俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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主に黒騎士、オルキス二人のキャラ崩壊、騎空艇の設定等、二次創作独自の設定や解釈があるのでご注意ください


ミスター地味っ子

 

 ■

 

 一 ザ・ニューエンゼラ!! 

 

 ■

 

「気嚢内ガス充填完了しました」

「何時でもOKです!」

「よし……エンジン始動っ!」

「了解、エンジン始動っ!」

 

 ガロンゾ島中央船渠に船大工の親方と男達の声が響く。固定用の降着装置と停泊用ワイヤーで繋がれたその艇は、まだ自力で宙には浮いていないがエンジンの始動と共に、後方のプロペラが回転を開始した。

 

「……どう思う?」

「いいね。安定してる……艇の機嫌もいい」

 

 親方の隣に立つノアがプロペラの駆動音に耳を澄ませていた。

 

「ただまだ張切らせない方がいいかな。早く飛びたくてウズウズしてるけど、空回りするかもしれない」

「だろうな。おい出力どうなってる?」

「安定しています、プロペラの駆動共に異常ありません」

「ふむ……よし第一、第二固定アーム解除!」

「了解、アーム解除!」

 

 船内の男達の合図を受けた男達が、徐々に艇を固定していた降着装置──アームをはずして行く。少しずつ、少しずつその船体が宙へと放たれていく。

 

「船体浮遊確認! 姿勢安定しています!」

「プロペラの回転数下げろっ! 浮かせたまま、位置をここで固定する。アーム全解除!」

「了解!」

 

 そしてついに全てのアームが外される。船渠と繋がるのは、一本のワイヤーのみ。プロペラの駆動音を船渠内に響かせ、艇が完全に宙へと浮いた。

 

「船体姿勢制御問題なし。位置固定されています」

「……よし、上手くいった」

 

 問題なく浮遊し、殆ど揺れも無く姿勢を維持する艇に満足したのか親方は拳を握り小さくガッツポーズをする。

 

「アームで再度固定後エンジンを切れ」

「了解!」

 

 そして再度降着装置で船体が固定されると、プロペラは回転を止める。そして静かになった騎空艇から、ゾロゾロと満足げな親方達が降りて来る。

 

「どうですか」

 

 それを出迎えたのは、団長とユグドラシルだった。二人と向き合った親方は、真剣な表情で一度船体を見上げ再度二人に顔を向けるとニッと笑う。

 

「成功だ」

「じゃあ!」

「ああ、これでこの艇は……エンゼラはまた空を飛べる」

「おお……っ! やった、やったぜユグドラシルッ!」

「────!!」

 

 親方の言葉を聞き二人はハイタッチを交わす。

 巨大な騎空艇、彼らの目の前にあるのは生まれ変わったエンゼラだった。

 

「完成だああぁぁ────ツ!!」

 

 団長はその生まれ変わった姿を見て、大きく歓声を上げた。

 

 ■

 

 二 完成して歓声を上げたんですねぇ~ うぷぷ~♪ 

 

 ■

 

 俺の目の前には、世界一イカした騎空艇がある。世界一だ。間違いなく、誰がなんと言おうと俺にとって世界一の騎空艇だ。

 

「皆さんありがとうございます……!」

「お前もだろ坊主! 船内設備なんて殆どお前さんが組み上げてったじゃねえか!」

「親方さん達が指導してくれたおかげですよっ!」

「嬉しい事いうねえ!」

 

 エンゼラ完成は、偏に彼ら船大工の力によるものだ。俺とユグドラシルだけでは到底無理な作業だった。このガロンゾの職人が居てこその完成だ。

 

「やったやん、団長!」

「コレデマタ旅ガ再開デキルワケダ」

 

 エンゼラが固定されると、少し離れて様子を見ていたカルテイラさん達が駆け寄ってきた。その中でポテポテと動きは遅いが、誰よりも興奮して駆け寄ってきたのはセレストだった。

 

「だ、団長……もうこれでエンゼラは完成なんだよね? ま、また飛べるんだよね……?」

「ああそうだ。またエンゼラで旅ができる!」

「や、やった……! やったぁ……!」

「そうだ、やったんだ!」

「────!」

 

 万歳三唱、喜びを声に出さずにはいられない。俺とセレストだけでなく、ユグドラシルも共に「万歳万歳!」と両手を挙げて叫びつつ、よくわからん小躍りすら踊ってしまう。

 

「しかしついにか。団長、もう直ぐに出られるのか?」

「いや、流石に今すぐじゃない。まず搬出エリアに運んだ後セレストにもう一度試運転をしてもらう。それで問題なければ何時でも出発可能だけど、準備もあるし発つとしても明日……いや明後日かな」

「そうか。しかし、立派になったなぁ」

「ぃぃじゃん、ぃぃじゃん! ちょ~ィカしてるょ *ヽ(*´∀`)ノ 見た感じぉ魚っぽぃのも、なにげカワィィ系でウケる、ゎら!」

 

 目を輝かせるのは俺達だけではない。ゾーイ達もまた新しい姿のエンゼラを見てワクワクしているようだった。

 

「ふふふ、凄いんだぞこの艇は。性能はもちろん、何せ単純に船体も大きくなって積載量も上がり、船内の間取りも一から変更、全てが一新されたエンゼラの完成形……くう! か、感激だ」

「ちょ、だんちょガチ泣き~?」

 

 思わず涙が零れるが、ここから団員皆喜ぶばかりではいられない。

 

「うむ! さあみんな早速だけどやる事は沢山だぞ。搬出エリアに運んでから試運転の後、問題なければそのまま積荷を載せるわけだ。貸し倉庫にしまわせて貰った山のような私物や消耗品の買出しとか手分けしてやるんだからな」

