■
一 爛漫ギャルがやってきた
■
「てなわけで……新しく仲間になったクロエちゃんです」
「どもども~クロエでぇ~す+.゚(*´∀`)b゚+.゚ とりま、今日からここのきくぅだんのメイトなんでぇっ! せぇ~ぃっぱぃがんばりまっ! なゎけで、ょろにょろり~んっ☆」
コロッサスとB・ビィ達が盗賊団とラウンドウルフの檻を運び込む中、俺はセレストの甲板に集まった待機組を前に新しい仲間となったクロエちゃんを紹介した。
仲間を増やして帰ってきた事と、その極めて特異なクロエちゃんのキャラクターを前にしてコーデリアさん達はしばし唖然としていた。
「ぁれ、なんかテンサゲ気味? っかみ外した? もっとテンアゲな挨拶した方が良かった?」
「いやただ面食らってるだけだから」
騎士でも戦士でも魔法使いでも、まして星晶獣でも無い一般人の少女である。先程までただの村人であった正真正銘ただの少女である。そりゃそんな娘が仲間になったとなれば誰だってどう反応すればいいかわからないだろう。
「オマエナァ……」
「何があればそんな小娘仲間にすんのよ」
ティアマトとメドゥ子が心底呆れた様子で俺を見る。やめろその視線、突き刺さるから。あとお前だって小娘だぞメドゥ子。
「え~……クロエちゃんは我々騎空士の様に強くなり、心身共に鍛え立派なヒーローに成ると言う大変すばらしい志を持っており」
「デ、押シカケラレタノカ?」
ティアマトがヌッと俺に迫り追及。
「……お母さんと村の人達を護りたいと言う点も考慮して」
「んで、押しかけられたのね?」
メドゥ子がヌッと俺に迫り追及。
「あーもうっ! わかってるよ、そうだよっ! 言うな、色々あったんだよっ! コラ、腹突くなお前等っ!?」
「オラオラ」
「うりゃうりゃ」
俺へ対しての批難、と言うより揶揄いの意味を込めてオラオラとティアマトとメドゥ子が俺の腹を突いて来た。こそばゆいのでやめなさいお前達。
ともかく事の経緯も説明する。まあ盗賊倒してたらそれが切欠でヒーローに憧れ、母を安心させたいため、村の平和を護るため、自身を成長させるために騎空団に入りたいと言う少女が現れたと言う事である。
旅への同行も許可が出たわけだが、クロエちゃんの母曰く「娘は好奇心が高すぎて、今回の事といい不安があるが、ほっておいても飛び出しそうで、どうせ旅に出るなら団長さん達のような騎空団に任せた方がいっそ安心」と言う事で許可が下りた。
とにかく色々あり、そのあまりに真っ当な理由にまたも皆面を食らった。キャラクターのギャップだなぁ。
「ブリジールと気が合いそうだね」
「自分もそう感じました。きっと良き友に成ってくれると思うでありあます」
それは分かりますよコーデリアさん。なんと言うか、根っこが似てる気がしますこの子とブリジールさんは。
「っかこの艇ヤバくねヽ(゚∀゚;) こんなん初見ビビるゎ、わら」
クロエちゃんはセレストを見て最初かなり驚いていた。どう言う騎空艇を想像していたかは不明だが、少なくともこんな幽霊船とは思いもしなかったろう。
「この艇は臨時、本来使用してる騎空艇は修理中でね」
「へぇ~そぅなん?」
「セレストって言うんだ。セレスト、挨拶しな」
「へ?」
「は、はぁ~い……」
「ぅひゃぁぁっ!?!!(⊃ Д)⊃≡゚ ゚ オ、オバケェ!?」
俺がセレストに挨拶を頼むとクロエちゃんは一瞬何の事か理解できていなかった。だが直ぐ目の前で黒い靄が現れたかと思うと、そこに突如黒い喪服のゴスロリチックな女性が現れ驚き声を上げた。
「オ、オバケじゃないよう……」
「ぉ、ぉにーさんこの人ゎ……?」
「こいつがセレスト。幽霊船の星晶獣なんだが……お前騎空艇のままで人型出せたの?」
「う、うん……団長達待ってる間暇で練習してたら、出来た……ふへへ」
「はえー器用だねぇ」
「あ、あくまで分身ってだけで、能力使えないし戦力にはならないけどね……け、けどこれで艇の中でも、遊べるよ……ふひ」
確かに前自分の船内で俺達がわちゃわちゃしてるの見てるだけで暇そうだったからな。彼女なりに今の艇のままでも俺達と行動できるよう色々模索して頑張ったようだ。
「はぇーすっごぃ。星晶獣ってなんでも有りなんだ……(゚ロ゚;)」
「そうだけど……う、うちのマグナシックスが飛び切り可笑しいだけとも言う……ふへ」
「そゆこと言わない」
俺が好きで色物中の色物ばかり仲間にしてるみたいになるだろうが。
「ぁと、さりげメンバーのレベル高ぃょね、わら。なに、ぉにーさん面食ぃなん? クロエもぉめがねに適った的なやっ~?」
「んなわけないでしょう」
入団判断基準顔ってなんだよ。どこ目指してる騎空団だそれは。
