俺は、スーパーザンクティンゼル人だぜ?   作:Par

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キャラ崩壊と二次創作独自の設定や解釈があるのでご注意ください。

また、アナザーストーリーと区別するため、この話から新しい章タイトルで始めますが、章タイトルは現在(仮)としておきます。

2021/08/12追記
章タイトルから(仮)を外しました。以降「夢の冒険編」として続きます。


夢の冒険編
木人危機一髪


 ■

 

 一 日常ですよ団長さん

 

 ■

 

 ──とある島のとある町、その食堂。

 

「依頼完了ご苦労様ですぅ。こちらが今回の依頼の報酬になります~」

「どうもです」

 

 シェロさんからルピ硬貨の入った袋を受け取る。ちょっと軽めのそれは、軽かろうが依頼達成の証である。

 ふらりと立ち寄った島のそう大きくない町で偶然居合わせたシェロさんに頼まれ、急遽魔物討伐の依頼を受けたしだい。

 

「取り逃がしもないですし、こっちで見た限り巣のような物は無かったと思います」

「細かい所までありがとうございます~。後は町の人でも対処できると思いますので~」

「ならこっちとしても安心です」

 

 そう値段の良い依頼ではなかったが、魔物の被害は人命に係わる。人が困っているならやらんわけにもいかん。と、思ってしまうあたり我ながらお人好しだと感じる。そしてそんなお人好しのとこに、聖騎士団団長だとか更なるお人好しがいるのだから「やりません」と言う言葉が出ようもないのだ。

 さてそんな魔物討伐の依頼だが、結局それはもう済んだ依頼であり特に重要でもない。何が重要かと言えば──いや、さして重要でもないのだが──どうも先ほどから無数の視線を感じるのである。

 

「……なんか俺妙に見られてません?」

「団長さんと言うより、“皆さん”が見られてるようですね~」

 

 シェロさんに言われ「ですよね」と返す。

 依頼の事で話す俺達の後ろにある広いテーブル席には、依頼を受ける際偶然集まってしまったそれはもう濃い面々がいた。

 

「仕事ノ後ノコノ一杯ッ!!」

「このために生きてるにゃぁ~っ!」

『酒の追加だ。普通のジョッキじゃ小さい、特大ジョッキで頼む』

「B・ビィ! あの魔物じゃ俺は語り足りないみたいだ……! この後腹ごなしに付き合ってくれないか!」

「いいねえ、オイラも暴れたりなかったところだぜ」

「ははは……! こ、このキノコのスープは、中々美味しいなあ! 出汁がよく出て……ふふ! あはははは──っ!?」

 

 よりにもよってこの面子、騒がしい上に目立つ。そりゃ注目の的にもなろうってもんである。

 

「最近は慣れたつもりですがね」

「そうですかそうですかぁ~」

 

 俺の言葉を聞いてもシェロさんは微笑むのみだ。

 

「だんちょぉー! メドゥ子がメドゥ子がぁ~!」

「ぐえ……!」

 

 突如横っ腹に衝撃。何かと思えばのじゃ子が泣きながら突っ込んできた。

 

「のじゃ子、今仕事の話してるんだけど……」

「メドゥ子が妾のケーキのイチゴ食べたのじゃ~っ!」

「しょうもねえ!?」

「しょうもないとはなんじゃ! イチゴじゃぞ、ケーキのイチゴなんじゃぞ!?」

「ちょっと、一々そいつに言いに行かないでよっ!?」

 

 そして登場するメドゥ子。

 

「だってお主がイチゴ食べるから!」

「除けてあったし、要らないと思ったのよ!」

「妾は最後に食べる派なんじゃ!」

「じゃあ最初にそう言っときなさいよっ!」

「要らんとも言っておらんわ!」

 

 ギャイギャイ騒ぐ星晶獣(笑)二人。イチゴで争う星晶獣(笑)二人。終いには互いの口をつねり引っ張り合う星晶獣(笑)二人。世界一しょうもない星晶獣の争いが今ここにある。

 

「やめいやめい、このスットコドッコイ星晶獣!」

「のじゃっ!?」

「たっ!?」

 

 この虚しく醜い争いを止めるのは、きっと団長の役目なのだろう。そう信じ二人を頭をはたいて大人しくさせる。

 

「毎度言うけどのじゃ子は、食いもん大事にするなら食べられないようにしとけ。そもそもメドゥ子は、人のを食うな。お前たまに俺のも取ってくじゃん」

「アンタの物は、アタシの物よ」

「ガキ大将かお前は」

「誰がガキよっ!?」

 

 騒ぐ二人に辟易しながら宥める。小さい娘二人持つ親ってこう言う気持ちなんだろうか、なんだか自分が急に年を取った気がしてならなかった。

 すると周りから何かコソコソボソボソと声が聞こえる。

 

「なあ、あれって……」

「ああ、間違いないだろ」

「星晶戦隊(以下略)……スゲー、ほんとにあんな感じなのか」

「って事は、あの地味なのが」

「あの苦労人が団長か……」

「まるで女房に逃げられた男親の背中だ」

「しかしマジで地味だ……」

「驚きの普通さ……」

 

 食堂にいる他の客が、俺達を見て話す。

 俺のこと? それ俺の事だよね? あと何で地味って二回も出てきたの? 

 

「団長さんは、人気者ですねぇ~」

「人気違う」

 

 シェロさんは、ニコニコと言うが違う。これは奇異の目だ。

 

「すっかり空域中で噂になって、騎空団としても名が上がってるようですねえ」

「素直に喜べないなー」

 

 その名って俺にとって汚名じゃないでしょうかね。

 

「まあまあ、名が広まるのは良い事ですよ~。おかげで団長宛の依頼も増えてますからねえ~」

「否定はせんですがね」

「私としても、団長さんへの依頼を仲介させてもらう機会が多いので、新しいお客さんが増えて助かりますぅ~」

 

 そう言えば俺って依頼人から直接依頼を受ける以外だと、殆どシェロさんの仲介でしか依頼受けてないな。周りの人間も、シェロさん通した方が俺に依頼しやすいと認識してるようだ。

 尤も、シェロさんが依頼の仲介をするのは、俺に限った話ではないが。

 

「なんであれ目指せ借金返済……身が軽くなるまで頑張りますかね」

「うふふ~、ぜひぜひ御贔屓に、ですよ~」

「させてもらいますとも」

 

 借金返して俺は星の島へ行ってやるのだ。

 

「そういや、星晶戦隊(以下略)仲間増えたんだってな」

「マジ? どんなよ」

「まだわかんねえと。色んな奴が情報集めてるとさ」

「こりゃ噂増えるなぁ……!」

 

 とても不穏な会話が聞こえた気がしたが、うんざりした俺は、この時は聞こえないふりをしたのだった。

 

 ■

 

 二 ブレイクタイム

 

 ■

 