「では積荷の搬入は私が指揮をとろう」

「せやったら買出しはうちやな」

 

 それぞれの責任者をコーデリアさんとカルテイラさんが立候補してくれた。この二人以上に任せて問題の無い人物はいないだろう。

 

「お願いします。メンバーはお二人で決めてもらってかまいません」

「うむ、では早速動くとしようか」

「カルテイラさん、ティアマトとラムレッダよく見張っといてください。ドサクサ紛れに酒とか買い込む可能性があります」

「ん、任しとき」

「聞コエテルゾ!」

「うにゃ……否定できないのが辛いところにゃ……」

 

 カルテイラさんが居れば問題児二人は大丈夫だろう。他にも問題児は居るのだが、まあきっと……うん、大丈夫さ。

 

「団長さ~ん」

「おっとシェロさん」

 

 独特の間延びした声。顔を見るまでもなくその人物がわかる。

 

「完成おめでとうございますぅ~」

 

 笑顔で拍手をしながら傍によってきたのは、やはりシェロさんだった。

 

「いえいえ、シェロさんもありがとうございました」

「うふふ~お役に立てたようで何よりですぅ~」

 

 今回の事ではシェロさんの存在も大きい。この人がガロンゾで親方さん達を紹介してくれたのだからありがたい話だ。

 

「ところでシェロさん、このタイミングの登場と言うのは……」

「さてさて~、旅の再開に向けて色々入り用なのではと思いまして~」

「ううむ、やはり」

 

 俺達が旅に必要な物資を買おうと相談し始めたら現れたな。流石である。

 

「相変わらず目敏いわぁシェロはん」

「いえいえ~私もお役に立ちたいだけですよ~」

 

 シェロさんの登場のタイミングに呆れるカルテイラさん。しかしカルテイラさんに買出しを頼んだが、どの道シェロさんにも何かと相談をするのは間違いない事だ。それを見越しての登場だろう。ここは素直に頼らせてもらうとする。

 

「カルテイラさんはシェロさんと消耗品とかの相談もお願いします」

「団長はんは?」

「俺も俺でやる事沢山ですよ。方々回ってお礼言ったり、挨拶したり。取り合えずは、一番報告しないといけない人には知らせに行きます」

「ははあ、なるほどな」

 

 特に行き先は言っていないのだが、俺の表情から全てを察したカルテイラさんは頷き俺の肩を叩く。

 

「一人でいいのかよ? オイラだけでも着いてくぜ?」

「いいよ、お前はこっち手伝ってくれ。軽く報告するだけだし、菓子折りでも買って兵隊さんに言付けして終わらすよ。それと他にも用事あるから遅くなるけど気にしないでいいんで」

「ふーん、まああんじょう気張りや。また乱闘騒ぎはごめんやからな」

「俺だってごめんだい」

 

 また小言を言われるのは勘弁だと思いつつ、俺は中央船渠から離れ目的の艇を目指した。

 

 ■

 

 三 伝言頼むだけだから、ヘーキヘーキ

 

 ■

 

 艦内の通路を歩いている時、最近部下である兵達からの視線が妙だ──そう黒騎士は感じていた。

 敬礼もする、挨拶も欠かさない、自分に対して態度が悪いわけでもなく、むしろ以前よりはきはきと挨拶するように思える。だが何か妙だった。

 生暖かい視線、見守るような視線、そんな視線が多い。そして積極的に挨拶をされるようになった。軍属である以上上官、それも帝国の最高幹部である黒騎士に挨拶をするのは当然であるが、七曜の騎士である事と、寡黙で他者を遠ざける雰囲気を出していた黒騎士に対して兵達はなるべく関わろうとしなかった。

 しかしここ最近──特にガロンゾに来てから何かが変わった。

 不思議と生活と任務に支障は無いので特に原因を調べてはいない。そもそも足止めされている今、まともな任務も何も無いのが現状であるのも一つの要因かもしれない。

 何であれその部下の妙な視線を一々注意する気も起きなかったため黒騎士はその事を気にしないようにしていた。

 実を言えば思い当たる節が無いでもなかったが、それを考えると最近は頭を抱える事が増えるので極力思い出さないようにしている。決して“人形”と“地味な男”が原因じゃないはずだと言い聞かせる。

 何の因果か関わりあってしまったあの男。少し前も頭に血がのぼり、らしくもない乱闘騒ぎを町の食堂でしてしまった。あのジータにさえそこまで腹も立たなかったと言うのに、あの団長には久しく表に出す事のなかった“素”を出してしまったのが酷く悔しかった。

 

「……む?」

 

 所用で執務室を出て必要な資料を取りに艦内通路を歩いていると、気づけば兵達で賑わう艦内の食堂前に来ていた。散漫としたつもりも無かったが、疲れの所為か既に夕食の時間を過ぎている事を忘れていたらしい。

 

(……少し入れるか)

 

 基本的に黒騎士は兵達に混ざり食事を取る事は無い。主に下士官以下の者達が使用する食堂ではなく、将校以上の利用する別室か私室で食事を取る。黒騎士は特に私室での食事が多い。立場もあるが黒騎士自身が賑やかな食事を好まないのも理由であった。

 今は特に空腹は感じてはいなかったが、食事は取れる時に取っておくべきだろうと考えた。散漫とする気持ちも多少持ち直すだろう。黒騎士は部屋に食事を運ぶよう食堂担当の兵に声をかけようとした。

