俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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リッチ、ガルーダ、セレスト、フェリ達のキャラ崩壊と二次創作独自の設定や解釈があるのでご注意ください。

2019.02.27 団長のガルーダの呼称を「のじゃ嬢」から「のじゃ子」に変更、統一しました。


飛び出せ、濃霧の島!

 

 ■

 

 一 終わった後も大変

 

 ■

 

 俺が攫われてから五日目、リッチとの決戦から二日目。リッチが倒れ霧が解除された今も、この島特有の霧が朝日の光を僅かに拒み、トラモント島の朝は少し暗い。それでも開放された清々しさは気分が良く、大きく深呼吸をする。口に入る空気は新鮮で嫌な臭いも無い綺麗なものだった。

 

「瘴気の霧自体は完全に消えたな」

「そのようじゃ」

 

 俺の呟きに答えるのは隣に佇むリッチ。杖をついているがさすが星晶獣、すでに歩けるほどに回復した。その隣にはもう一人、マグナを模したセレスト・トラモントがいる。

 

「ワシが意識を失った時点で展開した瘴気は全て消失したようじゃのう」

「し、島の何処歩いても……もう、健康被害は起きないね……」

「健康被害とか言い方が生々し過ぎる」

 

 昨日行われた被害調査。ただ毒と表現するのは生温い程の効果を持つリッチの瘴気。それが残留していないかが主な確認であった。それと同時に腐り落ちた木々なんかは直ぐに燃やし僅かでも瘴気の毒素が残留している気配があれば焼却する。

 またシェロさんの目的であったトラモント島特産果実等は全滅こそしていないが、主な畑と群生地がやられていた。残念ではあるが、時間が経てばまた数を増やしていくだろう。

 しかし自ら気になってやったが、瘴気の残留毒性調査とか島の役所か業者の仕事みたいな事やってんなあ俺は。

 

「朽ちた木々に崩れた大地、決して被害も少なくないけども、これは不幸中の幸いと言えるのかね」

「お主が落ちてくるのがもう少し遅れれば手遅れであったろう。我が瘴気は死そのもの、それが残留しない時点で消えたのは正しく幸いであった。胸を張ってよい、お主はこの島を救った」

「あっそう、まあ、過程が過程だからか心境複雑だねえ」

「け、結果オーライ……だよ……!」

 

 グッと両手を握り締め励ましてくれるセレスト・トラモント。カワイイ。

 だが果たして誰かを助けるために、俺は毎度何か訳のわからないトラブルにでも巻き込まれんといかんのか。だとすると今後の不安が増すというものだ。

 

「それでリッチは暫く島残るって?」

「ああ、そうする事にした」

 

 俺の問いにリッチは肯定する。今朝方何故かシェロさんから「リッチさんは島に残るので~」と言われた。

 

「流石に疲れたからのう。特に何処の島で契約しているわけでもない、暫くここで腰を落ち着けるのも良いと思った」

「星晶獣の言う“暫く”ってどのくらい?」

「さてのう10年か50年か、あるいは数百年か。ワシが飽きるまでと言った方がいいかもしれん」

「まあそんなもんか」

 

 明確な答えが聞けるとは思っていない、なんせリッチは星晶獣。人間五十年と誰か偉い人が言ったと言うが、永久を生きる星晶獣の感覚を知るには人間の一生は刹那より短い。

 

「わ、私も一人で寂しいから……は、話し相手、出来た……えへへ」

「ワシも退屈せんですむ」

「そりゃ良かった。まあ人が居るわけじゃないし、好きに療養しなさいな」

「……ふっ、ヒトの子にそんな事を言われるとはなあ」

 

 そのように言いながらもリッチの声はどこか楽しそうだった。

 

「まあよろず屋の話通りであれば、退屈などする暇は無いか」

「シェロさんの? そう言えば昨日話してたな。何かあったのか?」

「まあ後でわかる」

「う、うん……ちょっと、楽しみだね……」

 

 何か俺の知らない所でまたシェロさんが動いている。リッチもセレスト・トラモントも笑っているので悪い事ではないのだろうが、どうも不安だなあ。

 

「それと、朝食食ってからフェリちゃん見なかったんだけど、なんか知ってる?」

「それも後でわかる」

「お、お楽しみ……だよ」

 

