俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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俺にもゴリラ効果を


世界一可愛い謎の美少女 前編

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 一 遺跡調査

 

 ■

 

 慌しいメドゥ子加入から早々に俺達はシェロさんから請負った依頼のために、とある島へとエンゼラを停泊させた。そこまで大きい島ではなく、一言で言ってしまえば「普通の島」である。ザンクティンゼルとどっこいどっこいかもしれない。いやそれでもザンクティンゼルよりかは大きいか。

 

「小さな島ねえ、こんな所に何があるんだか」

「そう言う事言うなメドゥ子。正式な依頼なんだから」

「人間って面倒ね。こうやってせこせこと働くんだから」

「星晶獣と違ってね、人間ってのは働いて金を得てそれで飯を食うんだ」

「ふーん」

 

 こいつ何時も「ふーん」って言うな。興味有るのか無いのかようわからん返事しやがってからに。

 

「騎空団に入った以上やる事はやってもらう、星晶獣だろうとな。今日はお前も団員として連れてくんだから頼むぞ」

「任せなさいっての、偉大なる星晶獣の力見せてやるわ!」

 

 それもう殆どダメな前振りじゃないですかー、やだー。

 まあメドゥ子には大して期待はしないでおこう。今回の場合依頼でメドゥ子を連れてきた場合どうなるかと言う確認の方が重要なのだ。

 

「相棒、準備出来たぜ」

「あいよ」

 

 必要な荷物を持って船を降りる。だが依頼で言われた遺跡には直接は行かない。船が停められる場所から遺跡までは距離があり中間地点に宿泊できるような村はない。そのためまずは船から移動して拠点を作る必要がある。

 船を無人にするわけにもいかないので、調査メンバーは俺とB・ビィにゾーイ、マグナシックスからコロッサスとセレスト、そしてルナール先生と新人のメドゥ子、最後トレジャーハンターのマリーちゃんとカルバさんの九名以外は待機組だ。

 

「荷物多い依頼はコロッサスいると助かるわほんと」

「マカセテ! (o・ω´・b)」

 

 食料やらの荷物は殆どコロッサスが運んでくれるので非常に楽だ。コロッサス一人で五人分の荷物は軽く運べる。

 

「私エンゼラ待機がよかったわ……」

「悪いけどルナール先生も頑張ってもらいます」

「けどわたし向いてないでしょ、調査なんかに」

「いやなんか文献とか遺物のスケッチ記録残す時なんか居ると助かるなあって」

「まあその位ならやるけど……それで目的の遺跡ってのはどんな遺跡なのよ?」

「ルーマシーの程の規模じゃないらしい。それでも最近発見されたから詳しい事は不明だそうで……調査専門ギルドからシェロさん通して騎空団に調査依頼って妙な話だけども」

「それでこの騎空団に依頼が来るんじゃあきっと碌な依頼じゃないわね」

「不穏な事言わんで下さいよルナール先生……」

 

 前回ルーマシーでの遺跡ほど酷い事にはならないと信じてるんだから俺……。

 

「真面目な話調査ギルドで手を出し辛い理由があるって事ね」

「れ、錬金術が関わってるって……よろず屋さん、言ってたね」

「錬金術か……」

 

 婆さんのしごきで錬金術のイロハまで叩き込まれたので、簡単なポーション生成ぐらいなら俺でも出来る。だがそれだけである。婆さんでも基本は知っているようだったが専門ではなかったようだ。「そのうち良い師が見つかるだろうね」と言われたが別に期待もしてないし、そんな人が居たとして弟子になる気も無い。

 ここでカルバさんが何か思い当たったのか手を叩く。

 

「確か錬金術って何か組織あったよね? ヘルなんたらって言う」

「ああ、なんか在ったわね。あたしもよく知らないけど、もしかしたらそこと争ったのかも」

「争う……ってギルドと錬金術師が?」

「たまにあるのよ、調査ギルドみたいに歴史調査を専門にする組織と、錬金術師達のように独自の調査をする組織のぶつかり合い」

「それ普通共同調査とかしない?」

「勿論するとこもあるわよ。ただ錬金術師達って偏屈なの多いらしいのよ、だから遺跡での成果を独占したいのかも」

「つまりギルドとしては錬金術師達が勝手に遺跡掘り返さない内に、どこぞの騎空団に依頼出して得れる情報だけでも手に入れとこうって事かな」

「で、そのどこぞの騎空団が俺達、と……」

 

 予想でしかないがそんな所な気がする。

 なんだろうなぁ、これってまた面倒な事に……いやしない! 嫌な予感なんてしない! 大丈夫、きっとただちょっと調査するぐらいで終わる! 精々魔物が出る程度で終わる。間違っても面倒な仲間が増える事もない、妙な組織が来たりそれ関係のトラブルに巻き込まれたりなんて無いさ! 嘘さ!きっと……そう、そうに違いないんだ……。

 

「団長前向きに考えようとして、だんだん後ろ向きになってるわよ」

「ルナール先生、なんでわかるんすか……」

「顔、考えてる事全部出てるわよ」

 

 またかい、俺よ……。

 

 ■

 

 ニ フェイトエピソード 1000年以上前から世界一可愛い

 

