、面倒だなあ、と思ったら此方にも援軍現る。冷気を込めた剣撃を放つ女騎士カタリナさんが現れた。

 助力に感謝するとカタリナさんは自らをルリアちゃんの保護者と名乗り、逆にルリアちゃんを助けた事を感謝された。

 カタリナさんからここに来ているのがエルステとか言う帝国の軍と言う事を聞き、なんでまたルリアちゃん達がそんな軍から逃げてるのか気になったのだが、俺がその疑問を口にする事を状況が許さなかった。

 何時の間にやら島に散っていた兵が全て集まり俺達を取り囲んだのだ。そして部隊の指揮官ポンメルンと言う髭野郎が現れるとやはりルリアちゃんを引き渡せと言う。行き成り出てきて上から目線の嫌な奴だと憎まれ口をたたいた。ポンメの奴が帝国を敵に回す気かと怒っていたが、いたいけな少女を無理やり攫うのを見てはどちらに付くか明白である。

 もっと言うなら俺はカワイイ方の味方なのだ。そう言い放つと更にポンメは激高した。

 ポンメの実力はわからなかったが、周りの兵隊は有象無象であった。日頃ジータを相手にしている方がきつい、その事を思えば軽い軽い――と高を括っていたらヒュドラと言う多頭の竜のような化け物を呼ばれてしまう。

 流石にこれは不味い、魔物は精々ウィンドラビットのような小動物系しか相手をした事が無い。巨大な体躯に怯んだが後ろにはルリアちゃんがいる。確かに見ず知らずの少女だが、ここでルリアちゃん達を差し出して命は助けてくださいとポンメに言うは真っ平ごめんだ。

 村にはあの化け物じみたばあさんもいる。そしてジータもいる。時間を稼げばルリアちゃんとカタリナさんは助かるだろう。

 目の前の相手は、多頭の化物であっても正しく怪物であるドラゴンそのものではない。デカい蛇のあつまり、そう思う様にして覚悟を決める。

 --まあ、負けましたがね。

 頭三つ切り落とすまでは頑張ったのだが、ついに俺は力尽き負けてしまう。口から吐くヒュドラの炎に腕を焼かれ動きを止めた隙に奴の鋭い爪で体を引き裂かれてしまった。

 一気に裂けたので痛みを感じる暇も無い。血が噴出すのを感じつつ、ルリアちゃんとカタリナさんが俺を呼ぶ声が聞こえ、そして森の反対側から現れたジータとビィ、二人と顔があった。

 その時消え行く意識の中でヒュドラは、見事ジータに倒されると確信。最後に一言ポンメに対して「ざまあみろ」と呟き俺は死んだ。

 

 ■

 

 四 穏やかな心をもちながら激しい怒りによって目覚めた伝説の戦士

 

 ■

 

「いいでしょう! 貴方も殺してさし上げますヨォ! あの小僧のように、ですネェ!」

「あの小僧のように? ……お兄ちゃんのことか……お兄ちゃんのことかーーーーーーーー!!!!!」

 

 と、言う会話があったのか不明だが大体こんな事があったらしい。

 あったらしいと言うのは、俺死んでたから見てないのでビィやルリアちゃんから聞いた話から想像するしかないからである。

 しかし死んでたらそもそも話しも聞けないはずなのだが、そこは奇跡が起きたとしかいえない。

 何故なら俺は生き返ったからだ。

 ポンメにざまあ(笑)と呟いて完全に意識が消えた俺だったのだが、ふと肉体の感覚が戻るのがわかった。それは死の空間ではなく、夢の中。そうか、俺は眠っているのだと理解すると遠くから俺を呼ぶ声がした。だがあまりにもうるさい。夢の中で言うのも可笑しな話だが、耳が壊れるようなうるささで「お兄ちゃん」と連呼され思わず飛び起きた。

 完全に意識を回復させた俺は自宅のベッドで目を覚ました。周りにはルリアちゃん、カタリナさん、そして涙を浮かべるジータとビィがいた。

 死んだはずなのにどういう事? とカタリナさんに聞くと、ルリアちゃんの不思議な力で生き返ったというのだ。確かに、すっかり傷も塞がり焼かれた腕も戻っている。こりゃ助かっちゃったなあ、と暢気に考えてたらところがどっこい自体はそう甘くない。俺の命はルリアちゃんと共有する事で助かったのだ。つまり今俺とルリアちゃんは運命共同体、二人で一つの命を持っている事になる。