 気にした様子も無く答える二人。結局俺の不安が増しただけだった。

 

 ■

 

 二 奥義・なし崩し

 

 ■

 

 結局フェリちゃんはどこにいるのかわからないまま、俺はリッチ達と少し移動する。ここは島の端にあるディスペラ絶壁、セレスト・トラモントが潜んでいた場所。不規則に隆起した地面が作り出す絶壁は、一歩近づくだけでも多くの人が思わず足が竦む事だろう。

 そんなディスペラ絶壁に横付けされているのは、セレスト・マグナの方の騎空艇形態。その周りには団員の皆がいる。

 俺に気が付いたのか積み荷の確認作業をしていたコーデリアさんがよってきた。

 

「団長、積荷の確認が済んだよ」

「あ、はい。お疲れ様、ありがとです。風も無い、霧も薄い方だ。出るには丁度いいな」

「う、うん……問題なく、出航できるよ……」

 

 絶好の出航日和。セレスト・マグナも騎空艇の姿なので表情は読めないが嬉しそうにしている。

 相変わらずフェリちゃんの姿はみえない。とりあえずタラップを上りセレストに乗り込む。またこの場にはシェロさんもいる。途中依頼の目的地とは別の島までついでに送る事になったのだ。

 

「シェロさんも準備良いっすか?」

「大丈夫ですよぉ~」

 

 いつもニコニコよろず屋シェロカルテ。ある意味笑顔が武器の人だな。そう言う意味でも商人向きだったのかもしれない。

 

「大丈夫とは思うけどみんな乗ったな?」

「点呼するか?」

「あー……じゃあ一応やるかね。セレストから」

「い、いち……!」

「2っ!」

 

 と、セレスト、B・ビィと続いて皆が番号を言っていく。俺と助けに来てくれた救出部隊含め全16名。ドランクさんとスツルムさんもよくきてくれたものだ。

 

「14!」

「15!」

「16!」

「はい、全員乗って――」

「じゅ、17」

「じゅーはち!」

「ん゛む゛~~~~っ!? ちょっと待とうかあ!?」

 

 しれっと混ざったけど、人数増えたねえ!? 二人ほど増えてるねえ!?

 

「つーかフェリちゃんじゃねーか!? どこいたの、てか何普通に混ざってんの!?」

「あ、えっと、コロッサスの後ろに隠れて……」

「わらわもおるぞ!」

「おめーは後回しじゃい!」

「のじゃっ!?」

 

 なんかショックを受けたガルーダは無視して今はフェリちゃんだ。

 

「姿見せないと思ったら……」

「す、すまない……取り合えず乗っておいた方が良いと言われて」

「言われたって誰に?」

「シェロカルテさんに」

「シェロさーんっ!?」

「はい~」

 

 はい~、じゃないんだよなあ。さっきより笑顔じゃないかこの人!

 

「いやぁ~昨日ちょっと団長さんの騎空団に入る気はあるかお話したら、案外乗り気になっていたので~」

「なに少女唆してるんですか貴女は……」

「いいじゃありませんかあ~。優秀な人材と思いますよぉ~? 幸い旅立つ準備も直ぐできると言う事でしたので~」

「団長の俺抜きで話し進めてるこの人」

「話は早い方が良いですから~」

「いや、団長は俺……」

「え、何々フェリちゃん来るの? 歓迎するよ僕~」

「お前はこの騎空団の人間じゃないだろ……」

 

 何故か無関係のはずのドランクさんが喜びスツルムさんが呆れてる。

 

「てか急すぎる。相談してよ昨日の内に」

「そりゃ何時もの事だぜ相棒」

「段階踏ンダ仲間ノホウガ珍シイダロ」

 

 うるさいぞお前達。それに慣れてはいけないんだよ、普通は段階踏むもんなのこういう事は。

 

「ごめんなさい、なし崩し入団方式が一番手っ取り早いからと」

「シェロさんっ!!」

 

 もう誰がそれ言ったか分かってるからな。

 

「まあまあ、団長さん。一つフェリさんのお話を聞いてください~」

 

 そう言うのはね、昨日の内にするもんなの。もしかしなくても面白がってやってるでしょ貴女って人は、ちくせう。

 

「……なんか、心境の変化あったの?」

「うん……」

 

