2019.02.27 団長のガルーダの呼称を「のじゃ嬢」から「のじゃ子」に変更、統一しました。
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一 晴れたトラモント
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「いやはや……全く面目次第も無いわい」
広い居間、そこにあるソファーで何人かの団員と共に寛ぐ。そこで机をはさみ目の前で髑髏が頭を垂れている。
いや、つまりこの髑髏は星晶獣“不死の王”リッチであるのだが、なんとも今では大人しいものだ。昨日の激戦が嘘のようである。
トラモントの草原で行われたリッチとの決戦の後、俺は殆ど力尽きているリッチを担いでフェリちゃんの屋敷へと皆で戻った。何で星晶獣を人間の俺が担がなきゃいかんのか。
幸いであったのはフェリちゃんの家が屋敷であった事。当然普通の家よか広いのでうちの団員を皆見ることが出来た。
もう俺も皆もヘトヘトだったのでその日は取り合えず休む。そして次の日に始まる質問タイム。はいはい、懐かしいね。ザンクティンゼルじゃいっつもだったよ。マグナ倒して質問タイム。
とにかく何故魔晶で暴走していたかだ。その事を体力の回復したリッチに聞くと、心底恥じながら奴は語り出した。
「もう大分前の事じゃ……ワシは帝国に捕らえられておった。いや、普通ならばそのような事……不死の王たる我が人間如きに……。しかしこれは言い訳よな。なんであれあの時は事情が違った。不思議な少女が奴らの中に居た。見た目はただの幼子よ。じゃがその少女は奇妙な力を持っておった。その力でワシは捕らえられたのじゃよ。油断よなぁ……なに、蒼色の髪だったか? ああ……確かにそうであったな。空のような澄んだ蒼であった。よく覚えておる。ワシは暫しその少女に使われていたのだからな。と言っても、帝国の者共こそがその少女を利用していたわけじゃが……。その娘はルリアと言うのか? そうか……娘は帝国で名など呼ばれておらなんだ。人の世に疎い星晶獣のワシが言うのも可笑しいが、酷い話ではないか、年頃の娘が物の様に扱われるなど。だからであろうなあ、彼女は心を閉ざしておるようであった。老婆心かもしれぬ、じゃがなあ……あの娘の危うさは、星晶獣のワシも見ていて辛いものがあった。だからと言うわけでもないが、そのルリアと言う少女に使役されるのは苦痛ではなかった。だがその後ワシは少女の力から切り離され、情けないが帝国に拘束された。そしてあの魔晶とか言う忌々しい宝石を埋め込まれ……その後の事はよう覚えておらぬ……」
深い溜息を吐いてリッチは項垂れた。喋り方も相まって、見た目が髑髏である事を除けばただの“おじいちゃん”のようになっている。
リッチにとっては気がついたらトラモントで突然目が覚めたような感覚だったらしい。恐らくだが、帝国の何処かの実験施設で魔晶実験の被検体にされたのだろう。ポセイドンの事を考えれば、星晶獣の制御と兵器化が目的か。しかし帝国兵の姿が無くリッチが一人暴れまわっていた事を踏まえれば、実験は失敗したかしてリッチは暴走したままに逃走。この島に流れ着き暴走を続けた……と言う所か。
「島に居たセレストの気配に呼ばれたかもな」
「かも知れぬ。同じ闇、そして不死の星晶獣。何か引かれ合うものがあっても不思議ではない話じゃ」
しかしトラモントへ現れたリッチは依然として暴走を続け、ついに嘗てのセレスト以上の猛威を振るいセレストすら霧の結界で押さえつけた。ジータの解決したポート・ブリーズでの事件、ティアマトから始まる星晶獣への魔晶被害の一つだろう。フェリちゃんも言っていたが、住民の殆どが既に開放されていたのが幸いだった。
「何であれ、もう暴走は無いだろう。魔晶は砕ききった。あんたの中に欠片一つ残っちゃいない」
「感謝するヒトの子よ。あれは……酷く疲れる」
「だろうな」
無理やり体動かされてんだから星晶獣だって辛かろうさ。
「オレ様としては、少しその魔晶を調べたかったがな」
カリおっさんが少し惜しそうにして話す。
「まさか使う気? いらんでしょ、あんな物騒なもん」
「あたりまえだ。誰が使うかあんな歪んだもの。単純な興味だよ。星晶獣を制御下に置こうとする試みは昔も今も禁忌の域だ。帝国がどう魔晶を作ったか、それを調べたかっただけさ」
「星晶獣を制御する試みは昔も?」
「しようとする馬鹿はいたぜ? 成功はしなかったがな」
コーデリアさんの質問につまらなさそう答えたおっさん。
「そもそも星晶獣を制御できるのは“星の民”だけ。そう言う事になってる。よしんば覇空戦争後に星晶獣と人が何かしら関係を持つ事があったとしても、それは今も残るような崇拝か共存の関係だ。星の民じゃねえ俺達空の民が星晶獣を完全な制御下に置くなんて考えが間違いだ」
「ふふ、うちの団長の場合は……ははっ! どうなんだろうね、くふふっ!」
ルドさんに笑いながら言われると、どうしても俺が可笑しい人間みたいだな……。
「みたい、じゃなくて可笑しいんだよ」
「……また表情筋が正直だった」
「一々考え読まれて落ち込むな。いいか? 常識的に考えて覇空戦争の時含めても、星晶獣を完全対等な仲間として騎空団にこんだけ入団させてる人間居るわけねえだろ、正しく化け物集団だぞ」
「ケヒヒ、団長はクレージーだからなあっ!」
「まったくだよ。後にも先にもこんな奴生まれてこねえだろうぜ」
それって褒めてると思っていいの? それとも変な奴って言われてるの?