「それとクロエちゃんのお母様が旅の途中食べてくれとお弁当を作ってくださった。後で配るから、各々クロエちゃんと島のお母様に感謝していただくように」
「そう言うのは早く言いなさいよ!」
「丁度腹が減ったところだぜ!」
クロエ母お手製弁当の入るバスケットを見せるとハラペコメドゥ子とフェザー君が駆け寄ってきた。食欲に正直な奴等である。
「ええい、食いもんと聞いた途端群がるなお前ら!! ちゃんと人数分在るから、いいから散れ! 食うのは出発してからだ!」
「ママのご飯超マイウ~だからっ(´∀`艸)♡ 味ゎって食べてちょっ!」
そう言うとメドゥ子は俺に向かって「ケチっ!」と悪態をつくが「うるせい」と返すと「シャー!」と威嚇してきた。ちょっと可愛いだけで怖くねえよこの野郎め。
「お前……一応ガロンゾ優先で向かってる事を忘れてないだろうな」
そんな光景を見て呑気してると思われたのか、スツルムさんが超俺を睨んでいた。本当に申し訳ない。
「騎空団として依頼を受けるなとは言わん。仕事もするのもかまわん。ガロンゾに戻れれば良いからと、確かに私もそれは了承した。だが遊んで良いとは言ってないぞ……黒騎士が待ってるんだ」
「ぐうの音も出ねえや……」
「本当に大丈夫かこの騎空団は」
一応敵対関係のはずの帝国の(正確には帝国に雇われている)人に心配されてしまった。
「しっかしよく入団を許可したねぇ団長君ってば。あ、僕ドランク~よろしくねぇ~」
「いや、あんたうちの団員みたいな挨拶するなよ」
「イェ~イヾ(≧∀≦*)ノ〃 ょろしく、ドラちゃんっ!」
「ドランクだからドラちゃん……」
「髪も青いしな」
「何のことだB・ビィ」
「いや、こっちの話だ」
またよくわからん何処かの世界の何か拾ってやがるなコイツ。もう無視だ無視。
「むふふ~ドラちゃんだってスツルム殿ぉ」
「寄るな鬱陶しい……」
「スツルム殿もそう呼んでいいんだよ~?」
「うるさい」
「いっでええっ!?」
そしてドランクさんは尻を刺されていた。
■
ニ 秩序の人達
■
「そう言うわけで、村を騙して金手に入れてた盗賊団です」
「当たり前のように盗賊捕まえてくるね君は」
クロエちゃんをセレストに乗せて数時間後、とある島に立ち寄った俺達はそこ駐留している秩序の騎空団の人達にあの盗賊団を引き渡した。
「いやあ、何と言うか成り行きで……」
「君成り行きで何時も盗賊だけじゃなくて星晶獣とか倒してるって聞いたけど」
「まあ、色々とですね……と言うか貴方もここに居たんですね」
目の前にいるドラフの男性は秩序の騎空団に所属する騎空士であるが、以前から我が騎空団とも繋がりのある人物である。
島に立ち寄れば盗賊やら魔物やら帝国やら、あれやこれやの悪党に出会うものだからその度倒してはそいつらを秩序の騎空団に引き渡すのがお決まりのパターンとなりつつあり、その時よく俺が出会うのがこの人だった。
「俺も数日前に来たばかりでね。上司と一緒に各島にある秩序の騎空団の駐屯地なんかを見て回ってるのさ」
「前まで他の島の駐屯地勤務じゃありませんでしたか?」
「君と関わって仕事してたら出世しちゃってね。視察される側から視察する側になったよ。今じゃ本島勤務さ」
この人と初めに出会ったのは、確か今回のように盗賊団を討伐してからその身柄を如何するか考えていた時、シェロさんから秩序の騎空団に引き渡すといいと教えられた時だったはず。
その時はこの人も小さな島の駐屯地や、或いは任務で別の島への出張が多かった気がする。それがいつの間にか秩序の騎空団の本部がある島で勤務とは驚きだ。
「そうでしたか、まあ俺としては知った人が居てくれて助かりましたよ」
普段からただでさえ「あの星晶戦隊(以下略)」と頭に“あの”と色々含みのある言葉を頭に付けられてしまう騎空団。俺が現れる=星晶獣が複数体いる事になるので、初対面の人は騎空団の名を聞くと必ず身構えてしまう。だから今回の様に知り合いであると非常に助かるのだ。
「それで、また仲間増やしたって?」
「ええまあ……」
「今度はどんな奴等さ」
彼はそう言うと離れた所で俺とは別の盗賊団引渡し作業を行っている、或いは待機する他のメンバーを興味深そうに見た。そこには仲良さげに談笑するのじゃ子、フェリちゃん、クロエちゃんもいる。
「……星晶獣と幽霊と村娘ですかね」
「眩暈がしそうだね」
「実際しますよ」
気を抜けば寝込むと思う。
「しかもまた若い女の子じゃないか。こりゃあ新しく変な噂流れるんじゃない?」
「嫌な事言わないで下さいよ、ある事無い事言われるの大変なんだから」
「ある事無い事って事は、一部本当なのかい?」
「そこは言葉の綾って奴ですよ」
誰が言い出すのだか、まったく参っちゃうよ。酷い噂ばかり、俺はロリコンじゃないぞう!