 これはとんでもない事だ。こんな俺なんかと命を共有しちゃってどうするんだと言ったら、そっちかい! と皆に突っ込みを食らった。ルリアちゃんには、怒ってないのか? と聞かれたのだが……普通にポンメ達の方が悪いしあっちに怒っとるわい。ルリアちゃん? 怒ってないよ、俺はカワイイ子に甘いのです。

 さて更に問題がでる。ルリアちゃんと命を共有した事で俺達は余り離れ離れになれなくなった。だがルリアちゃん達は帝国に追われている身なのにで一箇所にはおれない。つまり俺はザンクティンゼルを出なければならないのだ。

 まあいいけどね。と言ったらルリアちゃんとカタリナさんがずっこけた。あんまりにも軽く言い過ぎたらしい。ジータはゲラゲラ笑ってたが。

 ルリアちゃんを助けると決めたのも自分で選んだ事だ。それで死んで生き返って空の旅に出る事になるなら、それは自分で望んだようなものだからな。そう言うとジータが突然自分も行くと言い出した。俺もルリアちゃん達もビックリしたが、俺と離れるのが嫌なのが主でそして「イスタルシアに行く約束」を出される。

 昔ジータの両親が続けて姿を消して暫く経った時、二人で空の果てにあると言うイスタルシアと言う島へ行く事を約束した事がある。子供の約束だったのだが、彼女は本気だったようでルリアちゃん達とそこを目指すのだと言う。結局ジータとビィも一緒に旅に出る事になった。

 ザンクティンゼルを発つ時皆に見送られカタリナさんが乗って来た小さな騎空艇で出発、クソ狭い中無理やり詰め込み旅に出た。

 その後は色んな島を巡る事になる。重量オーバーとカタリナさんの操舵技術の低さからポート・ブリーズ諸島へ墜落、そこで俺達は操舵士ラカムさんと出会う。ラカムさんを仲間にし騎空艇グランサイファーを手に入れた俺達は、半ば成り行きで騎空団を結成。団長をジータ、副団長を俺にして騎空団【私とお兄ちゃんと愉快な仲間たち団】は結成された。

 この名前に関してはもう何も語りたくない。ジータ以外の皆で猛烈に反対したのだが、最後は団長権限とジータのごり押し(物理)で決定された。

 団名の事はともかく、次に俺達は騎空団として初の依頼を受けて火の国、火山の島バルツ公国へとやってくる。そこの大公さんを見つける仕事だが大公さんを見つける前に、その弟子であると言う少女イオちゃんと出会った。

 その後師匠である大公さんを探すため、成り行きであったがイオちゃんと力を合わせてちょっと病んでた大公さんを保護、その後イオちゃんは俺達の仲間になった。

 実に助かった。カワイイ上に常識人だ。これでよりジータへのストッパーが増えたため俺の負担が減った。

 次に訪れたのは海の島アウギュステ。そこでは帝国と戦争中で折角の海だというのにゆっくりも出来なかった。

 そんな中でアウギュステに雇われている傭兵達を束ねる男オイゲンさんと出会った。俺達はオイゲンさんと協力し、帝国を追い出し海を取り戻した。そしてオイゲンさんもこれで仲間となった。

 そして最後、俺達は森の島ルーマシー群島で謎の女性ロゼッタさんと出会った。俺達はここまで帝国と何度かやりあっており、中でも黒騎士を名乗る子連れ騎士と夫婦漫才師とは浅はかならぬ因縁が出来た。その関係でルーマシーに来たのだが、そこで出会ったロゼッタさんは色々と知っているようで俺達と旅を共にすることになった。

 その後も俺達は帝国との戦いを繰り広げながら騎空団としても精力的に活動した。とくに団長であるジータが報酬の値段に関わらず、誰かが困っていると知っては依頼を受けてくるので休む暇は無い。尤も反対する気も無い、それにその甲斐あって多くの島々には、俺達の友人が大勢増えていった。騎空団の仲間にこそなっていないが、助けが必要なら何時でも声をかけてくれと言う人が多く、そして誰もが空でも屈指の実力者ばかりだ。