「まあ今後魔晶を手に入れる機会があれば調べたいところだな。別に正義の味方ぶる訳じゃねえが、ありゃ存在するべきじゃねえ代物だ。調べりゃ対魔晶のカウンターぐらい作れるかも知れねえ」
「自分も同意見であります。あれによってアウギュステが多大な被害を受けました。あのような事を繰り返さすわけにはいきません」
正義感の強いシャルロッテさんが強く頷いた。きっとこの場にはいないユーリ君がいても同様の反応を見せただろう。
魔晶の事は俺の使命と言うわけではないが、しかし気にしておくべき事だろう。
「でだ。魔晶の事はまあ今はいいとして……どうするフェリちゃん?」
俺の隣に座るフェリちゃんに顔を向ける。彼女は実に複雑そうな表情だった。
「どうする、って言われてもな」
「……お主は今この島唯一の住人だそうだな?」
フェリちゃんにリッチの先細った骨の人差し指を向けられる。
「う、うん」
「ならば如何なる言葉も受け入れよう。お主にはその権利がある。ワシはそれだけの事を仕出かした。星晶獣であり、まして不死の王であるワシはその存在が永遠、死して償うと言う事は出来ぬが償える限りの事はしよう」
「え、いやそれは……」
おろおろし始めるフェリちゃん。不安そうに俺を見てくる、カワイイ。
「別にフェリちゃんの思った事言えばいいよ。騒動のオチをつけるようなもんだし」
「……そうだな」
しばしフェリちゃんは考えた。リッチの言うように今この島の住民はフェリちゃんだけ。俺も島に居る方のセレストも結局は余所者だ。此度の騒動での被害について何か言う事が出来るのは彼女だけだ。
「……島は傷を負った。草木も枯れ、大地の実りも多く失われた。それは確かにリッチの所為だろう。けど、きっとそれはまた蘇る。全ては失われていない、なによりも島が無事ならまた元に戻る。枯れた草木も大地へと還り、何時か根を張り新たな芽を出すはずだ。それに……リッチ、もう貴方は島に害を為さないのだろう?」
「無論」
「なら、それでいい……元々魔晶が原因の事、貴方も望んでやった事じゃない。私は皆が眠るこの島が無事なら、それ以上望む事はないから」
「……そうか」
フェリちゃんの言葉をリッチはしみじみと聞き入った。
「すまぬ、そして感謝する幽霊の少女よ」
「かまわないよ」
穏やかなものだ。不死の王と幽霊の少女、熾烈な戦いの後の話し合い、それがこうやって平和に終わる。話しのオチとしてはこれ以上無いだろう。
「終わったか相棒?」
「朝飯出来タゾ」
そんな空気を壊すようにひょっこり現れたB・ビィとティアマト。
まだ今日は始まったばかりだ。
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ニ サァ! (*´ω`) タベテミテヨッ!
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「タ、タンコブ……出来てない?」
「だ、大丈夫だよ……もう、治ってるよ……」
ダイニングへ行くと隣り合って座るゴスロリと言うか黒衣の女性二人が互いの頭を見たり撫でたりしてる。と言うかセレスト達である。
「おう、怪我治ったのか?」
「あ、団長……う、うん……もう大丈夫」
「昨日は、ちょっと腫れたけど……平気、です……」
えへへー、とはにかむ二人。おいおい、カワイイ。
ちゃっかり人型になっているセレスト・トラモント。別に彼女がマグナ化したわけではない。やろうと思えば出来たのかもしれないが、今はただ見た目をマグナっぽくにしてるだけ。そもそも真のマグナ形態は戦闘態勢のデカイやつ、実際うちのセレストも普段は“見た目マグナ”なわけだ。
ともかく二人ともフェリちゃんの家に入るため人型になったわけである。
「オマタセ (*´ω`) デキテルヨ」
「いや、こっちこそ待たせて悪い」
既にテーブルに並ぶコロッサスによる朝食。メニューは良い意味で平凡、パンにコンソメスープにサラダとソーセージと卵焼き各種。朝食だねぇ。
「わあ、凄くいい香りだ」
「いいね、匂いだけで目が冴えるぜ」
コロッサスの料理は見た目も良い、その出来にフェリちゃんも目を輝かしている。
「早く席着きなさいよ。あんた来ないと食べれないでしょ!」
「へいへい」
メドゥ子が右側の空いた席をベシベシ叩きながら怒鳴る。そこに座れと言う事だろうから大人しく座っておく。
メドゥ子の左側にはメドゥシアナがいた。フェリちゃんの家が大きな館でよかった。大きなダイニングテーブルがあるおかげでメドゥシアナのような異形型星晶獣も狭い思いをしないでいい。
「悪いね待たせて。じゃあ食いますかね」
「ヒャッハー! 飯だぁ~っ!」
「朝の筋トレで良い汗流したから腹減ったぜ!」
「昨日あれだけ戦っても……元気な事だな彼は」
「リュミエール聖騎士団でもここまでヴァイタリティ溢れる者はそういないでありますな」
「流石コロッサスだなあ。エンゼラでなくても美味しい料理が作れるんだから。ああ、美味しいなあ」
「フフフ ( ^ω^) アリガトウ」
俺が“食ってよし”した途端に皆がナイフとフォークを手にとった。
騎空団ってのは多分一般人より飯食うとは思うけど、うちは特に食う方なんだろうな。割と食に貪欲なところある気がする。ゾーイとか特に食事に対する関心は高い傾向がある。
「うむ? このサラダ美味いな。けどこのドレッシングは初めてだ」
「ソレネ (。・ω・。)ノ キノミイレタノ」
「木の実か、ガロンゾから持ってきたのか?」
「ウウン (人´ω`*) チカクデミツケタノ」
どうやら朝早くに館の周辺を散歩して来た時にナッツ系の木の実を見つけたらしい。それはリッチの影響を奇跡的に免れた土地に残る恵みだった。砕かれた実の触感も良く、主張しすぎない風味がサラダの味を引き立てた。
他にもハーブ系の植物を見つけ料理に使用したとの事。
「しかし本当に美味しいな。本当に彼、コロッサスが作ったのか?」
「まあね。うちで一番調理巧いよ」
「イチバンハ (。´-ω) ダンチョウデショ?」
「そうなのか?」
「まあ教えたのは俺だけどさ」
前もなんか似た話したな。主にコロッサスが好きで料理するようになってからはキッチンに立つ事はあまりない。俺は人の作った飯を食いたいのだ。
まあ教えた身としては、こうやってコロッサスが作った料理を美味しいと皆が言ってくれるのを見ると俺も嬉しいものである。
「それにしてもフェリちゃんってばご飯普通に食べれたんだねえ」
「うん? まあそうだが」
ドランクさんがモグモグと食事をするフェリちゃんを見ながら話し出した。
「前来た時なんて食事する暇無かったけどさあ、幽霊なのに不思議だねえ~」
「まあ私も自分とベッポ達以外で食事する幽霊を見たことは無いな。自分でも不思議に思うよ」
「僕達が帰った後もちゃんと食事してたの? なんか痩せてない? この島じゃあお肉とかも無いだろうし大変じゃないかなあ?」
「実家の母親かお前は」
妙にフェリちゃんを気にするドランクさんだった。スツルムさんも呆れているが、そこまで気にしていない様子だった。ドランクさんがフェリちゃんを気にする理由を知っているのだろうか?