 だがここでふと、やけに兵が多く賑やかな食堂を不思議に思った。食堂は開いているが、夕食のピークの時間は過ぎており普通ならこんな賑やかなはずは無い。

 奇妙に感じていると、食堂から一人兵が出てきたので呼び止めた。

 

「おい、そこの」

「え? あ、これは黒騎士様っ!」

 

 兵は直ぐに背筋を伸ばし敬礼をした。

 

「崩してかまわん、それより妙に人が多いが何かあったか?」

「はっ! それが今日は妙に定食の味が良いと話題になり、皆が食べようと一度に押し寄せその所為か利用者の回転が遅くなったようです」

「なんだそれは……足止めされた状況で、新しい料理人など配属されていないだろうに」

「はあ、自分も詳しくは……ただ確かに美味しかったです。何と言うか、懐かしい実家の味を食べてるようで……」

 

 料理の味を思い出したのか兵はノスタルジーに浸りだす。結局謎は解けず何か予感のした黒騎士は、食堂内で料理待ちの列に向かった。皆トレーを持ち今か今かと料理を待っている。その列に並ぶ兵を見ていくと皆思い思いに話しこんでいる。

 

「いやあ、なんか楽しみだな」

「だな、皆幸せそうに食ってるもんな」

「うっわ、凄い列だねえ~ほらほら、最後尾ここ並ぼう二人とも~」

「急かすんじゃない」

「……楽しみ」

「そうだよねえ。僕も楽しみだよ~」

「おいちょっと待て、そこの三人」

 

 そしてそんな兵の中にさも当然のように混ざっていくオルキス、そしてドランクとスツルムの二人がいた。

 

「あ、黒騎士殿こんばんは~」

「……こんばんは」

「暢気に挨拶するな、何でここにいる」

「脱出成功……連勝中、ブイブイ」

「ぐう……っ!」

 

 片手でブイサインを見せるオルキス。黒騎士は奥歯をかみ締め冷静さを保とうとした。唯一まともなスツルムに視線を向ければ、彼女もまた目を閉じ軽く首を振る。

 

「……ドランクと食堂に向かう最中、部屋の近くを通りかかった時に丁度脱走の成功後らしく、一人では不安なので付き添いを」

「それはもう見張りの兵が悔しそうに項垂れてましたよ~。また負けたぁーって」

「だから、今日はもうフリー……」

 

 度重なる脱走とそれと共に上がるオルキスの脱走術の熟練度。このままでは兵達の無駄な労力を消費するだけと考えた黒騎士は、町の食堂での乱闘後オルキスの脱走に関して長い話し合いの下、一定のルールが決められる事になった。

 一つ、勝敗(?)は部屋からの脱走の成否で決める。

 二つ、脱走成功の時点で兵の無駄な捜索活動をやめる。

 三つ、脱走成功の時点で艦内での常識的な範囲での自由行動は認めるが、外出は必ず二名以上の者を付き添いとして同行させる事(ドランクとスツルムが望ましい)。

 四つ、ルール三を破った場合、晩御飯抜き。

 こんなお粗末な規則を真面目に決める事になってしまった事に黒騎士は酷く落ち込んだ。しかも晩飯抜きのルールが特に効果がある事に気づき更に落ち込んだ。

 だがここで色々と小言を言ってもそれこそ無駄な体力を消費するだけなので、黒騎士はグッと言葉を飲み込んだ。

 

「……それで、貴様らも定食目当てか」

「そうそう。なんか評判らしいじゃないですか~」

「理由を知ってるか?」

「詳しくは……体調不良でコックが数名休んでいるとかで、一人臨時で入ったとだけ聞きましたが」

「交代? しかも一人が変わっただけで何が……」

 

 ますます深まる食堂繁盛の謎。何故か嫌な予感が増した黒騎士は、トレーを持って皆と仲良く列に並ぶ理由も無いため、黒騎士は遠慮なく列の前の方へ歩いていく。

 

「……着いてく」

「ええ~せっかく並んだのに?」

「いいからお前も来い」

 

 オルキスも何か予感がしたのか、列に並んだ三人もまた黒騎士について行った。兵達も近くに来た黒騎士に気がつくと、慌てて敬礼し道をあけていく。そして食堂の調理場にいる事情を知っていそうなコックの一人に声をかけた。

 

「おい、交代したと言うコックはわかるか」

「はっ! あちらの者です!」

 

 コックは一人の男を指差した。後ろを向いてるその男はものすごい勢いで野菜を刻み、肉を焼き、スープを煮込み、盛り合わせていく。恐ろしい事に殆ど一人で作業していた。まるで腕が増えたかのように見える程だった。

 

「いやあ凄い奴です。あんな器用な事出来る奴いるなんてしりませんでした。なんでこっちの勤務じゃないんでしょうね」

「……交代で入ったと聞いたが、あれは普段はなんの勤務についている」

「ええと、それは……あれ? そういやなんだったかな?」

「確認していないのか……」

「も、申し訳ございません! 何せ一人抜けるだけでも忙しくって。い、今確認します! おーい、そこの……名前もなんだっけか? えっと、交代の! お前普段どこの勤務だ!」

 

 コックに呼ばれ手を止めた男。すると男はフルフルと振るえ包丁を置くと振り向き叫んだ。

 

「だからっ! 俺は部外者なんだってばっ!!」

「────ッ!?」

「あぶっ!?」

 

 その声を聞き、その顔を見た瞬間眩暈を感じた黒騎士は思わず倒れそうになり、咄嗟にスツルムが黒騎士を支える。

 

「……お兄さん」

「はい? ……げええっ!?」

 