 一先ず話を聞いてみる。この五日間、特にリッチ決戦と昨日で彼女の中で何かが変わったのだろうがそれが何かは分からない。彼女の言葉を聞かないと俺は何も言えない。

 

「……私は以前から自分の役目を考えていた。セレストから開放されて、他のみんなは消えたのに、何故自分が残ったのか。ジータと別れてからそれを考えていたんだ。幽霊となっても存在する理由はなんなのか、結局答えは出なかった……けど今回の事で一つ分かったんだ。多分私の求める答えは、この空にあるんだって。ジータや貴方が星の島を目指すように、私も答えを求めて旅立つ時が来たんだと思ったんだ。流星のように降ってきた貴方が、きっとその切欠だったんだと思う、だから今私は島を出るべきなんだ」

「フェリちゃん……」

「相棒やっぱ落ちてきたのかよ」

「流星の団長かあ」

「似合ワンナァ」

「あいつって、何回ぐらい落ちたの?」

「主の落下回数と吹っ飛んだ回数はかなりだな。面倒で覚えていない」

「君達、今真面目な話なんだけどねえ!?」

「まあまあジミー殿落ち着いて」

 

 ちょっとジーンと来たのに台無しだよ。

 

「昨日までどうしようか悩んでいた……そうしたらシェロカルテさんが話を聞いてくれた。貴方の団ならきっと心配いらないからと」

「俺の評価高すぎない?」

「いえいえ、正当な評価ですよぉ~」

 

 そりゃありがたいこって。

 

「けどそうか……誰かに言われたとかじゃなくて、フェリちゃんが来たいんだね?」

「ああ、そうだ。私が、空を見てみたい」

「……うちの団大変だよ? 今いる奴らと同じぐらい濃いメンバーがまだいるし」

「しょ、承知の上だ」

「そっか……じゃあ一つお願いがあるんだけどね」

「お願い?」

 

 俺も別にフェリちゃんが仲間になる事を反対するわけじゃない。なんだったら超ウェルカムである。常識人で癒し系エルーン少女とか本当なら拒む理由無し、ただ不用意に仲間に入って大変な目に遭わないか心配だっただけだ。

 

「時々でいいからベッポ達をモフらせて」

「あ、それか」

 

 フェリちゃんが来ると言う事は当然そのペットで家族の幽霊アニマルズがついて来る。あのコロコロ、モフモフした可愛い奴らが。

 

「この子達が良いならいつでも良いぞ、なあお前達」

「――――!」

 

 フェリちゃんが声をかけると姿を消していたベッポやジジが実体化、愛くるしい声を上げて俺へと擦り寄ってきた。

 

「あーもう可愛いなお前ら、ほんともう、なん、もう……!」

「これ馬鹿人間の方が篭絡されてない?」

「実際ソウナンジャナイカ」

「だが確かに……可愛いな」

 

 (笑)共め、好き勝手いいなさる。あとコーデリアさん、いっしょにモフります?

 

「それではぁ、フェリさんの同行はOKと言うことで~」

「いいっすよ。勝手に話進められたのが驚いただけですから。別にフェリちゃんが決めた事なら反対もしないよ」

「ありがとう、団長さん……」

「相棒決め顔してるけど、そいつら愛でながら言っても緩いだけだぞ」

「うるへい」

 

 そう言いつつもベッポ達を撫でる手は止めない。はぁーめっちゃモチモチモフモフ……。今回の戦いのストレスが消えるようだ。

 

「エンゼラの拡張頼んで正解だったって事だな。フェリちゃんの部屋も用意しなきゃねえ」

「そんな気を使わなくても……必要な物さえあれば」

「遠慮しない、うちの団に入る以上不自由な思いさせられん」

 

 しかし仲間になるのがフェリちゃんでよかった。こんな良い子そうそういないよ。いや、いない事は無いか……俺の周りが可笑しいだけかもしれん。

 

「それじゃあ……いきますかね」

 

 新たな仲間を迎えていざ!!