 新たな噂に怯えつつ、なんやかんやで日々を過ごす。

 噂の元になりそうな新たな仲間達、ミリンちゃん、エゼクレインさん、ヨダルラーハさん。この三人も結構団長に馴染んできてくれた頃である──。

 

「え、緑茶が手に入ったんですか!?」

 

 ある島で停泊中、街に出かける団員や艇で過ごす団員と各々好きに過ごす中、基本俺と居るB・ビィもミスラを連れ街にお出かけしてるので珍しく俺は一人になった。久々の穏やかな時間だ。

 そんな時間の中艇に残る何人かと食堂で軽食を食べ食後の飲み物を決めていた時、ふと手に入れた新しいお茶の事を思い出し話題に出すと、ミリンちゃんが驚いた様子でカウンター席から身を乗り出した。

 

「うん、シェロさんに聞いたらあったから買ったんだよね。ミリンちゃん前飲みたいって言ってなかった?」

「覚えててくれたんですね! 嬉しいです!」

 

 太陽のような笑顔。これが見れるなら買った甲斐があると言うものだ。

 

「おい、だらしない面をするな」

 

 が、笑顔につられ緩んだ顔を見せてしまい、カウンター席にミリンちゃんと同席するエゼクレインさんに窘められてしまう。いかんいかん。

 

「や、こりゃすみません」

「噂には聞いていたが、本当に分りやすい男だ……」

 

 心底呆れた様子で言われてしまう。そこんとこまで噂なのかい俺の表情筋よ……。

 

「きっちっちっち……! なぁに、まったく裏の読めん輩に比べれば可愛いもんじゃわい」

 

 だがこれまた席に同席していたヨダルラーハさんにフォローをされる。いや、フォローになってるかはわからんが、まあいいだろう。

 

「お前さんは、逆にもうちっと顔の険を無くしたほうが良いぞ。……抜き身の刃のような目では、いくら狙おうと獲物も逃げちまうぞ」

「……忠告として受け取っておこう」

 

 我が団で貴重な大人の男性、しかしなんだか渋い二人が団に入ったものである。

 

「リョクチャ、ですか……どんなお茶なんですか?」

 

 更に同席、と言うか俺と一緒にカウンターの内に立つコンスタンツィアさんが、茶葉の入った茶筒を見て首をかしげる。

 コンスタンツィアさんは、なんかエンゼラで何かと家事を手伝ってもらうようになっている。元々密航者とは思えぬ立場だ。

 

「主に空域の東で親しまれとる茶じゃよ。紅茶なんかと比べると、ちと渋めじゃが甘みも感じて紅茶とは違う風味を楽しめる」

「そうなんですか……不思議な、けどいい香りですねぇ」

 

 ここで流石と言うか、物知りヨダルラーハさん。よく知った様子で語る。

 

「ヨダルラーハさんは飲んだ事おありで?」

「うむ。交易盛んな大きい島でなら流通しておる……が、まあ普通の島であまり見かけんから知らんのも無理はないわい」

「私も旅の中で探してたんですが、中々売って無くて諦めてたんです」

「ふむふむ……なら“お待ちかね”って感じか」

 

 しかしはてさて、紅茶やコーヒーはよく淹れるが、これはシェロさんがミリンちゃんの故郷、東方より仕入れたもので、これ自体が俺にとっては馴染みの無いものだ。一応一緒に茶器も買っておいたが、俺の知る紅茶などで使うのとは違う。

 なのでここは、素直に淹れ方を知る人に聞く。

 

「ミリンちゃん、悪いんだけど手伝ってくれない? 紅茶とは違うよね」

「あ、勿論いいですよ」

 

 二つ返事で引き受けてくれるミリンちゃん。カウンターの内へとまわり、揃えた茶器をじっと見た。

 

「急須に湯飲み、しっかり揃ってますね!」

「ある方がいいってシェロさんが言ったんでね」

「さすがよろず屋さん。では、早速淹れましょうか!」

 

 そう言うとミリンちゃんは、てきぱきとお茶の準備をしてゆく。

 沸かした湯を湯飲みにいれ、急須へ茶葉を入れる。そして冷ました湯飲みのお湯を急須へと入れてゆく。

 

「お湯って冷ますんだね」

「茶葉にもよるんですけどね。これは結構良い茶葉ですから、冷ました方が味が良いんです。好みもありますけど、基本と言う事で」

「なるほど」

「それにしても、こうやってると故郷を思い出します。家では母が一番お茶を淹れるのが上手なんです。私と父の好みをよく知ってて、温度を変えたり濃さを変えて同じ茶葉なのに好み通りの味にしてくれるんです」

 

 故郷の思い出を語るミリンちゃん。彼女も旅を始めそれなりが経つので、こう言った故郷を思い出す物を見て望郷の念を感じるのは不思議ではない。

 皆で微笑ましく思い話に耳を傾ける。エゼクレインさんも表情は変わらぬが、決して不愉快そうな雰囲気は無い。

 

「さ、出来ました! 熱すぎないと思いますが、気を付けて飲んで下さいね」

 

 そして彼女の話が終わると良い香りが漂いだす。湯飲みには、綺麗な緑色をしたお茶が入っていた。なるほど、“緑”茶である。

 湯飲みを受け取り、匂いを味わう。紅茶とは違う香りだが、良い香りだ。これが東方のお茶の香り。

 

「では、いただきます」

 

 皆そろって緑茶を飲む。

 口に含んでみて広がるのは、渋み、だが甘みもある。やはり紅茶とは違う風味、だが──。

 

「美味い」

 

 これは良いものだ。

 

「緑茶、良いねこれ」

「ふわぁ……美味しいですぅ」

「……悪くない」

「うむ、この渋みと甘み。東方の茶ならではの風味じゃ」

「ミリンちゃん淹れるの上手いね」

「いえいえ、お粗末様です」

 

 四人そろってミリンちゃんを褒めると、彼女は照れた様子で謙遜する。しかし本当に美味い。

 

「シェロさんにまた頼も」

「いいんですか?」

「道具も買ったし、俺も飲みたいからね。高いのは無理だけど、幾つか種類買って茶葉の飲み比べたいし色々教えてよ」

「はい、もちろん良いですよ!」

 

 緑茶、これは何やら奥が深そうだ。

 その内厨房の棚に茶葉の茶筒が幾つか並ぶだろう、そう思うと少し楽しみだ。

 ──と、穏やかな時間を過ごして終れれば良かったのだが、生憎そうはならないのが俺の人生。

 

「だ、団長いるっ!? 大変、大変なの!」

 

 突然食堂にマリーちゃんが慌てた様子で駆け込んでくる。その慌てようから俺はすぐに嫌な予感に襲われた。

 

「星晶獣関係か!?」

「違うっ! けど、大変なの!」

 

 思わず最悪の事態の方を叫んでしまうが違ったらしい。

 

「ユーリ君達が……ああ、とにかく来て! トレーニングルームで──」

 