 ■

 

 遥か、遥か遠い過去の事。現在【覇空戦争】と呼ばれる大戦が起こる更に前、ある島に体の弱い少年が居た。

 病を患う彼は大人達から見放され刻一刻と死を待つのみだった。だが本人はそれを拒む。自分を見捨てた大人への反発か、生への渇望か、あるいは幼い身でありながら潜在的な“探究心”がそうさせたのか。いずれにしても、ひたすらに彼は生きる事を選んだのだ。

 常人とは思えぬ頭脳、そして果てしない努力の末に彼は病を克服――否、病に苦しめられた肉体を放棄し新たなる肉体を得た。

 これこそが今尚空で受け継がれる人の業【錬金術】の興りであった。

 そして時は流れ今、遥か時を超えファータ・グランデのとある島で一人の錬金術師が目覚めた。

 

「……どう言うこった、これは」

 

 ”彼女“はただ一人呆然としながら呟いた。自分の周りはボロボロになった建造物、人の気配は無い。廃墟となったその建物の中に彼女は一人いる。だが彼女は何故ここに自分が居るのか、その事に対して戸惑ったのではない。何故自分は、今目覚めたのか? と言う事が疑問だったのだ。

 

(この風化具合、かなり時間が経ったようだな……)

 

 彼女は自分のいる建物の内部を歩き回る。この場所は辛うじて建物である事はわかる程度にまで風化していた。天井には穴が開き、日の光が入り込む。柱は崩れ落ち、木製の扉などは完全に壊れていた。

 

(この場には誰もいねえ……だとしたら自然に封印が解けた? いいやちげえな、いくらあの若造共でもそんな雑な“封印”をするわけがねえ)

 

 一見して可憐なうら若き少女である彼女は、とある理由からこの地に封印されていた。それは気の遠くなるような時間であり、その間彼女に出来る事は無い。ただ眠るような感覚を感じる程度だったろう。

 それが今になって解き放たれた。これは彼女にとっても予想外であり、何か自分にとって理解しがたい“何か”が起こった事は確かだと彼女は考える。だから自分は今ここで目を覚ましたのだと。その“何か”とは何であろうか?

 

(幸運だとでも言うのか? 前兆も無く急に、何故このタイミングで偶然封印が緩んだ。外的要因があったはずだが……封印が解けるような強い要因、島の浮力変動、術式に綻びが生まれる程の天変地異が連続で起きた? だがそんな規模の異変そうそう連続で起きるはずはねえし……ちっ! 流石に材料がすくねえな、こりゃ考えるだけ無駄だな)

 

 今この答えは出ない、そう判断し彼女はこの事は一度横に置く。すると彼女は目覚めた時に携えていた一冊の本を手に取り意識を集中させた。すると奇妙な事に彼女の周りの空気がざわめきだす。

 

(……よし、起きたばかりだが力は鈍ってねえ……流石オレ様だぜ)

 

 何かを確認できた事に納得できたのか、彼女は本を閉じる。

 

(しかし、無人の状態で偶然封印が解けたとしか言えねえ状況とはな。流石にこれは予想してなかったぜ。まあラッキーって事で今は済ませておくとするか。さあて……どんだけ時間が経ったのやら。馬鹿共に見つかる前にとっとと島出て、まずは今の空を調べねえとなあ)

 

 彼女は早々にこの辛気臭い廃墟を後にして、島からどう移動するのか等様々な事を思案する。如何なる理由かは不明であるが、彼女はいまここにただ一人であり頼れる伝手も無い。それでも「どうにかできる」と言う自信が彼女からは溢れているのだが、しかし協力者と言う者は居て困るものではない。

 

「……おいおい、ここかよ遺跡って?」

「い、遺跡って言うか……は、廃墟?」

「こりゃスリルどころかお宝も期待できないかもね」

「ええー無駄足じゃない!?」

 

 突然聞こえてきた複数の声に咄嗟に彼女は身を隠した。物陰から声のした方を覗くと、とある集団が廃墟内に現れた。

 

「事前情報が少なかったとは言えこれかー。罠も無いんじゃなー」

「罠よりもお宝でしょ!? 金貨一枚もないわけ!?」

「まあ広さはあるからなんかあるんじゃないかね。ここをキャンプ地とする、それから建物内を探るとしよう」

「キャンプかあ、ご飯は何を作るんだい団長」

「ゾーイ? ご飯もいいけど先ず調査ね?」

「わかっている。頑張ろう」

 

 妙な集団だった。女が多いかと思えば妙な黒いナマモノもいる。それと明らかに人じゃない存在もいた。

 

(何者だアイツら? 調査とか言ってたが、こんな廃墟の調査に来たのか?)