「だ~って心配じゃない。島の住民みんな居なくなったから、フェリちゃん一人だったしさあ。今回の事も僕は不安で不安でたまらなかったね。あとほら、同じ青毛仲間としてもね?」
そう言われるとドランクさんとフェリちゃんの毛の色は殆ど同じだった。不思議なものである。
「ありがとう、ドランク。けど大丈夫だ。食べなければ食べないでも生きてるられる……いや死んでるが、ともかく平気だよ」
「へ~? そうなんだねえ」
「それに幽霊で成長しない所為か、食べても特に太らないんだ。逆にこれ以上痩せた事もないよ」
フェリちゃんがそう言った瞬間この場にいる女性数名の動きが止まった。と言うか硬直してる。
「それに生身だとしても、この島で生活してれば自然の実りで十分だよ。体も動かすし、太りも痩せもしないさ」
「嫌味カッ!」
「ふええ!? な、なに!?」
「やめいティアマト。妬みなんてみっともない」
「……あいつ太ってたのか?」
「主殿の家に居た時に腹がな」
「シュヴァリエ、チクッテルンジャナイ!」
スツルムさんにバレてティアマトが赤面している。だからあんな生活やめろと言っていたのになあ。
「星晶獣が太るなんてありえないんだがなあ」
「度を超えて怠惰だったんだろ」
「ホットケ!」
ゾーイとB・ビィにも呆れられる星晶獣(笑)。多分肉体が太った星晶獣ってほんとにこいつだけだったんだろうな。ある意味歴史的発見なのかもしれない。
「しかし、ワシもいいのかのう?」
(笑)について考えてたら、テーブルの端の席に遠慮がちに座っているリッチが呟いた。しっかり彼の分の朝食も並べられているのだから遠慮する必要は無いだろう。
「いいんじゃない別に?」
「軽いなぁ団長さん……」
色々あったが終わった事だ。一々気にしてられんよ。飯食って忘れちまえ。
「人間の飯は食った事は?」
「無いな。そもそも“食事”をした事が無い」
「まあそうだろうね。しかし……食うとしても、それ消化できるのかね?」
「どうであろうなあ」
リッチは骨である。もう完璧骨の身体だ。消化器官なんてありゃしない。普通に考えると口に入れた途端そのまま床に落ちそうだ。
「パンから行ってみろよ。仮に零れても掃除できるから」
「ふむ……なら折角じゃ、ご相伴に与ろうかのう」
恐る恐るリッチがパンを取り一齧りしてみる。モグモグと咀嚼は出来ているようだ。そして次に一飲みする。
「……どう?」
「……うむ、問題ないようだ」
揃って床を見るが特に何も落ちてない。やはり星晶獣、不思議パワーが働き骨でも食事可のようだ。元から出来たのか、それとも今そうなったのかは知らんが。
「ふむ、これが食事か……よいのう、悪くない」
「そりゃ良かった」
「良い、うむうむ……実に良いものだ」
パンを少しずつ齧り、サラダや他の料理をじっくりと味わうリッチ。伊達に不死の王と言うわけじゃないようで、初めてながら食事をする姿は様になっている。
「ね、ねえ……これ、凄い美味しい……!」
「でしょ……コロッサスはね、ソーセージにも一工夫するの……ぜ、絶品だよ」
「わ、わわ……! お、美味しすぎるよう……」
一方で二人のセレストが「キャー!」と言いながらなんかイチャイチャしてた。セレスト・トラモントもこれが初めての食事だ。カワイイかよ。
「全くじゃ! 実に良いのう食事と言うのは、舌が踊るようじゃ!」
と、和んでいると俺の肩をバンバン叩く奴がいる。
「わかった、わかったから……いってっ!? わかったから、俺を叩くんじゃねえガルーダッ!」
隣に居る風の星晶獣。当たり前のようにいるガルーダ。俺としてはリッチ以上になんで居るんだ感ある。
「いいのう、ヒトの子はこんな良いものを味わっておったのか。妾感激なのじゃ」
「そうかい……」
こいつも食事は初めてだったようだ。静かに食べるリッチと違い、此方はガツガツムシャムシャと子供のように食べている。実に落ち着きが無い。
「つーか、なんでいんだよ」
「きゅ、急に辛辣な事言うのはやめよ。ちょっとショックじゃ」
自分で思ったより表情が鋭かったのか、ガルーダは少し怯えていた。
「だって仲間外れは寂しいではないか」
「寂しん坊かよ」
「この食事が出来るなら寂しん坊で結構じゃ。あぁ、美味いのう美味いのう」
モグモグ食うのは良いがみるみる内に口が汚れていく。無視できればどれだけいいか、しかし気になる。隣の席だから余計に気になる。
「おいコラ、落ち着いて食え。口が汚れとるだろーが」
「む、本当か?」
「赤ん坊でももっと落ち着いて食うっての。ほれ、その布巾で拭きなさい」
「すまぬすまぬ。夢中になってしまったのじゃ」
すまぬと言いながらニッコニコの笑みである。そして全く拭けていない。
「ぷふー! あんたってば綺麗に食事も出来ないのね」
「むっ! なんじゃメドゥーサ!」
そしてそんなガルーダにちょっかいをかけ出すのはメドゥ子であった。
「神鳥なんて言ってる割に学が浅いわねぇ? アタシぐらいになると人間共の生活に馴染むぐらい簡単なんだから」
「ぐ、ぐぬぬ……」
「おほほほほ! まあこれが星晶獣としての格の違いって奴かしらねえ!」
「うるさいメドゥ子」
「メドゥ子じゃない!」
俺を挟んで喧嘩すんじゃないよ。落ち着いて食事できないじゃん。
「あとほれ、お前も布巾」
「なによ?」
「口周りと鼻の頭が汚れてる」
「うっ!?」