「そうそう、真面目な話をさせてもらうとですね」
「お、なんだい行き成り?」
「既にお話した通り盗賊団の人達、魔物を魔好華って華で操る……って言うにはお粗末でしたが、とにかく自分達に有利に誘導してたんですけどね」
「魔好華な……あれも面倒な代物だよまったく。希少な華ではあるが、まあ手に入らないわけでもない、特に悪党はね。厄介なもんだよ……それで、本題は?」
「魔晶の事なんですけど」
「……その事か」
魔晶と忌々しい物質の名を告げると、彼は忌々しそうに顔を歪めた。
「最初はこの魔物討伐も魔晶関係かと思ったんです。急に魔物が増えるって言うのが引っかかって……結局原因は盗賊達と魔好華でしたが」
「なるほど、確かに魔晶による事件は増えてるからな」
「それと……今回依頼の前にちょっと色々ありまして」
「色々?」
「星晶獣が魔晶で暴走して島が滅びかけました」
トラモント島での事件を話すと、ゾッとした表情を浮かべて彼は息を飲んだ。
「おいおい……そんな話初耳だぞ」
「人の居ない島でしたからね。ただ最悪他の島も被害が出かねない状況でした」
「……話から察するに解決したんだね?」
「既に暴走も止めて魔晶も粉砕済みっす」
「そうか……君は知らない所で大活躍だなあ」
「本当ならそんな活躍無いに越した事ないですけどね。でまあ、魔晶被害が増えてる気がするんですよね。何か情報あります?」
「そう言う事か、さてなあ……」
空の秩序を護る秩序の騎空団でもあの魔の宝石の事は把握している。エルステ帝国の昨今行き過ぎな侵略と平行してその被害は広まり、その存在も知られつつある。
「何せ帝国絡みだからな。俺達も手を出し辛い問題なんだ」
「あー……どうしても後手に回りますか」
「何とか出来ないか頑張っちゃいるが……こればかりはな」
大規模な騎空団である秩序の騎空団であっても、今や大帝国となりその軍事力を惜しみなく発揮しているエルステ帝国に大きくメスを入れるには多くの問題が立ちふさがる。なまじ帝国の悪行を知っている分もどかしい気持ちは俺より大きいだろう。
「分かりました。何か分かればまたお互いに」
「ああ、何かと此方からも頼むかもしれん」
「そん時は報酬大目でお願いします。それじゃあ、あの盗賊達とラウンドウルフ達の事頼みますね」
「ああ、任せてくれ」
別で手続きしてるコーデリアさん達の方も終わっただろう。話しを終えてそちらに戻ろうとしてふとある事を思い出す。
「もう一つ、盗賊の用心棒なんですがね」
「あのエルーンかい?」
「ええ、あの人かなり腕が立ちますよ。根は良いと思うんで、まあ良くしてやって下さい。そんだけっす」
「そうか……うん、なら気にはしておくよ」
「どもっす」
達人とも言えるあのエルーンの剣技。道を間違えなければ、きっと空に名立たる剣豪となったろう。
尤も手遅れと言うわけでもない。あの男も、盗賊達もそうだが取り返しのつかない最後の一線はまだ越えていなかった。今後の更生に期待しつつ俺はこの場を去った。
■
三 ファインディング・モニ
■
秩序の騎空団に所属するその男は、少し前から関わる事の増えた空で噂のヤバイ騎空団である星晶戦隊(以下略)の団長とその仲間を見送った。
彼らが連行して来た盗賊団と恐らく密輸されたノース・ヴァスト産ラウンドウルフの群れ。これらの事件を書類にまとめ、また別の島への護送などやる事多い。それらの仕事はこの島に駐留する秩序の騎空団所属の騎空士が行うが、中々捌くのにはハードな内容になるだろう。
「どうした、難しい顔をしているぞ」
男が捌くのが難しい量の仕事を手伝ってやろうか考えていると不意に声をかけられた。その声を聞いて男はハッとして背筋を正した。
「こ、これはモニカ船団長補佐! 失礼しました!」