 

 彼女にはここに価値がある様な物は何もない事を知っている。だが建物が廃墟と化す時の流れの中でそう勘違いされたのだろうと理解した。

 

(あと一人地味な男がいるな……まあいい、天佑神助ってやつだ。あいつらを利用するとしよう)

 

 一人集団の中に騙されやすそうな男が居る事を確認すると、彼女はニヤリと笑った。

 これが自称「世界一可愛い美少女」と、他称「全空一しっちゃかめっちゃか」な少年の出会いである。

 

 ■

 

 三 ある意味お宝

 

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 歩きたどり着いた目的の遺跡であるが俺達は肩透かしにも似た感覚を味わっている。遺跡と聞いていたが、目の前にあるのは廃墟と言っていい場所だった。遺跡も廃墟も一緒のように思われるが、これははっきりと廃墟と言える。壁は崩れ屋根は落ち、柱は倒れボロボロの建築物と言った風だ。

 

「古い時代によくある建築様式だね。教会とか集会所とか……そう言う場所だったんじゃないかな」

 

 カルバさんの見解としてはつまり一般的な建物、と言う事らしい。それでもはっきりと断定はできない以上、調査を依頼された俺達としてはここの調査を行う必要がある。しかし廃墟と言う事でテンションが落ちたトレジャーハンター二人であるが、それでも大きな建物であるのは間違いない。それにここに錬金術関係の資料があると予想された以上何かがある可能性がある。

 

「ねえルナール先生、これ宝石類があれば報酬にしていいって話だったけど」

「これはアレね。そもそも宝石の類が無いだろうって思ったからそう依頼出したわね」

「やっぱそうかなあ……」

「チョット(´・ω・`)ザンネンダネ」

 

 エンゼラ修復に当てたかったんだけどなあ。これは余り期待しないでおこう。

 

「ルナール先生はここの外観とか内部のスケッチをして置いてください。調査資料として提出しますんで。セレストはルナール先生の補助と護衛な」

「わかったわ」

「りょ、了解……」

「マリーちゃんとカルバさんは予定通り調査頼みます」

「了解、もうあんま気が乗らないけどね」

「罠ないかなあ……」

「無くていいのよ!」

「コロッサスとゾーイはキャンプ番頼む。魔物が荒さんとも限らんからな。暗くなる前には切り上げようと思うから、食事の準備もお願い」

「(*`・ω・)ゞカシコマ!」

「了解だ団長」

「んでB・ビィとメドゥ子にメドゥシアナは俺と調査な」

「おうよ」

「むー……」

「なんだメドゥ子?」

 

 そしてメドゥ子が省エネのメドゥシアナに寝そべりつつ顔を膨らませてた。何だコイツ。

 

「つまんない! 魔物も出ないし、ぜんっぜんアタシの活躍ないじゃないのよ!」

「魔物は出なくて良いの。それに今から調査の仕事だ」

「そんなの面白くない!」

「我がまま言わない、ほれいくぞー」

「あ、こらっ! 引っ張るなあー!」

 

 我がままメドゥ子を掴んで建物内部奥へ入る。入り口付近はボロボロであるが、奥のほうはまだ無事なようである。辛うじて壁や屋根が残っている。だが当然人が居ないので明かりはない。壊れた壁や屋根から入る僅かな明かりが頼りだ。

 

「さて何だろうなあここ」

「生活の跡もねえし、あまり使われなかったのかもしれねえなあ」

 

 フヨフヨと浮かんでB・ビィが辺りを見渡すが何も無い。椅子だとか机だとか、家具らしいものの残骸一つなかった。

 

「隠し部屋とかあるんじゃねえか?」

「どうだかな。メドゥ子の意見は?」

「知らないわよ」

 

 メドゥ子はつまらなそうに足で瓦礫を蹴ったりしている。仕事しろ馬鹿。

 

「マリーちゃん達、そっちはー?」

「なんもないよー」

「部屋とか全部まだ見てないからハッキリ言えないけど、これほんとただの廃墟かもしれないわ」

 

 隣の部屋からは、二人の明らかに気落ちした返事が返ってきた。

 

「俺達奥見てみるからこっち頼むね」

「はーい」

 

 建物はまだ奥があった。何も無いくせに無駄に広い。仕方なく成果を求めて俺達は奥へ奥へ、瓦礫を踏み超えてすすむ。すると建物の一角にドーム状の空間がある事に気付く。

 

「おい相棒、こりゃあ奇妙な場所だぜ」

「何かしらこれ、星晶獣じゃないみたいだけど」

「ガアァ……!」

 

 不思議な事にこの空間に入ってから妙な空気になった。B・ビィもメドゥ子もメドゥシアナでさえも身構えている。

 

「お宝じゃないが、これは……」

 

 奇妙な力が働いた様な気配、と言うより働いていたと言うべきだろうか? 力がだんだん薄れていっているような感じがする。さっきまでここに何かあったような気配だ。何かあったとしたら、出遅れて何処かの盗掘者や錬金術師が先に貴重品を漁ってしまったのか。その可能性を考えていたが、ドームの下にある祭壇の様な場所に人が一人倒れているのが見えた。

 

「おいおい、何だってこんな所に……」

 

 慌てて駆け寄るとそれはまだ小さな少女だった。廃墟に場違いにも小奇麗な服に身を包んだ少女。気を失っているのだろうか、目は閉じているが息はある。

 

「……他には誰も居ないな」

「ああ間違いねえ。オイラ達だけだぜ」

 

 辺りを見渡しても俺達以外他に人は居ない。一人でこんな場所に来たとでも言うのか?