 

 ■

 

 三 さらばトラモント、また会う日ま「ちょちょちょっ!?」

 

 ■

 

「わらわはっ!?」

 

 フェリちゃんを迎えていざトラモントを出ようとしたが、そうはさせぬとばかりにのじゃ子が俺の前に飛び出してくる。

 

「くそ、有耶無耶にして出発し損ねた……」

「お主酷過ぎないか!? わらわも一緒に手ぇ上げたじゃろ!? 18人目ぇ!」

 

 手を上げながらぴょんこぴょんこと跳ねまわるのじゃ子。アピールしまくるので、放っておくと「のじゃのじゃのじゃのじゃ!」と言い続けて残像を出しそうな勢いだ。

 

「落ち着けい」

「のじゃっ」

 

 鬱陶しいので肩を押さえてジッとさせる。

 

「……はあ、それで何が目的ですかね? お見送りはあちらでお願いします」

「船外を指さすでない! わざとか、わざとなのか!? 流れ的にわらわも仲間に入る感じのやつじゃろ!?」

「面倒な星晶獣はもういいよ」

「そうよそうよ、帰れのじゃ子」

「辛辣!? お主星晶獣対しての評価酷過ぎではないか!? あとメドゥ子もなんじゃ、混ざるな!!」

 

 気に食わないのかライバル意識でもあるのか知らないが、メドゥ子が一緒にのじゃ子を追い出そうとしてた。

 だがのじゃ子のありさまをみかねてか、ゾーイとコロッサスが俺を落ち着かせに来た。

 

「団長、せめて話ぐらいしてやったらどうだろう」

「ムゲニスルノモ (´・ω・`) チョットカワイソウダヨ」

「ほれ、なんと心の広い星晶獣達じゃろう。お主も見習ったらどうじゃ」

「お前頼む立場でよくそんな強気でいられるな」

「むぅ、確かに……ならば頼むっ! わらわも仲間に入れてくれ!」

「嫌だよ」

「のじゃぁ!? 即答!?」

 

 俺のあまりの迷い無い即答に驚愕のガルーダであった。

 

「なんでじゃ、なんでじゃあ~! いいじゃろそこな幽霊娘も仲間になったんじゃし、ついでで仲間にしてくれたってぇ!」

「ゆ、幽霊娘。いやそうだけども……」

「ついでで星晶獣の仲間増やせるかよ。なんだそのスナック感覚」

「星晶獣が仲間なら頼もしいじゃろう!?」

「もう9体いるんだよ」

「そ、そうじゃったな……なんなのだこの騎空団」

「俺が聞きてえ」

 

 既に国家戦力超えてる勢いだよ。各国に目をつけられていると言われてるが、それも冗談と言えない状況だからな。事実コーデリアさんの話では、リュミエール聖国は俺達の動向気にしてるらしいからな。

 

「しかし困ったのう、これではわらわのアピールポイントが無いではないか」

「じゃあ諦めろよ、縁が無かったって事で」

「そうよお呼びじゃないわよ」

「ぬぅ~~! 意地悪言うな、メドゥ子まで酷いぞ!」

 

 ぷりぷりと“3”みたいな口で怒るのじゃ子、ちくしょうちょっと可愛いな。

 

「今回の事で暴れて結構鬱憤も晴らせたろ? なんだって俺んところ来たがるのさ」

「だって楽しかったし」

「子供か」

「本当だからしょうがない。ただ崇拝されるだけも飽いた。わらわもお主達と空で面白おかしく冒険したいのじゃ!」

「面白おかしくってなんだよ。俺は真面目に旅してるんだけど」

「面白おかしいだろ?」

「面白オカシイナ」

 

 くそ、B・ビィとティアマトは基本俺の意見を否定しやがる!

 

「楽しいからって自分からヒトと同行しようなんて、安い星晶獣なのねえ」

 

 メドゥ子が意地悪な顔をしてケラケラ笑う。それにのじゃ子がむっと顔を膨らませた。

 

「む! お主だってこの騎空団におるではないか!」

「アタシは仲間に“なってやった”のよ。偉大なる星晶獣として、寛大な心をもって付き合ってやってるのよ」

「嘘つけ! 仲間になりたくて密航したお主に言われとうないわ!」

「はあっ!? あ、あんたそれ何で知って……っ!?」

「昨日B・ビィに聞いた」

「黒トカゲェ!? あんたメドゥシアナに食わすわよっ!?」

「シャアッ!?」

 

 まさかの情報源に大口を開け、蛇の如く舌をシャーと出すメドゥ子。B・ビィは「おー怖い怖い」と煽っている。すっげー腹立つ顔してんな。

 それとメドゥシアナには食わすな、「ええ、食うんすかっ!?」みたいな顔してるし。嫌だろあんな正体不明の黒いナマモノ食うなんて。腹壊すぞ。

 