 しかし旅の中で困る事は勿論ある。むしろそっちの方が多いのではないかと思う。団長であるジータが奔放であるために、副団長であり昔からストッパーとして苦労した俺は空でも変わらずなのだ。特に戦闘においてジータは無類の力を発揮するが、同時に俺が最も苦労する時だ。

 俺の死を目の当たりにしたジータは、怒りを爆発させその戦士としての才能を覚醒させた。以前からばあさんとの鍛錬で異常な強さを持っていたが、それが加速し現在負けなしである。神とも言われる星晶獣すら基本ワンパンKOなのだからどうしようもない。そんなジータは昔から手加減が苦手でやりすぎる事があるのだが、それに決まって巻き込まれる者がいる。

 そう、俺だ。

 

 ■

 

 五 どうあがいても

 

 ■

 

「派手な! 威力の! 攻撃は! 無しって! 言ったでしょうが!?」

「い、痛いっ! 痛い痛いっ!?」

「これで何回目だと思っとるんだ!?」

「いたたたっ!?」

「俺は今ルリアちゃんと命共有してるから、絶対に死ねないってわかってるだろ!?」

「け、けどお兄ちゃんその日のうちに回復してピンピンしてるじゃん、いったああいっ!?」

「お前の攻撃で無駄に丈夫になったんだよ!」

 

 膝の上に横たわらせたジータのケツを叩く。とにかく叩く、叩いて叩いて叩きまくる。

 こいつに悪気が無いのはしっている。ジータはそう言う娘だ。手加減できず派手な攻撃を撃ったせいで巻き込まれたときもあるし、予め後ろに下がって攻撃させても偶然ジータの攻撃で地面が崩落して死に掛けたときもある。遺跡や洞窟なんかじゃ天井が崩れる、床が崩れるのは当たり前。魔物の巣に行けば想定以上の魔物が居る事が多くジータが範囲攻撃して俺が巻き込まれた。

 ジータが直接悪いわけじゃない例もあるが、それにしてもジータの攻撃での負傷が多すぎ問題。なので一度だけグランサイファーに俺とルリアちゃんが居残って他のメンバーだけで依頼を受けた事があったのだが、ビィやカタリナさん達だけではジータの操縦が上手く出来ず大変な目に遭ったらしい。その日ビィ始め仲間達に申し訳ないが一緒に来てくれとボロボロの姿で頼まれ首を縦に振らずにはおえなかった。

 ともかく幾つかはジータが気を付けてれば回避できた事故である。そのため日頃大技を撃つ際は注意しろと言うのだがどうしても失敗する事がある。今回洞窟に住み着いた瘴気を放つドラゴン討伐と言う仕事で、洞窟と言う狭い空間での戦いだった。そのため派手な攻撃は禁じていたのだが最後の最後にジータが派手にやった。

 洞窟が崩れ穴が開き、そこに堕ちた俺は魔物の巣窟となっていた地下で一人救援が来るまで戦い続けた。ジータ達が来た時俺は丁度全ての魔物を倒しきり安心して気絶した。

 

「お、お兄さん。それぐらいで許してあげて下さい。ちょっと可哀想ですぅ……」

「駄目だ! あと100回は叩く!」

「お尻割れちゃうよっ!?」

「生まれた時から割れてるだろ!」

「んきゃあああっ!?」

 

 果たして今まで何度ジータのケツを叩いただろうか。ザンクティンゼルに居た頃から悪戯やらするのでその度怒ってはこうやって折檻したものだ。

 森にある祠に悪戯しようとした時は、かなり本気で止めたからな。何祀ってるか知らんが罰当たりな事しちゃいかん。

 

「ルリア、ここは彼に任せておこう」

「で、でも」

「何時もの事よルリアちゃん。一先ず今日もお兄さんが無事……かはともかく、生き延びた事を喜びましょう」

「ロゼッタさん……そ、そうです、ね? それじゃあ」

「あ、待って皆!? お兄ちゃん止めてっ!」

「すまねえな嬢ちゃん、今日も指示を聞けなかった方が悪いって事で」

「大人しく怒られときな。じゃ」

「そ、そんなっ!」

「よそ見しないっ!」

「いったああっ!?」

「兄貴、まあ程ほどにな?」

「ジータ、後でお尻冷やしてあげるからねー」

「ま、待ってーっ! あいたああーっ!!」

 