 

「何かしらねこの人間」

「わからんが放置ってわけにはいかんだろ。とりあえず保護しよう……うん?」

 

 少女の傍に一本杖が落ちている。手にとって見ると十字型の杖に蛇が巻きついたような装飾だった。

 

(唯一のお宝らしい物かね)

 

 杖をベルトに固定してから俺は少女を抱え一先ずキャンプへと戻る事にした。お宝でなく女の子が見つかるとは、これはなんだか面倒な事になりそうだ。

 

 ■

 

 四 団長、遺跡に美少女が!?

 

 ■

 

 調査を切り上げてキャンプへと戻った俺達は、一先ず保護した少女の安否を確認した。呼吸も脈拍も正常。苦しんでいる様子も無く、ただ眠っているようだった。

 廃墟に少女と言う違和感は拭えないが、彼女の世話をセレストにまかせ他の面々で彼女についての事を夕食として煮込みつつあるシチューを囲みながら話し合う。

 

「地図で確認したけど近くに村は無いわ。一番近くても大人で半日はかかる距離だし、こんな子供が一人で来ると思えないけど」

 

 マリーちゃんが広げた地図を指さし説明する。この廃墟の周辺には村は無く確かに人里離れた廃墟だ。ますます謎が深まる。

 

「明日の引き上げで、どっか村によって行方不明とかの子供が居ないか調べよう」

「シンパイダナァ(o´・ω・)」

 

 どこかの村に預けるかシェロさんに頼んで親を探してもらうかしないといけないなあ。

 

「まあ遺跡調査はもう終わりってことで良い。目ぼしい貴重品や錬金術関係資料は無かったけど、ルナール先生にスケッチ資料描いてもらったからそれを提出って事でいいだろう」

「あーがっかり。最初話聞いた時は期待できたんだけどなあ」

「まあこう言う事もあるよねえ」

 

 トレジャーハンターコンビはすっかり脱力してる。彼女達にとっては無駄足もいいところだろう。

 

「まあ依頼報酬は出るんでそれだけは救いかな」

 

 報酬だけでもそれなりに良い値段だった。今回はそれで良しとするしかない。

 そしてそろそろ鍋が煮えてきたので話に切をつけ夕食を取ろうと思ったのだが、テントから出てきたセレストの声で中断された。

 

「だ、団長……!」

「どしたセレスト?」

「あ、あの子……目を覚ましたよ」

「なんと!」

 

 それは朗報である。意識が戻るのなら一安心だ。俺も皆も立ち上がりテントに向かう。

 

「失礼、入るよ」

「はーい☆」

 

 テントに入る前に声をかけたのだが、妙に調子の高い返事が返ってきた。奇妙に思いつつ中に入ると、簡易ベッドに腰かけるあの少女がにこやかに笑って出迎えた。

 

「……えっと」

「あ、ねえねえ☆ お兄さんが助けてくれたの?」

「あ、うんそうだけど」

「ありがとーっ☆ 急に悪いオジサン達に攫われて、こんな所に連れてこられちゃったの……とっても、とっても怖かったぁ~~っ!」

 

 何だろう、表情がコロコロ変わってテンションが妙に高い。それになんだこの違和感、目を覚ました彼女と対峙した途端奇妙な違和感が膨らむ。

 それと君言葉なんか独得だね、まるで星が散りばめられてるみたいだ。

 

「君は人攫いに遭ったのかい?」

「そうなのぉ☆ こことは全然別の島で暮らしてたんだけどぉ、行き成り眠らされちゃって……」

「そうかあ、気の毒になあ」

「わあっ☆ お姉ちゃん、ありがとぉ!」

 

 ゾーイがよしよしと少女の頭を撫でている。それに安心したのか、少女はうっとりと……うっとり? うん、なんでかしらんがうっとりとした表情を浮かべていた。

 

「なーんか変な人間ねえ」

「ガアアァ」

「きゃあっ☆ なぁに、おっきい蛇がいるぅ!」

 

 おっとメドゥ子はともかくメドゥシアナの見た目は、少女の寝起きにはきつかったかもしれない。

 

「安心してくれていいよ、この蛇……メドゥシアナって言うんだけど、大人しくて良い奴だから」

「ほんとぉ?」

「グアアァ」

「わっ☆ 本当だぁ、お利口さんだね!」

 

 そうだよ、と言うようにメドゥシアナが頭を降った。素直で良い子だ。

 

「ちょっと、何であんたがメドゥシアナの紹介すんのよ!? アタシのメドゥシアナなんだからね!」

「誰でもいいだろ紹介ぐらい」

「よかないの! 第一メドゥシアナ紹介するならアタシも紹介しなさいよ馬鹿人間!」

「人前で馬鹿人間呼ばわりすなこの野郎」

「あだっ!?」

 

 ちょい強くデコピンをすると、メドゥ子が仰け反った。

 

「あははっ☆ 変な子だねっ!」

「なっ!? 誰が変な子よ!?」

「いやメドゥ子ちゃん結構変だと思うよ」

「そうね、メドゥ子は結構変よ」

「あんたら石になりたいのっ!?」

 

 カルバさんとマリーちゃんに向かって蛇の様にシャーッ! と威嚇するメドゥ子であるが、全くもって怖くない。ほんとこう言う小動物系の姿は可愛いのになあ。

 

「いい人間の小娘! アタシはねえ、石化の魔眼を持つ誇り高き星晶獣メドゥーサなのよ! あんたのような愚かな人間とは違う偉大な存在なのよ!」

 

 こいつ初対面の子供に向かってなに意地になってんだ。

 

「……ほお?」

 

 あれ、今少女の様子が……気のせいかな?