「ち、違うからね!? アタシの方から顔出してやれば、その……コイツの方から仲間になってくれって言いだしやすいと思ったのよ! アタシはね、あれよ! 気を使ってやったの!」

「じゃあ密航せず堂々とすればいいじゃろ」

「それは……、うーうーっ!!」

 

 そのうーうー言うのを止めなさい。何故俺を見ながら言う。そして言葉の勝負じゃ弱すぎるぞこいつ。

 

「密航者仲間にするぐらいなら、わらわだって仲間にしてくれて良いと思うんじゃが」

「うむぅ、それ言われるとな……」

「あと断っても追いかけるが」

「堂々とストーカー宣言やめい」

 

 しかしコイツの事だから本気でするな。しかも空での移動だと並みの騎空艇じゃ簡単に追いつかれる。エンゼラの最高速度でも振り切るのは無理だな……。

 チラリと仲間達を見る。

 

「あ、オイラ達は基本相棒の判断に任すから」

「右ニ同ジ」

「わ、私を仲間にするような君だ。はははっ! 任すほかないよ、はは、あはははっ!!」

「自分らもお任せするであります」

 

 B・ビィも他のメンバーは全員俺に任す方向らしい。ちょっと団長の権限強すぎませんかね? いや、むしろ団長に丸投げ過ぎじゃないか。それとも信頼の証なのか、そうなのか? そう思って良いのか?

 

「……本当に仲間になりたい?」

「うむ!」

「わかってると思うけど、遊びじゃないからね?」

「うむ!」

「団員としてお仕事もしてもらうけど?」

「任せよ!」

「人間の生活に馴染める?」

「まかせ……っ!? ど、努力する!」

 

 そこで無理と言わず努力すると言う所は好感が持てる。

 ……しかしここは一つだけ俺も欲張っていいかもしれない。今回も頑張ったし、うん。

 

「……わかった、ついて来て良し」

「ほ、本当かっ!?」

「良しと言った以上良いんだよ。……ただ」

「ただ?」

「一回でいいんだけどその羽。触っていいかな」

 

 のじゃ子には背中に大きな翼と頭に小さな翼がある。実は攫われて以来、俺はとてもとてもそれが気になっていたのだ。すごく、柔らかそうで。

 

「うん羽か? 背中のか、頭のか?」

「触って問題ない方でいいけど」

「なら好きの方で良いぞ、仲間に入れるなら安い物じゃ!」

「ぐえっ!?」

 

 気前のいい言葉を言いながら、突然腰辺りにタックル気味に抱き着かれる。彼女としては羽を触りやすいようにしてくれたのだろうが……しかしそのまま腕が絞められ。

 

「腰がぁっ!?」

「ほれほれ、好きなだけ愛でて良いぞ!」

「ぐええっ!? ちょ、ちょっと、いったん腕をゆるめ、おごおっ!?」

「あんたは!? なに変態みたいな要求してんのよ!?」

「メ、メドゥ子、てめえ後ろからもごえええっ!?」

「む、メドゥ子なにをする!」

「うるさい! 離れろのじゃ子!」

 

 俺の判断と翼を触りたい発言が気に障ったのか、メドゥ子まで俺の背中から抱き“絞め”る。完全に両面ベアハッグになってる。二人とも見た目は少女だがしかし立派な星晶獣。その腕力は本気出せばドラフだって目ではない。

 

「ぬぬぬ!」

「むむむ!」

「うぐわああぁあっ!?」

「わわ、メデューサ殿もガルーダ殿もストップでありますっ!?」

「な、なんて力だ!? ビクともしない!」

「ひゃあ! 全然動かねえぜぇ!」

「あ、あはははっ! ス、スツルムさん達もてつだ、あはははっ!」

「……」

「あ、スツルム殿? もう呆れて声も出ないって感じぃ~?」

「まあな、あと気の毒にも思ってる」

 

 慌ててシャルロッテさん達が助けに来てくれたが、両者それにも負けず俺の身体を引っ張り締め上げ続ける。あとスツルムさんになんか言われ、いやそれよか骨がボキボキ鳴ってるぁああっ!? 身が、身が出るうっ!?