俺に指摘されメドゥ子は酷く赤面し、急いで布巾で顔をふき取った。
「は、早く言いなさいそう言う事は!?」
「お前は人の事からかう前に自分の事省みなさいよ。メドゥシアナを見習え、綺麗にスープを飲んでるじゃないか」
「シャァ~」
メドゥ子の隣で静かに舌をチロチロと動かしスープを飲み、ソーセージは丸呑みしているメドゥシアナ。と言うか普通に器用だなメドゥシアナ。
「にょほほほっ! 妾よりも顔を汚してバカみたいじゃのう! ほれほれ、まだ右頬に汚れが残っておるぞ?」
「ぐっ!? う、うるさいわね!」
「確かに格が違うようじゃのう? 妾のほうが上、と言う意味であるがなぁー! なーはっはっは!」
「ぐうぅ~~~~っ! この、のじゃ子のくせにっ! 生意気っ!」
「あいたーっ!?」
ついにメドゥ子が髪の毛を蛇に変えガルーダに噛みついた。と言うか、俺を挟んで喧嘩するな。
「こ、この! くらえストーンラジット(羽一本)!」
「あつつっ!? 羽でチクチクするなぁーっ!」
「おい、お前ら俺を挟んで喧嘩するな」
「このこのこの!」
「うりゃうりゃうりゃ!」
「いい加減に……」
「ウシャー!」
「のじゃー!」
「……喝ッ!!」
「へぶっ!?」
「のじゃっ!?」
拳骨を振り下ろす。二人の頭が机へと沈んだ。
「あにすんのよっ!?」
「い、いたいのじゃぁ~……」
「厚意で休ませて貰ってる人の家で喧嘩すんなアホ共っ!」
「さ、先に意地悪したのはメドゥ子ではないか!」
「のじゃ子が生意気なのよ!」
「メドゥ子は一々人を煽るんじゃない! のじゃ子も煽られたからって一々構うな!」
「のじゃ子っ!? い、今お主ものじゃ子って言ったのじゃ!?」
「あんたはどっちの味方なのよ! くらえ馬鹿人間!」
「あだだっ! 頭噛むな、いっでっ!? 膝小僧蹴るな馬鹿っ!?」
子供過ぎる。なんなんだこいつらは、迂闊にメドゥ子の隣になんて座るんじゃなかった。気が休まらない。
「……何やってるんだあいつらは」
「楽しそうでいいよねぇ」
「嫁に逃げられて子育てに苦心する父親にも見えるがな」
「ドランク、彼は何時もこうなのか?」
「さあ? 多分そうだと思うよ」
そしてそんな俺達のやり取りをみてあきれ返るスツルムさんとドランクさんが居た。あとドランクさん、フェリちゃんにいい加減な事言わないで。
「……いや、誰が父親じゃぁいっ!」
取り合えずこれだけは叫んでおいた。
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三 団長は大変
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メドゥ子とのじゃ子はしこたま叱り付け、皿洗いを命じておいた。二人ともブツブツ文句を言っていたが、静かに拳を振り上げると大人しく従った。コロッサスも監視で入ってるし、取り合えず今はこれでよい。
そんな二人を除き殆どの団員とリビングへと移動、今後の話し合いを行う。折角平和になったトラモントであるが、のんびりしている事は出来ないからだ。
「ガロンゾから連れ去られて今日で四日だっけ?」
「そうなるね。状況を考えれば早く解決できたと思いたいが」
コーデリアさんの言うとおり、星晶獣に連れ去られて、島に落下して、暴走する星晶獣がいると言う人生で一度も遭遇しないであろう事が連続してる騒動が僅か三日ちょっとで解決できている。
「まあガルーダに関してはトラモントを救えた、と言う事で攫った事はあんま責めんでおいてやるか」
「私としてもそこは感謝したいぐらいだ。貴方が落ちてこなければ、島は空の底へ滅び落ちていただろうから」
「ワシもそうじゃな。あのままでは暴走を続け何をするか分かったものではない。最悪空域規模で死を振りまき続けたであろうなあ」
ガルーダ本人の遊びたいと言う欲求のみで攫われた身としては思う所あるが、フェリちゃんにリッチの言葉を聞きいて取り合えず今は不満は横においておく事にした。
「それで……帰りの事だけれど、取り合えず明日には発とうと思うんだけどね」
俺がそう言うと団員の多くは頷いた。
「急じゃないか? もう少し休んでもいいんだぞ」
「ありがとうフェリちゃん。けどガロンゾに仲間待たせてるからね」
コーデリアさんに聞いた所カルテイラさんを中心にエンゼラの方は作業を進めているとの事。あちらのメンバーで不安要素はラムレッダだけだ。それ以外は大丈夫だろう。戦力的な意味もあったろうが、ティアマトとかを此方につれて来てくれたのは非常に助かった。
「うっかりティアマトなんかガロンゾに残った日には、金がどれだけ吹き飛ぶかわからん」
「失敬ナ。今ハ自重シテルダロ」
「どーだか、前どっかの島で物欲しそうにブランドの服見てたろ」
「我慢シタダロ!」
「ったりまえだ! あれ30万ルピしたじゃねえか、あの後値段見て目玉飛び出るかと思ったわ!」
エンゼラ改修で更に借金増えるんだからな。数万だとしても買い物勝手にした日にはマジで俺は何するかわからん。
「昨日か今日当たり、もうエンゼラはバラされてるかな」
「当然作業は開始してるだろうさ。相棒が攫われながらも頼んだ事だしな」
「ありがてえ話だよ」
きっとカルテイラさんが仕切ってくれているだろう。問題児達が比較的こっちに集まっているので、彼女のしきりなら問題は無いだろう。
「どんな艇になるか楽しみだよなぁ~。クレ~ジ~でラブリ~な艇になると良いよなぁ!」