 

「貴方達、目が覚めたばかりの子が居るのに騒がないの」

 

 ルナール先生が騒ぐ俺達を見かねて注意する。確かに狭いテントで騒ぎすぎたな。いかんいかん。

 

「そうだ、体の調子がいいなら食事はとれそうかな? 丁度食事が出来たんだけど」

「いいの? 実はとってもお腹がすいちゃってるの」

「いいよ、シチューだから食べやすいはずだ。それじゃあ、えっと……ああ、君名前聞いていい?」

 

 うっかり名前も聞かずに話していた。このままでは名無しの少女である。

 

「そうだった、まだ名乗ってなかったねっ☆ あのね、名前はカリオストロって言うの。お兄さん達、よろしくね☆」

 

 ■

 

 五 自己主張すごーい

 

 ■

 

 廃墟で見つけた少女・カリオストロ。目を覚ましてから食事を共にしながら色々と話を聞いた。何故遺跡に居るかは目が覚めた時に話した通り、人攫いに遭い連れ去られたかららしい。犯人らしき人間が居ないのが気になるが、それを被害者であるカリオストロちゃんに聞いても意味はないだろう。

 

「カリオストロちゃんは何処の島に居たんだい?」

「えっとねえ……お兄さん、何か地図とかあるぅ? 出来ればおっきな、地図がいいなあ」

「大きい? ああ、空域全体図の方ね。あるよ、はいこれ」

「ありがとっ☆」

 

 俺から地図を受けとった彼女は、地図を広げると妙にそれをじっくりと眺めた。地図が好きなのだろうか。渋い子だな。

 

「……なるほどなぁ」

「うん? どうかした」

「ううん大丈夫☆ カリオストロねぇ、この島に居たの!」

 

 彼女は地図上の一つの島を指差した。

 

「行けない距離じゃないが完全に反対方向だな。悪いカリオストロちゃん、俺達の船で送りたかったけど無理そうだ」

「お船? お兄さん達お船持ってるの?」

「ああそうだよ。俺達騎空団なんだ」

「そいつが一応団長なんだぜ。地味だけどな」

「張っ倒すぞB・ビィ。カリオストロちゃんは船に興味あるのかい?」

「うんっ☆」

 

 可愛らしいポーズをとって笑顔で答えるカリオストロちゃん。うーむ子供らしい反応、なのだが本当になんだろう……違和感が更に膨らむ。

 

「それじゃあどこかの島まで君を送るよ。そこからは、俺の知り合いで頼りになる人が居るから、その人に頼んでお家まで送ってもらおうね」

「はーい☆ 何から何まで、ありがとお兄さん!」

 

 彼女はお礼を言いながら俺の腕に抱きついてきた。

 

「こらこら、急に来ると危ないから」

「えへへっ☆ ごめんなさーい☆」

「やれやれ」

 

 妙にくっついて来るが、甘えたい盛りなのかね。歳相応と言えばいいのか、しかし彼女歳幾つなんだろう、二桁は入ってるだろうけども。

 

「……相棒、お前どうした?」

「んは? 何が?」

「いやだって、お前……反応が普通過ぎじゃんか」

 

 B・ビィが信じられないものを見るように言う。何だと言うのだろう、普通なのは良い事じゃないか。

 

「……そう言えばそうね。団長、彼女見てなにも思わないの?」

「いや、ルナール先生も何言ってんすか?」

「ア、ヤッパリ(´・ω・`)ミンナモオモッタ?」

「さ、さっきから……団長、普通すぎるよね……」

「ああ違和感はそれかあ……私も不思議だったんだ」

「お前等もか……」

 

 コロッサス達までなんだって言うんだ。俺が普通じゃいかんのか。

 

「ねえねえ、何が変なの?あたしは普通に見えるけど」

「ああそうか、マリー達は入団したばっかだからな。相棒はそりゃあもう可愛い女に弱い」

「誤解与える言い方するな!」

 

 お前そう言う事言う奴いるから妙な噂広まるんだからな! 迂闊に言うんじゃないよ馬鹿野郎!

 

「えーやだー、団長ってば女好きなのー?」

「えーちょっと幻滅かもかもー?」

「ほら見ろこうやって揶揄うやつ出る!!」

「あっはっはっは! 馬鹿人間どころか、とんだ変態野郎だったわけね!」

「なんだと、この野郎!」

「きゃー! 触らないでよ変態!」

「うるせえ、馬鹿野郎!」

 

 ほんっと直ぐに調子乗るなこの小娘星晶獣!!