少女と見紛う小柄な女性、金髪の髪を二つに結ったその人物は微笑み畏まる男を落ち着かせた。
「おいおい、別に失礼なんてしてはいないだろうに」
「は、いえ……な、なんと言いますか、つい」
「ははは! まあ気にするな、こちらも急に声をかけたからな」
笑顔もまた少女の様に明るく笑う彼女に対し、男は酷く恐縮した面持ちであった。
男が恐縮するのも無理は無い事であった。彼女こそ男が先程団長に話した「上司」、秩序の騎空団第四騎空艇団所属、船団長補佐モニカ・ヴァイスヴィントその人であった。
モニカはケラケラと一頻り笑うと、縄を解かれ改めて冷たい手錠をはめられる盗賊団の面々を目にした。
「それにしても警邏任務の視察で出ている間に事件か? にしても規模が大きいな。あの数の盗賊に魔物とは……いやに魔物の数が多いが」
「は、それが――」
男はモニカが出ている間にあった出来事を説明した。星晶戦隊(以下略)が現れ、捕らえた盗賊団を引き渡しに来たと言うと、モニカは驚いた様子で建物内の窓を開けて空を見上げた。
「モニカ船団長補佐?」
「……あれか」
突然窓から身を乗り出すようにして外を見上げるモニカを不思議そうに男は見ていたが、一方でモニカは丁度今空へと飛び立って行く瘴気を纏う幽霊船を見た。
「うーむ、惜しかったな。私も是非あの騎空団の団長と話をしたかったのだが」
「ああ、なるほどそうでしたか。すみません、もう少し引き止めれば良かったですね」
「なに仕方ない。次の機会を待つとしよう」
「しかしモニカ船団長補佐も彼らに興味が?」
「無論だろう、“あの”星晶戦隊(以下略)だぞ」
このモニカの言う“あの”とは、正しく団長の恐れている頭に付く“あの”であった。
「あんな噂の絶えない、話題性しかない騎空団今も昔もそういないぞ」
「まあそうでしょうねえ」
「ただまあ……興味本位ばかりとは言えんな」
「と言いますと?」
モニカは「ふーむ」と難しい顔をして唸った。
「あれだけの星晶獣達を団員として活動する騎空団だ。最早国家戦力に匹敵する力を持っていると言っていい。秩序の騎空団として調べんわけにいくまい」
「ははぁ……それはまあ、確かに。ですがそこまで心配する事は無いと思いますけど」
「ほう? それは何故だ?」
「何故と言われると……」
男の脳裏に団長との付き合いの始まりと今までが浮かぶ。最初の出会いはまだあの騎空団が立ち上がって直ぐであり、「どうかしてる」と言われるあの名前すら決まってなかった時だ。
まだ男はとある小さな島の駐屯地勤めの身分だった。そんな時現れた一人の少年、何かと思えば大規模な盗賊団を捕らえたので引き取ってくれと言う。青年とまでは言えない若さを残す少年、騎空士としてならば珍しいという事も無いが彼が自らを団長と名乗るものだから男は驚いた。
初めは悪戯とも思ったが、外に捕まえた盗賊団がいると言うので慌てて外に出てみれば、確かにコテンパンに倒され今回の盗賊団と同じくほとほと懲りた様子で縄で縛られた盗賊団は居た。
しかしそれよりも――その盗賊団を見張る竜を従える女性、巨大な黒鉄の鎧、四つ手の騎士、黒い筋骨隆々なトカゲのようなナマモノ達の存在に驚き危うく腰を抜かしそうになった。
以来団長は悪党を捕らえると秩序の騎空団を、特に顔見知りとなった男を頼り交流もそれなりに増えていった。
その交流の中「あの星晶戦隊(以下略)と付き合いが一番長く、非常に優秀な団員」と言う話が何処からか本部へと渡り彼のスピード出世の助けとなったのを団長は知らない。
そしてそんな交流の中で得た団長への印象は今回の事を含め「苦労人で御人好しで、星晶獣に絡まれやすいトラブルメイカーで、そしてやはり苦労人」と言うもの。
気の毒に思う事はあれども、とても危険人物には思えなかった。