 オルキスが僅かに驚きながら手を振ると、それに気がついた彼は黒騎士達の姿を見て悲鳴を上げる。

 

「……何故、何故ここに居る……貴様」

「あは、あはは……」

 

 言い訳しようの無い状況にその男──本来居るはずのない星晶戦隊(以下略)団長は、一気に滝のような汗を流し、この後滅茶苦茶怒られる事を悟った。

 

 ■

 

 四 星晶戦隊(以下略)団長“兼”船大工見習い“兼”エルステ帝国戦艦食堂臨時コック

 

 ■

 

「さ、最初は本当に伝言頼むだけで終わるつもりだったんですよう……本当なんですよ……うぅ……」

「ほうほう、そうかそうか……」

 

 エプロンを脱ぎ、普段着に戻った俺は所変わってエルステ帝国戦艦は黒騎士さんの執務室いおり、そこの来客ソファーで縮こまっていた。

 目の前の黒騎士さんの口調は、口では理解してる風であるが明らかに口だけであり、怒りをなんとか静めている風の喋り方だった。何度目かわからない絶対零度の視線が俺を射抜く。

 

「違うんです、ほんと戦艦に入ろうとか微塵も思っちゃいなかったんです……」

「よしよし……」

 

 落ち込んでいたらオルキスちゃんが慰めてくれた。優しさが骨身に染みる。

 

「オルキスちゃん優しいなあ……」

「泣くな見苦しい」

「ひでえや……」

 

 一方黒騎士さんはキツイ。しかしどちらかと言えば此方が普通の対応だろう。なんせ俺は無断で侵入した人間になるのだから。

 

「それで……? 私宛の伝言を頼みに来ただけの、部外者である、貴様が、何故、艦内の、食堂の、コックになってる? さあ、説明願おうか?」

 

 俺を攻めるように、句読点が目に見えるような凄い区切り区切りに話す黒騎士さん。泣きたい。

 

「まあ状況を一から説明しなよ。理解できるか不明だけどさ~」

「言い方が他人事だぁ……」

「他人事だしね~」

「くそう、くそう……っ!」

 

 ドランクさんのおちゃらけた言い方に腹も立つが、実際他人事なところもあるだろう。言い返すに言い返せん。

 

「最初は今話した通り、普通に外の兵隊さんに話しかけて伝言を頼もうとしたんです。そしたらですね──」

 

 時間を遡り二時間ほど前。帝国戦艦の近くにまで来た俺は、さて誰に声をかけようかと悩んでいた。戦艦の周りには、ぽつぽつと警備の兵隊さんがいる。

 彼らも今艇を動かせない互いの事情を知ってはいるだろうが、一方で俺達は帝国に喧嘩売った騎空団。無駄に刺激させたくないので話しかけやすそうな人を探していた。

 そんな訳で様子を探っていると、丁度俺が通り掛かった場所が戦艦の搬入口だったらしく、慌しく沢山の荷物を艇に積み込んでいた。木箱の印字を見るに食料のようだった。流石少なくとも数百の人数が乗る戦艦、消費される食料もそれ相応である。

 などと暢気に考えてふと別の方を見れば、一箱積荷と同じ箱が置かれたままになっている。おや? と思っていると、そのまま搬入口を閉めようとしていた。

 これは積み忘れだとわかり、慌てて「積み忘れがあるよ!」と叫んだのだが、責任者らしき者から返ってきた返事は「悪いが持ってきてくれ!」と言うものだった。

 俺がかよ! と思ったが、あちらは俺の姿が見えずどうも俺を仲間の一人と勘違いしてるらしかった。面倒だが一箱程度かまわないかなとも考え、またついでに黒騎士さんへの伝言も頼めるかと思い箱を艦内へと運んで行った。

 

「すまないすまない、見落としてしまった」

「いえいえ。それで、お願いしたい事が──」

「それじゃあ、今日必要な分を調理場まで運ぶからな」

 

 何とした事か、この時点で彼らはまだ俺を仲間の一人と勘違いしているらしかった。ここで嫌な予感がした俺は、慌てて誤解を解こうとする。

 

「ちょ、ちょっと待った! 俺は帝国の兵じゃ」

「む? お前鎧はどうした?」

「どうしたも何も」

「ああ、今日は非番か? すまなかったな、仕事をさせた」

「いやだから」

「だがお前も食う飯の材料だ。ついでだ、一箱程度やっていけ」

「ちがっ!」

「さあ時間も無いぞ! ほれ、お前も早くしろ!」

「だから違っ!? おい待て、お、押さないで、ちょまっ!? ああっ! うわぁ────っ!?」

 

 と、次々と兵隊さん達が食材の箱を別の場所に運び出した。その流れに巻き込まれた俺は、手渡された箱を持ってそのまま何故かエルステ帝国の兵に混ざり食材を運び出す。何やってんだ俺はと思った。そして何故誰も不審に思わないのか不思議でならなかった。これでいいのかエルステ帝国兵。

 そして次に調理場に食材を持って来た俺は、俺の存在が騒ぎにならない内に逃げ出そうとしたのだが、調理場に一着エプロンが落ちており誰か転ぶと危ないと思ってしまいそれを手に取ったのが運の尽き。

 

「見つけたよ、まったくここにいたのか」

「は?」

 

 エプロンを持った瞬間、後ろから肩に手を置かれ話しかけられた。

 

「えっと、なんでしょうか?」

「なんだじゃねえって、お前だろ交代の臨時コック」

「……はい?」

「担当の奴等が体調崩したって聞いただろ」

 

 当然聞いてるわけは無い。何故なら俺は帝国兵では無いからだ。

 