 

「まーたじゃれ合ってるわ……」

「メドゥ子ちゃんも懲りないねえ。それでB・ビィ、団長が普通の反応なのがおかしいのって?」

「なんて言うかなあ、相棒って露骨に可愛いもん見るとこれまた露骨な反応みせんの。白目向いたり硬直したり」

「わかりやす過ぎか!?」

「心労と胃痛による反動なのね。こんな私のおねだりでさえ反応したのに」

「ルナールが仲間になる時にしたと言う話だったね。けれど私はルナールも可愛いとおもうよ。だから団長も反応したのだろう」

「あ、ありがとゾーイ……ただあんま言わないで、恥ずかしいから」

「き、基本団長は……ハーヴィンに弱いね……何かとね……ふひ」

「だからロリコン団長とか言われるんだよな」

「あんたロリコンなの!?」

「ちげえ馬鹿っ!? B・ビィ、お前ほんと余計な事言うんじゃねえ!」

 

 あと露骨に引くんじゃねえメドゥ子てめえ!!

 

「まあだからよ、カリオストロに抱きつかれたりしてんのに反応普通過ぎてちょっと不思議でよ。もうちょっと露骨な反応すると思ったんだけどよ」

「ね……だ、団長の好みどんぴしゃと思ったんだけど……」

「あーもーお前らいい加減にせい! カリオストロちゃんも困っちゃうでしょ!」

 

 暴れるメドゥ子を抑えて怒鳴る。このままでは俺が本当にロリコン扱いされかねない。こんな小さな子がいるのに変な話しないでくれ。

 

「……ねえねえ☆ お兄さん」

「ん、ああごめんねカリオストロちゃん、何かな?」

「カリオストロ、かわいくないの?」

 

 え、それ聞くの? ええーマジでー……。

 

「いやいや、カリオストロちゃん今のはこの黒いナマモノの戯言だから……」

「いいから早く……こ・た・え・て・ねっ☆」

 

 ちょっと何この威圧感、子供の出せるものじゃないよこれ、ねえ!? そんな威圧するような質問ですかね!?

 

「ま、まあそりゃ可愛い……でしょ?」

「なぁ~んではっきり言わないのかな?」

「いやいや、ほんと勘弁して……!」

 

 様子がおかしいカリオストロちゃんに思わず後ろに下がる。座ったままだったのでなんとも情けない格好だが、向こうは構わず俺に迫ってくるので体勢を立て直す事ができない。

 

「可愛い、可愛いから!」

「心が篭ってないぞっ☆」

「か、可愛いよ!」

「もっと、もぉーと☆」

「可愛い! カリオストロちゃん可愛いよーーーーっ!!」

「もう一声ぇ~☆」

「あーもう、可愛い! カリオストロちゃん可愛い、世界一可愛いよっ!」

「あはっ☆ そうだよ、世界で一番可愛いのは、カリオストロなんだよ☆」

 

 ええー……何この子こう言うタイプなの? ちょっと意外すぎるでしょ……。

 

「うわあ……子供に向かって必死に可愛いって叫んでるわ、あの馬鹿人間」

「言ってやるなメドゥ子、相棒も必死だ」

 

 うるせえ星晶獣(笑)!

 結局その後も可愛いと何度も言わされ、一生分可愛いと叫んだら満足したのかカリオストロちゃんは再び眠りについた。

 疲れた……。

 

 ■

 

 六 正体

 

 ■

 

 一夜明けカリオストロちゃんと言う少女以外には何も見つけられなかった俺達は、最早用も無くなった廃墟を後にする。

 途中島にある村にカリオストロちゃんを預けると言う話も出たのだが、カリオストロちゃん本人の希望でエンゼラで別の島まで贈る事になった。

 

「船までは結構距離あるから疲れたら言ってね」

「はーい☆」

「コロッサス、カリオストロちゃんもし疲れたら肩にでも乗せてあげて」

「(*´ω`)イイヨ!」

 

 帰り道で足場の悪い林の中に入る。子供のカリオストロちゃんには辛いかもしれないので気にしておく。

 だが荷物が増えるかもと思った帰りだったが、物的成果が無かったおかげと言うのもおかしいが、食料を食ったのもあってむしろ軽くなった。行きの時よりも少し気楽に足を進める事が出来るだろう。

 

「何だってアタシが荷物持ちなんて……」

 

 そしてぶつぶつ文句言いながら荷物を背負うのはメドゥ子である。

 

「行きの時お前メドゥシアナに任せて何も運ばなかったろ。帰りぐらい運びなさい」

「おーもーいー!」

「嘘言うなお前一人分の寝袋程度しか入ってねえんだから。それともその程度の量持てないぐらい軟弱な星晶獣なのかお前は」

「ぬぐぐぅ……!」

 

 軟弱だと認めるのが嫌なのか恨めしい形相で俺を睨むメドゥ子だが、もうそれ以上何も言う事はなかった。

 

「……お兄さんの仲間って面白い人が沢山なんだね」

 

 メドゥ子とのやり取りを見て、カリオストロちゃんはそう言う。だがこいつらを面白い、で済ませていいのだろうか。うっとおしいだけの奴もいるのだが、初見じゃ面白いと思うのかね。

 

「まあ愉快な奴らだけどね」

「それとメドゥ子ちゃん達が星晶獣って本当?」

「本当だよ。そこのメドゥ子と言い威厳の“い”の字もありゃせんけども」

「あるでしょ!?」

 