「見た目は対して変わらんと思うけどさ」
ハレゼナ基準の「クレ~ジ~でラブリ~」な艇になると一体どうなってしまうんだ。船首に巨大な壊天刃でも取り付ければいいのか? 個人的に嫌いじゃないが、ちょっと物騒すぎるな。
「私達も戻れるなら早く戻りたい。時間をかけるとクライアントが不機嫌になる」
「あの人ってば時間とか厳しいからねえ。きっと待ち合わせで15分前には来てるタイプだよきっと~」
「そうだよなあ、黒騎士さんなあ……」
黒騎士さんへの謝罪、と言うのもなんかおかしいが一応諸々迷惑かけた事への言葉も考えておかないといけない。たぶん俺の事をイライラしながら待っているだろう。あの人沸点低そうだからなあ。次合うの怖い。
「……そういやさ」
ふとここで疑問が浮かぶ。
「オルキスちゃん達はミスラの契約で外に出れないわけじゃん」
「そうだな」
「けどあくまでオルキスちゃんが出れないだけで、ドランクさん達は問題なかったわけじゃん?」
「そうだねえ」
「じゃあ俺ってなんでガロンゾから出れてんだろう」
「……そういやそうだねえ」
「いや、それは契約内容を考えればわかる」
俺が疑問符を浮かべていると、おっさんがさらりと言った。
「するってーと?」
「重要なのはエンゼラにあの小娘を乗せるって言う事だ。ガロンゾに居る必要があるのは、エンゼラとオルキスの二つ、お前は特に重要じゃねえのよ」
「約束したの俺なんだけど……」
「ミスラの契約にも忘れられたんじゃねえのか? 地味過ぎて」
「うるせい!」
「やーん☆ 団長さんおこった~!」
このおっさんのぶりっ子ほんと腹立つなちくしょうこの野郎。
まあ俺が外に出れる理由はそこまで重要じゃない、ただ気になっただけだし。
「それじゃあ……今日は荷物纏めるぞ。明日またセレストに積み込むから」
「オイラ達の持ってきたのは、昨日の戦いで結構駄目になったけどな。幸い必要な量の食料は残ったけど、大した量じゃねえから直ぐ終わるぜ」
「その時は島の調査だ」
「調査?」
「リッチの瘴気が島のどこまで影響を与えたのか気になる。コロッサスが木の実を見つけた事もあるからな、案外無事な所が多いかも知れない」
霧で薄暗いが元々それなりに自然の実りが多い島のはずだ。死の瘴気の影響を受けた事で何処までの影響を受けたのか興味があった。星晶獣による被害のデータサンプルとして記録しておく意味もある。似た星晶獣に今後出会わないとも限らないからなあ。
「だったら私も手伝おう。積荷の準備もだが、島の全体はまだ見れてないんだ」
「ん、ありがとねフェリちゃん」
「こちらこそすまない、何から何まで」
「そう言う事でしたら~私もちょっとお願いしたいことがありますねえ~」
「そうですか、ならシェロさんも……ん?」
ハッと横を見る。凄く見覚えるのあるハーヴィン女性、けどこの島に居ないはずの商人。と言うかシェロさんだった。
「う゛お゛わ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛っ!? シェ、シェロさ、あっだあぁっ!?」
「うわー!? だ、団長さんがひっくり返って頭打ったっ!?」
「よろず屋殿!? い、何時の間にここに!?」
「はひーっ!? な、なんでここにヒヒヒッ!? あは、わはははっ!?」
「いかん!? 驚いた拍子にルドミリアが発作を!?」
「止めろとめろ~! また引き付け起しちまうぜぇ~!」
「セレスト“安楽”だっ!」
「わ、わかった……! ほりゃあ~……!」
「あ、あはは……はは……ひひっ! わーはは!?」
「うぇえ!? き、効かないよぉ~……!?」
「安楽させられすぎて耐性ついてきやがったのか!?」
「奥の手だ! フェザー! やってやんなぁ!」
「分かったぜB・ビィ! おっしゃあ!」
「ごぼっほおおっ!? ほ、げほっ! ……いた、あいたた!? あだだ、はははははっ!?」
「こいつフェザーの一撃に耐えたぞ!?」
「ええい! 無駄に頑丈になったな!?」
「い、いだだ、ひひひひっ!? 痛い、苦しいいたくるしい、ははは!? あーははははっ!?」
「む! すまねえルドミリア! もう一撃で決める!」
「内臓やられるからもう打撃は止せ! B・ビィ、サブミッションで巧く落とせ!」
「まかせろぉあ!」
一瞬にしてこの場が混沌となる。元から混沌としてるとか言ってはいけない。とにかくえらい騒ぎになった。
「のうお主等、人間とは皆こうなのか? ワシにはようわからぬ」
「……あれと一緒にするな」
「まあまあ、楽しそうでいいじゃない」
「楽しそうと言うわりに、団長はのた打ち回っとるがのう」
そして椅子に座ったまま、大騒ぎの俺達を見て益々呆れ返るスツルムさん達であった。
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四 神出鬼没・極
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「ぶつけたのってここ?」
「いっつっ!? 馬鹿、メドゥ子さわんなっ!? ちょっと腫れてんだよ!」
「なによー怪我の具合見てやってんのよ。大人しくしてなさいよー」
「ならそのにやけ面止めろ! 説得力が無いわ!」
「こっちも腫れとるのう」
「おめーも止めんかのじゃ子!? ええい、散れお前ら!」