「さあさあ、もう直ぐ腹空かせたのが押し寄せてくるぞ。知ってるだろ、夕食ラッシュの凄さを」

 

 知るわけが無い。何故なら俺は帝国兵では無いからだ。

 

「抜けた人数多くてまいったよ。非番のやつら代わりは嫌だと駄々こねたらしいが、一人でも任せられる奴がいて良かった」

 

 任せられてはいない。何故なら俺は帝国兵では無いからだ。

 

「まった、まったまった!」

「ど、どうした突然?」

「あんた俺が誰かわかってんの!? 俺だよ……ってわからんか。あれだよ、星晶戦隊(以下略)の団長! 聞いてんだろなんかしらさ!? もろ部外者だよ! いや、なんなら敵だよ!!」

 

 このままでは、またその場の勢いで面倒な事になる。騒ぎになるのを承知で自ら正体を明かすと、相手はポカンとした後なんとゲラゲラと笑い出した。

 

「はははっ! おいおいおい馬鹿言うな。あの星晶戦隊(以下略)の団長がなんだってこの調理場に居るんだよ」

「俺が聞きていっ!!」

「ほれほれ、サボろうたってそうはいかねえよ。エプロン着て準備しな!」

「違うっての! 俺は星晶戦隊(以下略)の団長なんだ!」

「わかったわかった」

「わかってねえじゃんっ! く、黒騎士さんを呼んでくれ! 俺を見ればわかるから! ねえ聞いて……聞いてる!? ねえってば……本当っ! 本当なんだよー!」

 

 サボりの口実と思われ俺の言葉は無視された。そうして俺はなし崩しに臨時コックになり、本日のお任せ定食を任され、俺が運んできた材料でメニューを考え、休んだ人数分働き、これ以上面倒にならないよう祈りつつ調理を済ませたら逃げ出す決意で定食を作り続けたのだった。

 

「それで結局僕達に見つかったわけね」

「しかも妙に馴染んでる中でな」

 

 ドランクさん達の視線まで痛い。俺は何度人生でこんな呆れた視線を身に受ける事になるのだろうか。俺は何もしていないと言うのに。

 

「なし崩しでコックやってあんな行列作る奴があるか。見たかあの兵達の様子を。無駄に器用に料理作るものだから食堂一帯がノスタルジーに浸っていたぞ。騎空団の団長が定食で手軽にお袋の味を作るな、田舎の食堂か」

 

 スツルムさんのツッコミが妙に具体的であった。

 

「……誰も気づかない帝国兵側にも問題あると思います」

「それは当然後で改善を徹底させる」

 

 最早素通りと言って良い俺の意図せぬ侵入に黒騎士さんは、戦艦の兵達にもお怒りである。警備がざると言うレベルでは無い、“笊”でももうちょっと細かい網目があるだろう。きっと後でしこたま怒られるに違いない。

 

「団長君だからって言うのもあるだろうけどね。普通はこうならないよ。君だからこそ不思議なその場の勢いでこう、あ~……って感じ?」

 

 ドランクさんにすごく雑な理由を説明されて落ち込む。

 

「そんなフワッとした説明でこんな事になるんじゃたまったもんじゃねーですよ」

「こっちの台詞だ馬鹿者。まったくもって地味な顔だからな貴様は……ええい、もっと緊張感ある表情を出来んのか。そばに星晶獣が居なければ途端に影法師みたいになりおって。だから正体明かしても冗談に思われるんだ」

「ほんと泣くよ俺ぇっ!?」

 

 相当お怒りなのはわかるが酷い言われようである。

 

「それとその菓子は何だ?」

「これは来る前に買って来た菓子折りで……」

「そんなのは話を聞けばわかる。そうではなく、何故既に人形が食ってる?」

「……おいしい」

 

 既に開封されたビスケットの箱。黙々と食べるオルキスちゃん。

 

「いやあ……穴が開くぐらい箱見てるもんで……その、つい」

「……」

 

 俺がそう言うと、黒騎士さんの鎧がカタカタと震え音がなりだす。俺知ってる、これ黒騎士さんが怒ってるやつ~~。

 

「……“つい”、また“つい”。貴様はそう言ってそいつを甘やかす! 何度目だガロンゾで会ってから!?」

「ええ!? 話がぶり返した……っ! いや、けどですねっ」

「けども違うもあるか! お通しのようにほいほい菓子類出しおって、孫に会った田舎の爺か貴様っ!」

「ぎゃあ!? ぼ、暴力反対っ!?」

 

 立ち上がり俺に掴みかかろうとする黒騎士さん。黒騎士式鎧トゲトゲ・ヘッドロックの痛みを思い出し俺は悲鳴を上げて執務室の机の裏に逃げこむ。

 

「……やめて」

 

 が、ここでまさかの救世主。オルキスちゃんが俺と黒騎士さんの間に立ちふさがった。

 

「どけ人形、もう我慢ならん……っ!」

「駄目……お客さんに乱暴はいけない……」

「客じゃない、侵入者だ」

「でも駄目」

 

 なんと言う一触即発。オルキスちゃんと黒騎士さんの視線が空中でぶつかり火花が散る。これは不味いと思うが、何せ俺は不本意ながらこの状況を作った最大の原因である。下手に間に入ると更に黒騎士さんの怒りを爆発させかねない。

 ドランクさん達もどうしたものかと手を出しあぐねていると、オルキスちゃんは突として俺の上げたビスケットを一枚取り出すとそれを黒騎士さんの方へと向ける。その意図を俺も含めこの場に居る誰もがわからず唖然とする中、彼女は口を開いた。

 