 マリーちゃんが詳細を言う前に艇内に響いた破壊音と衝撃。俺の穏やかな時間を壊すには、十分な出来事だった──。

 

 ■

 

 三 大騒ぎ

 

 ■

 

 マリーちゃんに連れられ慌てて食堂を出て廊下を走る。目的の部屋は、トレーニングルーム。そこへ近づく毎に強い衝撃と激しい戦闘音が響く。

 

「うわわ、また激しい音が!?」

「だ、大丈夫なんでしょうか……」

「随分派手にやっておるようじゃのう」

「この騎空団は、大人しく出来る奴はいないのか……」

「実に耳が痛い」

 

 ミリンちゃん達もただならぬ様子を見て一緒に来てくれている。

 

「アタシも通りかかったらラムレッダに“助け呼べ”って言われて慌てて来たのよ。こっちも何が何だか……!」

 

 マリーちゃんも何をどう説明していいのかわからないようだった。とにかく現場に行って事態を解決する他ないようだ。

 そして目当てのトレーニングルームに到着し、急ぎ中へと突入する。

 

「ユーリ君、フェザー君! 大丈──」

「うおおぉぉっ!?」

「っぶぐえぇ──っ!?」

「うわぁ──っ!?」

「だ、団長さぁーんっ!?」

 

 扉を開けたと思ったら、突如叫び声と共に飛んできたフェザー君と衝突しそのまま廊下の壁に激突。ミリンちゃんとコンスタンツィアさんの悲鳴が響く。

 

「てて……油断した。ん……? おお、団長! どうして俺の後ろに!?」

「……何故だろうね」

 

 俺がクッションになり無事なフェザー君、壁にめり込んだ俺。こんな目に遭ってばっかだなあ。

 

「それより、これ……何事?」

「そうだった! ユーリとシャルロッテだけじゃ危ない、団長助太刀を頼む!」

「助太刀は構わんけど、なんの?」

「あれを見てくれ!」

 

 フェザー君がトレーニングルーム内を指さしそちらに目を向ける。するとそこには──

 

「にゃ、にゃぁ~~っ!?」

「うおおっ!? つ、強い……っ!!」

「──!! ────!!」

「た、太刀筋が読めないであります……!?」

 

 部屋の中を逃げ回るラムレッダ、そして叫び声と共にユーリ君とシャルロッテさんが、何者かと刃を交えている。いや──待てアレは、何者かと言うよりも。

 

「……木人?」

 

 組み手用自立人形“木人”だった。

 

 ■

 

 四 どうしてこうなった

 

 ■

 

 ──少し前、エンゼラトレーニングルームにて。

 

「ふう……! ああ、やっと終わったぞ」

 

 部屋で額に汗を流すユーリ。だがこの汗は、鍛錬によるものではない。清掃によるものだ。

 剣をモップに持ち替えて、丁度床の掃除が終わったところであった。

 

「大分綺麗になったな!」

「頑張って掃除して良かったであります!」

 

 ユーリだけでなくフェザー、シャルロッテもモップや雑巾を持ち清掃に汗を流した。

 エンゼラのトレーニングルームは、団員の多くが利用する。そして特に鍛錬修練に対してストイックなこの三人は、普段最もこの部屋を使う三人である。そのため定期的に三人で部屋の清掃を行っていた。

 

「にゃはは、お姉ちゃん疲れちゃったにゃぁ……」

 

 そしてそんなストイック三人衆とは正反対の人物。酔いどれのラムレッダ。腰を落とし疲れた様子の彼女もまたこの清掃に協力していた。

 

「ごめんねぇ三人とも……お姉ちゃん、あんま助けにならなかったにゃ」

「いえそんな事は……あの、それより大丈夫ですかラムレッダ殿? アルコールも残った体で動いてはやはり……」

「にゃはは……いーのいーの、あたしが手伝いたいって言ったんだから……」

 

 ユーリに心配されるラムレッダは、自ら進んでこの部屋の清掃に参加した。

 きっかけとしては、部屋で何時ものように飲んでいて追加の酒を探しに食堂へ行ったが団長が居たため断念しトボトボ戻る途中清掃中のユーリ達をみかけたことだった。

 忘れられがちであるが──いや、普段の行いで完全に忘れられているが──彼女は、この騎空団が旅立って最初の入団した仲間であり、ティアマト等星晶獣やカリオストロ等年齢不詳・不明の者を除けばエゼクレインが騎空団に同行するようになるまでなんと最年長者であった。

 だからこそ、清掃に励む若人を見て年長者として自身も手伝おうと思うのは当然なのである。

 酔って吐こうが、腐ってもシスター。奉仕献身と慈愛の心はある立派な女性だ──酒が無ければの話だが。

 結局酔いの残る体では、たいして手伝いは出来なかった。しかし最早この騎空団ではご愛嬌と言うべき姿である。ユーリ達は、彼女のその心意気を十分受け取り責めもせず苦笑で済ます程度だ。

 とは言え、ラムレッダとしては「なんとも自分が情けないにゃぁ」とがっくりとする。日々こう言った事で団員としての役目を全うしようと言う意識もあったわけだが、結局こんな体たらく。

 これでは、最悪あの優しき団長より“解雇”を告げられるのではないか──彼女の心は休まらない。

 そんな彼女の心情はともかく、ここよりあの団長が壁にめり込む羽目に遭う騒動へと繋がる。

 

「そう言えば……あれはなにかにゃ?」

 

 ラムレッダは、部屋の隅に置いてあった一つの人形を見つけた。人型をしつつ特異な形状の体からは、何本か剣が装着されバックラーも付いていた。

 

「ああ、あれですか? あれは鍛練用の木人です」

「ほほ~う?」

 

 隅に置かれたそれは、エンゼラ大改修時このトレーニングルームを作る事となって導入された設備でありアイテムでもある“木人”であった。

 

「組み手なんかの相手がいない時は、そいつを相手にしてるんだ! 作り物だけど、中々熱い奴だぜ!」

「フェザーきゅんも納得の強さなのかにゃ?」

「よろず屋殿に頼んだ特注品ですので、動きのレベルを上げるとかなり強いですよ」

「訓練用とは言え油断すると自分も危うい事があったであります」

「ほえぇ~……そこまで」

 

 若くともこの騎空団で実力を磨くユーリとフェザー。そしてリュミエール聖騎士団団長さえ“強い”と評するこの木人。

 そう言われると部屋に佇む命無き人形も、百戦錬磨の達人にラムレッダは見えてきた。

 興味の湧いた彼女は、立ち上がり千鳥足のまま木人へと近づく。確かに既に幾度も使われた跡がある。

 流石武闘派も多い騎空団、この場に居る三人以外も利用しているのだなぁ──と、ラムレッダが頷くと、木人の首の付け根付近に一つボディと似た材質のカバーで封のされた箇所があるのが見えた。