床に頭ぶつけた所がジンジンと痛む。それを知ったメドゥ子とのじゃ子がニヤニヤしながら俺の後頭部をツンツンしてくる。
「いてて……で、ルドさんは?」
「速やかに意識落としたから綺麗に気絶してるぜ」
「綺麗にて……まあ無事なら良いけど」
離れたソファで安らかな顔で気絶してるルドさん。時たま気絶しながらも笑ってるのか、腹筋辺りがピクピクしてる。
「んで、ですねえ……」
「うふふ~」
さっきの事態を巻き起こした方と向かい合う。
「なんで居るんすか、シェロさん」
神出鬼没のよろず屋。俺の人生ではある意味ジータに次いで影響力と存在感を持つ債権者様である。マジでなんでここにいるのか。
「いやぁ、先ずはご無事で何よりです団長さん~。団長さんにはこんな台詞ばかり言ってますねえ」
「ほんとにね……」
「それでですねえ……私がここに居るのは団長さんが攫われた後直ぐここから近い島に移動しましてですねえ~。それで昨日この島の霧が晴れたと言う知らせが入ったので今朝の内に島に移動し始めしまして~」
「で、今ついたと……」
「そう言う事です~」
そう言う事と言われても困る。俺が知りたいのはそう言う事じゃない。俺は来た理由を知りたいのだ。
「来た方法はわかりましたけど……なんで居るんですか? マジでびびったんすからね俺」
「急に申し訳ありませんでした~。ただこちらもこの島の事が気になっていましてですね~」
「この島って……え、トラモントの事知ってたんですか?」
「はい~。以前からこの島でしか取れない農作物の取引を少々やってたんですよ~」
「いやいや、以前からって……この島ゾンビしか居なかったんじゃ」
「勿論存じてます~。大雑把なところがありましたが、皆さん大らかでこちらも商談もしやすく大変良い方達でした~」
マジかこの人、ゾンビとも商談してたのかよ。流石星晶獣と商談する女。と言うか普通に出入りしてたのかよ。セレストの霧通過したのかシェロさん。
「知ってたフェリちゃん?」
「いや、私も初耳だ。私は館に引きこもってたから、村でどんな事があったかは知らないし……」
フェリちゃんに確認を取るが彼女は知らないらしい。ただシェロさんが嘘を言うとは思えない。それとこの人の謎の移動方法を考えるとありえる話である。ほんと恐ろしいな。
「この島でしかならない果実等が大変好評でして~。住民の方達が去ってからも残った果実も独自のルートで入荷してたのですが、今回の騒動の煽りを受け入荷が困難になっていたんですよ~」
「リッチの結界か……」
「はい~、入荷が途絶えた時点では原因が不明だったので~……実を言えば何時か団長さんにお願いしようと思っていたんですが……うふふ~、その必要はありませんでしたねえ~」
いつの間にか再び霧に包まれたトラモント島。その霧の濃さと厚さはセレストの比ではない。流石のシェロさんも出入りできず、目当ての果実も入手が不可能に。そこで折を見て俺達に依頼を出そうと思ったら俺がガルーダに攫われトラモントへ……。
タイミングずれてたら依頼料発生したのか。……いや、その時はトラモントの被害が手遅れになっていたはずだ。そうならなくて良かった、そう思うべきだ。
「その目当ての果実がある場所の確認をしたいので、島の調査をするならついて行きたいのですが~」
「ああそう言う……いや、別にかまわないですよ」
なんだそんな事であったか。いやーこんなタイミングでこんな登場の仕方だから変な依頼を頼まれるのかと思ったじゃん。ビックリビックリ。
「それとですねえ~」
「うっぷす」
思わず変な声が出た。
「まだなんか……」
「実は2つほど依頼を受けて欲しいんです~」
「依頼て、俺達ガロンゾに帰らんといかんのですが……」
「はい~、ですのでその道中に頼みたい依頼なんですよ~」
まーた妙なタイミングで仕事持ってきたなあこの人も。
「エンゼラ直ってから……いえ、ガロンゾに帰ってからじゃ駄目なんですか?」
「駄目、と言うわけではないのですがぁ……この辺りからガロンゾへ向かう騎空団で、お仕事を頼める騎空団を探していたらですねえ~」
「丁度良い所に俺達が居たと?」
「はい~」
それ本当に他にいなかったのかなあ。ガロンゾの仲間を思うとあまり乗気にはなれなかった。
「別にいいじゃねえか」
しかしここでおっさんが声を上げた。
「どうせ急いで戻っても艇の修理は出来てねえ。だったら今のうちに少しでも改修費用稼いでおけばいいだろ」
「いやまあ、けどそうは言うけどねえ……」
「オイラもカリオストロの意見には賛成だな」
「B・ビィ、お前もか……」
「だって相棒、今回の改修で使う金いくらよ? 改修ってもエンジン点検やら諸々のオーバーホールも兼てるし何やかんやで200万は越えたろ」
「うっぐ……っ!?」
「一応借金返済用で100万ちょっとあるだろうけど、それも使うとしても借金は400万、下手すりゃ500万は超えるぜ。なあ、よろず屋?」
「ええ、そのようになるかとぉ~」
「な? やって損の仕事じゃねえよ」
「う、う~む……」
「借金に関しては例によって“催促無しのある時払い”ですので~……あまり気にしすぎず、こう言った依頼を受けていただけると、こちらとしても助かります~」
そう言われると弱いなあ俺ってば。実際催促無しはかなり助かってるからなあ。しかしその借金の所為で首を横に触れないのも確か。いや、そもそも俺が自分でこさえた借金じゃないんだが……おのれ、ばあさんめ。