「……こればかりは口での説明が難しいですねえ」
「そうか。しかし貴公の人を見る目は信頼している。決しては悪い人物ではないのだろうな」
「はい、それは間違いないです」
少なくとも団長が自らすき好んで正義に反する行いをするとは思えない。決して長いとは言えない交流であるが、濃い付き合いの中団長の人柄を知った男は、団長に関してその事だけは自信を持って言えた。
「ふむ、ますます会いたくなるな……いや、だがなぁ」
「まだ何か?」
一応は納得した様子であったモニカだが、しかしまだ少し引っかかりがあるようだった。
「各方面から『あの騎空団は、真に秩序乱さざる者達か』などと調査催促が来ている事を考えると興味本位だけではいかんと思ってな」
「あ、やっぱり来てますか、そう言う催促」
「うむ、特にあの噂だ。あれはいかん」
「あー……」
先程冗談で団長本人に噂が増えると言ったが、やはり幾つかの噂は彼にとって大きな障害となっているようだった。
現状確認できる最も有名な噂の一つは「ロリコンの年上巨乳好きで、幼馴染属性のホモの可能性がある女装っ子好きのケモナー」と言う最早何がなにやら、支離滅裂、団長からすれば不名誉極まるものであった。勿論それが真実ではないと男は知っている。
「事実で無いにしても、ロリコンと言う噂が如何にも不味い」
「ですね……」
「これがただの騎空団の噂なら貴公や他の団員で調査すれば済むが、何せあの騎空団だからなぁ」
「また仲間を増やしたので今や星晶獣を10体戦力に保有する騎空団ですから……私一人の言葉ではそこまで信用は得られないでしょうし……やはり船団長、或いは」
「私だろうな」
もしここでモニカと出会えていれば、こんなややこしい事にもならなかっただろう。こうして本人の与り知らぬ所で秩序の騎空団にいよいよ本格的に目をつけられ、またよりにもよって船団長補佐にマークされた団長であった。
■
四 フェイトエピソード ハピネスチャージコルワ
■
世は移ろい、流行は変わる。今も昔も、老いも若きも、老若男女は自らを鮮やかに彩り飾り付ける。
特に熱心な者であれば、着る服をその時の最先端にしたいだろう。或いは何時の世も色あせない様な美しさを放つ物にしたいだろう。
既製品ではない、自らが望むお気に入り。世に一つの最高級。オーダーメイドの醍醐味。だとして誰に頼むのか?
ファータ・グランデ空域で著名なドレスデザイナー。名を上げていけば幾らか出てくるが、近頃特に著名であると言うのであれば、殆どの者の口からは「コルワ」の名が出てくるだろう。
若くして一流と言っても良い評価を受けるドレスデザイナー、彼女の作るドレスには不思議な魅力がある。ただ美しく着飾るのでもない、服に着られているのでもない、その人個人にピッタリと合った服。その服を着た者は言う。「幸せを後押ししてくれるような素敵な服だった」と。
そんなコルワは忙しい毎日を過ごす。ドレスのデザインは勿論の事、針子への指示や素材選びなど多忙である。時には自ら島を渡り依頼主の元へと足を運び出来上がる服を見てもらい最終的な調整などを行う。
仕事に一切の妥協を許さぬ姿勢、正に自他共に認めるプロフェッショナル。
そして今日コルワはまた仕事のために島を移動する。以前から頼まれていた服が完成したため依頼主の元へと届けに行くのだ。
信頼あるよろず屋より「丁度いい騎空団がいるので、その人達に送ってもらうといい」と言われ、そのままよろず屋を介して頼んだ依頼、その約束の日。必要な荷物、そして何よりも重要な出来上がったドレスを持って船着場へとやって来たコルワ。予定通りであるのならその騎空団がやってくる時間であったのだが――。
「おいおい、なんだあの騎空艇……」