 なんであろうか気になりそのカバーを上げると中には“団長用”と書かれたボタンがあった。

 

「にゃ?」

「どうされましたかラムレッダ殿?」

「あの~このボタン、団長用ってあるんだけどにゃにかにゃ?」

「だ、団長殿用ですか……? いや、そんなのあったか?」

「自分も覚えが……多分取説にも載ってなかったと思うであります」

「にゃんと意味深な……」

「押せばわかるんじゃないか?」

 

 謎のボタンに対し単純な意見を述べるフェザー。それもそうなのだが、彼以外は「それはちょっと……」と顔をしかめた。

 何せ“あの”団長用である。もちろん彼らは、団長の事を信頼しているが、どう言う意図で設置されたにせよ、押せば何が起こるか分かったものではない。

 つまり、団長自身もよく言う言葉だがこれは“藪蛇”と言うものだ。触らぬ神に祟りなし、彼らの脳内にその言葉もよぎる。

 

「み、見なかったことにしようかにゃ……?」

「ええ、まあ……」

 

 ──いっそ団長にも知らせない方がいいかもしれない。

 トラブル回避と彼の胃痛を防ぐため、言葉多く交わさずともユーリ達の考えは一致した。

 

「それじゃ、元に……ふにゃ、にゃふ?」

 

 だがカバーを元に戻そうとしたラムレッダであったが、掃除後のため埃が待っていたのか、急に鼻がムズムズとしだす。そして──。

 

「にゃっぷしょぉーいっ!?」

 

 盛大なくしゃみ。ユーリ達が「あ」と同時に口を開けた。

 

「うにに……埃かにゃ? マスクでもすればよかったにゃぁ」

「ラ、ラムレッダ殿……あの」

「んにゃ? みんな、どうした……にゃ?」

 

 顔を青くしたユーリが指を震わせラムレッダの手元を指さす。つられてそこを見たラムレッダが見たのは、ばっちりボタンを押した己の指であった。

 

「にゃああぁぁ~~っ!? お、押しちゃったにゃあ!?」

『────Main system Activating』

「でぇ!? し、しかも喋ったにゃあっ!?」

 

 人間で言う顔に当たるパーツの隙間から怪しい光が漏れ出す木人。奇妙な音声を発しながら、ガタガタと揺れたそれは明らかに様子がおかしい。

 

「あぶない……っ!? ラムレッダ殿下がってください!!」

『Combat Mode. HIGH LEVEL 7──』

「にゃっ!? にゃにゃっ!?」

『Get Ready』

「あぶにゃああ──っ!?」

 

 抑揚のない声と共に木人は完全に起動。身に着けた武装を可動させ始めラムレッダ達を襲いだした。

 

「なんなのにゃ、なんなのにゃあ!?」

「このっ! 止ま、れ……っ!?」

 

 ラムレッダと木人の間に入り剣で攻撃を受け止めるユーリ。が、しかし──。

 

『──!!』

「ふみこみ……っ!? 重……ぐあぁっ!?」

「ユーリ殿!?」

 

 木人はボディに装着された武器で戦う。その関係上攻撃方法は、単純な横降りの薙ぎ払い程度しかできない。その攻撃に慣れていたユーリは、普段の通りそれを剣で受けたのであるが、この時木人は攻撃を受けられた直後一歩強く踏み込みユーリの防御を崩し弾き飛ばしたのだ。

 

「大丈夫でありますかユーリ殿!?」

「な、なんとか……しかし、今のふみこみはなんだ……!? 途端に攻撃が受けれなくなったぞ……!?」

「動きも普段と全然違うぜ!? なるほど、これが団長用ってやつかぁ!?」

「か、関心してる場合ではありませんフェザー殿!」

「一先ずラムレッダ殿は逃げるであります!」

「ご、ごめんにゃぁー! あ、マリーちゃん!? ちょっと助け、団長きゅんを──」

『──!!』

「にゃあぁ────ッ!? こ、こっち来たぁ──ッ!?」

「いけない!? ユーリ殿、フェザー殿! 自分達で木人の動きを止めるでありますっ!!」

「了解っ!」

「うおお────っ!! 行くぜ木人! 俺とも熱い語り合いだあ!!」

 

 かくして史上最強の木人は、空の上エンゼラにて起動したのであった。

 

 ■

 

 五 そんなこんなでこうなった

 

 ■

 

「俺用ボタン押したらああなったって……つまりどういう事なんだよ」

 

 フェザー君からこの騒動の経緯を聞いたが理解が追い付かん。なんだ団長用ボタンって、俺も知らんぞそんなの。

 

「ともかく止めるぞ。艇に穴でも開いたら事だ」

「それは確かに」

 

 だがエゼクレインさんの言うように、詳細を調べるよりまず木人を止めねばならない。幸いにも今は航行中ではないのと、この部屋は直ぐ外に面してこそいないが既に床や壁が破損している。何時かみたいにユグドラシルに材料貰ったとしても修理費だって馬鹿にならんのだ。

 

「こりゃ手ごわそうじゃ。ワシらも手を貸そう」

 

 ヨダルラーハさんが、この騒ぎで部屋の出入り口に転がってきた棒術用の棒を手にしていた。

 

「刀じゃなくてよろしいんで?」

「きっちっち……! どうせなら釣り竿のほうがよいがのう。ま、かく乱程度なら任せておけ。して止め方はどうするつもりじゃ?」

「ボタンで起動したならもう一度押せばとは思いますがね」

「でしたら背中ですね。人数でかく乱していきますか」

「そうしよう……コンスタンツィアさんは、マリーちゃんと念のため戦える人呼んできて」

「は、はひぃ……!」

「気をつけてよね……!」

 

 一先ずコンスタンツィアさんは、もう少し仲間を呼んできてもらう。俺達は木人が暴れるトレーニングルームへと入る。するとユーリ君とシャルロッテさんを相手に余裕の立ち回りを見せていた木人が、表情も無いと言うのにこちらを見たような気がした。

 

「気付いたのかよ……なんなんだあの木人」

 

 確かにただの木人ではなさそうだ。気合を入れ剣を手にして木人へと向かう。

 

「ユーリ君、シャルロッテさん!」

「だ、団長殿!?」

「助太刀、話は聞いた。ボタンってどこ?」

「ボディ最上段の首付け根! ペイントの横、そこのカバーが外れてるので見えてるであります!」

「了解っす!」

 

 木人は樽を四つに切ったような姿をしており、前後の区別はないのだが見栄えと“的”としての役割を兼ね胴体には、何本かペンキでラインが引いてある。そこを目印にしてボタンを目指す。

 

「……まずやたら追われてるラムレッダ助けよう」

 

 木人起動時最初に目に付いた標的だからか、ずっと狙われているラムレッダの救出を優先する事にした。

 なんか顔面も青いと言うか紫に変わりだして嫌な予感がする。

 