 ねーよ。

 

「……星晶獣が騎空団の仲間になるのは普通なの?」

 

 ははは、何を言うやら。

 

「ぜっっったい、普通じゃないよ」

「普通じゃあねーな」

「普通ではないだろうね」

「フツウジャ( 。-ω-)ナイヨネ」

「ふ、普通じゃ……無い、よ……ふひ」

「普通なわけないじゃない」

「ガアァ」

「普通ではないわね」

「普通じゃないでしょ」

「普通じゃあないよねー」

「そ、そうなんだ……ふーん」

 

 俺だけでなく他のメンバーまで次々と否定するのでカリオストロちゃんがちょっと引いてた。

 

「と言うかおかしいわよ、コイツの騎空艇星晶獣8体いんのよ」

「お前が入団したから9体だ。メドゥシアナ含めるなら10体……」

「キィ!」

「カァ!」

「団長、ディ達を忘れているよ」

「ああごめんごめん、ディとリィも……あとニル達もいるから15体?」

「普通に考えて頭おかしいわよここ」 

 

 お前もその頭おかしい騎空団の一人なのだぞメドゥ子。

 

「……ふーん」

「……カリオストロちゃん、どしたの?」

「ん、なんでもないよ☆」

 

 ……この子一瞬雰囲気が変わるよな。昨日は気のせいと思ったが、今のは流石に気のせいではないぞ。

 そもそも発見された状況が可笑しい、一夜過ごし浮かんでくる違和感だけではない疑問の数々。果たしてこの少女の正体は何者なのか。廃墟の中に一人眠らされていた少女。攫われたとして身代金目的なのか? 小奇麗な衣類から裕福そうな印象も確かにあるが、だとして気になるのは犯人は何処へ消えたのか。

 

「……ねえあんた」

「うん? なぁに、メドゥ子ちゃん☆」

「メドゥ子って言うんじゃない!」

 

 不意にメドゥ子がカリオストロちゃんに話しかけた。変な事言うんじゃないだろうな。

 

「気になったんだけど、あんたそれ大事そうに持ってるわね」

「この本の事?」

 

 カリオストロちゃんは手で抱える大きな本を見せた。彼女を発見した時から腕にしっかりと抱えていた本だ。特に聞かなかったが小さな手には大きすぎるハードカバー。装飾までつけられ、明らかに彼女程の年頃の少女が読むような本でもまして持ち歩くような本ではない。

 

「そうよ、何の本なの?」

「これはパパに貰った本なの☆」

「えらい分厚い本読むのねあんたって。ちょっと見せてよ」

「えぇ~? メドゥ子ちゃんにわかるかなぁ?」

「馬鹿にすんじゃないわよ!? 貸しなさい! 悠久を生きる偉大な星晶獣の知識を聞いて驚くがいいわ!」

「あ、コラメドゥ子乱暴な事するんじゃないよ!」

 

 半ば奪い取るようにメドゥ子がカリオストロちゃんから本を奪い、パラパラと頁を捲っていった。視線は動いているが頁を捲る速度が速すぎる気がするぞメドゥ子。

 

「…………」

「……メドゥ子、内容わかったのか?」

「………………まああれよ! 愚かな人間の考える事を態々説明する必要もないわよね!」

 

 はいはい、知ってた知ってた。どーせそんなこったろうと思いましたよ。

 そもそも星晶獣だから何でも知ってるなんて言うのが間違いなんだよ。基本的に星晶獣なんて覇空戦争終わってから殆ど寝てるんだから。メドゥ子にいたっては多分騎空艇にちょっかいかけるだけだったんじゃないのこいつ?

 

「ほれ満足したら返してあげなさい」

「ちゃんとわかってるんだからね! 勘違いするんじゃないわよ!?」

「わかったわかった」

「ガァァ~……」

 

 メドゥ子はプリプリしてメドゥシアナが哀れむような表情をしている。表情からお察しである。

 このままメドゥ子に本持たせてると汚しそうなので取り上げる。人様の本なのだからはよ返しなさい。

 

「ごめんねカリオストロちゃん、メドゥ子のわがまま聞いてもらって」

「ううん☆ 気にしなくていいよ!」

「はは……カリオストロちゃんは大人だなあ、こんな分厚い本も読めるなんて勤勉でもある、し……」

 

 開いたままであったため、ふと視界に入ってきた本の一頁。おびただしい文字の羅列、記号、図、術式――間違いなく子供の読む本ではない。だが問題はそこではない。

 

「あれ、どうしたのお兄さん?」

「……カリオストロちゃん、君は“錬金術”の心得があるのかい?」

 

 俺が口から出した言葉に反応し、カリオストロちゃんの表情が変わる。笑みは消えていた。他の皆も錬金術と聞いて驚いた様子だ。

 

「……お兄さん、それが“読める”の?」

「一般人が見たらミミズが這うような文字だ。実際メドゥ子もわからなかったろうよ」

「だからわかってるっての!!」

 

 隣でメドゥ子が咆えてるが無視する。

 