 少なくとも、これが今の日常だ。

 

 ■

 

 六 副団長は苦労性

 

 ■

 

 【私とお兄ちゃんと愉快な仲間たち団】での日常と言うのは極めて多忙である。と言うのも副団長である俺は、ある意味で団長のジータ以上に仕事が多いのだ。と言うのもジータには書類整理などの事務仕事が碌に出来ないからであって、彼女の役割は体を動かす仕事だけである。

 俺はと言うと、依頼の書類やら団の財布の管理やら物資のリスト製作に団員の役割分担を決めたりと仕事部屋代わりに使う食堂で日々を過ごす。

 

「またここで仕事をしていたのか」

 

 次の島で行う予定の依頼に関しての書類を作っていると、休息に来たのかカタリナさんに声をかけられた。

 

「ええ、もうここでないと仕事できないんで」

「君用の書斎があると言うのになあ」

「まあ慣れですよ慣れ」

 

 食堂の端にある窓際が俺の定位置。グランサイファーはでかい騎空艇なので、別に食堂でなくとも割り振られた部屋はあるのだが広い机に何時でも休憩できるここが落ち着くので結局何時も食堂で仕事をしている。船の大きさの割りに少ない団員は、食堂に来る事が多くそのため騒がしいわけでも寂しくなる事もそんなにない。

 

「どれ、なら私がコーヒーでも淹れてあげよう」

「……コーヒー、ですか」

 

 カタリナさんの言葉を聞き、目を細める。

 

「こ、今度は大丈夫だぞ? 前のような失敗はしない!」

「……コーヒー・ビネガー事件」

「うっ!」

 

 蘇る忌々しき記憶。まだ騎空団を立ち上げて直ぐの時のこと、カタリナさんが似たような状況で俺にコーヒーを淹れてくれた事がある。その時コーヒーは黒い色と程遠い紫色となり、異常な異臭を発していた。恐る恐る舌先で味見した時俺の意識が吹き飛んだ。意識を回復させてから何を混ぜたか追及したらどうやら「酢」を混ぜたらしい。何故かと聞いたが「酸味が欲しかった」としかカタリナさんは言わなかった。だがそれだけでコーヒーは紫色に変貌しない。恐らく他にも“ナニ”かが混入したらしく俺は一日再起不能になった。混入物については現在も不明である。

 つまりカタリナさんは料理全般が壊滅的だったのだ。その日から俺には【カタリナさんの調理補正係】と言う肩書きが追加された。

 この人は無意識なのかありえない食材を組み合わせようとする。一度出来た料理をグランサイファーの先っちょに設置したら魔物が避けて通っていった。魔物避けにはもってこいですね、と言ったらカタリナさんはその場で膝をついて落ち込んでいた。

 そして未だカタリナさんの料理下手は改善されていない。微塵もない。強烈な異臭を放つグラタン、無味無臭のステーキ、蛍光色のスープを泳ぐ新生物、この人は一体厨房でナニをしているのだろうか?そして自分の料理を味見させてもわかっていない節もある。味音痴でもあるらしい。少なくとも現在俺の許可なしで固形物の調理はさせていない。コーヒーのような液体の調理ですら駄目なのだ。

 

「……まあいいです。試しに一杯頼みます」

「そ、そうか! よし待っていろ、美味しい一杯を淹れてあげよう!」

 

 本人のやる気だけは十分なのだ。失敗を知っての成長もある。俺が許可するとカタリナさんが張り切って厨房へと入って行く。俺はそっと胃薬を用意し、念の為書類一式は全部片付けておいた。

 結論を言うと、出て来たコーヒーは透明になっていた。わけわからん。あと胃薬さんありがとう、でした。

 

 ■

 

 七 ラカムゥゥゥ!!!