「じゃな、ほれこっちじゃ!」

『──!』

 

 まずヨダルラーハさんが木人の前に出て注意を引いた。ヨダルラーハさんは、棒を巧みに使ってひょいひょいと床を跳ねるように移動してゆき、木人もヨダルラーハさんの挑発に乗ったようで標的がラムレッダから移る。

 

「おお、何と身軽なっ! それに木人も誘いに乗りましたね!」

「この隙にっと……ラムレッダ、こっち!」

「だ、団長きゅ~んっ!!」

「ぐえ」

 

 逃げ回りへとへとになったラムレッダが泣きついてきた。

 

「めっちゃ怖かったにゃ~!」

「あいあい……話は聞きました」

「はっ!? あ、あわわ……ごめんなさいにゃ、すみませんにゃぁ!? ワザとじゃにゃいんです、埃が、くしゃみが、ボタンがぁ~!!」

「わかってる。不幸な事故って事にするから、一先ず物置なり安全なとこ隠れてて」

「ひんひん……! ほ、ほんとにごめんねぇ……ぅうぇっ!? は、走り回って……きもぢ、ウェ!?」

「おい、おい……!? 吐くのは止めろ、それはマジ止めろよぉ!?」

「が、がんば……る……ヴォエ!?」

 

 ふらふらとトレーニングルーム内の倉庫に身を隠すラムレッダだが、聞こえてくる嗚咽の声が不安で仕方ない。これならマリーちゃん残ってもらって連れてってもらえばよかった。

 そんなラムレッダの後ろ姿を見てエゼクレインさんは、心底呆れた様子だった。

 

「よくあれを仲間にしたな」

「あれで一応頼れる事も無くは無いんで……まあ今は木人だ。木人の武器と防具はボディを軸にした横回転式で近づくには隙が少ない。もうちょいおちょくってやって隙を見つけよう」

「承知! さあ木人さん、こちらですよ!」

「はあ……おい、こっちもだ!」

『──!?』

 

 ミリンちゃんとエゼクレインさんも木人を挟むように攻撃をしかけていく。するとユーリ君達も含め標的が急に増えたため、木人は標的を絞り切れなくなったのかその動きがわずかに止まる。

 すると確かに首の付け根部分近くにボタンらしきものが見えた。

 

「速攻! 大人しくしてもらうぞ!」

 

 動きを止めた木人にとびかかり直ぐにこの騒動を止めようとする。が、しかし──。

 

『──(甘いネェ、坊や)』

「ん……なぁっ!?」

 

 瞬間、俺の目の前から木人の姿が消えた。どこへ? 数で取り囲み逃げ場はなかったはず──いや待て、一つだけある。

 

「上に跳ん、でげべえぇーっ!?」

「ジミー殿おぉ──っ!?」

 

 木人のやつは、その短い脚を床がへこむ程踏み込んで跳び上がったのだ。通常の木人ならあり得ない動きに驚いた俺は逆に隙を晒してしまい、頭上から降ってきた木人の蹴りを顔面に食らった。

 

「ふげ……っ!?」

「大丈夫か団長っ!!」

「へ、平気フェザー君……けど蹴り!? あの脚で蹴りぃ……!?」

「ああ、良い蹴りだった!」

「そこじゃないんだけどね……」

 

 到底蹴りに向かない木人の構造。それでありながら繰り出されたあの鋭い蹴りに驚いていると、何やら木人の様子がまた更に変わりだす。

 

「動きが変わったようじゃな」

「ど、どんどん隙が無くなってるように見えますが……」

「なんなんだあの木人は……ちゃんとしたのを買ったんだろうな貴様」

「そのつもりでしたけど……」

 

 もはや木人を超えた何かに見えてきたそれを見て、ヨダルラーハさん達も冷や汗を流す。

 

「ユーリ君、シェロさんへの注文って君とフェザー君でやったよね」

「あ、はい!」

「そん時何か変わった事聞いてない?」

「そ、そうですね……変わった事は特に……あ」

「こーゆー時の“あ”って一番怖いよね」

「す、すみません……その、確かシェロカルテ殿から木人を受け取る際「特別な方に調整をしてもらった」と聞いたのですが……」

「特別なって……」

 

 その話を聞き何となく俺の頭に一人のシルエットが浮かび上がってきた。

 

(音声は流れたらしいが、しかしさっきの“声”……俺の幻聴だな。けど、だとすればまさか……)

 

 奴が上に跳ぶ直前聞こえた声。幻聴なのは間違いないが、この状況であの声が幻としても聞こえたのなら、木人を見て“あの人”を思い出したと言う事だ。だとすると最悪のパターンである。

 

「団長さん、来ました!!」

「ちいっ!?」

 

 嫌な予感に襲われていると、木人は俺を狙って攻撃を仕掛けて来た。しかも信じられぬ事に、素早い動きが出来ないはずの木人が取り囲んでいたユーリ君達をすり抜けるようにして俺に狙いを定めて来たのだ。

 

「ふざけ……っ! ふげっ!?」

『!!』

 

 木人は、剣を使わず同様に装着されているバックラーでの打撃を行って来た。腕が伸びるような機能は無いので、殆ど体当たりであるがボディを揺らし器用にそして的確に俺の防御が薄い場所を狙いラッシュで打ち込んでくる。

 

「こ、こいつやっぱ……っ!?」

『──!!』

「おおっ!?」

 

 そしてなんと木人はまたも跳躍、そのボディを横にして本来“使用不可能”の縦軸の攻撃を加えて来た。

 咄嗟にそれを剣で受け止めた。すると木人は、今度は俺の剣を軸に回転しそのまま俺の背後へと着地してみせた。

 

「うっそだろおま……っ!?」

『────!!』

「あげっ!?」

 

 ガラ空きだった背中、そこに強いバックラーでの一撃を叩きこまれそのままユーリ君達の方に殴り飛ばされる。

 

「おい、大丈夫か……!?」

「ぶ、無事ではないかも……ほげ」

 

 エゼクレインさんに引っ張り起こされなんとか立ち上がる。足がふらついたが、対して木人は不敵に揺れ動く。

 そしてその動きは、今まで以上に機敏になり単純な“木人の動き”でなく、一つの“形”として見え始めたのだ。その形を見て俺は、血の気が引いていくのが分かった。

 

「あ、ああ畜生……やっぱりだっ!?」

「おい、何がやっぱりなんだ。何を知ってる?」

「あの執拗に俺の意識を刈り取ろうとする動き……アレは、ばあさんの動きだ!」

「ばあさんだと……?」 

 

 エゼクレインさんには、多分ピンとは来ないだろう。だが何人かは俺の言う“ばあさん”なる人物の事を聞いてハッとしていた。

 

「あ、あのババア……自分の木人(コピー)を送り込みやがったなぁ!?」

 

 不気味に動く木人に重なるばあさんの幻影。笑みを浮かべて幻影は喋る──「試させてもらうよ」と。

 