「だがこれはこれで正解だ。これを術式だと知っていれば自ずと意味を理解できる」

「ほぉう?」

「それも信じられないほど高度で精密な術式、君みたいな子供が出来る業じゃないなあ……ただの子供ならだけど」

 

 ザンクティンゼルのばあさんの言葉を思い出す。

 

『錬金術ってのはねえ、卑金属を貴金属へと変える業と言われている。けどそれは錬金術師にとっては副産物の様なもの。彼らの究極の目的はこの世の解明、あるいは離脱……私達が生きるこの世界、つまり物質と言う領域を飛び出して全てを知り尽くしたいのさ』

『とんだ欲張り連中だ』

『フェフェフェ……間違いないね。私も熱心な錬金術師と会った事はあるけど、仲良くなろうとは思わなかったね』

『けどそいつらはどうやって全てを知るつもりなのさ? 人の命は有限だぜ?』

『言ったろう、物理を飛び越えるとね。肉体と言う物質に縛られなくなれば永遠に存在できるだろう? 尤も今それを出来る錬金術師はいない。けどただ一人、嘗て錬金術を興した開祖は成功したと言われてる。いいかい? 錬金術覚える以上は記憶しておきな、開祖の名前は――』

 

 錬金術なんて久しく使ってなかったから忘れてたが、今ハッキリと思い出した。

 

「カリオストロ、錬金術の開祖の名前だ」

「ふーん? カリオストロと同じ名前だね」

「ああそうだ、偶然……普通そう思うよ。普通はね? 偶然君はカリオストロで偶然君は錬金術の心得のある少女」

「そうそう☆ ぜーんぶ偶然だよ?」

「ただ俺は異常な偶然にばっかり遭う」

 

 これをただ名前の一致と言う偶然で終わらせるには、俺の身に今まで起きて来たトラブル経験上楽観的過ぎる。

 

「それに……この複雑極まる術式、まったく驚いた。こりゃ人体練成の手順じゃないのか? 心得があるとしても普通子供はこんなもん興味持たねえよ」

「……詳しいねえ、お兄さん」

「言っとくが俺は錬金術師じゃねえよ。知識だけしこたま詰め込んでるが、俺に出来る事は精々ポーション生成だけさ。返すぜ」

 

 閉じた本をカリオストロへと投げ返す。慌てた様子もなく彼女はそれを受け取った。

 

「君をただの子供と思うのは止めるよ。確証はないが断言していい、君は錬金術師だ。それもただの錬金術師じゃないな」

 

 俺がそう言うと暫し無表情であった彼女は急に笑みを浮かべた。だがそれは少女の笑みではない。

 

「オレ様とした事がどうやら……考えが甘かったようだなあ。普通この本を読んで内容を理解できる奴なんていねえと思ったんだが……」

「だからメドゥ子にも読ませた?」

「ああそうだ。星晶獣だとしても、よっぽど錬金術に精通してなきゃ意味も分からねえだろうぜ」

「よかったなメドゥ子、わからなくても普通だとよ」

「うるさい!」

 

 わはは、涙目でやんの。

 

「尤も今じゃあ魔術と錬金術の発動媒体みてえなもんだ、中身はオレ様にゃあもう必要もねえ。なんせ全部頭に入ってるんだからなぁ?」

「……お前は何者だい?」

「とっくにわかってんじゃねえのか、坊主?」

 

 こいつ、やっぱりそうなのか? 正直“そっち”は半信半疑だったんだが。

 

「だ、団長この子なんなの? 全然雰囲気違うんだけど」

「マリーちゃん下がってて。敵じゃないけどね……今の所だけど」

 

 もし“本物”だとするとコイツは下手な星晶獣よりもやっかいかもしれない。だがそうだとすれば、昨日の感じていた違和感や遺跡であった力の残魂の理由が見えてくる。

 

「開祖カリオストロは死んでる。そもそも1000年近く前の人物だから当然だ」

「ああそうだなあ」

「だが“彼”が錬金術師の中で唯一、開祖だからこそ到達できた領域に居たのなら話は別だ。錬金術ってのはそういう業なんだろう?」

「ポーション生成しか出来ないって言う割に良く知ってるじゃねえか?」

「知識だけは詰めたって言ったろ。それでどうなんだ? そもそも俺達に近づいた目的は――」

 

 目的は何かと言い終えようとした時、俺とB・ビィ達は一斉に身構え武器を構えた。目の前の少女が臨戦態勢に入ったから? 違う、これは更に別の集団から向けられた殺気だ。

 

「……どうもややこしい事になりそうだぜ」

「そうらしいな坊主」

 

 カリオストロも俺達同様に殺気に対して身構えた。

 どうやら林の中木々に紛れて近づいて来たらしい。カリオストロに気取られ油断したかな。既に周囲を囲まれている。

 

「出て来いよ、もう居るのはわかってんだ」

 

 俺が呼び掛けると返事は無いが、代わりに木の陰から一人男が姿を見せる。

 

「どうも、お初お目にかかります」

 

 出てきた男は如何にも胡散臭い表情と話口で、俺が特に嫌いな感じのタイプだった。

 そんな男を見て俺は今回の依頼を受けた事を少し後悔した。

 

 




後半へ続く

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