 

「ふええ、だ、団長さんがっ!?」

「うん、まあこうなるわな。相棒だしいつも通りだ」

「いつも通りなのか!?」

「ガルーダもいい筋してるな! 後で語り合いを申し込むかな!」

「そう言う場合なのかっ!?」

「うむ、団長らしい均衡のとり方だ。両面ベアハッグ、いい具合に均衡がとれてる」

「とれてるのかっ!?」

「坊主はモフモフが好み、と」

「メモしてる場合なのか!? ……いや、と言うか止めないのかぁー!?」

「そうだな、よし頼むB・ビィ」

「ぅっしゃおらあぁっ!!」

 

 フェリちゃん怒涛のツッコミが聞こえてくる。

 背骨の心配をしながらも、俺はフェリちゃんのこの団内でのポジションを覚った。

 

 ■

 

 四 さらばトラモント、また会う日まで! Take:2

 

 ■

 

「のじゃぁ~……っ!」

「いったぁ~……っ!」

 

 甲板に座り込みながら頭のこぶを抑える星晶獣(笑)少女二人。俺を圧殺しかけた二人に俺の拳が落ちたのは言うまでもない。

 

「マジ身が出ると思った……」

「だ、大丈夫か?」

「うん、ありがとフェリちゃん……」

 

 背中を摩ってくれるフェリちゃん。天使かな?

 

「いったいじゃないのよ!?」

 

 涙目のままメドゥ子が文句を言ってきた。こっちが文句言いたい。

 

「こっちの方が死ぬ程痛かったつーの!? 背骨折れると思ったぞ!」

「あんたあの程度じゃ死にゃしないわよ!」

「死ぬわ、死ぬ時は死ぬっての!?」

「だ、駄目よ死んじゃっ!?」

「この会話どうしたいのお前はっ!?」

「はいはい、そこまでだお前等」

 

 あまりに内容の無い会話に飽き飽きしたのか、おっさんが小さくチョップをするジェスチャーをしながら俺達の間に割り込んで来た。

 

「これ以上話すなら取り合えず出発しろ。時間の無駄だ。ガルーダ、お前も何時まで座り込んでんだ」

「いたたじゃよぉ~。喜びがあっと言う間に痛みに変わったぞい……」

 

 まったくその通り過ぎる意見を言いながら、おっさんはのじゃ子を立ち上がらせた。涙を流しながらショボショボしてるのじゃ子。ワザとではないだろうが、こちらも背骨が悲鳴を上げたので流石に怒る。

 

「やっと出発か?」

「ド、ドッタンバッタン大騒ぎ……」

 

 いつの間にか甲板に来てたリッチとセレスト。見送ろうと思って待ってて、見送る相手が船で大騒ぎしてたら待ちくたびれるだろうな。

 

「ああ、悪い悪い。もう出るから」

「お主船乗る前よりダメージ受けてないか?」

「背骨と腰がね……」

「お、おじいちゃんみたい……」

 

 ちょっとまだ柵とかで体支えてる。こんな頼りない団長ですまねえな。

 

「うぅ……皆楽しそう……わ、私も混ざりたかったよう……」

「楽しくはねえんだが……まあすまん、ガロンゾ戻ったらなんか遊ぼう」

「う、うん……約束ね……えへへ」

 

 足元からセレスト・マグナがいじけ気味の呟きが聞こえた。一人騎空艇のままである彼女は自分の身体で暴れる俺達の事を認識出来ているが、直接この輪に混ざる事は出来ない。基本彼女は寂しん坊、可愛い。

 

「やれやれ……じゃあもういいね? 全員いるね? シェロさんももう隠し事無いですね?」

「隠し事だなんて、元々何も隠してませんよぉ~」

「言うべき事黙ってるのは世間で隠し事と言うのですよシェロさんや」

 

 ちょっとムッとして言ったがシェロさんは「うふふ~」と笑うだけ。敵わん。

 いよいよ俺達が出発するとなってリッチもセレスト・トラモントも改めて外へと降りた。甲板から見下ろし軽く手を振ると、リッチもセレスト・トラモントも同じように手を振った。

 

「汝らの旅路に祝福を」

「ま、また来てね……!」

「おーう、お土産持って寄らせてもらうわ。そっちも元気でな。それじゃあセレスト、頼む!」

「りょ、了解……!」

 