「それにガロンゾ戻って何の拍子に借金増えるかわからねえしな」
「お前怖い事言うな」
背筋が凍るぜ。
「……あんま道中長旅でもセレストに負担が……」
「わ、私は大丈夫だけど……だ、団長に任せるよ……?」
「え、あそう……そうかあ、そうなると。うーん」
セレストは頑張り屋だけど、無理なら無理って言う子だし本当に大丈夫なんだろうが……。
「そうだ、ドランクさん達も早く帰らないと」
「あ、別に僕達の事は気にせずでオッケーだからねえ~」
「さっきはああ言ったが、早いに越した事は無いと言うだけだ。一週間程度なら想定内、最終的にお前を連れ帰れればかまわん」
「おーう……そっすか」
そうなると、ああ断り辛い断り辛い。
「……どんな依頼です?」
俺がそう聞くとシェロさんはすんごいニンマリと太陽の様な輝きの笑みを浮かべた。
「こちら、ある島の小さな村から増えすぎた魔物の退治の依頼がありまして~」
「それだけならよりにもよって、このタイミングでウチに依頼持って来ないですよね?」
自分でもって“よりにもよって”なんて言っちゃう事に悲しさを覚える。
「やはり気がつきますか~……実はですねえ、増えた魔物と言うのがどうも普通の増え方じゃない気がしまして~……」
「……なんぞキナ臭さが?」
「私の勘としか、詳細は不明ですが~……」
「まさか、また魔晶がらみでしょうか」
シャルロッテさんが深刻そうに呟く。俺もその点は気になった。魔物の異常な発生と聞くと今回の事もあって魔晶が絡んでいると思ってしまう。
「今回の様な事が他でも起こっているのか?」
「ここ一年でそう言う話は増えてきたよ。少し話したけど、アウギュステでも魔晶での騒動が二度あったからね」
「そうか……私が知らない間に、世界は大変な事になってるんだな」
魔晶で暴走したリッチに島を襲われたフェリちゃんもまた魔晶での被害者とも言える。俺達の話を聞き、彼女の瞳には怒りと悲しみが浮かんでいるようだった。
「魔晶関係かは不明ですが~……こちら不確定要素の多い依頼となりますので、そう言った予想外な事に慣れた方に頼みたいと考えておりまして~」
「ジータの方は」
「今あちらも立て込んでまして~、それとあまり時間をかけない方がいいかもと思いましてですね~」
成る程、一応納得である。
こと魔物異常発生系に関して俺は碌な目に遭わん。だからこそ慣れてる。嫌だけども慣れてる。本当に嫌だけども。
「村の危機、でありますか」
「気になります?」
「うっ! まあ、やはり正義を謳う身としては」
「ですよね」
シャルロッテさんがウズウズしてる。人の危機と聞いてはジッとはしておれぬ性分の人であるなあとしみじみ思う。あとコーデリアさんはそんなシャルロッテさんを見て微笑み、俺に視線を移すと「よしなに」と言うように軽い目くばせを送った。
「……もう一つの依頼ってのは?」
「そちらはとある人と荷物の輸送ですねえ」
「輸送? いや構わないですが、そりゃまた御使いじみた」
「そうですねえ。ただこちらは依頼を出した方がちょっと特別でしてぇ~」
「特別って言うと?」
「こちら著名な服飾デザイナーさんなんですが、自分のデザインした服が完成したので、完成品の確認等をしたいとかぁ~」
「……その人が希望する移動日程と、島の位置関係から考えて魔物討伐依頼を終えた俺達が丁度いいんじゃないか、と?」
「うふふ~、団長さんはご理解が早くて助かりますぅ~」
むむん、すっごい嬉しそうに言われても複雑だぞう。うぎぎ。
「ちなみに依頼料はこのようになっております~」
チラリとシェロさんが俺に依頼書類を見せた。そこに書かれている依頼の報奨金は、ひーふーみー……。
「結構いいっすね……」
「討伐依頼は不確定要素がある分と、デザイナーの方はかなりの著名人なので護衛を兼ねてこの金額になります~」
なるほどそう来たか。
むこうはあらゆる依頼を多くの騎空団に紹介してきたプロ中のプロ。そのシェロさんの勘が「ちょっと怪しい依頼……」と思うのなら、本当にそうなのであろうと思う。
確かにおっさんやB・ビィの言う事も尤もではあった。ここは急ぎすぎずにガロンゾへと向かうとするかな。
「わかりました、依頼お受けします」
「そう言って頂けると信じてましたぁ~!」
ニコニコ笑顔のシェロさんと握手を交わす。
依頼を受けると言葉に出した以上切り替える。ガロンゾの皆には悪いが、きっとカルテイラさんを中心にして頑張ってくれているはずだろう。エンゼラの改修具合も楽しみにしておくとする。
「ところで、そちらの……フェリさんと、リッチさんでしたか~?」
「私?」
「む、ワシもか?」
「はい~、少しご相談がありましてですね~。島の調査後でかまいませんので、じっくりとお話したいのですよ~」
そしてまた勝手に色々始めるシェロさんであった。
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五 一方その頃
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「ほれほれ、休んでる暇はねーぞっ! 今日中にはバラしきるんだからな!」
ガロンゾ、中央船渠。そこで特に大きなドッグ内で船大工達の熱い叫びが飛び交う。
「親方、気嚢とプロペラが届きましたっ!」