 

 ■

 

 騎空団で俺の次によくジータの被害を受ける人が居る。

 一人はビィ。ザンクティンゼルで俺と同じぐらいジータと一緒に居る子竜。その分彼女に振り回される割合は大きい。

 そしてもう一人、ラカムさんだ。

 

「よし、ジータ! 今のうちに攻撃しろ!」

「了解ラカム!」

「ラ、ラカムさんっ!? いけない、火器の火薬が」

「なっ!? 何時の間にこぼれてっ!」

「ジータ、ストッ」

「とりゃああ!!」

「グワアアァァァ!?」

「ラカムゥゥゥ!!」

「ラカムさぁぁぁんッ!?」

 

 と言う流れ。

 俺も大概だがラカムさんもかなり酷い目に遭う。何故か知らないが爆発オチが多いのも謎だ。携帯している火器の火薬、その場にあった火薬、偶然生成された火薬、偶然転がってきた爆発物等々、例を挙げ出すと切りがない。ラカムさんは火薬関係を引き寄せる体質なのだろうか。

 そんな事もあってラカムさんの体の頑丈さは俺に次いで丈夫だ。しかし俺もそうだがラカムさんはその事を知っても苦笑するだけだった。

 

「今月に入って5回目だ。通算だと50回を超えたよ。だんだん慣れてきた……」

「ラカムさん……」

「不思議と死ぬこともねえし、騎空士やってんなら丈夫に越した事はねえんだけどよ」

「ラカム……」

「お前らはザンクティンゼルでジータの相手してたらしいけど、苦労してたんだなぁ……」

 

 ここまでの苦労はしてな……いや、まあどっこいどっこい?

 

「とりあえず何か食いましょう」

「そうだな……」

「オイラも腹減っちまったぜ」

 

 そうして俺とビィ、ラカムさんは立ち寄った居酒屋で飯を食う。

 俺達【ジータ被害者同盟】、定期的な飲み会を欠かさぬのである。

 

 ■

 

 八 癒し

 

 ■

 

「それじゃあ……はい、今日の内に船まで。はい、はい、よろしくお願いします」

 

 立ち寄った島の商人に物資の搬入を頼む。空の旅をするのには物資の補給が欠かせない。色々な物が必要だが、特に食料と水をうっかり切らしてしまえば目も当てられない。水は飲料水だけでなく生活用水の確保もある。魔法で水を生み出せない事もないがそれも限度がある。どうしても必要なのだ。

 これらの物資補給も俺が主に担当する。勿論俺だけがずっとやっているわけではない。手伝いが必要になれば、手の空いている仲間を呼んだり予め予定をあわせておく事もある。

 

「終わった?」

「うん、悪いね待たせて」

「いいわよ別に」

 

 今日はイオちゃんに手伝いを頼んだ。物資の発注だけなら俺一人でいいのだが、今日は発注をするまでもない物資を買って帰るのでそれを手伝ってもらう。

 

「次に常備薬が少し減ったからそれの買い物と、その他生活用品だね」

「お風呂の石鹸減ってたもんね」

「それに書類整理用のファイルとか欲しいんだよね」

 

 必要ない書類は燃やして捨てるのだが、取引での書類や依頼での契約書等今後必要になる可能性がある物は厳重に保管してる。そろそろ整理しないと混ざってしまい後々混乱してしまう。ジータがガンガン依頼を受けるので書類が溜まる一方なのだ。

 

「書斎の書類が溜まり出したからなあ」

「書斎って言うか倉庫じゃないあんなの」

 

 あんなの呼ばわりとはあんまりである。まあ、事実なのだが。

 仕事を食堂でしてしまうので、割り振られた仕事部屋は殆ど書類などをしまうだけの部屋と化している。

 

「今度整理手伝ってくれない?」

「別にいいけど……私何が大事な奴なのかわかんないわよ?」

「へーきへーき、捨てといてって奴処分してくれればいいから」

「まあそれぐらいならかまわないけどさ」

 

 イオちゃんは実に良い子だ。バルツで初めて出会った時から良い子なのはわかっていたが、仲間になってこの子の存在が俺の心と胃に一時の安寧を齎したと言っても過言ではない。

 

「じゃあ予めお礼を兼ねて何か奢ろうか」

「え、いいの?」

「いいよ、どうせ早く帰る理由もないし」

 

 なので俺はイオちゃんに甘い。自覚してまーす。

 

「何がいい? 甘いもんでもいいけど」

「あー……えっと、それじゃあ」

 

 俺が希望を尋ねるとイオちゃんは急に恥じらいの表情を浮かべ、チラチラと俺を見ながら口を開いた。

 

「どうせなら、私お兄さんの作った料理がいいな」

「俺の?」

「うん、お兄さんの料理美味しいし、それなら皆で食べれるでしょ?やっぱり美味しい物は皆で食べたいじゃない」

 

 天使かな?