 ゆっくりとセレストが岸壁から離れていく。船首の方向を外へと向けて、そして徐々にスピードを上げていく。

 振り向けばまだリッチ達が見えた。少しずつ、トラモント島の霧でその姿は薄く消えていく。

 

「そいじゃなー!」

 

 もう一度、今度は大きめに手を振る。他の皆も並んで手を振る。多分もう声は届かない、しかしリッチ達も手を振り続けた。

 俺の隣でフェリちゃんが誰より大きく手を振った。

 

「戻りたくなったら何時でも言ってね」

「ありがとう、けど大丈夫。今は新しい世界に……ワクワクしてるから」

「そっか……ならよかった」

「ああ、だから団長さん」

「うん?」

 

 フェリちゃんが俺の目をジッと見る。視線を外さず、10代の少女の輝きを持つ瞳が柔らかく微笑みを浮かべたように感じた。

 

「これからよろしくな」

「ああ、よろしく」

 

 リッチとセレストの姿はもう見えなかった。霧の覆う島が旅立つ俺達を見送り、俺達もまたその島の平和を願い旅立った。

 

 ■

 

 五 トラモント・シェロカルテランド計画

 

 ■

 

 この時、団長は疲れもあってか、リッチの言っていた「退屈などする暇は無い」と言う意味をシェロカルテに聞きそびれていた。

 実はこの時からシェロカルテは特産の果実以外でトラモント島で利益を上げれる手段を提案、最後の住民であるフェリに許可を貰いセレスト・トラモント、更にリッチにまで協力を約束させる。そして密かにトラモント島に機材の搬入を開始。土地も整備されて行き、数か月後そこには島特有の暗い雰囲気を生かした小さなテーマパークが出来上がっていた。

 忘れられた島はシェロカルテの手により再生したのだ。

 島に残る民家、そしてセレストとリッチの手で生み出される本物のゾンビや幽霊。それらを駆使するホラー系アトラクションは、スリルを求めるカップルを中心に話題となった。

 島への送迎を行う幽霊船セレスト・トラモント号の存在はさらなる話題を呼び、テーマパークの主役でありマスコットであるゾンビの王様ネズミ“リッチーマウス”。その相方で影の薄い幽霊ネズミ“ジミーマウス”は「キモカワ系」として若い層に受け入れられていった。

 そして後日この事を聞いた星晶戦隊(以下略)の団員達は影の薄いジミーマウスの事を聞いて盛上り、だが団長はジミーは偽名なので良いとして「影が薄い設定はいらねーだろっ!?」酷く憤慨したとの事であった。

 

 ■

 

 六 更に待ち受ける者達

 

 ■

 

 濃霧と死が溢れる島を救い、再びガロンゾを目指す一行。

 だが彼らの行く先、そこにはまだ平穏は無い。

 

「ほんとさぁ今日も外禁とか、マジぁりぇんてぃ( ・ὢ・ )」

「まぁしゃーなぃんじゃなぃ? 魔物絶賛発生中じゃん? ガチめで危険な感じで」

「それはわかってるけどぉ(´Д`)」

「てか、外禁解除しても、やる事なぃ系じゃんウチら」

「ぁりますぅ~(# `)3′) 今度デートしょってびびが言ってくれたもん!」

「は? この前『もぅ別れるぅ!』って泣きついたじゃん!?」

「それがさぁ~(*´ω`) ぁの後ぉ、ぴぴの方から『俺が悪かった』って言って来たのぉ!」

「マジかょちょろ過ぎるでしょ、てかぉまぇ“つ”じゃんそれじゃぁ。ぁいつはダメ、絶対別れた方が良ぃってば!」

「今度は大丈夫だもーんっ! ぁたしはぴぴを信じるぅ!」

「はぁ~(´д`、) それも何回目って話だしぃ……」

 

 山に住まう少女は、平凡を抜け出し苦労人の英雄(ヒーロー)を知る事となる。

 