「なんで飛べてんだよ……本当に騎空艇か?」
船着場に居る者達が俄かにざわつき出した。中には悲鳴に似た声を上げる者も居る。コルワもまたそんな戸惑う群衆の一人であった。
船着場には様々な騎空艇が行き交うため、よほどの騎空艇が来ない限りここまでざわつく様な事にはならない。つまり“よほどの騎空艇”が現れたのだ。
飛んでいる事が不思議なほどボロボロの船体、そこから放たれる黒い瘴気。千切れ裂けた気嚢からは瞳の様な光放ち、まるで黄泉の国から湧き出した怨霊の如き威圧感。
正しく幽霊船と呼ぶに相応しいその騎空艇は、ゆっくりと船着場へと横付けした。それを見てコルワは「まさか……」と思った。まさかあの騎空艇が約束の騎空団の艇ではないのか。
そして動きを止めた幽霊船から一人の地味な少年がひょっこりと降りてくる。そして彼は辺りを見渡し両手をメガホンのようにして口に当てて叫んだ。
「えー……本日御依頼のお約束のコルワ様おられますかー!」
結局あの艇が約束の騎空団だった。
■
五 Welcome to the ghost ship
■
「やー……驚いたわ。まさか幽霊船がお迎えに来るなんてねぇ」
「いや驚かせて申し訳ないです」
セレスト船内の談話室、そこで一見ボロでも座り心地の良い椅子で寛ぐエルーン女性。著名なドレスデザイナーのコルワさん、今回の依頼のクライアントである。
約束の時間に待ち合わせの船着場に来たら幽霊船が来たのだからそれはもう驚いた事だろう。他の住人達も結構な騒動になっていたので彼女を艇に乗せたら早々に立ち去らせてもらった。
「うちの騎空艇今修理中でして、この艇は代理ってところです」
「貴方代理で幽霊船使うのね」
「下手な艇より信用できますからね」
「えへ、えへへ……」
俺が信用できると言うと床からヌッと霧の様なモノが溢れたかと思えば、マグナ型のセレストがはにかみ笑みを浮かべながら現れた。カワイイかよ。
「はぁー本当に艇が星晶獣なのね」
「そ、そうです……はい」
「いやーよろず屋さんに信頼できる騎空団居るから頼んでおくとは言われたけど、まさかそれが星晶戦隊(以下略)とはねえ……」
コルワさんは俺達星晶戦隊(以下略)の事を既に知っていた。まあ知ってるのは不思議じゃない、それこそ“あれやこれや”嫌な噂が空を駆け巡ってるようだからな。ちくしょうめ。
「あと変なマスコットもいるし」
「聞いたか相棒、オイラもついにマスコット認識されたぜ」
「変な、な? 可愛い系じゃないからな? 後そもそもマスコットじゃないですコルワさん」
二足歩行形態でフヨフヨ浮いてて“スッ”と水平移動できるビィモドキを俺は団のマスコットとは認めねえ。
「それで、今回の依頼は移動と護衛と言う風に聞いてますが?」
「ええその通りよ。私がデザインして出来上がった服を確認しに行くからその間付き合ってほしいのよ。出来上がった服は今から行く島の仕立て屋さんが持ってるから」
「うん? こう言うのってよう、デザイナーの姉さんとこの工房なんかで全部仕上げるんじゃねえのか?」
「普段はそうね。けど今回は知り合いの仕立て屋さんと共同で作業してるの。ちょっとコラボしましょって話が出てね」
「ははあ、なるほど。そう言う事ですか」
「双子の仕立て屋さんなんだけど凄い腕が良いのよ。いい具合に出来たって連絡が来たから最後の調整に私も参加しに行くの。だからまあ護衛って言うのは大袈裟かしら。けど普段より遠出になるし一応ね」
「なるほどです。こちらも依頼を受けた以上しっかり仕事します」
「ええ、頼りにさせてもらうわ」
こうして穏やかに俺はクライアントと談笑し依頼を始め――
「だんちょ、だんちょ~っ! クロエもコルワさんとぉ喋りしたぃ~っ!(〃>З<)」
――られないんだなぁこれが!