「よし、第4倉庫に置いておけっ!」
「この古い帆は」
「痛んでねえか調べとけ! 痛んでんなら新しいの発注かけろ!」
あっちへこっちへと走り回る船大工達。その中心には、いまや半分は船体が無くなったエンゼラがあった。
「仕事速いなあ、流石おっちゃんや」
そんな男達の仕事ぶりを少しはなれた所で見守るのはガロンゾ待機組のメンバー数名であった。
「見事にバラされてるわね」
「艇の解体作業って初めて見たかもなあ」
マリーとカルバは船大工達の迫力に離れた所からも押され気味だった。
空の世界で騎空艇は珍しい物ではない。その修理や造船も同様であるが、しかしその作業がここまで間近に見れるのは、島全体が造船所と言っていいこのガロンゾぐらいだろう。
「ルナールも熱心だねえ」
「こう言う機会あんまないからね。背景で描く事あるかもだし」
独楽に乗ったままのフィラソピラが隣で熱心にスケッチを取るルナールを見る。ルナールは先程からスケッチブックにエンゼラの解体作業の様子を描き続けていた。
なおこの場にいないラムレッダは二日酔いでダウン。その看病でブリジールが宿に残った。ユーリはカルテイラ達の食事の買出し、そしてリヴァイアサンは撤去した水槽の仮置き場となっている貸し倉庫に付きっ切りだった。
「リヴァイアサンも好きよねえ。水槽移動してからずっと世話してるし」
「好きでやってるんだろうねえ。大変そうだけど、楽しそうだったし」
「細かい性格してるわよね。水温だの水質だの毎日ノートに取ってるって聞いたわよ私」
「あれどうやってノート書いてるんだろうね。ヒレしかないけど」
リヴァイアサンの不思議を感じるトレジャーハンター達。
そして彼女達がここにいる理由であるが、それはまた傍で話しこむユグドラシルとノアが理由であった。
「――?」
「そう、なるべく湾曲した形のも欲しいんだ。カーブした船体部分に使いたいから。出来そうかい?」
「――――!」
「そうか、出来るんだね。よかった」
ノアは艇の模型を手に取りながらユグドラシルに色々と説明をしていた。これはユグドラシルが生み出す木材に関しての説明だった。
加工が容易で且つ頑丈なユグドラシルの生み出す世界樹。ただしその質は生み出す土壌にも左右されるため、ルーマシー原産に比べると幾らか質が落ちるものの、それでも通常出回る木材に比べれば遥かに良質な材木となる。その元の木を生み出す際どこまで自由な形で作れるかをノアは確認したかったのだ。
始めから狂い無く真直ぐに伸びたもの、緩やかで理想的なカーブを描いたもの、それを生み出す事が可能であれば生み出す大きさによっては最小限の加工で済み、時間も大きく削減できる。
そんなやり取りに立ち会うために他の待機組の面々もここへと来たと言う事である。
「あっちも熱心よね。必要とはわかるけど」
「できるなら団長が帰る前に改修終了の目処は立てたいところやからな。うちの方でもカリオストロご希望で発注かけた錬金術関係設備が予定より納入がはようなるって話やさかい、今の所ちょっとは余裕もてそうや」
「一月になるか、半分になるか、あるいは倍になるか。はてさて独楽が何度回るかな」
ふっとため息を吐く面々。そしてふとルナールがスケッチの手を止めて顔を上げた。
「……団長さ、仲間増やしてきそうよね」
「あー」
その呟きを聞いて皆気の抜けた声を出した。
「何人ぐらい増えると思う?」
「増えるのは確定なのね……」
「マリーとカルバん時もこんな感じやったで。メドゥ子含め「ああ、まーた団長が濃い仲間増やした」って皆思ったわ」
「いや、メドゥ子と比べないでよ。あたし言うほど濃くないでしょキャラ」
「私もじゃない?」
「いや、カルバあんたは結構濃いわ」
「え~? そうかなぁ」
星晶獣であるメドゥーサと比べられては確かにマリーもたまったものではないだろう。だが彼女が自分で言うほどキャラは薄くない、むしろ一般的には濃いキャラに入るはずだ。
「なんにしても、団長の事だから可愛い子なんかに頼まれると弱いからねえ」
「あと押しの強い人にね」
「シェロはんも動いとるし、こら三人は固いやろな」
「おっ? なになに賭けようか」
「いいねえ。仲間三人でヒューマンの女性!」
「またハーヴィンと違うか?」
「ドラフと言う線も……」
「例のガルーダとかも」
本人が居ない事をいい事に好き勝手言う団員達。当然傍に居たノアにもその会話は聞こえていた。
「はは……何と言うか、自由だねえ」
あと団長さん気の毒だな。とも彼は思った。
「――――!」
「星晶獣一体とエルーン女性三人……って、君も賭けるのかい?」
「――!」
そして普通に会話に混じるユグドラシルを見て、きっとこの団に入ると星晶獣もこうなってしまうのだなあ……としみじみと感じたノアであった。
年末で年明けも近い。そしてグラフェス(行けてない)もあったし、色々と発表も多かったですね。
どうして空は蒼いのかPart.Ⅲ、思ったより早く来たな。天司関係は少し落ち着かせるかどうか。
どうやって借金ふや(ry
シャルロッテ(IN バザラガ)のシャルラガ殿がクール可愛い。クール属性シャルロッテ……ふーん、あんたが私の団長さん?
『組織』関係はやりたいんだけど、あんま展開が思いつかない。やれたらやりたい要素なんだけども。
それよりも、そろそろ「漢ポセイドン ~海の家繁盛記~ 三馬鹿を添えて」を考えるべきかもしれない。