「お腹が空くと……イライラする……」

 

 その言葉は不思議と皆の心に響いた気がした。

 

 ■

 

 五 B・ビィ「なんか相棒遅くね?」 ティアマト「飯デモ食ッテルンダロ」

 

 ■

 

 オルキスちゃんによる、神のお告げの如く突拍子も無い言葉は、不思議とその場の混乱を収める事に成功した。

 そしてその後どうしたかと言うと──。

 

「はむはむはむはむ……っ」

「うま、うんま~~っ!! なにこれ、ほんと美味しい……っ!!」

「……美味い」

 

 オルキスちゃんが一心不乱に食べる。ドランクさんが叫んでいる。スツルムさんが味をかみ締めている。

 

「喜んで頂けてなによりだなぁ。あははは……」

 

 三人は飯を食っていた。

 俺は再び飯を作っていた。

 

「って、なんでだよっ! これじゃあさっきと変わらないじゃないかっ!?」

 

 帝国戦艦食堂調理室。時間的には既に食堂は終わっており、大勢いた兵隊さん達の姿は無い。だがその中に俺と黒騎士さん達だけがおり、広い食堂の一角にオルキスちゃん達は座り、そこからカウンター越しに見える調理場で俺はまた飯を作っていた。

 

「貴様が面倒起こした所為で三人とも食事を取り損ねた。責任もって腹を満たしてやれ」

「好きで面倒起こしたんじゃねいやい……!」

「黙って作れ」

 

 材料も器具も好きに使って良いと言われ、半ば無理やり飯を作らされている。

 実の所この充実したキッチンの設備を使える事は楽しんでも居るのだが、いかんせん“監視”がつくので気まずいったらない。

 

「せめて座ってて下さいよ。黒騎士さん圧強いんだから、後ろ立たれちゃ無駄に緊張しちゃいますよ」

 

 ドランクさん達は席についているが、黒騎士さんは一人俺の後ろで手を組んで立っている。余計な事しないか見張っている、とのことだ。

 

「気にせず続けろ」

「いや気になるってば。座ればいいじゃないですが、別に毒入れるわけじゃなし。黒騎士さんも食べるんでしょ?」

「いらん、疲れて食欲など失せた」

 

 気持ちはわかるが、疲れてても軽くなんか食った方が良いと思うけどな俺は。経験談として。

 

「へいへい、そっすか……」

 

 きっとこれ以上言っても無駄なので一先ず料理に集中する。既に火を消していたキッチンでは、大げさな料理は出来ない。しかしオルキスちゃんに残り物を暖めただけの料理など許容できん。なのであり合わせの材料を使う事になるが、一から調理する事を決めた。

 水産の食材が少ないガロンゾで補給された食材となるので、必然的に野菜や肉系がメインになる。

 先ほど三人に出したのは、俺によるミニサラダとザンクティンゼル風野菜のグラタンスープ。やる事は簡単、サラダは野菜を切って盛り付け終わり。スープは残り物の野菜と肉を使い出汁をとった簡単なブイヨン。具材には煮た際に溶けない程度に切った野菜を鍋に入れ煮た後、切ったバゲットを浮かべてチーズをまぶしてオーブンに入れて焼く。

 

「トロトロのチーズとスープの染みたバゲットが合うよ~っ!」

「野菜が多めだな」

「それはジータ向けに作ったからです」

「彼女の?」

「昔からジータの飯の面倒もみてたんですけどね。あいつ子供の時遊んで動いた分やたら肉ばっか食うから、こっち無駄なく食えるよう野菜取らせたんです。汁物出すと絶対飲みますからね」

「母親かお前は」

 

 益々突っ込みのテンポと鋭さが増してくるスツルムさんである。

 

「さあさあ団長君、サラダにスープの次は何かなぁ~?」

「何気取りですかその喋りは……あい、次お待たせです」

 

 ドランクさんに急かされ出した料理はジャガイモとベーコンのチーズ焼き。あとさっき切ったバゲットの残り。

 

「中々ボリューミーだね~」

「ジャガイモ大量に有ったんでそれにしました。楽ですしね」

 

 塩ゆでしたジャガイモとベーコン、その他ブイヨン作る時残した野菜を適当にグラタン皿に入れてチーズをのせてオーブンで焼く、で終了。

 

「いよいよ家庭料理じみて来たな」

「事実家庭料理です。オーブンで焼くだけは楽なのだ」

 

 手軽でボリュームがあり栄養もある。ザンクティンゼルなんか何もない所で、基本自給自足で暮らしてるとこんな料理が多くなる。

 

「そして美味いっ! 熱々ほくほくのジャガイモと糸を引くチーズが上手に絡み合うね~~っ! こりゃやみつひ、あふふっ!! あつっ!」

「ドランクさん」

「あい?」

「食いながら喋らない」

 

 一々リアクションがオーバーなドランクさんに注意しておく。喋るなとは言わんが口の中は空にして喋りなさい。

 

「いい歳して騒いで食わない。オルキスちゃんが真似したらどうするんですか」

「あ~……僕今すごく親に怒られた気分」

「もっと怒られるといい」

「酷いな~スツルム殿~。美味しいご飯食べれば嬉しくなるじゃないのさ~。スツルム殿だってそうでしょ? さっきのスープだってあっと言う間に食べちゃったしさ~」

「うるさい……っ」

「あ、スツルムさんストップ」

 

 スツルムさんが剣に手を伸ばした。ドランクさんを刺す気だろう。だがちょっと待ったと制止する。

 