「ではこちらがご注文の服になります」

「おお、これは素晴らしい! ありがとうございます!」

「いえ、直接取りに来てくれて助かりました。今確認してご要望と違う所があればお直し致しますよ」

「いえ、これでバッチリです! きっと彼女も気に入ってくれます」

「ふふ、結婚記念日のプレゼントでしたね」

「はい、結婚して暫く贅沢な服は大丈夫だと妻は言いますが、一着ぐらいこう言うのがあってもいいと思って。サプライズなんてやった事はないから、そこは不安ですが……」

「大丈夫! 旦那様のその気持ち、きっと奥様に伝わりますわ」

「ありがとうございます。そう言ってくれると、私も勇気を貰えます」

「いえ、奥様によろしくお伝えください」

 

 大団円(ハッピーエンド)を望む者は、てんわやんわの騎空団を知って何を思うか。

 

「なに? もっとデカいのも出せるのか?」

「―――!」

「ユグドラシルの調子が良いなら、大木どころか工場埋まるぐらいの巨木も大丈夫そうだね」

「となると……もう一段規模を上げれるかもしれねえな。よーし、こうなりゃとことんやるぞ! 図面を見直す! お前等は作業を続けろ!」

「ちょちょ、おっちゃん。良い船になるんわ分かるけど、ちゃんと予算内で納めてや」

「大丈夫だ! ……多分な!」

「おい」

 

 ガロンゾ、そこで熱狂する職人達。旅立ちの船は更なる成長を遂げようとする。

 団長の想像を超える勢いでトラブルは坂道を転がり、誰にも止められることは無く、そして団長へと向かっていくのだ。

 




 
 ■

 オマケ

 ■

 新年が明け、エンゼラの上から初日の出をみる団長。
 
「……ここで無事に新年を迎えたと心の底から言えたらいいのに」

 初日の出に感動を覚えながら、過ぎた一年を思い返しため息吐いた。
 仲間も増え、舞込む依頼も増え、胃痛も増えた。そんな一年だった。ある意味無事に迎えた新年であるが、彼にたまった心労もまた彼と共に仲良く年を越した。

「こんな所に居たのかね?」
「あ、コーデリアさん」

 少し落ち込んでいると、珍しく鎧姿からラフな私服姿になっているコーデリアがあらわれた。

「皆食堂で楽しくやっているよ」
「……なんか行くと疲れそうで、ちょっと心の準備を」
「まあ、メデューサ達が人間流の新年祝いに浮かれているのは確かだね」

 新年を寝て迎えた者と一夜おきっぱなしで迎えた者がいまや入り乱れ、食って飲んでの大騒ぎ。団の主役と言える団長抜きでもエンゼラの食堂は完全に宴会場と化していた。

「しかし改めて団長から新年の挨拶が無いとね」
「ですよね……じゃあ行くかな」
「そうしてくれたまえ。私も君があの場にいないと賑やかでも物足りなくね」
「そうですか?」
「そうとも」

 微笑むコーデリアに少し恥ずかしそうにする団長。
 メデューサにタックルを食らったり、酔ったガルーダにからまれたりと食堂に入れば何時も通りの大騒ぎだろう。飲み過ぎのティアマトとラムレッダを注意して、新年最初の語り合いを求めるフェザーを落ち着かせ、妙な恰好で迫るカリオストロを鼻で笑い、しかしコロッサス達の作る新年を祝う食事に舌鼓をうつ。
 コーデリアは、そんな光景が今年も見れる事を心の底から喜んでいた。

「団長、今年もよろしく」
「こちらこそ、よろしくです」

 二人は仲間の賑やかな声の中に消えて行った。

 ■

 後書

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 エ ビ フ ラ イ 

 2018年、年末で来てこれが全部もってった感。

 としこ!!

 アテナが来るとは。るっ! の1205話で確かに唐突な登場したけど、まさかって感じです。
 ゆく年くる年。シヴァは無理でしたが、それ以外の良いキャラが来てくれて嬉しい感じです。

『組織』の話もまだまだ続きそうで次が楽しみ。

しかしギャルなあの子の台詞が大変難しいですね。あの独特の感じを掴もうと努力いたします。てか超むずぃんですけどぉ~。てか、マジぉなじ日本語なわけ? ナウなヤングの言葉はわけわかめ過ぎて、ほんと冗談はよしこさん! んもう、リンダ困っちゃう! 言葉の再現度低いかもだけど、勘弁してちょ! ほんと、めんごめんご! 
それでは拙者、一足先にドロン! バイバイキーン(笑)

 2019年もよろしくです。 

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