「クロエちゃん急に入ってこない! あと依頼主さんの前で騒がないの!」
「だってコルワさんって言ったら、田舎民のクロエも知ってるちょ~ゆーめーなデザイナーだょ! こんな機会滅多になぃもぉん! 島出て直ぐに会ぇるなんてヤッバァーイ! クロエめっちゃ憧れてたんだぁ~☆(人´∀、`〃)」
「わかったわかった、だから落ち着き――」
「だんちょぉ~! メドゥ子がぁ、メドゥ子がぁ~!」
「おょ、ガッちゃん?」
閉まった扉がまた勢い良く開いたかと思うと、今度はのじゃ子が半泣きで駆け込んできた。
「ノックしてから入らんか! なんだ一体!?」
「メドゥ子がわらわのクッキーとったのじゃぁ~っ!!」
「ちょっとあんた!? 一々そいつにチクるんじゃない!」
ちくしょう、やっぱりメドゥ子まで来やがった。
「うるさい! あれ最後の一枚じゃったのに!」
「だってあんたあの種類の全然食べなかったじゃないの!」
「最後に食べようと取っといたんじゃ!」
「だから悪かったって言ってるでしょ!? それにおやつぐらい次の島で買えるでしょーが!」
「わらわは、あの最後の一枚が食べたかったのじゃー!」
「いっしょでしょーが、クッキーなんて!」
ぎゃいぎゃい言いながら突撃してきたメドゥのじゃコンビ。しかも理由がしょぼい。
「あーもうっ! 静かに入れんのかお前らは!? 今コルワさんとお話中なのわかってる!?」
「だってメドゥ子が!」
「のじゃ子が!」
「一遍に喋るな!」
俺を挟んで叫ぶから鼓膜がどうにかなりそうだ。
「別に気にしなくていいわよ。それよりなにこの二人可愛いわねえ。この騎空団こんな可愛い女の子までいるの?」
「コルワさん甘やかしちゃ駄目。そう言うとこいつら調子に乗るから」
「何をこの馬鹿人間!」
メドゥ子が「シャー!」と俺に飛びかかってきたので、そのまま抱っこするように受け止め地面に下ろした。
「うー……! 生意気!」
「喧しいっての……クッキーってのは、コロッサスがおやつ用にガロンゾから持ってきたって言うクッキーアソートの缶だな? 次の島で似た奴あれば一缶買ってやるから機嫌直せのじゃ子」
「うぅ~……」
「メドゥ子も意地悪しなさんなって言ったでしょうが」
「んぐぐぅ~……」
この二人、ちょっとは落ち着いたかと思ったがこの有様だよ。これは暫く喧嘩多そうだなぁ。
「すみませんコルワさん。直ぐ追い出――」
「ソレデ、服ノオーダーメイドッテ今モ受付ケテルノカ?」
「んだぁ――ッ!?」
いつの間にか俺の座ってた椅子にティアマトが座りコルワさんを相手に何か話している。思わずずっこけてしまったじゃないか。
「ん~……今はオーダー詰まってるから直ぐはちょっと」
「コルワさんいいです、そいつは相手しなくていいです。無視でいいですから」
「失礼ダナ!」
「こっちの台詞だわこいつめ! お前隙間風になって部屋に侵入したな!? 扉から来い扉から!」
「チッ! ケチ!」
「うるせえ!」
よりにもよって特に姦しいのが揃いつつある。このままではこの場が混沌としてしまう!
「だ、団長いるか!?」
「あは、あはは! あはーははははっ!?」
「よりにもよって!?」
扉がまた開いたと思ったら最悪な事に発作中のルドさんを連れたフェリちゃんが現れた。
「ご、ごめんなさい団長! ルドミリアさんと二人で喋ってたら急に発作を……わ、私じゃ対処できないから他の人探してて……!」
「あははっ!? す、すまな……あは、あはーははっ! ごひゅ、ごふぅ――――っ!!」
「ちい! 最近魔法と打撃が効かないから……ちょ、ちょっと待ってて下さいコルワさん! 直ぐ済ませますから、直ぐ! 直ぐなんで! えっと……セレスト、B・ビィあと頼む! それとクロエちゃん、居てもいいけどあんま失礼無い様にね!」
「りょ~!ヾ(´∀`*)」
「メドゥ子ものじゃ子も戻れ! ティアマトもだ!」
「なんでアタシ達だけ戻れなのよっ!?」
「贔屓ダッ!」
「っせぃ! ほらルドさんこっち、場所移すよ!」
「わ、私も……!」
「ひひ、うひーっ!? す、すまな……あははっ!! はぁ――――ッ!?」
「どういう笑い方なのそれ!?」
一先ずこの場で最も混乱を呼ぶ要因を連れて、俺は慌てて部屋を出て行ったのだった。
■
六 大体こう言う騎空団です
■
爆笑して痙攣するハーヴィンとオロオロするエルーンを連れて部屋を飛び出していった団長。それを見送りコルワは唖然としながら何処か興味深そうにしていた。
「噂には聞いたけど、大変そうねえあの団長さん」
「こ、これでも団員割いて行動してるから……普段は、もっと大変……」