「食事中乱暴禁止。後でどうぞ」

「後で!? 団長君止めるならちゃんと止めてよう!?」

「……そうだな、後で刺す」

「予告されたよ!? 決定なのコレっ!?」

「おいしい……」

 

 注意はしたが調子の良いドランクさんの事だから直らんな。精々これからもスツルムさんにチクチク刺されるのだろう。

 そしてそんなやり取りを気にしないオルキスちゃん。料理をした甲斐があったと言うものだ。

 

「オルキスちゃんは飯の作り甲斐があるなあ」

「むふん……」

 

 ほらほら可愛い。誇らしげにご飯を食べる子供の何と微笑ましい事でしょうかね。いくらでも作ってあげたいよ、おかわり作っちゃおうかな。

 

「……」

「いってッ!?」

 

 などと呑気に思っていたら、黒騎士さんに膝小僧を蹴られた。

 

「えっ? 蹴り……え、なんすか突然?」

「もっと作ってやりたいと思っているな貴様」

「……流石七曜の騎士、人の心を読ん」

「顔を見ればわかる戯けめ」

 

 ちくしょう俺の表情筋!! 

 

「そういう所が甘いんだ貴様、可愛いなどと現を抜かす。人形の身体を肥えさす気か」

「はい……すみません……」

 

 なんか身内以外にこうやって怒られる事少ないせいか、妙に黒騎士さんには頭が上がらん。

 ただあんだけ食う割に、この子あんまり体型変わってないと思う。

 

「けどデザートでフレンチトースト作っちゃたんですけど」

「……文句を言いながらどうして手際よく作ってるんだ貴様は」

「いったっ!? ちょ、蹴らないで……ちょっと、いたっ!? 地味な痛さで蹴らないで、やめ……っ!? 膝小僧はやめてちょーだぃ、っつうっ!? つま先尖っていったっ!?」

「スツルム殿、団長君が僕みたいになってるよ」

「自覚はあるのか」

「……おいしい」

 

 剣を抜かないのは優しさと思いたい。

 その後デザートも出して終了。やっと俺の役目も……いや、俺は別に帝国戦艦で飯を作る役目なんて無かったが、ともかく終わった。

 なのでやっと本題に入れる。

 

「エンゼラ出来たので明後日には出ようかと思ってます」

「本題がオマケみたいだよ」

「この話に至るのにどれだけ時間くってるんだ」

 

 漫才コンビに総ツッコミをくらう。

 

「結局一月ほど足止め食らったな」

「言わんで下さいよスツルムさん。艇バラしてほぼ新造レベルで組み立てたのに一月で済んだと思いたいんだから」

「普通ならな」

 

 後は言わなくてもわかるな? と言う視線を向けられる。目を背けたいけど自覚はあるから背けられない、ちくしょう。

 

「明後日出れるならそれでかまわん。特に予定の変更がないならば、明後日に人形を連れて行く」

「了解っす。予定変わりそうなら連絡入れます」

「その時は直接お前は来るな。面倒になる。よろず屋にでも頼め」

 

 ひでえや。

 

「本題も済んだろう、もう帰れ。食堂の入り口に兵を呼んでいる。そいつに艦の出入り口まで連れて行ってもらえ」

「まるで出前みたいな扱いだぁ……」

「結果的にそうだったね~」

 

 うるせえやい。

 

「まあマジ帰ります。予定より遅くなったし。オルキスちゃん、ビスケット残ってるだろうけど、食べすぎちゃだめだからね。黒騎士さんに怒られるから、俺が」

「何か言ったか?」

「いってっ!?」

 

 また軽く膝小僧を蹴られた。

 

「うん……程々にしとく。ごはん、ありがとう……おいしかった」

「それは何より」

「……懐かしい味がした。みんなで食べると、ごはんがおいしくて、それと懐かしい味がする……食べた事無い料理だけど……懐かしかった。私が……きっと私じゃないけど……みんなで食べるごはんがとっても懐かしいと思った」

「私じゃない……?」

「おい」

「うぇ……っ!?」

 

 何か不思議な感想を言うなあと思っていたら、黒騎士さんに肩を掴まれた。しかもやたら強い力で。

 

「な、なにか?」

「いい加減帰れ。我々は別に“お友達”などでは無いのだからな」

「わかってるけども……」

「ならば帰れ。今すぐに」

 

 何か急に鬼気迫るものを感じる。理由があるとすればオルキスちゃんの事か、俺に腹を立てたか、俺に腹を立てたか、それか俺に腹を立てたか……いかん、思い当たる事が多い。

 

「そ、それじゃあこのへんで。また明後日に」

「はいはい、それじゃあまたね団長く~ん」

「帰り道に星晶獣に攫われないようにしろ」

「ばいばい……」

 

 ドランクさん達は手を振ってくれたが、黒騎士さんは黙ったままだった。こちらを見ようともしない。

 なにか失敗したかなと思いながら、下手な事言って藪蛇にならぬうちに今度こそ俺は退散した。

 戦艦を出た所でそう言えば、も一つ黒騎士さんに言う事があったが言い損ねたのを思い出す。だがそちらは用事と言うわけでは無く、念のため一応メモ書きも残してあるので大丈夫だろう。

 それよりも、帰ってからカルテイラさん達にどう言い訳しようか悩む。そちらの方が今の俺にとって問題だった。

 

 ■

 

 六 美味しい食事は優しい記憶のアクセント

 

 ■

 

 特に見送りもせず、団長が帰ったのを確認した黒騎士はため息を吐いた。

 

「お疲れですね~」

「わかっているだろう……一々言うな」

 

 ドランクの軽口に一応は返事を返しておくがこれ以上は答える気にはならない。そんな雰囲気を感じ取ったドランクはスツルムと目を合わせると、彼女も黙って頷いた。

 