 ■

 

 六 ランクキャップ解放クエスト「故郷からの使者」

 

 ■

 

 突如として始まった、木人対俺&その他大勢。まるでザンクティンゼルでの修行を思い出させるような戦いが今ここで起こる。

 最早ばあさんそのものに見えだしてきた木人は、ばあさんそのものの動きを用いて俺達を試すかのように襲い掛かってきた。

 

「さっき通り各自隙突いて動き止めてボタン押して停止ねらって、うおおおおっ!?」

 

 物凄い早口で作戦を伝えながら突進してきた木人の攻撃を受ける。木人には、大中小三種の剣が装着されているが、その内二本の剣を二刀流の様にして襲いかかってきた。

 二刀流を得意とするジョブ“クリュサオル”。それを彷彿とさせる動きは、やはり数多のジョブを知り完全に使いこなすあのばあさん特有のモノだ。

 だがこれで木人が今この場では、率先して俺を狙う事がわかった。その後俺自身を囮として使い各自攻撃を行う方針へ変える。

 人数としては一対七、数ならば俺達が圧倒的に有利である。だがやはり相手は、ばあさんのコピー木人、一筋縄ではいかない。

 俺に攻撃を引き付け囮として十分仕事を果たしてるはずなのに、ほかの皆の攻撃がまるで通じないと言うか当たらない。理屈は不明だが、あらゆる攻撃に瞬時に対応して避けて防いで反撃してくるのだ。

 ミリンちゃん達の刀剣、フェザー君の拳は、剣と盾で防ぎ弾いてカウンター。エゼクレインさんによる中距離からのボタンを狙ったチェーン攻撃も盾で綺麗に弾かれた。

 これらの動作を俺への猛攻を続けながら行うのだから、いくらばあさんコピーとは言えバケモンである。単純に木人の性能も高すぎる。おそらく木人の調整以外にも、ばあさんが関わってるのだろう。

 

「ユーリ君、こいつって連続稼働時間どんぐらいだっけっ!?」

「い、今は十分燃料も入れてしまってるので半日は確実かと……うぉっ!?」

 

 出来れば木人の自然停止も願いたいところだったが、生憎そうはいかなかった。半日も動いたら、艇の破損が増えてしまう。ティアマト達も待っていられない。

 こうなるといよいよ、俺たちだけでボタンでの停止なりをせねばならなかった。

 ここで俺達最大の利点は、やはり数であった。木人の動きは、ばあさんそのものではあるが、決してばあさん本人ではない。信じられぬ性能で攻撃を防ぎ続ける木人も数の攻撃を前に少しずつであったが、ほころびの様な隙が見えてきた。

 狙いは脚部だった。木人らしからぬ高機動であるが、なんとかエゼクレインさんの鎖を足に絡ませることに成功した。理想としては、このまま転倒させてしまいたかったが、木人はバランスの悪い状態に関らず直立を維持していた。しかしこれで機動力を削ぐことはできた。

 とは言え近づけば剣の攻撃盾の防御の達人木人。鎖の絡ませたまま踏ん張るエゼクレインさん以外で攻めに行くが、やはり防がれ弾かれボタンに近寄らせない。なので攻撃も防御も封じる手段に出る。

 全員で攻撃を続けて倒す、ではなく木人の攻撃も防御も全部受けて止めて“固定”する。木人の剣をユーリ君達が剣等で受けて鍔迫り合いの様な形で動けないように止める。バックラーもフェザー君が掴み止め固定、ヨダルラーハさんが棒を木人の武具回転軸のレールに挟み込み固定。

 まるで木人を中心にしたおしくらまんじゅう。そのままボタン開放部が見えるよう壁際まで押し込み、更に動きが鈍くなった木人のボタンへ “今度こそ”と俺は手を伸ばした。

 が、最後に残ったバックラーがそれを拒んだ。

 

「くどいわぁ!!」

 

 俺もバックラーを掴もうとすれば、それを避ける木人。ならばボタンを、と手を伸ばせばそれを弾く。

 粘る粘る、実に粘る。もう単純な調整とかじゃなく、こいつに何か意志すら感じる程に粘る。

 どうにかこうにかバックラーを掴んで止める事が出来たが、ここで気が付いた。ボタン押せる奴がいない。

 

「だ、誰か押せない!?」

「い、一番近いのは、だ……団長殿ですっ!?」

「片手じゃこいつのバックラー押さえられんし、離すと弾かれて押せんのよ!」

「おい……っ! こっちもそう何時までも持たんぞっ!?」

 

 鎖を引くエゼクレインさんの額には、大量の汗が流れていた。木人が少しずつ俺達毎移動しようしてるのだ。

 ボタンを本当に目の前にして誰もそれを押せないでいる。たとえ一瞬でも誰かがボタンに手を伸ばせば、その瞬間で木人は反撃しそこから体勢を直してくる。

 もう一手、何か手段を──そう思った時だった。

 

「う、うおお──っ!? んにゃああぁぁ──っ!!」

 

 背後から聞こえた酔っ払いの叫び声。それに気が付いて直ぐ、俺の横にラムレッダが飛び込んできた。

 突然の8人目。逃げていたはずのラムレッダが飛び出し一気に肉薄。木人のボタンへ手を伸ばし、そして──。

 

「じ、自分のミスはぁーっ! 自分で始末つける……にゃああぁぁ──っ!!」

『──!?』

 

 彼女の手はボタンを深く押し込んだ。

 

『──! ──……Mission complete. System Returning to Normal Mode……Congratulations』

 

 無機質な音声を流し、そしてついに木人は動きを止めたのだった。

 

 ■

 

 七 日常ですよ!! 団長さん

 

 ■

 

「──で、艇に居た奴全員へとへとなわけか」

 

 街から帰ってきたB・ビィ等が食堂で見たのは、へとへとになっている俺達の姿だった。

 慌てたマリーちゃんとコンスタンツィアさんに連れられ急ぎ戻ったようだが、それはもう既に木人を停止させた後の事である。

 

「ほんと疲れた……休日なんだぜ俺ぁ……」

「シカシ本当ニ……バアサンノ仕業ナノカ? オ前ノ予想ナノダロウ?」

「これ、見てみ……」

「ウン?」

 

 木人ばあさんコピー説を疑うティアマトに俺は一枚の紙を渡す。

 

「ナンダコレ?」

「機能停止した木人から出て来た。俺宛のばあさんからの手紙」

 

 機能停止の直後、木人のボディの一部が“パカッ! ”と開き、そこから一枚の手紙が出て来た。どうも俺用難易度クリアすると出てくる仕掛けだったらしい。

 そして内容であるが──。

 