ガロンゾに居る面子が揃えば更に彼の苦労は増すだろう。セレストは団長の胃が心配になるが、最近はむしろ強靭となっているような気がしないでもなかった。伊達にジータの幼馴染兼兄貴分をしていない。
「ふ、不安かもしれないけど依頼はちゃんとやるから……だ、団長は仕事はきっちりするよ……」
「別に不安なんて無いわ。あのよろず屋さんの紹介だもの。むしろちょっとワクワクしてるかも」
「ワクワク?」
以外にも好意的にこの状況を受け入れているコルワ。セレストは意外そうに首をかしげた。
「だってなんかインスピレーション湧きそうな環境じゃない? 刺激的って言うか、飽きる暇無さそうな感じだし」
「確かにな。まあ相棒にとっちゃ冗談じゃないだろうが、こんな旅も楽しいもんだぜ」
「アイツダッテ、楽シンデハイルダロウサ」
「おめえがそれ言う?」
いけしゃあしゃあと発言するティアマトにB・ビィも思わずツッコンだ。
「別ニ適当言ッテルワケジャナイカラナ」
「まあ否定はしねえけどよ。色々理由はあったが、相棒も自分で空の旅を選んだしな」
「な、懐かしいね……そんな前じゃないのに、ザンクティンゼルをエンゼラで旅立ったの……」
「アイツノ借金生活ノ始マリダナ」
「いや、だからおめえがそれ言う?」
借金の原因としてはティアマトがかなり大きな要因となっているが、それはもう今更であった。最近こそ多少自制してるようだが団長は油断せずティアマトには睨みをきかせていた。
「なになに、だんちょの思ぃ出話ぃ?(*´ω`) クロエも気になるぅ~☆ 聞かせて聞かせてぇ~!」
B・ビィ達がふと話し出したザンクティンゼルでの思いでにクロエが食いついた。
「そういやおめえら、ガロンゾ以前の相棒の事しらねえしな」
「い、色々あったよね……ザンクティンゼルでも、アウギュステでも……」
「ふーん……ちょっと聞かせなさいよ」
「わらわも興味があるのう」
ザンクティンゼルでの鬼神の如き老婆による地獄のような特訓と、星晶獣マグナ6体とそれを超える星晶獣2体との激戦の日々。アウギュステに至るまでのドッタンバッタン大騒ぎな騎空団活動となし崩し仲間加入ラッシュ。まだ仲間に成って日の浅いメンバーにとってそれは興味深い話だった。さっきまでの喧嘩も忘れてメドゥーサ達もちゃっかり椅子に座っている。
「オオ、聞ケ聞ケ。色々聞カセテヤル」
「デザイナーの姉ちゃんも聞いてきな」
「えっと……いいのかしら。団長さん嫌がらない?」
「いいよ、いいよ。減るもんじゃなし」
「み、身内に敵がいる……」
何処まで話す気かは知らないが、まるで気にした様子のないB・ビィを見てこの場に居ない団長を気の毒に思うセレスト。しかし彼女も無理にB・ビィ達を止めないあたり、この雑談を楽しみにしているのだろう。あと止めても無駄と分かってもいる。「ごめんね、団長」と心の中で謝罪だけはしておいた。
「そ、そう言えばお茶出そうと思ってたんだ……コ、コルワさんは紅茶とコーヒーどっちがいい?」
「あら、別にそこまで気を使わなくていいのに」
「う、ううん……大事な依頼主でお客様だし……」
「そう? なら……紅茶でお願いしていいかしら」
「わ、わかった……少し、待ってて……」
給湯室に向かおうとするセレストだが、それを見てクロエがピッと手を上げた。
「ぁ! じゃぁクロエもぉ手伝ぃ!」
「い、いいの?」
「んまぁ新人だしねぇ~こんぐらぃしなきゃっしょ!(*´・ω-)b 」
「あ、ありがと……じゃあ、一緒に来てね」
「りょ!」
そして部屋から出て行くセレストとクロエ。言葉使いは不思議だが、愛想のいい可愛い後輩が出来たなと思いセレストは少しほっこりしていた。
「……楽しそうな騎空団じゃない」
そんなセレストを見送り相変わらずギャイギャイ可愛らしくも姦しいメドゥ子達。それを見ていたコルワの興味は強くこの騎空団に惹かれていたのだった。
コルワ出すぞーってなったらコルワSRが来て「!?」ってなって、サイコヴィーラMkIIで「!?」となり、SSRヴィーラのイラストに出てくるサイコヴィーラに「!?」ってなり、クロエの部屋着に「!?」ってなると、ゴリマッチョで「!?」になって、ジャンヌだらけで「!?」ってなる。
公式の出してくる情報に思考とネタが追いつかねえ
ガロンゾ編、登場させたい仲間を出すためなんだけど、自分の悪い癖が出てまた長くなりそう。
何時も感想、誤字報告ありがとうございます。何時も励みになります。投稿初期よりペースは明らかに遅くなって申し訳ありません。
令和になっても頑張ります。