 

「そうだね、じゃあ必要な物買って食材も買おうか。リクエストある?」

「何でも良いの? なら、オムライス! 前作ってくれた切り込み入れると広がる奴ね」

「OK、了解しました」

 

 平和万歳である。

 

 ■

 

 九 おやっさん

 

 ■

 

「昔はよぉ……お父さん、お父さんって言って抱っこもさせてくれたんだよ」

「はあ、なるほど」

「何時ぐらいだったんだろうなあ……あんな風になっちまったのは……」

 

 夜食堂で仕事してたらオイゲンさんが夜酒を飲みに現れた。眠れないのと飲みたい気分だったかららしいが、オイゲンさんの一人酒と言うのは珍しい。結果的に俺が居たから一人ではないが。

 せっかくだから休息ついでに一緒に飲むことにした。カウンター席で俺がバーテンになって軽いつまみと酒を注ぐ。尤も俺はまだ未成年なので酒は飲めないからオレンジジュースであるが。

 

「かわいいもんでな、親に似て美人になるぞーって思ってたんだ。ああ、親って女房の方で」

「わかってますよ」

 

 普段オイゲンさんは大人数で賑やかに飲んで、そして酔う。普段の人柄どおりに誰かにからみ、酒を勧めて飲む。

 しかし今のオイゲンさんは、そんな様子ではなく淡々と古い思い出を語っていた。

 

「どういう道を進むのもあいつの自由さ。例え実の親でもそれを止める権利はねえ……けどよ、間違ってる事を止める。これは親の義務だ。違うか?」

「ええ、その通りですよ」

「そうだろぉ? だから俺ぁよお……」

 

 珍しく酷い酔い方をしている。

 以前七曜の騎士の一人である黒騎士と言う者と幾度か交戦した事がある。七曜の騎士とはこの空の世界で、圧倒的な力を誇る色を冠した騎士達の事をさす。「化け物」とまで言われる騎士達。実を言うとその内二人と交戦したのだがその一人が黒騎士である。 

 兜で顔を隠していたが、声と仕草から女性である事はわかっていた。そして彼女がオイゲンさんの娘さんである事も後にオイゲンさんの口から語られた。

 

「一緒に居てやれなかったからな、やっぱりなあ……」

「ええ、ええ」

「寂しい思いをさせちまったから、ちゃんと話してえんだ」

「そうですね」

「思えばよお、親らしい事なんてなんにもしてやれなかったからなあ……」

 

 黒騎士との因縁はアウギュステで出会った事に始まる。それを知ってオイゲンさんは仲間になった。俺達とくれば娘である黒騎士とまた会えると思ったからだ。

 

「母親が先に逝っちまって娘一人、それなのに俺は相変わらずあっちこっちフラフラとよお……駄目な親父だぜ……」

「そう自分を責めず」

「うぅ……アポロォ……うぅーん……」

「…………オイゲンさん?」

 

 声をかけたが聞こえて来たのは静かな寝息だった。

 

(風邪ひいちまうぜ、親父さん) 

 

 今すぐ無理に移動させる事もないと思い、常備しているブランケットを肩から羽織らせておく。そのままコップを片付け、再び事務仕事へと戻る。

 親が居なくとも、子は環境しだいで色んな風に育つ。優等生になったり、不良になったり、やんちゃになったり、泣き虫になったり。

 ジータは親と過ごす時間は短かったがザンクティンゼルのキハイゼル村で過ごした。あそこでは全員が家族の様なもの。それによって今のジータの性格が出来上がった。

 黒騎士はどうだったのだろうか。彼女は多くを語らない。

 子を育てる難しさ、育てられる難しさ。親の苦悩、子の苦悩。あまり交わるものではないそれらが、最後は丸く収まる事を願わずにはいられない。

 

 ■

 

 十 JK

 

 ■

 

 グランサイファーのとある一室。そこに俺とロゼッタさん、二人だけがいた。

 少しの照明、篭る熱気、そして部屋を漂う甘い香り――。

 そんな空間で台の上に横たわるロゼッタさんに俺は手を伸ばした。

 