『坊や、元気にしてるかい? これを読んでいると言う事は、無事木人を止めれたようだね。アンタの事だ、察しはついているだろうけどこの木人は、アタシの調整したものさ。よろず屋さんに会った時、アンタが艇を直してトレーニングルームを作るから木人を注文してると聞いて用意したんだよ。試練みたいなもんさ。それで木人は、手ごわかったかい? それとも楽勝かい? 所詮木人だからアタシの半分も動けないけど、十分だったろう? この程度倒せなきゃだからね。修行終わって怠けてなけりゃ問題ないだろうさ。とは言え、倒した時誰か仲間は居たかい? B・ビィ達じゃない、旅で新たに出会った仲間だよ。別に一人でも良いけどね。一人でも強いのは悪い事じゃない。ただアンタは、ジータちゃん以上に仲間いてこその子、いい仲間はどんどん増やしな。仲間あっての騎空団だよ。それにアンタの事は、風の便りで色々聞いてるよ。随分面白い旅のようだけどそれも仲間あっての事さ。その仲間のためにも励みなさい。それが自分のためにもなるのさ。それじゃ、身体には気を付けるんだよ。──追伸:もしも身体が鈍ったと思ったら、また木人を使いなね。あと偶には、そっちからも手紙寄こしな』

 

 ──である。

 

「ワハハッ! オ前バアサンニ愛サレテルナァ!」

「笑うな」

 

 こっちゃ笑い事でないのだ。

 

「ケド オバアチャン (´ω`) ゲンキソウダネ」

「あと主殿の噂がザンクティンゼルにまで届いてるのがわかるな」

「やだぁ、俺どんな顔して故郷戻ればいいのさぁ……」

 

 あの不本意な噂がザンクティンゼルにまで届いてると思うと、故郷の友人知人に顔合わせるのが怖い。もし子供遠ざけられたりしたら泣くぞ俺は。

 

「ミンミンィ……」

「ありがとミスラ、大丈夫落ち込んでないよ……疲れただけ」

 

 ミスラが俺の頭を撫でてくれる。機械ボディの冷たさが、疲れた体にちょっと心地よい。

 

「……ああ、あと今回で壊れた壁やらの修理費ピッタリぐらいの金も木人から出て来たわ」

「こわっ!? 何よそのおばあさん、どっかで見てんじゃないの?」

 

 メドゥ子が気味悪そうにビビってる。俺もビビったよアレは。完全に予想されてたらしいからな。俺と仲間の現在の実力、それによる戦闘被害を完璧に予測されてた。

 離れていても侮れんばあさんだ。ともあれ金はありがたい……いや、そもそも木人のせいだけどもさ。

 

「しかし、あれで“実力の半分以下”か……! 団長の師匠ってのは、凄い人なんだな!!」

「完全な人型だったら、どうなってたかわからないであります……」

「拙者の太刀筋も全部見切られました……ううっ! まだまだ未熟ですぅ!」

「し、しかし……暫く木人とは戦うのは避けたいです……」

「何時か直接語り合いたいなっ! 会えないか団長!?」

「暫く帰省予定なし」

「むう、そうか……! じゃあ、その内な!」

「あいあい」

 

 今でも木人の猛攻が脳裏に浮かぶのか、フェザー君を除きシャルロッテさん達は身震いをしていた。

 

 

「しかし団長の実力にも納得じゃよ。故郷では随分可愛がられたようじゃな」

「可愛がるどころか……俺をいじめるのが好きなんだあのばあさんは……」

「きっちっちっち……! ま、期待の証ってことじゃろうて。その内会って話してみたいもんじゃ」

 

 ヨダルラーハさんは、案外元気そうだ。確かにこの人とばあさんは、話が合いそうではある。

 

「しかし、本当に人間なんだろうなそのばあさんは……」

「少なくとも見た目は」

 

 こちらはちゃんと、と言うかガッツリ疲れた様子のエゼクレインさん。あの木人をはるかに超えると言われるばあさんの強さを聞き、ついに人間か疑い出す始末。

 まあ疑うのも無理はない。ばあさん強過ぎんだよ。俺が知る限り空でジータと対等に“遊べた”一人だからな。

 

「ともかく、木人の“あのモード”は封印だ」

「なんでぇ使わないのか? オイラも試してぇんだけど」

「俺ももう一度使いたいぜ!」

 

 俺用モード封印を告げるとB・ビィとフェザー君から不満が上がった。

 

「ダメダメ部屋が壊れっちまう。どうしてもなら島止まってる時広いとこ運んでやってくれ」

「ま、確かに……んじゃ次の島で試そうぜフェザー」

「おう!」

 

 流石にB・ビィが居るなら今回程の騒ぎにはならんだろう。

 いやむしろB・ビィ、すなわち星晶獣が居ないと危ない木人ってなんだよ。震えてきやがった怖いです。

 

「……と、ところで団長?」

「どしたセレスト?」

 

 話も終わった雰囲気だったが、一人食堂をきょろきょろしていたセレストが控えめに手を挙げて質問をして来た。

 

「ラ、ラムレッダは……?」

「……うん? そう言えばいねえな。アイツが木人止めたんだろ?」

 

 セレストとB・ビィが食堂を見渡すが、確かにこの場には彼女の姿はない。

 

「ああ……あいつか。まあ、うん……色々あってな」

「い、色々って……?」

「色々は、色々だよ……色々とりどり“レインボー”……」

 

 俺が今日一番げんなりした表情を見せると、セレスト達は揃って「あ」と声を出し察してくれた。

 そう、ある意味で木人停止後が一番大変だったのだ。

 不注意と言うより事故の様な形で木人を起動してしまったラムレッダは、確かに見事木人を停止させその責任をとったと言える。

 で、あるのだがやはり綺麗に、文字通り“キレイ”に事が終わらない我が人生。

 

「動き回って気分悪いのに責任取るために結構無理したらしくてな……ホッとしたら一気に戻した」

「Oh……」

 

 想像したのかB・ビィ達は、顔をしかめていた。

 

「その後始末が一番辛かった……その後もラムレッダ部屋に運んで水飲ませて寝かせて……おかげでへとへとだよ」

「あ、そっちで疲れてんのか」

「殆ど木人疲れだけど、トドメだったんだよ疲れの。いや精神的にはこっちが上だわ」

 

 俺も早いとこ寝たい。

 

「あれ……ところで相棒服着替えたか? 朝と違うけど」

 

 と、ここで更にB・ビィが気づいてしまう。ある一つの事実に。

 

「……木人止めた時、ラムレッダ俺に飛び乗る形になってたんだよ」

 

 本日何度目かの「あ」が重なった。ほんと、こういう時の“あ”って悪い意味ばっかりだ。

 ──結局この日は、休日のようで休日でない。どこまでも気の休まらない、俺にとっては当たり前の日常の出来事。遠くラムレッダの私室から「ごめぇ~ん……っ!」の声がとてもか弱く聞こえた気がした。

 

 ■

 

 八 そして

 

 ■

 

 どんな日でも起こり続く騒動。団長の日常。ある意味でそれが日常である限り、平和であるのかもしれない。

 