「では部屋に戻ります」

「僕らオルキスちゃん部屋に送っときますね~」

「……頼んだ」

「ほらほら、オルキスちゃん。お腹も膨れたし眠いでしょ、もう行こうか」

「うん……」

 

 ドランク達は席から立ち上がるとオルキスを連れて食堂を後にする。食堂を出る前にオルキスは振り向き黒騎士を見た。

 

「おやすみなさい……アポロ」

 

 その声は黒騎士も聞こえていた。だが返事は返さない。オルキスはその事に少し寂しそうにしていたが、直ぐにドランク達について行った。

 

(アポロ、か……姿も、声も同じと言うのに)

 

 ついに一人食堂に残った黒騎士は、席に座るでもなくカウンターに軽く背を預けたまま鬱々としていた。

 先程オルキスが団長に語った食事の感想。あの場に居た団長には、その他愛無い会話が黒騎士にとってどれ程の意味を持つかわからなかった。特に“懐かしい味”と言う言葉を聞いてから黒騎士の心は波立っていた。

 

(郷愁の味……それだけで“人形”に彼女の記憶を見せたのか、あいつは)

 

 まさかな、と黒騎士は思った。そして雑念を振り払う。

 食堂で一人苛立ってもしかたない、自分も部屋に戻ろうと思った時黒騎士はふとドランク達の座っていた席にまだ皿がある事に気付いた。中身が乾燥しないよう丁寧に蓋までしてあり、その蓋を開けてみればつい先ほど作ったらしいサンドウィッチがあった。

 更に何かと思えば一枚メモが置いてある。手に取って見ると見覚えの無い文字で書かれている内容に思わず顔をしかめる。

 

『少しは食べた方が良いと思い、やっぱり作っておきました。よければどうぞ』

 

 クシャリ、とメモを握りつぶした。メモの端にある名を見るまでも無く団長の置いていったものだろう。文句を言いながらフレンチトーストまで作っていた男が、更に何時の間にこんな物をメモ付きで残したと言うのか。

 お前は私の親ではない、と内心叫び苛立った。この場に団長が居ればまた蹴りの一つもいれたであろうが、もう既に姿の無い団長に苛立ちを募らせた。しかし出来上がっているサンドウィッチをもう一度見る。くだらない騒動で忘れていたが、そもそも自分も軽く何か食べようと初めは考えていたのを黒騎士は思い出した。

 

(これに私が気付かなければ、どうするつもりだったんだあいつは)

 

 流石に捨てる事も無いだろう、そう考える事にした。しかし部屋に持っていき食べる気も起きず、黒騎士は自分でコップ一杯の水を注ぎ席に座ると黒騎士は兜を脱いだ。食堂の扉も閉まっている。誰もいない空間で、その姿を見る者をはいない。

 少しサンドウィッチを睨むと黒騎士は端のものから手に取って口に運んだ。なんの工夫も無いように見えるただのミックスサンド。味付けされた卵と、野菜と、ハム、それだけの具材。だからだろうか、質素なそのサンドウィッチを食べるとそれだけで懐かしく感じた。どこにでもあるようなその味は、不思議と懐かしい。

 

(……美味い)

 

 空腹でたまらないわけでは無かったが、一口食べるとついつい次のものに手が伸びた。そして気が付けば皿には何も無かった。黒騎士自身も気が付かない内に全て食べてしまっていた。

 

(懐かしい味、か……)

 

 サンドウィッチ自体になんら思い出はない。しかしその味は、黒騎士の古い思い出をじんわりと浮かび上がらせる。

 その思い出には幸せがあった。その思い出には優しさが満ちていた。家族、友人が映るその思い出は美しかった。

 しかし今の黒騎士にとってその美しさはなによりも残酷だった。しかし、それでも思い出は忘れられない。だからこそ、思い出す。

 明後日、予定通りにエンゼラが飛ぶのならどうあっても団長に会う事になる。なにかしら嫌味と共に、サンドウィッチの礼ぐらいは言ってやろうと思った。

 

 ■

 

 七 何時も通り

 

 ■

 

「そりゃ遅うなる聞いてはいたけど、なんも連絡無しっちゅーのは感心せーへんで」

「はい……ごもっともです……」

「まあ団長はんの場合、なんぞ連絡あったらあったで心配になるけども……それはそれとしてやっ! どー転べば帝国戦艦の食堂で飯作るなんて展開になるんっ!? 出張コックかっ!?」

「そんなん俺が知りたいですよう……っ!」

「ほん、ほんま……ほんまもう、行く先々で……もう星晶獣もびっくりやっ!!」

「タマゲタッ! ッテ感ジダナ」

「オーマイバハムーッ! ってやつだな。オイラびっくりっ!」

「うるせーよっ!?」

 

 一方団長はカルテイラ達に怒られると言うより揶揄われていたのであった。

 





何時も感想、誤字報告等ありがとうございます。大変励みになっております。

ついに星晶戦隊マグナシックスの内三体がプレイアブル化してしまいました。
マグナシックスは、そもそもユグドラシルがプレイアブルしてたから、思いついたネタでもありますけど、まさかコロッサスもプレイアブルするとは……。
そしてコロッサス君は、身長と言うか全長18.0mと判明。 \でけぇ/
来年か再来年には、マグナシックスそろうかもしれねえ。

インドが凄くよかったですね。続編いかにもありそうですが、イベントかそれともフェイトエピソードか。
イチャイチャを見せつけられて雄たけびを上げるティシポネが限界オタクに見えました。

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