「ここですか?」

「あ、そう……んっ! そこ、いいわ」

「もうちょっと下やりますよ」

「あっ! そこ、あ、ああ……っ!」

「痛かったら言って下さい、もっと押し込みます」

「ぅああっ! そ、それは……あ、ああっ! ああぁぁ~~~~っ!」

「あんた達、なにしてんのよっ!?」

 

 突如部屋の扉が勢い良く開かれ現れたイオちゃん。驚いて俺とロゼッタさんが顔を上げる。

 

「イオちゃん?」

「あら、どうしたの?」

「あ、あれ?」

 

 照明を調整して明るくすると、入り口でポカンとしているイオちゃんがいた。

 

「ロ、ロゼッタ? お兄さんも……何してるの?」

「何って……」

「見ての通り、“マッサージ”よ」

 

 寝台の上にうつ伏せになっているロゼッタさん、普段も流石大人と言うのか色気を魅せるような服装をしているが、今この人は背中だけを露にしている。

 

「マ、マッサージ?」

「うふふ……イオちゃん、何してるとおもったのかしら?」

「な、なななっ!? べ、別になんにも変な事想像してなんかないわよっ!?」

(変な事?)

 

 二人の言う事がよくわからなかったが、イオちゃんは何かしら勘違いをしたらしい。

 

「ロゼッタさんに頼まれてさ、よくやってるんだ」

「前から?」

「そう、腰や肩をいた」

「リラックスのためよ」

 

 食い気味にかぶせられる。

 

「え、いや前腰いた」

「気分転換よ」

「肩も」

「リラクゼーションよ」

 

 寝そべってるから顔は見えないがやたらキメ顔で言われている気がする。まあ本人がそう言うならいいけど。

 

「と言う事で、気分転換のマッサージです」

「彼上手なのよ。以前マッサージ関連の本を手に入れて、それ通り試しにやってもらったら次の日の気分が違うのよね。流石飲み込みの早さはジータちゃんに負けない人ね」

「素人っすよ俺」

「いえ、もうなんなら店開いてもいいレベルよ」

 

 そうだろうか。自分じゃ実感はない

 

「ふーん、あれ? この部屋いい香りする?」

「リラックス効果のあるアロマを焚いてるんだよ。前シャオさんとジャスミンさんに会ったから、薬草とか香料のアドバイス貰ってさ。俺オリジナルブレンドです」

「そうなんだ……お兄さんって、なんて言うかいつも凝り性よね。広いうえに深く」

 

 褒められていると言う事でよろしいのでしょうかねえ。若干表情に呆れがはいってますが。

 

「……だとしても、あんな声、廊下まで聞こえるから抑えてよ」

「うふふ、ごめんなさいね」

「お兄さんも止めなさいよね!」

「何が?」

「……そうか、ジータとの生活で感覚が……ご、ごめんなさい、今のは忘れて」

 

 え、まってなんか気になるんだけど。ちょっとイオちゃん?俺なんか感覚狂ってるの?ねえ、ちょっと。

 

「そうだ良かったらイオちゃんもどうかしら」

「え、私!?」

「やってみるとわかるわよ」

「わ、わかるって……な、何が」

「うふふ……声、抑えるのって大変なのよ」

「はわわっ!?」

 

 イオちゃんがルリアちゃんの口癖言ってる。

 

「私ももう終わるし……どう?」

「けど、私そんな背中とか……恥ずかしいし」

「腕とか脚もできるけど?」

「え、そうなの?」

「ただイオちゃん子供だからなあ、痛いかくすぐったいだけかもよ?」

「むっ!」

「むっ!」

 

 あれ、むっ!が二つ重なっ――。

 

「あだだっ!?」

「私もまだ若いわよ」

「子ども扱いしないで!」

「ダ、ダブルで膝小僧を……っ!」

 

 ロゼッタさん、態々茨で膝小僧狙わんでも。イオちゃんも腰の入った蹴りやめて……。

 

「いいわ、見てなさい! ぜんぜんくすぐったく無いって所見せてあげるわ! マッサージぐらい楽しめなきゃ大人のレディじゃないもん!」

「あ、そう……いたた」

「背中お願い!」

 

 まあ本人がやってほしいって言うならいいけどさ。

 その後ロゼッタさんと変わってイオちゃんのマッサージしてみましたが、結局くすぐったがって無理でした。

 

「次こそは絶対マッサージするんだからね!?」

 