「──さぁて、次は“どれ”を送ってあげようかねェ?」

 

 並ぶ木人、無数のタレット。それを見つめる老婆。

 きっと団長は、また大変な試練を受けるだろう。

 

「──星晶戦隊(以下略)が、この島に?」

「うん、そうらしいよ“姉さん”」

「そう、なんだ……ふぅん」

「会いたいって言ってなかった?」

「うぅん? うーん……言ったかな? 言ってないかな……? ……スゥ」

「あ、姉さん寝ないでよ!」

 

 そして次に団長を待ち受けるのは、新たな”仲間”か、それとも“悪夢”か、果たして──。

 

 




読者の皆様、何時も感想、誤字報告等ありがとうございます。大変励みになっております。
前書きにも書きましたが、前話からの区別のために、この話から章を変えますが、章タイトルは仮としておきます。次回から正式に決めたものでまとめます。
2021/08/12追記
前書きの通り、以降「夢の冒険編」として続きます。

少し初期のやり方、戦闘ダイジェストをやりたくなった日常(?)回でした。次回へのつなぎの一話でもあります。
やっぱり、初期の様なペースでは投稿難しいですね。頑張ります。
「故郷からの使者」は「虚空からの使者」、団長君達の大変さがわかるね。

7周年……夢の様な時間だったよなぁ。
ありがとう、ガチャピン……ムック……。

組織イベも、良かった(語彙力)。
十二神将会議もね……良い(語彙力)。
しかし、あの世界でスーパーリゾート施設を運営できるとわかり朗報。自分は以前、スパザン人アウギュステ編で、温泉湧かせちゃったし。やるかは不明。

オプティマスシリーズも5凸可能ですか。
刻印戦隊コセンジャーVS討滅戦隊ゼノバスターズ(改名)VS英雄戦隊エピックシックスVS神石戦隊オプティマンVS星晶戦隊マグナシックス 劇場公演未定!!

次からまた長めのお話。何時かのアウギュステ編の様にイベント絡めてきたいと思います。
長くしないつもり……と言ったアウギュステ騒動が長くなったので、気長にお待ちください。

そして最後に小ネタ……と言うか、ずっとやりたかった旬(?)の小ネタでしめ。また次回。



小ネタ ハジケやつらがやってくる



「だ、団長! あかん、えらいこっちゃぁ!?」
「うわぁ!? ど、どしたんすかカルテイラさん!?」

部屋で休んでたら、かなり慌てた様子のカルテイラさんがノックもなしに駆け込んできた。

「や、やつらが……やつらが来るんや!!」
「やつ、ら……うん?」

酷く怯えてもいるように見えるカルテイラさん。しかしどことなく、雰囲気も違って見える。

「あれ、カルテイラさん髪染めた?」

 なんと彼女の髪がピンク色に変ってるではないか。

「なんせ急やからな……急ぎカツラで勘弁やで」
「あ、カツラ……え? 何でカツラ……? つか、何でピンク色? ん、ん……? ん? いや、すみませんちょっと状況がぁ……」
「作者の阿保が『20周年だし勝手にコラボ小ネタやりたいけど、あんなテンションの原作活字に落とし込めるか畜生っ!!』って叫んだコラボをまさかの公式でやりおるから……!!」
「ちょごめ、ごめん……なんの話?」
「とにかくのんびりしてたら置いてかれるで、奴らのハジケに!」
「ハジケ……ハジケ?」

 いかん、話がまるで読めない。

「いや、ピンク色の説明……」
「聞くけど団長はん、あんた鼻毛自由に伸ばしたりできん?」
「出来るわけ無いけどっ!?」

 まって、この人本当にカルテイラさん?

「ならやっぱツッコミか。まあ団長はんは、ハジケリストと言うほどハジケとらんからな」
「ねえ、なんの話!? やだ、なんか怖いんだけど!?」
「団長ものんびりしてる暇あらへん! 今すぐツッコミの練習せな!」
「ツッコミの練習!?」
「そう、そういう感じ! 目ん玉飛び出す勢いでツッコミせえよ! うちなんてあのテンションに合わせるために、急いで今回本編の出番削ってまで備えてたんやからな!?」
「そう言う理由で居なかったの嘘でしょ!? え、なにそのツッコミへの執着は!? カルテイラさんツッコミポジだけどそこまでだったっ!?」
「相手が奴等やからな!」
「だから誰奴等って!?」
「うちのぜんぜん前世が、ツッコミせえと騒ぎよるんよっ!」
「前世ッ!? やだ急な設定止めて……!?」
「ええで、団長! 「」の台詞以外の文章とか無くなるぐらいの勢いでツッコむんや!」
「ん、お……おっ!? 今どう発音、え? か、括弧って言った!? ……か、「……なんてっ!?」
「ほらもっと自信もってツッコミ入れるんや! じゃないと奴らのハジケに追いつけん!」
「いやいやいや、だから誰奴等ってっ!?」
「おい、相棒」
「あ、B・ビィ……! カルテイラさんの様子がおかし、うおおおおっ!?」

 部屋に入ってきたB・ビィが、なんかいつも以上にムキムキマッチョのマチョビィ形態、そしてアフロだった。

「な、なんで既にマチョビィ形態!? いや、そのアフロなにっ!?」
「そりゃおめ、ハジケた奴らが来るからな! 相応の出迎え方があるさ! あとアフロは、オイラがファンだからだ!!」
「ファン!? なんのっ!? いや待てまず相応なのかそれは!? なんか失礼じゃない!? ……いや、誰迎えるかしらねーけども!?」
「なぁに、これが一番さ! ビィンビィンマッチョで オーエーオーエー お出迎えだぜっ!!」
「なになに、まて!? なんかリズムにのって言った今!? いや、小さくコーラスなかった!? 何で!? 誰の声今の!?」
「こんな事で驚いてる場合かよ相棒! それじゃ今から生き残れないぜ!?」
「せや、どんなバカでもサバイバーやで! 生き残れこれや!!」
「まって!? なんかカルテイラさんボケに回ってない!?」
「よーし、そこに気付いて言えるならある程度奴等についてけるはずや!!」
「そんな相棒には、こいつをやる! 【キバハゲデュエル】の教本だ!」
「ギバ……なんてっ!?」
「ある程度コンボは覚えとけよ……死ぬぞ!」
「死ぬのっ!? 何やらされんの俺!?」
「さあ次行くでB・ビィ!! もちっと世界観整えとくんや!!」
「しゃおら、しゃおらぁ――っ!! ネギも用意してやるぜぇ――!!」
「まって、ちょっ!? キバハ……なんとかって何!? いや、と言うか……と言うかぁ!!」

 去って行く二人、取り残された俺。訳の分からん眼鏡セットの教本。

「結局”奴等”ってだれさぁ――っ!?」

 エンゼラに俺の叫びが木霊した……。


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