 そう宣言してイオちゃんは部屋から飛び出していった。

 それを俺とロゼッタさんは微笑ましく見送った。

 

 ■

 

 十一 ルリアノート

 

 ■

 

 騎空団の旅と言うのは険しくもあり、楽しくもある。危険な依頼を受け強大な魔物や星晶獣と戦う事もあれば、立ち寄った島で多くの出会いを通じて思い出を作る事もある。俺はとくにそう言った事を日記の様な形には残すことは無い。思い出があれば良いとセンチメンタルになるわけでもない。その時を思い出せるような物を幾つか部屋に飾る程度。

 しかしルリアちゃんは一冊のノートに思い出を綴っている。ポート・ブリーズでカタリナさんに買って貰ったピンクのノートを彼女は気に入り、島々で出会った人々の事、そこでの出来事、星晶獣の事、はては手に入れた武器の事まで書き記す。

 

「そろそろ頁が少ないんじゃない?」

「えへへ~、いっぱい書きました!」

 

 ハードカバーの分厚いノートだったが、今はもう残り数ページだ。日頃ルリアちゃんがいかにノートを書いてるかよくわかる。

 

「次も同じデザインの買おうか。シェロさんに頼めば手に入るでしょ」

「はい! ありがとうございます!」

 

 ルリアちゃんは自身の記憶が無い。帝国で星晶獣を操る“兵器”として研究されていた彼女だが、カタリナさんと出会いそして俺達と出会った。帝国での事は覚えてもいないし、態々思い出すことも無い。

 そんな彼女だからこそノートへと綴る思い出は、何よりの宝なのだろう。

 

(しかし……)

 

 俺の横で笑顔でノートを書くルリアちゃん、ふとその中身を覗き見る。

 

(差が凄いな)

 

 彼女の書く文章は特徴的だ。彼女自身の感性で書かれた人物や武器、星晶獣の説明文は妙に壮大であったり、第三者目線であったり、明らかに文体が他と違ったり実に自由だった。

 一方で遊びで絵も描かれているのだが、歳相応? なのか(ルリアちゃんの正確な年齢はわからない)幼い絵が描かれている。その中にはジータ、ビィ、カタリナさん達。そして俺もいる……いる?

 

「ねえルリアちゃん、この絵のこいつって……」

「はいお兄さんです!」

 

 何となくぼやぁっとした表情、表情? そして何となくもやぁっともした顔つき、顔? 幽霊かなんかの絵でも描いたんじゃないかと思うほどに印象が薄くされた人物の絵がそこあった。他の人物が色が5色ぐらいあるのに、俺3色ぐらいしかないのですがそれは。

 そっか、これ俺か。俺こんな顔してるのかルリアちゃん。

 

「……うん、上手だね」

「わーい!ありがとうございます!」

 

 何も言うまい。ルリアちゃんカワイイから別に良いや。

 ルリアちゃんの頭を撫でておく。

 

「えへへ~」

 

 うん、カワイイからいいです。

 甲板で二人並んで優しい風を感じつつ俺達はイスタルシアを目指す。今日も空は平和である。

 

 ■

 

 夢?

 

 ■

 

「おう、相棒おはよ……どうした、顔色わりいぞ?」

「おうB・ビィ……なんか、変な夢見た」

「悪夢か?」

「俺がジータの騎空団に居て、お前らいない世界でジータに振り回される夢」

「お、おおう……で、どうだった?」

「あっちの俺とは、いい酒飲めそうだと思った……まだ飲めねえけど」

「そうか……まあ、頑張れ」

「まあ、ただ」

「うん?」

「悪くは無かったよ」

 

 




本当は4/1に投稿しようかと思ってたものです。

団長君の容姿に関してなんですが、ぶっちゃけ自分でも想像できないです。ダクソの人間性みたいにぼやけてます。物語中のどこかの場面を想像しても彼は顔が見切れてます。なんで読者皆様のお好きなようにご想像いただければと思います。

次からはまた団長達の旅が始めるつもりです。誰かを仲間にしたりするかもしれないです。ジータもまた出したいです。

自分としてはフーちゃんも出したいのですが、果たしてこの星晶戦隊(以下略)で蒼の少女編を終わらせれるのかわからない。ただメインストーリーの大筋はジータが突き進んでる感じですので、そこらへんを上手い具合に……。

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